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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第70話 出会う3人

遅れました!

第70話 出会う3人


        王都ソウバリン


各地で戦闘が起きているソウバリンの裏通りを集団が歩く。その集団の先頭には木花とアリアがいた。


アリア達はこの騒動の主導者と思われるバフマン王国最高位冒険者チーム『黄金の飛竜』のリーダーカン・ウンサンを探していた。


激しい戦闘に備えて全員が、防弾製の服を身に纏い、その手には小銃を持っている。


数にして十数人程度ではあるが、並の小国の兵士を返り討ちに出来る戦力を持っている熊光組の組員達だ。そんな組員達をアリアは先導して闇の目立つ通りを歩いていく。


「至る所から銃声が聞こえてますね・・・頭の仰る通りに連中は列強の武器を使ってるんすね。」


「あぁ、十中八九、あの時の武器だろうな。」


組員からの言葉に、木花はあの時の地下室で見た武器庫を思い返す。そこへアリアがこの先で倒れている死体を発見した。


「これは・・・ガーハンス鬼神国の兵士か?」


彼女等の視線の先には、ガーハンス鬼神国の兵士達が血を流して倒れていた。そこへ組員がその死体に近付いて傷跡をみる。


「・・・胴体に銃創があります。他の死体にも銃で撃たれています。 傷跡からみて火縄銃ではありません。」


死体に視線を向けながら言う組員の言葉に、アリアと木花は互いに顔を見合わせる。


「・・・銃を持った民が殺ったのか?」


アリアの言葉に木花も同意するように頷く。


「恐らくはそうでしょう。 しかし訓練を受けた列強の兵士がこうも簡単に殺られるとは・・・周りに連中の死体も見えませんし。」


木花はそう怪奇そうな表情で言う。列強の銃を装備したとは言え、ここまで一方的に殺られるとは思えなかった。


「私も同感だ。 こやつ等の顔を見るに新兵という年齢とも思えん。それなりの経験を積んだ兵士だと思うのだが・・・」


アリアは死体となったガーハンス鬼神国の兵士の顔を見てそう言う。確かに彼等はそれなりの年齢を積んでいた。少なくとも木花よりも年上であろう。


「・・・連中はどこかで訓練を受けていた?」


「確かにそれならば、一方的に倒せたのも頷ける。しかし、どこで受けたと言うのだ? そして我が国の民に態々、訓練を施す意味は一体・・・」


「謎は深まるばかりですね。」


2人が互いに神妙な表情をしていると、彼等が歩いてきた通路とは別の場所から数人の人影が見えた。木花達が一斉に警戒体勢に入るが、その先頭にいる者の顔を見て、それを解除した。


「頭っ! ご無事でしたか!!」


「お前もな・・・井岡。」


木花達の前に現れたのは大使館に連行されていた井岡達であった。


待ち望んだ男の姿に木花は安堵の息を漏らし、思わず頬が弛んだ。アリアも知った顔の存在に、安心したような表情を浮かべる。


「私達の方は何も問題はありません。 いつでも戦えます!」


井岡はそう言うと、上着の内側に隠し持っていた拳銃を取り出す。それを見た木花は苦笑いをした。


「トカレフか・・・まさかコピー品じゃないよな?」


「ご安心を。この状況で質の悪い物なんて引っ張ってこないですよ。」


まさに一昔前の極道が愛用していた拳銃に、古臭い男だなと感じる。ふと、後ろの組員の持っている銃を見るとやはり彼等も同じトカレフ銃だった。


そんな井岡だが、アリアが両手で持っているドラグノフ狙撃銃を見て、表情が強張った。


「んなっ!?・・・な、何故、お嬢様がそれを?」


「俺が渡した。」


木花の言葉に井岡は驚いた反応をするが、そこで何かの答えに辿り着いたのか納得したように頷いた。


「成る程・・・2人はいつの間に・・・」


「何だ? どうした?」


「あっ!いいえっ! 何でもありません! それよりも向こう側は誰も居ませんので先を急ぎましょう!」


「?・・・分かった行こう。」


井岡の不審な様子に違和感を覚えた木花だが、取り敢えずは先を進むことを優先した。


「・・・?」


因みに井岡がアリアと木花の2人を暖かい目で見ており、それに2人が怪奇気味に首を傾げたのは別のお話である。








「こちらフォーリ04、大使館から見て北西側のエリアの敵は殆どが撤収した。」


UH-60JAの機長がそう無線で地上部隊に知らせてる間、副操縦士は赤外線カメラのモニター画面を見て周辺に隠れた敵が居ないかを確認していた。


「・・・建物の影にも居ない。こっち側は安全そうです。」

 

