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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第67話 特急の戦い

また、遅れましたな。

第67話 特急の戦い



   バフマン王国   日本国大使館


 

地下室へと通じる階段の施錠された扉の前にまで到着したエルブリッド率いる冒険者達は、そこで足を止めていた。


「リーダー、確認に行った『青銅の盾』の気配が途絶えたよ。 多分だけど殺られた・・・」


「あぁ、聞こえたよ。奴等の放つ音がな。」


リキシタが冷や汗を流す中、エルブリッドは後ろを振り向いた。先ほどまで何度も列強国特有の連続の射撃音はエルブリッド達の耳にまで届いていた。


「ニホン軍の増援が来たってこと?」


この場で数少ない女性冒険者ネイティアがそう腰に下げていたレイピアを構える。


「そう言うことだろうな。黒曜級の連中が魔信を使う事すら出来ずに殺られたのは、少し想定外だ。さっきの広けた場所に行くぞ。」


エルブリッドの指示に、周囲の冒険者達は頷き、来た道を戻った。





少し戻ったエルブリッド達が入ったエリアは、この大使館職員が利用していた食堂であった。


数十人が同時に利用出来るように造られたこの空間は戦闘を行うには充分な広さを持っていた。少なくともさっきの通路よりはマシであろう。


何十もあるテーブルを素通りするように歩いていた冒険者の1人が隣の仲間に声を掛けた。


「しかし列強人ともなると随分と小綺麗な場所で食えるんだな。全く良いご身分だぜ。」


そう言った冒険者は不機嫌そうに床へ唾を吐いた。そして近くのテーブルに食べかけの料理の載ったお盆を持ち上げた。


「見て見ろよ、たった1回の飯でこれだけの料理を食ってやがる。 この国じゃ、金に余裕のある奴じゃねぇとこんなには食えねぇのに、列強ではこれが当たり前だとよ。」


「弱者から搾り取るだけ取って自分達はその汁を独り占めか・・・ふざけた話だぜ・・・っ!」


そう各々が駄弁っている時、探知能力に優れた各チームの斥候、盗賊、怪盗といった職業の者達に動きがあった。


「・・・来る。」


そうリキシタが告げた瞬間、先ほどまで駄弁っていた冒険者等も含めた全ての冒険者達が一斉に臨戦体勢をとった。


攻撃役、防御役、支援役、回復役、魔法役と、様々な役割を持っていた数十を越える男女の集団が最も適した場所に陣取り、これから見えるであろうニホンの新手に備えて、食堂の正面入口を凝視する。


エルブリッド達が睨んでいる正面入口に扉はなく、職員カードを翳して通れるだけの簡単なゲートがあるだけだ。そのゲートも潜れば通れるだけの非常に簡素な作りだ。


そして彼等が待つ敵は、この入口でしかこの食堂に入ることは出来ない。


「・・・リキシタ、何人だ?」


エルブリッドが巨大な盾で即席の壁を作る大柄な重戦士の後ろで剣をゆっくりと構えながらそう問いかける。


「少なくとも30は越えてる。しかも、この重い足音・・・かなりの重武装だっ! 今までのとは明らかに違うっ!」


「・・・魔術師は速めに強化魔法を使ってくれ。 敵が現れた瞬間、攻撃を開始する。 先制攻撃だ。 奴等に冒険者の力をもう一度見せつけてやれ。」


そうエルブリッドが言うと威勢のいい返事が返ってきた。そして魔術師は各々の行使出来る強化魔法や結界魔法を前職の仲間に与えていく。


そうして時間にして30秒程が経過した所だろうか、緊張により後衛で身構えていた女神官が頬に流れた汗が床に滴り落ちたその瞬間、食堂入口から動く影が見えた。


「放てっ!」


エルブリッドが常人なら肝を冷やす程の力が込められた声を喉から出す。しかしそれに動揺する程の未熟な冒険者はここには居ない。


エルブリッドからの指示を受けた10人以上の魔術師が一斉に、それぞれの単発としては最高の威力を持つ攻撃魔法をその影に向かって放った。


その多種多様な魔法は、狙い通りに影に着弾した瞬間、それの衝撃により煙が舞った。それによって視界が一時的に悪くなる。


「・・・」


その煙がエルブリッド達の所にまで届き、何人かが煙から目を守るように片腕で顔を覆った。


「どうだ?」


誰かがそう呟いた。普通ならあの大量の魔法攻撃を受けて無事で済む筈はない。ましてや噂に聞く魔力無しならば間違いなく致命傷を受けてる筈だ。威力を緩和する魔法も使えないのだから。


だが、そんな周りの予想を裏切るように、煙から何者かが姿を現した。『それ』を目にした瞬間、彼等は目を見開く。


「なん・・・だ?」


なんとか搾り取ったような掠れた声が聞こえる。視線の先にいる異様な存在が、この息を飲むような威圧感を造り出しているのだと誰もが感じた。


『それ』は余りにも異様過ぎた。今まで見てきたどの列強国の兵士とは違う、漆黒の鎧のような装備を身に纏う『それ』は静かに、しかし素早く動いた。


身体中を頑丈な複合装甲板で覆った『それ』は魔法攻撃を受けていないかのように平然とした様子で動く。


いや、良く見れば先頭にいる『それ』の何体かが漆黒の盾を構えていた。恐らくはあの盾で全ての魔法を凌いだのだろう。なんと頑丈な盾であろうか、そしてその衝撃を盾越しからでも耐えた『それ』の身体能力も侮れない事も同時に悟った。


