準名誉子爵、望まずの出世をする
王都にたどり着いた。
途中私の領地であるセンティスにも立ち寄ったが建物の建設ラッシュが行われており、外壁の農業区画には夏野菜などが瑞々しく生っていた。
これもセバスティンの手配のお陰である。感謝感謝。
文官よりのランゼやルシアさん達捕虜の女性12名、そして私の私兵(捕まった時に私が隊長をしていた100名。ずっと森の裾野に潜んでいたという)を残すとジェシカ、ジョセフ、ヴェイルを連れ愛馬スタローン号に乗り込み王都へと向かった。
ランゼは自分も連れてけと駄々を捏ねていたが、私が領地のことをお願い(瞳を潤ませ指を組んで上目遣い)すると小指でメガネクイッをして急にやる気を見せたのだ。
セバスティンにランゼを頼むと立派な執事にしてみせると意気込んでいたので任せておけば平気だろう。
ランゼ、あれでも亡国の王子なんだけどなぁ…
まぁ本人は気にしてなかったみたいだから良いんだけど。
「ただいまぁー」
「お帰りなさいませ、お嬢様!湯浴みになさいますか?食事になさいますか?」
久々のイレーネだ。むっ、少し成長してるな?
まぁ成長期真っ只中だし、当然か。
また大きくなった。
どこがとは言わないが目で追ってしまう。
今夜身体検査が必要ですな、ウヒヒ
「ううん、どっちもいいや!着替えたらすぐ王城に行かなくちゃだから帰ってきてからお願い」
「畏まりました。お召し物をご用意させていただきます。」
屋敷の一切を取り仕切っていたからか、てきぱきと作業をこなすイレーネを見て私は関心していた。
以前はあまり出来たメイドではなかったが今はどこに連れ出しても恥ずかしくないな。
着替えを済ませ登城すると長い廊下を歩き、そのまま謁見の間に通される。
やはり貴族子息用のレースが着いたシャツと紺のズボン、それに靴下を履いて革靴というボーイッシュルックである。
解せぬ…だが、ドレスという見た目ではないのでこれが合ってるのかも。
自分でも不服ながら似合ってるとは思うし。
数多くの貴族が居る中、今回出陣した一部の貴族達がジェネシス公を先頭に並んでいる。
私は父上の後ろに並んで待っていると父上に前へ行けと言われ、どんどん前に向かうと公爵の横に立たされた。
え?なんで最前列?!
困惑していると先触れが玉座の横合いから走ってきた。
「間もなく陛下が参られます。準備の方をお願いいたします。」
すみませーん、心の準備がまだ終わってませーん!
などとは言えないので心の中で押し留める。
すぐに陛下が現れると膝を突き迎えた。
玉座に腰かける布擦れの音が聞こえた。
静寂が訪れると陛下の声が響く。
「面を上げよ!これより評定を開始する!まずは先の戦にて指揮を執ったジェネシス公前へ!」
宰相が声を響かせる。
髭を蓄え白髪の多いおじいさんだ。アンちゃんのおじいちゃんでもある。
爵位は侯爵だが、国のNo.2という役職の為公爵相手でも思い切りの良い口調である。
「は!それではーー」
公爵が淀みなくスラスラと説明を始める、その姿は凛々しく堂々としており私は少し感動した。
多くの人の前に立つ機会がこれから増える私としては是非見習いたいと思っている。
私の考えた奇襲作戦や砦の建築用法など事細かに説明し戦場に出ていなかった武官らしき人達は食い入るように話を聞いていた。
まぁ、私の立てた奇襲作戦などは陽の目を浴びることはなかったのだが…
奇襲作戦の内容は大したものではない、前世の過去の偉人が考えたものだ。
モチーフとしては織田信長の桶狭間の戦いや源義経の一ノ谷の戦いなどだろうか…少数で崖を駆け降り奇襲すると言うものだ。
アーリン周辺には高くはないが山が点在する。
ガーズ男爵領まで連なる山もあるためそれを思い付いたのだ。
あまり歴史には詳しくはないが武将は好きなのでうろ覚えではあるがジェネシス公に作戦の提案を求められた時ふと思い付いた。
まぁその山に向かう途中の森で敵軍に捕まってしまうのだが…全く以て恥ずかしい限りだ。
公爵は順を追って説明し、私が捕まりながらも敵兵を寝返らせ本陣を急襲、無事帰還した所までも話す。
「ーー報告は以上となります。私個人としてはセンティス卿を勲功第一とし、その労を労いたいと思っておりますが皆様は如何でしょう?」
公爵が周囲に視線をさまよわせると万雷の拍手が鳴り響く。
うぇっ?!こんな事で勲功第一で大丈夫なの?私、ドジって敵に捕まったし、作戦は第一段階の初歩の初歩で躓いたんだよ?
私はぶすっとした顔をしたがすぐに真顔に戻す。が、陛下に見られたのかクツクツと笑い口を開いた。
「クハハハハハ!ふむ…センティス卿よ、何やら納得行かぬ顔だな。だが、観念せよ。お主の勲功第一は揺るがぬ。さて…ジェネシスの話を加味して報奨を言い渡そうかの」
どきどき…何を貰えるのかな?
爵位とかは勘弁してね?
私、まだ七才なんだからね?!