「そうか・・・む? あれは何だ?」


機長が日本国大使館から離れた場所にある広場の様子を見てそう言うのを聞いて、副操縦士もその方向に視線を向けた。


「あれは・・・煙?」


2人が見た視線には平時には市場が開かれている大きな広場が映っており、今はその広場の至る所から黒煙を噴かせている何かの塊が転がっていた。


「まさか戦車なのか? あれ全部・・・」


「そんな馬鹿な・・・この国で一体誰が戦車を破壊するんです? 暴徒程度では不可能ですよ。」


機長の言葉を、副操縦士は否定するように言う。いま見える塊だけでも十数を越えている。もし、その塊の正体が戦車の残骸ならば、十数台もの戦車を破壊した事になる。


それが列強同士なら可能性は大いにあるが、未だに小規模な撃ち合いはあっても、戦車が参加するほどの規模になっているとは聞いてない。


だが機長はすぐに自身の言葉が間違っていないと確信した。


「いやっ! あれは戦車だ! 間違いない!」


目視でも充分に判別出来るまでに接近して、あの黒煙を噴出する塊の正体が破壊された戦車の残骸であると分かった2人は驚愕に目を見開く。


「マジかよ・・・一体、ここで何があった?」


機長が操縦席から真下に広がる光景をせわしなく視線を動かす。


「こちらフォーク04、大使館の北西エリアにある広場に戦車の残骸を多数発見した。既に列強同士での戦車の交戦があったのか?」


機長が無線で艦隊司令部に報告をする。するとすぐに返答が返ってきた。


『こちら司令部、現状ではそんな報告は受けていない。本当にその残骸は戦車で間違いないのか?』


「こちらフォーク04、戦車で間違いない。さらに広場内にある戦車は全て同じ物と思われる。同士討ちでなければ、こんなこと有り得ない。」


機長がそう言うと、無線の相手である司令部の通信隊員から暫く間が空く。


『・・・了解した。付近の状況を更に調べて報告をせよ。以上』


そこで無線が切れた。機長は少し息を吐くと、操縦

稈を握り直した。


「行くぞ。広場内に何か手掛かりがあるかもしれん。」


「り、了解。」


機長の言葉に副操縦士は異変を見逃さないように気合いを入れ直した。







時は同じくして、王都ソウバリンにある比較的大きな通りを走り回る2人の男女がいた。


その2人はミスリル級冒険者であるエルブリッドとネイティアであり、日本国大使館から抜け出して走っていた。


暫くするとエルブリッドが後ろを振り返って誰も居ない事を確認すると隣のネイティアに声を掛ける。


「もう大丈夫だ。追手はいないぞ。」


その言葉にネイティアは安堵の息を漏らしながら立ち止まり息を整えた。それからエルブリッドの方を向いて気掛かりであったことを聞く。


「ネサーム達は!?」


エルブリッドは辺りを見渡しながら言う。


「・・・あの2人ならすぐにでも離脱出来る。2人の心配よりも良いが此方もまだ安全とは決まった訳ではない。先を急ごう。」


彼はそう言うと、また歩き始めた。それにネイティアも額についた汗を腕で拭うとそれに続く。


「どこに向かうの?」


周囲の荒んだ通りを見ながらネイティアは話し掛ける。


「まずは『鉄の馬車』の連中と合流する。」


エルブリッドは自分達とは別のミスリル級冒険者チームの名前を挙げた。それにネイティアは疑問気味に反応する。


「彼等と?」


「そうだ。俺の記憶が正しければここからもう少し歩いた先で他の冒険者達を連れて待機している筈だ。奴等と合流しよう。」


その言葉にネイティアも頷いた。2人はそれから建物の間にある裏通りへと入ると歩く速度を少しだけ速めて先を急いだ。


耳を澄ませば、未だにどこかで戦闘が起こっているのだろう。銃撃音や人々の雄叫び声等が耳に入る。


2人が歩いているこの裏通りも至る所で様々な物が落ちており少し歩きにくい。


「他の連中はまだ列強と戦ってるみたいだな。俺達もネサーム等と合流したら援護するぞ。まだ終わっちゃいないからな。」


「分かってるわ。 ネサーム達が無事だと良いのだけど・・・」


未だに大使館に残していった2人を気にかけているネイティアにエルブリッドは安心させようと隣の彼女に首を向けて話す。


「ネイティア・・・気持ちは分かる。あの2人ならどんな状況だろうとも突破でき」


エルブリッドがそうネイティアに話していたタイミングで、裏通りの端にある建物の影から突如として黒い人影が現れ、鋭利な刃物が2人に振られた。


その刃物が互いの肩が触れる程に近付きあっていた2人の喉元を切り裂こうとする。


「っぢぃ!?」


しかし間一髪の所でエルブリッドが持っていた剣でそれを弾き返して、ネイティアを引っ張って一緒に後ろへと下がった。


そして瞬時に戦闘態勢に入ったエルブリッドは、建物の影から現れた人影の存在を漸く視界に捉えて吐き捨てるように呟いた。心の底から溢れんばかりの悪態をついて。


「お前・・・しつこ過ぎるだろうがっ!」


2人の目の前には、大使館で死闘を繰り広げた特急隊員である南原龍光が弾薬を満載した機関銃と軍用鉈をそれぞれの片手に握り締めながらそこに立っていた。目に見える程の殺気を身に纏ってだ。


「この俺がお前達をみすみす見逃すと思ったか?」


南原は仁王立ちでそう言い放った。そんな南原にエルブリッドとネイティアの2人は狭い裏通りで彼を迎え撃つ事を決めた。


「ネイティア、お前は援護を頼む。」


「分かったわ。」


エルブリッドが南原の前に立ち、ネイティアはレイピアの鋭い切っ先を向けながら南原を睨む。


そんな2人の様子を他所に、南原は頭を掻くような動作をした。


「心の準備は出来たか?・・・なら全力で殺るぞ」


そう言うと南原は、190cm以上の巨体を持って石畳の地面を踏みつけて走り出した。


それを迎え撃つエルブリッドも両手に握りしめていた剣を持って走り出す。


そうして2人の持つ武器が互いに交差すると思われたタイミングで、南原のもう片方の腕で持っていた機関銃がネイティアの方を向き出した。


(不味い!?)


その様子に、南原の本当の目的を察したエルブリッドは瞬時に剣を鉈から機関銃へと軌道を変えてその機関銃の向き先を変えようとした。


南原の指が機関銃の引き金を引き出したのとエルブリッドの剣が機関銃の先端にぶつかったのはほぼ同じタイミングであった。


その瞬間、比較的に静寂であった裏通りから耳を塞ぎたくなる程の轟音が鳴り響いた。


剣を振ったエルブリッドは視線だけを後ろのネイティアに向けて安否を確認した。


「大した歓迎ねっ!」


奇跡的にも南原の放った銃弾はネイティアの少し上を飛んだ事により無事だった。


しかしそれに安堵する暇もなく、すぐに南原の鉈が凄まじい勢いでエルブリッドの飛び出た腕を両断しようと振り下ろされる。


『軌道変更っ!』


そこへエルブリッドは魔法を発動して、剣を普通では有り得ない速度で動かして、振り下ろされる鉈の軌道に合わせてそれを防いだ。


「ぐぅっ!」

(片手なのに、なんて力を持ってやがる!?)


だが、片手で振り下ろされたとは思えない鉈の衝撃にエルブリッドの両腕が僅かに震えた。


初手を防がれた南原だが、それに構わずに更なる攻撃を続けた。


「ふっ!」


南原の腹の底から出た声がエルブリッドの耳に入ると同時に、23式重歩兵機関銃を両腕でしっかりと握り締めて今度は真正面から2人を狙い撃ちにする。


それを見た2人は大慌てで隣の建物の窓を割って中に入り銃撃を逃れる。


(すばしっこいネズミ共だ!)


その素早い冒険者2人に思わず南原も悪態を付いた。そしてその後、2人が入った建物に銃口を向けて、発砲を再開した。


機関銃から放たれた7.62mm弾は、石造りの壁を容易く撃ち破り、中へと避難したエルブリッド達に襲い掛かる。


「ぐおおぉ!!」

「きゃあぁ!?」


エルブリッドとネイティアの2人は叫び声を挙げながら、壁を貫通させてくる銃弾を避けながら建物内を走り回る。


奇跡的にも1発も当たらずに射撃が終わったようで、2人は汗だらけの顔を拭う。


「・・・生きてるの?」


思わず自分の両腕を見ながら五体満足であることに信じられない様子のネイティアを他所に、エルブリッドは瞬時に近くにあったズタボロになった棚を背にして南原がいるであろう方向の壁を睨む。


恐らくは咄嗟の判断で自分達が入った割れた窓から入ってくるだろうと予想して剣を構える。南原が窓を乗り越えて入ってくる瞬間を攻撃しようと全神経を集中させる。


「・・・」


今か今かと鋭い視線で待ち構えているエルブリッドだが、なんとそんな彼を嘲笑うかのように、彼の真後ろの壁から南原が体当たりをして石造りの壁をぶち破って建物に入った。


「はぁ!?」

(それは反則だろうがっ!!)

 

壁だった破片を撒き散らしながら突入した南原は持っていた機関銃を、未だに背中を向けていたエルブリッドに向けた。


「糞っ」


エルブリッドが避けようと動こうとするが、その前に南原は引き金を引いて彼の背中に大量の銃弾を浴びせた。


「リーダーっ!?」


それを見たネイティアは叫ぶような声を上げる。しかし彼女が見た次の光景はエルブリッドが全身を血塗れになって倒れ伏す姿だった。


「あぁ・・・そんな・・・っ!」


ネイティアの絞り出すような悲痛な声を前にして、撃ち終えた南原は、今度は近くにいた彼女の方へと振り向いて銃口を彼女に向けた。


「次は貴様だっ!」


そう言い放つ南原を、ネイティアは涙目になりながらも睨み付けた後、すぐに近くにあった階段で2階へと上がる。


「無駄だ!」


そんなネイティアを見て南原は、天井へと銃口を向けて再度、発砲を開始した。


大量の薬莢が室内の床に甲高い音を出しながらも排出され、天井に数え切れない程の穴が空いた。


数度目の発砲を止めた南原は、硝煙の臭いにまみれた室内を歩き出して階段へと進む。


ゆっくりと階段を上り2階へと登った南原は、銃撃で荒れ果てた部屋を見渡す。


下からの射撃によって室内の埃が舞い上がり、あらゆる家具が破損した状態で倒れている光景には目にもくれずに逃げたネイティアを探す。そこへ南原は床にあるものを見つけた。


「これは・・・血痕か?」


南原が視線を下げた先には血の後が残っており、どうやらあの銃撃でネイティアは負傷したようだ。その血痕はとある扉の前にまで続いていた。恐らくはあの部屋に彼女は隠れている。


それを見た南原は血痕の続く扉に近付いて、蹴り破るような勢いで開けて部屋に入る。


南原が入った部屋はどうやら寝室の様で、1つのベッドが置かれており、それ以外には特に何も無かった。


逃げたネイティアはどこに逃げたのかと室内を探し始める。


壁に取り付けられた棚やクローゼットを破壊するように動かし、ベッドも軽々と持ち上げて部屋を荒らすように探すが目当てのネイティアは見つからない。


「何処に居る? さっさと出てこい!」


遂に業を煮やした南原は苛立ちの声をあげる。暫く探した南原は持っていた機関銃で壁を手当たり次第に撃ちまくった。


建物内を乱射したが、銃撃以外の音は聞こえなかったことから空振りしたと悟る。


(本当に何処に消えやがった?)


