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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第64話 我ここに来たり

第64話 我ここに来たり



辺りに煙が充満している。彼等は誤ってそれを吸わないように呼吸を潜めたり、防護マスクを装着したりして防いでいた。


しかし、そのせいで狙いが定まらないが適当に狙いを付けても誰かには当たるので良しとしよう。


「怯むな!奴等を近付けさせるな!」


続々と完全に変形した装甲扉から雪崩れ込む暴徒達を排除しようと、数十もの隊員達が小銃で鉛の金属を彼等の身体に埋め込ませる。


しかし、それらの銃弾の一部が空中で弾かれ暴徒達を銃弾の嵐から守る。それを見た井上軍曹は舌打ちをして、手榴弾を投げ込む。


投げられた手榴弾は、銃弾を弾く原因である蒼白い膜の近くに落ち、その数秒後に金属片を撒き散らしながら爆発する。


それにより蒼白い膜、結界魔法は解除され、その瞬間を見逃さなかった部下がそこ目掛けて銃弾を彼等に浴びせる。


そこへ更に小銃擲弾を装備した隊員が室内でも構わずに撃ちまくる。それにより爆風が暴徒達を襲った。


「ひぃええぇ!」


「畜生っ!アイツ等なんて物を持ってやがるんだよ!?」


情けない叫び声を上げる彼等を見ても国防隊員達は容赦しなかった。いや、寧ろそんな彼等を見て更に攻撃の手を強めた。


自分達の同胞をカメラ越しとは言え、惨殺した彼等に情けを掛ける者は居なかった。居たとしてもそれを行って彼等は感謝することなく自分達に刃を向けるであろう。


この場の日本側の指揮官である井上軍曹は、そんな彼等を見て心強いと思ったが、それを呑気に考えさせてくれる程、敵も甘くない。


「っ!伏せろっ!」


暴徒達の中で紛れている冒険者の1人が攻撃魔法を井上達のいる遮蔽物に向かって放ったので慌てて床に伏せる。


職員エリアに幾つか存在する幅1メートル程の柱を利用していたのが幸いして、柱の表面が少し傷付いただけの損害で済んだ。


そのお返しと言わんばかりに井上は、腰に付けていた9ミリ拳銃に持ち変えて、さっきの攻撃してきた方向に向けて発砲する。


「外套を被ってる奴を優先して発砲しろ!ソイツが魔術師だ!」


「は、はい!」


ズレたヘルメットを被り直していた部下はその命令を聞いて急いで小銃を構えて発砲する。その間にも別の場所でまたもや攻撃魔法が使われている。


「糞っ!これじゃジリ貧ですよっ!」


「ガタガタ抜かすな!大半は録な武器を持ってない雑魚だ!」


圧倒的な数の差に、弱音を吐く部下を叱責する。拳銃から小銃に変えて発砲していた井上はその後、装填をする為にボディアーマーのポケットに手を伸ばすが、それが空回りすると、後方に声を掛ける。


「弾切れだ!弾倉寄越せ!」


後方で非戦闘科の隊員が弾蒼の入ったケースを開けてその内の幾つかを投げて寄越した。


それを片手で器用に受け取るとその内の1つを小銃に装填する。その僅かな間にも、暴徒達は少しずつジリジリと近付いて来ている。


職員エリアとエントランスとの間を隔てていた壁の周囲には、大きな遮蔽物は無く、扉から侵入してきた暴徒達は、そこから更に数十メートル先を歩かねば、井上達の元には辿り着けない。


しかし井上達側には、即席ではあるものの金属製のテーブルや等間隔に造られた走らせた柱、対暴徒用の軽シールド、対爆発用の重盾を利用したバリケードを作っており、地の面ではこちら側が有利だ。


