「誰も合格しなかった試練…ただ一人を除いて」
翌朝、エイデンは森の開けた場所に九人を集めた。
空気は冷たく、
地面は湿っていて、
九人の子どもたちはまだ半分寝ていた。
ダエルが伸びをする。
ダエル
「今日は……何をするの?」
エイデンは長い縄を地面に放り投げた。
エイデン
「今日はとてもシンプルだ。
誰が強くて……誰が弱いかを見極める。」
ノアはニワトリのように背筋を伸ばした。
ノア
「“弱い”ってどういう意味?」
コマは一歩下がる。
コマ
「なんか……嫌な予感がする……」
ウラはダエルの背後に隠れた。
ウラ
「エイデン……あなたの訓練は怖い……」
エイデンは優雅に無視した。
エイデン
「これから体力試験だ。
あの丘を越えて……戻ってこい。」
サヤが手を挙げる。
サヤ
「それだけ?」
エイデン
「ああ。
ただし――走って、だ。」
九人の顔から血の気が引いた。
エイデンは笛を吹く。
エイデン
「――走れッ!!」
そして、地獄が始まった。
ダエルは三歩走って……根っこにつまずいた。
ノアは避けようとして、ダエルの上に落ちた。
ウラは叫ぶ。
ウラ
「うわぁぁぁ! モンスターが追いかけてくるぅぅ!」
(※モンスターはいない)
マイアはバランスを崩して坂を転がり落ちた。
コマもつられて転がった。
カイレンは助けに行こうとして……結局一緒に転がった。
サヤは走りながら、きれいなチョウを見つけて急停止。
ルミは普通に歩きながら“ふむふむ”と観察していた。
ルミ
「これは……芸術だね。」
結果:ダエルたちは全員、山の中腹で絡まり合って大惨事。
……ただ一人を除いて。
リンカ。
彼女だけは一度も振り返らず、
つまずかず、
迷わず、
まるで走るために生まれたかのように駆け続けていた。
エイデンは顎に手を当ててうなる。
エイデン
「……ほう。面白い。」
◆ 十五分後
リンカは汗だくになって戻ってきた。
息は荒いが――しっかり立っている。
リンカ
「……戻りました。」
一方その頃――
他の八人はまだ“人間の山”になっていた。
ダエル
「ノア! お前、俺の腕の上に座ってるってば!」
ノア
「ダエルのひざが私の顔に刺さってるのよ!!」
ウラ
「うごいたあああぁぁぁぁぁッ!!(※動いてない)」
コマ
「ほし……が……みえる……」
マイア
「脚が……ない……(※ある)」
カイレン
「だ、誰か……何か折れてません……?」
サヤ
「みて、きれいな石……」
ルミ
「落ち方が……綺麗だったよ。」
エイデン
「……よし、もう十分だ。」
子どもたちはようやく立ち上がった。
エイデンはリンカを指差す。
エイデン
「リンカ。
お前はすごい。
体力、持久力、身体能力――どれも突出している。」
リンカはうつむき、頬を染める。
リンカ
「ち、小さい頃から……ずっと走っていて……」
ウラ
「リンカは怪物だよ!!(褒め言葉)」
ノア
「私は半分も行けなかった……!」
コマ
「私は……転がってた時間の方が長い……」
マイア
「これは……運動って呼んでいいのかな……?」
エイデンは次にダエルを見る。
エイデン
「ダエル。
お前は速い……が、バランスが壊滅的だ。」
ダエル
「根っこが先に俺を襲ったんだ!」
エイデン
「根っこは動いていなかった。」
ダエル
「いや、絶対襲ってきた……!」
子どもたちは笑い出した。
ノアの方を見る。
エイデン
「ノア。
耐久力は悪くない。
ただし――ダエルに突っ込んだ。」
ノア
「前で突然転ぶからでしょ!? 私は悪くない!」
ダエル
「ノアが俺に“ジャンプアタック”しただろ!」
コマ
「私……走る才能は……たぶんない……」
マイア
「私は……芸術家だから……運動はムリ……」
ルミ
「落ち方は……芸術的だったよ……」
エイデンは真剣な声で言った。
エイデン
「いいか。
最初から強い必要はない。
必要なのは――成長することだ。」
そして静かに続ける。
エイデン
「リンカは基準になる。
彼女が……この班の体力の“柱”だ。」
リンカは驚き、目を見開く。
リンカ
「わ、私が……?」
エイデン
「ああ。
お前には、戦士が何年もかけて得る資質がある。
他の子たちは、お前の力を必要とする。」
ダエル
「リンカ、本当にすごいよ。」
ノア
「私に“転ばない走り方”を教えて……」
コマ
「私には……“転がらない方法”を……」
ウラ
「リンカァァァァァ! 置いていかないでぇぇぇ!!」
リンカ
「が、がんばります……!」
◆ そして地獄の再チャレンジ 3 回。
結果:
ダエル……転んだ回数が減った(進歩)。
ノア……転ばなかった(奇跡)。
マイア……転がらなかった(感動)。
コマ……少しだけ転がった(通常運転)。
ウラ……叫びながら走った(元気)。
ルミ……なぜか少し浮いていた(謎)。
サヤ……また途中で蝶に夢中(平常運転)。
カイレン……最後まで安定(優秀)。
ルミ……やっぱり浮いていた。誰も理解できない。
リンカはというと――
リンカ
「エイデンさん、あと三周走ってきましょうか?」
エイデン
「……いや、もういい。十分だ。」
みんなが拍手。
ダエルは息を切らしながら笑う。
ダエル
「ありがとう……リンカ……
みんなを……救ってくれて……」
リンカは赤くなりながら答えた。
リンカ
「だ、だって……みんな……仲間だから……」
その言葉に――
九人の胸に、あたたかい炎がともった。
エイデンは九人を呼び集めた。
エイデン
「――これが最初の一歩だ。
君たちはまだ兵士でもない。
戦士でもない。
だが……必ずそうなる。」
ダエルは背筋を伸ばした。
ダエル
「はいっ!」
他の子たちも慌てて姿勢を正す。
エイデンは誇らしげでありながら、どこか不安げな瞳で彼らを見つめた。
エイデン
「明日からは……武器の訓練に入る。」
全員がごくりとつばを飲んだ。
遠くからセレアの声が響く。
セレア
「エイデン! 絶っ対に怪我させないでよー!!」
エイデン
「約束は……できない!」
九人の子どもたちは悟った。
――まだ始まったばかりだ、と。




