第55話 隠された秘密
第55話 隠された秘密
夜も更けた王都ソウバリンの住宅街のとある裏路地で数人の人物が立っていた。
その者達は皆一様に顔を隠し、闇に溶け込むように黒コートを着込んでいた。そしてその手には銃を持っている。
間違いなく一般人ではない。その動きからも訓練を受けた者の動きだ。
「・・・準備はいいですかな?お嬢様。」
その内の一人である男、木花はこのメンバー唯一の女性であるアリアにそう問いかけた。
「何故そなたまで一緒に来るのだ?」
アリアは一目元しか見えないが一不快げな表情を隠すこともなくそう言った。
「それは何度も説明したでしょう。ジン長官の屋敷の間取りを詳しく知っているのは私だけ。そしてその私が居れば成功率は格段に高くなる。私の実力はご存知でしょう?足は引っ張りませんよ。」
木花の言葉に今度は銃の整備をしていたクッダが木花に言った。
「それは建前だろ。本音は我々が失敗すれば後ろからその銃で殺すつもりだろ?」
クッダはそう木花を睨み付けながら言う。木花は誤解を解くように両手を軽く挙げながら言う。
「まさか、そんなことはしないさ。あんた等は大事なお得意様となった。なら全力で守る。それが俺達の流儀だ。」
「はっ、それもどこまで信じられるか。」
クッダはそう吐き捨てて銃の整備に戻った。何かあればすぐさま木花を撃ち殺せるように。
「頭、準備が整いました。いつでも行けます。」
そこへ木花の子分である井岡が木花に報告をした。それを聞いた木花は頷いて命令をする。
「そうか、ならお前は先に行って先行班と合流してこい。」
「へい。」
井岡はそう言うと覆面を被り、銃を包んだ布袋を肩に掛けて走っていく。目的はこの国の財務長官の屋敷だ。
彼等はジン・ソイトと言う財務長官が隠し持っているチェーニブル法国の紙幣を盗むために集まっていた。
走り去っていく井岡を後ろから見ていたアリアは木花に疑問の声をあげる。
「・・・あの者も一緒に潜入するのか?」
そのアリアからの質問に木花は首を横に振る。
「いいえ、あいつは陽動です。もし万が一我々の潜入がバレた際にあいつが囮として動きます。」
そう言うとクッダが突っかかるように言った。
「あいつが捕まればおしまいだぞ。どうするつもりだ?殺すのか?」
「俺達は本国では武闘派として名を上げた組織だ。あいつもそこら辺の兵士よりは動ける。それにその支援班もいるんだ。あんたらの仲間よりはマシさ。」
「お前・・・」
「師匠こらえてください。」
またクッダが何かを言おうとするがアリアが宥める。このままでは潜入前から最悪な状態に入りそうだ。
そうして全員の準備が整った木花達は、目的のジンの屋敷へと屋根から屋根へと伝って行く。
近くで待機していた為にすぐに辿り着いた彼等は近くの建物の屋根から屋敷を見渡した。
流石は財務長官の屋敷であって他の屋敷とは一線を越す程の広さと厳重な警備だ。
そこから見えるだけでも何十人もの武装した私兵が巡回をしており、その腰には剣を装備している。
そんな中で木花はある異常に気付く。それはアリア達もすぐに気付いた。
「いつもより私兵が多い?」
アリアが代表としてそう呟いた。小さい声だったがそれは隣にいたクッダと木花の耳にも届いた。
彼等はこの日よりも前からこの屋敷を偵察しており、その時は今日ほどの警備はされていなかった。明らかに異常である。
3人は互いに向き合って話し合う。
「どういうことだ?計画がバレたのか?だとすれば誰かが意図的に漏らした可能性が・・・」
クッダがそう言う。それに木花が不快げに答える。
「俺達が漏らしたとでも?此方だって必死なんだぞ。そんな無駄なことをするか。」
「ならば一体何故あんな警戒を?そなたは一時はあそこに出入りしていたのだろう?心当たりは?」
アリアがそう木花に質問責めをする。
「出入りって言ったって、顔合わせ位でしか無いんですがね。野郎の誕生日って訳でも無さそうですし・・・」