しかしそれを覆す程の圧倒的な数の暴力が井上達を呑み込むように展開する暴徒達に苦戦していた。


事実、扉からは今も催涙弾を潜り抜けた暴徒達がその手に持つ武器を握り締めて侵入している。


更に不味いのは、冒険者だ。彼等の存在がこの状況を更に不利な状況にしていた。


後衛職冒険者の魔術師は、暴徒達の影に隠れて攻撃魔法や結界魔法を展開して暴徒達を援護する。


前衛職の冒険者達は、そのご自慢の身体能力を活かして銃弾を避け、各々の武技や豪腕を使って物を投げたりして隊員に牽制する。


中には、あの銃弾を掻い潜って隊員達に肉薄しようする者すらいたが、今の所は肉薄される前に迎撃出来ているが、もはやそれも時間の問題であろう。 


相手方もそれを理解しているようだ。井上達に向かってこう呼び掛ける者がいる。


「いい加減に諦めたらどうなんだ?形勢はもはや決した様な物だろう。いま降伏すれば殺さずに人質として扱ってやる。」


井上軍曹は、隠れていた柱から顔をひょっこりと出して声の主を見る。


やはり声の主は、一番乗りを果たしたミスリル級冒険者の重騎士であった。最初に一言二言会話をしたが、奴は好きになれない。


「さっきは皆殺しとか言って無かったか?コロコロ変えるとは、やはり信用出来んな。」


「あれは言葉のあやじゃないか。そう恐がらなくても良い。大人しく大使を渡してくれればそれ以上は何もしない・・・どうだ?悪くない話だろう?」


その言葉に井上は、吐き気を催した。すぐさま睨み付けてこう言い返した。


「俺の部下を殺しといて良くそんなふざけた事を抜かすな?てめぇは必ず後悔させてやる。覚悟しろ」


そんな殺気をのせた井上の言葉に、言われた冒険者、エルブリッドは軽く笑う。


「はっ、そうやって隠れる事しか出来ない癖に威勢が良いな・・・良いだろう。ならこのまま続行だ。後で命乞いしても容赦しないぞ。」


エルブリッドがそう言い終えると、周りの暴徒達が一斉に動き出す。前面にいる者達は、どこからかかき集めて来た板やテーブルを持ち出して盾として利用していた。


それを見た井上は、部下達に無線で指示をだす。


「いいか?俺が合図したら擲弾を発射しろ。その後すぐに冒険者を優先して狙撃しろ。」


その言葉に部下達は頷いて答える。敵に悟られないように遮蔽物に隠れ、その合図を待つ。


一連の戦闘で煙もあらかた吹き飛んだ室内は既に視界が良好な状態だった。


暴徒達は、自分達が撃ってこない事を良いことに駆け足で動き出したのを見た井上は合図を出した。


「やれっ!」


瞬時に異変を感じ取ったエルブリッドが魔術師に指示を出す。


「っ!結界を強化しろ!」


その瞬間、多数の爆発物がエルブリッド達の前に飛び出た。


突然飛び出てきたソレの危険性を嫌と言うほど見てきたエルブリッドは、苦虫を噛み潰したような表情で叫ぶ。


「伏せろっ!」


エルブリッドがそう叫び終えるとほぼ同時にソレは爆発した。


形は違えども前面にいた彼等は各々の盾を用意していたが、それも虚しく数十人が一度に吹き飛んだ。


「ぐあぁっ!?」


放物線を描いて飛来したソレは彼等の真上に到達した時に爆発を起こした為に、彼等の多くが頭部を損傷し、即死した者、瀕死状態になった者、運良く爆発範囲から逃れていて無事だった者に別れた。


そこから彼等に更なる不幸が迫る。無事だった者達は、己の幸運に感謝する暇すら無かった。


「狙撃開始っ!」


井上の命令を忠実に従う隊員達から発射された銃弾が爆風で足を止めていた彼等、暴徒達に襲い掛かる。


容赦なく降り注ぐ銃弾の雨に、先の爆発で負傷して倒れていた者も、それに怯んで止まっていた者も関係なく銃弾は彼等の身体と接触する。


録な回避手段を持たない暴徒達はなす術無く、次々とその地に倒れ伏す。しかし歴戦の猛者たる冒険者達は違った。


瞬時に結界魔法を強化し、更に別の魔術師と重ね掛けをして己等の盾を分厚くした。そこへ生き残っていた暴徒達も入り、防御の態勢へ移行する。それに銃弾が防がれていくのを見た井上は舌打ちをする。


「ちぃっ!対結界貫通弾を使えっ!」


井上の指示に隊員の何人かが狙撃用とは別の小銃用として用意されていた対結界貫通弾の入った弾倉を懐から取り出して装填していく。


「装填した者から各個に発射っ!」


そう言い終えると同時に井上から別のバリケードにいた隊員が発射を開始する。


対魔術師用として開発された銃弾は、その能力を発揮して、強化された筈の結界を撃ち破り、その内側にいた戦士風の冒険者の肩を貫いた。


「ふん、屋上の連中が使っていた奴か。姑息な手を使う・・・ネサームっ!ここならもう邪魔は入らないだろう?召喚しろ!」


エルブリッドの指示に、最後尾で多数の重武装した冒険者達に守られていた少年魔術師ネサームは、意を決したようにそれに応える。


「うん!任せて!」


ネサームは魔力を体内から排出して、己の得意魔法である召喚魔法を発動して目の前に魔方陣が出現した。


隊員達は、目立つ魔方陣を視認した為に魔法が発動されると気付き、それを阻止しようとネサームのいる方向に攻撃を集中するが、二重三重の防備に邪魔される。


『軽獣戦士族ウェア・ウルフ召喚』


そう言い終えると、少年の小さな身体から消費して召喚された6体の革鎧と曲刀を装備した軽装備の狼戦士が現れ、召喚者の命令を待つ。


「行って!僕たちの盾となってくれ!」


その命令を受けた召喚獣達はすぐに行動に移った。獣特有の強靭な脚力に身を任せて、冒険者や暴徒達の狭い間をすり抜けてあっという間に最前列に出た。


そしてそのままの勢いで隊員達のいるバリケードまで全速力で走る。


「新手だ!撃ち殺せっ!」


新たなる敵の出現に、隊員達は怯むことなく冷静に狙撃を開始する。しかし、素早い動きをするウェア・ウルフ達に中々命中することが出来ない。だが当てられない理由はそれだけで無かった。


「アイツ等を援護しろっ!」


『魔法槍っ!』『衝撃波っ!』『魔法矢っ!』『砂吹雪っ!』


後方の魔術師から次々と隊員達の狙撃を邪魔しようと魔法が飛んできているのだ。これにも対処しようと集中すれば目の前のウェア・ウルフはすぐさま我々へ襲い掛かるのは明白だ。


「糞っ!邪魔しやがって!」「足だっ!足元を狙えっ!」


「誰か擲弾を奴等に撃ってくれ!」


(っ!不味いなっ!こうなれば仕方ねぇ!)


