少女子爵と大聖堂
説明回です。
大した進展はありませんが、宜しければご一読どうぞ。
お茶会の翌日、招待客の令嬢達は各々の屋敷に帰っていった。
残ったのはマリアンヌとリビー、そしてレインだった。
リビーは一度北門から出て行きその後西門からこっそり入り戻ってきた。
レインは父、アルフォード卿から月に一度実家に戻る事を条件に、許可を得て私の手伝いをしたいと申し出てくれた。
会いたいときに会えるのは凄く嬉しい。
愛されてるなぁ…と感じてしまうのもおかしくないよね?
私も鈍感じゃない。
私に対するレインの感情は薄々感付いている。
けどまだ幼いから何もしないだけだ。一緒には寝るけど…
5月中旬、ゲース卿がセンティスを訪れた。
沢山の金貨と物資、人足用の奴隷を引き連れて……
まぁ、話を聞かずとも分かる通り大聖堂の建設を急げという催促だろう。
それに前回の茶会でいつの間にかマリアンヌが動き、後押しの約束を取り付けたらしい…
ほんと、いつの間にやったんだろう?
これで原作通りゲース卿が秋の教皇選で教皇になるのは間違いないだろう。
それのお礼を兼ねてのものだろう。
奴隷達への対応は工事責任者に任命したランゼに任せよう。
遅々たる工事状況を見学するゲース卿が労いの声を掛けるも内心はモヤモヤしていたんだろうな。
秋の教皇選までには間に合わせる様にランゼに小言を言っていた。
すまぬ、ランゼ…
私も手伝うからさ。
後で胃薬を届けてあげよう。
てんやわんやの二週間だったが気が済んだのかゲース卿はご機嫌で王都に帰っていった。
6月25日、私の手伝いもありマルセム大聖堂と名付けられた歴史上最大の大型建築物は完成することになる。
少し戻って5月3日、私は一枚の書類を取り出す。
ナナリアが置いていった奴隷18名、彼等の扱いに困っていた。
現在、ジョセフによって肉体改造中の彼等と希望者の兵士を鉱山近くに新しく作る開拓村へ送るという計画が上がっていた。
作るのは決まったのだが、監督するものが居ない。
深刻な人材不足なのだ、私は誰彼構わず有能な人材は居ないか探し回った。
するとようやく見つかった。
ジョセフの従妹で仕官を求めてきたジェニー。
ジョセフを交えて面談をしたが読み書き計算が出来る上に武芸もこなす。
中々の有力な人材だった。
一番得意なのは弓だという。
女性で背は低いが腕っぷしも強く、男勝りな性格なので数人の女性兵士も付けることでジョセフが許可を出した。
まだ21才の若者で猟師をしていたがジョセフからの文を頼りにセンティス領都マルセムを訪れた。
ちなみにジョセフに年を聞いたらまだ29才のアラサーでした。
髭面で勘違いしてたけど、どうやらまだまだ働き盛りの現役バリバリだった。
若くして騎士になったから貫禄だけが付いてしまった、との事らしい。(ジョセフ談
ジョセフの親族は殆ど読み書き計算と何かしらの武芸を嗜むのだとか…
恐ろしい、ジョージの血族…!
早速ジェニーに行って貰おうとしたが何事も信頼関係が必要だ。
いつ野盗に襲われるかも分からない状況で信頼関係もなく開拓など出来るわけがない。
そこで近頃領内で話題になっている盗賊の討伐に向かわせた。
【実地で馴れよう?!ドキドキ強化合宿!】
と私は心の中で銘打った。
ホセが着いていくらしい。
公爵の所の騎士なのだが、そこまでして貰って大丈夫かな?
こっち(マルセム)にはセバスが居るので安心だというので本人の好意に甘えるとしますか。
これだけ有能な一族ならばうちで雇えないかな?
もう手当たり次第にジョセフの親戚を集めてジョージ村とでも名付けようかしら?
男は髭面、女は背が低くて童顔な不思議な村が出来上がる事だろう。
想像しただけで何故か笑えてきた。
ジョセフに話してみようかな?
去年の夏にあったジョセフのお兄さんにうちの料理長のポストを明けとくって伝えたら来てくれるかも!
