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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第69話 2人の決心

第69話 2人の決心

      

        王都ソウバリン 



「さて・・・どうするか?」


木花はとある建物の部屋でそう呟いた。この部屋の端に置かれた椅子には、木花から借りたスマホを興味深そうに見つめるアリアがいた。


「これが、すまほ、か・・・なんとも奇怪な物か」


アリアはそう言って先程、木花に教わった操作方法でスマホを操作して、先の屋上で木花が撮影したレムリア連邦の戦車が映っている写真を見る。


「本当にしっかりと映っておるな・・・これがしゃしんと言うのだな?」


「えぇ、そうですよ、お嬢様。」


木花は壁に寄りかかってアリアからの質問に答えた。


木花達のいる建物は熊光組が所有している酒場で、そこの3階にある部屋にいた。


あの昼間の戦闘が終わったと思いきや日が暮れてから始まったこの暴動の状態では迂闊に外に出れない為にこの部屋にいたのだ。


(いや、これは最早、暴動とは言えないな。これは完全に・・・)


内戦 そんな単語が木花の脳裏にちらつく。木花がそう思うのには理由があった。


夕方頃に、暴動のどさくさに紛れて王神組の五十嵐から離れた木花は、熊光組の管理していた建物に向かう途中で彼は見たのだ。


粗悪な武器を持った暴徒達と正規兵並の武装をした兵士達が戦っていたところを・・・これは暴徒達と改新派に属する大臣等の私兵が各地で交戦していたのだ。


より正確に言えば、列強にすり寄る改新派の大臣達の屋敷を襲うとしていた暴徒を私兵が止めているのが正解であろう。


普通ならばまともな武器を持たない暴徒達が、正規兵等と同等の装備を持つ大臣の私兵に敵う筈が無いのだが、暴徒側には一部の正規兵と冒険者達が加勢しており、戦況は拮抗していたのだ。


だから最大戦力を有する筈の列強国は、一騎当千の力を持つ冒険者達に初手を封じられ今に至る。


(まぁ、こんな状況下でお嬢様と合ったのは大きい。お陰でこの建物にまで避難できた・・・)


腐れ縁だな。木花はそう小さく呟き、溜め息を心の中で吐く。


暴徒達は列強人と見なせば見境無く襲ってきていたのだ。今に至るまでにどれだけの数の列強人が殺されてきたことか、そう考えると震えが止まらない。


木花が数え切れない程の暴徒達の目を盗んで、路地裏を走っていたところに偶然にもアリアと再会した。


そこからは、流石は国内で圧倒的な人気と知名度を誇る名門キム家の娘だ。


アリアがわざわざ屋敷から持ってきた外套を木花に着させて堂々と街中を歩くと、暴徒達はアリアの顔を見るや否や、驚愕に目を見開かせて次々と道を開けていったのだ。


木花はそんなアリアの付き人として、暴徒達になんの疑惑も掛けられずに、この建物にまで逃げれた事に関しては深く彼女に感謝している。


ただ問題は、そのアリアはこの状況をどうにかしようと冒険者達と接触する為に手を尽くしていたようだ。彼女はそれに木花にも協力を要請ー命令口調だったがーしたのだ。


木花としてはさっさと安全地帯にまで行ってそこで騒動が収まる迄の間をやり過ごそうと考えていたので、当然ながら最初は拒否した。


(冗談じゃない。これ以上関わっていては命が幾つあっても足りない!)


列強人を殺そうとする暴徒が街中に溢れているというのに、下手に関われば、いつ列強人だとバレて殺されるかわかったもんじゃない。


アリアが同じバフマン人として、そして領政官の娘としてこの事態をどうにかしたいのは分かるが、自分を巻き込まないで欲しい。


しかし木花は、そんな彼女と行動を共にしている。その事実に彼は溜め息を吐いた。


(はぁ・・・何故こうなったのか・・・)


