第68話 特急最強の男
第68話 特急最強の男
バフマン王国 ソウバリン
特殊急襲制圧部隊所属の南原龍光は、大使館の4階通路に立っていた。
彼の周囲は数え切れない程の死体の山が築かれていた。その死体の多くは、彼の持つ23式重歩兵機関銃の銃弾に貫かれていた。
既に弾切れとなった機関銃を乱暴に背中のフックに掛けて、腰に装着された鉈を鞘から取り出してその死体だらけの通路を彼は歩く。
そして、坂田達がバリケードを作って立て籠っていた方の階段にまで近付いて、下の階を軽く見渡した後、上階の方を振り向いた。
「もう大丈夫だぞ。 降りてきてくれ。」
南原は、そう言って上階にいる国防隊員達に声をかけ、それを聞いた隊員達が続々と降りてきた。
「あ、あんたは・・・」
坂田は初めて至近距離で見る特急隊員である南原に恐る恐る声をかけた。今の南原は至近距離からの射撃により大量の返り血を受けており、かなりおぞましい姿をしていたからだ。
「見ての通り特急隊員だ。 3階の中央と西側は制圧出来ている。 向こうの階段から降りれば仲間と合流出来る筈だ。」
南原はもう1つの階段がある方向を指差して坂田達に避難を促した。
「お、俺達にも、何か手伝える事はないか?」
「それなら下の部隊にいる分隊長に聞いてくれ。俺はこのまま奴等を追う。」
南原はそう言うと、そのまま目の前の階段で下の階へと降りた。坂田達は
(あの糞野郎の死体は無かった。 あの銃撃を運良く掻い潜って下に逃げやがったなっ・・・必ず殺してやる。)
南原は、そう早島班長を殺したガソンの顔を憎々しげに思い返しながら3階へと入る。
3階の廊下を歩くと、数分前の南原の攻撃の生き残りが必死に走り回っていた。
そんな彼等を見つけた南原は、持っていた鉈を強く握り締め、走り出した。
そして最も近くにいた数人の暴徒等の元まで一息で近付くと、真後ろから脳天を叩き切った。
「ひぃ・・・」
その近くにいた別の暴徒が、いつの間にか真後ろにまで追い付いていた南原を見て後ずさる。
周りの暴徒達の内の何名かは、その手に持つ武器を勇敢にも南原に向ける。
「か、囲むんだっ! 囲んで袋叩きにしてやれ!」
その声に暴徒達は南原の周りを囲むように動き出した。このまま逃げ回るだけでは、後ろから攻撃されるだけなのだと気付いたのだろう。
そんな暴徒達を一瞥した南原は彼等に聞こえるように声を出す。
「面倒だ。一斉に掛かってこいよ、野蛮人共。」
南原は煽るような口調でそう言った。しかし当の彼等は、誰が最初に動き出すか迷っているようだ。
それに見かねた南原は呆れるように溜め息を吐いた。
それを隙と捉えた一人の青年が、持っていた粗末な剣を南原の頭部目掛けて振り上げた。それに連られるように周りの仲間も動いた。
そんな彼等を南原は、鉈で一刀の元に斬り伏せた。
「がっ!?」
特殊な素材と製法で造られた軍用鉈は、彼等の粗末な武器ごとその身体を容易く両断する。
「あ、あわわわわ・・・逃げろ!!」
たったの数瞬の間に数人の仲間が斬り伏せられた事実に、遠目にいた暴徒達は僅かに残っていた戦意を崩壊させて慌てて両足を動かす。
それを後ろから眺める南原は、彼等を追い掛けるような事はしなかった。
「そっちは俺の部隊の居る方向なんだよな・・・」
南原自身が所属する第2分隊が居る方向に逃げ去っていく彼等に対してそう呟くと、彼はそのまま階段の所にまで戻って階を降りていく。
(俺の勘があの糞野郎はこの階段を使って1階に戻っていると言っている・・・絶対に逃がさん。)
本当は独断で部隊から離れてるから、向こう側の分隊長と会いたく無いので下に降りるのが理由なのだが、それは無視して駆け足で降りていく。
重厚な足音を鳴り響かせながらようやく1階に降りたタイミングで南原の耳に轟音が入る。
「これは・・・C4の爆発音か?」
南原は訓練や実戦で聞き慣れた爆発音に首を傾げて、その音のする方向に向かって走り出した。
食堂にまで辿り着くとそこで現場の冒険者等の死体や戦闘跡を目にした南原は、状況を察して足を更に速めた。
(これはきっと野儀大尉の部隊か! ならばさっきの音は冒険者との戦闘音だな!)
そこまで考えに達した南原は正面の曲がり角を曲がろうとした所である物を見つけて戦闘体制に入る。
(影っ! この先に冒険者がいるっ!)
同僚等とは明らかに異なる人影が曲がり角の壁に映っているのを見つけた南原は鉈を思い切り曲がり角の向こう側に向けて振った。
「っ!? 伏せろ!」
「きゃっ!?」
影の人物が走り出す勢いのまま、両断されると思ったが、男の声と女の声が聞こえ、南原の降った鉈は空回りした。
(ちっ! 反射神経が良いな・・・さっきの声は?)