「目標を視認。これより戦闘に入る。 支援隊は魔法の対処を、それ以外はテロリストの処理だ。」


『それ』からそう人の声が聞こえた。それを聞いたエルブリッドが指示を出す。


「お前らっ! やることは一緒だっ! 連中をすぐに片付ける! やるぞっ!!」


その声にはっとされた冒険者達は先ほどまでの呑み込まれた様子とは一転、瞬時に動き出した。


目の前の多数のテーブルや椅子をすり抜けるようにして走り出す冒険者、そしてそれを待ち構える『それ』もとい野儀大尉率いる特急隊員達。


「第2種戦闘陣形」


野儀大尉は迫り来る冒険者を目にして静かにそう指示を出した。


それを聞いた最前列で盾を構えて最初の魔法攻撃の衝撃を完封した隊員等が身体を低くし、その後ろにいた重歩兵機関銃を持った同僚がその肩に銃身を載せて構え始める。


「発射。」


そう野儀が放った瞬間、冒険者達に莫大な量の光弾が向かってくる。


「っ! ちぃっ!!」


エルブリッドは常人離れした動体視力と反射神経を持って、姿勢を地面スレスレにまで低くする。


しかし残りの前衛の冒険者達は、強化された力を発揮する事も出来ずにその光弾によって身体を粉砕されていく。


何重にも重ねられた結界魔法すらをも難なく突破したその銃弾は、容赦なく冒険者達の命を刈り取っていき、その数秒後にこの銃弾の嵐は終わった。


「・・・は?」


運良く最初の一波で当たらなかった前衛冒険者の1人が余りにもの光景を目にして、この場には似合わない声を漏らす。


その冒険者も片足を撃ち抜かれており、そこから俊敏に動き回ることは不可能に近かった。そしてそれは彼以外にもそんな状態の者が何人もいた。


しかし野儀はそんな事など関係ないと言わんばかりに次の命令を出した。


「第2種戦闘陣形、解除。 これより4番戦闘に移行する。 各員、展開開始。」


そう野儀は淡々と、しかし容赦ない声で隊員達に指示していく。


隊員達は瞬時に陣形を崩して、未だに混乱が収まらない冒険者達の元へ近付いていく。


「うっ! か、火炎放…がっ!?」


「っ!? け、結界がっ!?」


それを防ごうと何とか動揺を抑えた魔術師の1人が魔法を行使しようと唱えた瞬間、彼の詠唱を阻止しようと支援隊が彼の顎を撃ち抜いた。・・・張り巡らされていた結界を突破してだ。


支援隊は少し後方から、冒険者達を半包囲しようと横に拡がって展開していた。そしてそこから89式自動小銃を使用して特急隊員の戦闘を支援していた。


結界魔法が意味を成さない、それを悟った魔術師達は、彼等の射線から隠れようと慌てて逃げ回る。


「ま、待ってろ今行く・・・くっ!?」


そんな魔術師達を何とかして守ろうと、生き残りの前衛冒険者が向かおうとするが、近くにまで近付いていた特急隊員が前に立ち向かい遮る。


(っ!・・・何なんだコイツ等は・・・人なのか?)


目の前にまで特急隊員と対峙した剣士である白金級冒険者は全身を冷や汗で溢れるのを感じる。相手はその手にもつ銃を下ろしていた。


一瞬にして結界を破り、あやゆる強化魔法を付与された自分達を蹂躙した存在に、今までの人生で感じたことのない感覚を味わっていた。


距離にして5メートルの場所で2人は睨み会う。そして剣士は隊員の手を見る。


(落ち着け・・・コイツ等はあの馬鹿げた性能の銃で暴れるだけだ。 接近戦ならこっちに分がある筈だ。)  


剣士はそう自分に言い聞かせるように呟やくと、肺に溜まった息を全て吐いて、剣を構える。そして少しずつ近付く。それに合わせるように特急隊員も近付きだす。銃はまだ下ろしたままだ。


(一撃だ。 一撃で奴の首を両断してイヒョリ達の元にまで下がる・・・)


ゆっくりと、そして確実に2人は近付き、それが互いの腕を伸ばせば届く程の距離になった時、剣士は動いた。


「シャっ!!」


そう熱の籠った息を吐き出して全力をもってその手に持つ剣を振り上げた。そのまま斜めに振り下ろして隊員の首を斬り落とそうとする。


(貰った!)