サーモグラフィーにも反応が無いことから透明魔法の類で隠れている可能性は低い。


(この部屋は外れか・・・)


南原はそう考えて部屋を出ようと扉の方へと向いて歩き出した。


ポタッ


その時、南原の背後から液体が落ちた様な音が聞こえる。すぐに振り向いて音の正体を確かめる。


振り向いて床を見た時、そこには血が付いており、どうやら血の滴が落ちたようだ。なぜ床にそれが落ちたのかを察した南原。


「上かっ!」


飛ぶような勢いで天井を見た南原の視線の先には、腕から出血した状態で必死に天井の角にしがみついていたボロボロのネイティアがいた。


バレてしまったネイティアは忌々しげな表情を浮かべながらも銃口を向けようと動く南原を見て、腰に差していたレイピアを抜きながら天井から降りて攻撃をする。


『放剣突出っ!!』


「くっ!」


そう胴体を狙ったネイティアの繰り出す攻撃を受けた南原は、思わず怯んでしまう。


(チャンスだわ!)


それを好機と見た彼女は痛む身体を無視して追撃を行う。レイピアを握り直して、更なる突出攻撃を南原の身体中に撃ち込んでいく。


そんな彼女の細腕から放たれる怒涛の連続攻撃に南原は少しずつ壁際に追い詰めらていく。


それを見たネイティアは自身の鼓動が激しくなっていくのを感じる。


(いける! このままコイツを倒せる!)


ネイティアがそう倒せると確信した瞬間、南原の強力な蹴りが彼女のほっそりとした腹に向けて放たれた。


「あぁっ!?」


ネイティアは身体中の空気が抜けるような声になら無い叫び声を上げて吹っ飛んでいった。


南原に蹴られたネイティアは、その勢いのまま扉の方向にぶっ飛んでいき、扉を破壊してその先の破損したテーブルにぶつかった所で止まった。


軽鎧を装備しているとは言えども、俊敏性を重視した作りなので、強靭な身体能力とパワードスーツによって放たれた蹴りをもろに受けた彼女は口から吐瀉物を床にぶちまけた。


「あぁ・・・うぅ!」


ネイティアの身体が耐えられる許容量を越えた衝撃と痛みに彼女はプルプルと小さく震える。


それを他所に南原も部屋から出てネイティアの前にまで歩き出す。


彼女は破損したテーブルの一部にもたれ掛かりながら何とか立ち上がった。


腹部から伝わる激痛に彼女は腹部を片手で押さえながらもレイピアを再び構える。


「もう諦めろ。 あの男が死んだいま、もはや俺に勝てる手段は断たれたぞ。」


「断たれたですって? はっ、笑えるわ。」


そんな南原の言葉にネイティアは身体中から汗が流れるも一笑する。


「まだアンタを殺せる手は残ってるわよ。」


「そうか・・・なら見せて貰おうか。」


ネイティアの精一杯の虚勢に南原は首を軽く振って攻撃態勢にうつる。それを見たネイティアは必死に次の手を考える。


(どうする!? 今の私にコイツをどうにかする力は残ってるの!? どうさればっ!)


そこでネイティアは1階で血塗れになって倒れているエルブリッドを思い出して、目から一筋の涙を流した。


(エルブリッド・・・お願い、貴方だけは生きてて・・・)


そんなネイティアの様子を見た南原は、一思いに終わらせようと機関銃を彼女に向けた。


南原の指が引き金を引こうとした瞬間、南原の背中に衝撃がはしった。


「ぐおっ!?」


すぐに振り返った南原はそこで目を見開いた。なんとそこには身体中を銃弾で撃ち抜かれた筈のエルブリッドが立っていたのだ。


「リーダーっ!」


「お前、生きてたのか?」


そんな2人の反応にエルブリッドは息も絶え絶えな

様子で剣を構えた。どうやらさっきの衝撃はあの剣で攻撃したからのだろう。


「ネイティアっ!後ろの窓から飛び降りろ!」


エルブリッドの言葉を聞いたネイティアはすぐに窓に向かって走り出した。それを見た南原は止めようと機関銃を構えるが、それを後ろにいたエルブリッドが邪魔する。


南原の機関銃を剣で叩き落としたエルブリッドはそのまま剣を離して南原の両腕を掴んで動きを制限させる。


「お前っ!・・・」


「道連れだ。一緒に地獄へいくぞ。」


エルブリッドの放った言葉を聞いた南原は一瞬、怪奇気味に眉を潜めたが、すぐにその意味を察した。


「っ! お前正気か!?」


何らかの自爆行為を行うと察した南原はエルブリッドの腕を離そうとするもエルブリッドは離さない。


その瞬間、エルブリッドの装備する鎧が光り始めて建物内を強力な光で包まれた。


「このイカれ野郎が!」


その後、2人のいた2階が吹き飛んだ。


「エルブリッドっ!!」


2階から飛び降りたネイティアはそれを見て涙を流しながらそう叫んだ。


「そんなっ!・・・嘘でしょ・・・」


エルブリッドの言葉の言う通りに建物から飛び降りた彼女は素直にそれに従った自分を恨んだ。


まさか自爆をするつもりだったとは考えもしなかった。どうしてあんな馬鹿な事をしたのだ・・・


ネイティアはそう後悔し、地面から崩れ落ちた。身体はまだ痛む。しかしそれ以上に悲しさが勝っていた。


しかしそんなネイティアに更なる絶望が襲い掛かる。


「え?」


爆発した建物の瓦礫を退かすように1人の男が立ち上がるのが見えた。持ち上げた瓦礫を乱雑に放り投げた男を見て彼女は身体中から血の気が引くのを感じた。


「う、嘘でしょ・・・なんで・・・」


南原だった。南原はその漆黒の防弾装備を土煙で汚すも立ち上がってネイティアの前にまで歩み寄った。背中部分にはバチバチと火花を出していた。


「随分とまぁ、ぶっ飛んだ事をしたもんだ。 だがな・・・これくらいでは俺は倒れないぞ。」


日本の最先端技術の総力を上げて作り上げられたこの特急隊員の装備は、防弾だけでなく爆発の耐性にも充分な力が発揮された。


とは言えども流石に無傷とは行かなかったが、それでもまだまだ余力を出せる位には余裕があった。


そんな南原を見て、ネイティアは全てを諦めたように俯いた。彼女にはこれ以上の抵抗をするだけの余裕は無かった。


南原は握っていた鉈を振り上げて、目の前で膝付く彼女の頭を目掛けて振り下ろす。


だが、またもやそんな南原を邪魔する者が現れた。


「ぐぅっ!?」


今度は南原の頭部から衝撃が走る。今度は何だ、という苛立ちで周囲に視線を見渡す。


すると周囲には十数人の冒険者風の男女が南原達を包囲するように展開していた。


「新手か!」


「みんなっ!・・・」


南原はそこで、ここは敵の勢力圏内であったと思い出した。あれだけの銃撃音や爆発音がすれば確かに冒険者が寄ってくるのも頷ける。


(迂闊だったな・・・他にも冒険者がいたか。)