木花はその時の状況を思い返す。





「お断りしますお嬢様。」


部屋に入って開口一言にキッパリと断る木花に、アリアは腕を組んでその整った眉を潜めて睨む。


「・・・私はそなたの命を救ったのだぞ? 恩を返さないのがニホン人なのか?」


「何と言われましても無理な物は無理です。」


先程まで着ていた外套を脱いで、それを綺麗に折り畳み、近くにあった机の上に置く木花。


そんな木花に対してアリアは、互いの呼吸が聞こえる程の距離にまで近付く。


「私はそなたの命の恩人だぞ?」


「それには大変感謝しておりますお嬢様。このご恩は別の形で御返しさせて頂きます。」


木花はニッコリと微笑みを浮かべて、その場を後にしようとアリアの後ろにある扉に歩きだす。そしてそれを阻止しようと再度、木花の前に出るアリア。


また至近距離で見つめ合う男女2人。見る者によっては、まるで恋人のような光景だが、実際はそんな生易しいものではない。


「ここに列強人が居るぞ・・・と、民達に教えた方がよいか?」


「その時には、私はお嬢様の手によってここまで連れてこられたと言いふらします。」


木花の反論にアリアは口元を手で覆って上品に笑う


「ふふ、民が、そなたの言葉を信じると思うか?」


アリアは勝ち誇った表情で言う。自身の信用はその程度では覆らないという絶対の自信が彼女にはあった。


そんなアリアに、木花は懐からスマホを取り出して、あるアプリを起動した。それを疑問気味に見つめるアリアはその後、驚愕に目を見開く事になる。


『これは?』


『これを着よ。私の従者としてこの場を潜り抜けるぞ。』


『バレたらお嬢様も不味いじゃないですか。』


『そなたには利用価値がある。このまま見つかって殺されたいのであれば、私は帰るとしよう。』


これはアリアが木花を手助けする一連の会話を記録したボイスレコーダだった。木花は咄嗟の判断でこれを起動させていたのだ。


「これはっ!? わ、渡しなさいっ!」


まさかの事にアリアは、思わず声を荒げてしまう。すぐにスマホを奪おうと手を伸ばすが、木花は持っていた手を高く上げてそれを阻止する。


「っ!? ぶ、無礼な!」


アリアは何とか取り上げようと必死に手を伸ばすが2人の身長差もあり、それは叶わない。


今度は木花が勝者の顔をして、アリアに提案を持ち掛ける。


「私をこのまま逃がしてくだされば、これは破棄します。それを拒否なさるのであれば、仕方ありませんな・・・これを彼等が聞こえる位の音量で街中に撒き散らしましょう。

このスマホは遠方にも声が届く優れ物ですゆえ、すぐにでも民達はお嬢様の元に駆け付けるでしょうな。」


「むぅ・・・卑怯なっ!・・・」


ブラフを混ぜた提案をアリアに持ち掛けた木花。これに悔しそうに表情を歪める彼女を見た彼は勝利を確信した。


しかし、スマホを奪われないように腕を上に上げていた木花に不運が訪れる。


腕の裾を上げていた故に、腰付近にホルスターで下げていた自動拳銃がアリアの視界に映ってしまったのだ。


それを発見したアリアは、一瞬で木花の腰に手を伸ばして、木花が反応する間もなくホルスターから自動拳銃であるグロック17を奪ってその銃口を彼に向けた。


「すぐにそれを破棄しろ。撃たれたいか?」


あっという間に、武器を奪われた木花も流石に動揺するが、すぐに平常心を取り戻す。


あの銃はいま撃鉄を下げており、更に装填されていないばかりか、安全装置まで掛けているのだ。


幾ら銃の名手である彼女でも所詮は辺境の国の人間だ。自動小銃の使い方なんて知らないだろう。しかもグロック17は3つの安全装置が付けられてるのだ。


この世界での多くの銃には、単純な安全装置ですら無いのが殆どだ。木花達が売り払ったスペンサー銃だって、シンプルで分かり易い安全装置しか付けていない。


「それの使い方はご存知で? それでは撃てないですよ? 嘘だとお思いなら引き金を引いてみてください。」


木花の少し煽り口調の言葉に、気分を害したのかアリアは迷うこと無く引き金を引いた。しかし引き金は、その途中で止まってしまう。


(本当に引きやがった…)


全く躊躇無く引き金を引くアリアに木花がドン引きするか、当の本人は気にしない様子でグロック17を注視する。きっと木花の言葉を信じていたのだろう。うん。そうに違いない。多分・・・