「兎に角どうする?今日は中止にするのか。」
クッダの言葉に木花が否定気味に答える。
「そうしたいのは山々なんだがなぁ・・・此方も時間が欲しい。出来るならばこの日に決行したい。」
「お前らの我が儘に俺達が応える必要は・・・」
「なら最新式の銃は諦めるんだな、今使ってるのでも充分な性能だろ?それだけの数で列強と渡り合える筈も無いがな。」
「・・・」
「先行していたイオカは何処におるのだ?あの者から何か聞き出さねば。」
アリアからの言葉に木花はハッと何かに気付いて懐を探る素振りをして何かを取り出した。その何かに2人は困惑の表情をみせる。
2人が見たのはスマホであった。だが、この世界でスマホを持っている国は日本しか無いので彼女等が見て困惑するのは当然の反応だ。
超大国の2ヶ国ですらも持ち運びが可能な程の小型化は出来ていないしそもそもあっても軍用としてで民間に渡すなど想像の範囲外だ。
「そいつは何だ?」
クッダが携帯を指差して木花に聞く。
「スマホだ。ようは携帯出来る通信機器だ・・・まぁ最もかつての頃と比べて使う用途は限られたからなぁ。」
木花の言葉に2人は首を傾げる。木花の言った意味と言うのは、かつては世界中から提供されたいたサービス関連が転移により使えなくなったことで転移前と比べてかなり不便になっていた。
今は少しずつそれらの日本版が出てきて改善されていったが、未だにバッテリーの長持ちするガラケーの使用率が何気に高い。
それはさておき、木花はスマホの電源を付けてメッセージを見る。
それを見てみるとやはり井岡からのメッセージが来ていた。それを横から見てきたアリアが言う。
「それはニホン語か?なんて書いてあるのだ?」
「・・・井岡から連絡です。どうやら俺達がここに着く前に怪しげな集団が屋敷に入っていたとか。」
「イオカから?まさか本当にこれで距離が離れた相手からの連絡が?」
「そう言ってるじゃないですか。」
「ニホンにかような便利な物があるとは・・・列強とは凄まじいな。」
アリアが感心するように呟いているのを見たクッダは呆れたように言う。
「アリア全くお前は・・・そんなことよりも怪しげな集団?他に情報はないのか?」
「少し待て・・・他には大量の荷車も入ったらしいな。」
「荷車だと?一体何のためにだ?」
クッダの言葉に木花が代わりにメッセージを送って確認させる。
「ちょっと待て・・・駄目だ、中身は不明らしい。だが、荷車と一緒に警備兵も着いていた、だそうだ。」
これに3人は再度顔を見合わせる。明らかにただ事ではこの状況に疑問が尽きない。
「チェーニブルの紙幣を移動させる為・・・とか?」
アリアがそう口にする、それに木花が首を横に振りこう反論する。
「いや、大金とは言っても何台もの荷車を使う程の数でもないし、あの様子だともっと別の狙いがありそうだ。」
「なら、一体何なんだ?何故この日にここまでの警備体勢をする必要がある?」
「・・・分からないなら答えは簡単だな。」
「その通りよ。」
クッダがやや困惑してように言う。
「お、お前ら・・・まさかだが・・・」
それに木花とアリアが珍しく互いの意見が合ったようで2人は目を合わせてクッダにこう言う。
「「直接調べる」」
その言葉にクッダは顔を手で覆う。
屋敷を取り囲む数メートル程度のレンガで造られた壁を難なく登り降りると3人は警備の目を潜り抜け屋敷へと近付いていく。
敷地内にある庭園を抜けて屋敷の複数ある裏口の扉へと近付くことに成功した3人は顔を見合わせて頷く。
クッダが扉のドアノブを握る。だがそこから回らない。
「やはり鍵が掛かってるぞ。壊すしかない。」
「待て。そう言う時の便利グッズがある。」
クッダの言葉に木花は懐を探りある細長い棒状の何かを取り出して扉の鍵穴へ差し込む。
そして木花は、その棒の反応を見て少しずつ回していく。
ガチャッ
鍵穴から音が聞こえると木花はドアノブを握り回す。すると扉は開いていた。