そう南原が考えていると包囲の先頭に立っている1人の男が南原に剣を突きつけた。


「貴様、彼女から離れろ。 それ以上は俺達が許さない。」


そう男が言い放つと、周囲の冒険者達が一斉に動き出した。ネイティアは隙を見て南原の前から下がって冒険者達と合流した。


それを確認した冒険者達は、南原を囲むように数人の前衛職の冒険者が各々の武器で攻撃する。


「駄目よっ!不用意にソイツに近付いちゃ駄目!」


ネイティアが慌ててそう叫ぶが、少し遅かった。


「しゃっ!!」


南原がそう気合いを込めるように言うと、鉈を振り回すように近付いて来た数人の冒険者を両断した。


「なっ!?」

「こ、コイツっ!」


そんな南原の圧倒的な力に周囲の冒険者達から驚愕の声が漏れる。


一瞬にして数人の冒険者達を死体に変えた南原は血の付いた鉈を振って、その血を振り払うと周囲の冒険者達に向けて言い放つ。


「ミスリル級なら分かるが、銀級程度の冒険者が俺に敵うと思うか?」


南原は最初に攻撃してきた銀級の冒険者だった死体を見てそう言った。包囲している他の冒険者のプレートを見れば一番上でも白金級程度であった。


それを見た冒険者達は動揺した反応をする。それを一笑するように笑うと南原から動き出した。







突如として付近から何かが爆発したような轟音が聞こえたアリアは思わず音のした方向を振り返る。


「何なのだ! 今の音は!?」


すると隣にいた木花がその方向を睨むように見つめながら答えた。


「この爆発音に銃撃音・・・ひょっとすると列強の軍隊と冒険者が交戦しているかも知れませんね。」


(音からしても、ただの銃ではないな・・・)


そう考えた木花はアリアの顔に視線を向けてどうするかを確認した。


「如何なさいますか? お嬢様。」


問われたアリアは、ドラグノフ狙撃銃を握り締めて答えた。


「決まっておろう。音の場所へ行くぞ。もし冒険者がいるのならば彼等と接触しなくてはならん。」


(でしょうね。)


やはり思った通りの回答に軽く頷いて後ろの組員を引き連れて音の場所へと向かう。






金級冒険者の持つ鋭利な槍で付いてきた細身の男の槍使いからへの攻撃を上半身を動かして避けた南原は、飛び出してきた槍使いの冒険者の腕を掴んだ。


「くっ! 離せ怪物めっ!」


腕を掴まれた槍使いの冒険者は慌てた様子で、引き剥がそうとするが、南原の圧倒的な握力を前にして、それが出来ないでいた。


「このっ!」


そこへ南原の背後にいた同じ金級冒険者の剣士が、そう怒り気味の様子で南原の背中に剣を振るう。


それを察知した南原は、掴んでいた槍使いを片手で攻撃してくる剣士に向けて放り投げる。


「うぉっ!?」


圧倒的な身体能力を持つ南原によって投げられた槍使いは、勢い良く仲間である剣士の方へと吹っ飛んでいき、剣士と共にその先の壁に背中を叩き付けられた。


「ぐぅっ!・・・気を付けろっ! とんでもない馬鹿力だぞ!?」


壁に叩き付けられた剣士は、痛そうに背中を擦りながら仲間に注意を促す。


それに南原を包囲していた冒険者達は、包囲の輪を微かに緩めながら用心深く武器を構える。


そんな冒険者に対して身体の向きを頻繁に変えながら動き回っている南原。


(ここにいる冒険者共に魔法使いはいないな・・・ならば1人ずつ確実に仕留めるか。)


そう作戦を立てる南原を他所に、ちょうど南原と対面する位置に立っていた大柄な白金級の格闘戦士は、南原を睨みながら口を開く。


「俺が正面から殺る! その間に皆は背後から一斉に攻撃してくれ!」


ご丁寧に作戦を教えてくれた格闘戦士を見つめる南原は持っていた鉈を構え始める。どうやらその作戦に乗るようだ。


そんな南原を見た格闘戦士は、包囲の輪から飛び出すように動き出して、南原の右胴体に渾身の蹴りを打ち込む。


大柄な白金級冒険者のしかも高い身体能力を持つ格闘戦士から放たれる全力の蹴りは、生身の人間の内臓を容易く破壊するだけの威力を持っている。


それに対して南原は特に避けるといった動作は一切見せずにそのまま格闘戦士の蹴りを受けた。


理想の体勢で蹴りを放つことに成功した格闘戦士は手応えを感じた様で思わずニヤリと表情を歪める。


しかし蹴りを受けた南原は、大した反応を見せずに右胴体に当たっている脚を素早く掴んで、今度は南原が全力を持って握り締めた。


「ぐああぁぁっ!!」


予想を上回る南原の握力によって脚を握り締められた格闘戦士は、その痛みに叫び声をあげた。


そんな仲間の叫び声を聞いた仲間は慌てて一斉に南原の無防備な背中に攻撃をする。


彼等の動いたのを察知した南原は、掴んでいた格闘戦士の脚を離して振り返って、片方の腕で鉈を振り回して、もう片方の空いた腕で最も近くにいた冒険者の顔に拳を打ち込んだ。


重厚な全身鎧を装備した者とは思えない動きに冒険者達は慌てて距離をとった。


「糞っ! 速すぎる!?」


「気を付けてっ! 『鉄の馬車』の皆は来てないの!?」


傷を癒していたネイティアは、周囲の冒険者達にミスリル級冒険者について尋ねた。


「あの人達も近くにいます! 別の仲間が呼びに行ったのでもうすぐ来る筈です!」


(なに? 更に増援だと? なら少し不味いな。)


南原は更なる新手が来ると聞いて、動きを止める。それを見たネイティアが周りの冒険者達に言う。魔法使いがこの場に居ないのはそれが理由なのだろうか。


「コイツの中身は人間よっ! 迂闊に喋っては駄目だわっ!」


「マジですか!・・・喋れるゴーレムの類いかと思ってましたよっ!」


「だが、中身が人間ならやりようはある!」


「その通り。皆で絶え間なく攻撃して奴の体力を削いでやる!」


未だに戦意の衰えない冒険者達を前にして南原は、少しずつ崩壊した建物の方へと追いやられていく。


徐々に下がってくる南原を前にして彼等は、形勢がこちら側に傾きつつあると感じてほくそえむ。


そうして遂に崩壊した建物の瓦礫の山の中心部にまで下がった南原だが、彼に焦りの様子はない。


「どうするべき? また一斉に攻撃するの?」


瓦礫の中心部に立つ南原を包囲していた女冒険者の1人が聞く。


「油断するな。 奴の馬鹿げた力は見ただろ?」


「はぁ、糞・・・せめて後衛の連中が1人だけでも居てくれたらな。」


「そう言うな。 ニホン大使館に向かって行った仲間からの連絡の途絶えたんだ。 そっちの調査の方が大事だって言っただろ?」


(途絶えた? あそこの連中以外に向かおうとしてたのが居たのか? いや、それよりも、ここら辺にあると思ったんだかな・・・)


南原は彼等の会話に心の中で首をかしげながらも視線は足元を凝視していた。


顔だけじゃなく頭全体を覆っている装甲兜のお陰で、彼等に視線の変化に気付かれていなかったが、遠目から見ていたネイティアだけは違和感を感じていた。


(何か変だわ・・・アイツ、何かを探してる? でも一体何を探してるの?・・・)


ネイティアは僅かな違和感を敏感に感じとり、南原が何かを探している事に気付いた。


「・・・っ!? アイツを瓦礫から遠ざけてっ!」


そして何を探している事にも察した彼女は慌てて仲間達に声をあげたが少し遅かった。


彼女の指示に周りの冒険者達は怪奇気味な表情を浮かべているのを他所に、南原は瓦礫の山から目的の物を見つけたようで、その瓦礫に手を突っ込んだ。


そうして瓦礫から目的の物を取り出した南原は、勢い良くそれを天高く掲げた。


ネイティアは南原の持つそれを見て全身から血の気が引いたのを感じた。そんな彼女に反比例して周りの冒険者達は、キョトンとした反応をする。


「っ!? 不味いっ! アイツにそれを使わせちゃ駄目よっ!!」


ネイティアが叫ぶように言った瞬間、機関銃を見つけ出した南原は、正面にいた数人の冒険者達に銃弾の雨を浴びさせた。


「なっ!?」


脚を痛めていたが復帰して正面に立っていた格闘戦士は、そう驚愕の声をあげるが瞬時に狙われた数人の冒険者と共に肉片へと変えられていく。


「嘘・・・」


一瞬にして数人の仲間が肉片にされた彼等は動揺した。


「駄目っ! 逃げてっ!!」


ネイティアがすぐに逃げるように言うが、南原はそんな彼女に向けて機関銃を構え直す。


(っ!・・・狙いは私ねっ!)


