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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第61話 地獄絵図

お待たせしました!

第61話 地獄絵図



受付エリアを突破され、暴徒達が職員エリアの扉まで迫ってきた報告を受けた井上軍曹は、手に持っていた無線機を床に叩き付けようとしたが、すんでの所で抑えて、部下に指示を出す。


「民間人の誘導を急がせろ。誘導員から何人か引っこ抜いて1階の職員エリアの防衛ラインに向かわせろ。それから2棟の連中にも機関銃を持って屋上に向かわせろ。こうなったら上から撃ちまくって奴等の戦意を失わせるんだ。」  


「はっ!」


次々と指示を出し終えた井上は、この3階の廊下の窓から外の状況を確認する。


「ウジャウジャいやがるな。ゴキブリ共め。」


外の敷地内は完全に制圧されている。敷地内の庭園エリアも次々と入ってくる暴徒達に好き放題荒らされていく光景が見えた。


「いいな!また突破を許されたら終わりだと思え!奴等は職員エリアでなんとしてでも止めろ!」


この場にいた隊員達にそう激を飛ばす。その後、あることを心配して呟いた。


「受付の連中は全滅しちまったか・・・糞。」






自動車によって突破口を開けて受付エリアまでの侵入に成功したガソン達、暴徒は、次のエリアへと入れる扉をどこからか持ってきた太い丸太を数人掛かりで持って破綻槌の様に何度も扉にぶつけていた。


「いいか!もう一度だ!いくぞっ!」


ガソンが声をあげて仲間に指示を出す。合図を出すと丸太を持った仲間達が一斉に動く。


「せ~のっ!」


その声と同時に丸太を後ろに振って、そのまま勢いを乗せて扉に思い切り打ち付ける。


ドンッという重い音を辺りに響き渡らせるが、肝心の扉はビクともしていなかった。


「駄目か・・・」


ガソンは余りの手応えの無さにそう反応した。セラミックやニッケル等の複数の素材を特殊加工して製造された複合装甲板は、その効果を今まさに発揮していた。


「なんて頑丈な扉なんだ・・・」


丸太を持っていた仲間が丸太を置いてその場に座り込んだ。さっきから何度も一連の行為をやっていたが、予想以上の堅さに気が重くなる。


「えぇいっ!交代して打ち続けるんだ!いつかは必ず破れる!そうしたら、今度こそ連中を倒せるんだ!へこたれるな!」


そのガソンの言葉に勇気づいたのか、周りで見学していた男達が丸太を持ち打ち付けた。


その様子を壊れた車の椅子に座って見ていたバサソンは、この場に似合わない、のんびりとした反応をした。


「全く・・・オッサン達も健気なもんだな。こりゃあもう少し時間が掛かりそうだ。」


そう呟くバサソンを他所に正面玄関を破った当の本人であるノストは、口笛を吹きながら上機嫌に何かを探っていた。


「ふんふふ~ん・・・おっ、こいつは使えそうだな。へっへへ貰っとくぜ。死人には必要ないだろ?」


ノストは足元に倒れていた国防隊員の死体から使えそうな装備や貴重品を奪っていた。それを見たバサソンは呆れたように言う。


「お前も大概だな。いったい何だその姿は?」


バサソンは自身の親友であるノストの姿を見て思わずそう呟いた。それを聞いた彼は、上機嫌に振り替えって親友に見せびらかすように動く。


「へへへ・・・カッコいいだろ?コイツら結構良い物を持ってるんだぜ。」


今のノストは、倒れている隊員の防弾装備を剥ぎ取ってそれを着用していたのだ。だが、複雑な装備なので、所々、よれていたり、ある筈の物が無かったりと知ってる者から見れば多少、不格好な様であった。


