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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第56話 不明

第56話 不明




「王様!外部大臣そして軍部大臣の2人が先日、暗殺された件について、禁近衛庁より報告が参りました!ここへ禁近衛大将への参登をお許しくださいませ!」


バフマン王国の王都ソウバリンの宮殿では先日の大臣2人の暗殺から緊急の御前会議が行われそれから数日後に調査をしていた禁近衛庁から新たな進展があったようでこうして再度の会議が行われた。


そこに日本国大使である岩井大使もそこにいた。彼以外にもレムリア・ガントバラス・ジュニバール・ガーハンス・チェーニブルの列強大使もいた。


そして冒頭の話に戻る。王が許可をすると御前会議室である政議殿より1人の男が入室した。禁近衛庁の最高責任者である大将であった。


大柄で筋肉質の男は国王にお辞儀をして室内にいる大臣そして大使達全員に聞こえるような大きな声で報告をする。


「王様!先の暗殺事件について進展が御座いましたので報告に参りました!」


禁近衛大将がそう言い更にこう続けた。


「調査の結果、2人が暗殺された屋敷から共通してあるものが見つかりました!」


禁近衛大将はそう言うと懐より何かを取り出した。それを高く上げる。それをよく見るとどうやら血が付着したナイフであった。


「こちらは2人のご遺体付近で発見された物です。ご遺体にはナイフで何度も刺された箇所がありまさた。このナイフが凶器なのは明白です!そしてこのナイフにはある紋章が刻まれておりました。」


1拍おいて彼はこう言った。


「この紋章を調べた結果、これは導綱会の学生達の紋章であることが判明致しました!」


「「「っ!?」」」


禁近衛大将の言葉にその場にいた殆どの者が絶句した。その導綱会とはこの国の貴族階級の若者達の多くが在籍している学会で、主にこの国の法律や歴史に道徳を学ぶ場所だ。


ここの学会の講師達の多くは宮殿の元高官達であり、職を引退後に若者達に後学として教えている国内でも権威ある学会なのだ。


そんな学会の学生達が背負う紋章のついたナイフが見つかったということは、即ち彼等が犯人である可能性が高いということになる。


「よって禁近衛庁は導綱会の講師達は勿論のこと学生達の尋問を行い事実確認を致します。王様、どうか御許可をくださいませ!」


禁近衛大将の言葉に右政官が一歩前に出てこう国王にいう。


「お待ちくださいませ!王様、これは事実無根でございます!間違いなく何者かがでっち上げたものです!」


その言葉に今度は司憲府の改新派である提都長が反論する。提都長は3番目に高い官職で長官の副官のような立ち位置にある。


「何を申しますか!実際に現場から証拠品が出たのですぞ!これの何処が事実無根と言いますか!」


「なぜナイフに紋章が描かれておるのか不自然ではないか!しかもわざわざそれを残すなど明らかに濡れ衣を着せる為ではないか!」


「しかし証拠品が出た以上は取り調べなければならないのも事実。仮に本当に濡れ衣であればすぐに無実は照明されるでしような。」


高官達が互いに言い争いに発展するなか、隣で見ていた岩井大使はウンザリしたような表情になる。


(こいつらは毎回こうしてやらなきゃ気が済まないのか?)


岩井大使はそう呆れる。そこへレムリア連邦の大使であるグエン・フェインドが話し掛けた。


「岩井殿、今回の件について如何思いますか?」


「どう、とは?」


「シルソン大使等を見ましたか?連中今回も何かを企んでいる顔ですよ。」


「まぁ確かに今回は大臣だけでなく向こうの民間人が何名か殺されたようですからね。」


2人はそう話す。岩井大使にとってレムリア大使であるフェインドは少しだが信頼している男だ。


表面上は友好関係を築いているガントバラス帝国だが、この国の特性上、あまり日本側と反が合わないのだ。


更にシルソン大使は明らかに岩井大使に隠し事をしており、他の列強大使と何かを企んでいるのは、明白だ。


そうしていると遂に列強大使が動いた。チェーニブル法国のドイットル大使が国王に言った。


「王様、此度の件は貴国だけの問題では御座いませんのはご承知の筈です。先の事件において我が国と

友好国の罪なき民間人までもが殺されたのです。これは貴国と調和を結ぶのに大いに影響します。」


そこへシルソン大使も同調するように進言する。今回の事件で暗殺されたのはガントバラス人の鉄道会社の重役であったのだ。


「さようです王様、尽きましては今回の調査は我々主導の調査団を派遣して事件解明を行いたいと思います。」


その言葉に今度は領政官が異を唱える。そして大使達を睨むように見た。それには岩井も混ざっているとんだとばっちりだ。


「大使方の言い分も分かります。しかしそれが我が国の主権を脅かす事だということがお分かりでないようですな。」


それに右政官も同意の声をあげる。


「違いありませんな。貴殿等、列強国には分からないでしょうが我等には我等の捜査機関があります。ここは我が国に任せて頂きたい。」


それにジュニバール帝王国のナミカル・レオナジ大使がこう2人に言う。


「やれやれ・・・貴方は何か忘れていらっしゃるようですが我等は被害国なのですよ?我が国の国民が無惨にも殺されたというのにその犯人を未だに解明出来ず、更には捜査を混乱させようとしている貴方方には呆れて何も言えない。」


