第84話 次に進む
大っっっっっ変遅れてすみませんでした!!
第84話 次に進む
センゲル平野
ジュニバール帝王国陸軍 前線司令部
一体何がどうなってる?
始めに異変を感じたのは何時だったか、それすら正確な時間が分からなくなっている程にバイート少将がいるこの前線司令部では混乱の真っ只中にいた。
司令部内では、並べられた机の上に広げた何枚もの地図に参謀達が何度もその地図に書き込んでは、魔信からの報告を聞いては、先ほど書き込んだ内容の文字を斜線で引いて新たな文字を書いての繰り返しであった。
「第142通信隊からの応答ありません!」
「第374歩兵中隊からの通信途絶!近隣の部隊からも反応が途絶えました!」
「先ほど通信が途絶えていた第90騎兵連隊の通信が復帰しました!しかし、部隊はほぼ壊滅的てあり、至急増援を求むとのこと!」
「司令部周辺の部隊はどこも壊滅状態です!」
次から次へと入ってくる情報は全てが、展開していた部隊の被害報告であった。良い情報など1つも無い。
この状態が続いていると、遂にこの司令部天幕にバイート少将が荒々しく入ってきた。彼は先ほどまで食事をしていたが、この緊急事態により慌てて呼ばれたのだ。
天幕に入って、机に広げられていた地図を見たバイート少将は不機嫌さを隠す様子もなく開口一言目に怒鳴る。
「・・・一体これはどういうことだ!?」
「ご覧の通り、司令部周辺に展開していた部隊の多くが、突如として現れた敵によって次々と打破されております。」
「そんな馬鹿な・・・」
参謀からの言葉にバイート少将は状況を漸く理解してきたのか、その肉付きの良い顔全体から滝のように冷や汗がダラダラと流しながら地図を見つめた。
バイート少将が見た地図には、この司令部を守るようにして各地に配置した殆どの部隊に✕印が書かれており、既にここの守りは無いに等しい状態だった。
「まさか日本がこれをやったのか!?」
彼は弛んだ肉を揺らしながら、隣に移動してきた参謀に問う。
「報告内容からも、それは間違いないでしょう・・・奴等は部隊を分割した後に我々の背後へ回り込んだのです。」
参謀の言葉に、バイート少将はギョっとした表情をする。これには発言した参謀自身も信じられないといった感想を抱いていた。
「奴等は…いえ、日本軍は戦力を分散させた上で、我々の想定を上回る機動力で、こちら側が察知する前に後方を完膚なき迄に叩いてきてます。 今も後方を攻撃している日本軍は強力な別動隊であるのは明白です!」
してやられた!・・・誰もがそう心の中で毒づいた。
大軍を前にして――しかも上位列強である自分達をだ――自分達の方から戦力を分散させる愚を犯したと思いきや、いつの間にか無防備な後方へと刃を向けていたのだ。
そして今、自分達のその背中はズタズタに引き裂かれており、血にまみれた刃はあと少しで心臓部にまで到達する勢いだ。
この考えに辿り着いたバイート少将は机の上に置いてあった多数の戦略駒や筆などを腕で荒々しく払いのけた。
「ひ、卑劣な日本人共があぁ!! よもや、こんな恥知らずな行為をするなど!!」
そうバイート少将は天幕内を響き渡らせるようにして怒鳴るが、すぐに参謀が彼を落ち着かせるように指示をこう。兎に角いまの彼等には時間が無いのだ。
「閣下! すぐにでも『ロモルディ隊』を後方の日本軍へと向かわせて下さい! 今も日本軍は後方の友軍を攻撃しているのです!」
天幕内に並べられた移動式魔信受信機からは次々と入電してくる報告に対応する通信兵達を背景に、参謀はそう言った。
「!・・・いや、それは・・・」
これに対してバイート少将は苦虫を噛み潰したように反応した。
この反応に参謀は、意図を察して心の中で悪態をつく。
(この馬鹿野郎! この期に及んで、本国への評価が下がるのが怖いか!?)