「あとは、こいつの頭の奴を付ければ、ほらっ!これで俺も列強国の兵隊の仲間入りだぜ!」


ノストはそう言って最後のヘルメットを死体から乱暴に剥ぎ取り、装着した。だが、やはり少し違和感が拭えない。


それを知らずか、ノストは非常に嬉しそうに周り、自分の身体中をベタベタと触っていた。


「ニホンの兵士ってのは、結構カッコいい装備なんだな!まるで少し前の騎士様みたいだぜ!」


「・・・仲間に敵だと勘違いされて殺されるなよ?まぁ、そんなヨレヨレの姿じゃあ間違えられることは無いな。」


「へっ、嫉妬は見苦しいぜ・・・けどこれの使い方が分からないんだよなぁ。何に使うんだ?」


ノストはそう言って腰につけられていた黒く小さな金属の塊を触る。


それは手榴弾であり、素人が触るには余りにも危険過ぎる代物だ。


それも知る由もない彼等は、相変わらずゆったりとしていた。


「そんなに知りたいなら、向こうの奴に聞けばいいんじゃないか?」


「奴?」


バサソンが、ある方向に顔を向けてクイっと顎を動かす。その方向を見ると何人かの仲間が群がっていた。


「あそこで何やってるんだ?」


「ここからじゃあ見えないけど、ここの兵士の生き残りがいたみたいでな。そいつを痛め付けてる。」


「おいおいっ!!そんな大事なことはもっと速く言えよ!?貴重な情報源なのにぃっ!」


ノストはそう言うと慌ててそっちへ向かった。ちゃんと車のボンネットに置いてあった20式自動小銃を忘れずに持っていった。


「やれやれ・・・連中なんて生かしておく意味なんて無いと思うんだけどなぁ。」


バサソンはそんな親友の後ろ姿を見てトボトボと歩いた。自分も生き残りのニホン人を一目見ようと。





唯一の生き残りである班長は、次々と入ってきた暴徒達に殴られ蹴られたりとやられ放題であった。だが、辛うじて死ぬことはなく、じっくりと痛み続けられていた。


「この列強人めっ!思い知れっ!」


「お前達がこの国に来たから俺達はあんな苦しみを負ったんだ!その苦痛をお前も味わえ!」


そう好き放題言われ、今にでも楽になりたいと思ったタイミングでそれを静止する者が現れた。


「まぁ、待て待て待て・・・君達の怒りも最もだが、殺すのは待ってくれないか?」


ノストだった。彼は班長の前まで割って、仲間達を止める。


「なんだい、あんたは?こいつを庇うってのか!」


「それに何だその姿はっ!?コイツらの仲間にでもなりたいってのか!」


「違う違う。誤解だよ。俺はコイツに聞きたいことがあるんだよ。」


ノストはそう言うと周りの反応を無視して班長の方へ振り向き、こう聞いた。


「なぁあんた、この銃の使い方を知ってるだろ?教えてくれよ。それと、この鎧って着方これで合ってるかな?」


そう楽しそうに聞いてきた若者を見て班長は虫酸が走った。自分の部下の装備を奪い取り、あまつさえその使い方を聞いてきたコイツに殺意が湧き出る。


「・・・ソレを元あった場所に返せ。ソレはお前らには不釣り合いだ。」


そんな言葉にノストは、頭をポリポリと掻いた。


「あ~・・・そう言わないでくれよぉ。俺は有効活用してるんだぜ?だって死人にはこんな上等な物は不要じゃないか・・・うぉ!?」


「貴様っ!」


その言い種に班長は痛む体を無視してノストの襟を掴む。慌てて周りの仲間が班長の頭を棒で叩いて離れさせる。


「下がっとれ若造!」


「こいつ・・・まだそんな力が残ってたか!」


「いや待ってくれって!マジでまだまだ聞きたいことはあるんだってば!・・・あ、そうだ!」


ノストは何かを思い出したかの様に腰につけてあった物を取り出して班長に見せる。


「じ、じゃあ、これは何だ?これはどうやって使う物なんだ?」


班長は見せられた手榴弾を見て、目を見開く。そして意を決したように口を開いた。


「・・・そこのピンを抜いてレバーを外してみろ。」


「おぉ!教えてくれるのか!えっと何々、このピン?を外すんだな・・・」


ノストが間抜けにも手榴弾のピンを外そうとしているのを見た班長は覚悟を決めたように目を閉じる。


そしてあと少しでピンが抜かれると思った瞬間、待ったを掛ける声がした。


「待ちなさい!」


「おぇ?」


静止の声に思わず間抜けな声を出したノストは、その声の方へ振り返る。


その先には、女性が立っていた。それも複数人がそこには居た。


壮年の女性や、妙齢の女性、更にはまだ成人になったばかりの子やまだ子供まで居た。


「おっ美人揃いだ。てか、誰ですか?」


ノストがそう反応するが、漸く前にまで入れたバサソンが慌ててノストの頭を叩く。


「痛っ!?なにすんだよ!?」


「馬鹿っ!あちらは貴族の方々だ!」


「うぇ!?マジで!?」


その言葉に周りも驚いた様な表情をした。確かに良く見ると身に付けている服装はどれも平民が着る物ではなく、特権階級が身に付ける物だ。


しかもその服には特権階級の者のみが許される家紋をつけており、バフマンの者ならば貴族だと分かる格好をしていた。


しかし、貴族がまさか、こんな危険な場所にまで来ていることに驚く。


「な、なんでこんな場所に・・・」


すると女性達の代表格である妙齢の女性が前に出て班長の前にまで歩く。隣で列強の真似事をしているノストをチラリと見ると、軽蔑の目を向けた。そして班長を見下ろす。


新たな登場に班長は、その女性を見上げる、助けてくれるかもしれないと。だが、彼女の表情を見て微かに抱いていた希望の光を閉じる。どう見ても好意的な表情では無かったからだ。