自然と唾を飲み込んでしまう。いやに響いた気がする。十秒ほど溜めた陛下はにやりと笑い声を上げる。
「リリアナ・アルデン・センティス!お主を勲一等とし正式な子爵位とセンティスの地とアーリンの地。金五万、更に…!緋獅鷲勲章を授与する!」
「なんと…!!」
「嘘だろ?!」
「初陣でこれほどの報奨とは…!」
「ありえない!!」
何やら周囲が騒がしいが私にはよく理解出来なかった…。
え?センティスとアーリン?
確かに位置的には地続きだけど遠すぎない?
領内横断するだけで三日って広すぎないかな。
実家は私の簡易計算で約四倍の領地を治めているが一子爵の領地としては破格の領土だ。
あと緋獅鷲勲章だっけ?聞いたことないんだけど…
膝を着いている公爵が茫然と立ち尽くす私に囁く。
(緋獅鷲勲章は国の英雄に授与される勲章だ。長い王国の歴史でもたった三人しか授与されていない)
え?え?私がそんな貴重なものを貰ってもいいの?何だか頭が混乱してきた。
「ふむ…不満そうじゃの。ならば旧ガーズ男爵領も治めてみるか?お主なら卒なくこなすだろうの。フッ…」
そんな不敵な笑みを浮かべないで陛下ッ?!
困っちゃうよ…でも、一度陛下に言われて断るのは失礼だと教育されているのだが…私は決心して口を開く。
「発言宜しいでしょうか?」
「うむ、許す」
大丈夫…大丈夫。
落ち着いて話せばきっと何とかなる…はず…
あまり自信はないけど…
「ありがとうございます。陛下の申し出は大変ありがたく存じます。しかし…私はまだ若輩かつ非才な身。このような者に統治されもしも領民に不測の事態が起きた時、とても私には対応出来兼ねません。どうか今一度ご一考戴けませんでしょうか?」
敬語は…少々怪しいが多分言いたい事は言えたはず。
それに、とてもじゃないが私なんかに三つの地域なんてとても対応出来ない。
元平民の小心者にそんなだいそれた事出来るわけないじゃないか!
あと…貴族の妬み嫉みが怖い…
奴等どんな手を使ってでも自分の利益になることならば他人を蹴落としてでも優先するからね…
まぁ、私もそんな貴族の一員なのだが…
「ならぬ!余は一度口にしたことを撤回せぬ!センティス、アーリン、旧ガーズ男爵領を見事治めてみよ!」
あちゃー…陛下ぷんすかしてるよ…こりゃダメか…。
「……畏まりました。陛下のご期待に添える様、努力致します。」
「うむ、王国の若き才媛よ。その手腕を奮い王国の発展に勤めよ」
あ、ぷんすかも演技か…
にやりと笑う陛下を見て私は勘づいた。
どうやらうちの国の陛下は演技派らしい…してやられた…!
私は恭しく頭を下げた。
「ははっ!」
一連のやり取りが終わると奥から出てきた宰相が階段を下り私の前に歩いてくる。
その手には装飾された銀のトレーがあり、その上に拳大(成人男性くらいの大きさね)の大きさの木箱が置かれている。
トレーを脇に挟んだ宰相が箱を開けるとまず目に入ったのは煌々と煌めくルビーの輝きだった。
両目がルビーの宝石が嵌められた真正面向きの鷲の頭に獅子の体を持ち、羽が生えた架空生物たるグリフォンが勇ましく委託されたバッジがあった。
その体は黄金に輝いており希少鉱石や宝石が沢山嵌められていた。
これ、売ったら数千万じゃ足りないほどの価値があるんじゃ…?!
私は戦々恐々としながらそれを受け取る。
その後他の貴族や兵士が呼ばれ報奨を受け取っていたが私は緋獅鷲勲章の扱いで頭がいっぱいになり公爵に呼ばれるまで気が付かなかった。
その後公爵の馬車で家まで送り届けられ気が付くと夕食の時間になっていた。
こうして私は正式な子爵位と実家の約半分の領地、そして金貨五万枚に王国歴史にてたった三人しか授与された事のない緋獅鷲勲章なるものを手に入れた。
正直、荷が重すぎるのだが…
私はこの日何度目かの溜め息を吐いて、着替えを済ますとベッドに寝転がった。
ムッ…何か忘れてる様な…まぁ思い出せないし大した事ではないか…おやすみなさい!
翌日リリアナはイレーネの身体検査を行わなかった事を思い出し一人悶絶することになるのでした。
その晩お医者さんごっこをするのですが……
▽▼▽▼▽▼
次回からは章とサブタイトルが変わります。
これで第四章は終わりなのですが如何だったでしょうか?
戦争編は不遇だとは思いますが次章からはイチャラブ百合コメディに戻ります。
領地経営+新ヒロイン登場?!(あくまで予定です)
読まれてる方の大半がそれを望まれてると思うのですが完結までの道程に必要なためリリアナには出世をして貰いました。
一応大まかなシナリオは出来ているのですが何分執筆時間が取れず、読者様には不出来な作品をお見せしてしまい申し訳なく思っております。
自分の出来る最大限の表現を駆使しているつもりでは有りますが至らない部分が目立ち苦い思いをしている作者ですが、皆様の応援のお陰で何とか続けられております。
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これからも応援宜しくお願いいたします。
次回更新は二回お休みを戴き5/29土曜日となります。
これまでの登場人物紹介を挟みつつ(予定)数話連投する(あくまでも予定)かもです。
ご了承下さいませ。