木花はそこで腕を伸ばして奪い返そうか迷ったが、目の前の彼女は戦闘技術を身に付けた女性だという事を思い出して止めた。


それに下手に乱闘騒ぎを起こして外の連中に勘づかれるよりかは、アリアが諦めて銃を返す方に期待した方が懸命だと木花は考える。


それが愚かな判断だったと木花は後悔する事になるのだが・・・


美女が銃を見つめる姿も絵になる、という新事実を知った木花は安堵の息を心の中で吐きながら穏やかな口調で言う。


「さぁ、諦めて銃を返してください。 お嬢様に手荒な事はしたくない・・・」


そうやって木花が話し掛けてる間に、アリアはなんとグロック17のスライド部分をスライドさせて弾を装填させて撃鉄を起こし、最後にセーフティレバーを起こして全ての安全装置を解除させて木花に再度、その銃口を向けた。


「・・・え?」


まさか過ぎる事態に木花は勝者の表情から一変、猛獣に睨まれた獲物の表情となる。


「ど、どうやって、解除方法を!?」


壁際にまで下がって両手を挙げながら目の前の女性に問い掛ける日本人。それに問われた彼女は淡々と答える。


「勘だ。」


そう答えて、無表情で木花に銃口を構えるアリアに彼は瞠目する。


(そんな馬鹿な話があるか!?)


そう全力で否定するが、戦況がひっくり返ったので木花は慌てて説得を試みる。


「お、お待ちくださいお嬢様! わ、私は、早急過ぎると言いたいだけでして・・・」


「協力してくれるな? キハナ。」


無表情から一転、満面の笑みを浮かべるアリアに、木花は無慈悲な魔女を見るような目で必死に説得する。


「お、落ち着いてくださいお嬢様っ! ここは穏便に話し合いで・・・」


「それを破棄して協力するか、撃たれるか、どっちかを私が選ばないと分からないか? 

あぁ、仮に破棄したと言っておいてそれが虚言であれば即座にそなたを撃ち殺す。」


撃つ筈が無い。そんな甘い考えを先程の引き金を引いた件を思い出した木花はすぐに捨てる。


(協力しないと撃たれる・・・)