その女性は、暫く班長を見た後、周りの人間に聞こえるように声を出した。


「私達は、列強人によって自身の夫もしくは父、兄、息子を失った者達の集いである。私達がこうして列強の大使館まで赴いたのは、無惨にも家族を殺した列強に報いるため。」


女性はそう言い、懐から装飾の施された刃物を取り出した。恐らくその刃物で班長の首をかっ切る積もりなのだろう。


「長きに渡り待ち望んだ日が遂に来たのだ。この列強人は、私達の手で葬り去る。お前達は下がっておれ。」


そんな貴族の女性からの言葉に周りからは、不満げな反応を見せた。


「そいつは、納得いきませんぜ!俺達だって家族をコイツらに殺されたんだ!貴族だからってそれを横から奪い取るのは見過ごせねぇ!」


「そうだっ!コイツは俺達が殺す!貴族様は下がってやがれ!」


そう周りの人間は口々に言い出す。それにノストも便乗して口を開く。


「ちょ、ちょっと待ってくださいってば!あのねぇ!この列強人から聞きたいことなんて腐る程あるんですよ!せめてそれを聞いてからでいいですかね?」


そう言うや否や、横に居た老人から頭を叩かれる。


「いてっ!?」


「お前は黙っとれ!」


叩かれた頭を痛そうにさすり、バサソンに文句を言った。


「お前も少しは俺を助けろよ!」


「なんで俺が?俺だってアイツらと同意見なんだけど・・・」


「かぁ~分かってねぇな。あのなぁ?こんな機会滅多に来ないんだぞ!?せっかく情報を持つ奴が目の前に居るのに死んだら元も子もないだろ?」


「そんな大げさな・・・」


「大げさなもんか、現にコイツらの持ってる物なんて殆ど謎の多い物ばかりだ。これなんて、一体何に使うのかさっぱりだぜ。」


ノストはそう言って懐から手榴弾とは別の薄い板を取り出した。


彼が取り出したのは、死体から装備を剥ぎ取るさいに、一緒に見つけたスマホであった。そのスマホを手に取り、興味深そうに触る。


「この横に付いてる突起物を押すと光るのまでは分かったんたけどなぁ。そこからどうすればいいのかがさっぱりだ。」


「おいおい・・・本当に根こそぎ持ってきたんだな。」


「当たり前だろ?あとはアイツらの通貨っぽい物が入った入れ物もあるぜ。列強っていうのは本当に紙の金を使ってるんだな。」


ノストは更に懐から隊員から奪った財布を取り出して中身をバサソンに見えるように取り出した。


「何を今更・・・連中が自分達の貨幣を使ってるのを何度も見ただろ。」


バサソンはそう言った。奴等は、自国の通貨を使えるよう内容を条約に入れていた為、列強の通貨に紙幣が使われているのは、割と知られている。


「まぁそう言うなよ。へへへっ。これを見てみな?」


ノストは財布から1枚の紙を取り出してバサソンに見せた。それを見たバサソンはこう言った。


「写真か・・・」


バサソンが見たものは、今は死体となった隊員の家族写真であった。写真には1人の男と同年代の女性にまだ幼い女の子が写っていた。見た限り、隊員と彼の妻に娘であろう。


「ただの写真じゃないだろ?こんなに精密に映ってるんだぞ?

 俺達が最近になって使う物とは明らかに違う。列強ってのは何から何まで俺達とは比べ物にならない位に良い物を使ってるんだ。

下手したらこんな薄い板もとんでもない宝なのかも知れないんだぞ?」


ノストはそう言ってスマホを軽く叩いたりしてどうにか使い方を見つけようとする。だが、そうしていると職員エリアの突破を試みようとしていたガソンが怒り心頭の様子で声を掛けてきた。


「おいっ!お前等、何やってるんだ!?こんな所で無駄話してねぇで少しは手伝えよ!!」


ガソンは数人の仲間を連れて言い争いをしていた彼等にそう言う。続けて何かを言おうとしたが、倒れている班長の姿を見て目を見開く。


「っ!?お、お前等っ!コイツが居るなら、速く言えよっ!!おいっ!コイツを連れて行くぞ!」


ガソンの言葉に後ろに付いてきていた仲間が班長を乱暴に連れて行く。ノストが止めるが、そのまま職員エリアの扉の前まで連れ出すとガソンは荒々しい声を出して職員エリアの向こう側にいる日本人へ伝える。


「おいっ!聞こえるか腰抜けの列強人共っ!お前等の仲間がここに居るぞ!扉を開けねぇとこいつをなぶり殺す!」


ガソンはそう言って、班長を膝を付かせると、手に持っていた棒で班長の背中を思い切り何度も叩き付ける。


「ぐうっ!」


既に先ほどから何度も痛め付けられていた彼は録に抵抗も出来ずにいた。そしてその様子を扉の上部に取り付けられているカメラで確認していた職員エリア側の隊員は、ただ見ることしか出来なかった。


そう、この扉の1枚を隔てていた先には、これ以上の侵入を防ごうと、防衛線を張っていた国防隊員19名が見ていたのだ。


彼等は、今も仲間が何も出来ずに痛め付けられている様子を見せ続けられていた。


その内の1人が我慢の限界とばかりに上官に提言する。


「伍長っ!早島さんが・・・何とかあの人を助けましよう!」


伍長と呼ばれた隊員、田辺伍長は、部下からの意見を却下した。


「無理だ。今、扉を開ければ連中はここぞとばかりに雪崩れ込んで来るぞ。これ以上、奴等に入られてみろ?未だに避難中の民間人数百人を危険に晒すことになる。今は待機だ。」


「しかしっ!」


尚も引き下がらない彼を見て田辺伍長は、拳を握り締めてこう言った。


「俺だって助けたいさ。だが、今はまだ駄目だ。耐えるんだ。救援が来るまで何としてでもここを守りきらねばならない。ここを突破されれば、このフロアが占領されただけの話では済まない。ここから、地下へでも上の階にでも容易く侵入されことを忘れるな。」


田辺伍長はそう言って、部下を下がらせた。彼はまだ納得していないようだが、それを押し殺して元の配置に戻り、銃を握り締めた。


それを横目で見た田辺伍長は、カメラ画面で、未だに班長を棒で叩き続ける男を画面越しで睨む。


「・・・コイツは後で必ず殺してやるっ。」


田辺はそう決意して、扉の向こう側にいる暴徒達をここから先は一歩も通しはしまいと準備をする。







あれから一向に扉が開く気配がしない様子を感じ取ってガソンは、苛立ちを隠そうともせずに荒々しく班長を蹴った。


「くそったれ!列強の腑抜け共めっ!」


落ち着きのないガソンをノストが怒りの声をあげた。


「おいっ!オッサン!あんた何をしてくれてるんだ!?俺はソイツに用があるんだ!殺しやがったら容赦しねぇぞ!?」


「あぁ?何だその格好は!?お前、列強の手下のつもりか!」


ノストはそこで自分の今の姿を思い出す。そこへ先ほどの貴族の女性が声を出した。


「待て、その者は、私達が引き取る。私達は、その為にここに来たのだ。渡して貰うぞ。それと、そこのお前の列強の装備も引き渡して貰う。それは平民のお前達には扱えないものであろう。」