それに残念そうに舌打ちをするが、そこで南原は聞き覚えのある声だということに気付いて、目の前の2人を見て、その瞳を大きく広がせた。
正面の2人は南原の予想通りに冒険者の姿をしており、首もとにはミスリル級を示す冒険者プレートを揺らしていた。
男は全身を金模様で施された鎧を装備しており、その手には冒険者プレートと同じミスリル製の長剣を握っていた。
女の方は胸部等の急所に金属板で保護している部位鎧を装備しており、その隙間からは鎖帷子を着込んでいるのが見えた。
その細腕には軽そうなレイピアをこちらに向けており、乱れた紫の長髪を頬に張り付けさせながらもその整った顔で睨んでいた。
声とそのミスリルの冒険者プレートを目にした南原は、身体中から溢れんばかりの殺意を湧かせて、目の前の男女を真っ赤な暗視スコープ越しで睨み付けた。
「あの糞野郎を逃がしたと思ったが・・・丁度良い。」
南原は一方踏み出して、武器を構える男女の冒険者の男の方に鉈を向ける。それにエルブリッド、ネイティアも武器を構え直す。
「てめぇを殺す。覚悟しな。」
「あぁ、糞っ。」
南原は男の冒険者の口からそう発したのを耳にした。それを合図にして、南原は床を踏み込んで近付くと持っていた鉈を目の前の冒険者2人に目掛けて大きく振り上げた。
ソウバリン 北西大通り
ソウバリンの中央大通りとは別の北西側を通る大通りに暴徒達が作った障害物を蹴散らしながら突き進む車列がいた。
彼等は日本国防軍の海征団所属の第1即応機動車両部隊であった。
「あの塔の根元に隠れてるぞ!あそこを狙え!」
先頭を走っていた96式装輪装甲車の車長がそう指示を出すと、上部に設置された12.7ミリ重機関銃が動き出し、数十メートル先の塔に立て籠っていた暴徒達に発砲した。
ものの数秒で蹴散らすと、すぐに96式装輪装甲車は前進を再開し、その後ろにいた軽装甲機動車と86式偵察警戒車やこの車列の主力である89式装甲戦闘車が90口径35ミリ機関砲を周辺の建物に向けて走行していた。
更には2両しか動員されていないが、16式機動戦闘車が最後尾と中間に配置されており、その105ミリ戦車砲を構えていた。
この世界においては、これだけでも其処らの中小国の陸上戦力を圧倒出来るだけの戦力が、このバフマン王国 王都の舗装された大通りを十数台もの車列で走行する姿は見る者によっては感嘆の声を漏らすであろう。
事実、ソウバリンで列強諸国に一子報いると意着込んでいた青年等は、建物の影からあの戦闘車両の列を覗き見て、震え上がっていた。
「な、何だよあれ!? あんなのが来るなんて聞いてねぇぞ!?」
そう2階建ての建物の割れた窓から覗いていた青年ブイストは、震えた手で火縄銃を持ってそう叫ぶように仲間に言う。
同じく隣で見ていた相方も余りにも予想外の事に全身を冷や汗でビッショリと濡らす。
「見たか?さっきの攻撃・・・あの塔にいた連中は全滅しただろうな。」
その言葉に周りにいた数人の仲間達も口を開く。もはやアレと戦う気力なんて失せた。
「おいおい・・・幾らなんでも反則過ぎるだろ。」
「あ、あのクルマの集団は一体どこの列強だ?
