合同誕生日会~中編~
長くなったので三部に分けました。
本当は前後編仕様だったのですが筆が進む進む。
それでは中編をどうぞ!
立食形式で進められる公爵家のダンスホールへ入場した私とリビー。
一段高いところに椅子とテーブルが置かれており私達は椅子の前へ移動する段取りになっている。
美味しそうな食事やお酒が並ぶ中、拍手喝采を受け本日の主役である移動中の私達を迎えた来賓客はまず、久々に公共の場へと姿を現した私の変貌に驚愕する。
「センティス卿のお姿が変わっておられますな。前までは短く整え男装を好んで居られたのに」
「全くですな。ですが、アルデン伯爵婦人の美しさをしっかりと体現されておりますな!今も美しくありますが、将来はさぞや美人になることでしょう」
「あのドレス初めて見るデザインですわ!何処で売られているのでしょう?」
「きっとリモーネ商会の新作ですわよ、奥様!センティス卿はリモーネ商会の元締め、後でお話をお伺いしましょう!」
うん、宣伝の為にチャイナ風ドレスを着てきたが効果はあったみたい!
拍手の合間にあちこちで上がる噂話を聞きながら私は堂々と中へ練り歩く。
次に聞こえてくるのはジェネシス公爵家の一人娘であるリビーの事だ。
品定めするように舐め回す様な視線が、人見知りで悪意に人一倍敏感な彼女を襲う。
私は気遣う様に歩調を合わせて、気を紛らわせるよう優しい口調で声を掛けた。
「リビー、足元気を付けて?」
「ん!だいじょぶ!」
心配していたリビーは何事もないかの様にしっかり頷くと私の方へ首を小さく傾けながら微笑んだ。
また、普段は目元に少し隈があるが、先程私が施したベースメイクで与える印象を和らげている。
これでも女子大生を四ヶ月間経験しているのだ、化粧の仕方なども調べ学んでいる。
レオンハルトの前世…美樹が意外とそういうのに詳しくて田舎から出たての私に都会生まれの彼女は色々と教えてくれた。
懐かしいなぁ…今じゃ気軽に会って相談出来る間柄じゃないから気安く話せないし、話せるのならばあの時偽名を騙ったりはしていない。
今もそちらの方に目線を向けるとレオンハルトは微笑を湛え…あれ?何故か私と目が合った瞬間目を反らされた。何故だろう?
ナーナは私に向け小さく手を振ると、振り返され、母親らしき金髪の美しい女性と会話を始めた。
私達は学校の教室で言う教壇の位置に辿り着くと、リビーと視線を合わせ招待客に向けて一礼する。
「本日は我々の合同誕生日会にお越しいただきありがとうございます。私は先日十才の節目を迎え、オリヴィエ嬢は九才となりました。これからも私達の事を暖かくお見守り下さい。これを持って私の挨拶は終らせて頂きます!それでは皆様、杯を掲げて頂きまして場所を提供してくださったジェネシス公爵様に乾杯の音頭を取って頂きたいと思います。ジェネシス公、お願いします。」
「うむ、それでは皆様。本日は忙しい中お集まり頂き誠に感謝しております!短めに済ませようではないか。目出度い日だ、今宵は楽しんでくれ!それでは…乾杯!」
「「「乾杯!」」」
公爵の音頭で招待客が一斉に杯を掲げる。
私もリビーと果実水を打ち合わせると微笑み合った。
乾杯を終わらせると自由タイムである。
格の高い家から順に…
もちろん普通は王族の元へ格下の私達が行かなければならないのだが、今回はレオンハルトやナーナの意向もあり、足を向けてもらう形となった。
目の前に王家の方々が揃い踏みである。
レオンハルト、ナーナ、マリアナ大后、病に臥せているはずのリアスティーナに四女のユリアナという面子だった。
これまた珍しい人達が集まったものだ…でも不思議ではないか。
レオンハルトとナーナは私の友人だし、長女のリアスティーナの母はジェネシス公爵の妹で、四女のユリアナの祖母は私の婆ちゃんと姉妹。つまり母親同士が従姉妹だ。
マリアナ大后が来たのがよく分からないが、保護者として来たのだろう。あまり考えすぎ無いようにしよう。
「センティス卿、オリヴィエ嬢、お誕生日おめでとうございます!」
レオンハルトがその場から一歩前に出てそう告げた。
他の四人もそれに合わせ頭を下ろす。
うへー…王族がそんな簡単に頭下げて良いのかな?…でも王家に対しての評判は今、地に落ち続けているらしいと先日新聞屋として働き裏では情報屋をやっている私の家臣に聞いた。
今更頭一つ下げようが、何の痛快にもならないのだろう。
私とリビーはその場に膝を着き、頭を下げる。
「次期陛下となるレオンハルト様や他の王家の皆様に、我らの生誕を祝って戴けるとは恐悦の極みに御座りまする。」
「そんなに畏まらないでくれ、センティス卿。私は貴方の事を良き友人だと思っている。公私共に、ね。さぁ、ナーナ私は良いから思う存分話すと良い。けど後がつっかえるから早めに済ますんだよ?」
レオンハルトは含んだ言い方をしてナーナに譲り一歩下がった。
去り際、レオンハルトが私の耳元に唇を寄せる。
『後で相談したいことがある』
そう言い残してレオンハルトは下がった。
多分先程の含んだ言い方はこれの為のカモフラージュだろう。
相談とは何だろうか?王家の事か、それとも個人的な事だろうか?頭の中で推測が推測を呼びこんがらがる。
よし、考えるのを止めよう。どうせ後で聞かされるのだから。
今はナーナである。
「あ、あの…!リリお姉ちゃん!お久しぶり…です。」
「本当ね、お手紙出しても帰って来ないくらいだもの。とても頑張ったってレオンハルト様からお聞きしたわ」
「あ…えと、ごめんなさい!リリお姉ちゃんみたいになりたくて、魔法とか剣とかお勉強沢山してて、お手紙は読んだんだけど、書く暇もなくて…怒ってる?」
ナーナの泣きそうな顔を見て私は優しくその頭を撫でた。
「怒る訳ないよ。ナーナも忙しかったんだよね?これからはたまにで良いから会いに来たり、それが難しかったらお手紙書いて欲しいな。」
「わ、分かった!そうする!」
うん、どうやらナーナはナーナで変わりない様だ。容姿が変わっても中身は私に憧れる一人の少女、これからも仲良くして行きたい。
オリヴィエの方をちらと見ると、リアスティーナやユリアナから挨拶を受けていた。
ユリアナは私に挨拶するべきじゃ…?いや、別に面識もないしこのままで良いか。
すると一瞬、リアスティーナと視線が交わる。
新緑の透き通った瞳だ。
心奪われそうになるが、微笑んだリアスティーナが直ぐに視線を戻しリビーと会話を始めた事で私もやっとの事で止まっていた呼吸を浅くする。
マリアナとも軽く挨拶を交わした所で五人は席へと戻っていった。
リアスティーナ…か。彼女には何かを感じる。
それも…強い絆を。
初めて会った筈なのに、何だろう…この感覚は?
私は次のクライシス公爵家が席に訪れるまでボーッとしていた。
作者諸用のため次回更新は10月3日(木)12時を予定しております。