身体中に冷や汗を垂れ流しながら木花は熟考した。そして、答えを決めた木花はボイスレコーダを削除する。


それを見たアリアはニッコリと木花に笑った。木花も笑う。ひきつった笑顔であったが。





「・・・キハナ? おい、聞いてるのか?」


あの時の会話を思い出した木花だったが、アリアに声を掛けられて、そこで我に帰って慌てて声のする方向に向き直る。そこには少しご立腹気味のアリアがいた。


「全く、そなたは・・・先ほどから何度も声を掛けたのだぞ?」


アリアはそう言うと、スマホを握りながら腕を組んだ。因みに彼女の腰には木花から奪い取ったグロック17がホルスターで付けられていた。


「これは、失礼しました。少し考え事をしていまして・・・」


木花はそう言い、壁にもたれ掛かっていた姿勢を正す。それにアリアは不満気味に見つめる。


「まぁ、良い・・・しゃしんを見ていたら、めっせーじ?というものだったな? それが届いたぞ。」


それを聞いた木花は、アリアからスマホを受け取って通知画面を確認する。


見ると確かにメッセージが来ていた。どうやら井岡からのようだ。ふと視線をズラせば内容を気になっているアリアが興味津々にスマホ画面を横から見つめていた。


「で、内容は?」


「・・・外の様子が予想以上に混沌としているので、別の場所で待ち合わせを変更するようですね。」


その言葉を聞いたアリアは窓を見る。建物を燃やす炎の影響で、真っ赤な夜景が窓越しから見える。


「行くのか? あれだけ外に出たがらなかった癖に。」


「組員が待ってるんです。行かなければ、それに・・・」


木花は、机の上に置いた外套を取り出しながら続けてこう言う。


「武器もそこに置かれてます。人手も必要でしょう?お嬢様。」


「ふむ。そうだな。」


アリアはそう言うと、木花から強引に借りたホルスターからグロック17を取り出しスライドをして扉を勢いよく開けた。


「俺のグロック・・・」


木花の呟きが聞こえたが、アリアは無視した。









「この・・・クソガキ共がぁ!!」


そう叫んで、襲ってきた最後の若きバフマン青年の腹部を持っていた小刀で何度も刺す男。


「ぐふっ! がはっ!?」


刃物で何度も刺されていく彼の背後には、数人の死体があった。その全てが彼の仲間であり、その身体には彼と同じように多数の刺し傷があった。


この暴動に参加していた彼等は目の前のたった1人の壮年の男に返り討ちにあっていた。


もう息をしなくなった血塗れの死体の胸ぐらを離して荒い呼吸を繰り返す男、五十嵐銀三郎はこの裏路地を見渡す。


「木花の野郎・・・まんまと俺の目から逃げやがって!」


乱暴に死体を蹴る五十嵐。武闘派として名を馳せた彼も流石に、衰えた肉体で、しかも数人の青年等を前にしては完全勝利とはいかなかった。


何度も殴打されて痛む身体を無視して、五十嵐は誰もいなくなった裏路地を歩く。


「糞が。来て早々にこの状況は呪われてるとしか言いようがねぇじゃねえか!」


唾を吐きながらそう悪態をつく五十嵐。そしてそれを密かに監視する者がいた。その手には携帯を持っている。


「・・・こちら12番、王神組の五十嵐を発見した。恐らくは木花と接触すると思われる。

 あぁ、分かってる。奴を見つけ次第始末する・・・なに? 0番が向かうだと?何故だ?」


彼の疑問に、電話の相手は答える。それを聞いた彼は納得する。


「成る程な・・・奴は既に把握していたのか。 なら確保が優先も頷ける。 なら俺は元の仕事に戻る。」


そう言うと彼はその場を後にする。








とある建物の屋根の上を男は歩く。その先にはのんびりと屋上からソウバリンの惨状を見ている1人の男が座っていた。


「おい、オタク野郎。追加の仕事だ。」


「うん?・・・さっきから嫌に仕事を此方に振ってくるじゃないの。」


オタクと呼ばれた彼はそう言い立ち上がった。


「大使館の送信所の履歴を監視していた班から連絡が来たんだ。詳しくはこれを見てみろ。」


男はそう言うと、連絡用の携帯をオタクに投げ渡す。オタクはそれを片手で受け取って画面を見た。


「コイツは?」


「見ての通り、20式自動小銃だ。それ以外にも列強諸国の兵器が写真に残ってる。」


「ははーん。これ等が彼処でガントバラス軍とやりあってる現地人の武器って訳か?」


オタクはそう言ってある方向に指をさした。男はその方向を見る。その先には多数のガントバラス帝国の兵士が、ジュニバール帝王国の銃を装備している現地人と撃ち合っていた。