クルマの横に真っ白の中心に赤丸が塗られてたけど、見たことないぞ?」
仲間の1人が思い出そうと額に手をつけて記憶の中を辿る。そして1ヶ月以上前に仕事場で聞いた名前を彼は思い出した。
「・・・っ!思い出した! ありゃニホンだ!」
「ニホン?・・・あの新しい列強国のことか!?」
「あぁ、思い出したぞ! 昼間に大暴れしてた奴等の中にニホン人も居たらしいぞ!・・・そういえばあのキハナの旦那もニホン人だったよな?」
「あのキハナの旦那の国かっ!・・・そりゃあ随分とおっかない国じゃねぇか!」
ブイストは一度だけ見かけた事のあるニホン人の顔を思い出して小さく体を震わせた。
自分よりも対して歳が離れていない筈なのに、近くに立っただけでも分かる位におっかない雰囲気を出す熊光組の若頭である木花に対して彼は軽いトラウマを抱いていた。
(ひぇ、くわばら、くわばら・・・本当に同じ人間かよ。)
ブイストがそう悪態をついていると、隣の窓で車列を監視していた仲間が声を掛けてくる。
「ど、どうするよ?もう少しで連中が通り過ぎちまうよ?」
「ど、どうするってお前・・・あんな連中に睨まれたら一瞬で皆殺しだぜ?」
「そうだ、そうだ。俺達は別の敵を探そう。あんなのと戦ってたら命が幾つあっても足りないぜ。」
周りの仲間がそう口々に言う。ブイストもそれには心の底から同意する。
「そうと決まったらここから離れるぞ。 もっと弱そうな奴を探そう。」
仲間の1人がそう立ち上がって言うと、周りの皆もそれに従うように次々と立ってこの場から離れ始める。
その建物の上空を1機のUH-60JAが車列の周辺偵察の為に飛行していた。
この機体の機長が肉眼と機体下部に取り付けられた高性能カメラの画面をそれぞれ注視しながら飛行していく。
すると隣の席に座っていた副操縦士が眼下に広がる都市の一部でモニター越しから、ある異常を発見した。
「む、10時の方向に多数の熱源を発見しました。」
「なに?・・・確かになにか居るな。 列強国の部隊か?」
その知らせに機長は操作舵を操作して、その熱源の正体を確認しようと方向を変えて飛行する。
その熱源が肉眼で見える場所にまで到達した時、機内にいた2人はその正体を見た時、目を見開いた。
「っ!? こ、これは・・・っ!」
「機長っ! アイツ等、列強じゃないです! けれど奴等の持っているのは、まさかっ!」
「あぁ、分かってる! っ! おいっ! あの後ろの奴を見ろ!」
そこで機長は熱源の正体の更に少し後方にいる別の『それ』を見て驚愕の声を上げた。
そして副操縦士が何かを言おうとした瞬間、彼等の元にとんできた無線を聞いて事態が急展開した事を察した。
『こちらフォーク07、ガントバラス帝国大使館付近にて・・・しかも、複数箇所で現れてる。他にもいないか?』
その無線の続きを聞いた機長は慌てて、無線機を取り出して、応答した。
「こちらフォーク09、我々も同じものを確認した。その後方にもそちらと同じものが・・・」
そこで機長の言葉を遮るように別の機から更に報告がとんできた。
『こちらフォーク02っ! 不味い事になった!
こちらも同じものを確認したが、その周辺でジュニバール帝王国とガントバラス帝国の両軍が・・ 』
「おいおい・・・どうなってる?」
そこから続けられた報告に、機長は口をあんぐりと開けたまま、呆然とする。隣にいた副操縦士は目の前の光景を見て静かに呟いた。
「なんで連中が・・・」
彼は、そこで呟くのを止めてしまう。彼の視線の先には・・・
そんな2人の乗る機体から約1キロ程、離れた建物の屋上に、1人の男が立っていた。その男は視線の先にあるガントバラス帝国大使館を横目に懐から携帯を取り出した。
「こちら10番、とんでもない事になっている。 すぐに本部に知らせてくれ。 あん? 何があるかって? それは・・・」
10番からの報告に、電話の相手はすぐに切って、本部に知らせる。
「・・・なにがどうなってんの?」
携帯をしまった彼はそう呟いた。
『0番、聞こえるか? お前はすぐに10番と合流して詳細を調べてこい。連中の所持品を確保しろ。』
場所は戻って日本国大使館の1階の食堂付近、ここの廊下から金属同士が何度もぶつかり合う不快な音を周囲に鳴り響かせていた。
この音の正体はミスリル級冒険者エルブリッドとネイティアの2人が特急隊員の南原竜光と激闘を遂げていた。
南原の持つ軍用鉈がエルブリッドの首に目掛けて振り下ろされるが、それをすんでの所で彼は避ける。
「っ!」
南原の振った鉈が空回りしたことで、彼の胴体部分ががら空きとなったのを見逃さなかったネイティアが真横からレイピアで突く。
『一点集中っ!』
先ほどまでの不快な音からネイティアの透き通った声が廊下に響く。そのすぐ後にまた金属同士がぶつかった音が鳴り響いた。
彼女の鋭い突き攻撃は南原の胴体に寸法の狂い無く命中したが、南原はなんともない様子だ。南原はすくに、腕を伸ばせば届く位に近くにいたネイティア目掛けて鉈で攻撃する。
「っ!」
(硬すぎるでしょ!?)
それを紙一重で回避したネイティアは、先ほどから感じていた事を心の中で毒づく。
「ちっ! すばしっこい奴め!」
なかなか攻撃の当たらない事に業を煮やした南原は舌打ちをしてそう呟く。そのすぐ後ろからエルブリッドが近付いて攻撃をする。
エルブリッドの持つ長剣が南原に向けられるが、それを察知した南原は、すぐに振り返って迎え撃つ。
「っ!?」
ミスリル製の長剣とチタン・ニッケル・タングステン・セラミック等を特殊製法で造られた鉈が交差するようにぶつかり合う。
今までのどの音よりも鋭い金属音が響き渡り、これを間近で聞き耳を立てる者が居れば、余りにも大きな音に思わず耳を塞ぐであろう。
「っ!」
「っ!」
各々の持つ武器が交錯することで初めてお互いに至近距離で顔合わせした2人。
エルブリッドはまじまじと目の前の漆黒の怪異兵士を見つめる。
(・・・間近で見て漸く分かった。コイツ等・・・中身は完全に人間だ。)
南原口から放つ呼吸音がエルブリッドの両耳に届いた事で、彼は頑丈な鎧で全身を包んだただの人間だと確信に至った。
その直後、南原は鉈を握って鍔迫り合いをしていた両腕に更に力を込め始める。それにエルブリッドは少しずつ後ろへ押される。
「っ!・・・こんっのっ!」
(なんて馬鹿力だっ!・・・そんな重い鎧を着込んで、どうやってそんな力を維持出来るんだ!?)
