表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/39

「小さな壊れた家族のはじまり」

避難所は、青い夜明けの光で満たされていた。

天井のホタルがふわりと泳ぎ、

石壁にやわらかな影を落とす。


今日は初めての朝だった。


逃げなくていい朝。

怯えずに呼吸していい朝。

そして——


セリーアが“家”のようなものを感じた朝。


セリーアは聞き慣れた声で目を覚ました。


——うぇぇ……うぇぇ……


泣いていたのはルミだった。

空腹でも、寒さでもない。


それは震える泣き声。

乗り越えられなかった悪夢を、まだ背負っている泣き方。


セリーアはそっと抱き上げ、揺らす。


「しー……大丈夫。ここは安全よ。」


ノアがはいはいで近づき、

まるで助けようとするようにルミの腕に手を添える。


ルミは深く息を吐いた。


(……ありがとう。

ごめんね……。)


言葉にできなくても。


ダエルは、意識の戻ったエイデンのもとへはいはいで向かう。


エイデンは弱く微笑んだ。


「……おはよう、ダエル。」


ダエルは手を上げる。

まるで大人のような、深い意味を込めた挨拶。


エイデンの胸がきゅっと痛んだ。


ダエルはそっと彼の脇に頭を寄せた。

胸元から淡い光がにじむ。


エイデンの呼吸が少し楽になる。


(少しでも……助けたい……)

彼の“大人の心”はそう願っていた。


ウラは石の上に座り、

いつものように小さな鼻歌を歌っていた。


ノア、サヤ、マイアが周りに集まり、うっとりと聞き入る。

リンカは床を叩いてリズムを刻み、

コマは揺れるランプを指差す。


セリーアは笑う。


「ウラ、立派な観客ができたわね。」


ウラは微笑んだ。

まるで初めて“本物の拍手”をもらったアイドルのように。


カイレンはその輪には加わらなかった。


彼女はエイデンを見ていた。


はいはいで近づき、

彼の健康な腕、額、包帯の残った腕にふれる。


「ん……あ……」


セリーアがささやく。


「また熱……?」


カイレンは毛布をとん、と叩く。


“ここ。熱い。”


エイデンは弱く笑う。


「……すごいな、小さな医者さん……」


カイレンは恥ずかしそうに目を伏せた。

かつて称賛に押しつぶされた記憶がよぎったのかもしれない。


ルミ(Lumi)はエイデンの横にぴたりと寄り添う。

彼女がいるだけで、彼の呼吸が安定する。


銀白の髪がふわりと輝き、

淡い青の瞳はずっとエイデンを見ていた。


エイデンはつぶやく。


「……まだ、そばにいるのか……?」


ルミは小さな手を、そっとエイデンの胸に置いた。


その仕草は言葉を超えていた。


“ひとりにはさせない。”


セリーアはそれを見て悟る。


——ルミは、何かを“知っている”。


◆ 朝の大騒ぎ:入浴タイム


セリーアが呼ぶ。


「はい、みんな〜、お風呂よ〜!」


そして大混乱が始まった。


リンカ → ばしゃばしゃ暴れる

サヤ → 「つめたい〜!」(実際は温かい)

マイア → 泡を芸術作品のように眺める

ウラ → 声が響くのが楽しくて歌が大きくなる

コマ → 壁の模様を分析して指差す

ルミ(Rumi) → 震えるがノアが抱けば落ち着く

カイレン → 水温チェックを始める

ダエル → 温かさにじっと浸る

ルミ(Lumi) → セリーアの腕の中で静かにエイデンを見守る


セリーアは声をあげて笑った。


「まるで……本当の家族みたい。」


◆ 朝食:小さな心が見せる“癖”


セリーアは森の薬草を使い、

柔らかいおかゆを作った。


九人はそれぞれの“らしさ”で食べる。


ノア → きちんと

サヤ → そわそわ

マイア → 興味津々

リンカ → 元気いっぱい

ウラ → 鼻歌しながら

コマ → 観察しながら

ルミ(Rumi) → ちょっと泣きながら

ダエル → 静かに味わう

ルミ(Lumi) → 深い落ち着き


エイデンは寝床からその様子を見つめていた。

疲れた瞳に——


久しぶりに宿ったもの。


希望。


九人が笑い、泣き、食べ、動く姿を見ながら……


エイデンは目を閉じ、小さくつぶやいた。


「……こんな光景を、もう一度見られるなんて……」


セリーアは聞こえてしまった。


「何を?」


エイデンは答えない。


代わりに——ルミを見た。


ルミも同じようにエイデンを見る。


そこで、セリーアは確信した。


エイデンとルミは“ある秘密”を共有している。

他の八人にも、自分にも、まだ分からない秘密を——。

「石の避難所で——

疲れた乳母と、傷ついた貴族と、

魂の砕けた九人の赤子たちが暮らし始めた。

本来なら世界に壊されるはずのなかった、

“小さな家族”として。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