「その通り。我等から言わせて頂ければ貴国こそ我等の主権を脅かしているようなもの。」


「何を申されるか!度重なる我が国へ圧力を掛けてきておいてよくもそのような戯れ言を・・・」


「もう良い。両者共に落ち着け。」


論争がヒートアップするタイミングで国王が止めに入る。


「双方の考えはよく分かった。大使達よそなたらの民を想う気持ちには余もいたく心に滲みた。だがゆえにここは我が国が主導で捜査を行わせたい。」


国王の言葉に保守派である領政官達は一様に安堵したように息をつく。だが、ドイットル大使が爆弾発言をした。


「王様・・・その御言葉に私どもは涙を堪えるばかりです。しかし誠に申しにくいのですが・・・」


ドイットル大使の言葉に国王はさっさと本題を言うようにせかす。


「遠慮せずとも良い。一体そなたは何が言いたい?」


「はっそれでは申し上げます。この度本国より通達が来ましてな。法国・帝国・帝王国・鬼神国による世界連合軍をこの国に駐屯させることが決まりました。よって今日をもってこの国の国防は我等が担うこととなります。」


「「「「「「っ!?」」」」」」


その言葉が出た時、驚愕の声であふれた。国王達にとって最も恐れていた事が遂に起きてしまったのだと。国王は慌てて大使に問う。


「ま、待たれよ!余はそれを認めておらんぞ!なぜそなた達が勝手に決めるのだ!」


それに領政官も怒りの声をあげた。


「大使!貴様等、この国の軍を差し置いて軍を駐屯させるなどどういうつもりか!?それは我が国への宣戦布告と同意義であるぞ!」


「王様の御採決も無しにかような大事を貴国等で決めるなど・・・余りにも度が過ぎた行為だ!」


それらの言葉にシルソン大使はそんな彼等を嘲笑いながらこう言う。


「はははっ。皆様も面白いことを仰る。未だに貴国は我等と対等の関係だとでも言う御見積りで?」


ガーハンス鬼神国のヴォーガード・ウィン・ザイガハマン大使も続けるように言う。


「それは随分と身の程知らずな・・・そもそも貴国がいつまで経ってもこの国の治安を改善しないからこのような決断をすることになったのですぞ。」


国王は余りの怒りに玉座に掛けていた拳を握り締める。元はと言えば連中がこの国に来てから可笑しくなったと言うのにあの言い様だからだ。


これに岩井大使そしてフェインド大使はしてやられた、と頭を抱える。


(やりやがったな!・・・連中は本気で手を組んでこの国を分割する積もりか!)


岩井大使はそう怒りを覚える。それを知らずかドイットル大使は更なる進言をした。


「あぁ・・・それと亡くなられた事により席が空いてしまった外務大臣と軍部大臣についてですが、我々の方で推薦したい者がおります。」


「!?大使殿・・・まさか!」


高官の1人がそう呟く。これには岩井も彼と同じことを思った。


(まさかあの2人は奴等の差し金か!?軍部大臣は兎も角、改新派の外務大臣まで殺すなんて正気か!?)


そんな反応を他所に今度は改新派の財務大臣が一歩前に出て発言した。


「王様、ドイットル大使方からの推薦者の名簿をお持ちしました。」


財務大臣はそう言い国王に手に持っていた名簿を渡して見せる。それを国王は読み上げた。


「・・・ヒューリー鉄道会社のイ・シルイトを軍部大臣に外務大臣は資産家のナム・ウンの2人を推薦か。」


これに右政官がこう反応する。


「どちらも貴国等の支援を受けている者ではないか!?科挙すら受けておらずに挙げ句の果てに平民をこの国の大臣に任命させるつもりか!?」


科挙・・・国の役人を登用する際に行われる採用試験であり、これを受けねば役人になることは出来なかった。


しかしこの2人はそれを受けておらず、しかも列強からの後ろ楯を得て金持ちに成り上がりこの国の列強の介入を手助けしていた者だ。


そしてドイットル大使は呆れたように首を振り諭すようにこう言った。


「やれやれ・・・今時、身分が低いからと官職に着けないなど時代遅れですよ。そうでしょ?・・・岩井大使殿?」


「っ!?」


そこにドイットル大使はあろうことか岩井にそう話を振っていた。この話を全く共有させていなかったのにだ。


しかもそのフッタ話が身分制度の話だから余計に質が悪い。これに同意をするしか無いのだ。我が国も身分制度を廃止しているのは事実なのだから。


振り絞るように岩井は言う。本音は彼等の手助けになるような事など言いたくはないのだが、完全にしてやられた。


「えぇ確かに我が国も身分制度は廃止していますね・・・」 


その言葉に保守派の大臣達が岩井を憎らしい目で見る。だが、岩井はそれを甘んじて受け入れるしかなかった。


ドイットル大使はそれに満足そうに頷く。もはやこれで態勢は決した。保守派は敗北し改新派は今後は勢力を急拡大するであろう。一体どれだけの役人達が改新派へ鞍替えするであろうか。


