弟の来訪
次回投稿は土曜日を予定しています。
リアスティーナが深夜に訪問してきてから三日が経った。
あの後、リアスティーナが学園長となることを承諾してくれた。
彼女はまだ学生なので、卒業までのあと一年の学園生活を終えてから学園長となり、現学園長タニアちゃんの祖父、マッケイ・ミシェイラ侯爵はリアスティーナのサポートを申請する事も話した。
他には何かないかと聞かれたので、国軍と伯爵以上の上級貴族の軍拡張の重要性を進言した。
平均的な伯爵家に仕える私兵が約1000人だ、私は5000と抱えているので、どっかの馬鹿が私を危険視する前に正当化するという作戦である。
拡張に当たり国庫からそれなりの資金を用意することも約束してくれた。
私もその対象なのだが、流石に恐縮し、断った。
王家の首が回らない地方の上級貴族にはリモーネ商会から貸し与える事として、リモーネ商会を王家御抱えの商会にする事も決まった。
マルーカの驚く顔が楽しみだ。彼女には何も話していないからね。
話は朝方まで続き、レオンハルト殿下への書状を私とリアスティーナの連名として書き終えた頃にはお寝坊なレインも目を覚ましてきた。
リアスティーナが居る事に驚きつつも教育の行き届いた子爵令嬢。
覚束ない口調でもそれなりの対応をしてみせた。
帰り際リアスティーナは歩いて帰ると言い出すから大変、私は直ぐに馬車を呼び出しリアスティーナを王宮へと送り届けた。
その次の日にレオンハルトから諸々承諾の返事の手紙が送られてきて私は一息吐いた所である。
レインも昨日名残惜しそうに領地へと戻って行った為私は一人寂しく王都の屋敷で昼食を取っていた。
今日は何をしようか…そう言えば今月収入支出の計算が終わってなかったな…と、頭の中で午後からの作業を嫌々ながら思い出しながら食べていると、来客が訪れる。
「リリお姉さま、マシュー様がお越しになりました。此方に通しますか?」
食堂を空けていたモガが現れ来客を告げる。
「マシューが?昼食を取ってないなら此方に通して。もしいらないのならば、私の部屋の隣が空いてる筈だから荷物を置いて一休みしたら執務室に来るよう伝えて?」
「畏まりました、ではその様に。」
音もなく部屋を出たらモガはマシューの居る所に向かったのだろう。
私の食事をする音が響く中、ノックが聞こえる。
旅装を解いたマシューとモガが姿を現しマシューが口を開く。
「やぁ、姉さん。この時期は此方に居るだろうと思ったから会いに来たよ。」
「久しぶりね、マシュー。お昼は食べたの?食べてないなら、風呂場で手を洗ってからそこに座りなさい。」
「あぁ、もう洗ってから来たよ。服も着替えてきた。姉さんが口酸っぱく言うもんだから耳にタコさ。」
生意気な八歳児である。
もうすぐ九歳か。
「あら、そう?マシューの癖に覚えが良いじゃない。モガ、マシューの分もお願い。」
「御意に。」
モガが食堂を離れ、私とマシュー二人きりとなる。
新年の挨拶の時に一度会っているが、あれから少し身長が伸びただろうか?私の身長に追い付きそうである。
髪も少し伸び中性的な顔立ちをより際立たせている。
だが、筋肉量が増えたのか、少し厚みが増え、以前のマッチ棒の様な体型から人参くらいには成長しただろうか。
元騎馬民族最大派閥を率いていたレオパルドのしごきに最近追い付いてきた、というのはガルガントに派遣されたレオパルドの孫、ロイから手紙で報告を受けていた。
まぁ、彼からの手紙は私的で詩的な内容も多く含まれているのだが、それはこの際関係ないだろう。
毎月十枚のラブレターを送ってくるのはナンセンスだ、止める様に注意をしているのだが聞こうとはしない。
白紙を生産しているからと言って無駄遣いはいけない。
資源は大切に!
