表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/39

「最初の輝き――そして最初の奇跡」

朝の空気はひんやりとして、湿った苔の匂いが満ちていた。

九人の子どもたちは、疲労でふらつきながらも決意を胸に、今日も洞窟へ入っていった。


今日は違う。

今日は、一歩だけ前に進む日。


ダエルは深く息を吸った。


ダエル

「よし……今日は、昨日よりちょっとだけ頑張ろう。

誰か具合が悪くなったら、カイレン、君が stabilizar してくれ。」


医者の魂を持つ少女は、緑の魔導書を抱きしめてうなずいた。


カイレン

「できる限り、やってみる。」


◆1. ダエルの初めての大成功 ――「生きる光」


ダエルは空いたスペースの前に立った。

指は震えていたが、その意志は揺らがなかった。


本に書かれていた言葉を思い出す。


“マナは川だ。投げつけるのではなく、流れを許せ。”


ダエルは目を閉じた。


川を感じる。

温かさを感じる。

火種を感じる。


そして――


ぱぁっ。


掌に小さな太陽のような光が生まれた。


ウラが目を覆う。


ウラ

「ま、まぶしい……! ダエル、すごすぎるよ!」


ノアも驚きで固まる。


ノア

「昨日のしょぼい火花の百倍はある……」


コマは魅入られたように光に手を伸ばした。


コマ

「……あったかい。

抱きしめてくれるみたいな光……」


ダエルは息を荒げながらも、光をしっかりと維持した。


やがて光は優しく消え、彼はへたりと座り込んだ。


しかし、顔は満面の笑みだった。


ダエル

「できた……!」


マイアが勢いよく抱きつく。


マイア

「ダエルっ! 本当に綺麗だった!」


リンカが後ろからぎゅっと抱きしめる。


リンカ

「ダエルはいつも一歩先に進むから……私たちも頑張れるんだよ。」


ダエルは真っ赤になった。


ダエル

「ぼ、僕は……できることをやってるだけ……」


けれど、その背中は全員を安心させていた。


◆2. ノア ――「初めて従った石」


ノアは小さな石ころを前に置き、ぐっと噛みしめるように集中した。


ノア

「お願い……ほんの少しでいいから……上がって……」


石は震えた。


そして――

1センチ

2センチ

3センチと、ふわりと持ち上がった。


マイア

「ノア! 本当に浮かせてる!!」


リンカがぱちぱち手を叩く。


リンカ

「すごい高さまで行ったよ!」


ノアは震えながらも、誇らしげな目で石を見つめた。


初めて、地が彼女の魔力に従った瞬間だった。


ウラが抱きつく。


ウラ

「ノア、すっごいよ!」


ノアは照れたように呟いた。


ノア

「たった……数センチだけど……」


ダエルが頭にそっと手を置く。


ダエル

「昨日ゼロだった人が、今日は三センチ。

それって……奇跡だよ。」


胸の奥が温かくなり、ノアは思わずうつむいた。

嬉しさを隠せなかった。


◆3. コマ ――「従う影」


コマは指先を床の影へ向けた。


影が……ゆっくり動き出す。


するり……

伸び……

黒い花びらの形になって、空中にふわりと浮いた。


小さくて、儚くて、でも美しい。


コマは息を呑んだ。


コマ

「……壊れそう……」


ノアが支えるように肩に触れる。


ノア

「でも、コマの魔法だよ。

あなたが作ったんだ。」


ダエルもうなずく。


ダエル

「コマ、それは……芸術だよ。」


コマは頬を染め、震える声で呟いた。


コマ

「ありがと……本当に……」


◆4. 事故 ――「マイアの怪我」


興奮したマイアは、光の幻影を作ろうとした。


しかし――

めまいがし、よろけ、石に膝をぶつけてしまった。


マイア

「痛っ……!」


血がじわりと滲む。


ウラは大慌て。


ウラ

「マイアがケガしたー!!」


ノア

「葉っぱ! 包帯! なにかない!? カイレン!!」


カイレンが震えながら近づく。


カイレン

「見せて……」


マイアは震えていたが、信じてじっとしていた。

カイレンは本を開き、必死に思い出す。


“命の流れに触れよ。押すな、寄り添え。”


手をかざす。


弱いマナ。

不安定な流れ。

でも――


カイレン

「お願い……治って……!」


緑の光が生まれ、

傷がゆっくり閉じていった。


痛みが消え、マイアは息をついた。


全員が呆然とした。


ダエルが最初に声を上げた。


ダエル

「カイレン……すごいよ。」


カイレンは恥ずかしそうに目を伏せる。


カイレン

「ただ……やるべきことをしただけ……」


ノアが抱きつく。


ノア

「助かったよ! 本当にありがとう!」


コマも続く。


コマ

「カイレンは……私たちの奇跡の医者だよ……」


ウラは泣きながら喜んだ。


ウラ

「よかった……ほんとによかった……!」


カイレンの胸に、

久しく忘れていた感情が芽生えた。


――助けられた。

――役に立てた。

――守れた。


ほんの少しだけ涙がこぼれた。


ダエルが優しく頭に触れる。


ダエル

「ありがとう、カイレン。

君はこの仲間にとって……欠かせない存在だ。」


その瞬間、カイレンは静かに悟った。


――あぁ…この人は。

 私も守ってくれる人なんだ。


◆5. 深まる絆


帰り道。

女の子たちは、普段よりもずっとダエルのそばにいた。


リンカは手を握り、

コマは肩にもたれ、

マイアは後ろで寄り添い、

ノアは優しい目で見つめ、

カイレンは何も言わず隣を歩くが、その瞳は温かかった。


身体は子ども。


でも心は……


ダエルを中心に、

守られ、

信じ、

寄りかかりたいと思い始めていた。


まだ恋ではない。


けれど確かに――

絆・信頼・温かさ

が生まれつつあった。


ダエルはそのことに気づかず、ただ笑った。


ダエル

「今日は……本当に、よく頑張ったよ。

みんな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