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『帰還と隠された秘密』

空がオレンジ色に染まり始めたころ、

九人の子どもたちはアルヴァンティスの青き森から姿を現した。


それぞれが、まるで何でもないように見せかけながら、

しっかりと本を抱えていた。


ダエルはシャツの中に。

ノアは肩掛けの布に。

コマは毛布の中に。

マイアは花束の中に。

ルミは白い本が、他者の目には“消える”ように隠れていた。


アイネの声が静かに響く。


「歩いて、遊んで、キノコで転んだだけ……いつも通りね。」


ダエルがうなずく。


「怪しまれないように。」


サヤが手を挙げる。


「もし聞かれたら……?」


ウラがそっと手を握る。


「本当のことを言う。でも……全部じゃない。」


マイアがくすっと笑う。


「遊んでた。それは嘘じゃないよ。」


ルミは森を振り返り、静かに言った。


「森は……まだ誰にも知られたくないの。」



避難小屋の前では、セリーアがパンくずだらけのエプロン姿で飛び出してきた。

粉だらけの頬には、心底ほっとした表情。


「まあっ……!よかった……!

もう少しで探しに行くところだったわ!」


膝をつき、腕を広げる。


「さあ、こっちへ!どこにいたの?」


リンカが勢いよく飛び込む。


「遊んでた!」


サヤも笑顔で抱きつく。


「大きなキノコで!」


ウラが続けて言う。


「歌って、走って!」


コマは花かごを掲げた。


「珍しいお花も見つけたよ!」


(もちろんマイアの“作戦用の花”である。)


ルミは静かに近づき、セリーアに髪を撫でられて目を細める。


「ほんとに……。無事でよかった……。」


その声は、深い愛情で震えていた。


避難小屋の壁にもたれていたエイデンが、腕を組んだまま言う。


「遅かったな。」


ノアが俯く。


「ちょっと……遊び過ぎちゃって。」


「どこでだ?」


ダエルが自然な仕草で一歩前に出る。


「キノコの広場だよ。」


エイデンはしばらく沈黙し、

九人の目を順に見つめた。


――何も気づいていない。


本が自動で隠れていることも。

洞窟が古代の魔法で守られていることも。

九人がすでに“何か”に選ばれたことも。


やがて、ため息。


「……分かった。

だが、夕方はあまり遠くに行くな。」


「はーい!」



セリーアに顔を拭かれ、服を直されながら、九人は避難小屋へ戻った。


「泥だらけ……。今度は誰が転んだの?」


ルミが手を挙げる。


「わ、私……。」


「もう……痛かったらちゃんと言うのよ?」


(カイレンが魔法で治したのは秘密。)


エイデンが油ランプに火を灯す。


「来い。食事だ。」


彼らは全員集まり、囲むように座った。

それは、もはや“家族の儀式”だった。


ダエル(心の声)

本当に……家族なんだ。


ノア

日本から来たとしても……ここも、もう一つの家だ。


ウラ

二つの人生を好きになっても……いいよね。


ルミ

だけど……長くは隠せない。



夕食の後、セリーアはいつものように九人を順番に洗わせた。


「ほらほら、火の粉みたいな話してあげるわよ。

“踊るホタル”と“狩りが下手な青狐”のお話ね。」


子どもたちは笑った。

ただの子どもたちのように。

一瞬だけ、自分たちが“九つの魂”だということを忘れて。


そして布団に並んで寝かせられ、

ランプの光が消える。


「おやすみ、みんな。」


エイデンが小さく言った。


「明日は訓練だ。よく休め。」


大人たちの足音が遠ざかったあと――


九人は一斉に目を開いた。


ダエル

「気づかれてない。」


ノア

「まだ……言わない方がいい。」


コマが本をぎゅっと抱く。


「読まなきゃ……私たちのこと……。」


ルミの白い本が、微かに光って消えた。


「そう。

だって、守護者は……私たちを待っていた。」


サヤ

「明日……また行くの?」


ウラがにっこり笑う。


「もちろん。家族なら……一緒に学ぶよ。」


リンカが拳を握る。


「強くなるんだ、みんなで!」


ルミ

「この場所を……守るために。」


九人の小さな手が、そっと重ね合わされた。


――幼い誓い。

――秘密の契り。

――けれど確かな決意。


ルミが目を閉じる。


「明日……洞窟はもっと教えてくれる。」


九人は眠りについた。

転生者ではなく――


八人の姉妹と一人の兄として。

自分たちだけの物語を紡ぐ家族として。

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