「それでどうして此方に来たの?」
「それは勿論、姉さんにお祝いの一つでも言いたくてさ。誕生日おめでとう、姉さん!遅くなってごめんね。それとプレゼントも用意してあるから渡すね。」
マシューから手渡されたのは羽を象ったネックレスだ。銀色に耀き、光の当て具合で色が変わるという代物だ。
女性が身に付けても違和感はないデザインになっている。
「何よ。マシューの癖に気が利くじゃない?まぁ…その…ありがと…」
あぁーもう、恥ずかしい!
何故マシュー如きにトキメキかけてるんだ、私!
しっかりしろ!
文句の一つでも言ってやろうと、マシューを見るとその首元に同じデザインのネックレスが付けられている。
ペアルックか~い!
「フフフ、やっぱり姉さんには何でも似合うね。僕も同じ物を持ってるんだけど、似合わないや。」
嬉しそうに笑うマシューに気圧され私は怒りを沈める。
まぁ、嬉しくなくはないんだけど…
「別にあんたとお揃いが嫌って訳じゃないけど、デザインが気に入ったから貰ってあげるわ。感謝しなさいよ?」
「う、うん!ありがとう姉さん!姉さんは世界で一番優しいな、あはは…!」
もっと姉を讃えなさい、愚弟よ!ハッハッハー!
「それで?これだけじゃないでしょ?来た理由は。」
「う、うん。姉さんからの指示通り鉱山を調べたら出てきたよ。これが抽出して作った物。」
虹色に輝く拳大の大きさの鉱石。虹魔鉱という含魔鉱物である。
魔力の強い場で発見される含魔鉱物の中でも特に稀少性の高い物だ。
物語終盤ではこれを使った武具が役に立つ。
今のうちに蓄えておいて損は無いだろう。
「良い子ね、マシュー。領地に戻ったらこれをもっと集めなさい。」
「うん、分かった。」
「奴隷制度の方もきちんと守ってるわね?」
「姉さんの言い付け通り、衣食住は此方で手配して八時間勤務の三回交代に、そのうち二時間の休憩を徹底させて週休二日、一日銀貨二枚を渡してるよ。」
うんうん、しっかりマシューは守っている様だ。
私の目指す社会には奴隷は必要ない。だが、国が奨励しているのだ。
従うしかないだろう。
だけど、私なりのやり方と尺度でだ。
従来の奴隷は寝床は良くて土間、酷いのだと、外で寝て、食事は黒パンを一つのみ、賃金など出す筈もなく、良くてペット扱いだが殆どは物扱いである。
壊れたら別の物を買えばいい、それが貴族の意識に寝深く浸透している。
私はそんな概念に憤りを感じている。
だから私の領内だけでも変えてやるのだ。
使い潰すなんて勿体無い、人は宝だ。
より効率良く作業を進めるには適度な食事と休憩が必須である。
マシューに一枚の紙を手渡される。そこには過去一年間の収入が書かれていた。
それによって分かったのは鉱山持ちの他領の約三倍の利益を叩き出していることだった。
私の考えが正しかった事の証明である。
これを持って知り合いの貴族に相談してみよう。
手始めに四公かな?
最上級の発言力がある人達から意識を変えれば伝播していって下級貴族にも伝わるだろう。
「ありがとう、マシュー。これで私も動きやすくなる。そうね、何か欲しい物はある?ご褒美をあげるわ!」
私は喜びのあまりマシューに抱き着いてしまう。
「ウェッ?!あ、えと…考えとく…これで十分なんだけど…いや、何でもないよ姉さん!」
マシューは下を向き恥ずかしそうにしていた。
そんな感じで話しているとメイド達が食事を運んでくる。
私はマシューと会話しながら食事を楽しんだ。
それから二日間羽を伸ばすとマシューはガルガントへ帰って行った。
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