『ロモルディ隊』は今回の作戦に辺り、ジルヒリン前線司令官からバイート少将へと管轄を委譲された機甲部隊だ。
本国に本部を置く第1機甲軍団から派遣された精鋭部隊であり、この軍団の軍団長はジルヒリン議員とは親族にあたる。
そしてこのバイート少将の管轄下となっている『ロモルディ隊』の指揮官も、ロモルディ大佐というジルヒリン議員の叔父にあたる人物だ。
問題はそこなのだ。確かにかの名高き『ロモルディ隊』ならば、今も後方を暴れまわる日本軍の別動隊を返り討ちにしてくれる。
だがそれには、ジルヒリン議員と親密な関係であるロモルディ大佐から、後方の悲惨な状態を知られる事になる。
それ即ち、ジルヒリン議員からも、ロモルディ大佐経由で、この醜態は報告されることを意味する。
全面的な信頼を受けたのに情けなくも甚大な被害を被ってしまった間抜けな将なぞ、今後の人事においては、致命的なまでの傷となる。
これにバイート少将は抵抗を抱いているのだ。あれだけ見下していた日本に対して、他の者からの力を借りて撃破するのも、自身の沽券に関わるのも関係しているだろう。
だがそれを、今こうして持ってこられて困るのは参謀達だ。すぐにでも背中を刺している刃をへし折らねば、倒れるのは自分達なのだから。
「閣下! 迷ってる時間はありません! 直ちにロモルディ大佐へ指令を出してくたさい! その後の事はその時に考えましょう!」
「・・・分かった。 すぐにロモルディ大佐へ通達せよ。 ロモルディ隊は転進して後方に回り込んだ日本軍の迎撃にあたらせよ!」
切羽詰まった参謀からの具申に、バイート少将は渋々ながら、これを許可した。
これに安堵する表情を見せた参謀達を他所に、バイート少将は余りの屈辱感に身を震わせた。
前線司令部より命令を受信した戦車大隊を中核とした機甲部隊『ロモルディ隊』は、すぐさま行動を開始した。
なだらかな平野を幾十もの戦車が排煙を排出させる彼等の目標は、後方を脅かしている日本軍の別動隊の殲滅である。
そんな本隊から先発して先を進む1個戦車中隊規模の部隊であり、彼等は警戒しながら前進していく。
警戒とは言ってもいま進んでいる場所は見通しの良い平原であるため、警戒は二の次にして速度を上げていた。
そこから更に先を進むと進路上に木々が生い茂る林が彼等の目に映った。
その林は1つ1つが大きな木々が周囲を囲んでいるため、見通しがかなり悪くなっているのは想像に難くない。
迂回する…という考えが彼等の脳内に過ったが、早期による敵の撃破を第一に考えた彼等はこれを一蹴して、林の中を突っ切っる。
林の中へ入った彼等は暫く進んでいくが、想像を上回る視界の悪さに、流石の彼等も警戒を数段上げた。
報告に聞いていた日本軍の別動隊が居ると思われる場所からはまだ距離が離れているので、過剰な警戒はしなかったが、それでも彼等は周囲の気配や異常を見逃さないように集中する。
やがて数刻程の時間を掛けて進んだ彼等は、視界の向こう側に目映い光を見て、ようやく林の終わり目まで進むことに成功した。
問題は無いとは分かってはいたものの、やはり通常よりも警戒していた彼等は、安堵の息を漏らした。
そんな彼等の姿を横目に、この部隊の中隊長は先頭を進む戦車に指示した。
「イヴァルの車輌から順に、林を抜けた後は道から外れて周囲を確保しろ。 日本軍の待ち伏せに注意せよ。」
その指示を元に、先頭にいた戦車は速度を上げて林から抜けていく。
そうして先頭の戦車が無事に林の外へ出ていくのを見た後ろの戦車は、それに続こうと次々と林の外へと進む。
その光景を戦車から身を乗り出して見ていた中隊長は、本格的に問題無いと判断して、戦車の内部へ入ろうと、出入口のハッチへ手を握る。
その瞬間、林に出ていた数台の戦車が大爆発を起こした。
「っ!?」
慌てて目の前へと視線を向けた中隊長の目には、薄暗い林の中にいる自分達を真っ赤に照らす程の強烈な炎が映っていた。
昼間だというのに薄暗く、ジメジメとした林からいち速く抜けた先頭の戦車の兵士達は息をついた。
そんな彼等の1人で、戦車の上部ハッチから上半身を出していた戦車長であるイヴァルも同様に晴れ晴れとした空気を勢い良く吸い込んだ。
そうして気分の良くなったイヴァルは、未だに林の中を進む後ろの林の方へと振り返った。
その時に彼は異常を発見した。だが、それは余りにも遅すぎた。
林が途切れる境目から、200mもない左後方にそれはあった。
巧妙にも周囲の景色に溶け込むように置かれてあったものの、それは明らかな人工物であった。それも複数個あった。
「・・・・・・ん?」
その奇妙な光景にイヴァルは数秒の間、思考を停止してしまった。
やがてそれがただの人工物では無く、自分達の知る戦車だと分かった。
イヴァルの妙な様子に気付いた戦車下部にいた1人が声を掛けようしたが、彼の方から声がかかった。
「敵だ!! 砲塔を旋回…!!」
そう精一杯の声を上げたが、言い終える前にイヴァルの戦車は砲撃を受けた。
林の途切れる場所に配置された6台の90式戦車はイヴァルを中心に展開しようとしていた戦車を全て撃破した。
ほぼ同時に相手の戦車が爆発したのを上空を旋回する偵察ドローンで確認した第2戦闘団団長の池田は、手に持つタブレット画面から目を離して無線機へと目を向けた。
「砲撃開始。 中にいる奴等も掃除しろ。」
池田の号令が終わると同時に、タブレット画面越しから林な中で轟音が次々と鳴り響いた。
それを聞いた池田は興味も無さそうに画面を閉じた。
池田は自身が乗っている車輌の窓から顔を出して、その先の光景に視線を移す。
そこには自分の部下達である多数の90式戦車がそれ以上の数を引き連れている敵の本隊へと向かっていく光景だった。
いきなり林から抜けていった仲間達がほぼ一斉に爆散する光景を見てしまった彼等は、この状況下にあるのにも関わらず呆然としていた。
一瞬にして高い信頼を受けていた自分達の戦車が鉄屑になっていく瞬間は、彼等が理解するのには暫しの時間が必要だったようだ。
「敵だ! 林の中も警戒しろ!」
いち速くこの混乱から脱した中隊長がすぐに指示を出す。
これに我を取り戻した部下達は慌てて戦闘態勢へと移行するが、彼等の動きは覚束ない。
それも当然だ。聞いていた報告では日本軍は、まだずっと先の場所にいると聞いていたのだ。
ここからはまだ距離があり過ぎる。彼等が気持ちを整理させるのには充分な時間があった筈なのだ。
本国での訓練とは明らかに動きの悪い彼等を見た中隊長はギリッと奥歯を噛み締める。
あまりにも突然過ぎる! 報告ではまだ先の筈だろうが! 司令部は何をしているのだ!?
