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月陽石の呼ぶ頃に (歴史・SF/★★★)

 こーくうん、きれいな石、見つかった?

 ふむう、形はいいんだけど、地味な色ばっかだなあ。これじゃ、友達になかなか自慢できないね。

 宝石みたいなものがいいのか?

 う〜ん、大人は目をキラキラさせるけど、僕はあまり興味がないかな。

 飾り物としてはいいけどさ、それ本当に不幸から身を守ってくれるの? 

 僕はもっと実用的なものが欲しいな。あ、でも「月陽石」は勘弁ね。

 月長石? ちがうちがう。月陽石。

 この辺りに伝わる、伝説の石っころなんだって。

 こーくんは知らない? じゃあ、話をしてあげるよ。


 月陽石の起源は、鎌倉時代から室町時代にかけてのどこかだって言われてる。

 当時の戦って、日が暮れてしまうとそこで終了。夜討ちをかける時以外は、兵を休ませ、隠密部隊の行動がメインになる。

 彼らは夜目がきく訓練を受けているから、月明かりのない闇の中でも、物の影がよく分かる。新月の頃なんて、彼らの独壇場だった。

 だけど、闇にもまれて、初めて見える光もある。

 河原に転がる、雑多な石たち。それらに混じって、地面に落ちた星のように、強くまたたく石が、チラホラと見受けられた。

 月のように、夜に姿を現しながらも、太陽のごとき輝きを持つ石。それが「月陽石」の由来だった。


 忍ぶ者たちにとっては、刃物にも似た光。姿をさらすは、黄泉路を迷う道しるべ。

 武士たちはその月陽石を、闇から遠ざかる、一つの護身武器として採用できないか、と考えた。

 ただ、その光はあまりに目立つ。それも闇に反応するから、昼間は石ころと変わりなく、夜になると包んだ袋から漏れ出すくらいの、強烈な明かりが目を覆う。

 過ぎた光は、和を乱し、ねたみとひがみを買うばかり。

 武士たちは元あった場所に石を放り出し、新たな死地を作りゆく。

 なぜに石らがそこにあり、輝き出したか、知らぬまま。


 戦も落ち着き、子供らがかつての戦場で遊びまわるようになった頃。

 石投げによる、陣取り合戦が流行り始めた。

 今じゃ危ない遊びだと止められるけれど、当時は血や死が、より身近に感じられた世界。

 けがも病気も討ち死にさえも、天の声だと受け入れる。

 昼間をたっぷり遊び抜き、日が暮れ、鳥鳴き、腹がご飯を呼び出した。

 終わりにしようか。誰もが思ったその時に、「月陽石」が光り出す。

 腹は減っても、疲れは知らぬ。

 輝く石ころ握りしめ。

 子供は遊ぶよ、いつまでも。

 だからいつでも止めるのは。

 この身を貫く、怖さだけ。


 ひたすらに続く、石合戦。

 傷がうずいた子供が一人。とうとう石を取り落とす。

 石は川へと沈んだけれど、なぜかぷかぷか浮き上がり、下へ下へと流れてく。

 それが異変の始まりだった。

 ずっとずっと上の方。星さえ見えない曇り空。

 その雲が、突然切れた。

 動いたんじゃない。雲たちが押しのけられたんだ。ぽっかりと開いた空の穴から、そいつは降りてきた。


 子供たちの目に映ったのは、腕と一体化している大きな翼だった。

 二十人近くいる自分たちを、すっぽり包み込めそうな、ワシやタカを思わせる壮大さ。

 近づくにつれて、そいつの下半身はミミズのそれであり。胴体は人間のそれであり、首から上はカマキリのそれであることが分かった。

 子供たちが、唖然としている間に、それは川の真ん中に降り立ったんだ。水音一つ、立てることなくね。


 そいつはしばらく子供たちを見回していたけれど、やがて大きな翼を持ち上げ、すぐに下した。肩をすくめたんだ、と子供たちには分かったらしいよ。


 そして、次の瞬間。

 奴の姿は消えて、子供の一人が悲鳴をあげた。

 とたん、石は光を失い、闇が辺りを支配する。

 耳を打つのは、叫びの集い。

 もがいて、あえいで、苦しんで。地面を這いずる音がする。

 それらの中で、ただ一人。彼だけ、手を出されない。

 やがて近くに、降り立つ異形。怯える子供の小さな頭。大きな翼が包み込む。

 震えることしかできないその子に、異形は静かに囁いた。


 天地分かれたその時より、自分はこの地を見てきたこと。

 時がくるたび、見つめて、調べ、持ち帰るのが仕事だということ。

 時の流れを忘れぬよう、輝く石を置いてきたこと。

 石の輝く時が、自分の訪れる時であること。

 そして、自分が訪れた時は、仕事を果たす時であること。


「だが、あまりに遅すぎる。これでは切られる未来が見える。我らの仲間、すべてがうぬらにとって代わろう。それまで、も少し、利口なれ。よくよく皆に伝えとけ」


 そうやって彼の頭を揺さぶった後、異形は空へ飛んでいき、元来た穴へと戻ってく。

 彼もどうやら疲れ果て、その場で膝折り、眠り込んでしまったとか。


 目を覚ましたは、家の中。父母が見つめる、顔の下。

 外はすっかり朝になっていた。

 あの後、探しにやってきた親たちが、皆を家へと連れ帰ったらしい。

 彼はみんなに会いたがったが、親は許してくれなかった。代わりに、口で様子を伝える。

 全員、命に別状はない。ただし身体はそうはいかない。

 目、鼻、耳、手足の指。それぞれを、みんなは失っていたんだって。


 それ以来、石の光は消えたまま。

 だけど、話は残ってる。

 次に石ころ光る時。

 利口な者は、いるのかな。



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