「ふざけるな!貴族様が横からしゃしゃりでるんじゃねぇ!あんたら貴族の時代は終わってるんだ!失せろ!」


「そうだそうだ!大体、この装備は俺が見つけたんだ!あげる筈がねぇだろ!」


まさか平民に反発されるとは思わなかった貴族の女性達は、心から驚いた表情をすると、今度は怒りに満ちた表情をする。


「な、お前達、なんと無礼なっ!」


「平民風情が私達、貴族に敬語も使わないどころかっ、拒むなど、どういう積もりか!」


「私達貴族を何だ思っておる!私の夫は禁近衛庁の副調都長であるぞ!?そのような無礼極まりないことをするなら全員、牢に入れることも出来るのだぞ!」


貴族の女性達はそう口々に怒りのあまり大声で平民達を罵倒するが、この場の殆どが平民を占める彼等はそれ以上の声音をとって反撃する。


「うるせぇ!元はと言えば、てめぇら貴族達が列強にすり寄ったからこうなったんだろうが!」


「今まで偉そうにしやがっていざとなったら真っ先に保身に走りやがって!」


今度は仲間同士の言い争いになるのを見たバサソンは呆れた表情で呟く。


「どうしてこうなった?」


そう呟いたバサソンだが、ふとノストが周りに居ないことに気付いた。辺りをキョロキョロと見渡すバサソンは、最初の自動車の所にノストが居るのを見つけると彼のやっていた行動に疑問を浮かべる。


「あいつ・・・何してんだ?」


ノストはもう走れないであろう自動車の運転席に再度座り、また何かを弄っていた。まさか、また動かそうとしているのか。


慌ててノストに声を掛ける。良く深い自身の親友に少しの呆れを抱いて。


「お、おいおい・・・お前、まさかまだ諦めて無かったのか?もうこのクルマは動かないだろ?」


自分達が乗った自動車の前面は大きく凹み、車窓も全てが粉々になっており、扉もひしゃげており、とても動くとは思えなかった。


なんとも諦めの悪い男だ、と思ったが、返ってきた返答は彼の思っていた内容とは少し違っていた。


「あぁ!もうあの話の通じない奴等なんて放っといて俺達はこれを持って帰るぞ。どうせあの扉はもう破れないさっ!」


ノストはそう言いながら持っていた鍵を射し込む。


「だからってなぁ・・・そのクルマはもう動かないだろ?諦めろって。」


バサソンがそう言った瞬間、ノストは射し込んだ鍵を周した。するとエンジンが掛かり、ノスト達に聞こえるようにエンジン音が辺りに響く。


「うおぉ!?」


「はっ!?マジかよ!?動くのかよっ!!」


ノストは喜びの反応を、バサソンは自動車の頑丈さに驚愕の反応を見せた。


「は、ははははっ!!す、すげぇ!動いたぜ!生きてて良かったぜ俺の相棒ぅ!」


「嘘だろ・・・こんな状態でも動くのかよ。」


「ひゃはははっ!バサソンも速く乗れ!俺達やっぱツイてるぜ!」


目の前にあるハンドルを抱き締めるように喜ぶノストは、バサソンに乗るように指示した。だが、後ろから声が掛かる。


「おいっ!まさか、その馬車まだ動くのか!?」


「げっ!ヤバッ!」


後ろから声を掛けてきたのは貴族達と言い争っていたガソンであった。あのエンジン音は、彼等の所まで届いていたようで、ノストの乗る自動車がまだ動くことが知られてしまった。


