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「熱い結晶と、思いがけない誕生日」

朝の空は澄んでいて、甘い花の香りが漂っていた。

九人の子どもたちは早く目を覚まし、洞窟へ訓練に行くのを楽しみにしていた――


……その日が特別な日になることを、誰も知らずに。


洞窟は静かで、青く光るキノコが道を照らしていた。

ダエルとノアは、初めて二人で一緒に練習することにした。


ダエルは手を伸ばす。


ダエル

「よし……今度こそ火が出るかな……」


白い炎が生まれた。

小さいが、しっかりと安定していた。


ノアも深呼吸をして集中する。


ノア

「じゃあ私は……この石を浮かせてみる……。うまくいけば……」


石がふわりと持ち上がる。


すべてはいつも通り――

……に見えた、その瞬間。


ダエルの白い炎が、ノアの浮かせた石に触れた。


ダエル

「え……?」


ノア

「な、なにこれ……?」


石が光り始めた。


赤く。

次に橙色。

そして――真っ白に。


少しだけ溶けた。

だが溶岩ではない。


形を変えながら……


透き通った、熱い結晶

――まるで生きたガラスのようになった。


マイアが歓声をあげる。


マイア

「結晶になった! 光と土が混ざったんだよ!」


カイレンがそっと触れる。


カイレン

「温かい……それに、脈があるみたい……

マナが入ってる……?」


コマは目を輝かせた。


コマ

「エネルギー結晶……

魔法の焦点にできる……すごい……」


ダエルとノアは見つめ合った。

どちらも疲れて震えていたが、笑みがこぼれていた。


ダエル

「どうやら……偶然、合体魔法になったみたいだね。」


ノア(頬を赤らめて)

「ここまでうまくいくなんて……思わなかった……」


結晶はゆっくりと冷え、ダエルの手の中で静かになった。


二人で作った、初めての成果。



洞窟を出て帰ると、避難所から妙な音が聞こえた。


セレア(中から)

「まだ見ちゃダメよ!」


ルミが首をかしげる。


ルミ

「……なんだか、パン焼いてるみたいな音……」


サヤが空気を嗅ぐ。


サヤ

「ケーキの匂い、する!」


ウラが目を見開く。


ウラ

「だ、誰か今日誕生日なの!?」


ダエルは眉をひそめた。


ダエル

「え? 誰の?」


そのとき――

扉が勢いよく開いた。


エプロンをつけ、髪をまとめたセレアが、母親のような笑顔で言った。


セレア

「今日はね……全員の誕生日よ。」


子どもたちはぽかんと固まった。


マイアが胸に手を当てる。


マイア

「わ、私たち……?」


セレア

「そうよ。

あなたたちがいつ生まれたのか本当のところは分からない。

でも――あなたたちがここに来て、もうすぐ一年。

だから今日は……あなたたちを祝う日にしたかったの。」


子どもたちの目に涙が溢れた。


特にコマ。

特にリンカ。

特にダエル。


セレアの後ろには、丁寧に畳まれた小さな衣服が山のように並んでいた。


手縫いの贈り物。


柔らかなリネンのシャツ。

補強されたズボン。

軽いワンピース。

小さなマント。

編み上げの靴。

色とりどりのリボン。


マイアは言葉を失った。


マイア

「これ……全部……私たちに?」


セレアは照れたように笑う。


セレア

「何ヶ月もかかったけど……作ってよかったわ。」


子どもたちは歓声をあげながら服に飛びついた。


ルミは青いワンピースを選んでくるりと回る。

サヤは黄色いセーターを抱きしめた。

ウラはきらきらしたマフラーを取ってにこにこ。

カイレンは白い短いチュニックを。

コマは黒のシンプルなワンピースを迷いなく手に取る。

マイアは薄緑のワンピースを見つけて喜んだ。


そしてダエルの手に渡されたのは――


真っ白なシャツと濃紺の小さなマント。


セレアがそっと近づく。


セレア

「あなたには……これが似合うと思って。」


ダエルは喉の奥が詰まるような気持ちで着替えた。


そして――


全員が息を呑んだ。


ノアがぽつりとつぶやく。


ノア

「ダエル……なんか……

勇者みたい……」


コマは微笑む。


コマ

「ほんとに……私たちのリーダーに見える。」


ウラが手を叩く。


ウラ

「避難所の王子だよ!!」


カイレンは顔を真っ赤にする。


カイレン

「……似合ってる……すごく……」


ダエルは耳まで赤くなった。


ダエル

「み、みんな大げさだよ……」


でも――

嬉しかった。

胸がいっぱいだった。


セレアがテーブルにケーキを置く。


セレア

「本当はあなたたちの国の習慣は知らないけど……

……誕生日、おめでとう。」


子どもたちは手を叩き、笑い、喜んだ。


その一瞬――


彼らはただの子どもだった。


嬉しくて。

温かくて。

大切にされて。


つぎはぎの家族。

でも、確かな家族。


そのとき、入り口の影からエイデンが現れた。

いつものように控えめに微笑んで。


エイデン

「楽しんでるようだな。」


ダエルが真っ直ぐ彼を見る。


ダエル

「エイデン……いつもありがとう。」


エイデンは静かに笑った。


エイデン

「これからも、まだまだ教えることはある。

お前たちは……これからだ。」


全員が固まった。


マイア

「……え? なにそれ?」


エイデンは背を向ける。


エイデン

「まずは食べろ。

そのあとで……少し話をしよう。」


空気がふるえた。


不安ではない。

期待でもなく。


――何かが始まる予感。


とても大きな“次の章”が。

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