この状況を不味いと悟った井上軍曹は行動に出る。その行動に隣にいた部下が思わず目を見開いて声を出した。


「軍曹っ!?」


井上軍曹は、隠れていた柱から身を飛び出してそのまま数歩、前へ歩き出してこう大声で叫ぶ。


「室内は走るんじゃねぇっ!害獣共がっ!!」


魔術師からいつ魔法が飛んできても可笑しく中、井上はそんなの糞喰らえと言わんばかりに更に前へ歩きだして今も走っているウェア・ウルフへ狙いを定める。


ウェア・ウルフ達も、1人だけ飛び出てきた井上を感知して、彼を優先して攻撃しようと方向を変え走り出す。


「軍曹っ!危険です!」


部下が下がるように言うが、それに雑に言い返して引き金を引く。


「何処に居ても同じだ!」


井上の元へ走り寄ってくるウェア・ウルフ達を直線上に、重なったと同時に発砲された銃弾の1発が先頭にいたウェア・ウルフの1体に命中し、消滅した。


そのまま続けて少し左に照準をズラして2体目を狙う。そして引き金を引く、脇腹へ命中し、また消滅する。


3体目を狙おうとした所で、既に至近距離にまで近付いていた1体が井上の腹へ手に持つ曲刀で斬り付けようと横に振っていた事に気付く。


「ふっ!」


井上は半歩、後ろに下がりギリギリの所でそれを回避する。だが、続けてもう1回曲刀を横に振り変えそうとしているのを見て井上は次の行動に移る。


半歩下がり、上半身が後ろに逸れるように回避した為に、下半身の足元が目の前のウェア・ウルフの丁度、顎の真下にあることを利用して、倒れるように体を傾けてその勢いをまま軍靴を履いた足を真上に上げて、ウェア・ウルフの顎を蹴り上げる。


いきなり顎を真下から蹴られた事により、視界がズレて横に降った曲刀は、またもや空振りする。


しかし井上もそのまま床に倒れてしまうが、すぐに腰に付けていた拳銃を取り出して数発、ウェア・ウルフに発砲する。


先の小銃よりも大口径の9ミリ拳銃の銃弾を受けた事により、大きく体を震わせて、ウェア・ウルフは消滅した。


(これで3体目っ!)


残り半分にまで減ったが、安心なぞ出来る訳がない。まだ3体残っており、しかも自分は遮蔽物のない場所に居るのだから。


事実、すぐに残りの3体目が走ってきて、敵からも次々と魔法が飛んでくる。


「あの男を狙えっ!奴がこの場の指揮官だ!」


「おうっ!」「死ねやっ!」


絶対絶命かと思われたが、幸いにも部下に恵まれていた。すぐに後ろから多数の銃弾が飛んできた。


「軍曹此方です!急いでっ!」


「すまん助かる!」


全力疾走で、途中バランスを崩すが滑り込むように柱にまで戻った井上は一息つく。


「無茶苦茶ですよ軍曹っ!貴方が死ねば洒落にならないのを忘れないで下さい!」


「あぁ分かってる!もうやらん・・・ぐおぉ!?」


部下からの言葉に返事をしてる途中で柱の影から登場としてあのウェア・ウルフが飛び出たことで思わず驚きの声を出す。


あの銃弾の雨を潜り抜けからか、既にボロボロ状態だったウェア・ウルフは緩い動きで剣を振り下ろすが、すんでの所で部下が頭を横から撃ち抜く。



「軍曹っご無事ですか!?」


「糞っ!律儀に付いてきやがったか!俺は犬は嫌いなんだよっ!残りの2体は!?」


「たった今、片付きました!」


それを聞いて井上はすぐに立ち上がって、柱から顔を少し出す。確かに既にあの獣は居なかった。あれは奇跡的にここまで辿り着けただけの様だ。


「上階の連中はまだ着かないのか!?遅すぎるぞ!」


井上はそう部下に聞いた。集結しろと指示したというのに一向に来ないことに苛立つ。


「無線で間違いなく言った筈なんですがね・・・」


「はぁ・・・糞っ!どうするか?」


(この職員エリアからの通路は全部で7ヶ所、その内の2つが地下室専用のエレベーターで、後は非常階段、残りは上階へ通じる階段とかだ。

 ここから一番近い通路は地下へのエレベーターだが、既にロックが掛かってる筈だから連中は使えない。いっそのことそこまで後退するか?

狭い通路なら防火シャッターを利用して防げる。なんなら上階の連中と挟み撃ちに出来るかも知れん。だとするなら問題は後退してる時に追撃を阻止せねばならんが・・・)


「軍曹っ!」


考え事をしていると部下から声が掛かってきた。そういえば今が戦闘中だと言うのを忘れていた。


「どうしt」


バシュッ!


