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VS(ヴァーサス)!!  作者: 白露 雪音
VS 高等科編~幻狐の章
75/101

72 番外 鈴木君とD組と瀬戸さん








 話は花森さん達が幻狐町へ出発する前日の放課後まで遡る。



「…………こちら千葉、応答願いますドーゾ」

『こちら橘、正面玄関ホール前待機中ドーゾ』

『こちら東、教室前廊下待機中ドーゾ』

『こちら畠山、マリアンヌ肖像画前ドー―――ガガッ! ―――あらあら、正吾君どうしたの? 新しい遊び? 私も混ぜて―――ガガッ! ―――あ、いやマリアンヌなんでもないからちょっと見逃して――!!』


 トランシーバー片手に千葉君が教室の角で姿勢を低くし、花森さんと一ノ瀬君の様子を窺っていた。はたから見るとものすごく怪しいがクラスメイト総出でそんな怪しい千葉君を隠しているので今のところ見つかっていない。

 しばらくすると二人は連れ立って教室を出て行った。

 すかさず千葉君がトランシーバーを構えた。


「瞬! 勝達そっちに行ったぞ」

『了解! ―――見えた。あれはマリアンヌの方向だな。正吾、そっちに行ったよ』

『―――わわ、マリアンヌだからちょっと今大事な―――ガガッ―――え? なになんか言った?』

「……マリアンヌは上手く誤魔化しとけよ、正吾」


 コソコソと隠れて花森さん達の行動を見張っているらしい。僕は普通に廊下に出て、普通に花森さんの後ろを付けた。

 誰も気づかない。

 今はそれなりにミラージュの能力を意識的に使っているから相当勘がいい人間じゃないと気づかないだろう。

 二人の会話が聞こえるか聞こえないかのギリギリのところまで迫って止まる。これ以上近づくと一ノ瀬君に感づかれる気がした。

 マリアンヌとの会話から察するに二人はこれから魔法実験室で調合を行うようだ。明日の依頼の為の準備だろう。

 マリアンヌの所で張っていたはずの畠山君は頭隠して尻隠さず状態で隠れていたので彼らの会話は聞こえにくかったはず。

 だって頭がマントで覆われていたから。

 花森さんも一ノ瀬君も不審には思ったみたいだけど、いつものD組メンバーなので深く考えないようにしたらしい。

 それ、たぶん正解。


 僕は紙切れに『花森さんと一ノ瀬君は魔法実験室で明日の準備の為、薬剤を調合する模様』と書き、畠山君のケツの上に置いた。

 二人が転送されると畠山君はもぞもぞとマントから這い出し、トランシーバーをとった。


「こ、こちら畠山、すまん二人の会話を聞き逃して……あれ? ――この紙は!?」

『どうした正吾?』

「俺が聞き逃した花森さん達の話を誰かが代わりに聞いていてくれたらしい! 紙が残されていた。どうやら二人は魔法実験室で薬剤を調合しに行ったらしい」

『なんと! 不思議なことがあったものだな!』

『不思議だね! まあ、アルカディアだしなにがあっても驚かないけど!』

『もしやあれか――――妖精さんか!』

「妖精さん!? あのアルカディア七不思議の一つ、お手伝い妖精さんのことか!」

『妖精さんありがとう!』

『ありがとう妖精さん!』

『妖精さんバンザイ!』


 …………誰が妖精さんか。

 こいつらの頭の中身は一体どうなっているのかとても気になる。


『よーし、全員教室に集合!』


 千葉君の号令でD組メンバーが花森さんと一ノ瀬君以外全員揃った。揃ってるんだけど。


「透明君は療養中だから総勢21名」


 千葉君の真正面にいるのに彼に気づかれないこの薄さ。ミラージュはとっくにといてるんだけど。クラスメイト達はまだ僕が保健室にいると思っているようだ。まあ、神城先生が驚くくらいの回復力をみせて早めに復帰したから更に気づかれにくくなっているのかもしれない。


「花森さんを手伝うって言ったんだから、嫌とは言わないよね?」


 何をするか具体的な事を話す前に前置きとして九十九君の有無を言わせない黒い笑みが場の空気をガッチリ拘束した。おバカだがお人よしなD組メンバーだ九十九君が脅さなくても嫌がる者はいないだろうが、気を引き締める為にあえてやったのかもしれないな。お遊び半分な奴らが半数以上いるから。

 全体を見渡すように視線を投げた九十九君と目が合う。彼は先ほどの黒い笑みとは一変して穏やかに微笑んだ。

 彼は僕がここにいるということに気が付いている。多くを視ることができる力を持っているから僕の元来の薄さもミラージュの能力も効果がないのだろう。でも彼がわざわざ僕がここにいることを教えることもない。意地悪だ。


「今回の依頼、少し気になることがあるんだ。だから君達にはその憂いを少しでも晴らす為に魔法具を錬成して欲しい」

「はい! 先生!」

「なにかな、千葉君」

「俺ら、自慢じゃねぇーけど錬成下手だ!」

「知ってるよ。君達の残念な成績くらい。でも羽田さんや榊原さん、能登君とか黒須磨君みたいな上位者もいるし、皆で協力すれば何とかなると思うんだ」


 D組はなぜかおバカが多いがそれと同じくらい曲者な強者も多い。風の上位属性、雷属性を持つ羽田さんや成績優秀な光属性の榊原さん、瀬戸さんと同じく無属性召喚魔法使いの能登君、両親ともに魔法使いのSランク先天性闇属性魔法使い黒須磨君が代表格だろう。

