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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第82話 電撃戦の始まり

1週間も空いてしまい申し訳ありません

第82話 電撃戦の始まり




    オーマ島 オーマバス共和国 

     某港付近にある倉庫区画



日本・地球連盟国による連合軍によって打破されたオーマバス共和国の港の倉庫区画を多数の車両が列を作って走っていた。


その車列は数多くある倉庫の内の1ヶ所の前で止まった。倉庫には既に周囲を囲むようにして多数の人影が立っていた。


多数の車両から大勢の人が車から出ると、周囲に目を凝らして警戒にあたった。


車両から出た者達は、一般人とは明らかに違う雰囲気を醸し出しており、彼等がただ者ではないという事は感じ取れた。


やがて周囲に危険が無いと判断した彼等は車列のど真ん中に止められていた車の後部座席に座る人物に対して窓越しからジェスチャーを送ると扉が開かれた。彼等はその男の護衛を勤める者達であった。


後部座席から扉が開かれ、久方ぶりに外の空気を吸った眼鏡を掛けた細身の男は未だに沈まぬ太陽を煩わしげに片手で日陰をつくった。


既に倉庫を囲むように立っていた者が、最後に車から出たその眼鏡の人物こそがこの集団のトップに立つ人物だと察して、1人の男が声をかけた。


「お待ちしておりました。 既に中で皆様がお待ちです。」


その声からは一定の敬意が含まれているように静かにかつ、穏やかな口調であったが、声を掛けられた人物は、それが表向きに過ぎず、心の裏ではこちらを見下している事を見抜いた。


しかし彼はそんな事はどうでも良いと言わんばかりに返事をした。


「そうか。 ならさっさと入ろうか。」


そう男が言うと、数名の護衛のみを引き連れて先ほど声を掛けてきた男の案内の元、倉庫の中へと入った。


残った他の男達、護衛役であった彼等を、倉庫を囲んでいた別の人物が彼等を別の場所へ移動を促した。


「貴方達は向こうで移動をお願いします。 他の方達も既にそこへ集まっていますよ。」


そう言われた彼等は声は出さずに頷くだけで、車を置いてその人物の案内に従った。


すると男達は護衛役である彼等を囲んで移動をした。まるで余計な行動をさせまいと無言の圧力を掛けるようにして。


しかし、彼等は知らなかった。自分達が囲んでいるその集団の正体を・・・




中へと案内された眼鏡を掛けた男は、広々とした倉庫内の中心部に大きな円形の机が置かれており、その全周を囲むように椅子が置かれているのを目にした。


その円形の机に設けられた1つを除き椅子には既に何者かが座っており、その背後を各々が連れてきたであろう護衛を立たせており、その状況を見て自分が最後尾だと言うことを眼鏡の男は察した。


そして眼鏡の男性の気配を感じ取った1人が彼を見つけて声をかける。


「遅いですよ、曹さん。」


そう声をかけた白人の壮年の男性の言葉に、曹さんと呼ばれた男は軽く詫びの言葉をした。


「お待たせして申し訳ない。 ここに来る途中で渋滞に巻き込まれましてね。」


そう詫びの言葉を護衛を他の者達と同様に後ろに立たせた後、入れて椅子に座った男は、中国人の曹重成という名前であり、れっきとした地球人であった。


彼だけでなく、少なくともこの椅子に座る者達は全員が地球人であり彼の知る人物達だ。


曹のようなアジア人もいれば先ほど声を掛けてきた壮年の白人の欧米人や黒人等も多種多様の人種が揃っていた。


そしてこの椅子に座る男達は1つだけある共通点があった。


それは全員が裏社会に身を置いている者達であること。それもかつて地球の各国において最大勢力を持つ強大な力を持ったマフィア組織で高い地位に付いていたのだ。


そんな彼等が何故、オーマ島でこのように集まっているのか、そして何故、日本側の代表である武竜会の者は居ないのか、疑問は尽きないと思われるがすぐに分かることになる。


「さて、皆様御揃いになったので、早速、本題に入らせて頂きましょうか。」


そう全ての椅子が座ったのを確認したのか、倉庫の端から現れた人物に全員の視線が集まった。


その人物は、自分達と同様に数名の護衛を引き連れており、その表情は爽やかで余裕を感じ取れるような穏やかなものであった。


その男は円形の机の付近にまで近付くと、自分達の方へお辞儀をした。


「アンタは何者かね? こうして我々を集めるとはいったいどんな要件だ?」


すると、曹と対面に座る男がその人物に声をかけた。彼の記憶が正しければ、ベトナムを根拠地としたマフィア組織の男だ。


そして質問を受けた男はにこやかな表情のままこう口を開いた。


「これは失礼しました。 私の名はウルジェイナとお呼びくたさいませ。 最初に申し上げれば私達は皆様と同じ立場の者であります。」


そこでウルジェイナといった男は横髪を掻き分けるような仕草をして、その時に彼等はウルジェイナの言葉と耳を見て正体を察した。


(長く尖ったような耳・・・成る程。 この世界のマフィア組織の使者か。)


