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最初の危機

夜明けが訪れても、リリアの淵に“光”は来なかった。


そこにあったのは、薄汚れた路地に滞る

古い血と泥とゴミの混じった鈍い灰色の空気だけ。


娼館では、乳母がすでに起きていた。


眠ったからではない。

泣き声に何度も何度も起こされたからだ。


◆ 「また今日も――この地獄で」


乳母は、継ぎ接ぎだらけの毛布を整え終えた。


ダエルたち九人の赤ん坊は、それぞれの“癖”で眠っている。


ノア:小さく微笑んで


リンカ:世界を叱るように眉を寄せて


ウラ:寝息に混じるかすかな旋律


コマ:じっと動かず、何か見えないものを見つめ


カイレン:微かに震え


サヤ:毛布を必死に抱きしめ


マイア:泣きそうな夢を見て


ルミ:苦しげな息を繰り返し…


乳母はダエルの頭を撫でた。


彼はいつも一番に目を覚ます。

天井を見つめ――まるで考えているように。


「そんなに心配しなくていいのよ、小さな子…

まだ話もできないのに、目だけが大人みたい…」


ダエルは指を、ほんの少しだけ動かした。


まるで返事のように。


乳母は喉を鳴らした。


「今日は危ない日よ。昨日、喧嘩があったから…

喧嘩の後は、買い手が来るの。」


胸に手を当て、不安を押し殺す。


「美しい赤ん坊ほど、高く売れる…」


ノア、ウラ、マイアを見て

乳母の心は裂けそうになった。


◆ 闇市――赤ん坊の取引


外で、がらがら声が響いた。


「買い手が来たぞ! 子どもを準備しろ!」


乳母は蒼白になった。


「いや…今日だけは…」


赤ん坊の闇市は違法だ。


だが、この街では誰も止めない。


買い手の目的は様々だった。


貴族へ売るため


魔術実験の素材


人身売買の“材料”


乳母は部屋へ駆け戻った。


「起きて…起きて、小さな子たち…!」


赤ん坊たちは動揺し始める。


リンカが激しく泣き、

カイレンは震え、

サヤは毛布にしがみつき、

ルミはうめき声を漏らす。


だが一人だけ動じない。


ダエル。


ただ静かに、

暗い瞳で状況を見つめていた。


◆ 娼館の主人が乱暴に入ってくる


巨大な男が、扉を蹴り開けた。


「新しいガキどもはどこだ?」


乳母は即座に身を張った。


「まだ小さすぎます、旦那様!

見せられる状態じゃ――」


男は乳母の髪を掴んだ。


「関係ねぇ。買い手は“見たがってる”。

生まれたばかりなら二倍の値だ。」


乳母が叫ぶ。


赤ん坊たちも泣き始める。


ただ一人を除いて。


ダエルは――

怒りを秘めたような瞳で、じっと見ていた。


◆ 男がノアを掴もうとした瞬間


男はノアを荒く腕ごと掴んだ。


ノアは悲鳴のように泣き出した。


「やめて! その子は…赤ん坊なのよ!」


「だからいいんだよ。小さいほど値がつく。」


コマが震えだし、

ウラは悲鳴のような音を漏らし、

サヤは必死に泣き叫ぶ。


ダエルは、小さな拳を握りしめた。


そして――


何かが、弾けた。


◆ 初めての“魔”が目覚める


光。


胸の奥から、

あたたかく、静かで、しかし強烈な光が溢れた。


男が固まった。


「な、なんだこれは…?」


空気が変わる。


重く、

熱く、

生命を帯びたように。


ノアが泣き止む。

他の赤ん坊も。


光は脈のように広がった。


どくん

どくん

どくん


男は一歩後ずさる。


「ま、まさか…魔力持ちのガキ…?

こんな底辺で生まれるわけが…!」


乳母は震えた。


「ダエル…あなた…何をしたの…?」


光はさらに強くなる。


男は恐怖で後ずさり、

転びかけながら叫んだ。


「こ、このガキは呪われてる!!

こんな赤ん坊、知らねぇぞ!!」


階段を転げるように逃げていった。


部屋に残ったのは、乳母と光と、静けさ。


乳母は膝から崩れ落ちた。


「ダエル…あなた…私たちを救ったわ…」


抱きしめながら、涙が零れ落ちる。


「でもね…

同時に――

あなたは、この場所にとって“最悪の存在”にもなったのよ…」

男の絶叫は、

スラムの隅々まで響き渡った。


そして噂は一瞬で広まった。


「淵で“異能の赤ん坊”が生まれたらしい」

「光る子だ」

「天才だ」

「とんでもない価値がつくらしいぞ」


足音が近づく。

戸が次々と開く。

男たちの怒鳴り声。

女たちの怯えた囁き。


乳母は九人の赤ん坊を胸に抱きしめた。


「だめ…だめ…

誰にも…誰にも連れて行かせない…!」


しかし——


約束ひとつで世界は止まってくれない。



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