国王は何かを諦めたように顔に手をつき、その後、気分が悪いということで退出した。これにより今日の御前会議は終了となる。





御前会議も終わり岩井が部下を連れて大使館へ戻る為に車に乗ろうとしたその時、彼の後ろから声が掛かる。


「岩井大使、先程はありがとうございます。お蔭で我等の目的もあと少しで果たされますな。」


そう声を掛けたのはチェーニブル法国のドイットル大使であった。彼は憎たらしい程の笑顔であった。


「我等の目的とは何ですかな?私にはさっぱり分かりませんね。」


「そう怒らないでください。貴方に何も言わなかったのは謝罪しますよ?貴国もこの国の利権が欲しいのでしょう?どうです、このあと私達でどこか店で一杯やるのは?」


「・・・ご好意ありがとうございます。しかし私は公務中てすので。」


岩井はそうあしらう。この男とはもう話したくないというのが本音だった。


岩井が車の扉を開けたとき、笑い声が聞こえた。あのドイットルの声だ。


「ハハハハッ!本当に面白い男だな君は!」


岩井達はその大使とは思えない態度に目を見開く。先程までの取り繕ったような礼儀など全くない傲慢な男が目の前にいた。


「・・・それはどういう意味でしょうか?ドイットル大使殿?」


「君はまだ若いからかな。顔を見るだけで今どんな気持ちなのかがすぐに分かるよ。いや、本当に君は、いや貴国は・・・」


ドイットル大使は岩井の顔近くまで近付き、周りの職員達に聞こえないような小さな囁き声で言った。


『とてもお間抜けなことだ。』


その挑発に岩井はつい怒りを露にしてしまう。


「なんだと?」


それを面白そうにドイットル大使は眺める。そしてこう言った。


「1つ言っておこう。貴国はさっさと国に帰った方がいい。かつての世界でどれだけお優しい国に囲まれたのかは知らんが、この世界ではそこほど優しくはないぞ?」


「そのお言葉、そっくりそのまま返しますよ。弱者にしか強気に出れない臆病者が。」


「ふふふ・・・分からないか?その弱者は君達であることに?」


この余りの態度に岩井達が怒りを覚えていると今度はガーハンス鬼神国のザイガハマン大使までもがここに来る。


「おや?殺伐とした空気ですがドイットル大使、何かありましたか?」


「いいえ何でもありません。ただの世間話ですよ。他愛もない話です。」


それにザイガハマン大使は、納得したようで岩井にこう話し掛ける。


「そうでしたか・・・岩井殿、まぁ何を話していたのかは大体分かりますよ。所詮は本土に上陸されるような・・・負け犬国家ですからね。」


ザイガハマン大使までもが我が国を侮辱するような物言いに岩井達はこの2人が完全な敵であることを察した。


「お2人とも・・・その言葉はどれも我が国への侮辱行為として捉えますよ。」


「侮辱などとんでもない。我々は事実を言ったまでです。」


ドイットル大使はそう言う。彼等、上位列強国は今までの歴史でも本土を直接攻撃されたことはないために本土に上陸され損害が出た日本に対して下に見てるのだ。


「この国にいても貴国は足手まといだ、レムリアと共に国に帰られよ。」


「その通り。ここから先は真の列強国だけの特権だ。」


2人はそう言うと踵を返して去っていく。それを最後まで見つめていた岩井達はただ睨み付けることしか出来なかった。


「大使っ、奴等をあのままにしてよろしいのですか!?」


部下が岩井にそう問いかける。あの会話は明らかに問題になるものばかりだ。


「堪えろ。この世界じゃ、あれが普通なんだろうよ。それに俺達はこれ以上関わらない方がいい。ここから先は奴等の自作自演の始まりだ・・・」


そこで岩井は、少し間をあけてこう言った。


「せいぜい仮染めの栄光に浸ってるがいいさ。」


岩井はそう言い車に乗り込む。そして大使館の自分の執務室へと戻り電話で本国に今回の話を報告する。


「・・・あぁ先輩、お久しぶりです。事務次官に知らせてくれますか?・・・はい、そうです。奴等が動きました。万が一に備え、邦人救出の為に軍を動き出して欲しいです。」


そこから一呼吸間を開けてこう言った。


「近いうちに第1即応艦隊の出動をお願いします。彼等の力が必要です。」






そこから場所と時は変わり、同都市の時刻は深夜とも呼べる時間の人通りの少ない道路に怪しげな集団がいた。


彼等は皆、薄汚いローブをその身に纏っているがその下は防刃コートを着用しており、顔を覆面で隠していた。そしてその腰には剣を装備している。


更に懐には全員が拳銃を装備している。まるで兵士のような装備だ。だが、彼等は兵士ではない。その真逆だ。


彼等は熊光組の組員であり、その場には木花が指揮をしていた。その隣には側近の井岡もいる。


木花達は今回、財務長官であるジン・ソイトを拉致して地下室の秘密を暴くために集まっていた。その数は30人ほど。


これは若頭である木花が動かせる最大の人数だ。今回の為に腕の立つ組員だけを連れていた。


「朝倉達はそこの脇に待機だ。野郎の馬車が通り過ぎたら後ろを塞げ。岡原達は前でバリケードを張って野郎を通すな。」


「分かりました、頭。」


木花がそう各自にテキパキと指示をしていると隣にいた井岡が話し掛けた。


「頭、野郎の馬車がもうすぐこの道を通るそうです。護衛は6人、全員が見たところ剣だけです。」


そう井岡は報告する。今回の作戦にはドローンを使っておりそれを使って上空から目標の位置と護衛を見張っていたのだ。


その報告を聞いた木花は全員に配置に着くように言う。ここから先は失敗は許されない。


何せ列強に好き勝手されてるとは言え、相手は腐っても財務長官、しかも何らかの組織から支援を受けている男だ。もしその組織に気付かれれば窮地に立たされるのは明白だ。


だからこそ今回、木花は自身が用いる最大戦力で作戦を指揮する。なんとしてでもあの地下室の理由を探るために。


(あの部屋にはあれ以外に日本製の銃は無かったが・・・野郎がどうやって入手したのかさっぱりだ。武竜会でもあんな装備は集められんのに野郎はどうやって集めた?)