ウルジェイナの耳はエルフ特有の耳長であり、曹達はこの人物の正体をそう結論付けた。事実、それは正解であった。


「ほほう・・・そちらのマフィアがこうして我々を呼びつけるとは、一体どんな話を聞かせてくれるのかね?」


アフリカ系の男がウルジェイナにそう聞いた。


ウルジェイナは机の上にそれぞれ1枚ずつ紙を配ってこう言った。


「まずは配られた紙に署名をして頂きましょうか。」


その言葉に一同は訝しげにその紙を読むが、その紙には何も書かれておらず困惑する。唯一、署名をする為の枠があったが、それ以外は真っ白なので当然ながら署名をする者などいない。


「ふん、何も書いていないのに署名をする馬鹿がいると思ってるのか?」


そう黒人の男が苛立ちと共にウルジェイナに言った。すると彼はまるで侮辱をするような口調で反応した。


「おやおや? これは失礼。 そう言えば皆様は魔力というものが無いのでしたね。

こちらの紙は・・・」


ウルジェイナはそこで紙に魔力を籠めると、なんと真っ白の紙から文字が滲み出るようにして出現したのだ。


地球では見れる事の無い現象に全員の視線が釘付けになるのを見たウルジェイナは、非常に可笑しなものを見たように笑った。


「はっはっはっ!・・・そんなに魔法が珍しいですか? こんなの大した物でもないのですなねぇ。」


そんなウルジェイナの小馬鹿にしたような態度に黒人の男が憎々しげに怒鳴る。


「お前達の魔法自慢は飽き飽きだ! さっさと要件を言え! 我々は暇ではないんだぞ!」 


黒人の言葉にウルジェイナはようやく笑いを納めると、彼等を見下ろすようにして言いはなった。


「ここに書かれている内容は至極単純です。

皆様は我々の所属する組織の傘下に加わって頂くというものですよ。」  


その言葉に曹を含めた僅かな者達は僅かに姿勢を崩す。予想していなかった内容に驚いたのだろう。


しかし曹のような大国と呼ばれる国出身の男達は全く揺るぐこと無く姿勢を維持していた。


そんな動揺していた彼等を満足そうにウルジェイナは頷くと説明を続けた。


「私はジュニバール帝王国のマフィアが加入している『ヴァーブン夜滴会』より派遣された使者です。 

皆様はこれより我等ヴァーブン夜滴会の支配下に入り、我等の為に働いて頂きます。」


そうウルジェイナが言い終わった瞬間、彼の背後に控えていた護衛が瞬時に懐から拳銃を取り出して曹達の方へ構えた。


更には、突如として曹達が引き連れていた護衛達の背後からも多数の人影が現れて、各々の護衛の背中へと拳銃を構えた。


(透明化の魔法か・・・厄介な。)


曹は瞬時に仕組みを把握し、背後に隠れていた新たなる刺客を見つめた。後ろの護衛の男が自身の方へ視線を向けた。


その意図を察した曹は静かに片手を僅かに上げて、護衛の動きを静めた。


「っ!? 貴様等、何のつもりだ!?」


すぐさま曹の対面にいたベトナム系の男が武器を構えてきた男達に罵声を浴びせるが、ウルジェイナは笑みを崩さぬまま口を開いた。


「貴方達が頼りとする日本は直に、我等の軍が支配する・・・お分かりですね? 

 もはやお前達、異世界人が生き残る手段は我等へ恭順し、その慈悲を乞うことしか出来ないのですよ。

さぁ・・・署名をしなさい。断れば…」


殺す。そう言外に伝えるウルジェイナの言葉を聞いた多くの者達は、次々とウルジェイナに対して罵詈雑言を浴びせる。


突如として多数の武装をした集団に取り囲まれて、横暴な要求をしてくる状況に冷静さを失った者達。


それに対して曹は、罵詈雑言をする一部の者達が、自身の命の危機に怯えの色を見せる者を見て冷ややかな視線を向けた。


「・・・曹様、如何なさいますか?」


そこへ護衛として連れてきていた男が近づき、曹の耳元へそう聞いてきた。その間も彼の背中に拳銃を向ける刺客が居るのだが、当の彼は全く気にしていなかった。


「そこ、話をするな!」  


まるで自分達が居ないように動く彼を、拳銃で構えていた刺客の1人が苛立ち気味に言う。


しかし、彼はそれを無視してジッと曹へ視線を向けたままだ。彼だけでなく、他の数人の護衛も同じように刺客達を無視していた。


銃を向けられているというのに、ある意味堂々とした態度に、普通ならば恐怖で可笑しくなったと考えるが、問われた曹はそれが当たり前だと言わんばかりに平常通りの口調で答える。