そう勝利を確信して、思わず笑みを浮かべた彼はその瞬間、彼の視線はガクッと揺れた。


「あ?・・・あれ?」


剣士が剣を振り上げた瞬間、近くに隠れていた別の隊員が機関銃を剣士の足に向かって射撃したのだ。


それにより足が吹き飛んだ剣士は姿勢を大きく崩してしまう。それを目の前に対峙した隊員が機関銃を構えてこう呟いた。


「同胞を殺した罰だ。テロリスト共。」


その瞬間、剣士は目の前に構えられた機関銃によって命を散らす。






「くっ!・・・下がって! 後方に下がって立て直すのよ! 急いでっ!?」


戦況が一瞬で悪化したのを感じたミスリル級冒険者、女神官騎士ネイティアは悲痛な声で魔術師達に言う。そこへネサームが叫ぶように声を掛けた。


「ネイティアっ! エルブリッドはどうしよう!? このままじゃあ不味いよ!!」


その声を聞いて振り返えったネイティアが目にした時、ネサームは涙を目に浮かべていた。


「リーダーなら大丈夫だ! そんな事よりも俺達は下がるぞ! ここは奴等に有利すぎるんだ!」


そこへリキシタが撹乱として煙幕を投げるが、効果はそこまで無さそうだ。連中は次々と仲間に銃弾を命中させていく。


「リキシタっ! ネサーム達を連れて行って! 私がエルブリッドの援護に行くわ!」


「分かった! 死ぬなよ…ネイティア。」


「お互いにね。」


ネイティアはそう言うと振り返って全速力で煙幕で覆われた煙の中へと入っていく。


「おいっお前等! ここから引くぞ! 動ける奴は魔法を使って前衛の皆の撤収を援護しろ!」


それを見届けたリキシタは、尚も混乱の収まらない仲間達を纏め挙げて後方へと下がった。







ここに来るまでに14人の列強の兵士を殺した。ニホンは勿論のこと、ガントバラスやチェーニブル法国の兵士だって殺した。


殺すのは気持ちが良い。それが人でも、そうでなくても、何かの生命をこの手で絶たせるというのは自分に向いていると思っている。


特にチェーニブル法国の若い兵士達を1人ずつ、目の前でゆっくり殺してやった時はとても気分が良くなった。


今でもあの時の、壁際に追い詰められた挙げ句、目の前で仲間が惨殺されていくのを見て、目に涙を浮かべて身体を小さく震わせていたあの青年を思い出すとつい笑ってしまう。


あの青年は一体どんな気持ちで自分を見ていたのだろうか?


あぁ・・・あの時の自分はそんな事なんて一切気にせずに、あの後直ぐに青年の腹を持っていた両刃剣で貫いたのだったけ?


だが、今ならあの青年の気持ちが分かる。まさか、こんなにも怖かっただなんて・・・っ!


そう男、金級冒険者の戦士、ドクリはそう心の中で叫ぶように嘆いた。男は震える手でエンニュイルソード※と円盾を構えて真正面にいる敵を見る。




 ※この世界でのウルフバート剣。 バブマン王国で生産される鋼鉄で造られる剣であり、周辺諸国で一般的に扱われる剣と比べても非常に高い切れ味と耐久性を誇る。




「ひぃぐぅっ!・・・っつ!・・・ふぅふぅっ!」


何とか落ち着こうとするが、そんな自身の意思とは裏腹に呼吸は荒くなってしまう。それも目の前にいる敵のせいだ。


「う、うおぉお!!」


自分よりも前にいた別のチームの戦士職である仲間が床に伏している仲間の死体を踏み越えて戦意を高める為に声を張り上げながら敵に対して斧を振り下ろす。


そんな勇敢な戦士に対して敵は、持っていた大型の銃では間に合わないと判断したのか、腰に付けていた大型の鉈を取り出し、戦士の腕ごと簡単に両断した。


彼の腕には魔獣の革で作られた籠手が填められていた筈なのにいとも容易く斬っているのを見て、やはり目の前のコイツも他の奴と同様、とんでもない力を持っているのが分かる。


「があぁぁぁ!!」


片腕を斬られた仲間がその痛みに叫び声をあげるが、それでももう片方の腕で予備の剣を腰から抜いて構え出した。まだ彼は諦めていなかったのだ。


出血し続ける切断された腕を無視して、懸命に剣を振りまくるが、敵はそれを灘でいなす。奴等は近接戦闘の心得すらをも得ているようだった。


(あぁ・・・このままじゃ、アイツも死ぬ!)


ドクリは目の前の彼の姿を目にしてそう予感するが足は恐怖で震えてそれ以上動くことはなかった。


「アブク! 大丈夫かっ!? 待ってろ、いま行くぞ!」


そうドクリの隣から声が聞こえた後、飛び出してした奴がいた。恐らくは彼のチームメンバーなのだろう。


「よくもアブクの腕をっ! 死ねっ!」


飛び出した彼は、剣を水平に振って敵の無防備な腹を斬ろうとするが、その頑丈な装甲によって弾かれてしまう。


そうなると分かっていたのだろう。敵は弾かれて事により足を止めていた彼の脳天を鉈で叩き斬った。


「あ、あぁ・・・」


ドクリはそれを終始見る事しか出来なかった。そんな情けない自分を罵倒する。


(なんでアイツは動けるんだよ!怖くねぇのか!?)


だがそんな勇敢な男は1人ではなかった。周りを見渡せば、異様な装備をする敵を前にして懸命に戦っている者が何人もいた。


そんな彼等に対して敵は、複数人で囲んで確実に自分達を追い込んでおり、その更に後方では比較的軽装備の敵が銃をこちら側に構えていた。これでは、後退しようにもその間に後ろから連中の銃で撃ち抜かれる。


「この糞野郎っ!よくも俺の仲間をぉ!!」


アブクは片腕を失った状態で尚も、斬り掛かろうとしたが、大量出血が原因であろう。アブクは敵の目の前でバランスを崩してしまい、そのまま倒れた。


それでも何とか、立ち上がろうと残った片腕で上体を支えるが、その隙を目の前の敵が見逃す筈も無く、鉈を振り下ろした。


(糞っ! 死んじまうっ!! あぁっ!)