「バサソン!は、速く乗れ!」


「あ、あぁ!」


慌ててバサソンに乗るよう言うが、それよりも先にガソン達がそのクルマを包囲する方が速かった。


「うげぇっ!最悪だ・・・」


「おいっ!この馬車はまだ動くんだな!?そうなんだろ!?」


運転席の割れた窓からガソンが顔を飛び出すようにノストに問いだたす。そこから次々と別の人がノストに質問責めをする。


「そなた・・・まさかこの奇怪な乗り物を乗りこなせれるのか!?」


「なんとっ!列強人しか操れないも思っていたが、我等でも扱えるというのか!」


「わ、私の父はこの鉄の悪魔に牽かれてもう歩けない体になったのよ!すぐに壊すべきです!」


「そうだ!そうだ!列強の持ってる物は全部壊すべきだ!」


「馬鹿野郎!こんな貴重な物を壊す馬鹿があるか!これを闇商人にでも渡せば大金が・・・」


包囲されガソンや貴族達に次々と詰め寄られるノストは諦めたように答えた。


「だあぁぁ!分かった分かった!こいつはまだ動くよ!たがこれは俺のもんだぞ!!」


「今はそんなことを言ってる場合か!?こいつを使ってさっきみたいに扉に突っ込めばあの扉は開くかも知れねぇだろ!?」


「はぁ!?あんたアホか!?んな馬鹿みたいな計画にこいつを使う筈ねぇだろ!!」


「なんだとコイツ!!」


ノストの言い分にガソンは胸ぐらを掴む。それを仲間が慌てて止める。


解放されたノストは苦しそうに首をさすり、こうガソン達に言った。


「ゴホッ!ゴホッ!・・・第一、俺達だってこいつの使い方をまだ完全に分かってないだよ。」


「さっきみたいに動かせばいいだろ!」


「だぁからっ!適当に弄りまくってたから!覚えてねぇっつの!一回で理解しろ!この糞頭野郎!」


「こ、この糞餓鬼っ・・・」


青筋を立てて眉毛をピクピク動かし、今にでもその手に持つ棒でノストを叩きかねないガソンを見て慌ててバサソンが口を開く。


「な、なら知ってる奴に聞けばいいんじゃないのか?」


「あぁ?」「へっ?」


バサソンの言葉に2人は同じような反応をするが、暫く考えると、今度はこの場にいた全員が同じタイミングで、後ろを振り返った。


その視線の先には、死にかけの班長が放置されていた。


「そ、ソイツをこっちに連れてくるんだ!!」


ガソンが慌てて、その場で未だに扉を破ろうとしていた数人の仲間に指示をする。


身体中が血塗れで、1人で立ち上がることもままならない程に、酷い状態の班長を見てバサソンは思わず呟いた。


「大丈夫か?」


「どっかのお間抜けさん方が考え無しに痛め付けるからだ。」


「う、うるさい!・・・おいっ!生きてるだろ?コイツの動かし方を知ってるな!?この餓鬼に分かるように説明しろ!」


ノスト達の会話に顔を真っ赤にするが、それを無視して、今にも死にそうな班長の頬を叩き、自動車の操作方法を聞く。


「・・・」


「おいっ!さっさと言えよ!?」


だが喋りそうにもない様子にガソンは周りにいた仲間が持っていたノコギリを奪い取り、班長の指を車のボンネットにのせて刃を指にあてる。


「え、ちょ・・・」


クルマの操作方法を聞けると目を輝かせていたノストは、ガソンの行動の意味を察して声を出そうとするが、一歩遅かった。


「さっさと言えって言ってるだろうが!?」


ガソンは容赦なくノコギリを引いて班長の指をゴリゴリと削る。


「ぐあぁぁぁぁ!?」


意識が朦朧としていた班長だが、突然の激痛に意識を覚醒されて苦痛の叫びをあげた。


そんな光景にノストは唖然とし、周りの人間も目を手で覆ったり、驚きの声をあげる。


貴族の女性達も同様で、まだ年若い少女達は叫び声をあげてる物もいた。


だが、そんな彼女等でも、班長に対する同情や哀れみの感情は無かった。多くの者が列強人への報復が出来たことによる興奮の高まりを感じていた。


激痛によって意識を取り戻した班長は、片手の指を何本か失った自身の手を見て、衝撃を受けた。


「はぁはぁ・・・糞っ」


「もう片方の手もそうなりたいか!?嫌ならコイツの動かし方を言え!」


班長の髪を掴み、ガソンは血と脂で生々しく汚れたノコギリを見せつけ、班長のであった指を踏みつけた。


「おえぇ・・・おっかねぇな。」


その光景にノストは、吐きそうな表情をする。これにはバサソンも耐えられなかった。


「まぁ、これで奴も言うしかないだろうな。しっかり覚えろよ?」


「分かってるって!むふふふ、コイツを自由に使いこなせればカッコいいだろうなぁ。」


「だいぶ傷付いてるんでるけどな。」


そう会話してる間に、班長は荒い呼吸をしながらガソンに何かを言おうとした。  


「お・・・お・・・」


「っ!ノストっ準備しろ!」  


それに全員が班長の説明を聞き逃しまいと耳に集中をした。しかし、彼の続く言葉は予想外のものであった。


「・・・」


「さっさと言え!」


「お・・・俺は・・・」


「あぁ?」


「俺は・・・自動二輪しか持ってねぇよ。残念だったな。」


「は?」


訳の分からない言葉にガソンは間抜けな声を出した。だが、情報を出すつもりがないのだと理解し、ガソンは顔を真っ赤にした。


「そうかよ・・・だったらその腕はいらねぇな!」


ガソンはそう言うと、今度は班長の腕を掴んでノコギリを当てる。流石に班長は抵抗しようとするが、それを周りの仲間が押さえる。


「っ!」


「あんたも馬鹿だな。さっさと言っちまえば良いものを。」


「みんなで押さえるんだ!」


暴徒達に完全に取り押さえられた班長はそのまま再度、腕をボンネットにのせられ、ガソンにノコギリで切られる。


「ぎゃああぁ!!?」


ゴリゴリと皮膚を裂かれ骨まで荒々しく切断された班長は、既に失くなった腕を乱雑に捨てられ、その場でうずくまる。


「おいっ!こうなったら俺達でコイツの動かし方を探すしかねぇ!皆で見つけるんだ!」


「お、おい待てよ!素人が勝手に触るな!」


「おめぇも素人だろが!」


ガソンの言葉に従い、周りの仲間達が車内へと入り、車をいじる。


