「静寂の森の影の下で」
夕日が木々の向こうへ沈みかけ、
枝葉の隙間から橙色の光が差し込んでいた。
彼らが到着した区域を囲むこの森は謎に満ちていたが、
今のところ——唯一の避難場所でもあった。
エイデンとセリーアは無言で景色を見つめていた。
第25話の出来事があまりにも激しく、
胸の奥にまだ重い緊張が残っている。
セリーアが息をつく。
「……こんなに静かな場所が残ってるなんてね。
あれだけの混乱のあとに、こんな森だなんて。」
エイデンは頷く。
「静かだ……だが安心できるとは限らない。」
茂みは不自然なリズムで揺れ、
根は渦を巻くように伸び、
樹皮は淡い青光を帯びていた。
ダエルがエイデンのマントを引っ張る。
「エイデン、ここに……泊まるの?」
エイデンは優しく頭を撫でる。
「今夜だけだ。休息が必要だ。」
ノアは木の板と炭片を握り、地形を書き留めていた。
「森のパターンが変わるの……固定されていない。
それに、同じ音が繰り返されてる気がする。」
近くを歩いていたウラが小さく鼻歌を歌い、首を傾げる。
「森の音……リズムがある。でも……ちょっと怖い。」
コマは森の中心を指差し、空中に見慣れない記号を描いた。
マイアが目を丸くする。
「その記号……あちこちの木に刻まれてるよ。」
ルミ(Rumi)はセリーアにしがみつく。
「……誰かが、見てる気がする……。」
セリーアは抱き上げながら言う。
「大丈夫。みんな一緒よ。」
サヤは勇敢なふりをしながら震えていた。
「わ、私……寒かったら火をつける……!」
カイレンは地面に手を触れ、表情を曇らせた。
「この場所……傷ついてる。
昔、ここで何かあった。」
エイデンも眉を寄せた。
「……感じるな。」
そのとき、ずっと森を見つめていたルミ(Lumi)が口を開いた。
「この場所……わたしたちを“受け入れた”。
でも……“何かを待ってる”。」
全員の視線が集まる。
風が木々をかすめた。
古い囁きのような冷たい気配。
エイデンは剣の柄に手を添える。
「セリーア、子どもたちをまとめろ。
離れるな。」
セリーアは頷き、
九人はすぐに彼女の周りに集まった。
森の影がわずかに濃くなり、
まるで意思を持つように揺れた。
そして、完全に日が落ちた瞬間——
エイデンは低く呟いた。
「……長い夜になる。
だが、お前たちには指一本触れさせない。」
子供たちは自然と輪になって寄り添った。
小さな手と手がつながり合う。
彼らは幼い。
だが魂は幼くなかった。
そして森の奥で——
何かが“目を覚ました”。
本当の第26話はここから始まる。
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