彼女は目を瞑ってこれから訪れる銃撃に身を固めるが、またもや彼女の運命は神によって変えられる事になる。


南原の装甲兜に対して1発の銃弾が放たれ、それを受けた彼は頭を大きく揺らした。


「っ~! 今度は誰だっ!!?」


流石に3度も邪魔された南原は我慢の限界で、激怒した様子で撃たれた方向に顔を向く。


だがしかし、その視線の先には誰も居なかった。あるのは乱雑に建てられた数階建ての建物があるだけであった。


(何処だっ! 何処から撃っている!)


恐らくは火縄銃で狙撃されたのだと考えた南原は付近の建物を凝視する。しかしその瞬間、彼の予想よりも遠く離れた建物の窓から銃弾が再度、放たれた。


「~っ!!」

(遠いっ!? しかもこの威力は火縄銃じゃないのか!?)


そこで南原は火縄銃ではなく、ライフルのようなより近代的な銃器によって狙撃されたのだと気付く。


そう気付いた瞬間、南原の頭部に連続して銃弾が次々と撃ち込まれていった。


「ぐっ! 何人かいやがるのか!?」


連続として放たれる銃弾に、流石の南原も怯み出した。その様子を見ていたネイティア達は唖然とした表情を浮かべる。


「助かった?・・・でも一体誰が?」


痛む身体をなんとか動かしてその場から離れる彼女は、今も銃撃の収まらない光景を見て呆然と呟いていた。


(あの攻撃・・・少なくとも火縄銃ではないわ。でも、なんて命中率なの・・・)


ネイティアの優れた視力では、遠くの建物から僅かな光を放ちながら銃弾が飛んできているのが見えていた。


恐らくは列強の銃を使っているのだろう。彼女にも列強の装備をした一部の同胞が遅れて参加するのはとある人物から知らされていた。


しかしあんな遠くから撃っているというのに、今のところ全弾命中させる程の人物がいるなど聞いたことがない。


彼女がそう困惑気味に見ていると、ようやく場所を特定できた南原が新たな襲撃者のいる建物に何十もの銃弾を撃ち込んだ。


「っ! お願い、生きてて・・・」


ネイティアは他の冒険者達を誘導しつつ、助けてくれた謎の人物の安全を祈った。






「ちょっと!? お嬢様っ!? 何してるんですか!?」


突如として建物に突入して、上階の窓からドラグノフ狙撃銃で狙撃しているアリアを横に、まだ誰が交戦しているのかも確認していない木花は慌てて彼女を止めようとする。


「案ずるなっ! そなた等の国の兵士ではないぞ! 明らかに人間ではない! 漆黒の人型のゴーレムが冒険者と交戦しておる!」


そんな木花を他所にアリアは、次々と引き金を引いて発砲していく。


「それを決めるのは私です! 兎に角、お嬢様は下がっててください!」


「えぇい、離せっ! あそこの冒険者達を逃がさねばウンサンと接触するなど不可能であるぞ! あの者達に恩を売らねばそなた等もいつ狙われるか分からないのかを理解しておるのか!?」


「だから本当に奴等の相手が人間ではないのか確認したいのですよ! もし列強の兵士を殺したのが我々だとバレたら俺達が危ないんですよ!!」


「この臆病者めっ! そなたは保身しか考えていないのか!?」


そう言い争う2人を他所に隣で双眼鏡を使ってアリアが狙撃している正体を見ようと覗き込む井岡。


ガタッ


すると井岡は双眼鏡を落とした。その音を聞いた2人はそこで争うのを止めてただ事ではない様子の井岡をみる。


「どうした?」 


「か、頭・・・あ、あれ・・・」


木花からの質問に井岡はひきつった表情でアリアが攻撃している者の正体を言った。


「あれは・・・うちの国の特殊部隊です・・・しかも絶対に相手にしちゃ駄目な奴です。」


「なに?」「え?」


2人の表情が消えた瞬間、木花は向こう側から銃弾が飛んできているのを見て、瞬時に目の前のアリアの腰に腕を回し、隣の井岡を思い切り蹴った。


「伏せろっ!」


「きゃっ!?」 「うぎゃっ!?」


その瞬間、3人のいた場所を中心に銃弾が飛んできて、建物の破片を撒き散らしていく。


一瞬にして建物の一部が抉られており、生身の人間は即死したであろう。しかし的確な木花の判断により、3人は無傷ですんだ。


「頭っ!? お嬢様っ!? ご無事ですか!?」


井岡がすぐに立ち上がり、自分とは反対側に倒れた2人に声をかける。


「何とかな・・・」 「うぅ・・・」


2人は抱かえ合うようにして倒れており、互いの鼻と鼻が触れる程に近かった。更に木花の腕はアリアの腰に手をまわしたままだった。


それを見た井岡は思わずにやけるが、慌てて口を両手で抑える。そしてその状態に気付いた2人は互いに暫く見つめ合うと、顔を真っ赤にしたアリアが慌てて木花を付き倒す。


「あだっ!?」


「ぶ、無礼者めっ! 私に触れるな!」


床に頭を打って後頭部を抑えて軽く悶絶する木花と慌てて木花に触れられた腰を中心にはたくアリア。


そんな2人を見た井岡は「まだ若いな・・・」と場違いな感想を抱きつつも倒れている木花に手をかした。


立ち上がった木花は頭を擦るが、そのあと何かを思い出したかのように大慌てでアリアの肩を掴んで大きく揺らした。


「きゃっ!」


それに思わず小さく叫んだアリアだが、それに構わずに木花は詰め寄る。


「なんてことをしたんですか!? よ、よりによって俺達の国の特殊部隊を攻撃したのですよ!?」


そう木花は言い、アリアの頭を大きく揺らし続ける。それに目が回るアリアを見て井岡が慌てて木花の腕を掴んで止める。


「か、頭っ! 取り敢えずはここから離れましょう! また、銃弾がとんできますよ!」


「くっ! 急ぐぞ!」


「あっ! ちょっと!?」


井岡からの言葉に木花はまだ何かを言いたそうにしていたが諦めて、アリアの白い手を握って外へ出る。


それにアリアはびっくりして目を見開くがそんな彼女を無視して木花は走る。


建物の外へ出ると、そこで待機していた組員達が一斉に駆け寄る。


「頭っ!? 姐さん!? 先ほどの音は一体!?」


「俺達は問題ない! それよりもここから離れるぞ!」

(姐さん?)