「まだ良い・・・全ては、彼に任せよう。」


曹は護衛にそう言うと、チラリととある人物の方向を見た。


その視線の先には、両隣の椅子に座る男が世話しなく罵詈雑言を言う中、静かに椅子に座って、腕を組んでいる顔に傷のある白髪の男がいた。


真っ白に染まった頭髪、皺の目立つ顔、恐らくはこの場にいる者達の中で最も年齢が高いと思わせる程に、老いを感じさせる姿だ。


だがしかし、そんな彼の身体を良く見ると、服越しからでも分かる程に鍛え上げられた筋肉がミシリと服に張り詰められる上半身。


そして常に身体中から湧き出している異様なまでの覇気は、常人ならば近くに居るのも憚れる程だ。


これだけでもこの老いた男がただ者ではない事が見る者によれば分かるだろう。


ふと、周囲を曹が見渡せば、その老いた男に視線を向ける者が何人かいたのを発見する。


そのいずれもが、かつて地球で大国と呼ばれた国にいた男達だった。先ほども全く動じていなかったのも彼等であった。


そんな彼等の視線に気付いていた傷の男は煩わしそうに頭を掻いて、ウルジェイナへ言葉を発した。まるで曹達の要請に応えるように。


「1つ質問があるのだが?」


傷の男がそう口を開いた瞬間、あれほど叫ぶように罵声を上げていた男達が一斉に口を閉じたのだ。まるでその男の話を避けぎってしまうのを恐れるように。


一瞬にして場が静寂に支配されたのを疑問に思いながらも、ウルジェイナはその傷の男に反応する。自身が圧倒的に優位な立場にあることを信じて。


「・・・何ですかな? ご老人?」


ウルジェイナがそう言った瞬間、ガタッと動く音が彼の耳に入った。


それは老人と呼ばれた傷の男の両隣に座る男が出した音だ。2人は椅子を動かして、真ん中に座る傷の男から離れたのだ。


「っ!? 馬鹿な事を・・・」

「っ!・・・」


「・・・?」


まるでその傷の男を極度に恐れている2人にウルジェイナは今度こそ首を傾げた。そこへ傷の男が彼に対して言う。


「・・・お前達は既に日本に勝利した前提で話しているようだが、本気で勝てると思ってるのか?」


「?・・・何を今さら・・・当然でしょう?」


「ふっ・・・おっと、すまない。」


ウルジェイナがそう発した瞬間、曹は思わず吹いてしまい、彼に詫びの言葉を発した。


曹だけでなく、他の大国と呼ばれた組織の代表達は全員が同じような反応をしていた。


それにウルジェイナは気分を害したようで、眉を潜めた。


唯一傷の男だけは、並の男ならば縮み上がる位に険しい表情のまま、ウルジェイナに言う。


「そうか・・・お前達がそれ程までに能無しだとは知らなかった。彼等の事も許してやれ。」


傷の男の言葉にウルジェイナは青筋を立てて口を開いた。


「随分と大きく出たものですねぇ! 貴方達の命は私が握ってるのが分からないようだ!

見せしめに外にいる部下達を皆殺しにしてやる! おいっ!」


ウルジェイナが背後の部下に指示をすると、部下は近距離用の伝言魔法を使用して、外の仲間に指示する。


「命令だ。始末しろ。」


部下がそう言い終えた数秒後に、外からの銃声が彼等の耳に入った。


次々と聞こえてくる大きな銃撃音に、ウルジェイナは満足そうに傷の男へ視線を向けた。


しかし傷の男は小さく呟いた。


「・・・47か。」


傷の男がそう呟くと、背後にいた護衛が小さく頷いた。


やがて一方的な銃声が鳴り止むと、ウルジェイナは勝ち誇った表情で傷の男を見下ろす。


「さて、改めて回答を頂きましょうか?」


そのタイミングで傷の男の護衛が耳に付けていたワイヤレスイヤホンで何かを聞く素振りをした後に主人である傷の男にぼそぼそと報告した。


「そうか。」


それを聞いた傷の男は頷ずくと、全員に聞こえるように声を出した。


「外にいる敵は全て排除した。 後は各々の判断に任せよう。」


「はぁ? 貴方は何を言って・・・」


「殺れ。」


突拍子もない事を言う傷の男に、ウルジェイナは呆れた様子で聞こうとするがそれを避け切るように銃声が倉庫内に響いた。


傷の男の言葉を聞いた曹が瞬時に背後にいた護衛達に攻撃を指示したのだ。曹だけでなく先ほどまで様子見をしていた大国の代表達の護衛も装備していた銃で周囲を取り囲んでいた刺客を撃ち殺した。


