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『鋼鉄と血の夜明け』

チリン……チリン……

その微かな音が、まだ避難所の壁に震えていた。


エイデンはゆっくり階段を降りた。

片手はずっと剣の柄に添えられたまま。


ダエルと少女たちは背後で身構える。


セレアは震えた声で囁いた。


セレア

「エイデン……お願い……」


エイデンは一度だけ振り返った。


その一瞥に込められた意味は――

必ず戻る。


言葉はなかった。


彼は避難所の扉を開けて外へ出た。


森は灰色に沈み、

影と冷たい朝の光が入り混じる世界だった。


そして――そこにいた。


狩人。


直立したまま微動だにせず、

ただ立っているだけで、

あたり一帯を支配しているようだった。


槍は肩に無造作に預けられている。

だがその眼――


殺意そのもの。


エイデンは十歩の距離まで進んだ。


エイデン

「ここから立ち去れ。」


狩人はゆっくりと笑みを浮かべた。


狩人

「久しぶりだな、隻眼。」


エイデンは反応しない。


狩人

「まだ“世話係”なんて真似をしてるのか?

似合わねぇよ。」


エイデン

「遊びじゃない。」


彼はゆっくりと剣を抜いた。


金属の音が、森の静寂を切り裂く。


狩人は首を傾げた。


狩人

「ほう……

死ぬ覚悟は済んでるらしい。」


エイデンは構えを取る。

かつての戦場でしか使わなかった、

あの本気の構え。


狩人は槍を手放した。


重い音を響かせて地面に沈む。


エイデンは眉をひそめる。


エイデン

「……武器を使わないのか?」


狩人は首を鳴らして言った。


狩人

「お前を殺すのに……

そんなもん、いらねぇよ。」


その笑みは、闇より黒く、

空気さえ凍るほど冷たかった。


狩人が動いた。


走らない。

跳ばない。

消えた。


エイデンは本能だけで剣を上げた。


だが――


ゴッ!


拳が脇腹を砕いた。


エイデンは数メートル吹き飛ばされ、

泥の上を転がった。


避難所の中からダエルの悲鳴。


ダエル

「エイデン!!」


少女たちが震えながら身構える。


エイデンは血を吐き、立ち上がる。


エイデン

「チッ……速さが落ちてない……」


狩人は獲物を眺める獣のように微笑む。


狩人

「錆び付いたな。昔より、弱い。」


エイデンは深く息を吸い、

地面を蹴った。


剣が弧を描く。


狩人は首を傾け、髪ひと束ほどの距離でかわす。


狩人

「それで終わりか?」


エイデンは連撃に移る。


二撃。

三撃。

四撃。


狩人はわずかに後退するだけ。

ほんの一歩、ほんの一寸。


狩人

「技は綺麗だ。

だが俺には届かねぇ。」


エイデンは歯を食いしばる。


エイデン

「まだだ。」


跳んで距離を取り、剣を振り下ろす。


魔力斬撃。


空気を裂き、

光の刃が狩人の胸へ――


直撃。


だが。


狩人の体は一ミリも動かなかった。


エネルギーは鉄壁にぶつかり散った。


狩人は笑う。


狩人

「面白ぇ。

だが、まだ理解してねぇな。」


ふっと姿が消えた。


エイデンは反射だけで剣を振る。


ガキィン!!


しかし防ぎきれず――


肋骨に膝。

鎖骨に肘。

頬に手刀。


骨が悲鳴を上げる。


エイデンは膝をついた。


血が滴る。


エイデン

「お前……

昔はこんな戦い方じゃなかった……」


狩人は指についた血を払った。


狩人

「学ぶんだよ。

“人間狩り”を続けてりゃな。」


エイデンは唸る。


エイデン

「なぜセレアを狙う。」


狩人は瞬きを一度だけ。


狩人

「俺の女だからだ。」


エイデンの顔に怒気が走る。


エイデン

「彼女は……誰の所有物でもない。」


狩人

「いや、俺のだ。

俺の土地で生まれたものは全部俺の。

あのガキも――例外じゃねぇ。」


エイデンは一歩踏み出す。


エイデン

「子どもたちに一歩でも触れたら……

お前の喉を引きちぎる。」


狩人は嬉しそうに目を細めた。


狩人

「子どもたち?

ガキが家族を作ったのか?」


エイデンは構え直す。


エイデン

「誰も傷つけさせない。」


狩人は肩を回しながら笑う。


狩人

「じゃあ見せろよ。

お前の“守る力”ってやつを。」


次の瞬間、

狩人が背後に回った。


バキッ!!


エイデンの腕が逆方向に折れる。


剣が手から落ちた。


ダエルが叫ぶ。


ダエル

「エイデン!!」


狩人は囁くように言った。


狩人

「まだ殺さねぇよ、隻眼。

お前には――“見届けてもらう”」


エイデンは血を吐きながら唸る。


エイデン

「……セレアには……

指一本触れさせない……」


狩人は地面から槍を拾った。


狩人

「最初は……あの娘からだ。」


エイデンは立ち上がろうとする。


だが一蹴りで木に叩きつけられた。


呼吸が止まる。


狩人は避難所の扉へ歩く。


ダエルへ。

少女たちへ。

そして――セレアへ。


そしてゆっくりと笑う。


狩人

「さて……俺のものを“回収”しに行くとするか。」

ダエルは震えていた。


少女たちは真っ白な顔で固まっている。


セレアの瞳は涙で濡れていたが――

それは恐怖ではない。

怒りだった。


外では、エイデンが片腕をぶら下げたまま、必死に立ち上がろうとしていた。


狩人は扉に手を置いた。


狩人

「コン、コン。

まだ中にいるか?」


扉が低く震える。


ダエルは唾を飲み込んだ。


そして――

光に満ちた両手を掲げた。


ダエル

「お前は通さない。」


狩人はゆっくりと笑った。


狩人

「止められるものなら――

止めてみろ。」


そして、扉を押し開けた。

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