アブクの脳天に鉈がぶつかろうとしたその瞬間、鉈を振り下ろす敵の間を通り過ぎる者が現れた。


「ぐぅ!?」


すると敵はそう呻き声を上げて、よろめいて数歩後ろへ下がった。その敵は頑丈そうな黒い金属で覆われた頭部を擦っていた。


そして、先ほどあの敵を通り過ぎた者がよろめいた敵の方を振り返えった。


「エルブリッドさんっ!」


誰かがそう叫んだ。どうやらあのミスリル級冒険者エルブリッドさんがアブクを助けてくれたようだ。


当のエルブリッドは剣を掴んでいた手を忌々しげに睨んでいた。


「つぅ…! なんて硬さだっ! お前等っ! 下がれ! ここは俺が殿をする!」


エルブリッドはそう言うと、いまだ痺れが収まる様子のない手を乱暴に振って再度、剣を握り締める。


「エルブリッドさんっ! あ、ありがとうございます!」


エルブリッドの言葉に勇気を取り戻した俺は、慌てて目の前のアブクの腕を自分の肩に回して後方へ下がろうとする。しかしアブク本人はそれに抗おうとする。


「じょ、冗談だろ!? ふざけんなっ! 俺の右腕の仇だっ! 殺らせてくれ! 仲間まで殺されてんのにこのまま下がれるか!」


アブクはそう言って切断された片腕を敵の方へ向けてそう叫んだ。それをエルブリッドが止める。


「もういいアブク! 周りを見ろ! こんな空間では奴等の思う壷だ! それに・・・」


エルブリッドは息を重く吐いた。


「1体だけでも厄介なのに、それが少なくとも40以上・・・正直、万全の俺でも長くは持たない。」


「そんな・・・っ!」


そう話している内に目の前の敵は衝撃から完全に復活したのだろう。エルブリッドの前に立ちはだかる。


更には、その周囲を囲うように別の敵が次々と集結していた。ミスリル級とは言え、あれだねの力を持つ怪物がたった1人に対して過剰過ぎる程の人数だ。


その様子をエルブリッドは冷や汗を額に流しながら自分達に言った。


「連中・・・俺の冒険者プレートを見た途端に殺気立ちやがった。 完全に俺をミスリル級だと分かって警戒してやがる。 知性の無い魔獣って訳じゃあ無さそうだが・・・人間か?」


「ま、魔力無しの人間がこんな力を?」


「分からん・・・だが油断して勝てる相手じゃないのは間違いないな。 速く下がれ。」


「お、お気を付けて!」


アブク達が下がっていくのを横目で確認したエルブリッドは、先ほどの言葉を思い出して小さく笑った。


「お気を付けて、か・・・」


果たして五体満足で居られるだろうか。そんな疑問を浮かべ掛けるが、すぐに気持ちを切り替える。


(正面に1体。左右に4体ずつ、そして更にその後ろには軽装の奴が複数・・・あれは支援係か? 糞! 連中の銃は厄介だな。)


エルブリッドは自身の知覚能力を充分に活用して周囲の状況を確認する。


エルブリッドが居る辺りの仲間は撤退に成功していたが、それ以外では敵に妨害されて後退が出来ないでいる仲間がちらほらいた。


まぁ、そのお陰で他の敵が分散してくれているが、今の数でも充分に脅威な事には違いない。


エルブリッドは覚悟を決めると、姿勢を低くして強く床を踏み込んで突進をした。


攻撃すべき最初の標的は、アブクにトドメを刺そうとしていた目の前の敵だ。


あの時、頭部を勢い良く攻撃したが、衝撃は与えられたものの、致命的なダメージを負った様子は無かった。


ミスリル鉱石で作られた逸品が当たり前の様に通用しない事実に理不尽な迄の列強国の技術力に文句を言いたくなる。


(下位列強でこれだけなら、上位列強国はどれだけ桁外れなんだかなっ!)


エルブリッドはそこで考え事を止めて、もはや目と鼻の先にまで近付いた彼は、敵の懐にまで潜り込む事に成功した。


「ちっ!」


懐にまで近付いた事で、敵からそう舌打ちがしたのがエルブリッドの耳に入る。それを聞いて、本当に人間だったか・・・と場違いの感想を抱いたが、すぐに次の行動に移る。


一瞬で懐にまで近付いた事で、周囲の敵が誤射を恐れて銃を使用してこないことにほくそ笑んだエルブリッド。


(頭部が駄目ならここはどうだっ!)


エルブリッドは敵のもとい、目の前の特急隊員の背中へと回り込んで、後ろから鎧の弱点である関節部分を攻撃する。


剣を特急隊員の膝裏に滑り込ませる様に振り下ろした。


「ぐぁっ!」


エルブリッドの思惑通りに、彼のミスリル製の剣は特急隊員の関節部分を見事、斬ることに成功した。


流石に脚を両断することは体勢等の理由で出来なかったが、これで敵の戦力を削ぐことは出来た。


その勢いに乗って、膝片を床に付けて、今度は上体の急所である喉を斬り裂こうとエルブリッドは隊員の斜めに移動して剣を振ろうとする。


だが、エルブリッドの狙いに気付いた隊員が片腕で首元を隠しながら、もう片方の腕で鉈をエルブリッドの胴体に水平に振った。


「おっとっ!」


狙いを悟られたエルブリッドはすぐに下がって鉈を避けた。しかし、その離れた一瞬の隙を周りの隊員は見逃さなかった。


「撃てっ!」


2人の半周を囲むようにしていた隊員達が一斉に離れたエルブリッドに向けて射撃を開始する。


それをエルブリッドは身体強化系の魔法を駆使してその銃弾から逃げまくる。


(少し離れたら直ぐに発砲するか!? 躊躇が一切無いな! かなりの修羅場を潜り抜けてやがる!)