抑えきれない程の力を向けてくる南原にエルブリッドは、なんとか堪えようと耐える。
しかし、徐々にエルブリッドの長剣の刃が自分側に押され始める。
(ぐっ!・・・力勝負では敵わないかっ!?)
南原の純粋な身体能力とパワードスーツによって大幅に強化された力を前にして劣勢を悟ったエルブリッドが思わず苦渋の表情を浮かべたその瞬間、ネイティアが持つレイピアの連続攻撃が南原の背中を襲った。
「ぐっ!?」
「私を忘れないでよっねっ!『閃光突っ!』」
突如として背中から迫り来る怒涛の衝撃に南原の体制が崩れた。その瞬間をミスリル級冒険者たるエルブリッドは見逃さなかった。
「よくやったネイティアっ! 喰らえっ!」
エルブリッドは長剣を持ち変えて、鋭い切っ先を南原の側頭部に振った。
彼の振り上げた長剣から甲高い金属音と衝撃が剣を伝わって彼自身の手に届いた時、エルブリッドは手応えを感じたが、すぐに今の攻撃は防がれたと気付く。
「ぢぃっ!?」
なんと南原は、両手で鉈を握っていた片方の腕を鉈から離して、その空いた腕を頭の横にまで上げて、装甲板で覆われた手の甲を盾代わりにしてエルブリッドの長剣を防いだのだ。
「この糞めっ!」
エルブリッドの力を込めた一撃を片腕で防いだ南原に思わず彼は悪態をついてしまう。
そこを南原は、鉈を持っていたもう片方の腕を動かして、エルブリッドの喉目掛けて突こうと真っ直ぐに腕を伸ばす。
「むっ!」
「させないっ!」
そこへまだ南原の後ろにいたネイティアが更なる攻撃をしようと、今度は後頭部に突きをしようとする。
しかし南原は突こうとした腕を引っ込ませて、鉈を自身の後頭部に回した。視線は正面のエルブリッドに向けたまま真後ろのネイティアの攻撃を防ぐ。
見事にネイティアの放ったレイピアを鉈で防いだ南原に彼女は驚愕に目を見開く。
「そう何度も頭を狙われてたまるかよ。」
(今のは危なかった・・・)
「っ!?」
(あの状態で避けられた!?・・・いいえっ! 勘で防いだんだわっ!)
驚くネイティアに南原は上半身を捻らせて、その勢いに載せた鉈を彼女の胸部に目標を定めて振り回した。
常人では反応することですら出来ない速さで振られた鉈を、ネイティアはその起動にレイピアを潜り込ませて盾代わりにする。
「うっ!?」
しかし南原の持つ強靭な力によって振られた鉈は、レイピアにぶつかった瞬間、軽い彼女の体ごと宙を舞うように飛ばされた。
幸いにもレイピアは両断される事無く、彼女を守ってくれたが、数メートル後ろを吹き飛ばされたネイティアは、その衝撃のまま床に叩き付けられるように落ちた。
「あぁっ!!」
華奢な彼女の体が堅い床に叩き付けられた事にネイティアは肺の空気が一気に抜けたように息を吐く。
「ネイティアっ! 無事か!?」
エルブリッドはすぐに彼女に声をかける。ネイティアは衝撃と痛みに震えるが、その白い片手を上げてなんとかエルブリッドに無事なのを伝える。
それにエルブリッドは安堵の息を漏らすが、そんな彼に目掛けて南原は回し蹴りで吹き飛ばした。
「ぐぉっ!?」
大柄な南原の強力な蹴りをマトモに受けたエルブリッドは、身体中から無視できない衝撃と苦痛に顔を濁らす。
その衝撃の勢いにエルブリッドは壁に背中を思い切りぶつかった。
2人して南原にダメージを与えられ思わず体を震わす2人。絶好の追撃の機会だが、南原は追撃をしなかった。
(・・・背中は大丈夫か?・・・あの女の攻撃を諸に受けてたが、故障しないよな?)