組員の言葉の一部に違和感を覚えたが、それどころではないので、組員達を連れて走る。


そして木花は走りながら井岡に質問をする。因みにアリアとは既に手を離していた。


「井岡っ! さっき言っていた言葉はどういう意味だ!?」


木花は「絶対に相手にしちゃ駄目な奴」という井岡の言葉を思い出してそう聞いた。井岡は双眼鏡で見た南原の姿を思い返しながら答える。


「あ、あれは特殊急襲制圧部隊です! まさか連中がこんな所にまで来ていたとは・・・」


「特殊急襲制圧部隊?・・・数年前にニュースに出ていたあれか!?」


「そうです! 従来の隠密作戦を前提とした部隊ではなく、正面から火力で解決することを前提とした今までの特殊部隊とは訳が違います! 出合ったら秒で皆殺しですよ!?」


「そんな連中をお嬢様が撃った訳か!?」


「そう言うことです!!」


「だが、キハナのスマホで調べたが、そなた等の兵士の装備とは全く違っていたのだぞ!」


アリアは事前に木花のスマホで日本の軍隊の姿を確認しており、それに苦言を申した。


「連中の装備は殆ど公開されていません! 都市伝説レベルではありますがそれも多くがデマでしょう!」


「だったら何故分かるのだ?」


アリアが納得がいかない様子で井岡をみる。


「・・・北海道の攻防戦の際に撮影されたと思われる連中の画像がネット上に流れました。しかしその後すぐに不気味な程にそれ関連の画像は全て削除されてたんです。その時の画像とさっき見たのが!」


「全く同じだったと?」


木花の言葉に井岡は冷や汗を流しながら頷いた。


「最悪だな。 恨みますよ、お転婆お嬢様っ! 」


「それは・・・す、すまない。」


本気で後悔している木花の様子にアリアは申し訳なさそうに言う。


そんな様子のアリアを見た井岡が元気付けようとした時、彼の身体が吹っ飛んだ。


「井岡っ!?」


木花が驚いた様子で壁に叩き付けられた井岡を見る。どうやら気絶したようだ。そして井岡が吹っ飛んだ方向とは反対側の建物の影から南原が現れた。


(っ! コイツが・・・)


初めて見た特急隊員の姿に木花は思わず立ち竦んでしまった。どうやってあんな短時間で、自分達に追いついたのか分からない。人間とは思えない程の足の速さだ。


「頭っ! お下がりください!」


そこへ組員達が木花を守ろうと南原の前へ立ちはだかる。そんな彼等を見た南原は怒りを隠さない様子で口を開いた。


「どういうことだ?」


「なに?」


南原の言葉の意図が分からなかった木花は思わず聞き返した。


「何故、同じ日本人であるお前等が俺の邪魔をした? あの女は大使館を襲撃し、国防隊員を殺した敵だ。」


南原はそう言って組員達に近寄る。それに組員達が拳銃や刀で牽制するが全く効果がない。


「あまつさえその女は何者だ? 見た所、この国の人間らしいが・・・なぜ火縄銃ではなく、連発式の銃を持っているんだ? まさか・・・渡したのか?」


「っ!」


南原に睨まれたアリアは小さな肩を震わせて後退りをした。それを見た組員達が壁となって南原の視界に入らないようにする。


「お前等・・・まさか国を裏切ったのか? そもそも民間人であるお前等がこんなにも多種多様な武器を持っているのは一体・・・」


そこまで言うと南原は1つの答えに辿り着いたようで、納得したように頷いた。


「そう言うことか・・・お前等はヤクザ共だな。」


その答えに辿り着いた南原は、とてつもない殺気を放った。それに木花は震える身体を抑えてなんとか声を出して宥めようとする。


「ま、まぁ、落ち着けよ。」


「黙れ。」


そう言いうと南原は、持っていた機関銃を木花達に向けた。それに2人を守るように立っていた組員達が一斉に身構える。


「あ、死んだ」誰もがそう考えた時、南原の後ろから声がした。


「待ちなさい!」


「あぁ?」


女性特有の声を背後から聞いた南原はドスの利いた声をあげて振り返って、更なる殺気を身に纏わせた。


「ひっ!」


そんな南原を目の当たりにしたアリアが思わずそう小さく掠れたような叫び声をあげてるのを見た木花がすぐに彼女の肩を掴んで落ち着かせる。


それでも彼女は胸を震えた手で抑えて、今にも崩れ落ちそうな程に大きく震える足で立っているのを見た木花は小さな声で宥める。


「お嬢様、お気を確かに・・・大丈夫ですよ。何があっても守りますから。」


誰かを宥めた経験のない木花は取り敢えず、テレビ等でよく聞く台詞を使いまわした。周りの組員達の表情が僅かに緩んでいたように見えたが気のせいであろう。


そんな2人を他所に南原は、目の前に現れたネイティア達を目にして彼女等に話しかけた。


「よぉ、そっちから会いに来てくるとは思わなかったぞ?」


怒りを隠そうともしない南原を相手にしても動じることもなくネイティアは、不快気味に応えた。


「それは良かったわね。それよりも今の状況は理解してるのかしら?形勢は完全に逆転してるわよ。」


ネイティアの後ろには、包囲していた冒険者達だけではなくつい先ほど合流したミスリル級冒険者チーム『鉄の馬車』が率いる多数の冒険者達もいた。


「ネイティア、コイツが本当にエルフブリッドを殺したのか?」


鉄の馬車のリーダーがそうネイティアに問う。それにネイティアは奥歯を噛み締める表情で頷いた。


「そうよ・・・アイツがリーダーをっ!」


それを聞いた冒険者達は一斉に殺気を南原に向けた。それを見ていた南原は不快気味な反応をする。


「ふんっ お前等が先に仕掛けてきたんだろうが。仕返しされたら嫌か? だったら最初からするなって話だろうが。」

(さて・・・どうするか?)


南原は今の状況を整理する。後方にはヤクザらしき十数人の日本人が、そして前にはその倍以上はいる冒険者達がいる。


正直に言って極めて不利な状況だ。万全の状態でもミスリル級冒険者が、しかもチームで相手にするのは危険過ぎる。更には多数の冒険者もセットだ。


そして南原は万全の状態ではなく、一連の戦闘により満身創痍であり、銃弾も既に殆ど使いきっていたのだ。更には南原のパワードスーツはもう・・・


挙げ句の果てには裏切り者とされる後ろのヤクザ達だ。せめて彼等が味方なのであればまだマシであったのだが・・・


(いや、ヤクザと手を組むなぞ考えたくもない。)


そう南原が考えていると、装甲兜内部に取り付けられていた無線機から無線が入る。それを聞いた南原は少しだけ気分が晴れた。


「はっ、どうやら死んだのはエルブリッド君だけではないらしいぞ。ネイティア・・・だったか?」


「っ!・・・どういう意味よ?」


ネイティアは表情を歪めて聞き返した。まさかそんな筈はないと信じて。


「ついさっき無線が入った。大使館内にいた冒険者は全員、片付けたらしい。この中にはミスリル級プレートを着けた少年と男がいたらしいな。格好からして、魔法使いと支援系の奴等だと言ってるぞ?」


「嘘よっ!」


ネイティアは絶対に信じないという様子で応えた。それに南原は首を振る。


「お前にとっては残念だが事実だ。もうお前の仲間は帰ってこないぞ。 俺の仲間は強者だらけだ。すぐにここにも俺の仲間が大挙してやってくるぜ。」


「そんなっ! 嘘よっ!!」


「ネイティアっ! 落ち着くんだ! 奴の言葉に惑わされるな!」


隣のミスリル級冒険者がネイティアを必死に落ち着かせようとする。それを見ていた南原の無線機から更に無線が入り、その内容に彼は目を丸くした。


(なに?・・・)


暫く考えた様子をみせる南原だが、意を決したように頷き、ネイティア達に向かって口を開いた。


「・・・どうやら既に仲間がここに到着したらしいな。どうする? 戦うか? 俺達と。」


その言葉を聞いた冒険者の1人が嘲笑して答えた。


「はっ! そんな話を誰が信じるかよ! 命乞いならもっとマシな内容を・・・がっ!?」


その瞬間、喋っていた冒険者の頭部が胴体と分離して吹き飛んだ。


「なっ!?」 「馬鹿なっ!!」


それに冒険者達は狼狽える。南原の後ろにいた木花達も同様に動き出す。


木花とアリアを守ろうと組員達か2人を囲みだしたのだ。恐らくは狙撃銃で狙ったのだろう。


(まさか本当に来てるのか?)


