でっかいことは、いいことか?
はぁい、つぶつぶ、待った〜?
お、どうしたどうした、目が泳いでいるわよ。さては私の胸部装甲に見とれていたわね。
ふっ、ようやく気づいたかしら、私のダイナマイトなボデ……え、妊娠したのかって。
ちょっ、なんでお腹が膨れたことになってんの! どう見たって、胸がふくらんでいるように細工をして……あっ!
く、くそ〜、リュックの上からセーター着込んで、インスタントなダイナマイト豊胸手術をしてたぶらかそうとしたのに、そうそうにバレるなんて!
――俺もリュックを前に背負うから、形状で検討がついた?
ちぇ〜、つぶつぶと同レベルの発想力かあ。色々とショッキングなんですけど。ワタクシにとって。
――それ、相応の道具を使えばいい?
あのね、誰かと同じような道具を使って、結果を出して……それに意味があるわけ?
どうせなら、大胆不敵な行動で、いい目を見たいじゃない。まあ、今回はつぶつぶと同じ次元だったわけだけど。もっと威力と独自性を高めないとね。
あ、そうそう威力と独自性と言ったら、妙な話があったわねえ。電車に乗ってからも長いし、その間にちょっと聞いてみない?
リュックを前に抱えること自体は、電車が混雑している時などに、呼びかけられることがあるわよね。
あれって、他の人の邪魔になるということ以外にも、盗難を防止するためらしいわよ。ほら、後ろを向いた状態で、もしも、そっとリュックの口を開けられても気づきづらいじゃない。よしんば気づいたとしても、すぐには対応できないし。
でも、前に抱えると、それ単体ではダサいよね。やっぱり私のように、貧しい胸を豊かに……って、悲しそうな目でこちらを見ないでよ。
持たざる者のささやかな見栄、夢見、抵抗。
非難されるいわれはないはず。男だってそうでしょう? でも、不自然に持っている人に関しても、注意は必要かも知れないわね。
私、小さい頃に、ある牧場に、乳しぼり体験に行ったことがあるのよ。
牛を病気にさせちゃいけないって、消毒したカッパと長靴装備で、手をよく消毒したわね。
間近で見ると、牛って大きいのね。特に背の低い、がきんちょの私には、冗談じゃなく山のように思えたわ。
人によって感想は様々でしょうけど、私は乳しぼりをしながら思ったことは、「おっきい!」「たくさん!」とか、まさに年齢相応の感想だったわ。
おかげで、「でっかいことはいいことだ」なんて価値観が植え付けられたのだけど。
それから私は、犬や猫のメスを飼っている友達の家に遊びに行く時には、その乳首を確認するようになっちゃったわ。牛と比べるのは野暮だけど、同種同士での大きさ比べってところかな。
けれども、飼いならされたものでは限界があるのか、私に衝撃を覚えさせるほどの逸物には出会えなかったわ。友達の前でもあるし、ため息をつくのは心の中だけだったけれども。
そんな物足りなさが支配する毎日で。私はとうとう出会ったわ。
見た目には、毛並みも尻尾もうなだれてしまった、大ばあちゃん。ブロック塀の片隅で、運動どころか人生、いや猫生にすらくたびれたという、倦怠感溢れるマダムなキャット。
そのお腹がでっぷり膨れていたわけよ。走るたびに、タプンタプン揺れているのが、かすかに見えるくらいに。
――単なるおデブちゃんなんじゃないかって?
そんな現実的な結論を出して、観察を怠るなんて、物書きとして、ちょっとイケてないんじゃな〜い?
幸い、その猫は私の家の近所を縄張りとしているらしく、たびたび見かける機会があった。
なんとか懐かせて、あの豊満の秘密を暴いてやろうと、そんな気持ちでいっぱいだったわけよ。
そこからは長かった。
何とかお近づきになろうと、私は彼女の姿を見かける度に、できる限りの優しい声音で話しかけたわ。
知らない子供から声をかけられたら、そりゃ警戒するわよね。初めのうちは、びくりと身体を揺らして、こちらを見たかと思うと、スタコラサッサと逃げられたわ。
それでも粘り強く接して、どうにか逃げられなくなっても、私は焦らなかった。なるべく体育座りで安心感を高めつつ、近寄って来たとしても、自分からは動かなかったわ。
基本的に彼女の意思を尊重して、待っていたの。私を自分の警戒半径の内部まで、招いてくれるのをね。
そして、ついに来たわ。
私が頭を手の甲でなでたりしても、逃げない時が。
私はそれからも出会うたびに、頭や首、しっぽの近くを柔らかくなでていった。やがて彼女も、自分から頭を私にこすりつけてくるまでになる。
機は熟した。私は彼女の前足と後ろ足の間をくすぐると、彼女はたまらなかった様子で、お腹を見せて寝転がったわ。私の積み重ねが実を結んだ瞬間よ。
私は念願のお腹を観察する。
丸々と盛り上がった膨らみ。乳首は埋まってしまっているのか、確認できなかった。
待ちに待った、念願がかなう瞬間。私は膨らみを「ポスリ」と触ってみたの。
取れたの。膨らみが。
猫のお腹から離れたそれは、吸い付いていた面を仰向けにして、地面に寝転がったわ。
そこには無数の足がうごめいていた。一本一本は糸のように細いけど、それが無数に集まって、たわしのようになっていたの。それが思い思いの方向にばたついていた。
私があっけに取られている間に、それは自力で身体を起こし、私の羨望の膨らみ「だった」表面を上に向けたまま、カサコソと、ゴキブリを思わせるスピードで、彼方へ走り去っていってしまったわ。
私が彼女のお腹を改めて観察すると、やせ細ったお肉に、小さい穴が集まって、びっしりと広がっていたの。
きっとあの生き物らしきものは、ずっと彼女の乳首をしゃぶりながら、しがみついていたんでしょうね。




