少女子爵と教会
本日四話めです
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や、奴が来たぞー!
三月になった。
真冬の厳しさは身を潜め、気温が段々と上がっていくのが肌で感じる事が出来る。
ポロ達とも仲良くなり、三日に一度遊ぶ様になった今日この頃。王都から突然来訪者が現れた。
「センティス卿、御無沙汰しております!」
「リリアナ様、お久し振りですわ!」
「これはこれはゲース卿にマリアンヌ嬢、わざわざ我が領内に足を運んで下さり有り難うございます。ささ、どうぞ中へ」
そう、ゲース親子だ。何しに来たのだろうか…?
「有り難うございます、失礼致します」
連れてきた執事やメイドに荷物を持たせた二人は中に入る。
一体何日分の荷物だよ、まさか泊まる気か…?
いや、部屋は余ってるけどさ。
とりあえず客間に通すと私はその足で執務室に向かった。
ゲース卿とリビーが接触したらまずいことになりそうだ。
何処ぞの貴族の手先かもしれない…!
公爵も警戒していたからな、私がミスをして窮地に立たせたくない。
それは少し考えすぎかもしれないがゲース親子を警戒するに越したことはない。
とにかくリビーはセバスの屋敷(冬前の仮住居)へと送らせた。
コンコン、とノックが響く。
「どちら様?」
私は問い掛ける。
「ゲースです、中に入っても?」
だろうな……
いきなりラスボス(私の中で)が押し掛けてくるとは…
とりあえず中へ入れないと怪しまれるか…
「どうぞ」
尋ねてきたゲース卿は片手に手土産らしき物を持ち、もう片手には大きな鞄を持っていた。
「失礼します、これは王都から持ってきた品です。つまらないものですが…」
「受け取れません、どうぞお持ち帰り下さい」
箱の中身が見える様に応接机に置かれたそれには沢山の金貨が入っていた。
何処ぞの悪徳商人かよ!
私はピシャリと断った。
「まずは話だけでも聞いては戴けませんでしょうか?」
「我が領に不利益な事があるのであれば、聞く必要はありません…ですが、用件を聞いてからでも断るのは遅くないでしょう…」
私は目で早く話せ、と語る。ゲース卿は形の良い髭を撫でニヤニヤしている。
殴りたい、この笑顔。
「それでは。センティス領に大規模な教会堂を建ててほしいのです。更にセンティス卿…いや、リリアナ様に【聖女】となって欲しいのですよ」
教会堂はまだ分かる。
そのうち、建てろと教会から催促が来るのは予想していた。
だが、私が聖女認定だって?意味が分からない。
「教会堂は分かりますが聖女ですか?それは何故でしょう?」
「リリアナ様が回復魔法を使えることは独自の調査で存じております。それこそ欠損部位まで生やすというのですから聖女と言っても過言ではないでしょう。」
「はて?仰っている意味が分かりません。私は回復魔法など使用出来ませんし、第一センティス卿の娘御マリアンヌ嬢は回復魔法の才がお有りだと聞き及んでおります。私なんぞよりよっぽど聖女に相応しいのではないでしょうか?」
あくまで白を切る。
これ以上忙しくなったら堪らない。
私は自由に生きると決めたのだ、誰かの都合で言いなりになどなりたくない。
「あれもそれなりには使えますが欠損部位までは治療出来ませんよ。もちろん、リリアナ様の益となる様便宜を図らせて戴きます。そうですな四月に一度金2000、更にセンティス領を聖地と定め巡礼を推奨しましょう。然らば領内は観光客などで潤うことでしょう。如何ですか?」
さっきの金貨は賄賂か…断って正解だ。
「率直に聞きましょう。ゲース卿、貴方の狙いは何ですか?」
「…そうですな、はっきり申しましょう。私は今年の秋の教皇選に立候補したいのです。そのためにセンティス卿の人脈などをお取り次ぎして戴きたいのですどうか、どうか何卒お力添えを…」
深々と頭を下げるゲース卿。
悪どいことでも平気でやってのける胆力と、成り上がる為ならばどんな手段さえも使うこの男は人に頭を下げることなど苦にも思わない。
自分の意見が通りさえすれば数日後には忘れてしまうのだ。
そうやって現在の地位までのし上がってきた。
と、設定資料に書いてあった。
多分そのままの人格を形成していると思われる。
爽やかな笑顔の裏側はどす黒い陰謀が渦巻いているのだろう。
その血はしっかりとマリアンヌにも受け継がれている、厄介な血筋だなぁ…まったく。
「なるほど。去年の戦前に私が治癒術士や薬師をお借りしたときの借りと領内の支援をした借りを返せ、ということですか。分かりました、ではこうしましょうか。以前マリアンヌ嬢を王都の屋敷にて茶会に招待した際、声を掛けた令嬢達に春頃に再度茶会を開く旨を伝え、その時ゲース卿の事を後押しすると私から話してみましょう。ですが、それ以上の確約は出来ませんよ?私に出来るのはそれだけです。それとお金も聖女の肩書きもお断りします、これで貸し借りは無しということで良いですね?」
そう、確約は出来ない。
令嬢達が興味を持ち、親、ないし祖父母である当主に話が行くかは令嬢達次第である。
それ以上は何もフォローしない。
丁度領内も落ち着いてきたし、みんなにも会いたい。
是非センティス領に呼んで茶会をしよう!
