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VS(ヴァーサス)!!  作者: 白露 雪音
VS 高等科編~幻狐の章
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71  next stage その後(一ノ瀬視点)






 俺は荷物を持って電車に乗り込んだ。花森の分も一緒だ。

 窓の外では九十九の父親、水無月さんと兄、卯月さん、妹の花月が九十九の見送りに来ていた。親戚だという駅員の爺さんも一緒だ。

 花森が力を出し尽くして雹ノ目を助け、二人とも深い眠りについた。花森は黒霧が憑依しているおかげで数日で回復し目を覚ますだろうということだったが、魔力浸食の酷い雹ノ目は当分目覚めないだろうと救援にかけつけた魔法使いに言われた。

 花森と雹ノ目はそのまま魔法使い専用の病院へ搬送された。心配だったしついて行きたかったが、魔法使い専用の病院の場所は極秘扱いだ。花森は重症というわけでもないので付き添いでついて行くことが許されず、九十九の邸に戻ることになった。

 水無月さんと卯月さんは黒霧によって邸に戻されており、調べたところ神隠しにあった住人達も無事に戻っているという。

 彼らは皆一様に、なにか幸せな夢を見ていた気がすると口にした。黒霧の幻は誰にとっても幸せなものだったらしい。

 誰しも現実に疲れ、傷つく世界だ。彼らが黒霧の幻にまどろんだとしても憤る気にはなれなかった。俺だってあいつの幻の世界で幸福な気分を味わった。



 妹のいる世界。俺の兄弟は男ばっかで女兄弟に憧れもあった。おふくろとはまったく違ったタイプの女子だから新鮮味もあったのだ。


 ……花森、本当に俺の妹にならないかな。弟の誰かやるか。


 それなりに真剣に考えていると頭に固い物が当たった。驚いて顔を上げれば黒い笑みをたたえた九十九がいた。


「おかしなこと考えているみたいだったから、つい。それ、花森さんに言ってみなよ。絶対殴られるから」

「…………すみません、ごめんなさい、諦めます」


 九十九の前で考え事をするもんじゃない。全部見透かされてしまう。

 九十九の家族に別れを告げ、列車が走り出す中、九十九は鋭い瞳で過ぎ去っていく幻狐町の街並みを眺めていた。その隣で岩城はいつも通り威圧感を放ちながら静かに座っている。

 大技を使って魔力を消耗した九十九は丸一日寝込んだようだが、二日目には起き上がって来ていた。なんだか色々調べたいことがあるらしく、まったく大人しくしていてくれない。何度道端で倒れている九十九を担いで邸まで連れ帰ったことか。

 結局、その調べはつかず、九十九を不機嫌にさせているようだった。


「おい、九十九。そろそろ俺にもその調べてたこと教えろよ」

「…………そうだね。確信は今だに持てないのが悔しいところだけど、僕らが受けた依頼、それ自体が罠だったんじゃないかなって」

「罠?」


 思いもよらない単語に俺は目を丸くした。


「依頼は森の中に現れた魔物を退治してくれっていうものだった。申請日は今から六日前、錦おじいさんが霧が立ち込めてから一週間近く晴れないと言っていた。ならその依頼書には霧についての注意事項があって然るべきなんじゃないかな。しかも依頼主は僕の父さんだ、あの人がそんなことを書き忘れるとは思えない」

「水無月さんには確認とったのか?」

「もちろん。依頼は確かに父さんが出したようだった。でもやっぱり引っかかる。父さんは依頼を出した時のことを曖昧にしか覚えていないんだ。詳しいことを聞けば聞くほど記憶があやふやになってる」

「……それって」

「うん、第三者が絡んでいた可能性があるんだ。普通とは違った手ごわい魔物に、雹ノ目君の騒動。なにか僕にはどこか、嵌められたって気がしてならない」

「もしそうだとして、俺達をここに連れてきて相手側に一体どんな理があるってんだ?」

「そこまでは分からないけど。一ノ瀬君、君が雹ノ目君の所へ彼女を送り出す為に、黒い魔物と戦ったんだったね」

「ああ、なぜか雹ノ目が意識を失ったとたん何もなかったみたいに消えちまったが」

「やられてもやられても再生して襲ってくる特性を持っていたにも関わらず、雹ノ目君が意識を失っただけで消滅するなんてやっぱり得心がいかない。雹ノ目君が倒れた事で『目的は達成された』もしくは『これ以上続ける意味がなくなった』ととるのが一番しっくりくるんだ」