周辺のテーブルや椅子に柱を背にしながら銃弾を避けている間に折角、戦闘不能にまで追い込んだ敵が周りの仲間に背中に背負ってる何かを掴まれて後方へ下がっていくのをのを見た。


(畜生っ!・・・出来ればトドメを刺したかったが、まぁ良い。戦力が減ったことには変わり無い。

 だが、それにしても・・・)


柱の影に隠れて息を整えながら特急隊員を観察していたエルブリッドは、隊員達が背負ってる物を見て疑問を浮かべる。


(連中の背負ってるのは何だ? 背嚢って訳じゃ無さそうだが・・・)


まさか、あれが特急隊員の力の源だとは微塵も思っていないエルブリッドは、あのパワードスーツの動力部をまじまじと見つめる。


(何か切り札を収納してるかも知れんな・・・試しにアレを攻撃してみるのも・・・っ!!)


そこで、別の冒険者の掃討をしていた別の隊員達が柱の影で止まっているエルブリッドを発見して、銃口を自分に向けていた事に気付いたが、発見が遅れてしまう。


(不味いっ! 間に合わない!?)


死ぬ。そうエルブリッドが悟った瞬間、銃口に光が発せられる前に女性がエルブリッドの腕を掴んで思いっきり引っ張った。


「伏せて!」


ネイティアだった。彼女に引っ張られるがままのエルブリッドはその言葉に従い彼女と共に伏せた。


先ほどまでエルブリッドがいた場所に無数の銃弾が撃ち込まれていく。そこに目標である彼が居ないと気付いた隊員達はすぐに射撃を止めた。


「おいおい・・・冗談だろ?」


後ろを振り返って自分がいた筈の柱を見てエルブリッドは目を覆いたくなる。


数人の、しかもたった数秒の銃撃で、幅1メートルはあろう分厚い柱は見るも無惨な程に抉られており、彼処に人が居れば間違いなく挽き肉になっていたであろうことは容易に想像出来た。


「魔力無しで・・・これは反則だろ?」


「呆けてる場合じゃないわ! 走って!」


立ち上がってそう言うネイティアを、エルブリッドは勢い良く立ち上がる事で返事とした。


「彼処だ! あの給水所付近を撃てっ!」


すると敵もこちらの場所に気付いた様で、指揮官らしき男の声が聞こえると、そのすぐ後に銃弾が飛んできた。


「走って!」

「分かってる!」


2人は全速力で走り出す。そのすぐ後ろを銃弾が掠って行く。銃弾が通った事でその微妙な空気の振動が2人の背中に伝わってくるのが分かる。


「っ~~!!」


声にもならない叫びを出しながらネイティアはこの食堂に調理所に繋がる料理の受け渡しとして使われるカウンターの奥へと飛び込むように入った。エルブリッドもそれに続くように入る。







「攻撃止め! 攻撃止め!」


冒険者2人がカウンター奥へと逃げるのを見た野儀は部下達に射撃停止命令を出した。


「岩城班は第2支援隊の支援の元、逃げた2人を追え。 残りは奥に行った残党を片付ける。 奴等はまだ地下室にまで辿り着いていない。 その前に冒険者を殲滅せよ!」


「了解」


野儀の命令を聞いた部下達はすぐにそれを実行するために動く。


「それと、彼の容態は?」


野儀は先ほどの冒険者によって負傷した部下について聞いた。


「動脈を斬られており出血が激しいです。これ以上の戦闘は困難の為に地上部隊の負傷者と共に艦隊の方まで下げます。」


「復帰は可能か?」


「それは・・・まだ分かりませんが、傷の状態によっては、このまま源隊復帰かと。」


ここでの源隊復帰とは、特殊急襲制圧部隊から元の国防隊員への復帰を意味する。


それを聞いた野儀は小さく頷き、質問に答えてくれた部下を見て命令を出した。


「そうか・・・依田、お前があの2人の討伐指揮をとれ。」


「了解しました。必ず始末します。」


「チームから分断させたとは言え相手はミスリル級冒険者だ。 甘く見ればオーマ島駐屯基地の二の舞を演じる事になるぞ。」


野儀は少し前に起きたミスリル級魔術師による駐屯基地侵入事件を思い返す。


「承知しております。」


依田と呼ばれた副官は直属の部下2人を連れて、カウンターの奥へと入る岩城班達に向かう。


「隊長の指示だ。ここからは私が指揮をとる。

 内部は狭い。 必ず支援隊と行動を共にしろ。」


「了解!」


依田副官はそう言いカウンターを飛び越えて、腰に携帯した予備の拳銃をスライドして装填をした。


「同僚が傷つけられた。 絶対に2人を逃がすな」


彼はがらんどうとなった調理場を睨み付けてそう部下達に言う。







「・・・一先ずここまで来れば大丈夫そうね。」


カウンターを飛び越えてから暫く奥の方へと走ったネイティアは壁によって先ほどまで走っていった方を見てそう呟いた。


「そうだな・・・よっこらせっと。」


それを聞いたエルブリッドはその場に座り込んで荒く息をした。ネイティアもエルブリッドの隣に座って荒れた呼吸を整えていく。


そうして暫く休む2人。ある程度、体力が回復したエルブリッドが気になっていた事を聞く。


「ネサーム達は大丈夫か?」


「リキシタが連れていったから大丈夫よ。いざとなればネサームの魔法で2人だけならこの建物から脱出できるわ。」


「他の連中は死ぬだろうけどな。」


「・・・」


その言葉に暫く静寂の時が流れる。気まずさを感じとったエルブリッドが口を開く。


「すまん。今のは言わない方がよかったな。」


「良いのよ・・・それで? ここから、どうするのリーダー?」


ネイティアの質問にエルブリッドは正面を見つめて暫く考えてから言った。


「・・・大使の確保はもう不可能だな。最初の突破に手こずった所で既に危険だった。 まさか下位列強国の大使館がここまで強固な守りを敷いていたとは想定外だった。 そうなると別の大使館の連中もかなり苦戦しているだろう・・・」