「開いたぞ。」
それにクッダが驚いた様な表情をして木花にその棒状の正体を聞く。
「なんだそれは?そんな簡単に開くのか・・・」
「こいつか?これは俺の国のピッキング道具でな。俺の所では余り使ってないなんだが、昭和世代の連中はだいぶお世話になってるらしいな。」
木花が使ったのは確かにピッキング道具だが、業者が使ってる様な物ではなく、いわゆる裏の人間御用達の特殊なピッキング道具だ。これがあれば大抵の鍵穴なら殆ど使える。
最新式のは電子機器専用のもあるが、今回は原始的な鍵しか使われてないだろうと予想して持ってきていた。
「・・・にしては随分と手慣れていたがそれで一体どれだけの悪事をしたのだ?」
アリアがそうジッと木花を見つめる。大方録でもない事にしか使って来なかったのだろうと見ているのだろう。まぁ正解だが。
「まぁそれは後ででいいでしょうや。中に入りましょうお嬢様?」
「ふん、後できっちり問い詰めておこう。」
そう言いアリア達は滑るように中に入る。一応夜も遅いので中は灯りが付いていても少し暗い。無駄に装飾品といった備品も多いので隠れる場所には困らない。
次々へと扉を開けてはその部屋を物色するが、目的の物と怪しげな物は見付からない。
これで一体何部屋目になるだろうか。3人は慣れきった様子で部屋を調べる。
「・・・ここにも無いぞ。心当たりは本当にないのか?」
クッダの言葉に木花は彼に背を向けて棚を調べながら言う。
「一応だが1階まで運んだのは確かだ。この部屋で1階はあらかた調べた筈だ。と、すれば次に怪しいのは・・・」
「地下か・・・」
「まぁ王道と言えばそうだろう?本命はそっちだ。」
「なら、速く言えよ。」
クッダの正論に木花は苦笑いで応える。本音はこの屋敷の高価な品を物色していたからだとは口が裂けても言えない。
床を調べていたアリアが立ち上がると2人にこう言う。
「ならば話は決まりだな。地下へ行こう。案内は出来るか?」
アリアの言葉に木花は勿論だと言わんばかりに頷く。そして頭に人差し指を向けてこう言った。
「ご心配なく。この家の設計図は頭に叩き込んでありますので。」
長い廊下を歩きとある扉の前まで行くとその扉を見て木花が2人に言う。
「この扉ですね。この先に地下室への階段があります。」
「そうか。なら先行してくれ。」
アリアの言葉に木花は素直に頷くと扉を開けてその先の階段を一段一段を確実に降りていく。
地下室は完全に照明が消されており、辺りは真っ暗だ。それを3人は各々の照明道具を使い照らす。
地下室が露にしたのを見て3人の動きが止まる。表情を見てみると目を見開いて驚愕しているのがわかった。何故ならば・・・
「これは・・・」
「なんてこったい・・・あの警備はこれが理由か。」
「・・・」
3人が見た物、それは目の前にある大量に積まれた何束もの紙幣・・・ではなく地下室全体に囲まれた物だ。
壁には棚が設けられており、それらは全て・・・武器であった。それも大量の銃だ。火縄銃ではなく列強が使うような連発式の。
何処を見ても銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、呆れる程の数だ。
壁だけでなく中心側の紙幣の隣に大量の木箱が置かれており、中身を見ればやはり銃だ。
「何故これだけの銃が・・・」
アリアがそう思わず呟く。それはまるで何か怯えたようだ。
「・・・ッ!?アリア!これを見てみろ!」
クッダが何かを見つけたらしくアリアは慌ててクッダの元へと走る。木花も周りを見渡しながらついていく。
「師匠、何を見つけたのですか!」
「アリア・・・あれだよ。」
アリアと木花がクッダの視線の先を見て更に驚愕した。
「っ!?まさか・・・」
「っ!おいおい・・・」
(冗談じゃないぞ。あの野郎、なんてものを置いてやがる。)