空気が斬れたような音が井上の耳に入る。だがそんな音よりも彼は、目の前の光景を疑った。


井上の前には、首から上をバッサリと斬れ、その断面から血が吹き出ている部下がいた。既に頭は足元に転がり落ちていた。


「佐々木?」


余りにも急な光景に思わず、かつて自分の部下だった隊員の名前を呟いた。ドサリっと音を立てて倒れた死体から目を離せずにいると声が聞こえてきた。


「よぉ、さっきは凄かったじゃないか。少しは見直したぞ?腰抜け。」


その声の主の方を見ると、そこにはあのミスリル級冒険者、エルブリッドが立っていた。奴の持つ剣には佐々木の首を斬った際に付着したであろう血が滴り落ちていた。


「てめぇっ!」


井上は持っていた小銃を部下を殺したエルブリッドに構える。しかし、エルブリッドが井上の首を斬る方が速かった。


ザシュッ!


「がっ・・・はぁはぁ・・・」


首を斬られた井上は、小銃を落として、両手が空いた手で首を必死に押さえる。それでも手の間からどんどん血が吹き出る。


気道や動脈を深く斬られた為に大量に出血をしているのを見てエルブリッドは、満足そうに頷き、剣を鞘へとしまう。


「銃を使ったとは言え、ネサームの召喚獣を容易く倒したのは見事だ。咄嗟の機転も利く、そのお陰で防衛線を死守する事が出来た。彼等だけならもう暫くは持ちこたえれただろう。

 だが、まぁ・・・私と対峙したのが不味かったな。私なら複数の強化魔法にマジック・アイテムを使えばこんな距離、なんてことない。」


エルブリッドは、井上が柱の影に隠れたのを見計らい、ネサーム達に強化魔法を掛けて貰い、更に強力なマジック・アイテムを起動させて一瞬の間に数十メートル先のこの場所を走った。


そしてその勢いのままにバリケードから頭を出していた佐々木の首を切り落としたのだ。先の扉から潜り抜けた方法と一緒だ。


佐々木が井上に声を掛けたのはエルブリッドが走る体勢をとったから知らせようとしていたのだ。


そうエルブリッドが話している間に、井上は遂に立ってられる力が無くなり、倒れてしまう。それを別の場所から見ていた隊員達が助けようする。


「軍曹っ!?糞っ!あの野郎を撃てっ!」


比較的、井上の近くにいた隊員がすぐに小銃を構えるが、発砲は出来なかった。


その前に、遅れて走った神官騎士ネイティアが現れ、隊員の首にレイピアを突き刺したからだ。


「ちょっと、私が居なかったら危なかったわよ?」


「問題ない。助けてくれると信じてたから何もしなかったんだ。」


「全く・・・」


不機嫌そうにレイピアを振るネイティアを他所に、エルブリッドは息が絶え絶えになっている井上を見下ろしてこう言った。


「良く見ておけよ。これからお前の大切な部下が無惨にも殺されていくのをな。」


もはやこのエリアの戦況は決した。辛うじて持ちこたえていた防衛線は、1か所が突破されたことにより完全に崩壊した。


そして暴徒達は、その穴が空いた場所を目掛けて突っ走る。それを必死に止めようとする隊員達だが、勢いの乗った彼等を止めるには数が少なすぎた。


「奴等を止めろぉ!!」


遂に先頭の暴徒達がエルブリッドの所まで辿り着くと、そこから散会して隊員達の背後に回り込もうと動く。


エルブリッドも動こうと足を動かすが、井上に右足を掴まれて、止まる。


足元を見れば、床が血の海になる程に出血していても尚、エルブリッドを睨み付けてこれ以上部下を殺させまいと足を掴んでいた。


「・・・無駄な足掻きを。」


そんな井上を見てエルブリッドは、強引に振りほどく。井上は這いつくばってでも止めようとするが、やがて力尽きて、そのまま息を引き取った。最後にこう願いを込めて。


(頼む・・・コイツらを倒してくれ・・・)


それは、直に来るであろう救援部隊に向けた願いだった。





そこからは隊員達にとって地獄だった。


自分達の指揮官である井上軍曹は倒れて、暴徒達に包囲されてしまった。


それでも何とか、バリケードを背にして銃弾を彼等に発砲する。壁際にまで寄って、シールドを装備した隊員が前に出て壁役となって持ちこたえようとするも、大柄な冒険者がその手に持っている大槌や大剣をご自慢の馬鹿力で振り回し、盾を持つ隊員を吹き飛ばす。