ということでジェニーやホセを送り出した後、ジョセフにも親戚を集めてみてはどうか?という相談をする。
「あっしの親族をですかい?お嬢が高く評価してくれるのはありがたいんですが止めといた方が良いでしょう。」
「どうして?」
「皆それぞれ、その土地での仕事がありまさぁ。先祖ジョージの代からあっしら血族は義理固く人情に厚い。そうそう簡単に地元を捨てるようなやつぁ名折れでさぁ。まぁ、それでも手紙くらいは送ってみてもいいでしょうな」
「じゃあ来た人は厚遇するって書き添えておいて!」
本当は差別などしたくはないが一人でも多く優秀な人材を手に入れたいのだ、これからセンティス領は大きくなる。その為に必要な処置である、多少の犠牲は覚悟の上だ。
「はぁ…分かりやした。あっしはお嬢に仕える事が出来て果報者だと思ってますぜ。」
渋々と言った風に返事したジョセフが、後に話した聞こえるか聞こえないかの声量の言葉を私は聞こえない振りをした。
ありがとうジョセフ、私もジョセフが居てくれて本当に助かっている。
声には出さず私からも感謝の気持ちを胸の中に秘めた。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
6月23日、盗賊の討伐に出掛けたジェニー一行が30人もの盗賊を捕まえ領都マルセムに戻ってきた。
方法は任せたが誰一人欠けることなく戻ってきてくれたのは嬉しい事だ。
「お嬢、ただ今戻りましたよ!」
「お帰り、ホセ!ジェニーもお疲れ様!」
「私なんかにお声掛け頂けるなんて…と、とんでもないです!」
ジェニーは何故か緊張しており以前会った時の男勝りな対応ではなく、恐縮とした態度だった。
不審に思い尋ねると言い澱むジェニーの代わりにホセが口を開く。
「お嬢の免許皆伝の話を少しジェニーに話したらこの通りでさぁ。ジェニーは腕は立つがその域までには達してないんでお嬢の事を尊敬してるですよ!」
なるほど、そう言う事か…
うん、冬の間やることなかったからジョセフとホセに死ぬほど鍛えられたもんなぁ。
お陰でジョセフだけでなく、ホセからも槍術免許皆伝を言い渡された。
「あ、あの!ジョセ兄やホセ兄に認められた腕前を是非拝見させて戴きたいのです!お暇が有るときに御相手してくれますか?」
うるうるとした瞳で私を見つめるジェニー。
背が同じくらいで童顔なせいか少し気後れしてしまうも私は頷く。
「うん、日中は忙しいけど夕方なら空いてるからいつでも声を掛けて?その前に…やることやっちゃおうか。ーーーおほん、客将騎士ホセ、並びに兵士ジェニー。今回の働き、誠に大義だった!そなたらには後程褒章を与える。まずは旅の疲れを癒せ。後で私の部屋に詳細を纏めた書類を提出すること、以上!」
先程までの軽口とは違い、私の発する空気が変わったのを見てホセは直立で下を向き右手を心臓に当てる。
客将扱いなのはホセはあくまでジェネシス公の騎士だからだ。膝を着くことは許されない。
ジェニーは右膝を着き右手を心臓に当てた。
主君に対する最敬礼の形である。
臣償必罰、当たり前なことだ。
私もいつの間にか偉そうな言葉遣いが板に着いたなぁ。
最初は全く慣れなかったのに。
「謹んでお受けする。」
「あ、有り難き幸せ!」
うん、ジェニーはまだまだこれから馴れていけばいい。
ホセは流石公爵家に仕える身だけあって優雅な立ち振舞いだ。
私は満足げに頷くと書斎へ戻った。
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6月25日、遂に大聖堂が完成した。工期約四ヶ月という異例の早さだが、無事に竣工を迎えた。
本当は8月下旬の予定だったけど、私が手伝いを行ったことで大幅な経費、材料の削減をする事ができた。
最初は面倒がってやっていたのだが、こうゆう宗教的建築物は複雑な構造をしており、作業をしているうちに段々と楽しくなってしまったのが原因だ。
7月1日にゲース卿と現教皇、他数名の関係者を引き連れ完成式を行う。
今日はその前にマリアンヌ、レインを引き連れ中の構造を説明する。ゲース卿の残した責任者が案内を買って出たが丁重にお断りした。
