「訓練初日」

太陽がようやく地平線に顔を出したころ、

九人はもう起きていた。

ダエルは目をこすりながら大きくあくびをする。

「……今日から、なんだよな？」

ノアはごくりと唾を飲み込んだ。

「うん……今日は本格的にエイデンが訓練してくれる日だよ。」

コマは緊張しすぎて、足元の影が妙な形に広がっていた。

マイアはわくわくしながら足をぶらぶらさせる。

カイレンは自分の回復杖を赤ん坊のようにぎゅっと抱きしめている。

ルミは背筋を固めすぎてロボットのように歩いていた。

サヤは「今日は特別朝ごはんがあるはず」と勘違いして嬉しそう。

ウラはダエルにぴったりくっついて離れない。

そしてルミ……彼女はすべてを知っているかのように、ただ静かに微笑んでいた。

セレアは九人が避難所から出てくるのを見送った。

「いい子にしてね。あと……死なないように。」

「えぇぇぇぇぇぇ！！！」

九人は同時に叫んだ。

セレアはくすりと笑う。

「冗談よ。でも、あなたたちなら……本当に何があるか分からないしね。」

外ではエイデンが木に寄りかかって待っていた。

髪は後ろで束ね、黒いシャツからは残った片腕の筋肉がのぞく。

腕は一本だけでも、その存在感は圧倒的だった。

「よし。」エイデンは言った。

「今日はまず、お前たちの能力を“評価”する。

そのあと、一人ひとりに合った訓練メニューを作る。」

ダエルは緊張で喉をつまらせた。

「ひ、ひょう……か……？」

エイデンは武器箱を持ち上げる。

「ああ。

まずは……お前からだ、ダエル。」

全員の少女が一斉にダエルの背中で身構えた。

エイデンは丸太を空中へ放り投げた。

「光を出せ。早く。」

ダエルは集中する。

手のひらから白い光が生まれた。

だが昨日より弱い。

「……なんで弱い？」とエイデン。

ダエルは視線を落とす。

「き、緊張すると……弱くなって……」

エイデンは小さく笑った。

「普通だ。

じゃあ次は、そこに火を混ぜろ。」

「い、今！？」

「ああ。失敗しても少し爆発するだけだ。」

「えぇぇぇぇぇぇ！？！？」

少女たちが叫ぶ。

「エイデン！脅かさないでよ！」

だがダエルはやった。

光を集中。

熱を集中。

不安定な混合。

光が弾けた。

ドンッ。

小さな爆発。

ダエルは２メートル転がった。

ノア

「ダ、ダエル！！」

マイアも、コマも、カイレンも駆け寄る。

だがダエルは地面から親指を立てた。

「……し、死んでない……」

エイデンが彼を起こす。

「悪くない。

制御はまだまだだが――純粋な火力は高い。

お前は“魔法前衛”だな。」

ダエルは息を整えながらうなずいた。

少女たちは尊敬のまなざしで彼を見つめた。

ノア ― 重力制御／念動

エイデンは石を前に置いた。

「持ち上げてみろ。

ただし――今度は震えずにな。」

ノアは静かに目を閉じる。

「……できる……はず……」

石が浮いた。

揺れもなく、静かに、完璧に。

マイア

「ノア……すごいよ！！」

エイデン

「年齢のわりに、精密な制御ができている。

お前は“防御支援”型だ。」

ノアは誇らしげに笑い、他の子たちに抱きしめられた。

コマ ― 影／闇の操作

「影を……俺の方に動かしてみろ。」

コマは青ざめる。

「だ、だいじょうぶ……ですか？

闇って……暴れたりするし……」

「問題が起きたら……斬る。」

「えぇぇぇぇぇ！？！？」

だが彼女は挑戦した。

影が伸びた。

生き物のように、綺麗に、滑らかに。

エイデン

「見事だ。

この年齢で腐敗も狂気もない闇は珍しい。」

コマはうるっと涙をこぼしそうだった。

マイア ― 幻術

「何でも作れ。ひとつでいい。」

マイアが目を閉じると――

光の蝶が舞い上がった。

柔らかく、

美しく、

本当にそこにいるみたいに。

エイデン

「純幻術だ。

偵察・陽動に最適。よくやった。」

マイアは自分が光っているかのように笑った。

カイレン ― 治癒

エイデンは自分の腕を少し切った。

九人

「エイデン！！！！！」

だが彼は平然。

「カイレン、治せ。」

カイレン

「な、なんで自分を傷つけるの！？

そんなの……よくない……よ……！」

「お前を信じてるからだ。」

彼女の手から緑の光があふれる。

昨日より強い。

傷が完全に消えた。

エイデン

「安定してる。

お前はこのチームに絶対必要だ。」

カイレンは泣きながら抱きついた。

URA — 音

ウラは澄んだ振動を生み出した。

エイデン

「声で破壊も治癒もできる。

異常な潜在力だ。」

サヤ — 身体強化

走って――石を粉砕。

エイデン

「……危険だ。

だが戦闘向きだ。」

ルミ — 調和／安定

魔力を流し、風で倒れかけた石を止めた。

「お前がいると全体が安定する。

いなくなるとバランスが崩れるな。」

リンカ ― 体力・防御

一番長く耐え抜いた。

「体が強い。

前線の盾にもなれる。」

評価終了

エイデンは腕を組む。

「……全員、想像以上の才能がある。

だから明日からは三つ鍛える。」

・基礎魔法（魔力制御）

・軽武器

・防御技術

ダエルが真剣に尋ねた。

「どうして……俺たちにここまで……？」

エイデンはほんの少し、寂しそうに笑った。

「お前たちは……

俺にとって“家族”に一番近い存在だからだ。」

全員が固まった。

次の瞬間――

マイアが抱きついた。

ウラも、サヤも、リンカも、ルミも、コマも、カイレンも。

気づけばエイデンは子どもの山に埋もれていた。

ダエルはその光景を見て、そっと笑った。

自分もまた――

この家族の一員だと感じながら。