「恐らくはな・・・」


「それで、今更この写真がなんなの?」


「その写真を送信していた日本人がいる・・・今から1ヶ月前にだ。」


「・・・」


その言葉に、オタクは真顔になった。そして視線を上に向ける。


「・・・そんな前から把握していた訳か。ソイツ等は何者だ?」


「聞いて驚くなよ? 送信者は熊光組の若頭である木花だ。 送られた相手は井岡だ。確か・・・若頭補佐だった筈だな。かなりの古参だ。」


「その2人を確保すればいいんだな?」


「気を付けろよ。井岡って奴は兎も角、木花はプロの格闘家団体からも推薦が来る程に強いらしい。」


「ご心配無く。俺は正面からは戦わないのでね。」


オタクはそう言うと、建物から降り始める。


「奴等の位置情報は既に送っといた。スマホを落としてなければそれを追えばいい。」


男がそう言ってる間にオタクはあっという間に地上に降り立ち、消えてしまった。残った男は、頭を掻いて呟く。


「いつもあんな風にしていれば良いんだがな。」






大通りを走行する96式装輪装甲車が建物の屋上から攻撃してくる暴徒達を重機関銃でなぎ払う。


「今度は手前の店の上だ! 援護しろ!」


その指示を受けた高軌道車から降りた随伴歩兵部隊が小銃で制圧射撃をする。


「あと少しだ! もう少しで合流地点に到着するぞ!」


高機動車の助手席に座っていた分隊長が、膝の上に地図を広げてそう言う。


「おいっそこだ!その先のブロックを右折しろ!」


分隊長の指示に、運転手がハンドルを勢いよく回して右折をした。それに後方を走っていた他の高機動車も続く。


曲がり角を進んだ先を更に進むとそこには、先ほど走っていた大通りとは別の大通りに繋がった。


「よし!着いたな・・・居たっ! あそこの前に車を停めろ! あそこで防衛戦を構築する!」


フロントガラス越しから、既に敵勢力と交戦に入っていたヘリ降下部隊を発見した車両部隊は、彼等の前に車列を停車させる。


数両の高機動車から、次々と海征団の隊員が武器を持って降車していく。その周囲を装甲車が守るように機関銃や砲塔で警戒する。


82式指揮通信車からこの車列の指揮官が降り立った。


「車両部隊が到着したぞ!」


ヘリ降下部隊の隊員からそんな声が聞こえてきた。指揮官は近くにいた彼等から状況を聞き出す。


「状況はどうだ!?」


「暴徒達は一時的に撤退しましたが、すぐにまた再攻勢を掛けてくるでしょう。 今のところは負傷者も出ていません!」


「なら、もう1ブロック後方に下がるぞ。 もっと開けた場所に展開する。」


「了解しました!」


「よし。全部隊は、高機動車に乗り込め! 戦闘車は周囲を警戒しろ! 特に屋上をだ!」


その指示の元、数個分隊の降下部隊を合流させた車両部隊が列を作って後退をする。


車列の中間部分を走る軽装甲機動車の上部に設置された機関銃を握る隊員は、大通りの両脇にある建物の屋上を注視しる。


「・・・静かだな。」


車内の後部座席に座る同僚がそう呟いた。彼は窓から外の建物を見ていた。


「さっきまで降下部隊の連中が通ってた道路だ。まだここは安全だろうよ。」


「なら良いんだがな・・・しかし、酷い有り様だな。至る所で建物が燃えてやがるぞ?」


「住民はどうしてる?こんな状況じゃあ、避難も出来ないか?」


「多分そうだな。建物の窓を見ると住民がちゃんと居るぞ。 かなり警戒してる様子だな。」


助手席に座っていた同僚がそう言う。確かに彼の言う通りに、建物をよく見れば暴動に参加していない住民が窓から顔を出してこちら側を見下ろしていた。


「あの連中の中に暴徒が居てもこれじゃ分からないな。」


「気を付けろよ。下手に住民を誤射したらソイツ等も敵にまわるかも知れない。」


「その前に戦争犯罪者として訴えられるぜ。」


「忘れたか? この世界じゃあ、列強国籍以外の奴を軍隊が殺しても国際法違反にはならない。」


「はっ、世も末だな。」


「まぁ国際法が駄目なら国防法でしょっぴかれるだけだ。間違っても此方からは撃つなよ?」


「分かってるよ・・・まぁ言っても連中に録な武器なんて持ってない素人集団だ。」


「油断するなよ。 1番の問題はあの冒険者共なんだから・・・うぉっ!?」


上部の機関銃を構えていた隊員が話しているタイミングで突如として銃声の様な音が聞こえたと思ったら、頭部から強烈な衝撃を受けて身体を大きく震わす。


恐らくは銃による狙撃だろう。それを悟った両隣の席に座っていた隊員達が彼を剥き出しの機関銃席から車内に引っ張る。


その瞬間、建物の屋上から次々と暴徒達が現れて、射撃をしてきた。


「糞っ! 無事か!?」


頬をひっぱたいて安否を確かめる隊員。


「何とかな! ヘルメットのお陰で助かった!」


「くっ、いつの間にか屋上から伝っていやがったな!? 上空の観測機は何してやがった!?」


「しかもこの射撃音・・・明らかに火縄銃じゃねえぞ!? 無線で司令部に伝えろ!」 


「こちら車両部隊っ! 暴徒達の中に連発式の銃を

使用している連中がいる!」


「完全に囲まれてるぞ!? 至る所から撃ってきやがる!」


車内が混沌とした状況の中、それを打開するようにすぐ後ろを走行していた87式偵察警戒車からの25ミリ機関砲が火を吹いた。


(そうだった! すぐ後ろにはコイツ等が居たんだった!)