その先には大砲が置かれていた。それはアリアとクッダが見れば恐ろしい程の巨大で、見たこともない大砲だが、木花だけは見覚えがあった。
「野戦砲・・・」
木花はそう呟やいてしまった。その言葉を聞いた2人が詰め寄ってくる。クッダが胸ぐらを掴み近くにあった木箱の壁へ叩きつける。
「ヤセンホウとは何だ!?お前達の国の兵器なのか!?応えろ!!」
「ぐおぉ・・・てめぇ離しやがれぇ」
クッダが両腕で木花の胸ぐらを掴み木花は呼吸が出来ない程の力で締め付けてくる。それを見たアリアが慌てて止める。
「師匠!落ち着いてください!これでは話が聞けません!」
それに慌てて手を話すクッダ。木花は咳き込みながらクッダを睨み付けた。
「ゴホッ!ゴホッ!・・・お前、死にたいのか?」
木花はクッダに一歩近付きそう吐き捨てる。それをアリアが宥めてこう聞く。
「そなたも落ち着け!・・・それよりもこれを知っているのか?そなたの国の大砲・・・なのか?」
アリアの質問に木花は落ち着きを取り戻したのか、深呼吸をしてから応えた。
「正確には違う・・・筈だ。俺の国にこんな大砲は
見たことがない。少なくとも自動化が進んでいる今では使われてないタイプ・・・だと思う。」
「なんだその曖昧な答えは!言え!何を隠しているんだ!」
「本当の事を言ってるんだ!!俺は別に軍事マニアでも無いんだ!知らないのはしょうがないだろ!」
クッダからの文句に木花は怒りを露にして反論した。木花もただネットとかで偶然目にした写真や動画を軽く見た物と似ていたから口にしただけで細かい情報など知る筈がない。
だが、これを知るものが見ればこう答えたであろう。
これは、まるで21cm Morser18じゃないか
Morser18・・・かつて第二次世界大戦中のナチス・ドイツが正式採用した211ミリの重臼砲である。
そしてナチスと似た技術形態を持つ国はこの世界では1国しかいない。
ガントバラス帝国だ。
ならここの屋敷はガントバラス帝国が裏で支配しているのか、と言われればどうもそうは言いきれなかった。その理由は
「っ!これはレムリアの銃だぞ!?」
「師匠!これはジュニバールの兵が持っている銃です!どうしてこんなに・・・」
何故ならばこの地下室には列強のあらゆる武器が揃っていたのだ。
ガントバラス帝国は勿論のこと、レムリア連邦・ジュニバール帝王国・ガーハンス鬼神国・チェーニブル法国はてはオーマバス共和国にディネートモル首長国やパースミニア王国のものまで。全ての列強の武器がここにはあった。
2人が余りの事態に驚いているなか、木花はとある木箱の中を見て呆然としていた。
(な、あり得ないっ!・・・どういうことだ!?何故ここにある!?・・・)
木花はそれを見て冷や汗が止まらないのを感じていた。そして鳥肌も既に立ちっぱなしだ。
彼が見た物。それはここには決してあってはならないもの。木箱の中から『それを』震えた手に持ち立ち尽くす。
名前までは知らないがテレビやネットでも実際に見たことは何度もあった。
彼の手には『20式5.56ミリ小銃』が握られていた。言うまでもなく旧陸上自衛隊のそして現日本国防陸軍が主力として使用している小銃だ。
それが彼の目に映るだけでも5丁ある。木箱は1箱しか無いのでそれで全部であろう。
彼の背中に何かが走るような寒気を襲う。この地下室には全ての『列強国』の武器が揃っている。それは例外なく日本の武器すらをも。
中にはどうやって運んだのか分からない程の巨大な大砲が何台もある。
3人は集まり話し合う。
「不味い・・・不味すぎるぞ。ここは明らかに異常過ぎる。」
クッダの言葉に木花も深刻な表情で頷く。彼の顔は冷や汗が流れている。
「あぁ同感だな。ここにはどういう訳か列強全ての武器が揃ってる。一介の財務長官じゃあこんなに集めれる訳がない。とんでもない存在が後ろにいるぞ。ましてやあの大砲なんざどうやってあの狭い階段から入れたのか全くわからん。その理由もさっぱりだ。」