背中に搭載したパワードスーツの動力部の状態を危惧して南原は追撃をしなかった。
頑丈な装甲で周りを覆ってはいるが、なにかと故障の多いので、流石の南原も無視出来なかった。南原は2人を警戒しながら装備の確認をする。
そんな南原を見て、エルブリッドはすぐに床に倒れているネイティアの元にまで近付いて彼女を起こした。
「痛むか?」
未だにその整った顔を苦痛で眉を歪める彼女に、エルブリッドは、声をかける。
それにネイティアは片手で胸を抑えて、息を整えてエルブリッドの方を見て応える。
「ふぅ・・・もう大丈夫よ。リーダーも無事?奴に蹴られてたけど?」
「俺はまだ大丈夫だ。鎧越しからだったからある程度は衝撃を吸収してくれた。」
2人はそう会話しながら体勢を整える。すると南原も装備の確認を終えたようで、2人の方へ体を向けた。
「どうするの?リーダー。 アイツ、今までの奴と
は違うわ。」
ネイティアは南原を鋭く睨みながらエルブリッドに声を掛ける。
「あぁ、あの馬鹿力・・・掴まれたら逃げることは不可能だな。」
エルブリッドは視線を南原の大きな手に向ける。
「それだけじゃないわ。アイツ・・・とんでもなく勘が鋭いわ。 私達の攻撃を悉く避けてるわ。」
「確かにな。2人掛かりでもこれか・・・」
(戦闘本能って奴か? 何にしても厄介な。)
「アイツ・・・どうして銃を使わないのかしら?」
ネイティアは南原の背中に付けていた機関銃を見てそう言う。
あの銃を使われば、戦況は一気に奴が優勢になるというのに一向に使う気配が無いことに疑問をふかべる。
「さぁな・・・奴の力ならこの距離でも銃に取り替える事は造作もないと思ったが、用心深いのか。」
残弾が無いから使えないとは露知らずの2人は、南原の下げている機関銃を警戒する。
そして互いに睨み合いが続く。そんな状態のなか、エルブリッドは小声でネイティアに声をかけた。
(ネイティア、ネサーム達との合流は諦める。俺達はこのまま大使館から出るぞ。)
(はぁ!? あ、貴方、2人を見捨てるつもりなの!?)
ネイティアは思わずエルブリッドを睨んだ。大切な仲間を置いて逃げることに彼女は絶対の拒否反応を出した。
(そう言う事じゃない! 前も言ったろ? ネサームとリキシタの2人だけなら転移魔法で大使館の外から出れる! 2人に魔信で伝えてくれ。もう他の連中は救えない。)
その言葉にネイティアな抵抗したいが、今もこうしている間にも、先程の追手がいつここに到着するかわからないので、嫌々ながらも同意した。
(っ・・・分かったわよ。でもどうやって逃げるのよ?)
ネイティアは辺りを見渡す。この通路には窓が少なく、あってもこの建物の事だ。かなり頑丈に造られてる筈だ。
2人の手に掛かれば、破壊出来ないなんて事は無いだろう。だが悠長に窓を破壊させてくれる程、相手は優しくないだろう。
(何処かしらのタイミングで隙が出来る筈だ。それまで持ちこたえる。いいな?)
その言葉にネイティアは小さく頷いた。
(よし・・・っ! 来るぞ!)
ネイティアがそう言ったのと同時に南原が動き出す。大きく踏み込んだ南原は、持っていた鉈をエルブリッドに向けて振り回した。
それを長剣で防ぐエルブリッド、相変わらずの馬鹿力に少し後ろに下がってしまったが、それをネイティアが援護する。
エルブリッドが南原を正面から抑えている間にエルブリッドよりも身軽なネイティアが、レイピアで怒涛の連続攻撃を繰り出す。
肩、腕、胴体、腰、太股と次々と突いていく。普通の相手ならば的確な攻撃に地に伏すものだが、当の南原は完全に無視していた。
(どんだけ硬いのよっ!? 有り得ないっ!)
全く手応えのない様子にネイティアは嫌になる。そしてその南原を抑えていたエルブリッドも限界が来ようとしていた。
あっという間に壁際にまで押されていたエルブリッドは何とか怯ませようとするが、小手先の手段では目の前の南原には通用しなかった。
「ぐっ!・・・この馬鹿力めっ!」
エルブリッドは、長年の戦闘で培ってきた剣術で南原に斬りつけていく。
その多くは南原の着込んでいる装甲装備によって弾かれる。更に南原は、鉈で幾つかの攻撃を弾き返していったのだ。
常人離れした身体能力と一流の剣術によるエルブリッドの攻撃、それを日本の最先端技術によって守られた装甲で全てを弾き返す南原、そこから繰り出される南原の反撃。それを剣でたたくように防いで追撃をするエルブリッド。