木花は道沿いにある建物の2階の窓から下を見下ろしながらそう思案する。そう考えているうちに目標の馬車がきた。


(っ来たか。)


木花はその馬車を見る。豪華な4頭立ての馬車に周りも護衛の兵士も馬にのり重鎧を着ていた。中々の守りではある。だが木花達の敵ではない。


岡原が率いる10人程の子分が直ぐ様、馬車の正面の道を荷車で即席のバリケードを使って塞ぎ、今度は後ろを朝倉率いる9人の子分達がこれまた同じ方法で道を塞ぐ。


これで退路を完全に塞いだのを確認した木花は残った子分を連れて建物から出る。


建物から出てきた木花達を見た護衛の兵士は木花に向かってこう怒鳴る。


「無礼者っ!この馬車は財務長官が乗っておられるのを知ってのうえでの狼藉か!?」


その言葉に木花は興味なさげにこう言う。


「知ってるよ。俺達はそいつに用があるんだ。お前らは邪魔だ。消えろ。」


その言葉に護衛の兵士達は手に持っていた武器を構える。それに木花達も同様に構える。


「野郎は殺すな。痕跡も残すなよ。」


木花の言葉に子分達は一斉に襲いかかる。護衛の兵士達もその武器を振り上げて戦う。




勝負はあっという間に片付いた。数では圧倒していたし子分達は腕の立つ戦闘員だったので被害が出ることもなく護衛の兵士を皆殺しにできた。


それを見た木花は井岡を連れて馬車へと歩み寄る。そして馬車の扉を開けた。


「ひいぃっ!た、助けてくれぇ!」


中には完全に怯えきっていたジン・ソイト財務長官がいた。そんな震えている彼を見た木花は容赦なく頭を掴み外に放り投げた。


「ひぐっ!」


情けない声をあげて倒れた姿勢で木花から少しでも離れようと後ずさるが、後ろの子分の足元にぶつかってしまい蹴られる。


「ぐわぁっ!」


「・・・」


余りにも情けないその姿に木花達は眉を潜める。井岡が耳元でこう囁く。


「本当にこいつが財務長官ですか?」


「顔は確かにそうだが・・・情けない。」


そう話している木花達を他所にジンは命乞いを始めた。


「た、頼む!命だけは助けてくれっ!金なら幾らでも払うっ!私は財務長官だ、大金をお前達に払えるぞ!いくらだ!?いくら欲しいんだ!?」


「・・・生憎と今の俺達は金が目的じゃない。」


その言葉にジンは全身の血が引くのを感じ取った。間違いなく身代金目的ではなく命を狙ってると考えたのだろう。


「俺達はあんたに聞きたいだけなんだよ。」


木花の言葉にジンは今度は困惑の表情をした。まさかの命ではなく情報が目的だということに、彼は拍子抜けする。だが、これはチャンスだと感じ食いつくように聞く。


「な、何を聞きたいんだ?」


「お前の屋敷の地下室だ。あの部屋の武器をどうやって集めた?お前だけで集めた訳じゃないだろ?一体どこのどいつが後ろ楯だ?」


「っ!?」


その木花からの質問にジンは一気に目を見開いて挙動不審になる。そしてこう口を開く。


「じゃ、じゃああの時の侵入者はお前たちが・・・ぐぁっ!?」


ジンの反応に井岡が腹を蹴り挙げる。そして木花は再度ジンの頭を掴みこう言った。


「質問に答えろ。だれが?お前に、武器を渡した?答えたら俺達は撤収する。」


「ま、待ってくれ!私は知らないんだ!!ほ、本当にあれについては・・・ぎゃあぁ!!」


再度、井岡が腹を蹴る。更に木花も顔を数発殴って怒気を孕んだ声で言う。


「知らないだと?な訳ねぇだろうが!?てめぇの屋敷に置いといて知りませんって言われて信じると思ってんのか!?」


その木花の言葉にジンは這いつくばって木花の足を掴み慈悲を求めるようにすがる。


「ほ、本当に知らないんだ!!気付いてたら置かれていて身に覚えがないんだ!!」


「気付いてたら?・・・はっ、つまりはあれか?大量の武器を使用人や私兵含めて誰にも気付かれずに挙げ句の果てには馬鹿デカイ大砲も置かれてました。とでも言うつもりか?」