またある隊員は、弾切れで使えなくなった小銃に銃剣を付けて剣の様に格闘戦をしたが、複数で襲い掛かる暴徒達に背中を殴打され倒れ、そのまま袋叩きにされる。


またある隊員は、暴徒達に押されて後ろ向きに倒れた後、近付いてきた重格闘家冒険者に頭を踏み付けられて死亡する。


だか中には、孤立した所を攻撃されないように複数人で集まってシールドを使って亀の様に陣形を築いて堪えて、暴徒達を苦戦させていた。


「糞っ!閉じ籠りやがって!出てこい腰抜け野郎共!!」


暴徒の1人が棒を使って何度も隊員達の透明な盾を叩くが、盾の後ろにいた別の隊員に拳銃で腹を撃たれて倒れる。


「ぎゃあっ!」


「なっ!気を付けろ!あの透明な盾、かなり頑丈だぞ!見た目に騙されるな!」


壁際に寄って暴徒達からの攻撃を凌ぐ隊員達を見てエルブリッドは感心したように言う。


「ほう・・・こんな状況になっても冷静に陣形を構築して耐えるとはな・・・」


それに隣にいた金級冒険者が反応する。


「感心してる場合じゃないですよ!連中、諦める様子がないです!」


確かに彼の言う通りに、ヘルメットとゴーグルを装着してるせいで見えにくいが、それでも彼等がまだ諦めている表情では無いのは分かる。


現に今も、盾を蹴って攻撃をしてくる暴徒の1人を盾の隙間から拳銃で迎撃している。


「列強の兵士というのはこれ程迄に統率力があるのか?・・・さっきの指揮官を殺したらけりが着くと思ったんだけどな。」


エルブリッドはそう言いながら、地面に落ちていた拳銃を拾う。


そして、拾った拳銃を隊員達の方向へ構え、引き金を引いた。


パンっ!


「うおっ!」


どうやらシールドに当たった様だ。シールドを持った隊員の1人がバランスを崩す。そしてそれを見逃さなかった者が1人いた。


「うおぉぉ!!くたばれっ!列強人!」


ガソンだった。彼の火事場の馬鹿力により隊員の1人を完全に押し倒す事に成功した。それに慌てて隊員達が動き出す。


「鈴木っ!?まってろ、いま助けるっ!」


「させるかぁっ!」「ガソンに続けえっ!」


ガソンを見習い、次々と仲間達が隊員達を押し込むように突進をした。倒れた隊員の出来た穴から雪崩れ込み陣形は崩壊した。


陣形が崩れたのを見送ったエルブリッドは、そのまま何人かの冒険者達を引き連れて建物の奥へと入る。


それ以外の暴徒達は、遂に待ちに待った、楽しい略奪をやろうと建物を荒らし回る。







「おいっ!急げ、軍曹にどやされるぞ!」


「分かってるって!」


大使館1棟の上階で警備していた上野は、同僚からの言葉を雑に返す。


(くっそぉ!なんでこんなに塞いでやがるんだよ!)


上野は無線で、1階に集結しろと言う指示を受けて、すぐに向かおうとしたが、その道中で通路を塞ぐように机やコピー機等の備品がバリケードとして置かれており、それを撤去するのに時間が掛かってしまった。


恐らくだが機密書類等の破棄に手間取って逃げ遅れた職員がもう何処かの部屋へ閉じ籠ろうとバリケードを作っていたのだろう。お陰でいい迷惑だ。


そうして備品を退かしている間に他の階の同僚と合流して漸く階段まで来たが、このまま到着したらすぐに上官の叱責が待ってるだろうと考えると機が滅入る。


(あぁ糞・・・嫌になるなぁ。)


上野はそうぼやいていると突然、先頭を走っていた同僚が立ち止まる。


「お、おい、なんで止まってるんだよ?速く行かないと軍曹に・・・っ!」


上野は階段の下を見て言葉を失う。そこには粗末な武器を持って階段を上っていたみすぼらしい男達が居たからだ。


「あっ、ここにも列強人が居やがったぞ!」


「本当だ!ぶっ殺せっ!」


向こうも上野達を見つけた様でそう口々に言う。当の上野達は混乱していた。


「な、何故、暴徒がここにいるんだよ?」


(まさか・・・突破されたのか!?じゃあ、既に軍曹達は・・・)


1階の同僚達は全滅した。そう最悪な結末に辿り着いた彼等は、混乱から一転、激しい怒りに身を震わせた。


「くたばれ列強人っ!」


そう唾を吐きながら階段を駆け上がる暴徒を、隣の同僚が発砲する。


「佐原っ!」


「ふざけんなよ!!よくも俺達の同僚をっ!」


佐原と呼ばれた同僚は、小銃を構えて階段にいた暴徒達を一掃する。それに暴徒達は慌てて逃げる。


「ひぃえっ!ここだっ!ここに生き残りがいるぞ!!速く来てくれ!」


「ま、待ってくれぇ!撃つなっ!ひいぃ!!」


「待ちやがれっ!」


弾が切れるまで発砲する佐原を慌てて止める。


「待てっ!落ち着くんだ!」


「落ち着けだと!?お前も考えたら分かるだろ!?ここに暴徒が居るってことは既に軍曹達は殺されてるってことだぞ!?あの糞野郎共っ!糞糞っ!」


佐原は空になった弾倉を投げ捨てる。すると、階段下からゾロゾロと暴徒達が出てきた。


「居たぞ!列強人だ!」「殺せ殺せっ!」


「ま、不味い!一旦下がるぞ!」


余りの数の暴徒達を見て不利を悟った上野達は撤退した。彼の頭の中は泣きたい気持ちで一杯だった。


(本当にみんな死んだのか!?なんなんだよ!どうしてこんな事になったんだよ!!)