 彼らの力をもってすれば大多数のおバカさん達をフォローできる。


「効率を考えましょう、九十九君。錬成をするなら得意な人間が数人いれば事足ります。というより不得意な人達がごちゃごちゃいても邪魔です」

「ひでぇ! 黒ちゃん成績いいからってそんな言い方ないっ!」

「お黙りなさい、千葉君。この間の授業で暴走した貴方の魔法の尻拭いをしたのは誰だったでしょう?」

「……黒ちゃん様です」

「ええ、まったくもってその通りです。魔法具の錬成は難しいうえ危険も多い。不得意なものにやらせても面倒が増えるだけですよ」


 厳しい言い方だが黒須磨君は性格が悪いわけじゃない。むしろとても優しいと思う。慇懃無礼な丁寧語で話すが、そこにはにじみ出るような気遣いが感じられた。

 つまり彼は『高度な魔法具の錬成をするなら彼らには危険すぎるからやめるべきだ』と言いたいらしい。

 めんどくせぇ。


「もちろん彼らには簡単なものしか錬成させませんよ。なので難しいものは黒須磨君と能登君にお願いします。羽田さんと榊原さんには他の女子とちょっと作って貰いたいものが……」


 と話は進んでいき、徹夜で錬成作業をする運びとなった。

 僕はというと妖精さんポジションで色々動き回っていいようだ。だって九十九君が一言も僕に話を振らないから。もう知らん。

 途中で柳生先生も乱入しててんやわんやになった。先生も花森さんのことはかなり心配しているようだ。関わらないように言っておいて結局は協力する形をとるのが気恥ずかしいのか皆には自分が手伝ったことを花森さん達には言わないようにと口止めしていた。

その夜は寮に戻ることなく実験室に詰めたD組メンバーは夜明けと共になんとか完成にこぎつけた魔法具を持って花森さんと一ノ瀬君、九十九君と岩城君の見送りに出たのだった。皆一様にゾンビみたいになってたけど、なんでか黒須磨君と能登君はけろっとしてたな。あの二人は化け物だ。


 僕はといえば病み上がりな上にそれなりに仕事もこなしたので魔力もすっからかんで花森さん達を乗せたバスを見送ったところまでは覚えているのだがその先は急に意識が飛んで、闇の中へ放り出されてしまった。


 僕、どうなった?



 ―――――耳元で誰かが僕の名前を呼んでいる。


『――君、鈴木君!』


 そう、僕の名前は鈴木太郎。とても覚えやすいはずなのにほとんどの人が覚えていてくれない寂しい名前。

 そんな僕の名前を呼ぶのは誰だろう。


「―――起きなさい!」


 ゴンッと鈍い音が脳天から響いて、僕はクラクラする意識の中、目を開けた。視界に飛び込んだのは白い天井。そして今にも泣き出しそうなくらいに歯を食いしばった表情の瀬戸さんがいた。


「……瀬戸さん? なんで泣いてるの?」

「! 違うわよ! 怒ってるの!」


 バンバン枕もとを叩かれる。

なんだ、怒ってるのか。いつも通りだな。


「胸騒ぎがして探してみれば、なに道端にふきっさらしで倒れてんのよ! バカじゃないの!? だからあれほどまだ安静にしてなさいって言ったじゃないっ」


 今度はガンガンとベッドを蹴られる。

 ぼーっとする頭で何が起こっているのか整理してみた。花森さん達を見送って、それからまもなく記憶がない。徹夜で眠かったし疲れ果てていたから恐らく校舎に戻る途中で意識を失って倒れてしまったのだろう。僕を認識できていた九十九君は行ってしまったし、勘の良い数人とは少し離れた場所にいた。それに彼らだって疲労はあっただろう。だから誰にも気づかれることなく僕はひっそりと倒れてしまったのだ。

 考えるとゾッとする。もしもあのまま野ざらしにされていたら体調は悪化しただろう。探してくれた瀬戸さんに感謝しなければなるまい。


「ありがとう瀬戸さん助かった。……でもよく見つけられたね?」

「見くびらないで。あんたの名前を忘れないようにするのと同じように気合を入れれば見つけられるわよ!」


 ふんっと鼻をならしてそっぽを向いてしまった瀬戸さんを尻目に僕はなんだか感激してしまった。いくら運命石が選んだパートナーといえど瀬戸さんは僕にあまり興味はない。なのに彼女は僕の名前も忘れないし、姿も見つけてくれる。


 疲れていたからかもしれない。なんだか少し甘えた気分になった。


「ね、瀬戸さん。僕の名前フルネームで言える?」

「なによ、言えるわよ。鈴木太郎、でしょう」

「うん」


 彼女は僕の存在を確かなものにしてくれる。だからこそパートナーなのかもしれないと、そう思った。









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