「そ、そうなんだ!私も使用人達も誰も知らないのだ!本当に私もなにがなんだか・・・うわぁ!?」


今度は木花がジンの太股に持っていたナイフで刺す。流石にもう我慢の限界だった。


「言いたくないなら分かった。言いたくなるまでアジトでじっくり聞いてやる。」


その言葉にジンは涙を流して必死に許しをこう。


「ほ、ほんとうにじらないんだぁ!たずげてぐだざい!頼む!私は分からないんだ!!」


そう情けなく泣き叫ぶジンを子分が頭に袋を被せて連れていく。それを見送った木花は残った子分達に片付けをさせる。


「野郎を数日以内になんとしてでも吐かせろ。手段は問わん。」


「分かりやした頭。」


そう井岡に指示した木花は先に撤収しようと歩きだした時、突如、木花は倒れた。


「頭っ!?」


井岡がすぐに木花の体を支える。そして木花の背中をよく見ると矢が刺さっていたのが見えた。瞬時に状況を察した井岡は子分達に命令をした。


「敵襲っ!頭を守れ!」


その命令に近くにいた子分達が木花の盾になろうと周りに集まる。遠目にいた子分達は散らばり敵を探す。そして敵はすぐに見つかった。


突如として正面に築いていたバリケードの奥の方から数十人もの襲撃者が現れた。


「来やがった!かかれっ!!」


井岡の命令にバリケード側にいた15人程の子分達が反撃する。だが、彼等のすき間から抜いてきた者が何人か出てくる。


「っ!お前ら、頭に近付けさせるな!」


井岡は近くにいる子分達にそう指示する。そこに木花が掠れた声で井岡にこう言った。


「ぐ・・・井岡、撤退を優先させろ。あいつら数が多い。」


「頭っ!?気を確かに!すぐに医者に診せますので!」


井岡は木花の意識があることに一先ず安堵する。


「俺はいい・・・それよりも野郎を絶対に渡すな。連中の狙いは、多分、野郎だ。」


そう木花がいった時、すり抜けた敵は木花達を無視してジンの方へ向かった。


「井岡ぁ!!速く奴等を殺せ!絶対に渡すな!」


その言葉に井岡は慌てて懐からサプレッサーを付けた自動拳銃で敵を撃ち殺す。


「ぐあっ!?」「ぐぎぃっ!!」


何発か撃ったが2人しか当たらなかった。そして生き残った敵は井岡達を脅威だと捉えたのだろう。彼等の元へ殺到する。


「やべっ!」


「井岡さん!頭を連れて逃げてください!」


木花を守ろうと周りにいた子分達がそんな彼等を迎え撃つ。


状況は一気に乱戦状態となった。敵味方が入り乱れ、1人また1人と誰かが倒れる。


「くそっ!出し惜しみはするな!銃の使用を許可する!この場から撤収だ!」


そんな戦況を見て井岡はそう指示する。既にジンも遠くまで行ったので木花の命令通りにする。


「うおぉ!!」


「っ!?舐めるなチンピラっ!」


木花を支えている無防備な井岡に襲いかかった者がいたが、すぐさま彼は銃をその者に向かって発砲する。


プシュッ!


そのサプレッサー特有の銃声が鳴ったと同時にその者は倒れる。


「・・・っ!こいつら、まさかっ!?」


倒れた男の首もとを見た井岡は驚いた。それに木花も目を見開いてそれを凝視する。その視線の先にはある物を首につけていたのだ。


「・・・冒険者プレートっ!つまり、あいつらは冒険者共か!!・・・ぐぅ。」


「頭っ!お気を確かに!一先ずすぐに逃げましょう。」


井岡は本格的に木花が苦しそうにしてるのを見て大急ぎでこの場から撤収した。


ふと後ろを見ると戦況は最悪な状況だった。何故ならば・・・


「畜生っ!こいつら強いぞ!?」


「朝倉さんが殺られた!このままじゃ不味いぞ!」


「頭が逃げ切るまで耐えるんだ!」


もし、冒険者があの男だけでないならばあの場にいるのは文字通り戦いのプロ集団達となる。此方も戦闘員ではあるが、本当に戦闘を生業としている彼等にあの人数で来られては全滅は必須であろう。


現にもう半分以上は殺されていた。それに対して向こうは数人程度しか倒れていないだろう。


ある組員は数人がかりで攻撃され、またある組員は魔法で焼き殺され、またある組員は瀕死で倒れてるところにトドメを刺され死んだ。


「くそっ!どうして冒険者共がここにいやがるんだ!」


井岡の言葉に答えるのは誰もいなかった。隣にいる木花は既に意識を失っていたのだから。




結局、生きて帰れたのは木花と井岡以外にたったの8人だけだった。残りは全員が殺された。そして当の木花は丸2日間も眠っていた。


何とか目的のジン・ソイトを隠れ家に監禁することは出来たが余りにも大きすぎる損害に熊光組は勢力を縮小することになった。






木花達が現場から去っていたあと、そこには数十人の男達が立っていた。


「・・・本当に列強の人間だったか。」


目の前に倒れ付している死体の顔を見て男はそう呟いた。そして後ろを振り返りある人物に礼を言った。


「あんたの情報通りだな。お陰で武器が手に入ったよ。感謝する。」


男はそう言い、死体の懐を探ってその組員が持っていた自動拳銃を手にした。


周りを見ると他の冒険者達も組員の死体から銃を剥ぎ取っていた。


その様子を見た人物は微笑みを浮かべていた。


「感謝などとんでもない。我々も助かっているのですよ。まさか、あなた方が協力をしてくださるとは・・・冒険者は国家間との争いに関与しないのが原則では?」


「確かに俺達、冒険者はそれを掟としているな。だが、それは他国の組合の話だ。俺達はバフマン王国の民だ。国の為ならば喜んで協力する。元より連中のやり口には目に余る行為だったからな。」


