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ほむら転生

 な〜に、つぶつぶの最近のマイブームは雑穀米なわけ? 私は正直、あまりおいしいとは思えないんだけど。

 ――え? 将来の健康のための投資?

 は〜、考えが更けているというか、何というか。人生の中で、体力的に色々とはじけたことができる時期だってのに、節制、節制って辛くない?

 私は好きなものを、好きなだけいただくようにしているわ。極端な話、もしも今日、命が終わるんだとしたら、食べたいもの食べておかないと、もったいなさすぎると思うんだけど。

 生き残ったら生き残ったで、次の日には新しいスイーツが発売されるかもしれないし、時間を見つけて、要チェックでしょう。

 不摂生? 大いに結構。今できることがあるなら、思う存分、好き勝手したいわね。

 細く長くよりも、太く短く。楽しく生きなきゃ、つまらないでしょ? 

 ま、つぶつぶの健康で長生きしたいという意見も、否定しないけどね。死んじゃったらもう書けないけど、生きている限り新作は作れる。アーティストにとっては、寿命だって勝負のうちよね。

 そうやって、生涯をかけて最高を作ろうとした人たちの話、聞いてみない?


 身体の資本といったら、食べ物。食べ物といったら、お米という想像は、日本人の多くが持っていると思うわ。

 何より歴史が古い。今の研究だと3000年くらい前には、もう日本に米作りが伝わっているって話だったっけ。そして2300年くらい前には、ほぼ全国に稲作が広がったと。

 日々を生きる糧として、広まっていくお米たち。それにともなって、ひとところに定住し、土着の文化と信仰を根付かせていく人々。そして、大和朝廷がほぼ日本列島を統一すると、次は海の外へと目が向けられるようになる。

 朝鮮半島に、自らの版図を広げ、地位を確立しようと画策を始めたのね。そして、5世紀の終わりには、長年の貢献あって、朝鮮半島南部の利権を獲得し、大将軍の称号を得ていたわ。その地盤の強化も、大和政権の課題の一つだった。


 もしも戦争を吹っ掛けられた時に、重要になるものは何か。時の大王おおきみは強い兵士だと結論づけたわ。1人で100人分の働きをする、豪傑の兵士。これを今までと同じ兵数揃えれば、100倍の敵にも、打ち勝つことができる、と判断したのね。

 そのためには、力を生み出す尋常ならざる手段が必要。力を生み出すのは身体。身体を作り出すのは、米。神の祝福を受けた米を作り出し、広めることができれば。そう考えた大王は、とある山に目をつけたわ。


 榛名山はるなさん。そこの、現在でいう二ツ岳で、近年、噴火があったの。この頃から、すでに山岳信仰は強い力を持っていたから、榛名山は神のごとき存在。その噴火は神の怒りであり、力の噴出であるという考えを、多くの人が持っていたのね。

 そこの土に、大和朝廷は目をつけた。神の力を受けし土。それを使って田畑を作ろうとしたのね。

 火山灰土は、単体では水はけが良すぎて、水田には適さない。だから現地の土に、火山灰土を加えて、その上に田んぼを作ることにしたの。

 計画はおよそ10年が費やされたわ。水田として申し分ない環境を整え、子供を産む女性も、子供の時から優秀な血筋の中から、厳選、教育される。当時の人間の寿命は、今に比べて、はるかに短い。その中の10年は、今よりもはるかに重い意味を持つでしょう。

 そうして、選ばれた女の子が身ごもった後も、神気を取り入れるという名目で、彼女は毎日、少量の火山灰土と一緒に煮た、おかゆを毎日食べることになる。お腹の子が生まれるまで、一日も欠かさず、何人前も用意された。

 文字通りの100人力を望むならば、100倍の力を用意できなくては、という強い意見に押されてね。


 彼女のお腹は、他の妊娠した女性に比べて、はるかに早く大きくなっていったわ。臨月を迎えるころには、平均的な妊婦の数倍。彼女の腹を隠しきれるだけの服は用意できず、お腹を冷やさないために、彼女は寝たきりになったわ。彼女の横には多くの侍女たちが控えて、御子が生まれたら、すぐに取り出せる状態を維持。

 彼女が眠る小屋は、簡易的な柵が設けられ、血と泥をかぶりがちな男たちは、汚れを持ち込むとして、出入りを止められる。父親を含めた男たちは、その間、小屋の周りをそわそわしながらうろついて、少しも休まる時がなかったみたい。できるのは、一刻も早い、御子の誕生を祈ることのみ。

 そして、およそ30日が過ぎた時、小屋の中から産声があがった。


 それは一際大きく、元気な泣き声だった。その響きは、同じ時期に生まれた子供たち、数人分に匹敵する。

 男たちは互いに喜び合って、御子の姿を一刻も早く拝むべく、家の中に入ろうとしたけれど、直後に侍女たちの紙を裂くような悲鳴を聞いて、思わず足を止めた。

 目の前の小屋が、一気に赤い炎に包まれた。赤子の声も、女たちの悲鳴も一向に止まらないまま、火の勢いは増していく。周りの柵にまで燃え移り、強くなる火力を前に、男たちがたじろいだ時。


 小屋のてっぺんを、何かが突き破った。その姿は炎をまとっていたが、両腕で抱えられそうなくらいに、小さな影だった。影は燃え盛る屋根の上にしばし、仁王立ちしていたものの、やがて東の空に向けて、放たれた石のように、まっすぐ飛び去っていき、すぐに見えなくなってしまった。

 やけ崩れた小屋の中からは、炭になった侍女たちが見つかったが、ただ一人、御子を孕んだと思しき、女の身体のみ、焼け焦げながらも原型をとどめていた。その腹は、ザクロのようにぱっくり開いていたという話よ。


 この場に立ち会った人々は、あの影は、女より生まれ出た御子なのだろう。神気を取り入れた結果、自分の生まれ故郷を思い出し、かの地へ飛び去ったのだろうと、口々に噂したわ。

 それを裏付けるかのように、十数年後、榛名山の二ツ岳は二度目の噴火を迎えることになった。それはかの御子が成人した暁だと、当時を知る人は思ったそうよ。

 人の身で神を宿すことはできない。神の御身は神の御手に委ねるべきである、と人々は一層、八百万やおよろずの神をあがたてまつることを、徹底したのだとか。

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