中隊長はそう心の中で悪態をついた。怒りの矛先を向けられた司令部だが、これは認識の違いと彼等の焦りがあったからだ。
歩兵主体の前線部隊とは言えども、こうも短期間の間に壊滅状態にされたと察知した司令部は、日本軍の別動隊は実際よりも大規模な部隊であると判断した。
その規模は旅団規模の別動隊・・・数に物を言わせた物量作戦で卑劣にも後方を攻撃したと予想したのだ。
そして、その連隊規模の別動隊は、真っ直ぐに司令部を向かってくるものだと予測した司令部要員達は顔を真っ青にした。
この規模の敵を撃破するには、もはやより後方に待機するロモルディ隊しか居ないのだから。
だからこそ前線司令部は一刻も早く、この別動隊を排除させるために、ロモルディ隊を急かすために想定場所よりも僅かに遠くにいると彼等に知らせたのだ。
しかしそんな司令部の思惑とは裏腹に、第2戦闘団を率いる池田は、殆ど孤立させた司令部を無視して、全速力へと向かってくる機甲部隊の撃破へとUターンして向かったのだ。
盗聴した司令部の混乱ぶりから、目標である増援部隊は、多少の無茶はしても全速力で向かってくると池田は予想。
それを元に池田は、本来ならば進行ルートからは除外するであろう、この林に部隊を配置。進軍を急ぐ彼等の隙を突いた。
その結果がこれである。
中隊長が指示を出して部下達があわただしく動き回る中、今度はこの車列にいた幾つかの戦車が爆発した。
後方から伝わる熱波と衝撃波に、中隊長は思わず身体を縮めて悪態をつく。
「くっ! やはり林の中にも待ち伏せか!」
こうなればすぐにでも敵の場所を特定して反撃しなければ格好の的である。
これに付近にいた無傷の戦車が応戦しようと、鋼鉄の車体を動かすが、すぐに別の敵からと思われる砲撃を受けてしまう。
次々へと、とんでもない速さで爆発していく光景を見た中隊長は、これが完全に詰んでいると理解してしまった。
「糞ったれ!! 完全に包囲されているのか!?」
しかも戦車が一撃で殺られている事からも、少なくとも相手は、高性能な対戦車砲を保有している。
こうも素早く車輌が破壊されていけば、すぐに士気は崩壊する。しかも逃げようと車輌を動かそうとするにも、既に破壊された戦車の残骸が邪魔して動けない。
かといって反撃しようにも、敵は見事なくらいに林の景色に溶け込んでおり、見つけるのが困難であった。相手はこういった森林地帯での戦闘を想定した部隊のようだ。
完全に詰んだ。進むのも戻るのも不可能。
せめて後方を進む本隊に、待ち伏せを報せようと中隊長の腕が備え付きの魔信機へと伸ばすがその直前に、林に隠れていた01式軽対戦車誘導弾を持った国防隊員によって彼は隊長機諸とも爆発した。
ほぼ時を同じくして、壊滅した先発隊の後方を進むロモルディ隊の本隊にも異変が起こっていた。
見通しの良い平原を颯爽と駆け巡るロモルディ隊の本隊は彼等から見て、左前方から多数の
土煙を撒きながら、此方へと近付いてくる集団を確認した。
「左前方に土煙! 真っ直ぐ此方に向かってきます!」
すぐさま周囲を見渡していた部下からの報告に、ロモルディ隊の指揮官であるロモルディ大佐は、無骨なカップに注がれていた茶を飲むのを止めて、双眼鏡を取り出した。
双眼鏡の先には、砲塔を此方に向けて走行する多数の戦車部隊が映っていた。
これを見たロモルディ大佐は眉を潜めて副官に口を開く。
「・・・司令部は何をしている。報告と全く違うではないか。」
状況から見ても明らかに報告に聞いた日本軍の別動隊であろう。
報告と全く違う場所から現れた集団に、ロモルディ大佐は、前線司令官であるバイート少将の評価を大幅に下降させた。
階級上では向こうの方が上だが、自身は軍門でも有数の一族であるため、外面上は兎も角、内面では完全に彼を下に見ていた。
(これはジルヒリン議員に報告だな)
この件が片付き次第、バイート少将は更迭されるであろう。そう考えたロモルディ大佐は思考を戦闘状態に入らせる。
「あれは日本の別動隊だ。 ただちに先発隊を戻らせろ。 奴等を包囲する。」
その指示と共にロモルディ大佐は、まだ茶が残っていたカップへと手を伸ばして一気に飲み干して、好戦的な笑みを浮かべた。
ここから見た限りは敵の戦力は少ない。此方側の半分にすら満たないであろう。
しかも情報によれば、日本の戦闘車輌は性能が低く練度もお粗末なものだと言う。
「全く楽な戦いだな・・・」
気楽な戦いに、余裕の笑みを浮かべた大佐はそう呟いた。これでまたもや自分の戦績に箔がつくのだから有難い話だ。
そうやってロモルディ大佐は、手に持っていたカップを外に投げ捨てた。
この戦車戦で最初に動いたのは相手方の半数にも満たない日本側であった。