彼等の言う通りに、木花達を襲撃したのはこのバフマン王国の冒険者組合に所属する冒険者達であった。それも上位のランクに入る実力者の。


本来ならば、冒険者というのは国家への忠誠心が低い者達が多いのが常識であるが、それは他大陸での話だ。


このバフマン王国は統一民族、数百年もの間を1つの国家として独立していた為にこの国の冒険者組合は国への同族意識が強い。


だからこそ彼等は決断したのだ。国の為に戦うことを決意したのだ。


そんな冒険者達のリーダー各である男は今回の情報提供者の言葉に淡々と答えた。


「しかし・・・こいつらは妙だな。」


「妙・・・とは?」


「コイツらからは魔力を感じない。それも全くと言っていい程にだ。一体何処の国の者だ?」


「あぁそう言うことでしたか。彼等は日本、日本国という新たな列強国となった者ですよ。」


その言葉を聞いた男は銃を興味深そうに触りながら聞いていた。


「ニホンか。噂には聞いていたが、奇妙な連中だな。何故、奴らは財務長官を狙う?」


「はて・・・私にも良く分かりませんね。私はただ襲撃の情報を皆様に伝えるよう言われただけですからね。」


その返答に男は眉を潜めて目の前の人物を凝視する。この人物は最初に見た時から何か違和感を感じるのだ。


理由は分からないが、何故かこの人物の言葉を信じてしまう。


何故かこの人物の素顔をすぐに忘れてしまう。しかしそれが可笑しいとは感じるが、どうしても彼を信じてしまう。


(何故だ?こいつをどうして、そこまで信用する?)


男はそう疑問に思うがすぐに、そう言うものだろうと、納得して別のことを考える。何度も同じことを疑問に覚えるが、直ぐにそれは忘れる。まるで誰かが自分を操っておるような、そうでないような違和感を・・・


「それで、次は俺達はどうすればいい?」


「また少ししたら此方から連絡します。ここの掃除は我々がやりますので大丈夫ですよ。」


その人物はそう言うと目の前にいる男に、ある魔法をかけた。その魔法は即座に発動され、この場にいる全ての冒険者達がその影響を受ける。


「・・・」


冒険者達はそれぞれの家へと帰る。そしてこの場にいるのは魔法を発動した者、1人だけとなった。


「・・・掃除は得意ではありませんが、仕方ありませんね。」


その人物はそう静かに呟いて掃除を始めた。


夜が明けると現場はいつも通りの状態となっていた。長官の乗っていた馬車も、死体も血すらも残っていなかった。


その日、財務長官は行方不明になり、補捕庁が捜査をするものの、有力な手掛かりは掴めないでいた。









ふと目が覚めた。深い眠りから覚醒した男はゆっくりと包帯まみれの上半身を起こし周りを見る。


「っ!」


その時に背中に痛みがはしる。そして彼は思い出した。あの時に襲撃を受けたのだと。良く見ると寝ていたベッドには微かだが血がついていた。


「頭っ!?目が覚めましたか!!」


すると隣から聞き覚えのある声がした。声がする方向に視線を向けるとそこには井岡がいた。どうやらずっと看病してくれていたようだ。


「お前か・・・俺はどれくらい寝ていた?」


井岡は腕時計を見てこう答えた。


「あれから、もう2日は経っています。それよりも良かった!本当に一事はどうなるかと・・・」


井岡はそう言って目に涙を浮かべた。この様子だと本当に気が気ではなかったのだろう。


「子分達はどうなった?それにここは?」


その木花の質問に井岡は顔を強張らせて言うべきか悩んだが、意を決してこう言った。


「酷いもんです・・・生き残ったのはジンを連れていった奴とあの時、俺達と近くにいた数人だけが生き残りです。それからこの部屋はグストン・ホテルの女支配人が手配してくれた部屋です。特別にVIPとは別の部屋で、安全性も高いです。」