「分解していれたとか?」
「あの大砲の土台部分を見てみろ全部分解した所であの狭い階段に入る訳がないし、人の手で持てる筈がない・・・あの野郎何を隠してやがる?」
「・・・ひとまずここを出よう。」
アリアの言葉に2人は同意するように頷く。その瞬間、木花の持っていたスマホが振動音が響く。潜入の為にマナーモードにしていた筈だがバイブモードのままだったらしい。
着信音だと察した木花は急いでスマホの画面を見る。どうやら外で見張っていた井岡からなので耳にかざす。
「俺だ。どうした?・・・なんだと!?・・・わかったお前達は手はず通りにやれ。」
木花のただならぬ様子にアリアが聞く。
「どうした?イオカからなのか?何を言っていたのだ。」
アリアの質問に木花は背中に掛けていた銃を手に持ち装填をしてから答える。
「外の警備兵の様子がおかしい・・・どうやら潜入がバレたようですね。」
それにクッダが驚きの声を上げる。
「なんだと!?」
「幸いにも俺達の居場所までは気付いていないようですね。最短ルートで外へ逃げます。手下達がもうすぐ屋敷の近くで騒ぎを起こすのでその隙にいきますよ。」
その言葉に2人も背中に掛けていた銃を取り出して装填をする。その様子を見た木花はこう言った。
「良いですね?それじゃあ行きましょうか。」
「頭から指示が出たぞ!急げ急げ!!」
さっきまでスマホで会話していた井岡が舎弟達に合図を出す。
それを確認した熊光組の子分達は動き出す。木花達のいる屋敷に近い大型の建物に油を蒔いて火を付けて大声でこう叫んだ。
「火事だあぁ!!」「火事だぞ!!急いで水を持ってこい!!」
その叫びに付近にいた住民達が気付き家から出ると大騒ぎとなった。彼等は慌てて水の入った容器を持ってきて消火活動に入る。
「火防庁を呼んでこい!急げ!」「あんたぁ!急いで水を持ってきな!」
まだ木造建築の多いこの街では少しの火事で大規模な大火事へとなる可能性が高い。その為住民達は総出で消火活動を行う。
数百人単位で増えていく彼等は近場の水場を探していく。そしてその内に木花達のいる屋敷へと近付いていく。それを警備兵が必死に止める。
「こ、こら貴様等!門から離れんか!ここは財務長官の屋敷たぞ無礼者め!」
「そんな事を言ってる場合か!!火事なんだぞ!こういう時は水を出すもんだろうが!」
「そうだいそうだい!あんなに広い庭園を造ってるくらいなんだなら井戸なんて沢山あるんだろ!ならさっさと中に入れろ!」
「ふ、ふざけるな!こっちは今それどころじゃないんだぞ!!」
「それどころじゃないだと?この馬鹿野郎!あの火事が見えねぇのか!?てめぇをあの火で焼き殺すぞごらぁ!!」
「井戸は限られてるってのにこれだから貴族様なんて嫌なのさ!さぁさぁどきな!」
「ま、待て貴様等、勝手に入るな!!」
警備の兵士が止めるのも聞かずに住民達は門をこじ開けて庭園の井戸へと駆け込む。あっという間に何百人もの侵入者が現れたことにより屋敷は大混乱である。
「よしっ行くぞ!」
それを見ていた木花達が全速力で駆け抜ける。3人に気付いた警備兵が捕らえようと動くが押し寄せる住民達に押されて近付けない様子だ。
「あ!そこのお前ら待て!く、糞!貴様等、道を開けろ!」
騒ぎに乗じて何とか屋敷から脱出した木花達は井岡達と合流する。
「頭っ!ご無事でしたか!金の回収は失敗ですか?でもご無事で何よりです。」
井岡からの言葉に木花は歩きながら答える。
「なんとかな・・・それよりも此方にこい。」
「え?な、何でさぁ?」
木花は井岡の肩に手をまわり端へ寄る。そしてスマホの画面を彼に見せる。
「これを見てみろ。」
スマホの画面を井岡は見る。それにはあの地下室が写っていた。木花はあのときにスマホのカメラで撮影していたのだ。
「これは・・・武器庫ですか?一体どこの列強の基地を撮っていたんです?」
井岡はそう聞く。だが、木花の答えに彼は驚くことになる。