頼もしい味方からの支援攻撃を見て、戦意を復活させた隊員は上部の機関銃席に戻って反撃をする。


この車列を包囲する形で建物の屋上から撃ってくる暴徒達を発見する。やはり連中の手には火縄銃なんてちゃちな武器ではなく、列強が使ってる武器を使用していた。


彼は迷うこと無く機関銃のトリガーを引いて、屋上の敵を掃討する。


周りを見渡せば各装甲車の重機関銃や機関砲が屋上の敵を一掃しており、更には16式機動戦闘車という極めて強力な攻撃力を有する砲撃を行い、屋上ごと敵を吹き飛ばしていく。


そこへ彼は屋上の暴徒達は、予想を遥かに越える自分達の反撃に驚き慌てて逃げていく暴徒達を見た。


そんな彼等を追撃するような形で、上空を飛行していたUH-60JAが到着して、スライドドアから機関銃で攻撃する。


『こちらフォーク05! すまない! これより援護射撃を行う!』


そこへ車両部隊の指揮官の声が無線越しから聞こえる。


『各車両はこのまま前進しろ! 大使館付近にまで下がって守りを固めるぞ!』


「よしきた! 出すぞ、しっかり掴まってろ!」


その瞬間、アクセルを思い切り踏まれた軽装甲機動車は一気に急加速をする。


機関銃席に座る隊員は、車列の後方にいた戦闘車が執拗に攻撃してくる一部の暴徒達を一掃しているのを横目で見る。


「連中は列強の兵士から武器を奪ったのか?」


その数分後に、司令部からソウバリンにいる全部隊の無線に、日本を含めた全ての列強諸国の武器と兵器を暴徒達が保有しているという連絡に彼は驚くことになる。








一目がつかないように細道を歩いていると後ろから重厚な射撃音が耳に入った木花は振り返る。


「今のは・・・機関銃か?」


「何処の国のだ?」


アリアからの質問に木花は困惑気味に答える。


「流石にそこ迄は・・・それよりも急ぎましょう。」


木花は外套を更に深く被り直すと先を急ぐ。


しばらく道なりに進むと、薄汚れた建物が目に映り、木花はそこで止まる。そして扉を何回か叩くと、中から人が出てきた。熊光組の組員だった。昼間の乱闘から遠く離れていた組員がここを守っていたのだ。