突破した職員エリアのとある部屋で数人のバフマン人が部屋を荒らしていた。


彼等の目的は同じだ。金目の物を我が物にしようと荒らしているのだ。


そんな荒らしていた青年の1人が興奮気味に友達でもある別の仲間に声をかける。


「外も凄かったけど、中はもっとすげぇな!」


彼は両手に壁に立て掛けられていた絵画を持っていた。


「確かにそうだが・・・お前はなんで絵を持ってるんだ?」


「なんでって、売るために決まってるだろ?」


「お前はバカか?絵ってのはな、高名な絵師が描いてるから高く売れるんだぞ?そんな何処の誰が描いたのか分からん奴をしかも、列強の絵なんて、誰が買い取るんだよ?」


「な、ならお前は何を集めてるんだよ?」


バカにされた青年はムッとして仲間に聞き返す。聞かれた彼は持っている物の1つを青年に投げ渡す。


「これはなんだよ?」


青年が受け取った物は手のひらサイズの棒状の何かだった。


「コイツは万年筆って奴だ。言わば文字を書く道具だ。俺達の使ってる物とは全く違うだろ?どんな時でも書けるらしい。しかも滅多にインクが切れないらしいんだ。」


「確かに凄いけど・・・こんなのが売れるのか?」


「売れるんだよ。それも高値でだ。」


「なんで?」


そんな青年の質問に彼は得意気に説明をした。


「貴族の坊っちゃま連中の多くが任官試験を受けるのは知ってるよな?」


「それは知ってるけど、それと何の関係があるんだよ?」


「勘が鈍いなぁ・・・お偉方は自分の息子達にそういった列強の文房具を持たせるんだよ。普通に便利だし、縁起物としても評判なんだ。これを業者に持っていけば喜んで買い取ってくれるぜ。」


彼はそう言って部屋の机の上に置いてある文房具を根こそぎかき集める。


「ふぅん・・・おい、お前は何を集めてるんだ?」


青年は今度は別の仲間に聞いた。さっきの説明はどうやらピンと来てないようだ。


「俺か?俺は・・・兎に角、色んな物を集めてる。」


聞かれた男は、持ってきた袋を広げて中身を青年達に見せた。見れば確かに多種多様の物が雑に入れられていた。


時計にカップ、ハサミや本、中には加湿器まで入っていた。青年はそんな中からある物を取り出して、男に聞いた。


「ん?これは一体なんだ?」


青年が取り出した物は、黒いノートパソコンだった。生まれて初めて見る黒い物体に青年は興味津々だ。


本来ならば大使館職員によって真っ先に処理される筈の物だが、漏れてしまったのだろう。それを運良く見つけた男は、困惑気味に答える。


「悪いけど知らん。なんか机の引き出しに大切そうに入ってたから入れただけだ。」


「じゃあどうすんだよ?これ。」


「知り合いに列強の文化に詳しい奴がいる。ソイツに見て貰うよ。運が良ければ飯代にはなるだろ。」


「はぁ・・・適当だな。」


「お前もそうだろうが。」


男はそう言うと、まだ金目の物がないか探す作業に戻った。その様子を見て青年は1つ提案をした。


「なぁ、どうせだったら上の階に行こうぜ。上にはこの大使館のお偉方の部屋もあるだろ?ソコなら確実に良いのがあるだろ?」


「お前は馬鹿か?」


最初の彼がそう、呆れた表情をして言った。馬鹿と言われた事に苛立ちを覚えた青年が突っ掛かる。


「な、なんで馬鹿って言われなかきゃいけないんだよ!?」


「あのなぁ・・・上にはまだニホン兵が居るに決まってるだろ。この音が聞こえないのか?」


彼がそう言ったタイミングで、上の階から嫌と言う程に聞いた銃撃音が聞こえた。恐らく上に向かった仲間と鉢合わせしたのだろう。


「しかも屋上の連中だってまだ生きてるに決まってる。他の連中が倒してくれるまで待つのが賢いさ。」


「で、でも、その時には他の連中に捕られてるじゃないか!」


「命あっての物種だ。死んだら元も子もないだろ?」


彼はそう言って壁に取り付けられている装飾の施された壁時計を外そうと手を伸ばした。しかし、そこである異変に気付く。


「・・・?」


(何だ?・・・振動してるのか?)


彼が気付いた異変、それは壁時計が微かだが細かく揺れているのだ。いや、壁時計だけじゃない。この部屋にある小物類も僅かにだが小さく振動しているのだ。


どうやら他の仲間もこの異変に気付いたらしい。困惑の声を上げた。


「何だ?地震なのか?ずいぶん珍しいな・・・滅多に地震なんて来ないのに。」


「いや、地震にしては長過ぎないか?」


バフマン王国付近にはプレートが重なってる場所は無く、地震なぞ滅多に来ない。来るとすれば遥か遠方の巨大地震でその余震が来る程度なので、すぐに収まる筈だった。


だからこそこれは明らかに異常だ。ここまで一定の振動で、しかもこんなに長い事なんて一度もなかった。


(しかも徐々に振動が強くなってる?)