それを片腕を奪われた班長は眺めることしか出来なかった。彼は、心のそこからこのまま車が動かないでくれと願った。


それを見た田辺伍長は、何とか救い出せないかと知恵を絞ろうとする。だが、無線機からある報告が届いた。


『こちら狙撃班、敷地内に冒険者らしき集団を視認した!これより狙撃を開始する。』


その無線内容に隊員達の間に一気に緊張が走る。遂に最も危険な冒険者が現れたかと。


そこから自身の上官である井上軍曹からの指示が無線機越しから伝わる。


『こちら井上、了解した。魔術師を優先して狙撃しろ。奴等は何をするか予測が難しい。確認次第、速やかに排除せよ。』


『こちら狙撃班、了解。』


そこで無線は終わった。







「こちら狙撃班、了解。」


隣の相棒から無線で会話しているのが聞こえる。坂田は、それを聞きながらスコープ越しにいる集団に目を凝らす。


「あれが・・・」


冒険者か、と呟き冷や汗を流す。坂田が見た先には、結界魔法らしき膜を張りながらゲートをくぐり抜ける冒険者風の集団がいた。


「いよいよお出ましかいな。」


「後ろには捕補庁の連中もいやがるぞ。あいつら、自分達の仕事を忘れてやがるのか。」


同僚の1人が冒険者達の後方で待機している集団を見てそう呟いた。


確かに後方を見てみると、本来ならば暴徒達を鎮圧する筈の彼等がその武器をこちら側に向けて待機しているのが見えた。


「役人連中だけでも数百は居るぞ・・・」


「なぁに、奴等は大して脅威じゃないさ。それよりも冒険者共だ。命令通り、魔術師から始末するぞ。」


「その通り。」


隣の同僚の言葉に坂田は同意を示して、引き金にかけていた指に力を込める。目標は先頭辺りに剣士達に囲まれている人間大程の長さの杖を持った魔術師だ。


「狙撃を開始する。」


その言葉と共に坂田は引き金を引き、7.62ミリ弾は正確に目標の魔術師の方へと飛来する。


初速868m/秒を誇る鉛の銃弾はそのまま、魔術師の頭部を破壊するかと思われたが、その手前数メートルにて冒険者達を囲んでいた蒼白い膜とぶつかり、銃弾は弾かれた。


「っ、防いだぞっ!」


相棒の観測手がそう声を上げた。そしてその次にこう無線で仲間に伝える。


「こちら狙撃班、冒険者らしき集団の中にミスリル相当の手練れがいる!」


日本も転移してから数年が経過した。そしてその中で冒険者とも交戦経験のあった日本は、冒険者に対しての知識もある程度把握している。


高威力を誇る狙撃銃をーしかもボルトアクション式がー防ぐ程の結界魔法を使える冒険者は少ない。少なくともミスリル級程の実力でないと、殆どの魔術師は、為す術なく結界を突破され絶命するであろう。


しかし今回それが防がれた。それ即ち、彼等の出した答えは一致する。


「何だって此方にミスリル級を連れてくるんだよっ!」


坂田は思わずそう悪態をついた。彼の目線の先では、先程の狙撃を受けて冒険者達が動き出しているのが見える。


それを見て坂田達も動く。7.62ミリ弾の弾薬ケースの隣に置いてあった別の弾薬ケースへと手を伸ばし、それを装填していく。


「弾種、変更。次、対結界貫通弾。」


対結界貫通弾・・・ムー国が採用している対魔術師に対する特殊な銃弾を元に日本が独自に開発していた試作弾だ。


少量の魔法石を鉛に混ぜて加工された物で、これを使用すれば頑丈な結界に対しても効果が見込めるものだ。


「余り使いたくなかったんだかな。」


誰かがそう呟く。坂田はそれに同意する。何故ならばこの弾丸には一つ欠点があるからだ。


坂田とは別の狙撃手がその弾丸を装填して狙撃を再開した。


少し見難いが、蒼白い弾道を描いていく様子を見た坂田はこう呟く。


「やはり目立つな。」


そう、この弾丸の欠点は発射した際に魔法特有の蒼白い光を出すことだ。これは狙撃手にとっては致命的な弱面であった。更にこれは魔力の塊なので、魔術師等からは余計に見つかり易くなる。


だが、それでも効果は確かな物で、今度は結界魔法を貫いてその内側にいた魔術師の胸部へ命中。


強力な運動エネルギーを得た弾丸は、内部の肋骨ごと砕き、複数の内臓をミンチにした後に弾丸は変形ながらも身体の中でようやく止まった。


仲間の1人が殺られ、結界魔法が破られたことを察知した彼等は動揺を見せるものの、その中の数人は動じることなく、素早い動きで物陰に隠れるよう集団に指示をする。


そして、それを見た坂田達は見逃さない。


「坂田、あの金模様の入った鎧の男がリーダー格だ。」


「分かってる。」


観測手からの言葉と共に、装填を終えていた坂田は仲間に指示をしていた重鎧の男に狙いを定めて引き金を引く。


だが、鎧の男はその瞬間、横へ飛ぶように移動して狙撃を回避した。


狙われた鎧の男は、蒼白い弾道を残す姿を見て重鎧を着た者とは思えない速さで物陰へと逃げた。その様子を見た坂田は怒りを露にする。


「糞っ!」


「避けられたか。だが、お陰でプレートは確認した。奴は間違いなくミスリル級の冒険者だ。奴を撃てば金星だぜ。」


相棒からの言葉に落ち着きを取り戻し、物陰に隠れた鎧の男へ意識を集中する。


「次は外さんぞ。」


坂田はそう決意を決めて、いつでも狙撃出来るよう引き金に指をかける。








「今のは危なかった・・・」


そう冷や汗を流して近くにあった破壊された噴水の陰に隠れたミスリル級冒険者、『暴れる騎士団』のリーダーである重騎士エルブリッドはホッと息をついた。


「エルブリッド!大丈夫か?」


彼と同様に物陰に隠れたチームメンバーの1人、リシキタが自身のリーダーの身を案じて声をかけた。エルブリッドはそれに応える。


「俺は大丈夫だ!それよりも場所はわかったか!?」


「勿論だ!あそこの屋根にいるぞ!」


リシキタはそう言うと、目の前の大きな建物の屋根の方向へ指を指した。彼は斥候であり、相手の気配を感知してその場所を見つけることを得意としていた。特に今回は蒼白い光と魔力を感じた為に余計に早く見つけれた。


