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天上門前払い

 むう、今から予約を入れるのは、やっぱり遅かったか……。

 あのあたり一帯の旅館とか、ほぼ全滅臭いぞ。さすがに人気なだけある。

 当初の予定を変更して……近場の銭湯めぐりでもいかがかな? 

 ダメ? 取材にならない? 本当にあなた、取材好きね〜。人様が招待する旅行計画に、ああでもない、こうでもないとケチをつけやがって。まあ、銭湯めぐりを旅行と題する俺の計画にも問題あるな、うん!


 というわけで、今日はもう疲れました、近場でひとっ風呂浴びてくることにいたしやしょう! 

 異議なし、異議なし、異議なし! はいはい、つぶらやさん、早くお仕度しましょうね〜。

 ――徹底抗戦の構えかよ。納得するネタがないとダメってか?

 しゃあねえ、そんじゃ貸し切りに関する、印象的な話をしてやろう。だが、とっておきでもある。ちょっとカーテンを閉めさせてもらうか。


 今回の話は、あくまで本当にあったらしい、という噂が流れているだけだ。どこまで本当か分からんから、かなりぼかさせてもらう。

 なぜなら、詳細を知ってしまった者は、片っ端から消されてしまっているのだと。俺自身、話を聞いた人から伺っているんだ。この話が生き延びられたのも、その不明瞭さゆえらしい。

 お前と言えど、あまり突っ込んで調べない方がいい。冗談抜きで警告したからな。


 ある村でのこと。

 心肺停止した老人が、数時間後に蘇生した。確かに、死斑が出ていたにも関わらず、だ。死した老人が「起き上がった」とされ、多くの人は怖がったのだそうだ。

 老人は心肺停止前の記憶もしっかりしており、それどころか「死んでいる」間のことも語ってくれた。

 老人は気がつくと、ふわふわした、奇妙な感触の地面の上に立っていた。目の前には、阿吽像を左右に備えた、東大寺の南大門を思わせる巨大な門があったらしい。

 その門前に、竹ぼうきを持って、掃き掃除をしている小僧さんが一人。しかし、地面の上には木の葉やほこりといった、ゴミは一切落ちておらず、ただ空気のみを掃いている。

 老人が、何を掃き清めているのですか、と尋ねると、小僧さんは答えたそうだ。


「今は奥に、誰も立ち入ってはならない、とのおおせだ。私はその間、誰も中に入れてはならないと、命を受けてここにたっている。この掃除も、手持ち無沙汰を紛らわすためのものに過ぎぬ。ひとまずはお帰り願いたい」


 小僧さんが老人の身体を押す。

 すると、さほど強い力ではないにも関わらず、老人はそのままの姿勢のまま、吸い込まれるように、後ろへと吹き飛んだ。

 小僧さんも、巨大な門もぐんぐん遠ざかり、いずれもがすっかり見えなくなってしまう時、目覚めたのだという。それから老人は、今までと変わらない生活をおくり始めた。

 その村には、その老人以外にも、2人ほどお迎え間近の方がいたようで、実際に3週間の間に、3回。死んでは生き返ったらしい。その時も、門の前まで行き、掃き掃除をする小僧さんに追い返されたという話だ。

 もしや、この世にやり残したことがあるのではないか。本人たちも周りの人たちも、そのように考えた。だが、それを遂げるための健康は、戻ってくる様子がない。まともなことがなかなかできないうちに、また息が止まり、また息を吹き返す。

 本人たちにとっては、同じ夢を見る睡眠が、ひたすら繰り返される、不思議な感覚だったとのことだ。


 半年後。ようやく、といっては不謹慎かもしれないが、最初に不思議な体験をした老人が、息を引き取った。心肺が停止して、死斑が出てからも生き返った前例があったから、確認は十分な時間をとって行われた。しかし、これで皆が安心したかというと、そんなことはなかったんだ。

 ある日、外で鬼ごっこをしていた子供のうちの一人が、石につまずいて転んだ。こんなことは日常茶飯事で、皆はすぐに起き上がってくるものだと思っていた。

 ところが、いつまでたっても動く様子がない。友達が身体を起こしてやったところ、もう息をしていなかったんだ。外傷はどこにも見当たらず、死因はさっぱりわからない。そして、「起き上がり」を経験している村の人たちは、また時間をかけて、彼がよみがえったりしないかを警戒していた。


 それからは、村中は大騒ぎだった。ちょっとしたはずみで、次々にみんなが息を引き取っていくんだ。

 転ぶ以外にも、リュックを背負っただけで死ぬ。猫を持ち上げただけで死ぬ。トイレで腰を下ろしただけで死ぬ。人によって、息が止まる原因は様々で、瞬く間に村中の命は、根こそぎになっていった。

 この異常は、子供が転んでから一両日中の間に、村人のほとんどを奪いつくしてしまったらしい。近くの市に通報があったのだが、救助隊が駆けつけた時にはすでに遅く、村民は全滅していたようだ。電話をした人も、受話器を耳に当てたまま、机に突っ伏して、絶命していた。


 検死が行われたものの、死因ははっきりとはわからず、今でも彼らの死体は、どこかの研究所に保管されているらしい。

 ただ、例の「起き上がり」の話を、亡き知人から聞いていた者たちは、あの掃き掃除が終わったんじゃないか、と思っているそうだ。

 あの世が一時的にいっぱいになってしまい、広げる仕事をしていたから、通るのを断った。そして、仕事が済んだために、多くの人がいざなわれてしまったのだろう、と。



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