彼は振動が少しずつ強くなっていることにも気付いた。更に、聞いたこともない音までが聞こえてきたのだ。


・・・バラバラバラバラッ


「な、何だ!?この音は!?」


ここまで来て、振動以外にも音が聞こえてきた事に周りも気付き出した。そこへ、この音は外から聞こえて来ていると察する。


「外からだっ!!」


彼は飛ぶような勢いで外の景色が見える窓へ駆け寄る。青年達も続くように窓を見る。


青年達の吐息が窓を曇らせる程に近づいて外を凝視する彼等。


「何処からだ?何処から聞こえるんだ?」


炎が空を照らしているとは言えども、夜である為に見えにくく、キョロキョロと落ち着き無く辺りを見渡す青年が一番最初になにかを発見した。


「あっ!あそこに何か飛んでるぞ!?」


「ど、何処だ!?何処にいる!?」


男が青年の言葉に反応して慌てて聞く。青年は指で方向を指して教えた。


「あそこだよっ!あの塔の上辺りにいる!」


その方向を見ると確かに何かがいた。見たこともない何かが大きな音を立てながら何体も飛んでいた。


「な、何だあれは!?竜なのか!?」


(いいや、あれは生物じゃない!もっと違う何かだっ!)


炎が放つ光のお陰で見える、その何かは、大きな黒い塊で、その両脇の上部に何か細い板の様な物を高速で回転していた。


それを回すことで何の意味があるのかは分からないが、それが回転していることでこの音が鳴っているのだと分かった。


彼等は見たことも無い存在に、目を食い入るように窓越しから見つめる。


「すげぇ・・・あんなのも居るのかぁ。世界は広いんだなぁ・・・」


青年の無邪気な言葉を聞いて周りも同意する。


それが・・・彼等にとって最も恐れるべき存在が乗っていることも知らずに・・・








大使館の敷地内である庭園エリアでは、屋上からの狙撃に気を付けながら略奪行為をしている暴徒達がいた。


屋上からの狙撃は確かに恐ろしいが、既に敷地内には数え切れない程の同胞がいるので、その中で自分が狙われないことを神に祈り、金目の物を探している者が大半だった。


ソウバリンにある酒場に設けられた賭場でその日暮らしをしている若き青年サン・テリョンは、庭園エリア付近に駐車されていた自動車の窓を割っていた。


所謂、車両荒らしをしており、車内に置かれていた御守りや発煙筒等を根こそぎ盗んでいた。


「へっへっへ・・・見たことの無い物ばかりだけど、列強国品だと言えば高く売れるだろう!」


既に何両もの車両を荒らしており、テリョンの懐は盗品で一杯だった。その中でも彼のお気に入りを取り出して思わず顔がニヤける。


「はぇ・・・列強ともなると武器も軽いもんなんだなぁ。しかもこっちは装飾されてるから高い値がつくぜ。」


テリョンは、車内に隠すように置かれていた警棒と剣を手に持っていた。


恐らくは、職員の1人が護身用として持っていた警棒と、別の国で購入していた剣を車に置きっぱなしにしていたのだろう。そこへ彼が偶然、見つけてそれを盗んだようだ。


自分の運の良さに、彼は機嫌を良くする。まぁ周りを見れば彼の様に収穫品に喜んでいる者は大勢いるのだが。


(これ等をヨスブンのおっさんの所に持っていけば下手すれば金貨になって帰ってくるかも知れねぇな。うひょおぉ・・・今日は最高にツイてるぜ!)


「よぉしっ!こうなったらもっと集めて大金持ちに・・・うん?・・・何だありゃぁ?」


テリョンはそこで、正面の上空から何かがこちらに向かって飛んでる飛行物体の群れを見つけた。冷静になってみるとそう言えば変な音が聞こえていたことにも遅れて気付く。


周りもテリョンと同じ様で、みんな手を止めてあの謎の飛行物体を見ていた。


いま思えばあれを見た時点で全速力で逃げていれば助かっていたかも知れないのに・・・


「お、おい、近くに降りるぞ!」


その『飛行物体』の群れの一体が、大使館の敷地内の開けた場所にゆっくりと降り立った。


ソレ、は正面がどっちかは分からないがゆっくりと回転しながらお尻の方をこちら側に向けて地面へと着地した。


「何なんだありゃ?」


見たことの無い存在に誰かが代表して疑問の声をあげるが、当然ながら誰も答えれない。あれが生物なのかも分からないのだから。


「ど、どうするよ?」


「お、俺は近くにいくぜ!あの中身は黄金の山かも知れねぇんだ!」


「お、俺もいくぜ!今日は運が良い気がするんだ!敵だったら全員で倒しちまえば良いんだ!冒険者だって来てるんだ!」


1人がそう言うと次々と周りの連中も同調するように言い出し、終いには数十人もの仲間があの『飛行物体』の元へ近付く。


テリョンも当然ながら付いていく。もし、あれが危険なものであろうとも、こんだけの人数がいるんだ、どうにでもなるだろう。


(それに・・・もし本当にあれが宝を運んでいたら死んでも後悔しちまう!)