傷の男の言葉に意識を向けていた刺客達は一瞬の動きで銃を抜いて発砲してきた彼等に対して、全く反応をする暇も無く倒れ伏した。


「な、な・・・え?」


一瞬だった。たったの一瞬にして周囲を取り囲んで威圧を掛けていた部下達が皆殺しにされたのだ。


未だに混乱から立ち直れぬウルジェイナに対して、邪魔物を始末した護衛達が包囲して彼に銃口を向ける。


「な、何のつもりだ!? こ、こんなことをしてただで済むと思ってるのか!!」


慌ててウルジェイナは壁際にまで下がってそう叫ぶように言うが、傷の男は視線を彼に向けたまま口を開く。


「無知とは恐ろしい事だ。 いまお前に銃を構えているのは、正規の訓練を受けた者達だ。

それをただのチンピラごときが、周りを囲んだ程度で、本当に殺せると思ったのか?」


傷の男がそう言い終えると、武器を構えていた護衛達はウルジェイナの包囲の輪を狭める。


「ま、待て!! 私を殺せば本土の夜滴会が黙ってないぞ!? すぐに仲間が大挙してお前達を皆殺しする! それでも良いのか!?」  


「ほう・・・それは面白いな。」


傷の男はそこで初めて笑みを浮かべた。それにウルジェイナは豆鉄砲を食らったような表情になる。


「それならば是非とも願おうじゃないか? 久し振りに楽しめるな。」


「その前に彼等が日本を倒したらの話ですよ。到底無理な話です。ディアボスキーさん。」


曹はそこで初めて傷の男の名を言った。


ディアボスキー・・・世界最強のロシアンマフィア『ルスカド・メア』日本支部の局長にして元ロシア特殊部隊スペツナズで40年以上も在籍していた怪物は、楽しそうに言った。


「構わん。それならば此方から行くまでだ。」


ディアボスキーがそう言い終えると、護衛達は同時に怯えるウルジェイナへ発砲した。






「死体を片付けとけ。」


「はっ ボス。」


ディアボスキーが部下に指示する中、曹は周囲を警戒する各大国の代表が連れてきた護衛達を見る。


(ラコーレ・ゴッド、ロバタニア・カルテルにスコットザール・・・そして我等が九龍聖囂会か。 連中も運のない・・・)


アメリカ、メキシコ、イギリス、中国等の大国の元軍人達を相手にした彼等に思わず哀れみの色を見せた曹はそこで倉庫の入口から入ってきた集団に気付いて視線を向け、固まる。