この2人の一連の戦闘は常人の目には到底 反応することが出来ない程の高レベルの戦闘だった。
「うっそぉ・・・」
そんな戦闘にネイティアは思わずそう呟いた。
一体どれだけの斬り合いをしただろうか。流石に体力に限界が来たのか、2人の動きが鈍くなる。
そしてエルブリッドの剣が南原の胴体に斬ったタイミングで、彼は大きく後ろに後退して息を整え始める。
南原も追撃をすること無く息を整える。パワードスーツの恩恵を得た彼でも無限に戦える訳ではなかった。
(この糞野郎・・・攻撃が全然当たらない。
あの女も、そこまで1発の攻撃は脅威じゃないが、鬱陶しい。)
南原は乱れた呼吸を整えながら、目の前の2人の冒険者を観察する。
(あの糞野郎の剣術は厄介だな。力は俺の方が上みたいだが・・・当たらなければ意味がない。
ならば狙うべき相手は・・・)
南原はエルブリッドの隣に移動し、自分を睨み付けるネイティアに視線を移した。美女だと睨んでも絵になるなぁと場違いの感想を抱きながら。
(あの女を先に殺す。)
自分の自慢の握力でネイティアの髪でも、何処かしらを掴んで鉈で叩き殺す。
そんな南原の殺気を敏感にも感じ取ったのだろう、ネイティアが少し後ろに下がる。
「あら? 女性の私を先に襲うつもり? 男の癖に情けないわね。」
ネイティアの軽口に南原は応える。
「だったら、その糞野郎に大人しく首を差し出してくれと言ってくれないか? そうすればお前は見逃してやる。」
その南原の言葉にネイティアはゴミを見るような目でこう言った。
「冗談でしょ? そんな言葉をどう信じろと? それに・・・私が応じるとでも?」
「いいや? それに応じられても困るしな。」
「?」
首を傾げるネイティア。
「お前ら2人は、俺が直接殺してやりたいからな。 俺達に喧嘩を売っておいて無事で済むと考えるなよ?」
そこである程度、体力が回復したのか、南原が戦闘の再開をしようと歩み出した。
そこへ南原の後ろ側にある通路からエルブリッド達を追っていた別の特急隊員が到着した。
「居たぞっ!あそこに・・・ん?・・・既に誰かと戦ってるぞ?」
「待て、アイツ・・・南原じゃないか? なんで上に行った奴が? まさか、またアイツ独断専行しやがったな!?」
「やべっ」
同僚が南原の独断専行に気付いたようで、思わず南原はドキっとする。
そんな一瞬の隙をエルブリッドは見逃さなかった。懐から新手の特急隊員に投擲武器を投げた。
「っ! 2人を撃てっ!」
「今だっ!走るぞ!」
その投擲を避けた隊員達がお返しと言わんばかりに持っていた機関銃を2人に向けて放つ。それを見たエルブリッドがネイティアの手を引っ張って走り出した。
(馬鹿がっ! 逃げ場なんて無いぞっ!)
2人が逃げた先はこの長い廊下だ。そんな所を走った所で、真後ろから撃てば蜂の巣に出来る。
それを見た南原はもう決着は付いたと考え、残念そうに鉈をしまおうとする。出来れば自分の手で始末したかった。
そんな南原を他所に2人は壁際によって走る。その先にあるのは廊下に置かれた給水機に所々に設けられた窓・・・
(待て、窓だと?・・・)
「ちょっと待てっ!」
そこで南原は2人の狙いに気付いた。慌てて後ろの同僚に発砲を止めようとしたが、時既に遅かった。
南原が止めようと同僚の方向に腕を伸ばした瞬間、機関銃の銃口から大量の鉛が放たれた。
壁際に寄って走るエルブリッド達の背中に目掛けて、放たれた銃弾が壁に当たりながらも2人を追うように照準が定まる。
照準が2人に定まった瞬間、2人の間を通り抜けた多数の銃弾が、壁に設けられた窓に当たり、ヒビを作っていく。
「っ!」
それを見たエルブリッドが走りながら窓目掛けて剣を振り下ろした。
強力な機関銃の銃弾によって損傷した強化ガラスがエルブリッドの渾身の一撃で窓が粉々になった。
「あっ!?」
後ろの隊員の1人が思わずそう言った。自分達の行動が彼等にどんな結末をもたらしたのかを察して。
だが気付いた時には遅く、幸運にも放たれた銃弾に当たらなかった2人は粉々になった窓から外へと出た。
それを呆然と見つめる隊員達、しかしそんな中から南原が同僚の持つ銃弾をゴッソリと奪うように取ると、粉々になった窓へ走り出す。
「お、おい!?」
「俺は奴等を追うっ!お前らは中の残党を頼む!」
南原はそう言うと背中に下げていた機関銃を装填しながら走る。
(この俺が見逃すと思うかっ!!)