テリョンは、そう焦りの気持ちもあり、全速力で、ソレ、の元まで走る。


そして、ソレ、の元まであと20メートルの距離まで近付くとそこで、立ち止まる。謎の、ソレ、を間近で見えたことにより、その全容を知ることが出来たからだ。


金属の様な光の反射をし、ゴツゴツと生物とはとても思えない凹凸のある姿を見てテリョンは1つの答えに辿り着いた。


(分かったっ!あれは乗り物だ!クルマと同じように何かを運ぶ為の乗り物なんだ!)


だとすればツイてる。あれの操縦者を殺せば、クルマの様に金目の物が手に入る筈だ。しかもあれはクルマとは比較にならない程に大きい・・・


周りも同じ答えに行き着いたのだろう、互いに頷き合い、各々の武器を構えてジリジリと、ソレ、に近付き出す。


「大物は俺が頂くっ!」

「抜け駆けすんな、平等で分け合うんだ!」

「ははっ!何が入ってんのかな!?やべぇ・・・興奮して腕が震える・・・」


周りがそう口々に話していると突然、あのお尻の部分から板が外れてゆっくりと下へ落ちていく。


(動いたっ!)


テリョン達はすぐに武器を構えていつでも動けるように準備をする。


そして遂にあの板が地面に付いた時、ソレ、の内部を見ることが出来た。しかしそれを見てテリョン達は呆然としてしまう。


「え?」


ソレ、の内部から見えたのは宝でも何でも無かったのだ。


人型の大柄で真っ黒ないや、漆黒の姿をし、頭部の目の部分らしき場所には真っ赤な光を放つ不気味な光がテリョン達を注視していた。


そして口の部分には、何故か管の様な物が伸びており、その管は背中の四角い箱の様な物と繋がっていた。


余りにも予想外で不気味な何かが自分達を見つめていると分かった時、テリョン達は困惑した。


あれは何だ? 宝じゃないのか? 敵なのか? だとしたらあれは人間か? 魔物じゃないのか?


そう思い思いの感想を述べていると、あの不気味な人型の内の一体が黒い棒の様な物を此方へと向けて来た。


その棒の方向には、テリョンがいた。彼は困惑気味に話し掛ける。


「え、えっと・・・誰ですk」


誰ですか? そう聞こうと思ったテリョンの頭はグチャグチャに吹き飛んだ。


(あ、れ?・・・なんで?・・・)


その瞬間、1人の若きバフマン人がこの世から永遠の別れを告げた。


「・・・へ?」


いきなり横にいた青年の頭が吹き飛んだ事に、その事実を受け入れられない男は思わずそんな声を上げた。


そしてゆっくりと、あの不気味な人型の方を振り向いた。


目が合った気がした。だからかは分からないが、あの漆黒の人型は、飛行物体の内側の壁に掛けてあった物を自分達に見えるように掲げて、彼等は全てを察した。いや、察してしまったのだ。


あの漆黒の人型が自分達に見せた物、それは旗だ、そして自分達はその旗を良く知っている。


白地の布に、その真ん中には太陽の様に真っ赤な丸が中央に描かれている。それは自分達がいま侵入している国の国旗だ。この敷地内に沢山置かれている日本国旗だ。


あれは敵だ。 日本兵だ。それも恐ろしく強い怪物を引き連れている。 逃げなきゃ 逃げなきゃ!


「あっ、あ・・・」


逃げようとするが、突然の急展開に、そして余りの恐怖に足が動かない。


それをあの怪物達は見逃してくれなかった。


『作戦を開始する。』


遠いけど、奴等からそんな声が聞こえた気がした。なんだ以外と人の声と大差ないじゃないか。


男は、ひきつった表情で、今の自分の全力での笑顔をそんな彼等に向けるが、それは大きな鉛の塊を持って返礼とされた。


2人目が瞬殺された時、周りにいた者達は、ようやく生存本能を刺激されて、逃げ出す事に成功した。まぁ、ここから逃げ切れるかどうかは神のみぞ知るだが。


「ひ、ひいぃぃぃ!!!」


「怪物だぁ!!ニホンが怪物を連れてきたぞおぉ!!」


「に、逃げろおぉ!!殺されるぞ!!」


先ほどまでの略奪気分から一転、今度は自分達が奪われる存在に成ったことを悟り脱兎の如く逃げる彼等の背中を見て、漆黒の兵士達は動く。


「これよりバフマン王国大使館にいる日本人救出を行う・・・この作戦に支障を及ぼす者がいれば実力を持って排除することを特戦闘法第1条第7項の元に許可する。」


隊長らしき者がそう呟くと、他の漆黒の兵士達は、片足を強く地面に踏み付ける事で返事とした。


彼等は動き出す。自分達の同胞であり、守るべき者達の為に戦うことを正義とする彼等が。




彼等の名は『特別急襲制圧部隊』


火力を持って制圧することを目的とされた特殊部隊がいま動く。


「・・・いま、行くぞ。」

如何でしたかな?


ようやく特急部隊が到着しました・・・ここから更に盛り上がるように頑張ります!


また次回、お会いしましょう!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに特別急襲制圧部隊が到着しましたか! [気になる点] パソコンを取り残してしまうとは失態ですね、最もパスワードがかかっている筈ですので日本や地球連盟のハッカーに見せられない限り情報漏洩…
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