「だな、俺もこの件はキナ臭いと思うぜ」


 後ろの座席から千葉刑事の声が上がった。彼は鈴白が黒霧との約束通り幻狐町に残ったので一人だ。本来なら黒霧を連れていくはずが彼は今、花森に憑いているのでとりあえず一旦戻ることにしたらしい。


「鈴白が意識伝達で黒霧から聞いたらしいが、なぜか箝口令が敷かれていた雹ノ目の母親の死を雹ノ目は知っていたらしい。さーて、誰が雹ノ目にそのことを教えたんだろうな」


 俺と九十九の顔が一瞬にして強張った。常時精神不安定状態であったはずの雹ノ目に最後の希望ともいえる母親の死は伝えてはいけないことだったはずだ。もし彼がこれを知れば完全に精神が崩壊してしまうかもしれない。箝口令が敷かれたのも頷ける。

 だがそれを誰かが意図的に雹ノ目に伝えた。

 ……目的はなんだ。


「……これは俺の長年の魔法課刑事としての勘だが、悪質な愉快犯って線が強いな。それが目的っつーよりも、そうした方が自分にとってより面白い事態になる。そういうどうしようもねぇ不愉快なもんがあるきがする」

「かもしれませんね。ここまで調べて足がつかないとなるとやりっぱなしで当人は離れたところで見物していたのかもしれない」

「胸糞悪いな」


 俺は歯噛みした。何にも気付かなかったことに憤りも覚えたがそれ以上に雹ノ目を傷つけて花森を苦しめたことが何よりも赦せない。

 千葉刑事はそんな俺の頭を軽く叩いた。


「これ以上のことは俺の仕事だ。お前らは学生らしく本分を全うしろよ」


 千葉刑事に励まされ、俺はこの場はこの行き場のない気持ちを抑え込むことにした。


「分かりました。けど何か分かったら俺も知りたいです」

「あ、僕も。一茂おじさん、些細な事でも何か分かったら電話ちょうだい」

「薫お前は俺に本当に遠慮ねぇーな……」


 どんどん離れていく幻狐町。すっきりしない面持ちのまま、俺はその風景を見送った。













 ―――――幻狐町、外れの森の中。

 一人の少年が、町を去っていく列車を見送っていた。

 ふと、彼のズボンに入れていた携帯のバイブが震え携帯を開くと『変な博士』という名前で表示された人物から電話がかかってきていた。


「ハーイ、博士もしもーし」

『…………』

「エ、なにかけてきたくせに無言電話ってどーなのよ。ケバイオバサンじゃないんだからテレパシーとか便利なもん俺使えないよー?」

『…………実験はどうなった。結果報告がまだきてない』

「さっき終わったばっかなんですけどー。博士ってばせっかちさんなんだから。報告書は後でちゃんと出すけど、電話かけてくるってことは先に結果だけでも聞きたい?」

『…………』

「そうだねー、結果的には成功なのかな。博士の造った傀儡は上手く機能していたよ。学生とはいえ彼らの魔法をものともしなかったし。まあ、予想外にも彼らが手強かったんで一体壊れちゃったけど、もう一体は回収できたから戻ったら博士に返すよ」

『……そうか、ご苦労だった』


 ブツン―――ツー、ツー。


「えーー、聞きたいこと聞き終えたからってそのまま切る!? ホント変人なんだから」


 少年は切られた携帯に文句をたれながらもズボンのポケットに携帯をしまった。そして今はもう去った列車の通ったレールを眺める。


「今回はあくまでも博士の傀儡の実験だったけど、思いもかけずに面白いもん見つけちゃったな! 本当は朔良ちゃんでもうちょっと遊ぼうと思ったけど、もういいや。朔良ちゃんってば思ってたより使えなくてガッカリだし。ユリウスの転生体ってのもそそられるけど、それよりもあの子だ。あの子は絶対に面白い、そう僕の魂が言っている!」



 ―――そう暴れるなよ、ヴェイルディ。お前の宿敵は僕が遊び殺してあげるから!













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