南原は建物から出ると全速力で2人を追い掛ける。
それを見送る隊員達の無線機からある報告が入る。それを聞いた彼等は驚愕する。
「今の無線、本当なのか?」
「そうらしいな・・・だがどうやって?」
そしてその報告はネサーム達を追い詰めていた野儀大尉の元にも届いていた。それを聞いた野儀は無線機を握り締めながら呟いた。
「・・・どうやって連中は・・・」
野儀はこう続けた。
「・・・どうやって列強諸国の装備を手に入れた? しかも大量の大砲と戦車を、現地人が操作してるだと?」
なにがどうなってる? そう続けて呟く野儀の疑問に答える者はいなかった。
日本国 東京
夜になろうとも決して明かりが消えることのない大都市 東京にある高層ビルのとある部屋で数人の男が話し合っていた。
「ソウバリンに展開している12番からの報告では、目的のミスリル級剣士は発見出来なかったようですが同チームに所属していた女を確保に成功しました。」
室内の中心に設置された大型のテーブルの上に巨大な液晶画面が置かれており、その画面にはここから遥か彼方にあるバフマン王国 王都であるソウバリンの地図が映っていた。
「・・・0番は? あの馬鹿は何をしている?」
そのテーブルの周囲の椅子に腰掛けていた長身の痩せ型の男性がそう聞く。
「0番はその後も捜索を続けている様ですが、その後の報告はまだ届いていません。もう暫く時間が掛かるかと。」
その言葉に長身の男は、テーブルの上に腕をのせて、リズム良く指でその端を叩いた。
「・・・この際、どんな手を使っても構わん。女は拷問をしてでも情報を吐き出させろ。 連中の言う『奴』が何者なのかを暴くんだ。」
「承知しました。」
男はそう言うと部屋から退出した。それを見送った長身の男は隣に座る男性へ視線を移した。
この場にいる彼等は公安警察に所属する者達であった。それも裏の公安を指揮する者達だ。彼等のいるこのビルは公安が裏で所有する所謂ペーパーカンパニーであった。
「茂田さん。そっちでは何か掴んでいないのですか?」
茂田と呼ばれた男性は重苦しく答えた。
「申し訳ないが、列強は兎も角、国交の薄いバフマン王国には、情報網構築は殆ど出来ておらん。
しかもあの有り様では、我々が出来る事は限られてる。」
「そうですか・・・国防総省からは?」
その言葉に、茂田は顔を長身の男性の方へ近付けて、小声で話した。
「・・・彼等からは、大使館内部で多数の国防隊員の死体を確認したという報告があるくらいだ。
冒険者等の情報はまだ来ていない。」
「分かりました。 ならば現地の者に大使館の様子を見に行かせましょう。 運が良ければ『奴』かその仲間が付近にいるかも・・・」
そこへ室内に先ほどとは別の男性が報告にきた。
「失礼します。14番からの報告で、極めて重大な情報が入りました。」
「内容は?」
長身の男性が顎を手で擦りながら報告を聞く。
「はい。 その・・・ガントバラス帝国大使館の付近にて、列強の武装をした現地人が突如として出現した様です。」
突拍子のない報告に場にいた男達は目を見開く。
「なに? それは現地人で間違いないのか?」
「はい。そこでは大量の武器を現地人に渡している様です。 その中には・・・」
男性は少し間を置いてから続けた。
「我が国の国防軍の銃をも配ってるだとかで。それも最新の20式自動小銃をです。」
それに、彼等は驚愕する。その報告は日本国防軍の最新の武器が流出していると同意義の報告を意味するからだ。
「なんだとっ!? どうやってそんな物を現地人が!?・・・それで、状況は?」
「数百規模の各列強の武器を持った集団が付近にいる列強諸国の軍と交戦しています。 その中には我が国の隊員もいるようです。」
そこへ茂田という男性の懐から携帯が鳴った。彼はすぐに取り出して、応答して暫く話すと通話をきって、報告をした。
「いま国防総省にいる2番から報告が来た。 どういう訳か『全ての列強国の武器』が現地人の手に渡っており一部地域では、列強諸国側の劣性にあるようだ。」
「っ!? こ、国防軍は? 彼等は無事なんですか!?」
「まだ交戦はしていないらしいが、更に不味い報告も来ていた。」
「さっきの報告よりもですか?」
「そうだ。 どうやら列強国の武器を持つ現地人と勘違いしたジュニバール帝王国の兵がガントバラス帝国の兵を攻撃したらしい。 そこを中心に銃撃戦が列強国同士で行われている。」
「はっ!? こんな状況で!?」
「上空で飛行している観測機からの様子では周辺の建物を破壊しながら互いに攻撃している様だ。」
「相当に列強の兵士は統率がされていない様だな・・・なんと情けない。」
茂田達とは反対側に座っていた男性がそう呆れたように言う。しかし茂田はそんな彼とは別の反応をした。
「問題はそこではない! もし、このまま大規模な銃撃戦になってみろ! 事態はただの誤射では終わらんぞ!」
「えぇ、その通りです・・・下手すればこれを切っ掛けに・・・」
長身の男性は只でさえ不健康な顔色を更に悪くさせて言う。
「世界大戦になるかも知れん。」
その言葉に反対側の男が反応した。
「そ、それは考え過ぎでは・・・争いになるとしても精々、紛争で終わる可能性も・・・」
「第一次世界大戦はたった数発の銃弾で始まったのだぞ? このまま連中に今の勢いで殺し合わせてみろ。
連中は初めての列強同士の戦争を躊躇なく始めるぞ。」
そんな茂田の言葉に、男は顔から血の気を引いた。
「すぐに付近の番号者達を向かわせろ。連中がどこからそんな武器を持ってきたのかを調べるんだ! これ以上、現地人に列強の武器を握らせるな!