なんか考えただけで楽しくなってきたぞ!
ゲース卿に乗せられるのは癪だが…悪い意見ではない。
「多大なご配慮有り難うございます!それではまた五月頃お伺いさせて戴きます。」
ゲースはまた頭を下げる。
お前の頭はそんな軽いのか!
と野次を飛ばしたくなるがここは我慢しておこう。
「それともう一つお願いがありまして、教会堂が完成するまでうちの娘マリアンヌを此方に随留させたいのですが…」
監視役兼報告役か。
それに此方に預けるということは人質も担っていると考えて妥当だろう。
あの大荷物はマリアンヌのものだったか、ゲース卿は明日辺り帰るんだろう。
普通七才の子供が諜報活動するのかと問われればあり得ないと考える。
だが、私はマリアンヌの頭脳の高さを知っている。
その値IQ160…15才の時のマリアンヌの情報だから幼くてもそれなりの知能はあるはず。
確か子供の頃から高かったと設定資料に書かれていたので油断は出来ない。
一応反乱分子の手先として警戒は緩めないようにしないと。
「分かりました、その話受けましょう。マリアンヌ嬢にはそちらからお話戴けますか?」
「ええ、勿論ですとも。それでは私は町の宿を取っていますので失礼致します。それとこれはマリアンヌの生活費に充てて下さい。」
先程の金貨の入った箱を私に押し付けゲース卿は屋敷から足早に去った。
むぅ…やられたな…
「ジェシカ、居る?」
「此方に。」
執務机の横にある本棚、その裏からジェシカは姿を現す。
私が執務室に滞在する時、どんな刺客が現れても対応出来るよう隠し部屋を設けた。
常に兵士四人と騎士一人が交代で待機しているため荒事が起きようとすぐに対処してくれるため便利だ。
メイドの休憩室にもなっているので人数は七~八人常駐している。
「密偵をゲース卿に付けて。怪しい動きをしたら直ぐに報告。それと各家に茶会の招待状を送って?あ、一応王女殿下とパーシアス家にも!そろそろ帰って来る筈だし。そうね…名目は私の誕生祝いってことでお願い。日にちは…4月20日にしようかな。」
そろそろパーシアス家のユグドラ嬢が外国から帰国する筈だ。
ナナリア姫も遊んでばかりだろうけどお茶会くらいは参加してくれるだろう、私陛下のお気に入りらしいし。
あれ?そうなると半端なもてなしじゃダメじゃん!時間がある時に何か考えよう…真剣に。
「畏まりました、直ぐに取り掛かります。」
軍部も拡張し、兵科が増えた。
戦闘に不向きなものや自ら志願した者達で密偵科や工作科などを配備し、人材育成に励んでいる。
お陰で王国のみならず周辺国家の情報まで筒抜けだ。
やっぱり情報って大切だよね、
【情報を征するものは世界を征す】
という格言を聞いた事があるがその通りだな。
私はジェシカの淹れた紅茶を口に含みながらそう思ったのだった。
教会の力は借りたくない。
声を上げては言えないが最悪武力行使も有り得る。
私の掲げる医学の発展、重要性を説くという目標と読み書き計算の普及率100%という大きな野望のためにははっきり言って教会は邪魔だ。
例え教会と争うことになっても私は後に引く気は更々ないのである。
その時までは本心を隠し雌伏する時である。
今は別にお互い利用する程度で丁度良いんじゃないかな。
最悪な展開ではあるが、マリアンヌを此方側に率いれられれば心強いのだけど。
一つ頭に考えが過る。
…これは一番取りたくない手段だが切羽詰まった状況に陥るよりはマシだ。
だがやってしまえば後戻りは出来ない。
それはマリアンヌを攻略するか…?
というものだ。
そうすれば私や仲の良い友人には手を出して来ない筈だ。
いや、今はそれを考えるのは止めておこう。
休憩を終え、ジョセフ、ホセ二人との鍛練に向かった。
ゲース卿再びでした。
裏話、、、この先ネタバレを含みます。苦手な方はご注意下さい
原作ではマリアンヌは主人公とフラグが折れた時点で他ヒロインを襲うというイベントがあります。
虐めの対象、そして恋愛の対象としてです。
またプレイヤーの選択により意図して選択することが可能。
しかしハッピー(ハーレム)エンドの場合は不可となる。
ランダム2キャラなのですが、リリアナが何故かマリアンヌに対象とされることが多めです。
これは製作者による意図的なものなのか、はたまた…?!
リリアナ(りの)はそれを恐れています。
マリアンヌ・ゲース
追加情報
両刀使い(バイ)
*原作では、という設定です。混乱するとは思いますがご了承下さい。
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