「あそこから狙ったっていうの?随分と腕の良い兵隊さんがいるのね。」


リシキタの指差す方向を見たチームメンバーで唯一の女性である神官騎士、ネイティアはそう反応する。


「流石は列強だな。国の代表である大使を護衛する兵士が弱いわけがない。ネサームっ!そっちはどうだ?」


エルブリッドは最初に射殺された冒険者を診ていた若き魔術師ネサームに聞いた。


聞かれたネサームは、首を横に振り手遅れだということを伝える。


「無理っ。撃たれた場所を診たけど完全に即死してる。あんなの撃たれたら人溜まりもないよ!」


「お前の結界魔法でもその威力か・・・あの男から聞いてた話とはだいぶ違うな。」


「あのねぇ・・・僕は結界魔法は専門外なの!僕の得意魔法なにか知ってるでしょ!?」


「わかったわかった。だが、それでもこの場で一番の魔術師はお前なんだ。頼りにしてるぞ。」


簡単に言ってくれる・・・そう小声で呟く彼を無視してエルブリッドはこれからの作戦をこの場にいる冒険者達に告げる。


「いいかお前らっ!俺達の仕事は下位列強国の大使館の中に入って奴等の武器を奪うこと!そして次はここの大使を取っ捕まえる!以上だ!」


その声に周りの冒険者達は威勢の良い返事を上げ、戦闘体勢へと入る。


それを確認したエルブリッドは周りを見渡して指示をする。



エルブリッドの指揮下にある冒険者は銀級冒険者が24人、金級が15人、白金級が8人、黒曜級6人で自分を除いたミスリル級3人の計56人がいる。


そこから更に後方には、味方となった捕補庁の役人300人が待機してくれている。


彼等の中には火縄銃を装備しており、彼の指示によっていつでも一斉総射をすることが出来る。


だがその為には彼等の有効射程距離まで近付けるのが必須条件であり、それには屋上の列強の兵士が邪魔だ。


屋上から自分達のいる所まではそれなりの距離があるというのに、正確な射撃をしてきたことから、腕は間違いないだろう。


今も少しでも物陰から身を出したら瞬時に狙撃してきている。その責でまともに動けないでいる。


だが、それはまだ想定内だ。エルブリッドはそう心の中で呟くと近くにいたネサームを呼ぶ。


「ネサームっ!頼むぞ!」


「わかった!」


呼ばれたネサームはその意図を察して自身の得意魔法を詠唱し始める。


『獣戦士族ウォー・ウルフ召喚』


その詠唱が終わると同時に彼の目の前で魔方陣が組まれ、その中心から1体の魔物が出現する。


体長2メートルを越える巨体を誇り、全身を硬い獣毛で覆われ、その身にも何重にも重ねた革鎧を装備し、オオカミの頭部をしたその頭には鋼鉄の兜を着用し、両手にはその身の丈を越える大斧を構えていた。


中位の召喚魔方である魔物召喚、それによってこの世に生まれた獣戦士ウォー・ウルフは召喚者であるネサームの前に膝付き、命令を待つ。


「行って。あの屋上の奴等を倒して。」


ネサームからの命令を受けたウォー・ウルフは忠実に従い、屋上の上にいる坂田達を睨み付け、雄叫びをあげる。


ウオオォォォォ


辺りの空気を響かせる程の大声を出したウォー・ウルフは全力疾走で建物の方へと走る。


その間にも屋上から列強の兵士達がウォー・ウルフに次々と狙撃をしてくる。


1発1発が高い威力を誇る狙撃銃はその大きな的となる胴体に何発も当てるが、その革鎧と獣毛、更にその内側にある脂肪と分厚い筋肉によって威力を殺され致命傷とはならなかった。


狙撃の集中が召喚獣に向けられたことを察したエルブリッドは仲間の冒険者達に前進を指示した。


「よし。進むぞ!狙撃が集中しているこの一瞬の隙を無駄にするな!」


それに従い一斉に物陰から出た彼等は魔術師達の結界魔法の範囲内から出ないように注意をしながら前進を開始した。


だが、そこへネサームが叫び声のような声でエルブリッドに言う。


「不味いよっ!ウォー・ウルフがもう持たないよ!」


「なにっ!もうか!?」


そこを見れば確かにウォー・ウルフは建物の壁まで辿り着いた所で今にも倒れそうな程の傷を負っていた。


「糞っ、速すぎる!」


エルブリッドはそう呟く。本来ならばその頑丈さを活かして建物の壁まで辿り着いた後はよじ登って屋上の兵士達を攻撃させるつもりだったが、奴等の銃は予想以上に強力らしい。