組員は木花を見て、安心したような表情で話す。


「頭っ! ご無事でしたか!」


「メールの通りだ。井岡はまだ来てないか?」


「井岡さんはまだです! どうぞ中へ。」


そう言うと組員は木花とアリアを中へ入れる。アリアに対して怪奇気味の表情を浮かべるが、2人が中へ入ると、組員は外の様子を入念に確認してから扉を閉めた。


そして建物の中に入ると、先ほどの組員以外にも多数の組員がおり、彼等は木花を見ると一斉に頭を下げて木花を迎える。


「頭、ご苦労様です!」


「あぁ、お前等もな。お嬢様、奥へどうぞ。」


「うむ。そうしよう。」


木花はそれに軽く応えると、アリアを連れて更に奥へと入る。


それを見送った組員達は、2人が奥へと消えていったのを見計らい、会話をする。


「頭の後ろにいた女って・・・」


「あのお嬢様だよな? でもなんで頭と一緒に?」


「あの女もバフマン人だろ? 良いのか? 冒険者共と結託してるかも知れないのに。」


「だとしたら頭が一緒に行動するか? 危険だと感じればすぐに手を引くあの人が・・・」


「ひょっとすると・・・」


ある1人の組員が何かに気付いた様に呟く様子に、周りは興味深そうにきく。


「・・・2人はできてるのだとか?」


そんな馬鹿げた話に周りは声を荒げる。


「はぁ!?」


「いやっ! 待て、以外と有り得るぞ。」


「でも頭には内縁の奥方が・・・」


「そんなもの組長が無理矢理に婚約させようとしてるだけだ。まだ結婚してる訳じゃないんだから、いつでも破棄できるだろ。」  


「いやぁ~でも、意外だな・・・あの頭が、あのお嬢様と。」


「あぁ、ああいった女は嫌ってると思ってたんだが・・・」


そう彼等は口々に勝手な感想を言い合ってるなんて知る由もない2人は目的の部屋にまでつくと、その部屋に入る。


室内には1人の組員がおり、木花を待っていた。


「お待ちしてました、頭。」


「待たせた。すぐに用意してくれ。」


木花の言葉を聞いた彼は頷くと、床に敷いてあったカーペットを捲って、床の一部を剥ぎ取る。


そこの床下には収納スペースがあり、そこから大きな木箱を取り出すと、部屋にある大きな机の上にドカリと置いた。


そして木花はその木箱の前にまで歩くと、懐から鍵を取り出して、箱を開ける。


「お嬢様、こちらへ。」


木箱を開けた木花は、アリアに見せるように退いた。アリアはその木箱の中身を見て目を見開く。


「これは・・・」


アリアは木箱に入っていた中身を取り出す。組員は彼女が手にした物の説明をする。


「ドラグノフ狙撃銃・・・ソ連製の連発式の狙撃銃です。軽く、頑丈で正確な射撃を可能としています。」


ドラグノフ狙撃銃を手にしたアリアは少し興奮気味にそれを構える。


「あのすぺんさー銃とはまた違った銃だな。」


「あれよりも格段に進化した1品です。あまり遠距離からの狙撃には難がありますが、中距離ならば問題ありません。我々が保有する銃の中では、最も優秀な銃なのは間違いありません。」


「かような銃も持つとは・・・やはりそなたと手を組んで正解だったな。」


ドラグノフ狙撃銃を興味津々に見るアリアを他所に組員は今度は、壁際に置かれてあった衣装棚を開ける。


棚を開ける際の音に反応したアリアがその方向に目を向ける。


「っ・・・これは・・・」


組員は、その衣装棚に掛けられた物の1つを取り出して、それを彼女の前にまで持っていく。


「こちらは防弾仕様のコートです。アラミド繊維と超高分子量ポリエチレン繊維を採用しており、火縄銃程度であれば至近距離でも球を貫通させません。」


「なに? この柔らかい布製の服がか?」


どう考えても鎧には見えないのに、銃弾を防ぐ能力があることにアリアは思わず聞き返す。


「左様です。これらの素材は極めて柔軟で軽く、衝撃を吸収することに優れた物です。コート以外にもズボン、肌着、シャツも同様の素材で作られおり、これ等を着込めば生半可な鎧よりも銃弾から身を守ってくれます。

丁度、頭も同じものを着用しています。」


「なに?」


組員の言葉にアリアは木花の方を見る。当の木花は来ているコートを見せびらかすように少し襟元を捲った。


「そなた・・・自分だけそれを着ていたというのか?」


アリアはジト目で木花を見つめる。


「心外な。私はお嬢様に危害を加える愚か者なんて居ないと分かっていたから、何も言わなかったのですよ。」


「果たしてどうだか・・・して、これを私に見せた理由とは?」


「そんなの決まっています。お嬢様に使って頂きますからですよ。」


「・・・よいのか?」


アリアは少し驚いた様子で聞き返す。なにか裏があるのでは、と疑っているのだ。


「お嬢様に何かがあれば、この国の人間はそれこそ収拾がつかなくなります。そして狙撃銃は、私の知る限りは、お嬢様が1番向いていると判断したからです。」


木花は彼女と最初に会った時の射撃を思い出す。まず間違いなく、彼女の射撃の腕は普通の天才を凌駕している。


「随分と私も信用されたものだな。私が後ろからそなたの背を撃ち抜くとは思わなかったのか?」


アリアの言葉に、後ろに控えていた組員が彼女の背を見る。


「今さら私を撃った所で、お嬢様になにか利があるとは思えませんので。それに・・・」


木花は続ける。


「それは、最も適した者が使わねば、ここから先は生き残れないでしょう。」


木花はそこでアリアの目の前にまで近付く。


「協力する以上は、我々も全力でお嬢様を支援します。だからお嬢様も・・・」


「決して、失敗為さらないようにお願い致します。」


木花はある意味、懇願するように言った。列強の歯向かったと同等の事をやらかしているバフマン王国の、しかも要職の娘を支援していると他の列強諸国に知れ渡れば、間違いなく木花達を抹殺しようとするだろう。