私の方が詳しいしね。
「リリー、本当に私が入っても良いのでしょうか?」
「気にしなくて良いよ。半分は私の持ち物だし。」
そう、ゲース卿との取り決めでは私…というよりセンティス家の所有物としても認められている。管理は教会側だが、土地はセンティスである。
「あぁ…わたくし、感動していますわ!こんな素晴らしい大聖堂が出来るなんて夢みたいです…!主に、そしてリリー様に感謝を…!」
マリアンヌは感極まって今にも泣き出しそうな表情である。
泣くのは良いんだけど、私を拝むのは辞めてくれ~…
大きな聖堂の脇には二つの塔があり、片方は教会関係者、もう片方は町の子供や大人を集め読み書きを教える場となっている。
そう、学校だ。
兼ねてからの私の目標をやっと実現することが出来たのだ、それを喜ばない訳がない。
ゲース卿の代理人とは話し合いを多く重ね、最終的には援助を取り止めると脅すと、向こうが折れる形で何とか完成にこじつけた。
朝昼は子供達の、夕は農作業や家庭の事情などで通えない大人や子供がメインとなる。
とりあえず九月から開校し、五年後には今の10才から30才の領民が読み書き計算を扱える様にする予定だ。
六年後の四月から年齢毎に分け試験的に運用するつもりである。
少しでも知識を知る喜びを知ってほしい。
私の理想へと一歩近付いた。
一回りしてからメインの大聖堂の前へ辿り着く。
細かい彫刻のされた大きな木扉を開けると中には長椅子が等間隔に設置されている。
最大五百人は収容出来るというのだからその大きさが伺い知れるだろう。
天井は五メートル以上で、精緻なステンドグラスが太陽の光によって煌めいている。
初代聖女と呼ばれた女性とその伴侶である英雄。その横には11人の子が描かれている。
先に進むとお坊さん(司祭や司教などの身分)が説教するための書机が置かれている。
そしてその後ろには大きな布の掛けられた物体…
私は中身を知っているのだが二人には見られたくないなぁ…
「すごいです!ねぇ、リリー!あの大きな布はなんですの?」
早速目を付けられた。
いや、うん…
そりゃ目立つけどさ…
「わたくしも、興味がありますわ!是非拝見させてください!」
マリアンヌが食い気味に布の掛けられた物体の方へ近付く。
「あっ!だめ!」
言うが遅かったか、無惨にも布は引っ張られ、その中身が姿を現す。
それは微笑み神に祈りを捧げる貫頭衣に身を包む一人の少女だった。背には三対の翼が生えている。
誰だこれ?
私なんだよなぁ。
王都の有名だという彫刻家の手によって作られた五メートルの巨像。
美化されすぎていて私とは判別が付かない。
まぁ、14~5才の姿をしてるし、髪が長いからな。
うん…。イメージで勝手に作らないで欲しい…。
私はあんな優しい微笑みをしないし、翼も生えてないからね?!
嫌ぁー!恥ずかしい…!
「リリー、ですか?凄く綺麗な表情をしています…!」
「リリー様ですね。王都の彫刻家の名が足元に刻まれていますが何処ぞの馬の骨にリリー様の美しさや素晴らしさを形として後世に遺そうなど百年早いですわ!まぁ、多少は感心するところはありますけれど…」
えぇと…、うん。
結構な好評価だけどさ、一緒に住んでてそう言われるのだからこの像と私は、私が思っているよりも似ているのだろうか。。。
後でリビーにも見せようかな?
レインやマリアンヌに何故か対抗心を燃やしているし、仲間外れは良くない。
きっと頬を膨らませて怒るだろう。それもちょっと見たいな…。
いやいや、決めた。
今夜、リビーを誘ってまた訪れよう。ついでにジェシカも誘おうかな?でも一般への御披露目は来月だし…まぁ、いっか!
私はそう誓いレイン達の案内に意識を戻すのだった。
そろそろオリヴィエの紹介をしようか、悩んでいます。
残すところオリヴィエと13人目だけなのですが、13人目は既に登場しています。
もし良ければ予想してみてください!
発表は9月1日となります!
この機会に感想などで気軽にご投票下さい!
プクマ、評価、レビューもお待ちしています!