戦車小隊ごとに、陣形を維持していた90式戦車は距離1500mの所で砲撃を開始する。
まだ砲撃距離ではないと判断していたロモルディ隊は、緩やかに戦闘陣形に移行していた最中で90式戦車の洗礼を受けた。
最初の砲撃で左側面に展開していたジュニバール帝王国陸軍の中戦車であるカイロⅢ型は一気に半数を喪失。
これにより慌てた様子を見せる軽戦車の群れがジグザグに動き回り始めた。
これを見た池田は、つまらなそうに呟く。
「馬鹿が。この距離じゃあ意味ねぇよ。」
90式戦車は最新の10式の旧式とは言えども、その砲撃命中率は転移以前の先進諸国の最新鋭戦車とも渡り合える程の性能を誇る。
そんな90式戦車にとって、既に1500を切ったこの距離ならば、小刻みに動き回ろうとも命中率は90%を維持出来る。
すぐさま第2斉射が行われ、動き回る小型戦車を鉄の残骸へと変えていく。
「各小隊は現在の距離を維持しながら各個に射撃だ。 最低限の砲撃にしろよ。 俺達は更に奥へと進むんのを忘れるな。」
池田がそう指示を出し終えたタイミングで、ようやく相手方の主力であろう大型の戦車が混乱する味方戦車を追い抜いて突進してきた。
だが池田は、既に興味を失っており次の段階へと意識を向けていた。彼にとっては既に決定事項の路線なのだから。
爆発四散する味方戦車を避けるようにしてひときわ大型の戦車が蒼白い排煙を出しながら速度を上げていく。
通常の戦車よりも一回り大型でより純度の高い魔法石を燃料としたドゥーブ重戦車はその力を最大限に放出して突き進む。
「進めぇ!進めぇ!」
もはや先ほどの余裕が完全に消え去ったロモルディ大佐は、激しく揺れる車内でも姿勢を維持しながら必死に叫ぶ。
その必死な様は、先ほどの態度を知る者から見れば滑稽な様子だか、幸いにもそれを考えに浮かぶ者は居なかった。
いやそんな余裕がある者がこの場に居ないのは不運とも言うべきであろう。
ほんの一瞬の出来事で、このロモルディ隊の戦力は大きく削られてるのだから。
ジュニバール帝王国陸軍の主力戦車であるカイロⅢ型中戦車の装甲をたったの1発で、しかも射程距離外からの砲撃で沈黙していることから、マトモに相手に出来るのはドゥーブ重戦車しかいないだろう。
ロモルディ大佐は、自身が乗り込んでいるこの戦車ならば勝てる、そんな希望を託して前進する。
だがそんな淡い希望はすぐに打ち砕かれることとなった。
当方よりも右前方を進んでいた別のドゥーブ重戦車が敵の戦車からと思われる砲撃によって他の戦車と同様に一撃で撃破されたのだ。
目の前で重戦車が撃破されたのを見たロモルディ等は足並みを崩してしまう。
「馬鹿な!重戦車がたったの一撃でだと!? しかも何だ! あの命中率は!?」
おかしい、何もかもが聞いていた情報と全く違う事態にロモルディ大佐は叫ぶように口を開いた。
(日本の戦闘車輌は脆弱?・・・ふざけるな! これの何処が脆弱だと言うんだ!!)
そう叫んでいる内にも次々と配下のドゥーブ重戦車が日本の戦車によって鉄屑へと変えられていった。
この状況を打破するために反撃しようにも、向こうは此方の射程距離外からずっと砲撃してきており、どうすることも出来なかった。
ここにきて実力差を理解した彼等だが、それが分かった所で彼等ではこの状況を打開する選択肢などある筈が無かった。そこへロモルディ大佐が指示を出していく。
「残っているカイロ戦車を前面に出せ! ドゥーブ戦車もこのまま前進を続けよ!」
彼の指示は速やかに各部隊に伝えられ、次々と撃破されていく中でも懸命に前進を続けた。勝てる可能性など限り無くゼロに近いというのにだ。
「撤退だと? この私が敵を前にして引き下がるなどあってはならん!」
彼の乗るドゥーブ重戦車が煤の混じった黒煙を吹き散らす戦車の成れ果ての近くを通り、ロモルディ大佐の頬に黒い汚れが付くが、それを気にも止めずにそう言った。
戦力の大半を失った状況で撤退すれば自身のみならず、一族がこれまでに築き上げてきた名声と地位が地に堕ちるのは明白だ。
ならばせめて目の前の敵に少しでも損害を与えて突破口を開くしか道はない。
彼は目を限界まで見開いてロモルディ大佐が乗車するドゥーブ戦車はグングンと日本軍の戦車へと近付いていく。
そしてふと気が付けば生き残っていた戦車は、ロモルディ大佐が乗っている戦車だけだった。
偶然にも指揮官であるこの男の乗る戦車だけが最後まで狙われずに先頭に並ぶ日本軍の戦車に近付く事に成功した。
充分にドゥーブ重戦車の有効射程距離まで近付けたロモルディ大佐だったが、そこで自身が対峙する日本軍の戦車を見て目を見開く。
デカいっ!・・・少なくともこのドゥーブの1周り以上はある!
