表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/39

「一歩も通さない」

避難小屋の扉が震えた。


ドアノブがゆっくり回る。


狩人は、まるで勝利を確信しているかのように微笑んだ。


「小さな呼吸が八つ……そして一つだけ大きい。

ふむ……俺の小さなセリアはどれだ……?」


セリアは歯を食いしばった。

震えているのは恐怖ではない。

胸の奥で燃える“記憶”だった。


ダエルが一歩前に出た。


「通さない。」


少女たちも彼の横に並ぶ。


ノア

コマ

ルミ

ウラ

リンカ

サヤ

マイア

カイレン


膝は震えていたが、誰一人退かなかった。


狩人が再び押す。


木材が悲鳴を上げた。


「可愛いな。

俺のものを守ろうとしているのか。」


セリアはカイレンを庇いながら叫んだ。


「私はあなたのものじゃない! 最初から!!」


狩人は病的な優しさで微笑んだ。


「間違ってるよ、小さな子。

俺の土地では……中で生まれたものは全て“持ち主の物”だ。

お前はそこで生まれた。

初めて這いずった時も、泣き止まなかった夜も、名前をつけたのも……全部俺だ。」


一歩踏み込む。

影が扉を覆う。


「だから迎えに来た。家へ帰ろう。」


セリアの胃がねじれた。

息ができない。


ダエルはその恐怖を見た。


何かが彼の中で音を立てて割れた。


扉がついに崩れた。


ガラァッ……!


狩人は羊の群れに入る狼のように歩み入った。


走らず、叫ばず、槍を構えもせず。


ただ、ゆっくりと。

確信に満ちて。

この場の支配者のように。


視線が少女たちをなめる。


「多いな……多すぎる。

邪魔をするなら、折るしかない。」


「触らせない!」

ダエルが叫んだ。

「絶対に――!」


狩人は眉をわずかに上げた。


「君は何だ?

英雄ごっこか?」


ダエルは歯を食いしばる。


その手が光り始めた。


「僕は……もう誰も傷つけさせない者だ。」


小さな光の爆発が部屋を照らす。


狩人はまばたきを一度だけ。


「……あぁ。

君が“妙な光”の子か。」


頬に触れ、匂いを確かめるような仕草。


「少しだけ焼けた。

面白い。

殺すほどじゃないが……興味深い。」


少女たちがダエルの前に立った。


「近づかせない!」リンカ

「セリアにもよ!」マイア

「私たち全員のね!」コマ(影を纏いながら)


狩人はため息をついた。


「手間が増える……」


一歩、床が沈むように圧が落ちた。


「なぁ、小僧。」

狩人の声は低く、滑らかで冷たい。

「手の骨が折れる音を聞いたことは?

肋骨が砕ける感触を知ってるか?

俺はある。何度も。」


ダエルは震える。


少女たちも震えた。


狩人は kittens に話しかけるように身を屈めた。


「君たちは誰も守れない。

力も、技も、覚悟もない。

“大切な人の悲鳴”を耐える心も、まだ持っていない。」


視線がセリアに刺さる。


「だが、俺はある。」


セリアは後ずさる。

一歩、また一歩。


もう避難小屋にいなかった。

彼女の心は娼館の中に戻っていた。

母の悲鳴。

血の匂い。

槍の影。


呼吸ができない。


ダエルはそれを見た。


胸が燃えた。


何が起きたのか分からない。


ただ――爆発した。


いつもは小さく震えるだけの光が、太く、熱く、鋼のように固まった。


黄金の光が腕を包む。


「その目で見るなぁぁぁッ!!」

ダエルが吠えた。

「お前に“見る権利”なんかない!!」


少女たちは息を呑んだ。


部屋が昼のように明るくなる。


狩人が止まった。


初めて――表情が変わった。


恐怖でも驚きでもない。


ただの 興味。


「それが君の怒りの源か……彼女、か。」


ダエルは歯を砕くほど噛みしめる。


「触らせない。

話しかけさせない。

見ることも許さない。

もう二度と……彼女を傷つけさせない!!」


狩人はゆっくり息を吸った。


「あぁ……小僧。」


胸を指差す。


「来い。

殺せるなら、やってみろ。」

ダエルが一歩踏み出そうとしたその時――

コマが腕をつかんだ。


「一人で行かせない。」


ルミがダエルの背に回り込む。


「私たちも一緒に戦う。」


ノアは地面を固め、

サヤは石を握りしめ、

ウラは歌うために息を吸い、

マイアは光を掲げ、

リンカは風を呼び、

カイレンは治癒の魔法を構える。


震えながらも、セリアは全員の後ろに立った。


狩人は彼らを見渡した。


一人の少年。

八人の少女。

そして一人の女性。


全員が――彼に立ち向かっていた。


「俺に勝てるとでも?」


ダエルは答えた。


「みんなでなら……勝てる。」


狩人はゆっくりと笑った。


暗く。底知れず。


「いい。

挑戦は大好きだ。」


槍を地面に突き立てる。


「来い。」


少女たちは唾をのみ込んだ。


ダエルも恐怖を飲み込んだ。


それでも――


彼は一歩を踏み出した。


少女たちも続いた。


そして、誰も口にしたことのない言葉が、初めて声となった。


「──私たちは家族だ。だから一緒に戦う。」


読んでくださって本当にありがとうございます。

もし少しでも楽しんでいただけたなら、

評価 やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

一言の感想でも、とても励みになります。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