「その事なんだけど、リーダー。」


「何だ?」


ネイティアは少し躊躇しながらも自身の考えを述べた。


「その・・・ネサームが言ってたのだけどね。ガーハンス鬼神国やジュニバール帝王国にレムリア連邦の方へ向かった皆は大使の確保に成功したらしいの。」


「なに? レムリア連邦だけじゃなく上位列強国の大使をか?・・・それは本当か?」


エルブリッドは驚く。まさか上位列強国のしかも2ヶ国の大使の確保に成功したという情報に耳を疑う。


「本当らしいわ。それも死人は出たらしいけど、ここ程は出てないらしいのよ。」


「馬鹿な・・・戦力はどこも同じ位だろ? 俺の指揮に問題があったのか?・・・糞。」


「多分違うわ。」


「どういう意味だ? 慰めなら必要は・・・」


「違うの。」


ネイティアはエルブリッドの方を向いて彼の瞳を見る。その様子に彼も慰めの意味で言った訳ではないと悟った。


「ニホンは異世界から召喚された国、それは貴方も聞いた事あるでしょ?」


「あぁ・・・余りにも荒唐無稽な内容だったから覚えている。だが、そんな馬鹿げた話を信じるのか?」


「なら列強国が突如として現れた理由を説明出来るの? 最下位なら分かるけど、いきなりレムリア連邦等を抜かしたのよ?」


「それはレムリア連邦等との戦いで戦勝したからだと・・・」


「そもそも異世界国家だと正式に発表したのはあの超大国よ? そればかりか、ここの建物は他の列強国と比べても余りにも異質過ぎるわ。」


「何が言いたいんだ?」


「あのね。これはネサームの考えなんだけど。」


ネイティアは辺りを見渡してからこうエルブリッドに言った。


「ニホンは上位列強国相当の国力を持ってる。下手したらチェーニブル法国に並ぶかも・・・って。」


その言葉にエルブリッドは目を見開いた。


「なっ・・・それは幾らなんでも有り得ないだろ。 異世界とは言え、そんな大国がそう何ヵ国も存在する筈がない。 下位列強国すらも普通なら信じられない程の力を持ってるのに。」