「っ!」 


曹だけではなかった。他の代表達も一様に彼等を見て動きを止めた。中小国の代表達に至っては顔をひきつらせていた。


入ってきた彼等は全員が返り血で全身を真っ赤に染めていた。


恐らくは至近距離から襲ってきた敵を容赦なく銃撃したのだろう。何人かの身体からは、敵から付着したであろう、こびりついた指の一部等が見えた。


裏社会で血を見る事に慣れた曹達も流石に、彼等の凄惨な姿に動揺してしまう。


「ボス、外の敵は全て片付けました。」


そんな曹達を無視して、AK74ーMを手に持った集団の1人がディアボスキーに報告する。


「そうか・・・それで、手応えは?」


ディアボスキーの言葉に、彼は肩を竦めて答えた。


「手応えも何も・・・全員素人でしたよ。 あれなら他の連中でも楽勝でしたよ。」


「そうか。列強も所詮はその程度か。」


ディアボスキーは部下の言葉に、もう興味が無くしたように言った。


曹はそんな彼等を見て呟いた。


「あれが・・・『ザード部隊』か。」


最強のマフィア組織ルスカド・メアの中でも特に強力な戦闘員のみを集められたザード部隊。


日本支部の局長であるディアボスキーが直接、鍛え上げた戦闘員であり、どんなに困難な命令も即座に実行するイカれ集団は外にいた夜滴会も全く相手にならなかったようだ。


そこへ曹達の残りの護衛も入ってきた。


彼等を見る限り、特に戦った形跡が無いことから本当にあのザード部隊だけで、外の敵を一掃したようだ。彼等も曹達と同様に、ザード部隊を化け物を見る目で見ていた。


戦闘に素人である曹でも初めて彼等を見て分かった。あのザード部隊は単なるマフィアで括っていいものではないと。


「ところで曹よ。 お前は本当に日本は勝てると思うか?」


いきなりディアボスキーから声をかけられた曹は思わず聞き返してしまう。


「は、はい?」


慌てて声がしたほうを見れば、ディアボスキーは自分をまっすぐ見つめていた。


「武竜会から聞いた話では、戦場となるバリアン大陸で10倍以上の敵戦力と戦うらしい。」


「10倍ですか? 随分と大きな戦力差を…」


例え技術力のアドバンテージがあっても10倍もの戦力差は現実的に考えて厳しいものがある。


これが曹のいる中国やディアボスキーのロシア、アメリカ等の軍事超大国ならばあの程度は一捻りだ。


しかし戦後の日本は、戦争を想定した国ではない。むしろ戦争を否定して建国されたのが日本という国だ。


先進国の中でも特に戦争に向いていないであろう日本。例え近年の軍事改革による影響で強化されようが、どこまでいけるのか、想像しにくいところがある。


だがそんな事は元軍人であるディアボスキーも知っているだろう。なぜ素人である自分に聞いてきたのか?


「お前はこの場の中で最も日本人と深く接してきた筈だ。 お前の口から今の日本人の力を聞いておきたい。」


その言葉に曹は納得した。彼はれっきとした中国人だが実は育ちは日本であり、この場にいる者達の中で最も日本の事を把握しているのだ。


意識を周囲に向ければ、物心ついた頃から日本人と接してきた曹がこれから放つ言葉を代表達は聞き耳を立てていた。


曹は熟考してから口を開いた。


「・・・ハッキリ言って、日本人は弱いでしょう。」


言い切った曹に対してディアボスキーは続きを促した。


「日本人という民族は強い意思表示をする者が少ない傾向にあります。 


それは集団行動をする軍隊では良い面であると言えますが、逆に言えば彼等は纏まりはあれども突出した能力を持っていない、特徴のない民族です。


混乱している状態で強襲でもされれば彼等は烏合の衆となるでしょう。 数の暴力を受け続ければいつ士気が崩壊しても可笑しくありません。」


曹の辛辣な評価に近くで聞いていた代表の1人が聞いた。


「なら・・・彼等は負けるのか?」


その質問に曹は静かに応える。


「それは、分かりません。しかし・・・もし、彼等を率いる者が優れていれば、恐らく彼等は豹変するでしょう。」


「豹変だと?」


「・・・稀に、日本人の中でとんでもなく統率力に優れた者が現れる事があります。 その優れた者が率いるとなれば日本人達は、他の国の民族を遥かに上回る結束力を見せます。

それは過去の歴史においても明らかです。」


その曹の言葉に一同は記憶を思い起こす。彼等の中には、そんな歴史があったか?と疑問に思う者もいたが、ディアボスキーは即座に答えた。


かつての地球の歴史上でも極めて異質とも言える日本の恐ろしき実力を・・・


「『日本海海戦』・・・あれは我々ロシア人からすれば忌まわしき記憶だ。」


ディアボスキーの言葉に一同は表情を変える。軍事に疎い彼等でも、この男の口から発せられた海戦は知っていた。


歴史上でも非常に数少ない完勝した海戦。当時の地球上で最強と称されたバルチック艦隊は、同じく当時はほぼ無名であった東洋のとある名将が率いる艦隊によって壊滅させられた。


「東郷平八郎・・・」


曹が吐いた言葉に、ディアボスキーは静かに頷いた。そこから更に曹は続けた。


「それだけではありません。 彼等は天皇家を頂点とした帝国時代において、他の国とは隔絶した結束力・行動力であっという間に欧州と同等の国力と軍事力を保有し、アジア最強の座を得ました。