ロモルディ大佐はそう90式戦車を見て驚愕した。
そして驚愕している間に近くにいた90式戦車はその図体からは考えられない程の軽やかな動きで彼の乗る戦車から距離をとった。
「あの大きさであの機動力だと・・・一体どんなエンジンを搭載しているんだ!」
ロモルディ大佐がそう呟くと同時に、ドゥーブ重戦車の砲搭が火を吹いた。
その放たれた砲弾は、正面で回避運動をしていた90式戦車に向かっていったが虚しくもその周りに着弾してしまう。
そしてその瞬間、別の90式戦車が放った砲弾がロモルディ大佐の戦車へと砲撃をして、彼の乗った戦車は爆発した。
ロモルディ隊 壊滅
上空からの偵察ドローンからの映像をタブレット画面で一部始終を見ていた池田は淡々と呟いた。
「・・・終わったか。」
敵の機甲部隊の中核を構成していた戦車は全てを撃破する事に成功。残るのは物資を載せた輸送車両や随伴していた歩兵部隊だったが、その歩兵の大部分は戦車が全滅したのを見て、一目散に散っていった。
「適当に追撃したら、一旦後退して補給をする。分散させている部隊にも通達。 加藤にも知らせておけ。」
「了解。」
そう言い終えると池田を載せた車両は動きだしていった。
その背後には空高くまで黒煙を昇らせ続ける戦車の残骸だけが草原に残っていた。
ハマ山岳 ジュニバール帝王国陣営
「ここは地獄だ・・・それ以外にここに相応しい名なんてあるわけがない。」
そう絶望した表情で言うのはジュニバール帝王国陸軍の歩兵中隊に所属する若き兵士ソブンだった。
いま彼の目の前に広がるのは、木々が生い茂り大きな岩が其処らじゅうにある足場の悪い山が映っていた。
とてもハイキングには向かないと素人である彼でも分かるこの地では現在激戦となっていた。
どんなに目を凝らして見ても、人はおろか野生動物ですらも見つからないのに、彼の同僚達が次々と敵である日本軍からの銃撃で撃ち抜かれていく。
「進め! 敵は目の前だ!」
そう上官が声高らかに指示を出して進んでいくが、すぐに日本からの銃撃により地に伏した。
「畜生! どこに隠れてるんだ!? 全く見えねぇよ!!」
そう彼は持っていた小銃を抱かえるようにして伏せる。そうしなければ何処に居るか分からない日本軍によって撃たれるからだ。事実、伏せるのに遅れた仲間が次々と敵からの弾幕によって倒れていく。
ソブン達が進んでいたこの区域は不運にも第3戦闘団の中でも特に戦力を重点的に配置していた場所だった。
そして今そこをジュニバール帝王国陸軍は2個大隊規模の戦力で攻撃していたが強烈な反撃を受けていた。
「ソブン!? 生きてっか!?」
そうすると隣から銃声を掻い潜るように知った声が聞こえた。ソブンは全力の声で応えた。
「死んでたら返事なんてしないだろ! それよりも敵は何処に居るんだよ!?」
「軍曹が言うにはあの丘にいるらしい! 俺達はこれからあそこに突っ込むってよ!」
「はぁ!? この銃撃の中でかよ!」
こんな銃撃の中で動き回るなんて正気じゃない。
ソブンはそこで初めて声のする方向へ振り返った。そこにはやはり知り合いの顔が見えた。
同じ中隊であり友人でもあるベジーだ。その友人は全身を泥だらけにして伏せていた。まぁ自分も全く同じ有り様なのだが。
「俺だって嫌だよ! お前とこの小隊長はどうした!?」
「ついさっき殺されたよ! あそこにいる死体がそうだよ!」
ソブンは先ほど撃たれた小隊長の方を指差して答えた。
「マジかよ・・・イミラとこの小隊長も殺られたらしい! というよりもイミラ以外の小隊全員が死んだってよ!」
「そんなの周りを見たら珍しくねぇよ! 一体どれだけの死体があると思ってんだ!」
その瞬間、ソブン達の近くを第3戦闘団が放った迫撃砲が着弾して大量の土を撒き散らした。
「うひゃぁ!?」
砲弾が着弾したことにより大量の土が彼等の方にまで土埃として舞ってきた。
「ぺっぺっ! 今のはヤバかったな・・・」
ソブンは口の中に入った土を急いで吐いた。幸いにも怪我はなかった。
「ここも本格的に危険だな・・・俺は行くぜ。じゃあな! 死ぬなよ!」
同様に無傷だったベジーは自分の小隊の方へと匍匐で戻っていった。
1人となったソブンは慎重に少しずつ場所を変えていって生存率を上げていったが、あるタイミングで日本軍からの銃撃が収まっていってる事に気付いた。
そこで頭を上げて前方の日本軍がいると思われる場所に視線を向ると、巧妙に隠れていた日本兵が続々と後退していくのが見えた。
「な、何だ・・・?」
なぜ急に彼等が逃げていくのが分からない。少なくともこの場の戦況は彼等が圧倒的に優位の筈だと言うのにその彼等が逃げていた。
ふと周りを見渡せばソブンのように運良く生き残っていた仲間がチラホラと見えた。その彼等もソブンと同じように疑問を抱いていた様子だ。
「なんで奴等は逃げていったんだ?」
誰かがそう口を開いた。それに周りの仲間がこぞって言葉を発する。先ほどまでの地獄の様な戦場を忘れようという本能で話し始めた。
「・・・追撃するべきか?」
「無理だ。 どの小隊も壊滅してるだぞ。上官だって殆どが殺られてるのに誰が指揮するんだよ。」
その会話にソブンも参加した。
「た、確かベジーの小隊長はまだ生きてるらしい! ベジーの所へ行こう!」
どうせここで話し合っても進展はしない。そう考えた彼等はソブンの提案に乗ることにした。
ひょっとしたらベジー達の反撃が成功したから奴等は撤退したかも知れない。
「その前に負傷者を回収しよう。 今がチャンスだ。」
その言葉にソブンも頷く。確かに周囲には怪我で動けない者も多くいた。その彼等を救助するべきだ。
バタバタバタバタ……!