鉄の馬車のリーダーは、南原の言葉が虚偽ではなかいことを悟る。


「ネイティア・・・ここは一旦下がるぞ。」


「冗談でしょ!? アイツを殺さないと!」


「無理だ。奴と同じ力を持った連中が居るなら俺達も相応の損害を負うぞ。それに、お前の傷も酷い、ここは一旦下がるのが賢明だ。」


リーダーは悔しげにそう言った。しかしネイティアは尚も引き下がらない様子を見て、彼は彼女を気絶させた。


「ほう・・・」


それを見た南原は少し残念そうに、しかしどこか安堵した様子で呟いた。


そんな南原を横目に、彼等は来た道を引き返した。


「いつか必ず仇を撃つからな。」


肩にネイティアを担いで言った彼の言葉に南原は憎々しげに答える。


「それはこっちの台詞だ。」


南原がそう言い返すと、木花達を睨んでから彼も建物の間にある細い道から来た道を引き返した。


「え? 俺達は?」


そんな南原を見て木花は思わずそう呟いた。まさか自分達を無視して消えるとは思わなかったのだ。


そんな木花を横目にアリアは、引き返していく冒険者達に慌てて声を掛けた。


「ま、待て! 私はバフマン王国領政官の娘、キム家のキム・アリアだ! カン・ウンサンと話がしたいのだ! 会わせて欲しい!」


そんなアリアの言葉を聞いた彼等は心底、驚いた顔をしていた。







細い道を歩いていた南原は、そこで視線の先にいる2人組の存在に気付いて声を掛けた。非常に不愉快な様子でだ。


「・・・あの時の狙撃はお前達だな?」


「察しが良くて助かるよ。」


そう2人組の片割れが答えた。


「お前等は何者だ? 見た所は同じ日本人のようだが。」


「少なくとも敵ではない。安心して欲しい。」


そう言う2人組に対して、南原はずっと黙っている男の持つ巨大な銃を見る。


「それは対物ライフルか? だが、見たことのないタイプだな・・・さっきの狙撃はお前が?」


南原はそう言って男の持つ対物ライフルをまじまじと見つめる。


無骨な形状をしており、その素材も見たことのない物で使われているのが分かる。それがどの国にも使われてない物だと気付いた南原に、持っていた男は陽気な反応をして答えた。


「大正解~、流石は特急最強と呼ばれる南原君だ。 これはうちが極秘に使用している対物ライフルだよ・・・正確には地下室に籠る要人を殺害する為に作られた物だ。」


「余計な事を言うなオタク野郎。」


そう言ってオタクを黙らせる男は南原を見た。


「君の仕事振りは実に素晴らしい。だからこそ、ここからは我々に任せて欲しいんだ。」


「だから無線で下がるように言った訳か?だが。」


南原は圧力をかけるように言う。


「なぜ、あのヤクザ共も見逃せと言った? 連中は裏切り者なんだろ?」


「それを君が知る必要はない。」


「お前等は・・・Sか?」


南原は国防陸軍の最高機密である特殊作戦群なのかと聞いた。


「ご想像に任せるよ。」


「なら別班か?」


「正確に言うと別班は自衛隊管轄じゃないよ。あれはうちら公安の・・・むぐっ!」


余計な事を言ったオタクを慌てて黙らせる男。それを見た南原は拍子抜けした表情になった。


「はぁ? まさかお前等は公安なのか? なんだって公安が・・・」


「この大馬鹿野郎が・・・」


「ゴメンって。 どうしても彼に聞きたい事があったんだよ。」


「俺にか?」


オタクはそう言うと真面目な表情になった。


「うん。君の頭部を撃ちまくってた金髪の美女なんだけさぁ・・・あれ、全く同じ箇所に当たってたでしょ?」


オタクの言葉に隣にいた男は目を丸くした。そんな筈がない、そう言うとしたが止めた。南原の反応を見たからだ。


「気付いたか・・・どこで見ていた?」


南原の返答に男は動揺した。


「冗談だろ? お前もいつの間に・・・」


「隠れて見るのは得意だ。そしたら、あの金髪の子・・・少なくとも300メートル離れた所から10発以上を当てただけじゃなく、全く同じ場所に当て続けてたんだよ。」


オタクの言葉を聞いた南原は、そこで装甲兜の僅かに凹んでいた箇所を撫でた。


(あの時、全く同じ場所から衝撃を感じた。どんなに動いていても同じ場所に当てていた。 やはり気のせいではなかったんだ・・・)


南原の考えを他所にオタクは続ける。


「あの子はとんでもない位に射撃の才能を持っているんだよ。」


「だが、お前だって近距離の射撃なら百発百中の腕を持ってるだろ。」


「中距離であの命中率は訳が違うよ。しかもあの子は間違いなく使い慣れた銃を使ってた訳ではない。 この世界にソ連の狙撃銃なんてあるの? 火縄銃ですらも貴重なこの世界で。」


「・・・確かに。そんな芸当の出来る奴は俺等にも居ないしな。恐らくはSにも存在しないだろうな。 」


男は自分の顎を擦りながらそうブツブツと言った。そんな彼を見て南原は苛立ちを隠さない様子で声をかける。


「それで? なぜ奴等を見逃せと?」 

 

南原の人間の放つものとは思えない程の威圧を放たれる2人だが、それには微塵も怯まない様子で男が答えた。


「おっとそうだったな。 まぁ正確には、あの金髪女と木花という若造は野放しにする、という意味だ。 あの2人はまだ殺すわけにはいかない。」


「だから何故だ!?」


「落ち着けって。 ・・・簡潔に言うならあの2人がこの騒動を終わらすキッカケになるかも知れないからだ。」


「なに?」


南原の怪奇気味の反応に構わずに男は続ける。


「連中はこの騒動の中心人物と思われる冒険者共のトップと接触するんだ。 そしてあの金髪の女はこの国ではかなりの影響力を持っている。」


「しかも、そんなお嬢ちゃんはそのトップと面識が有るらしいんだ。 懸けてみる価値はあるだろ?」


「何故、それをお前達がそこまで把握している?」


南原の問いに、男は懐からスマホを取り出して耳に翳した。それに南原は察したように言う。


「盗聴か・・・」


「諜報活動と言ってくれ。 このご時世だ。国内の殆ど使用されている携帯機器は純国産の物ばかりだからな。 少し細工するなんて容易だ。」


「それともう1つあるんだよね。」


オタクはそう言うと後ろからある物を取り出して、それを南原に見せた。それを見た南原は眉を潜めながらそれの名前を呟く。


「それは・・・20式か?」


「お見事。持ってみな。」


日本国防軍が採用している最新式自動小銃の名を挙げた南原にオタクは投げるように渡した。


そして、それを空中で受け取った南原はその20式の違和感に即座に気付いた。


(何だ?・・・20式にしては少し・・・いや、明らかに・・・)


「重いだろ? この時代に実に不親切な銃だよなぁ。」


20式を握って固まっていた南原を見た男が、心の中を見透かしたかのように答えた。それに南原は理由を聞いた。


「どういうことだ?」


「その小銃は暴徒共が持っていた物を、このオタク野郎が奪い取ったんだ。」


「暴徒共がこれを持っていただと! なぜこの国の人間が持っているんだ!?」


「知らなかったのか? いまこの都市には、俺等の国だけじゃなくて、全ての列強国の兵器が暴徒共が使ってるぜ。 小銃だけじゃなく、大砲まで使ってやがる。」


「なっ!・・・どういう事だ?」


絶句した様子の南原を横目にオタクが腕を組んで通りを小さく回るように歩きだしながら答えた。


「・・・彼等の持つ殆どの銃は、恐らくは本物だろうね。 でも日本産の銃器だけは、どれも異様な程に重かったんだ。 その持っている20式を見て他にも違和感があるだろ?」