更に彼等は、統率者の為ならその命を惜しまない・・・」


「カミカゼか・・・」


カミカゼという言葉に、ラコーレ・ゴッドの代表は苦い表情をした。


無理もないと曹は思った。彼等アメリカ人にとって、トラウマとも言える言葉だ。


世界で最初に航空機の有効性を見抜いて、猟奇的とも言える自爆作戦、地球上で彼等アメリカ合衆国海軍に対して最も大きな損害を出した唯一の国 日本。


そんな中でディアボスキーは曹も知らない名を持ち出した。


「池田末男・・・ふん、確かに指揮者によってはこの戦争は、一方的に決まるな。」


聞き覚えのない日本人の名に、曹達は怪奇気味に首を傾げたが、ディアボスキーはそんな彼等の疑問に答える気は無いようで、話を切り上げた。


「お前の考えは分かった。 無駄話もここまでにしよう。」 


ディアボスキーはそう言いきると、彼等に背を向けて、自身の乗り込んで来た車の方へと向かった。その道中で彼は先ほど呟いた男の名を思い返す。


池田末男・・・ロシアの前身であるソ連が満州へ進出し、大日本帝国が連合国軍へ降伏後も、更なる資源と領土獲得の為に、日本の領土であった千島列島の占領時にソ連軍と対峙した男。


あの男と彼自身が率いる日本軍は圧倒的な戦力差にも関わらずソ連の大軍と交戦し、ソ連の侵攻を大幅に遅らせた怪物だ。


噂では当時の日本では戦車隊の神様と称されたあの男の末裔が数十年の時を得て、現在の日本国防陸軍の戦車部隊を率いているらしい。


そして、その男が所属する部隊が、バリアン大陸に派遣されているという話をディアボスキーは独自の情報網から把握していた。


武竜会すらも得る事の出来ない数多の情報からディアボスキーはそこから更にもう1人の人物の名を思い出して、思わず立ち止まった。


すぐに背後に追従していたザード部隊の隊員が訝しげにディアボスキーを見るが、すぐに視線を剃らした。


背中しか見えなかったが、今の彼からおぞましい程に殺気があふれ出ているのを、その鋭い察知能力で感じ取ったからだ。


(第10師団師団長の鬼導院・・・奴が指揮を執るか。)


ディアボスキーはその男を知っていた。面識を持っていたのだ。


まだ自分が駐日武官であった頃、あの鬼導院と言い争った経緯があった。


ディアボスキーは今でもあの男との口論を思い出すと腸が煮えくり返る感覚になる。


「面白い。 あの男がどう動くか見物だ。じっくりと観察させて貰うぞ。・・・あぁ、そう言えば…」


そこでディアボスキーはクルリと後ろを振り返って部下に話し掛けた。


「武竜会から要請があったな? 若い日本人を始末しろ・・・だったか?」


「そうです、ボス。 木花という若者で、始末すれば相応の報酬を支払うとの事です。」


部下が頷いて答えると、ディアボスキーはまた歩き始める。


「よし。 鬼導院と木花は俺が始末してやる。 首を洗って待っていろ。」


ディアボスキーはそう言うと、まるで猛獣の様な表情で笑った。






       バリアン大陸 上空


バリアン大陸の上空をF-15J別名イーグルと呼ばれている日本の航空隊が亜音速での巡航速度を保ちつつ、攻撃目標に向けて飛行していた。


『こちらボンバー01 まもなく目標上空に到達する。』


ヘルメットに内蔵されたHUD表示から多数の情報を元に、F-15Jのパイロットは付近を飛行する仲間へ無線で知らせた後、自身が乗る戦闘機の武装を確認した。


いまこの機体の胴体には、10発の250ポンド爆弾を搭載しており、主翼下には各々2発ずつの500ポンド爆弾という重武装をしていた。


更にこれらの爆弾は91式爆弾用誘導装置によって誘導爆弾としての役割を持つ事になる。これらのお陰で正確な精度の投下が可能となった。


そして少し後方を飛行する2機の機体には、250ポンド爆弾と、1000ポンドクラスター爆弾という凶悪な兵器を搭載していた。


これらは全て、同胞を無惨にも殺した敵勢力へ投下する為のものだ。


彼はそこで、相手の残虐性を思い出して握っていた操縦桿を強く握り締めた。


既に攻撃目標は上空12000mの彼の位置から何とか見える所にまで来ていた彼の元へ同僚が無線をかけた。


『こちらボンバー04 投下照準範囲内に目標を捉えた。 これより投下する。』


その声に彼は意識を任務に集中させる事に成功した。彼はヘルメットのHUD画面に視線を向けて操縦桿に取り付けられた投下ボタンに親指を置いた。


狙うべき投下目標は、既に通り過ぎていた歩兵主体の大軍を無視して更に後方へ向かって、今も彼等の下で行軍しているジュニバール帝王国陸軍の砲兵部隊の群だ。


未舗装の道路を、現地からかき集めた大量の軍馬で懸命に牽引する大砲と、砲弾を載せた砲兵部隊管轄の輸送トラックに、それを護衛する数百の歩兵が、まさかこれから攻撃されようとは夢にも思っていない様子で行軍しているのが彼のHUD画面でも分かった。