ボロボロの身体を無理矢理動かして負傷者を後方に下げようと動き出した彼等だが、そこで遠方の方から聞き慣れない音が耳に入る。
ソブンは呻き声を上げていた同じ小隊の肩を掴んだ所で動きを止めた。見れば他の仲間もその謎の音に動きを止めたいた。
全員がその音に集中していた最中、上空からその音の正体が視界に入った。それは飛行機のような物だった。
いや、飛行機では無いのだろう。それは見たことのない形状をしていたのた。
『それ』は羽の様な板が上部で高速で回り続けており、それがこの音を出しているようだ。
何だあれは!?
それは先ほど日本兵が後退していった方角だった。それが意味するのは即ち・・・
「敵だ! 敵の航空支援だ!」
負傷者の中にいた1人が大きな声で叫んだ。それを聞いた彼等は大急ぎで逃げる。
あれが自分達の知る飛行機では無いのは明白だ。どんな方法で攻撃してくるのかが分からない。そもそも攻撃してくるのかも不明だが、逃げない愚か者はいない。
だが逃げるのが遅すぎた。ソブンの背中目掛けて、第4戦闘団のヘリコプター部隊は対地ミサイルを放った。
ハマ山岳 上空 第4戦闘団
木々や岩場が目立つ山岳を20を越すAH-64Dが時速150Kmを維持して飛行する。
『ザザザーー 司令部より通達、B-4エリアにいる隊員の退避を確認。 当該エリアの攻撃を許可する。』
「こちらドラゴン01、了解。これよりB-4エリアにいる敵への攻撃を行う。」
そう無線機によるやり取りを終えると同時に、周囲にいたAH-64Dは散らばり始めた。
『こちらドラゴン06、林に隠れている敵歩兵を確認。座標は395--45……』
別の機体から敵発見の報告を受けたパイロットはすぐに送られた座標を元に機体下部からの特殊カメラで該当場所を見る。
確認すれば確かに多数の敵の歩兵が立っているのが見えた。
「こちらドラゴン01、座標を確認した。これより対地攻撃を開始する。」
パイロットはそう言うと操舵悍のボタンに指をかけて力を込めた。
その瞬間、AH-64Dの両翼下部に設置したロケットポッドから70mmロケット弾が発射された。
その後に30mm機関砲で撃ち漏らした敵に向けて次々と発砲する。
「敵の沈黙を確認……次へ向かう。」
パイロットはそう淡々と告げると、機体を動かして次の敵へと向かった。
『こちらファイア01、これより敵連隊司令部への攻撃を開始する。 敵航空勢力は依然として確認できず。』
ハマ山岳 ジュニバール帝王国 連隊本部
数時間前のバイート少将等からの前線司令部への前進命令でハマ山岳に立て籠る日本軍への攻撃が開始されていたが、その担当する連隊本部では現在のバイート少将等と同様に大混乱であった。
「敵部隊との交戦に入っていた中隊からの魔信が根絶! 壊滅したと思われます!」
「後方の部隊への連絡が未だに取れません! 前線司令部へも矛盾する内容の魔信しか繋がりません!」
連隊本部要員等は必死にマトモな情報を纏めようとするが、次から次へと押し寄せてくる情報に本部の情報処理能力は浪費していた。
更には日本側による通信妨害により各部隊、前線司令部等との連携が遮断、更なる大混乱を引き起こす事態へとなっている。
既に連隊が所属する部隊の多くがこの時には、壊滅状態へと陥っており、継戦能力を失いつつあった。
そんな状況下の連隊本部の元へ、先ほどのAH-64Dとは別のAH-1Sが対地装備を満載した状態で強襲をした。
本部の防衛を担っていた200名程度の戦闘員に対して28機もの戦闘ヘリが強烈な対地攻撃を繰り出した。
AH-1Sの機首下部に設けられた30mmチェーンガンやグレネードランチャーを混載した機体に、強力な62mmミニガン等の豊富な機銃攻撃はもとより、ヘルファイアやM151弾頭にしたロケット弾が炸裂する。
忽ちの間に連隊本部を防衛していた戦闘員は壊滅。次にヘリコプターからの攻撃は本部に詰めていた要員等に向けられる。
幸いにも本部の要員である将校が慌てて連隊長を安全な場所まで避難させることに成功した。
戦闘員が壊滅した中で、一部の要員達が反撃しようと落ちていた小銃で上空を旋回するAH-1Sへ発砲するがすぐに機銃で沈黙される。
