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お嬢様は賭けに出ました



公爵家を出てホセとくっちゃべっていたジョセフを回収し、教会へと馬車を進める。


正直行きたくないが行かなければいけないのだ。


やがて貴族区と平民区の中間にある壮大な建物が見えてきた。


建前として無欲を信条としているが教会の人間とて生活がある信者、貴族から。お布施や喜捨として多大な金を貰っている。


中には清貧に生きる教職者も居るが、大多数が欲に塗れ私服を肥やすだけの豚ばっかだ。


横領、着服、賄賂、何でもありだ。


しかもここはその豚どもの総本山…足を運ぶだけでも辟易とする。




しかし、私の計画には彼らの協力が最低条件だ。ここは私情を押し殺してでも交渉しなければならない。


教会の横にある馬車の停留所に降り立ち中へと入る。天井一面にステンドグラスで彩られた女神と天使の姿が視界に入る。とても綺麗だ。そんな風に天井を見ているとシスター服を着た女性がこちらに近付いてくる。


「こんばんは、本日はどの様なご用件でしょうか?」


「ゲース卿に約束を取り付けたいのですが、どうすれば良いでしょうか?あ、私はアルデン伯爵家のリリアナと申します。」


教会関係にはこれまで一度も接触したことがないので作法が分からない。つまりこういうときどうすれば良いのか分からないので素直に尋ねてみた。


「これは失礼をしましたリリアナ様。そうですね、今から担当の者に取り次ぎますので少々お待ち下さい」


私が身分を明かすと警戒を解いたのか柔和に笑い頭を下げるとまた来た道を戻っていった。


「はい、お願いします」


中々綺麗な女性だったが、あれは接待や応対用の人員だろうな。


実務はからっきしで容姿だけで採用されたと推測する。


多分私達が馬車で来たのを見て様子を伺いに来たのだろう。


教会に所属する人間全員が外見も中身も綺麗とは言えないのだ。


「あーめんどう…」


「お嬢様…」


ついついそんな言葉が出てくるくらいには面倒に感じていた。同席しているジェシカに咎められ私はため息を吐く。ジェシカも何やら疲れた顔をしている。今日はあちこち連れ回してしまっているからなぁ…落ち着いたら纏まった休暇を言い渡そう。それまでは頑張って貰わねば。



「お待たせしました、ゲース枢機卿がぜひお会いしたいとのことです。こちらへどうぞ」


おっ、来た来た!

その名前を聞いて忘れかけていた記憶を思い出す。


原作(未来)の教皇と同じ名字だ…

あっ!マリアンヌ!



ここでヒロインの親族であろう人物と会うことになるとは思っていなかった。教会といえばマリアンヌの姿しか浮かばないんだよねー…


でも私…少しあの子の事苦手なんだよなぁ…


私が思い浮かべたのは長い黒髪を持ち、つり上がった目が特徴的な見た目をした【聖女】と呼ばれる少女だった。


いわゆる悪役系ヒロインという配置にある彼女の名前はマリアンヌ・ゲース。


ヒロインの一人で、原作では教皇の娘で規律正しく優等生で他生徒に神の教えを説く敬虔な信徒であるが、その本性は自己中心的で、悪辣、やりたい放題のお嬢さんだ。


マリアンヌのルートに行くとそれはそれで良かった気がするが…記憶が曖昧でよく思い出せない。



そんな事を考えているとゲース枢機卿の待つ部屋の前にたどり着く。


「ゲース様、アルデン家リリアナ様をお連れしました」


「入れ」


返事が聞こえたので中に入ると目のつり上がったいかにも神経質そうな細身の男が立っていた。


「突然お邪魔してすみません。アルデン家リリアナと申します。」



「これはこれは態々お越し下さり有り難う御座います。ささ、どうぞ中へ」


見た目と違い平身低頭に私を案内するゲース卿。


それも理由があった。


教皇で伯爵位と同程度、枢機卿なら子爵位程度と考えられている。


しかしゲース卿はまだ比較的若く、大司教から枢機卿に去年上がったばかり。


なので肩身が狭い思いをしているという。


もちろん40代手前で枢機卿である彼の手腕は誇ることはあっても侮られることはないのだが、妬み嫉みであることないこと呟く輩のせいで彼は胃を痛めて以来、謙虚な振る舞いをする様になったとジェシカから情報を貰った。


私は座り後ろにジェシカとジョセフが立つ。私は二人に振り返りゲース卿に声を掛ける。


「二人も座らせてもよろしいでしょうか?今日は色々と駆け回っていたので少し休ませてあげたいのです」


「?ーーえぇ、どうぞ」


メイドと護衛という立場なので当然だが、二人とも一日駆け回っていたので少しでも休ませたかった。


「有り難う御座います。込み入った話となるのでなるべく人の耳には入れたくないのです。」


私はちらとゲース卿の後ろに立つシスターと文官の様な佇まいの若い男に視線を向ける。


「分かりました、それでは下がらせましょう」


こちらの願いが通じたのか、ゲース卿は二人の人間を下がらせた。


「重ね重ね有り難う御座います」


「いえ、それでお願い事とは何でしょうか?」


ゲース卿は柔和な笑みを湛えつつもその眼光は鋭く尖ったナイフの様である。


一瞬気圧されながらも私は堂々とした表情で言葉を述べた。


「お願いは二つ。さるガルム帝国が挙兵をしアムスティアに宣戦布告をしました。その件に関する事です。一つは我がアルデン家がジェネシス公爵家より借り受けたセンティス領内にて教会から支援を頂くこと。これがジェネシス公爵との間に取り付けた証文です。陛下と教皇に後日お渡しするものの控えです、ご確認下さい。」


「お借りします」


ゲース卿はまじまじと食い入るように見ている。

読み終えたのだろうか一つ頷くと続きを聞く体制に戻る。

私は一拍置き続きを語る。


「そして二つ目はアルデン家に治癒魔法に優れた人間を100名ほど貸し与えて頂きたいのです。」


私は一つの賭けに出た。

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