やがて絶好の位置関係となった彼は僚機に合図を出した。


『ボンバー01より・・・投下開始。』


この航空隊の隊長を勤める男からの指示に、彼等はすぐさま投下ボタンに置いた指に力を込めてそれを実行した。


『っ!・・・』


本来は敵航空基地に投下される予定の爆弾は、突如として地上戦力のみを前進させたジュニバール側の動きに合わせて、不運な砲兵部隊へと目標を変えられた多数の爆弾が一斉に6機の機体から離された。


1機あたりに数トンを越える重りが無くなった事により急激に軽くなった反動で揺れる機体を抑えた彼はすぐに次の指令を出す。


『ボンバー05、06 予定通りに発射せよ。』


『ボンバー05 了解・・・いま発射した。』

『ボンバー06 こちらも発射した。』


そう返信が聞こえたと同時に彼のすぐ真下を1000ポンド爆弾がロケット装置により飛行能力を持った悪魔の兵器が通り過ぎた。


あっという間に遥か彼方へと消え去ったクラスター爆弾は、更に後方にジュニバール帝王国が設置した数ヶ所の補給拠点へ到達する。


それを見送った彼等はすぐさま機体反転させて最初の基地へと帰還する。


そこで次の装備を補充を終えれば、今度こそ敵の航空戦力を叩きに向かうのだ。


6機の天空の覇者が引き返し終えたのと同じタイミングで、地上を行軍するジュニバール帝王国陸軍砲兵部隊の元へ彼等の贈り物は届いた。





    バリアン大陸 センゲル平野


・・・暇だ。


広大な緑のカーペットが敷かれたのどかな大地を悠々と歩いていた第89砲兵中隊 パジヤ2等兵はそう心の中で愚痴る。


重い装備を背負ってこうやって何もない平野をただ歩くというのは彼にとって ー多くの兵士にもー 実に苦痛なものだ。


出来る事なら後ろをノロノロと走行する砲弾を載せた輸送トラックの荷台で僅かに空いている空間に腰を下ろして颯爽と行軍したいものだ。


だが、残念な事に既に多くの先客がその空いた空間を埋めているのを知っているパジヤ2等兵は重い溜め息を吐いた。


(はぁ・・・ツイてないなぁ。)


これもパジヤが遅めの朝飯中を摂っていた時に突然の行軍命令によって行軍の列に加わるのが遅れたのが原因だ。


軍隊にとって数少ない娯楽である食事を優先したせいで、いま自分はこうして延々と左右の足を交互に動かし続ける羽目になった。


チラリとトラックを見れば、荷台に乗っていた同僚達はとても楽そうに行軍をしていた。


それを羨ましい目で見ていたパジヤは次の休憩時には何が何でも荷台に乗ってやると軽い決心をした瞬間、その同僚を載せたトラックが爆発した。


「はっ!?」


爆発したトラックの数十m先を歩いていたパジヤはその爆風によって前方に大きく吹き飛ばされた。


背中を強烈な衝撃波と感じたことのない熱風を受けたパジヤは荒々しく地面に激突するが衝撃を受け流せずにそのまま何回か体を前のめりに回転させる


「うわあぁ!!?」


何回目かの回転を終えて漸く止まったパジヤは火傷した背中の苦痛に目頭を涙で潤すが、周囲から聞こえる轟音と怒号によって意識をそこへ向けた。


「敵襲だ!?」


「嘘だろ・・・いったい何処から!?」


「前方の友軍は何をしていたんだ!?」


そこでパジヤが見た光景はとても酷かった。


複数の軍馬で牽引させた大砲と砲弾を載せた中型輸送トラックの殆どが爆発炎上し、その周囲を囲むようにして行軍していた多数の歩兵もその巻き添えを喰らって死体の山をつくっていた。


かろうじて爆発範囲から離れていた歩兵が慌てて持っていた小銃を周囲に向けて懸命に敵を探したり、瀕死の仲間や僅かに無事なトラックを守るが、無情にも次々と爆発していった。


「空からだ! 空からの爆撃してるそ!」


そこで漸く仲間の1人が空からの攻撃だと察したが、当の爆撃をしてきた航空機はとっくに視界の範囲外にまで離れていた。


その場にいるのは今も炎上している多数の鉄の残骸と多くの負傷者ばかりで、無事だった彼等はあまりの衝撃に立ち尽くすのであった。


すると数少ない無傷の歩兵が苛立ちげに、地面を蹴りあげた。

 

