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「最初の数日は地獄だった――だが、それは必要な地獄だった」

洞窟は相変わらず、古びた埃と光るキノコ、湿った石の匂いで満ちていた。

積み上げられた魔導書はまるで心臓のように脈打ち、青白い光を放っている。


九人の子どもたちは、その光景を前に胸を高鳴らせていた。


だが、その興奮はすぐに吹き飛ぶことになる。


魔法を使おうとした瞬間――


彼らの小さな身体は、ほぼ昏倒しかけた。


◆ ダエルの挑戦


ダエルは本に描かれた光の紋章を思い出しながら手を伸ばした。


「えっと……そんなに難しいはずは……」


本にはこう書いてあった。


『魔力は筋肉である。無理をすれば死ぬ。』


ダエル

「…………」


それでも、彼はやってみた。


指先から――白い火花が「ピッ」と弾けた。

たったそれだけ。


だというのに、


足は震え、呼吸は乱れ、その場に尻もちをついた。


「うおっ……こ、これだけ……?」


ノアが慌てて駆け寄る。


「だから無理するなって言ったでしょ! 前世で喘息だったって言ってたじゃん!」


「ぜ、喘息じゃない! ただ慎重なんだよ!」


結果は同じだった。


魔法は痛い。

重い。

体力を吸われる。


そして――たった一粒の光で、限界。


◆ ノアの地獄


ノアは図形だらけの初歩書を開き、石ころひとつを動かそうとした。


「動け……動け……!」


石が……ほんの 1ミリ震えた。


次の瞬間、ノアは顔から倒れた。


「なんで……? 小学生28人相手するよりキツい……」


マイア

「授業しなくていいだけマシじゃない?」


ノア

「今は授業のほうがいい!! これ苦しすぎ!!」


◆ コマの影魔法


コマは大きな本を抱えながら、影魔法を試した。


「えっと……流れを調整して……細い影を……」


床から黒い糸がスルリと伸びる。


優雅で、美しい。


……だがコマは頭を抱えて崩れた。


「いたっ……いたたたっ!! 頭ガンガンするっ!」


サヤ

「だから言ったでしょ〜、魔力の筋肉足りないって!」


「魔法って……偏頭痛するものなの……?」


知識欲はある。

だが身体がついてこない。


◆ ケイレンの必死


ケイレンは治癒魔法の本を食い入るように読んでいた。


サヤ

「ケイレン、休んだほうが……」


ケイレン

「だめ。生命の仕組みを理解しないと……。

誰かが怪我したとき、役に立てないのは……もう嫌だから。」


前世の傷。

失った命。

救えなかった記憶。


彼女はそれを二度と繰り返したくなかった。


ケイレンは小さく呪文を唱えた。


光が「ふっ」と灯る。


本当に小さな癒しの輝き。


だがそれでも、ケイレンは肩で息をしながら笑った。


「……大丈夫。ちゃんと……効いてる。」


リンカ

「震えてるよ、ケイレン!」


「生きてる……それで十分。」


◆ 全員、限界


マイアは力尽きてそのまま眠り――

ウラは座ったまま汗を流し――

ダエルもノアもコマも、腕すら動かせず――

ケイレンの手は震えっぱなし――

サヤは「おなかすいた〜」と半泣き――


地獄だった。

だが、愛らしい地獄だった。


◆ 小さな決意


九人は円になって座り、ぐったりしながら笑った。


ダエル

「これ……毎日やったら死ぬな……」


ノア

「だから筋トレみたいに、少しずつよ。」


コマ

「まずは……一日五分で……」


マイア

「呼吸を長く保てるようになったら、時間を増やそう。」


ケイレン

「魔力が空になると……死ぬから。気をつけて。」


リンカ

「じゃあ……みんなで強くなる。」


ウラ

「うん! お互い支え合って!」


ルミ

「誰かが倒れたら……みんなで助ける。」


ダエルはふらつきながら立ち上がった。


「……ただの転生赤ちゃんだけど……

でも、チームでもある。」


ルミは静かに手を中心へ差し出した。


「じゃあ……始めよう。」


九つの手が重なる。


小さくて、震えてて、弱い手。


でも――


未来を掴むための、小さな拳。


力はわずか。

痛みは大きい。

前途は険しい。


けれど、その先には――


限りない未来があった。

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