「そうか・・・くそっ!」


木花は己の愚かさを憎んだ。自身の子分達の多くを自分の判断により死なせたことに、彼は深く後悔した。


「新聞は一面を飾っただろうな・・・あれだけの死者を出したんだ。組長にまで害が及んでしまった・・・」


「そ、それが・・・」


木花の呟きに、井岡は言いにくそうにする。その様子に木花はキョトンとする。


「?・・・どうした?かなりの騒動になったんじゃないか?今までのとは比較にならない程の大事件だ。禁近衛庁や補捕庁がこぞってここに来たんじゃないのか?」


「・・・実は、あれから全く、音沙汰がないんです。」


「なに?」


「朝になって、残っていた手下を現場に送ったんですが、そこでは死体はおろか、馬車や血痕すら残っていないようでして・・・」


「そんな馬鹿な!あれだけの乱闘だぞ!現に此方の生き残りは・・・それにっ、近くの住民が騒ぎに目を起こして通報をしてる筈だろう!?」


「手下が住民に聞いたそうなんですが『騒ぎなんてなかった。』の一点張りでして、その手下達ですらも場所は合ってるのか?と聞いてきた程で。」


「お前も確認したのか?」


「それは勿論です。そしたら、本当に一切の痕跡が無かったんです。不気味な程に何時も通りの状態だったんです。」


「・・・あれだけの死者を出して騒動になっていないだと?」


「それも重大ですが・・・頭、あのときの襲撃者が何者か覚えてますか?」


その言葉に木花は自身の記憶を辿る。そしてすぐに思い出した。あの時の襲撃者は・・・


「冒険者っ」


「覚えてましたか。そうです、あの冒険者プレート、この二日間ずっと考えてましたが、あれは白金級のプレートでした。」


「白金級・・・上位のクラスだったな。まさか連中が野郎と何か協力関係を?っ!そうだ!野郎は!?ジン・ソイトはどうした!?」


木花はそこで漸く今回の発端であるジンの存在を思い出した。これで逃げられていたら、木花は本当に死んでいった子分達に顔を合わせられない。


「ご安心ください。野郎は別の場所に閉じ込めてます。」


木花は安堵した。


「そうか。野郎は何か吐いたのか?」


井岡は首を横に振り、奥歯を噛み締めてこう告げた。


「野郎は『本当に何も知らない。記憶にないんだ』の一点張りです。既に指は無いですし、太ももの一部も抉れてるのに何も吐かないです。」


「あんな情けない奴がそこまで口を割らないだと?」


「拷問担当もあそこまでやって、何も吐かないなら何も知らない可能性が高いようです。」


「お前はそれを信じたのか?」


「まさか!野郎の自宅にあったのに何も知らないなんて有り得ないですよ。それこそ記憶を消されでもしない限りは・・・」


「記憶か。」


木花はその単語に少し心当たりがあったのか、そんな反応をする。


「か、頭?どうしましたか?」


「魔法で記憶を消した・・・てのはどうだ?」


「・・・それならば私も考えました。けれど街の魔術師に聞いてみたところ、脳に影響を及ぼす程の魔術師なんて滅多に現れないそうです。」


「そいつらは全ての列強国の武器を集めたんだ。そんな魔術師を集めるなんて訳ないさ・・・それ程までの相手となると間違いなく・・・」


コンコンっ


そう木花が言っていると扉からノックが聞こえた。瞬時に木花は警戒するが井岡は安心させるように言った。


「あぁ大丈夫ですよ。きっとあの人です。お入りください。」


井岡がそう扉の方を振り返り言うと扉から木花も知った人物がいた。


「失礼します・・・あら、お目覚めになりましたか。良かった・・・イオカさんはずっと心配なさっていたから。」


入ってきたのはグストン・ホテルの女支配人であるアイラ・ミリスだった。その手には包帯と水の入った器を載せた盆を持っていた。


その人物に木花も警戒を解いて礼を言う。どうやら相当に彼女に手助けを受けていたようだ。


「ミリスさん、いつもありがとうございます!本当に貴方が居なかったら今頃、頭は組長に殺されていたかも・・・」


井岡はそんなアイラに頭を何度も下げてそう言う。それにアイラは苦笑いを浮かべていた。


「あら、ずいぶんと恐ろしい親分さんてすね。キハナさん程の優秀な方をそのようになさるなんて。」


「当然の反応だ。俺のせいで組員の多くを死なせた。殺されて当たり前だ。」


木花はそう淡々と言う。彼にとっては太田組長は若くして自分を若頭に任命してくれたことに感謝をしてるので不満はない。


それに井岡は困ったように呟く。


「頭!あぁもうっ!この人は本当に若いくせに考えが古いんだから・・・」


そんなやり取りにアイラを上品に口を手で隠してクスクスと笑った。


「失礼、御二人は仲がよろしいのてすね。」


「割りとガキの頃から知った仲だからな。それよりも大丈夫なのか?こんな俺を匿って、俺達がどんな相手に睨まれてるのか知ってるのか?」


「キハナさんに怪我を負わす程なら、相手がどれだけ恐ろしいのかはすぐに分かります。私はただ当ホテルのお得意様へサービスを行ってるだけです。」


「サービスね・・・随分と熱心なことだな。ホテルに影響がでても責任はとれんぞ。」


「ご心配ありません、このホテルには多くの列強国の方々がご利用して頂いてます。それこそあらゆる業界の大物も。」


「流石は国一番のホテル、と言ったところか。」


木花の言葉にアイラはただニッコリと微笑むだけ。そんな気品溢れる美女からの微笑みに隣にいた井岡は顔を赤くする。


そんな井岡を差し置いてアイラは包帯を木花の見える位置まで広げてこう言う。


「さて、世間話もこのぐらいにして、包帯を換えましょう。」


「それは俺の子分達に・・・」


「私はこれでも医術も身に付けてますよ?それに、その包帯も私がやったのです。さぁ、観念してください。」


「・・・」


困ったような表情をした木花はふと隣を見ると井岡がニヤニヤしていた。


「お前・・・」


「良いじゃないですか。こんな美人に看病してくださるなんて滅多にないですよ。」


「まぁ美人だなんて・・・お恥ずかしいわ。」


2人が楽しそうに笑ってるのを見て木花はぐったりとすることしか出来なかった。


だが、彼等は知らない。もう既に後戻り出来ない程に事が進んでいることに。








        東京 秋葉原 


東京のアニメの聖地であるこの地域で1人の男が歩いていた。


その男はなんの変哲もないごくありきたりな顔をしていて、見てもすぐに忘れてしまいそうに平凡な顔だった。


暫く歩いていくと彼は通りに停まっていた車の後部座席に乗った。手に持っていた大きな紙袋を持って。


彼が乗ると車は動き出す。


「よいしょっと。」


「・・・また秋葉か?お前も良い歳だろ?いい加減にアニメなんて見るのは辞めたらどうだ。似合わないぞ?」


そんな彼に運転席に座っていた男が言う。運転席の鏡越しから後ろを見る。その視線の先は紙袋で中身を見ると大量のアニメグッズが入っていた。


それに紙袋を庇うように抱き締めてムッとした表情をした彼はこう言う。


「その言葉、こんなご時世にアニメを作ってくださった絵師の皆さんに失礼だと思わねぇのか。それに、最近のアニメは良いぞぉ。特にアイドルの子に転生した医者のアニメは素晴らしい。俺は感動したなぁ。」


