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VS(ヴァーサス)!!  作者: 白露 雪音
VS 高等科編~幻狐の章
46/101

43 vanish 神隠し3






 地図と一ノ瀬君の勘をたよりに進んでいくと急に開けた場所に出た。

 ぼんやりと霧の向こうに何か建物がある。


「あれが町長さんの家……かな」


 地図と照らし合わせてみながら、私は一ノ瀬君に聞いた。彼はすぐに頷く。


「ああ、合ってると思うぜ」


 慎重に門まで近づき、先に一ノ瀬君が中を覗き込む。

 私は花月さんから受け取った九十九君の用意していた法具である数珠を腕に巻いた。この珠一つ一つに守護の祈りがかけられており、装備者に危険が迫ると代わりに受けてくれるという代物だ。一ノ瀬君の腕にも巻いておく。


「…………なんの気配もしないな。花森、なんか感じるか?」

「……………………特には。でも、花月さんが言ってた通りなら私じゃ感知しきれないのかもしれない」


 妖になど会ったことがないから魔力の流れを掴むこともできない。


「とりあえず風で結界を張っておくから、慎重に中まで行きましょう」

「おう」


 一ノ瀬君と離れすぎないように気を付けながら私達は家の敷地内に足を踏み入れた。


「―――――!」


 バチンッと静電気のような微量の力の流れが私の中の魔力とぶつかって弾けた感覚に身を跳ねさせる。

 今のなに!?


「花森?」


 一ノ瀬君が不思議そうに見てくるということは彼は何も感じなかったのか。


「……敷地内に入った瞬間に異質な力の気配を感じたの。やっぱりここ、なにかある」

「そうか……いや、そうじゃなきゃ困るぜ。それ、どこから来てるか分かるか?」

「ちょっと待って」


 私は目を閉じて神経を集中させた。

 その力は私の魔力を嫌うようにぶつかってくるのだ。逆に辿りやすい。


「家の中……じゃない? ……もっと奥」

「奥?」


 町長さんの家の庭を突っ切って裏側に回ると塀の向こう側に深い森が広がっているのが見えた。塀には扉がついており、そこから先に進めるようだ。

 試に取っ手を掴んで押してみれば簡単に開いた。

 その先は鬱蒼と生い茂る暗い暗い森。ただでさせ霧のせいで太陽の光が淡くなっているというのにもっと暗い中を行かなくてはいけなくなるようだ。


「家の中はどうする? 調べるか」

「そうだね一応、誰かいないか確かめてみよう」


 と、町長さんの家をくまなく探索したが目ぼしいものも人も見当たらなかった。なにか争った形跡や魔法を使った痕跡もない。

 やはりあの力の気配を追うしかないようだ。

 意を決して、私達は森の中を進むことにした。


「暗いな……明かりつけるか」


 一ノ瀬君が指先から小さな光の玉を作り出し、ふわりと浮かせた。少しとはいえ見晴らしはよくなる上に暖かい。

 道らしい道もなく時折絡みついてくる雑草や蔦に足をとられながらもなんとか歩みを進めていた。

 それにしても。


「一ノ瀬君、山歩き慣れてるの?」


 さっきから転びそうになっているのは私だけで彼はするすると前進していくのだ。


「実家はそれなりに都会にあんだけど、よくじぃーちゃん家に行って山で遊んでたからな。慣れてるっちゃー、慣れてる」


 私の実家はここと同じくらい田舎だがあまり山に入ったことはなかった。

 虫、大嫌いだし。

 暗さと霧と異質な力の気配に気をとられていたが、ふいに芋虫がぼたりと頭の上に降って来た時には大絶叫だった。

 なにか虫と遭遇する度に一ノ瀬君がぺいっと片づけてくれる。

 頼もしい、なんて頼もしいんだ一ノ瀬君!


「――痛っ!」

「花森? 大丈夫か」

「う、うん。ちょっと切っただけ」


 通った所に鋭い葉の草があったようだ。ちょうどソックスと膝の間の部分が薄く切れて血がにじんでしまっている。


「血ぃ出てるじゃねぇーか。傷薬とか持ってきてるか?」

「もちろん。ガーゼもあるわよ」


 薬品類は多めに準備してあるのだ抜かりはない。

 ささっと薬をぬってガーゼを貼って立ち上がる。


「手慣れたもんだな」

「神城先生からみっちり教わってるから。これでも薬にはそれなりに詳しいのよ」


 本好きが生んだ雑学の賜物ではあるんだけど。


「お前スカートだし、この山道は危ないかもな……おんぶするか?」

「いや、いいよ。一ノ瀬君の体力を削るわけにはいかないし」

「花森を背負うくらいどってことねぇーけど」

「いやいやっ、見た目より重いから!」


 全力拒否する私をじっと見つめてきた。彼は頼もしいがちょっと乙女心を考えて欲しいと思うことがある。


「お前……米俵より重いのか?」

「米俵……?」


 なんで基準が米俵なんだ。


「米俵担いで坂道走ったりしてたから米俵くらいの重さなら平気だぜ。花森が60kgもあるとは思えねぇーけど」

「し、失礼ね! そこまでは重くないわよっ!」


 じゃあ大丈夫だなと、私が狼狽えているうちに腕を持っていかれて軽々と背負われてしまった。

 お姫様抱っこよりマシとはいえ、凄まじく恥ずかしい。

 誰にも見れられてませんように。


 一ノ瀬君は私に気を使っていたのか二人で歩いている時より明らかに早いペースで森の中を突っ切っていく。

 ……私、足手まといだな。


「……んなわけあるか」

「へっ!?」


 なぜか心で思っていたことに返事をされて驚いて変な声が出てしまった。九十九君じゃないんだから……。


「耳元でへこんだ溜息吐かれたら何考えてるかぐらいリンクしてなくても分かるっての。……そもそもここまで来れたのはお前のおかげだろ。俺一人だったらまったく気づかずに町長の家で途方にくれてたぜ」


 そうだ。私には私のできることがある。へこんでる場合じゃない。


「うん、ごめん一ノ瀬君」

「いーや。……はは」


 なぜか一ノ瀬君が嬉しそうに笑うので私は首を傾げた。


「ああ、悪い。なんてか、素直になったなぁーと」

「はあ?」

「だってお前、ウォークラリーの時まではこっちが何言ってもうじうじと沈み込んで諦めてたじゃねぇーか。それを考えたら今のお前、ホント立ち直り早くなった」


 そう、少し前まで私は私に自信が持てなくて諦めて閉じこもってた。傷つかないように。でも今は違う。前に進みたい、進まなくちゃいけない。逢いたい人がいるから。


「頼りにしてるぜ、花森 李」

「任せて、一ノ瀬 勝君」


 私は力一杯、彼の背を叩いてやった。








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