「ネサームっ!追加しろ!俺が援護する!」


「っ!わ、わかったよ!」


エルブリッドはネサームの前に立ちはだかり、少数だが、飛んでくる銃弾をその手に持つ魔法武具で防ごうとする。


「ぐぅっ!?急げっ!」


彼の予想を上回る銃撃の衝撃にそう急かす。幸いにも貫通まではしてないが、それも時間の問題であろう。


その間にネサームは再度、召喚魔法を唱えた。


『創造ストーン・ゴーレム召喚!』


その詠唱と共に今度は、6体のストーン・ゴーレムが召喚された。


高い防御力を誇るゴーレムを使いエルブリッド達の壁となるように前へ出る。その直後、エルブリッドは倒れかかる。


「り、リーダーっ!?」


リシキタがすぐにエルブリッドを支える。


「す、すまん。どうやら最後の1発が鎧を貫通したらしい。」


「っ!嘘でしょ・・・っ!」


その言葉にネサームはそう反応するが、鎧を見ると確かにそこから血が流れていた。本当に鎧は貫通していたのだ。


「強力な魔法武具がっ!マジック・アイテムだって併合しているのにっ・・・」


「結界だって当たり前に貫通してきてるんだ。なにも可笑しくはないさ、っ、いててて。」


「エルブリッドさん、こっちだ!急いで!」


そこへ黒曜級の冒険者達が煙幕や魔法を使って屋上からの狙撃を妨害していた。


それに乗じてエルブリッド達も急いで走り出す。既に先程召喚していたゴーレム達は殆ど破壊されていた。


「そんな・・・速すぎるっ!」


ネサームの悲痛な言葉に周りも思わず頷く。だが、何とか次の物陰にまで辿り着いた彼等はすぐに神官騎士であるネイティアが治癒魔法でエルブリッドを治療する。


瞬時に傷が癒えた彼は息を整えると、後方で待機していた役人達に指示をする。


「こうなっては仕方ない・・・損害は抑えたかったんだが、従官長殿っ!お願いする!」


そう大声を上げたエルブリッドの言葉を聞いた捕補庁の従官長は部下に突撃命令を出す。


「聞こえたな?者共っ!私に続け!」


使い古された剣を前に掲げ、命令を出した従官長を目にした役人達は一斉に敷地内へと走り出す。


それを見たエルブリッド達も動く。


「よし。彼等がここまで辿り着いたら俺達も前進だ。彼等を盾にしてこのまま中へ入り、民衆達に続くぞ。」


その言葉に周りの冒険者達は頷く。その直後に屋上の兵士達からの狙撃はこれ迄とは比較にならない程の狙撃音が響く。


「糞っ・・・」


後方を見ればその狙撃に次々と撃たれ倒れていく彼等がいた。


それに少しの罪悪感を感じるが、それを目に焼き付けた後、屋上の兵士を睨み付ける。


「そこまで辿り着いたら覚悟しろよ列強人共。」









「人型の獣の次にゴーレム、その次はお役人様方かいな。全く、メニューが豊富なことで!」


ボルトをスライドして弾を装填して次々と敵を撃ち殺しながらそう文句を言う。


「冒険者共め、ゴキブリみたいに動き回りやがって!」


「あの召喚者は厄介だな。またあの頑丈な魔物を召喚でもされたら弾が持たないぞ。」


周りの空となった弾薬ケースを見てそう呟いた坂田は同僚に聞く。


「弾はあと何発残ってる?」


そう聞くと左隣にいた同僚が弾薬ケースを手に持ち左右に軽く振った。するとチャリンと音は鳴ったが、心許ないものであった。


「俺はこの数発と横の新品のケースで最後だ。そっちは?」


応えた同僚は今度はその更に隣にいた同僚に聞いた。


「俺はあと20もない!下から新しいのを誰か持ってきてくれ!」


「ここにあるので多分、全部だと思うぜ。俺が持ってきた棚はもうカラッポだったからな。」


「不味いな・・・下の様子も気になるが、これ以上中に入られたら本格的にヤバいよな?」


「職員エリアの壁を見たろ?あの分厚い壁と扉を連中が突破出来ると思うか?」


「魔術師ならどうにか出来るかも知れんだろ。」


「なら、魔術師共をさっさと始末しちまおう!そうじゃねぇと軍曹に殺されちまうぜ!」


空となった弾薬ケースを放り投げて狙撃を再開した彼等は次々と迫ってくる敵を片付けていく。








その頃、ソウバリンから距離500キロメートルにある上空5000メートルに数体の空を飛行する存在がいた。


その飛行物体は6体からなり、お互いに一定の距離を保ちながら飛行していた。


『ブラブォ04、少し右に逸れてるぞ。左に戻せ。』


『こちらブラブォ04、了解。』


ブラブォ04と呼ばれた飛行物体は指示通りにその物体に付けられた翼のようなものをやや左に戻し、平行姿勢に戻した。


『ブラブォ01、そっちも左にそれてないか?さては左利きだな?』


『・・・ブラブォ02、軽口を叩くな。平行計器は至って正常だ。因みに俺は両利きだ。』


『ブラブォ01、そいつは恐れ入った。帰ったら書いてるところを見せてくれ。』


『ブラブォ02、見たいならまず死なないように頑張ることだな。』


『ブラブォ01、任せとけ。帰ったら俺は戦後初のエースパイロットになってるさ。』


『向こうに航空戦力なんてあったか?ワイバーンすらいない国なんだろ?』


『そいつは運がいいな。敵は俺に撃ちと落とされる心配はしなくていいんだからな。』


『大した口だな・・・む。ブラブォ隊に告ぐ。レーダーに航空戦力を確認。方位は2ー7ー0、数は1だな。』


『敵か?』


『IFFに未登録だ。わからん。だが、レーダーの反応を見る限り生物だ。』


『ワイバーンか?』


『ワイバーンの反応とも明らかに違う。これは・・・』


『確か・・・どっかの列強にはドラゴンを従えてると聞いたぞ。』


『ドラゴン?・・・ならそいつはガーハンス鬼神国だな。敵ではない。』


『味方でもないんだろ?』


『なんにせよ、念願のドラゴンを見れるんだ。目に焼き付けて帰ろうぜ。』


『任務を忘れるなよ?大使館上空の制空権を確保した後に後方の隼部隊の援護をするんだからな?』


『心配しなさんな。隼の活躍無しで俺達で敵を排除しちまうさ。』


『大使館には誘導装置があるとは言っても油断はするなよ。』


『了解。』


そう飛行物体から無線越しでの会話が聞こえる。呑気な会話をしているようで、彼等は常に警戒を緩めなかった。


上空を音速と同じ速度で飛行している彼等はソウバリンにいる仲間を救援する為に向かっている部隊であった。


彼等は日本国海征団所属の航空隊、第02攻撃隊、通称ブラブォ隊であった。


彼等、第1即応艦隊から発艦した6機から編成される航空隊は着実に大使館へと到着しつつある。

如何でしたかな?


近い内にもっと大規模な戦闘シーンを出したいと思うのですが、中々に展開を広げるのが難しい・・・


今後とも長い目でお願いします!



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― 新着の感想 ―
[良い点] ようやく第1即応艦隊の航空部隊が到着するのですね! 早く暴徒を一掃して欲しいです。 到着まで30分ほど、どうかもって下さい。 [気になる点] あの手榴弾をいじくってた男…チッ!手榴弾を誤爆…
[一言] 完全に暴徒や暴漢の群れやな 取りあえず。日本政府は他国のミスリル以上の冒険者にこの国所属の冒険者狩りを依頼すべきだと思うの
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