「私達は異世界の事なんて全く知らないわ。ひょっとしたら、その異世界でも最強の国がこの世界に来たのかも・・・」


「むぅ・・・そうなると、あの怪物達の力も納得は出来るが・・・」


「この情報を何としてでも持ち帰って皆に知らせるべきよ。 少なくともニホンは上位列強国並みの力をもっている・・・っ! リーダー!」


何かを感じ取ったネイティアは床に置いていたレイピアをすぐさま拾った。エルブリッドもすぐに立ち上がる。


「あぁ。追っ手だな。話は帰ってから続けるぞ・・・幸いにもまだ距離はあるな。」


2人はそこで会話を中止して、その場から離れる。追っ手に気付かれないようになるべく音をたてないように・・・


「にしても・・・流石は列強ね。調理場だけでもこんなに広いわ。見たことのない調理道具もある。」


ネイティアは横に置いてある電気オーブンを擦りながら言う。


「あぁ、そこらにある包丁の類いは使えるかもな。 ここなら狭いし、奴等の武器も充分には使えないだろう。」


エルブリッドは調理台の上に置かれている包丁ホルダーにセットされた数丁の包丁を取り出した。


「ここで戦うの?」


「ネサーム達と合流したい。少しでも多くの同業者を救わないといけないしな。ん? ここは・・・」


調理場特有の狭い通路を歩いているとエルブリッドは、角の方に金属で作られた扉を見つけた。


「ここはひょっとすると・・・」


エルブリッドはその扉の前にまで進んで扉を開けた。


すると空いた隙間から冷気が溢れ出てきて、比較的に軽装のネイティアが寒そうに腕を擦った。


「寒い・・・」


「やはり食糧庫か。」


中を見たエルブリッドはそう呟く。


ここに勤務する職員や隊員達の腹を満たす為に設けられた大型の冷凍庫を見て2人は中を見渡す。


「かなり寒いな・・・大貴族の食糧庫でもこれだけの空間をここまで冷やせる魔道具を持っているのは少ないぞ。」


「でも魔力は感じない。機械の力で冷やしてるんだわ。」


「量も凄いな。天井一杯にまで高く積み上げてるぞ。これは紙の箱か? 良く出来てる。」


段ボールを弄るエルブリッド。それにネイティアが話し掛ける。


「こんな事してる場合なの? ここからどうするのよ?」


言われたエルブリッドは段ボールを開けて、中身に入っていた野菜の1つをネイティアに投げ渡した。


それを受け取ったネイティアはその野菜を凝視する。この国では見たことのない野菜だからだ。


「なにこれ? 食べても大丈夫なの?」


「知らん。だが食糧庫に入ってたんだ。食えない事は無いだろう。」


エルブリッドはそう言い、ネイティアにあげた野菜、トマトを自分も手にした。


「で? どうするの! 流石にこれ以上無駄話はしてなれないわよ!」


「作戦は決めたぞ。」


エルブリッドはそう言うとトマトを噛った。見た目に反しての酸味に彼は気に入る。







「正面、クリア。」


「良し。そのまま進め。」


支援隊が89式自動小銃を構えながら進んでいく。そしてそのすぐ後ろを重武装をした特急隊員が続いていく。


そうやって何個目かの調理場を通り抜けていくと、前列にいた依田副官が横に置かれている包丁ホルダーを発見した。


「・・・」


「少尉? どうしましたか?」


その様子に真後ろにいた部下が問いかけた。


「そこの包丁。」


依田はそう言ってさっきまで見ていた包丁ホルダーを指差す。


「幾つか抜かれている。連中が何か罠を仕掛けてるかも知れん。 警戒しろ。」


「了解。」


依田の言葉に部下達は更に警戒を強めて進んでいく。


そこからまた少し歩くと足元に違和感を感じ取った。


「止まれ。」


(これは・・・冷気?)


依田はこの装甲靴越しからでも足元に感じ取れる違和感の正体に気付いた。


するとこのエリアの角に開けっ放しの金属扉を見つけた。


「冷凍庫の扉が開けられている。これより内部を確認します。」


「陽動の可能性もある。周囲の安全確認を怠るな」


依田の指示に、すぐさま後ろの特急隊員が前に出て冷凍庫扉の周辺を捜索する。


「クリア。」


「分かった。お前らはそのまま捜索を続けろ。

吉田、先行しろ。」


「了解。」


隣にいた自分の直属の部下である吉田が支援隊から小銃を借りて冷凍庫に入る。


冷凍庫故に、特殊装甲ヘルメットに内臓された赤外線映像装置の意味をなさない事に警戒を更に強めた。


「中に入りました。」


「奴等は見えないか?」


「どこも温度が低く、視認での確認は困難です。」


「分かった。お前らも突入しろ。」


「了解。」


依田の指示に次々へと部下達が冷凍庫に入っていく。


特急隊員の1人が冷凍庫の奥の方まで入っていく。冷凍庫自体がそれなりに広く、しかも天井まで届く程の高い棚で区切られてる為に視界が悪く、つい歩調は遅くなってしまう。


そのすぐ後ろを2名の支援隊が続く。


「姿が見えないな・・・」


「やはり、ここは陽動で遠くに逃げる為に開けっ放しにしたか?」


「そうらしいな・・・」


支援隊の2人が隊員の背後を守りながらそう話していると、遂に冷凍庫の壁にまで到達した。


「クリア。」


「よし下がる、ぞ・・・何だ?」


下がろうとしたその時、足元に何かがぶつかり思わず視線を下げた。


「・・・トマト?」


ただの野菜だった。しかし噛られた後があったが。

何処から? 支援隊の彼は、ふと天井を見上げた。


そしてそこに、奴がいた。天井に張り付いて居たのだ。


「っ!? う、上だっ!」


「遅いぞ、ニホン兵っ!」


そう発見されたエルブリッドは両脇に挟まれるように設置された棚に脚で崩した。


「うぉっ!?」


棚が揺れた事により、そこに置かれていた大量の段ボールや剥き出しになった食糧が棚と共に彼ら3人の元へ振りかかる。


すぐに特急隊員が倒れ掛かる棚を支えて支援隊の頭上を守る。


だが、それにより両腕を塞がった隊員の頭に目掛けて、棚をすり付けるようにエルブリッドは天井から降りた。


「がっ!?」


成人男性のしかも金属鎧を装備したエルブリッドの全体重が隊員の頭にのし掛かったので、体勢を崩してしまった。


その後、地面に着地したエルブリッドは乱雑した段ボール等を退かしていた支援隊に持っていた包丁を投げつける。それにより怯んだ支援隊の間を潜り抜けた。


「しまった!? そっちに行ったぞ! 外に出すな!」


その声に冷凍庫の外に待機していた依田達が一斉に銃を金属扉に向ける。


エルブリッドが扉から姿を見せるのをいまかいまかと待っていると、突如として共に逃げていた女冒険者がどこからともなく彼等の中心部に出現した。


「なにっ!?」


(何処から現れた!?)


