「十人の帰還と、恐怖という名の重み」
森はまだ、怨霊の騎士の気配を引きずるように
どこか怯えているようだった。
それでも一行は進んでいた。
疲れ果て、
泥と血にまみれ、
体中に打撲を抱え――
それでも。
笑っていた。
生き延びたから。
そして“みんなで”戦ったから。
カイレンは元医師らしさを残したまま、
ダエルに肩を借りて歩いていた。
カイレン
「あなたの光……すごかったわ。
でも、本気で心臓止まるかと思った。」
ダエル
「俺だってさ……爆発するか、顔が焼けるか、どっちかだと思ってた。」
ルミ(腕を組みながら)
「顔が焼けても、私は責任とらないからね。」
ウラ
「ルミ、あんた泣きながら逃げてたじゃん。」
ルミ
「な、泣いてないってば!」
その場に笑いが広がる。
ダエルも一緒に笑った。
少し前を歩いていたエイデンは、
そんな彼らの声を聞きながら、胸の奥に不思議な感情を覚えた。
誇り。
この十人は――
家族だった。
◆ 避難所へ
避難所に着くと、セレアが外で待っていた。
彼らの姿を見るなり、目を大きく見開く。
セレア
「な、なにその姿!?
どうしてそんな傷だらけなの!?
なんでダエルが血まみれ!?
コマはなんで頭に土つけてるの!?
ノアは潰れたみたいな顔してるし……
いったい 何をしたのよ!!」
全員、固まる。
エイデンが手を上げて静かに言った。
エイデン
「まず中へ。中で説明する。」
セレアは怒り、心配し、泣きそうになりながらも
全員を引っ張り込み、叱り、拭き、手当てし、抱きしめ――
その声は強くても、手は震えていた。
セレア(小声)
「……本気で、心配したんだから。
こんなに帰りが遅いなんて……なかったもの。」
ダエルは目を伏せた。
ダエル
「ごめん。でも……みんなが一緒に戦ってくれた。」
少女たちは後ろで手を挙げた。
コマ
「わ、私、あの怪物の目に光入れた!」
ルミ
「足を泥で埋めた!」
ノア
「影を撃った……」
ユナ
「う、歌った……」
リカ
「癒やしたよ……」
マイア
「風を送った!」
ティナ
「石、投げた!」
ウラ
「走った!」
カグラ
「こ、怖すぎて尿漏れしそうだった……」
セレアは瞬きを二度した。
エイデンが短くまとめた。
エイデン
「つまり……不死の騎士を倒して生還した。
逃げろと言ったが、ダエルを置いていかないと拒んだ。」
セレアの膝から力が抜け、座り込んだ。
セレア
「……本当に……死んだと思った……」
少女たちはすぐに抱きついた。
マイア
「大丈夫、セレア。」
ノア
「私たち、簡単には死なない。」
ウラ
「死にそうになるのは、いつもダエルだし!」
ダエル
「おい!」
再び笑いが広がった。
◆ 家族の夜
その夜は、みんなで食卓を囲んだ。
セレアが作ったスープとパン、果物。
戦いで消耗した子どもたちは夢中で食べた。
食事の途中、コマがぽつりと口を開いた。
コマ
「ダエル……
あなたがあの怪物に飛びかかったとき……
また失うかと思った。
“前の人生”みたいに……」
ダエルは驚いた。
ダエル
「前の人生……?」
コマは頷いた。
コマ
「うん……みんな覚えてる。」
ノア
「日本のこと……全部。」
ルミ
「私たちが何者だったか。
いいことも……悪いことも。」
リンカ
「それでも……今はここで生きたいの。」
ダエルは言葉を失った。
エイデンは黙って見守っていた。
セレアは切なさと優しさが混ざった微笑みを向けた。
セレア
「じゃあ……生きなさい。
ここにいる限り、この場所はあなたたちの“家”よ。」
少女たちは声をそろえて言った。
少女たち
「……家。」
ダエルの目が少し潤んだ。
◆ 夜更け
外の風が静かに吹く。
ダエルは空気を吸いに一度外へ出た。
エイデンも後を追う。
エイデン
「ダエル。よくやった。
戦いだけじゃない。知らないうちに全員を導いていた。」
ダエルは深く息を吐く。
ダエル
「でも……怖いんだ。
俺が弱かったら……あの子たちが死ぬ。」
エイデンは腕を組んだまま言う。
エイデン
「必要なのは力だけじゃない。
“仲間を受け入れる強さ”だ。」
ダエルは夜空を見上げる。
ダエル
「日本では……いつも一人だった。」
エイデンは静かに言った。
エイデン
「だから今、誰かに大切にされると戸惑うんだ。
でももう、お前はただの見えない漂泊者じゃない。
ここでは……家族の一員だ。」
ダエルは涙を拭った。
ダエル
「……頑張ってみる。」
エイデンは肩に大きな手を置いた。
エイデン
「“頑張る”じゃ足りない。
鍛えるぞ、お前たち全員。
今日のは……序章にすぎん。」
一枚の葉が、ふたりの間にひらりと落ちた。
ダエルは深く息を吸い込む。
生きる意味が、初めて分かった気がした。
部屋では、全員が眠りについたあと。
セレアはそっと少女たちのベッドのそばに座り込んだ。
小さく呟く。
セレア
「……昨日は、本当に怖かった。
でも……みんなを誇りに思ってるわ。」
その時、ウトウトしながらウラが片目を開けた。
ウラ
「……セレア……」
セレア
「なぁに?」
ウラ
「私たち……これからも……一緒に、戦える……?」
セレアは優しくその頬を撫でた。
セレア
「ええ。
でも、一つだけ約束して。」
セレア
「――絶対に、“帰ってくる前提”で戦うこと。」
ウラは半分眠りながら、ぽそりと笑った。
ウラ
「……やくそく……」
そう言って、また眠りに落ちた。
セレアはそっと、全員の額に一人ずつキスをした。
そして――
三年ぶりに、恐れのない夜を過ごすことができた。
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