「お前・・・よくこの仕事が務まるな。」


そううっとりとして呟く彼を見た男は呆れたように言う。正直、気持ち悪い。


「・・・それで?何で呼んだんだ?」


先程のうっとりとした表情とは変わって仕事モードに切り替えた彼を運転席の男はガクッと崩れる。


「切り替えが凄いな・・・」


「せっかく買えた原作を読もうと思ってたのに呼び出されたんだ速く片付けたい。」


「あぁそういう・・・なら、暫くは無理だな。」


「は?」


「部長から辞令だ。お前はバフマン王国に行けだとよ。」


「はあぁ!?んっだよそれっ!?マジかよ!!てめぇふざけんじゃねぇよ!!殺すぞ!?」


「大声を出すなよ!運転中だぞっ馬鹿っ!しょうがねぇだろっ!?上からの指示なんだから!」


急に大声を出す彼に男は黙らせる。それに彼は不満げな表情を隠さずに続きを促す。


「んで・・・何で今頃になってバフマン王国を?諜報なら今さら手遅れだぞ。」


「諜報は別の班がやってる。お前は『玉洗い』だ。消してこい。」


玉洗いという単語に彼は嫌そうに反応した。


「けっ、相手は?ガントバラス人?バフマン人か?まさかチェーニブルじゃないよな?嫌だよ俺は、あいつら何気に力持ち多いんだもん。」


次々と候補を挙げる彼に男は首を横に振る。


「違う違う、同胞だよ。日本人。」


「はぁ?・・・えぇ~嫌だなぁ。後味悪いんだけど。」


「そう言うな、そいつは犯罪者だ。詳しくはこいつを見ろ。」


男は資料の入った封筒を片手で後ろに投げ渡す。それを受け取った彼は封筒を雑に破いて中身を見る。


「どれどれ・・・熊光組?聞いたこと無いな。」


「一応だが武竜会のところだ。広島に拠点を置く武戦派だ。重要人物の写真も見ろ。」


その言葉に彼は一緒に入っていた写真を見る。その写真には名前も掛かれていた。それには・・・


「太田健壱、組長さんに若頭の木花裕三、本当に若いな?俺より年下か?」


「24だったな。かなり頭が良いんだとよ。」


「うげぇ、それで役職持ちかよ。んで?こいつらは何で狙われるんだよ。」


「武器を密輸したんだよ。それを現地勢力に売り捌いてる。それに連中は好き勝手に暴れてるからな。」


「鳴る程ね・・・金の為に武器まで売りやがったのか、糞だな。」


「そうだ。そいつらは糞だ。あんな奴等のせいでこの国はまた、凄惨な戦争に入る可能性がある。その前に連中を消してこい。目標は熊光組、全てだ。」


「はいよ。今回は密航か?」


「そうなるんじゃないか?今回は複雑状態の国だからな。死んだら死体も回収できないぞ?」


「その時は人知れずに死ぬさ。国に迷惑はかけない。すぐに出立か?」


「そうだ。荷物は現場で用意されてる。お前は行って『洗う』だけだ。邪魔ならば現地人も消して構わん。無論、バレないように、だ。」


「へ~いよ。」


その男の言葉に彼は気抜けた返事をした。それに男は思わず『大丈夫か?この男で?』と不安になったが、男は思い出す。


自分の後ろに座って漫画を読んでいる男は違うと。


彼は『別格だ。化物だ。』そう周りの同僚が評価していた。


あの会話で聞くだけでこの2人がただの人間でないことは分かるだろう。


事実、彼等は民間人ではない。2人とも公安の人間だ。


いや、正確には後ろの男は公安ではない。表向きでは・・・


いや、裏でも明確に公安の所属にはなっていない。裏側ですらもこの男は居ない存在となっている。



少し昔の話をする。


この日本ではかつて、とある噂が世間を騒がしていた。


曰く、日本には公に出来ない秘密の部隊がいると、人知れずに国に仇なす存在を消し続けたと。


本に出版された事により、その噂は都市伝説となった。それには自衛隊所属となっていたが実際には違ていた。


この男が所属していて、都市伝説にまでなった秘密の部隊。


当時の人々は彼等をこう呼んだ。




『別班』と。




「・・・速く帰りたいなぁ。」


そんな男の呟きに、運転席の男は冷や汗を流す。願わくばこの男の怒りが自分に向きませんようにと。

如何でしたか?


ここまでありがとうございました!


あと2話くらいで大事件に繋げたいですねぇ。


あぁ~ここからの展開を楽しんで頂けるかな?っと少しビクビクしてる作者です笑


そんでもってこの第56話はまさかの17万文字という過去最高の文字数となっております。驚いたな・・・


最近のでは平均で1万前後なのでびっくりです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついには日本の暗部まで登場しましたか。 [気になる点] 途中まで読んでて例の銃撃戦はこれの事かと思いましたが、隠蔽されたという事は違うようですね。 記憶操作されたのか、屋敷の持ち主が知ら…
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