「違う。あのジン・ソイトの野郎の地下室だ。奴は武器を隠し持っていやがった。」
「えぇ!?あの野郎がこれだけの武器を!?」
「それだけじゃない。この真ん中の写真を見ろ」
木花は画面の真ん中を指差して見せる。それを見た井岡は更に驚く。
「っ!20式小銃!なぜ国防軍の武器が!?」
その言葉に木花は瞳を閉じてため息を吐く。自分の予想があっていたということに。
「やはり日本産で間違いないか。」
「えぇこれは間違いありません。でもどうして地下室にこんな物が・・・」
「横流し品・・・って奴か?」
木花の言葉に井岡は首を横に振った。
「自衛隊の装備はアメリカやロシアよりもずっと厳重に管理されているんですよ?ましてや転移以降は更に厳しくなったいます。」
井岡の言う通りに日本の国防軍の小銃は全てがコード登録されており、万が一紛失すればすぐに判別が付くようになっている。
「大連合戦争で殺られた隊員もいる筈だ。そいつらの死体から剥ぎ取った可能性は?」
「まぁ0では無いでしょうけれど・・・死者数は少ないので国が殆ど回収してるはずです。」
井岡の言葉に木花は答えが出なくなり悪態をつく。頭をかきむしりこう言った。
「くそっ!・・・奴は一体何者なんだ?」
木花は暫くそうしていると何か意を決したように言った。
「・・・よし、決めた。」
井岡は嫌な予感がした。こういう時の頭はたいてい危険なことを考えるからだ。
「ど、どうするんです?」
「野郎を拐うぞ。取っ捕まえて情報を吐かせる。」
「や、野郎ってまさかジン・ソイトでは無いですよね?」
ダメ元でそう木花に聞く。どうか違うと言ってくれと願う。
「ジンの野郎に決まってるだろうが。」
「正気ですか!?奴はあれでも財務長官ですよ!しかもあの様子では絶対にとんでもない組織が後ろについているんですよっ!!これ以上関わってはいかませんって!」
「その奴は俺達を消そうとゲーソイ等を送ったんだぞ?奴等が失敗したのは当然野郎も耳に入ってる筈だ。また野郎が何かをする前に捕まえる。」
「組長になんて説明するんですかぁ?絶対認めませんですって!」
井岡はそう懇願するように言う。だがそれを突っぱねるように木花は言う。
「組長には内密で行う。余計な心配は掛けたくない。お前が組長に言うか?その場で間違いなく詰められるぞ。」
そう木花に言われて井岡は倒れそうになる。暫く考えていると木花がこう口を開いた。
「嫌ならお前は降りろ。これは俺だけで進めるだけだ。」
その言葉に井岡は何かを諦めたようにこう言った。
「あぁ~もうっ!・・・分かりましたよ!やれば良いんでしょう!やれば!?」
井岡の言葉に木花はニヤリと笑いこう言った。
「そうだ。分かってるじゃないか、流石は俺の子分だ。」
「けど、どうするんですか?あのアリアさん達と連携して拐うんですか?」
「・・・野郎は俺達だけで拐うぞ。部外者は余り入れたくない。」
「分かりました。いつ拐うので?」
「宮中への帰りだ。人通りの少ない所でやる。屋敷の見張りも怠るなよ。」
「勿論です!頭!」
それから木花達は各々の場所へ戻り眠りにつく。
そして日が明けてソウバリン全体を揺るがす情報が流れた。
街中で新聞配達をする子供達が号外と叫びながら新聞を撒いていく。
それを大通りを歩いていた日本大使館の職員の1人が拾い呼んで驚愕する。そこにはこう掛かれていた。
『外部大臣ハン・サウォン、軍部大臣イン・ソバルそして列強国の実業家複数人が暗殺される。犯人は反列強同盟か?列強との緊張が高まる予兆』
それを呼んだ職員は慌てて大使館へと向かって走る。この情報を急いで岩井大使へ届ける為に。
世界を巻き込む大事件まであと・・・1か月
次回は久しぶりの岩井大使側へ移ります。
いかんな・・・戦闘回の内容は考え付いたけれどそれまでの話の流れが複雑になりつつある・・・
今の予定ではあと3話で大事件に繋がりそうだけれども・・・