依田の隣にいきなり女冒険者が現れた事に度肝を抜くが当の女冒険者も何故か驚いた様な表情をした。


「なんでこんな、真ん中に出るのよっ!?」


そう女冒険者もといネイティアは、目が合ったー彼女からは依田の目なんて見えないがー依田の顔目掛けて跳び蹴りをした。


「ぐあっ!?」


急な出来事に反応出来なかった依田はその跳び蹴りをもろに受けてしまい後ろに倒れ掛かり、慌ててその後ろの部下達が依田の体を支える。


『一点集中っ!』


そこへ依田の胴体にネイティアはレイピアで力強く突いた。その勢いにより依田は元より彼を支えていた部下達も後ろに吹き飛んだ。


「副官っ!?」


「この女っ!」


その様子にネイティアの後ろにいた隊員が拳銃を向けて発砲し、また別の隊員が鉈に取り替えて彼女目掛けて振り下ろした。


しかし流石はミスリル級冒険者、それらを全て避けていく。


その間にエルブリッドががら空きとなった扉から出て、その扉を閉じた。


その後、懐から拳程の大きさの魔道具を取り出して扉に向けて発動した。


発動した魔道具は砕け散った。すると扉と壁の間が魔法の力により密着されて扉は魔法により施錠されてしまった。


その後すぐに追っていた冷凍庫側の隊員達が扉を開けようとするが、開かない事に困惑の声と扉を叩く音が聞こえた。


「何だ!?開かないぞ!?」

「おいっ! 開けろ!?」


そんな彼等を他所にエルブリッドは今度は別の魔道具を取り出して、いまだに混乱の収まらない依田達に向けて発動する。


『衝撃波』


エルブリッドがそう唱えると、依田達の身体を強力な衝撃波が襲う。


「今度は何だ!?」


蹴りの次は衝撃波に依田は混乱する。その間にエルブリッド達2人は依田達が来た道を戻り走った。


それを見た依田が部下達に指示を出す。


「奴等・・・仲間と合流する積もりだ! 何をしてる! 速く奴等を追えっ!」


「り、了解っ!」


衝撃波から立ち直った隊員達が大急ぎで2人を追い掛ける。


「糞っ! あの糞冒険者共めぇ・・・」


「設置、完了しました!」

「良し! 点火しろ!」


「ん? 点火?」


後ろから聞こえてきた声に依田は思わず真後ろを振り返る。その視線の先にはエルブリッドにより施錠されていた金属扉があった。


「まさか・・・」


依田がそう呟いた瞬間、金属扉は勢い良く彼の方向へ吹き飛んだ。


「ぐへぇっ!?」


冷凍庫に閉じ籠られた支援隊の持つC-4爆弾を使って突破を試みた彼等は、依田が居ることも知らずに起動してしまい、それをもろに受けたしまった依田はそう情けない声をあげる。


「開きました!・・・て、あれ?」

「あら? 副官?」

「・・・やっちまった?」


完全に吹き飛んだ扉から出てきた部下達が正面に倒れている依田を発見して状況を察した。


「・・・馬鹿野郎共。」


幸いにも特急隊員の装備のお陰で軽症で済んだ依田は静かに部下達に言った。


そこへ調理場の更に奥側を捜索していた部下達が轟音を聞き付けて戻ってきたが、この状況を目にして困惑したのは別のお話である。









「上手く行ったな。」


来た道を引き返していたエルブリッドはそうネイティアに話し掛けた。


「冗談じゃないわ!連中のど真中に出たのよ!? もう少しで蜂の巣にされてたわ!?」


当のネイティアはそう怒りの声をあげる。彼女は特定の記憶させた場所に転移出来る魔道具を使って依田達の真ん中に出現したのだ。


効果範囲は狭いが、かなり使える魔道具だ。


「だが、これでネサーム達と合流出来る。」


「あの子達を追撃してる本隊が居るでしょうけどね!」


「ソイツ等を挟撃して、その隙を突いて全員で脱出する! 上手くいくかは・・・っ!? 伏せろ!」


「きゃっ!?」


エルブリッドが曲がり角にまで到着した時、その死角から特急隊員が現れて、その手に持つ鉈を2人目掛けて振ってきた。


慌ててネイティアの頭を押さえてその攻撃を避ける事に成功する。


そこから2人はすぐにその隊員から距離をとって突如として現れた隊員を目にして、2人とも息を呑んだ。


(コイツっ・・・どんだけ、返り血を浴びてやがる!?)


2人が息を呑んだ理由、それはその隊員はひときわ大柄で、その全身を血で汚れていたからだ。


その血が自らの傷により汚れた訳では無いのは今までの経験で分かる。目の前のコイツは数え切れない程の人間を殺した事により今の姿になっている。


何よりもその全身から溢れ出る殺気が全てを物語っていた。


レイピアを隊員に向けていたネイティアが全身に汗を流しながらエルブリッドを呼ぶ。


「リーダー! コイツ・・・」


「あぁ! 分かってるっ!」


(コイツはヤバい・・・っ!)


目の前の隊員は今までの連中とは明らかに放つ気配が違っていた。コイツは間違いなく強い。


(相当、強いな・・・なんて殺気だよっ!)


2人は激闘を覚悟した。





そんな2人を見た隊員はその手に持つ血と脂で汚れた鉈を構えた。


「あの糞野郎を逃したと思ったが・・・丁度良い」


そう言った隊員、南原龍光は更に続けた。


「その声、聞き覚えがあると思ったら・・・隊長の無線越しでも聞こえたぞ。あの糞野郎に早島班長殿を殺せと命じやがったごみ屑野郎だよな?」


南原は鉈を勢い良く振って一歩前に歩む。それにつられて2人は下がる。


「てめぇを殺す。覚悟しな。」


尋常じゃない殺気を向けられたエルブリッドはひきつった笑みを浮かべた。


「・・・あぁ糞っ。」


ここまでありがとうございました。


なんか初期に設定した内容が結構足かせになっているなぁと感じている作者です。


更に場面を多く書きすぎて、次にどの場面を書こうか悩んでしまっています・・・


どこの場面が良いっすかね?


ご感想あれば是非ともお願いします! それが最大の励みになりますので!


それではまた次回に!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 大使館の方は大方は決着がつきそうですね。 エルブリッドは死んだな。 [気になる点] 特急隊員は通常の部隊よりも重要な立ち位置なのに20式小銃ではなく89式小銃なのでしょうか? ネイティア…
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