連隊長は逃がしてくれた将校と数人の生き残りの戦闘員に囲まれながら連中の攻撃が届かない場所で眼下の悲劇を目の辺りにする。
彼等はそこで全てを察する。連絡が取れない他の部隊もここと同様の攻撃を受けて既に壊滅したのだろう。
連隊長はそこで生き残りの彼等の方へと振り返り、重々しく口を開いた。
「諸君……我が連隊は壊滅した。 この情報を何としても司令部にまで届けなければならん!残存する部隊を集結させて後方へ撤退する。」
この命令に異議を唱える者は当然おらず、彼等はそのままの足でこの場を後にした。
ノル・チェジニ軍港 第1戦闘団 司令本部
バリアン大陸に展開する日本国防軍の司令官である鬼導院中将の元へ多くの情報が絶えず集まっていた。
「師団長、蒼井団長の部隊が敵の連隊本部を壊滅させました。」
「ハマ山岳に展開する敵部隊の物資集積所の攻撃も成功、7個中隊規模の敵が降伏しました。 一部の敵小隊からの反撃を受けたようですが殲滅したとの事です。」
「第2戦闘団が敵機甲部隊の殲滅を確認。現在は加藤大佐等と合流して補給を完了してセンゲル平野に駐屯する前線司令部へと真っ直ぐに向かっています。」
仁王立ちで報告を聞く鬼導院中将の隣で、師団司令部の参謀の1人は安堵の息を漏らす。
(一先ずは解決したな……)
当初の計画通りには行かなかったが、池田率いる第2戦闘団の迅速な行動により大きな問題は出ていなかった。
ハマ山岳で大多数の敵部隊と交戦していた第3戦闘団も大きな被害を出さずにすんだ。じきに前線司令部を攻撃し終える池田の部隊が背後から包囲するであろう。
そこまで考えた所で、彼は大きく息を吸い込んだ。
何にしても数日で行う予定の作戦を24時間以内で終わらせたことにより、此方にも余裕が出てきた。
「センゲル平野にいる全ての敵部隊を掃討した後に各団長に連絡をとれ。」
そこへ先ほどから沈黙を貫いていた鬼導院中将が口を開いた。彼はすぐに姿勢を正して答える。
「了解しました。」
それを聞いた鬼導院中将は天幕から出た。
センゲル平野
ジュニバール帝王国陸軍前線司令部
平野に設置されていた天幕が荒々しく倒れていき、それを司令部につめていた兵士達が大急ぎで畳み込んで輸送車へと仕舞う。
天幕だけでなく大型の魔信設備等の重要な機材も数人掛かりで専用の輸送車両へと慎重に運んでいく。
現在彼等は撤収作業に移っていた。だが彼等の表情には必死とも言える程に切羽詰まった様子だ。
ロモルディ隊への連絡が途絶え、ハマ山岳に向かわせていた部隊も生き残りの連隊本部から寄せられた報告により数千いた部隊は壊滅、現在の前線部隊の戦闘員はこれで全滅したことが判明。
「……全滅? 4000いた兵達が返り討ちにあっただと? ろ、ロモルディ隊までもが負けたと言うつもりか? 貴様等は!?」
これらの報告を受けたバイート少将は当然ながらこの報告を誤報と考えた。だが参謀等は何回も確認した上で、集められた報告の多くが信憑性が高いものと判断した。
必死の説得によりバイート少将はこれ等の報告が正しいと分かると、力なく近くにあった椅子へと座り込んで呟いた。
「は、はは…………何という失態だ…………こ、こんな馬鹿げた事になるなんて…………」
悲痛な声と共に肥えた腹を揺らす。これを見た参謀達は彼には指揮能力は無いと判断し、副前線司令官が指揮を継承、すぐさま撤収命令を出した。
この命令を受けた者達は司令部要因総出で撤収作業をして今に至る。
やがて全ての撤収準備が終えるとバイート少将等は全速力で後方へと移動した。
悪路ともいえる平原を走る車両に身体を揺らされながらバイート少将は今後の事について試行錯誤していた。
「どうするべきだ…………ガーハンス鬼神国に応援を……駄目だ! ジルヒリン議員にもそれは伝わる……どうあっても情報は漏れる……どうすればいい!?」
どう転んでも、前線部隊が壊滅した事実はジルヒリン議員等に伝わる。
そんな当たり前の事を防ごうとブツブツ呟きながら考える姿のバイート少将に対して、同じ車両に乗っていた参謀は心の中で悪態をつく。
(この豚が! 今がどんな状況が理解してるのか!?)