それを聞いた南原は手に持っていた20式をまじまじと見つめて、すぐに分かった。


「素材が違う?・・・殆ど鉄で出来てるのか?」


「ご明察。」


オタクが軽く拍手をした。それに男が理由を言った。


「本来の20式ならば軽量化の為に、素材の軽い樹脂やアルミにセラミック類を使用されて製造されている・・・奴等の持っていた20式は、見た目こそは本物と瓜二つなんだが・・・材料は全くもって違ったんだ。 完全な偽物なんだ。」


「横流し品の類いでは無いと? なら、どうやってここまで精巧に作れる?」


「俺達の見解では、これは魔法だ。」


「なに?」


「魔法の中には、特定の製造物を造り出せる事が出来る『創造魔法』って種類の魔法があるらしい。」


「そのモデルとなる物と素材さえ用意すれば、後は魔法を唱えるだけで、造ってくれる凄く便利な魔法さ。」


オタクの補足説明に、男はチラリとオタクを見たが、すぐに説明に戻った。


「恐らく、それはその魔法によって造られている。 だが、それを行使した連中は本物は用意できたが、その本物の材質までは解明できなかったようで、渋々、自分達で集めれる材料で造ったんだろうな。」


「お陰で、その20式は滅茶苦茶に使い勝手が悪い。重量のお陰で安定性はあるけど、不発は多いは、暴発はするわ、既に錆びてるのもあったしね。」


オタクはその時の様子を思い出しながら呟いた。そこへ南原が気になっていたことを聞いた。


「ちょっと待て。本物はその連中の手にあるってことなのか?」


「あぁそうだろうな。 可能性としてはオーマ駐屯基地の襲撃時に奪われた、というのが高い。」


「なら日本の技術がソイツ等に奪われたという訳か!」


南原の怒りの混じった言葉に、男は淡々と答える。


「技術は常に奪う、奪われるの繰り返しだ。 世界最初の戦車だって故障したのをドイツ軍が回収してあっという間に真似て、世界中に広まったんだ。

技術はそうやって進化したんだ。今に始まった事ではないぜ。」


「お前等はそう言って何もしないつもりか?」


南原の言葉に男は首を横に振って答える。


「そんなまさか、だからこそあのヤクザ共を放置しろと言ったんだ。」


「彼等に、冒険者のトップと接触させて、20式を奪った連中を見つけさせる・・・とまでは行かないだろうけど糸口は見えるだろうさ。」


「・・・だから、あの場で冒険者共も見逃せと言ったのか? あの女は早島班長殿を殺した仲間だぞ? 実際に国防隊員も何人か殺したんだぞ!?」


南原の怒りの言葉にも男は特に反応はせずに真顔で返した。


「まぁお前の言いたいことは分かるが・・・大局を見間違えるな。 感情よりも実利を優先する。 それによって日本の力となる。 俺達は常にそうして来たんだ。」


「ふざけるなよ。」


南原は殺気を2人に放って歩き出した。それに2人は初めて構え出す。


「落ち着けって。 あの時、戦えばあの女達は木花達も殺す可能性があった。 そうなれば連中と接触して情報を手に入れるのは不可能になる。

いま、この事件の真相を覗ける事の出来る奴がこの世から居なくなることになるんだぞ?

俺達の力では、何年かかるかも分からん。そして、そんな時間を悠長に連中が待ってくれると思うか?」


男がそう落ち着かせるように宥めるが、南原は聞く耳を持たずに近付いてくる。


「どうすんの?」


それを見たオタクが男に聞く。問われた男は、南原の性格に呆れの様子を表して、懐からある物を取り出して、南原の前に投げる。それを見た南原が勢い良く走り出した。


それは地面に落ちた後、即座に機能を起動させた。周囲に衝撃波を放ってそれは走り出した南原をも包み込んだ。


その光景を見た男は構えを解除した。彼が投げたのは簡単に言うと電磁波爆弾であった。


効果範囲は限られるが、携行可能なサイズのそれは南原のパワードスーツのあらゆる電子機器を全て破壊させてその圧倒的な力を封じ込めた。


2人の持つ電子機器は全て電磁波対策を施されているが、特急隊員の装備には未だにそれは実施されていない。


この異世界では、未だにその対策はせずとも問題は無いと判断されており、それ以前に、衝撃に対する耐性の方が優先だと考えられているからだ。


そんな訳で2人は、南原が装備の重量によって膝から崩れ落ちて動けなくなることを予期して警戒を解いたのだが、南原はそんな2人の予想を超越したことを起こした。


「およっ!?」「はぁっ!?」


なんと南原は全く勢いを緩める様子はなく、それどころかより速度を増した。


(まさか既に電磁波対策がされている!? いや、そんな訳がない!)


男がそう混乱していると、南原はあっという間に男のすぐ近くにまで寄って首を掴んで持ち挙げた。


「ぐぅっ!?」


物凄い力で掴まれた男は慌てて振りほどこうとするが、南原にはびくともしなかった。


「おいっ! 見てないで、どうにかしろ!?」


男が隣で見ているオタクに、怒りを露にしながら言った。それにオタクは南原を怪物でも見るかのような表情で動く。


「本当にどういうことよ?」


オタクは拳銃を懐から取り出して、南原の装甲兜の耳部分に何発かを発砲した。


「~っ!!」


至近距離から、性格に耳元を撃たれた南原は、一連の戦闘で疲弊していたのもあってか、それとも中枢神経を刺激されたのか、あるいはその両方かは不明だが、男の首を掴んでいた手を離して、そのまま後ろ向きに倒れて気絶した。


解放された男は嗚咽の声を漏らしながら倒れている南原を見た。


「ゴホッ!ゴホッ!・・・なぜあの電磁波が効いてないんだ!?」


「いいや・・・ちゃんと効いてたよ。」


男の言葉にオタクは南原の特急装備を見てそう否定した。


「あ? どういう訳だよ!?」


「とっくの昔に、パワードスーツは故障してたんだよ。 多分だけど建物の崩壊時にね。」


オタクの言葉に男は驚いた反応をする。


「ち、ちょっと待てよっ! てことは・・・コイツはそんな状態で冒険者と戦って、数百メートル以上を走って逃げた木花達に追い付いたのか!? この装備を付けたままでか!?」


故障した特急装備なんぞもはやただの重りだというのに、そんな事を成し遂げた南原を信じられないという表情をする男。


これにはオタクも頬に冷や汗を流して呟いた。


「マジで火事場の馬鹿力を発揮したんだね・・・」


2人は南原の馬鹿げた身体能力を見て、肝を冷やした。


「んじゃ、彼を安全な所まで運んどいてねぇ。」


「は? 俺が運ぶのか?」


「当たり前でしょ? 俺はこれから木花達の監視に行くんだから。」


「あぁ糞っ・・・こちら12番、荷物を運ぶ。誰か手伝ってくれ。 あ? そんな暇ないって? 

そう言わないで来てくれよ・・・頼むから。」



年末ですね・・・次回はなるべく早く投稿しますので、お楽しみに!


話がダラダラし過ぎてる、という方がいらっしゃれば本当に申し訳ありません。


速いとこ、国防軍を全面にだしたいですね。


もうシナリオは脳内で出来てるのに・・・

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― 新着の感想 ―
[良い点] 追跡者が壁を突き破って追って来るとか追われる身としては恐怖ですよね、バイオハザードシリーズでそういうクリーチャーがいましたね。 分かっている2週目以降でも毎回ビビります。 20式小銃が何…
[一言] ちなみに20式はセラミックス製らしいよ。 何で露骨に材質が違いすぎているから多分どこかの国がやらかしているのだけは証明できるという。
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