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規格外の人達ばかりです。

 レイ様と似た顔でウィンクされると違和感が凄いなぁ。あ、エミュさん右目の下に泣き黒子ある。


「……ぃ」


 やっぱり似てるといってもエミュさんは女性だから、男性のレイ様に比べると若干ふっくらしてるなぁ。


「……おぃ」


 うーん、けど、やっぱり美人だな。

 レイ様はちょっと冷たい印象だけど、似た顔でもエミュさんは何か柔らかい印象だよなぁ。


「おい」


 あ、それは見かけどうこうより纏ってる雰囲気の問題か。


「おい、リオ!」


「やっぱりレイ様はもうちょっと笑った方がいいと思う」


「余計なお世話だ」


「いっ!!」


 エミュさんの顔を見ながらちょっと現実を離れていたら私の頭にレイ様の拳が降ってきた。

 素晴らしい笑顔が浮かんでいるその顔のこめかみには青筋があり、口の端はひきつっている。怒っていらっしゃる様だ。

 

「……そのままのレイ様がやっぱり素敵だなー」


「まったく……トニックの方も終わった様だし、姉上の話を聞くなら中に入れ」


「え?」


 呆れた様に息をついたレイ様の言葉に後ろを振り返れば既に事切れたクマの魔物を解体しているトニックさんが居た。


「……解体してません?」


「してるな。食べる分だけいくらか残しておいて、後は売りに出せばいい。結構いい値で売れるだろう」


「食べるの!? 魔物を!?」


「ああ、食べる。結構旨いぞ? 強い魔物であればある程に旨味は増していく。あの魔物なら中の上くらいだろう」


 驚きで思わず口を開いてしまった私をレイ様が不思議そうに見ている。

 いや、だって、魔物を食べるって……

 ああ、けどそういえば、お城の図書館に『魔肉の美味しい食べ方』って本があった気がする。

 魔物の肉で"魔肉"。なるほど。


「あら、それも話してなかったの?」


「必要ないと思いまして……」


 若干責める色が含まれるエミュさんの言葉にレイ様が気まずそうに視線を反らして言う。


「まったく、どうせ魔法と護身の術とこの世界の知識を最低限としか考えてなかったんでしょ? それらも勿論大切だけど、お金の稼ぎ方とか、自然の中にある食べられる物とか、彼女がやれそうな仕事とか、狂暴な魔物と対峙した時の対処法とか、そういうのも教えてあげないと」


「……」


 中に入りお茶の用意をしている間、エミュさんはレイ様にお説教していた。

 困った様に眉を寄せ、エミュさんの言葉を静かに聞いているレイ様はなんだか面白い。


 クマの魔物の解体を終わらせたトニックさんが汚れを落として席についた。

 助けてくれた事に対してお礼を言えば気にするなと頭を撫でられる。

 レイ様とエミュさんにもお礼を言いたいのだが、エミュさんのレイ様へのお説教はまだ続いているので後回しにさせてもらう事にした。

 それから数分後、レイ様へのお説教を漸く終わらせたエミュさん。解放されたレイ様の顔は心なしか窶れている。

 そんな二人が席についた所で話は最初の魔法離宮の事へと戻ったのだった。


「魔法離宮はね3つの棟に分かれているのよ。レイが所属している"赤の離宮"は攻撃魔法や魔法陣を使った攻撃法について主に研究しているの。もう一人の上位魔法師であるハリウィン様が所属しているのは"青の離宮"ね。防御魔法や身体強化魔法、移動魔法なんかを研究している所よ。そして最後に私が所属している"白の離宮"は回復魔法や治療魔法、薬草学を研究しているわね。上位魔法師は全ての分野においてトップクラスの知識を持っていないといけないの」


「トップクラス……」


 同じ魔法師でも分野分けされているというのも驚きだが、その全ての分野においてトップクラスの知識を持っているというレイ様。

 思わずまじまじとその整った顔を見てしまえば、視線に気付いたレイ様が首を傾げる。


「なんだ?」


「いや、レイ様ってやっぱり凄かったんだなー、と」


「何を今更、そんな当たり前の事言ってんだ? こいつは歴代最年少で魔法師になった天才だぞ」


「歴代最年少……」


「そう言うお前だって、見習いから副隊長就任までを半年という前代未聞の早さで達成しただろう」


「前代未聞の早さ……」


「アハハ! こいつ等は規格外なのよ」


 初耳の事実に私が唖然としていれば、エミュさんがバシバシと隣に座るトニックさんの背を叩きながら笑う。


「エミュさん痛い」


「あぁ、ごめんごめん。話を元に戻そうか。って言っても魔法離宮については他に話す事もないし……そうねぇ、さっきの魔肉とか、この国で生きて行く為の知識でも教えようかしら」


「あ、そうだ。魔肉で思い出した。さっきの魔物を捌いてる時に思ったんだが、リオお前、"請負人"登録してみたらどうだ?」


「ああ、それはいいわね」


「その手があったな」


 トニックさんが言えばエミュさんとレイ様から賛成の声が上がる。


「請負人?」


「言ってしまえば何でも屋みたいなモノだな。俺も騎士団に入る前は登録してたんだ」


「仲介人から依頼を請け負うのよ。それを完遂したら依頼にみあった報酬が貰えるの」


「ペットの散歩から魔物の討伐まで、内容は多岐に渡る。その中で自分の実力に合った依頼を選んでやっていくんだ」


「へぇ、そんなのがあるんだ」


「さっきの魔物の肉を売りに行くついでに登録もしてくるか? 明日にでも行こうかと考えてたんだ」


 トニックさんの提案に頷く。

 出来る事が増えるのなら早い方がいい。

 それがお金になるのなら尚更だ。


「それなら私も同行しよう」


「あら、勿論私も行くわよ」


 レイ様とエミュさんの同行も決まった所で外へと続く扉が開いた。


「面白そうな話をしているな。俺も同行するとしよう」


「あ、アーフ」


 紙袋を片手に抱えたアーフが小屋に住み着いている魔物達と一緒に入って来る。


「あなたが、かの有名なアーファルトね。それと居候の魔物達かしら。私はレイファラスの姉のエミュリルよ。あなた達の事は弟から聞いているわ。どうぞよろしく」


「……ほぅ」


 立ち上がって挨拶をしたエミュさんの顔をまじまじと見たアーフが感心の声をあげた。


「レイとそっくりではないか。……いや、レイがお前とそっくりなのか」


「いやねぇ、私はレイみたいに天才じゃないわよ」


「私は姉上みたいに粗暴ではないぞ」


「レイ、後でゆっくりお話ししましょうか」


「……すみませんでした」


「はは! 面白い姉弟だ」


 同感である。


 こうして決まった私の請負人登録には結局全員参加という事になった。

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