それと細田参事官にも報告しろ。 こいつは零課の手に余る内容だぞ!?」
同都市 国防総省
日本の国防を担う建物の中で、国防大臣である岩田智之は先ほど入ってきた情報に耳を疑った。
「20式が現地人の手に渡った!? どういう意味だ!? 何故、連中が持っているのだ!?」
岩田国防大臣は、目の前にあった机を強く叩いた。それに情報本部の職員は動揺するも、静かに答える。
「わ、分かりません。 しかし付近にいた海征団の隊員が現地人らしき集団の一部に20式に似た銃を持っていたという報告は確かに来ています。こちらを。」
職員が渡したのは、現場にいた隊員が撮影した写真の映ったタブレット端末であった。拡大すると確かに現地人らしき数人の男が20式自動小銃を持っていたのが見える。
「っ!・・・まさか、オーマ島の基地から流出したのか!?」
「それにしては、数が合いません。オーマ島で確認出来なかった20式は1丁だけです。それ以外は全て、残骸から確認しております。 海征団からの報告では少なくとも数十は確認されています。」
「・・・複製の可能性は?」
「銃を一から作るのは、例え模造品とは言えども、たったの3ヶ月では不可能です。」
「なら、連中はなぜ大量に持っている?・・・いいや、そもそも全ての列強の武器を揃えてるのが可笑しい。 バフマン王国にそんな事を出来るだけの力があるとは思えん・・・」
「艦隊司令部では隊員等に20式の回収を命じております。 回収出来れば何か分かる筈です。」
「あぁ・・・そうだな。 そうだっ! 列強同士の撃ち合いはどうなってる?」
「まだ小規模ですが、撃ち合いは間違いなく行われている様です。」
その報告に、国防大臣は眉を潜める。そしてある考えにたどり着いた。
「まさか連中は・・・大至急、北海道にいる北部方面隊の鬼道院中将に連絡をとってくれ。」
鬼道院中将は2010年に新設された第14師団の師団長を勤める男だ。
「鬼道院中将をですか?・・・何故です?」
国防大臣は意を決したような表情で答えた。
「ここからは最悪の事態を想定して行動する。奴には大戦発生時に迅速に動いて貰う。」
「っ!・・・だ、大臣は大戦は起こるとお考えですか!?」
「もし連中がかつての欧米列強と同じ考え方ならば、この事態は却って好都合と捉える筈だ。」
その言葉に職員は息を呑む。
「そうだ。 同格同士との戦いなんて殆ど経験した事のない世界の列強だから、奴等は理解していないんだよ・・・それが地獄の入口だということを。」
「す、すぐに連絡をとってきます!」
「頼んだ。あぁ、それと即応艦隊にも伝えろ。ムー国のフリゲートと合流したら決してバフマンに到着するまで離れるな、と。 何が狙いかは知らんがチェーニブル法国も超大国が一緒ではそれ以上の妨害はしない筈だ。」
それから職員が出ていくのを見た国防大臣は、携帯を取り出す。
「総理ですか? 厄介な事態になりました・・・はい。すぐにそちらに向かいます。」
王都ソウバリン 某所
各場所で列強の軍と、列強の装備をした現地人が交戦に入っていくのを満足そうに見つめる者が居た。
「良いぞ・・・計画は順調だ。試作魔法とは言えども効果は充分だな。」
「しかし、使えるとは言っても現地人の戦い方はお粗末としか言えません。これでは対して情報は集まらないかと。」
そこへ後ろなら部下と思われる男が突如として現れた。
「全く、苦労してあれらを運んだというのに・・・」
「良くやった。 別に戦法なぞどうでもいい。問題は連中がちゃんとあれらを使いこなしているかだ。」
「そうなんですがね・・・」
男は不満げであった。
「・・・私はこれにて本土に帰還する。お前は引き続き監視を続けろ。」
「了解しました。」
上司らしき者はそう言うと、一瞬で姿を消した。それを見送った男は息を吐いて、しんどそうに呟いた。
「・・・こんなので戦争になるのか?」
同じく王都ソウバリン 某所
列強の装備をした現地人が通りを走り去るのを建物の屋上から見ていた木花は、続いて通りにある乗り物を見つけてスマホを取り出した。
「あれは・・・やはりレムリア連邦の戦車ですね。 乗ってる奴はどう見ても・・・」
スマホの画面を見ながら呟く木花に続くように女性の声が木花に言った。
「あぁ、間違いなく・・・」
木花は隣にたつ女性を見る。長髪で金髪の美しく若い女性は続けた。
「我が国の民だ。」
バフマン王国領政官の娘であるキム・アリアはそう拳を強く握り締めながら言った。
「なぜ我が国の民が・・・」
そんなアリアを他所に木花はスマホから届いた通知を見て目を見開く。
「ん? お嬢様、井岡達が脱出に成功したようです。ひとまずは、ここから離れましょう。」
「あぁ・・・そうだな。」
木花の言葉にアリアは歩きだす。
久し振りの木花とアリアです笑
この次の話を繋げるのが、これまた大変ですわ。
次回をお楽しみにお待ちください。
なるべくもっと激しい描写を描きたいですね。