確かに今後の身の振り方を考えるのも重要だろう。自分達だって厳罰を受けるのは理解してる。それを受け入れる訳ではないが、それよりももっと重大な事がある。
前線部隊は壊滅。これは自分達 前線司令部を護衛する部隊がいないことを意味している。
無論、前線司令部にも戦闘員ならいる。だが砲兵と騎兵が1個小隊に、1個歩兵中隊程度の戦力しかいないのたが。
この程度の戦力で後方200kmの距離にある友軍の元まで無事に辿り着けると楽観的に考える者などいない・・・何せ、あのロモルディ隊を壊滅させた日本の別動隊がこの付近にいるのだから。
そんな相手にたったの数百以下に過ぎない自分達でどうにか出来る訳が無いのだから。
参謀は目を凝らして懸命に周りを見張る。どんな異常も見逃すまいと。
どうか敵は現れないでくれ!そう誰もが神に願う。
撤収する前線司令部の先頭を走行する車両の運転手はそこで、真正面に土煙がたっているのを発見した。すぐに隣に座る同僚に声をかけた。
「お、おい、正面のあれって・・・」
隣の同僚も頬に汗を垂らして応える。彼は持っていた小銃を強く握り締めた。
「・・・ま、まだわからない。 動物の可能性だってある・・・」
同僚はそう言うが、明らかにそうとは思っていない様子だ。そうだと言う願いを言っているに過ぎなかった。
そして段々と距離が近付いて、より鮮明に姿が見えるようになり彼は目を大きく開いた。
「あぁ……糞っ!」
それが何なのかわかった彼は強く吐き捨てて、後ろに座る同僚に荒々しく言う。
「後ろの連中に知らせろ! 日本軍だ! 日本軍の戦車がこっちに向かってきてる!」
「あ、あぁ! 糞ったれめ!!」
その瞬間、先頭を走る彼等の車両目掛けて第2戦闘団の90式戦車の砲弾が命中した。
時は進み数日後・・・センゲル平野から200km後方に都市国家があった。
人口8000人のこの大陸としては中規模程度の都市国家にこの街の住民を大きく超える14000のガーハンス鬼神国陸軍が駐屯していたが、そんな彼等はこの街から出てセンゲル平野へと進軍しようとしていた。
その進軍を円滑に進める為に、センゲル平野までに続く道路を進む中隊規模の騎兵部隊がいた。
ガーハンス鬼神国陸軍に所属する部隊は道路の状態の確認や付近の偵察をしていた。
数日前からセンゲル平野に駐屯するジュニバール帝王国軍からの定期連絡が途絶えて以降、ガーハンス側の上層部はこの都市国家に駐屯する部隊に確認をとらせる為に進軍を命令したのだ。
もしかすればハマ山岳にいる日本軍からの思わぬ反撃を喰らって苦戦しているのだとすれば、その援護の大義名分にすれば戦後の利権獲得で大きく有利に動くので彼等は迅速に行動した。
やがてセンゲル平野まで残り30kmの所にまで到着したこの騎兵部隊は、暫しの休息のためにそこで止まった。
軍馬とは別に連れてきていた輸送車から軽食の食糧を部隊に配ると、彼等は各々の場所で食事をとった。
ガーハンス陸軍の騎兵に所属するノーム上等兵も他の者と同様に近くにあった手頃な岩の上に座って食事をした。
保存性を第一にした味の悪いパンと、薄い塩の利いた豆スープを交互に口に運んでいた彼だが、途中で異変を感じとる。
近くに置いてあった愛用の騎兵銃を手に持って立ち上がった。他の仲間はそんな彼を見て不思議そうに声をかける。
「どうした?」
彼は異変を感じ取った方向を向いたまま鋭い声で応えた。
「分からん。 だが、何か胸騒ぎがする。」
「・・・何だそりゃ?」
仲間はそう言うと食事を再開する。だが、一向にある方向を睨むままの彼に、再度声をかけた。
「・・・おい、いい加減にしろよ? 目障りだから早く座れよ。」
せっかくの食事を邪魔されたのもあって、少し不機嫌な様子だ。しかし彼は動かない。
その無反応に苛立ちを感じるが彼の顔を見て、彼も表情を変えた。
溢れんばかりの冷や汗を滴らせる彼の表情はどう見てもただ事じゃなかった。すぐに立ち上がってその方向に銃を構える。
「敵か!? どこだ!?」
その声に他の仲間も銃を手に持って警戒態勢にはいった。
そして彼等はノーム上等兵が見つめる視線の先へと向けて動きを止めた。
その先には友軍がいる筈の方向から、見慣れない形状をする数百以上もの戦闘車両が此方側へと向かってきていた。
地上だけではない。その上空にも薄い板を上部に取り付けて高速で回す飛行物体もが目に移った。
なぜあの方向からあんな集団がいるのだ?そんな考えが過る。向こうにはジュニバール帝王国の軍がいた筈だ。
そこへ1人の仲間が呟いた。その声は異様に全員の耳に入った。
「まさか全滅したのか?・・・奴等に・・・」
第2戦闘団・第3戦闘団・第4戦闘団と3つの戦闘団は1つの集団となって前進を開始した。
先頭を突き進むのは150台以上を超える車両を率いる池田の第2戦闘団と70機の戦闘ヘリの混成戦闘団だ。
「前方に騎兵を確認・・・ガーハンス鬼神国の部隊です。上空のヘリコプター部隊も確認しました。」
やがて前方の騎兵部隊を確認した地上部隊が池田に報告した。
報告を受けた池田は命令を下す。
「うしっ。 さっさと蹴散らして先に進むぞ。」
そう言い終えると隣を走行していた90式戦車が砲撃した。
時が空いてたので前回と話が矛盾してたらすいません・・・