それを感じとったアリアは、迷いのない目で木花を見つめる。


「無論だ。私はこれ以上、罪なきバフマンの民が殺されていくのを防ぎたい。その為にも失敗するつもりはもとよりない。」


その言葉を聞いて、少しは安堵したのか、木花は組員に向かって頷くと、組員は衣装棚とは別の棚を開ける。


その棚には、拳銃やナイフ等の小型の武器が置かれており、各種の銃弾もが弾倉で置かれていた。


「頭からのご好意です。御好きな物をお取りください。」


そんな組員の言葉にアリアは少し嬉しそうに頷いた








防弾製の長ズボン・インナー・シャツを着こんでその上に防弾コートを羽織り、数丁の拳銃とナイフを太股や腰のホルスターに装着したアリアは部屋を出る。


外で待っていた木花と組員を見たアリアは2人を連れて廊下を歩く。その手にはドラグノフ狙撃銃を握っていた。


「そなたが動かせれるのは何人なのだ?」


アリアの質問に木花は即座に答える。


「現在、動かす事の出来る組員はこの建物にいる13名のみです。」


その少なすぎる数にアリアは眉を潜める。


「少ないな。」


「ジンの身柄確保で大勢を失いましたから。それに昼間の件でも何人か大使館に連行されましたので。」


「そうであったな・・・師匠達も叔父殿と共に応援を呼んでるらしいが、それもどれだけ集まることか・・・」


歩きながら顎に指をかけて真剣に考えるアリアに今度は木花が最も気になっていた事を聞く。


「それで? どうやってこの暴動を止めるんです?冒険者達と接触すると仰っていましたが・・・」


「この国の冒険者達の最高位はなにか分かるか?」


「確か・・・オリハルコン級の『黄金の飛竜』でしたか?」


木花の答えにアリアは頷いた。


「そうだ。そして全ての冒険者達を意のままに動かせる事の出来る者はその黄金の飛竜のリーダーしかいない。」


その言葉に木花は納得したように頷いた。


「成る程・・・そのリーダーと接触して交渉する訳ですな? 果たして話が通じるのですね。こんな事をしでかしてるのですよ? そもそもソイツを見つけることですら難しいと言うのに・・・」


「だから、そなた等の力が必要なのだ。それに・・・」


そこでアリアは木花の方へ振り返る。


「私は領政官の娘だぞ? この国での影響力を舐めて貰っては困る。」


「それは失礼しました。」


そこまで話していると、大きな空間の部屋に着いた3人。そこには熊光組の組員達が集まっており、全員が防弾服と銃を武装していた。


彼等は木花達を見ると一斉に整列し始めて、木花の言葉を待つ。


木花はそんな彼等を見渡して口を開く。


「これより我々は、この暴動の主導していると思われる冒険者を捜索し、ソイツと接触する。

知っての通り、外は危険な状況だ。お前ら、覚悟しろ。」


そう木花が言うと組員達は威勢良く答えた。それを聞いた木花はアリアの方を向く。


「そう言えばお嬢様、ソイツの名前はご存知ですか?」


「あぁ無論だ。何度も彼とは会った事がある。」


アリアは瞼を閉じて、彼と会った時を思い出す。そして意を決した様に瞼を開けた。組員達は皆、アリアを見ていた。


「彼の名は・・・カン・ウンサン。黄金の飛竜のリーダーであり、このバフマン王国の貴族でもあり、この国 最強の男だ。なんとしてでもこの者と接触するのだ。」









王都ソウバリンのとある通りに、1人の男が腰掛けていた。


その男の周りには、かつて数多くの国々の兵士を蹂躙し、圧倒し続けた列強の兵器である戦車の残骸が至る所にあった。


巨大な鉛の塊を遥か彼方へ吹き飛ばす砲塔はひしゃげて、その分厚い装甲で多くの未開の兵士からの攻撃を防いだ鉄の皮は引き千切られて、所々から黒煙を噴く鉄の塊は見るも無惨な状態で放置されていた。


そして、そんな光景を造り出した張本人である男は、ふと何かを感じ取ったように頭を上げて、ある方向へ振り向いた。


その視線の先には誰も居ない。しかし男はその先に誰かを見つめるかの様に呟いた。


「・・・アリア?」


そう男、カン・ウンサンは呟き、地に刺してあった剣を取った。

如何でしたか?


ここまでありがとうございました!

また、次回もよろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今のところ木花とアリアはそういう関係ではありませんが、時間を経ていく内に”噓から出た実”なんて事も… [気になる点] アリアは暴動を止めたがっているみたいですが、その後はどうするのだろうか…
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