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最初の脅威…そして最初の安らぎの夜

三年間、避難所はずっと安全な場所だった。


──今日までは。


柔らかな朝日が窓から差し込む。


九人の子どもたちは、素朴な台所でそれぞれ手伝いをしていた。


ルミはお茶を淹れようとして――

水を焦がした。


「どうやったら水が焦げるのよ!?」と彼女は叫んだ。


コマは木の板に材料のラベルを書いている。


サヤは必死にパンをこねていた。


「それ以上つぶしたら石になるよ」とマイアが笑う。


ウラは小さな声で歌いながら掃除していた。

なぜか、それだけで全員の作業が早くなる。


リンカは重い箱を軽々と持ち上げ、


ダエルはそれを丁寧に整理し、


ノアは寒がるルミに毛布をかけていた。


「寒いでしょう。」


「ありがとう、ノア。」とルミは柔らかく答える。


静かで、温かくて、家族のような朝だった。


エイデンは扉のところからその光景を見ていた。


──セレアの言うとおりだ。

もう彼らは「家族」になっている。


だが、その穏やかな時間は突然破られる。


甲高い叫び声が森の奥から響いた。


地面が揺れる。


鳥たちが一斉に飛び立つ。


ルミは急いでやかんを落とし、

サヤは手から生地を落とした。


全員、動きを止める。


「い、今のなに……?」とウラが震える声でつぶやく。


エイデンは眉をひそめた。


「魔物だ。しかも……かなり近い。」


セレアの顔から血の気が引いた。


「どうして……ここは安全なはずなのに。」


答える暇もなく、

再び咆哮が響いた。


普通の獣ではありえない音。


床が揺れた瞬間――


森から“それ”が姿を現した。


巨大な狼。


背中には金属のような甲殻が走り、

漆黒の爪、

熾火のように赤く光る目。


スラウゴル──D級・鋼獣種。


熟練冒険者なら倒せるレベル。

しかし子どもたちにとっては――


恐怖そのものだった。


魔物は空気を嗅ぎ、低く唸る。


一歩、避難所へ近づく。


ウラが悲鳴をあげる。


マイアは後ずさりし、

コマは尻もちをついた。


サヤはルミを抱きしめる。


リンカが本能的に前へ出た。


ダエルも震えながら一歩踏み出す。


「逃げない……。もう、二度と。」


ノアが腕を掴む。


「ダエル、それは危険よ!」


それでも彼は後ろへ下がらない。


エイデンが前へ出た。


「下がっていろ。俺がやる。」


鋼狼が先に飛びかかる。


エイデンの動きは速かった。

子どもたちが見たことのない速度。


魔力障壁で初撃を受け止め、

衝撃で地面が抉れる。


スラウゴルは吠え、金属爪で斬りかかる。


エイデンはそれを紙一重で避けた。


片腕でも、彼は強い。

魔力がそれを補う。


だが――

汗がこめかみを伝う。


「エイデン、気をつけて!」とセレア。


エイデンは魔力弾を放つ。


「──ヴォルテクス!」


爆発が魔物を吹き飛ばす。

だが、倒しきれない。


ダエルはその様子を見て息を呑む。


(やっぱり……エイデンは無理してる。)

(俺たちのために……。)


その瞬間、魔物は方向を変えた。


避難所へ――

子どもたちへ。


「だめ!」とノア。


鋭い牙が開かれる。


だが――


リンカが動いた。


巨大な石を両手で掴み、

叫びながら投げつける。


「家族に近づくなァ!!」


石が魔物の胴を打ちつけ、

進路を逸らせた。


そこからは本能だった。


それぞれの“力”が目を覚ます。


ダエル

手から温かな光が溢れる。


ノア

地面から根が伸びて魔物の脚を絡める。


コマ

黒い影が魔物の視界を濁らせる。


マイア

幻光が目の前で弾け、魔物を惑わせる。


ウラ

震える声で高音を放ち、魔物の平衡感覚を乱す。


カイレン

青い治癒光をエイデンへ送り、身体能力を底上げする。


サヤ

布で作った即席パチンコで石を撃つ。


ルミ

ルミを守るようにルミを抱くルミ……

その瞳が淡く光り、空気が重力のように沈む。


ほんの一瞬だけ。


だが、その一瞬が――

魔物の動きを止めた。

「よくやった、みんな。」


彼は空気をつかむように片手を振り上げる。


「――《アーク・インパクト》!」


青い稲光が天から落ちた。


スラウゴルは一瞬で灰へと焼き尽くされた。


大地が震え、

森が静まり返る。


子どもたちは震えていた。

何人かは涙をこぼしていた。


だが、それは恐怖の涙ではない。


――自分たちが「一緒に」戦えたから。


エイデンは膝をつき、息を切らしながらも誇らしげに笑った。


「今のは……立派な連携だ。」


子どもたちは目を丸くした。


「君たちは“未来の見習い”なんかじゃない。」

「もう立派な……小さな冒険者だ。」


◆ その夜 ―― “初めてのチームの晩ごはん”


セレアが温かいスープを作り、

子どもたちは毛布に包まりながら囲炉裏に集まった。


不安混じりの笑い。

こっそりした視線。

そして胸の奥から湧く誇り。


ダエルがぼそりと言った。


「今日……また死ぬかと思った。」


ノアがくすっと笑う。


「それでも一番最初に飛び出したじゃない。」


ウラ:


「わたし、怖すぎて倒れるかと思った……。」


コマは木の板にこう書いた。


『避難所ファミリー団 第一勝利』


マイアはそれに星の絵を描いて飾った。


カイレンはみんなの小さな傷を治し、


サヤは焼きたてのパンを配り、


ルミはルミ自身を抱きしめて温め、


リンカは自分の両手を見つめていた。


「もっと……強くなりたい。」


ダエルはうなずく。


「みんなで強くなろう。」


エイデンは木のカップを持ち上げた。


「初めての戦いに、乾杯。」


セレアも掲げる。


「私たちの家族に。」


そして子どもたちも声を合わせる。


「――ぼくたちの未来に!!」


避難所は笑い声と光に満ち、

その温もりはどんな魔獣にも消せないものとなった。

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