「畜生! 何なんだよ!? 相手は録な戦力なんて無いんだろ!? なんで俺たちがこんな目にあってるんだ!!」


自分達が相手にしてるのは、少数の雑兵では無かったのか? そんな疑問と怒りが彼等の心中を支配した。 


だがそのタイミングで、この部隊の生き残りの士官が現れ、額に血を流しながらも彼等へ指示を出した。


「何をしている!早く本隊に報告せんか!?」


その指示に慌てて無線を探す彼等だが、大きく嵩張っていた無線機は炎上しているトラックの荷台に積まれており燃えていた。


「そんなっ!」


歩兵の1人がそう呆然と呟くが、士官の男はかろうじて生き残っていた軍馬を見つけて近くにいたパジヤに指示を出した。


「こうなったら馬を使え! 一刻も早くこの事を後方の部隊に伝えろ!」


「は、はい!」


後方に設けられた補給拠点には、幾つかの戦闘部隊も一緒に駐屯しているので彼等との渡りをとろうと仕官はパジヤを向かわせた。


幸いにも農村出身のパジヤは乗馬の経験があったので、痛む背中を何とか起こしてすぐさま後方の味方のいる拠点へと馬を走らせるが、更に彼を絶望させる光景が広がっていた。


「え?・・・何だよ・・・これ・・・」


本来ならば広い平地を利用して作られた補給物質の集積所が、今は黒煙を高々とただよらせていた。


数百人分は賄える筈の大量の食糧や弾薬を入れた木箱は見るも無惨な状態で地面に撒き散らし、とても使えそうに無かった。


何よりもその補給物資を守る為の仲間達は、全員が身体をバラバラの状態にして息絶えていた。まるで無数の爆弾によって体を爆散させられたようであった。


「何があったんだよ・・・」


食道から込み上げてくる朝飯を吐き出さないように堪えて、なんとか絞り出した声は誰も居なくなった拠点に虚しく響いた。






    ハマ山岳 第3戦闘団本部



山岳地帯の奥底に周辺の環境に溶け込むようにして設置された天幕の中を貴戸大佐は次々と舞い込む報告を整理する。


「此方側の航空攻撃は成功した様です。 2個歩兵旅団を主軸にしたジュニバール本隊は依然としてこのハマ山岳へ進軍中です。」


「第2戦闘団は池田団長と合流を果たし、センゲル平野を回り込むようにして展開中、いつでも此方側と合わせれます。」


「ジュニバール本隊の先見部隊が、ハマ山岳へ侵入したのを確認! 付近の偵察隊が攻撃許可を求めています!」


そこで地図と睨めっこしていた貴戸は視線を上げて、指示を出した。


「・・・頃合いだな。 ハマ山岳に展開する全ての部隊に通達せよ。 これより攻撃を開始する。 我々の目標はあくまでも敵を奥へ引き釣り込む事を忘れるなよ。 第3戦闘団にも知らせろ。 これより包囲作戦を実行する。」


貴戸の指示に幕僚達は一斉に動き出す。


山岳戦に特化した第3戦闘団は数千を超すジュニバール帝王国軍を迎え撃つ。






        バリアン大陸  

   センゲル平野とハマ山岳との境界線



ジュニバール帝王国陸軍 先見隊は前衛部隊の指揮を執るバイート少将の命令によりハマ山岳への進軍を開始した。


数個歩兵中隊から構成される400名前後の部隊は、第3戦闘団が待ち構える山岳へと足を踏み入れた。


そしてその光景を数km離れた岳で双眼鏡を持って監視していた第3戦闘団所属 第2偵察隊の横林小隊長は真横で64式81mm迫撃砲を構える隊員に言う。


「攻撃開始。」


その声と同時に、81mm迫撃砲から放たれた弾がポンッと空気の抜けた音と共に、ジュニバール帝王国軍へと飛来した。


それと同時に麓に待機していた3両の87式偵察警戒車が、25mm機関砲と7.62mm機銃を構えて歩兵と共に前進した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 日本人の、他国の国民に対する態度を見て、『こいつらは軟弱な腰抜けどもだ』 と思い込んだのなら、とんでもない最悪の勘違い。 『優しいことは弱いことを意味しない』 という事実を、完璧に失念してい…
[気になる点] ジュニバール帝王国とガーハンス鬼神国が、日本に勝てると思ったのは、要するに 『軟弱な腰抜けばかりの国だ』 と思い込んだからですか?
[良い点] ついに戦闘の火ぶたが切って落とされましたか! レシプロ機が空軍主力の軍隊にとってはジェット戦闘機からの攻撃を察知するのは無理ゲー過ぎるのかもしれませんね。 単に油断してただけとも言えますが…
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