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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第54話 混ざり合わぬ2人

第54話 混ざり会わぬ2人



パンっ!・・・パンっ!・・・パンっ! 


何発もの破裂音が山々に響き渡る。ここソウバリンから比較的近くにある山のとある場所にて反列強同盟の拠点で銃の訓練を行っていた。


木々が生い茂っている場所で隠れるように丸太で造られた砦の中では数十人もの人々が銃を手に持ち、構えた先にある標的に狙いを定めて発砲する。


「駄目だ!もっとしっかり狙いを定めろ!」


「そこのお前!なんだその構えは!ちゃんと肩に銃底をつけろ!」


そんな訓練をしている者の中に数人程の男達が怒号を上げていた。聞いてみる限り、彼等の教官のようだ。


しかしその男達はこの砦にいる者達とは少し違っていた。


この反列強同盟の者達の多くは仕立ての悪い平民が着るような麻布の服だが、教官の男達はそんな彼等とは明らかに仕立ての良い服を着ていた。


彼等は熊光組の組員であり、数日前にこの砦の者達に武器を売った男達だ。


反列強同盟の者からすれば強力な武器を手に入れたのは良いが、今までの火縄銃とは勝手が違うため供給元である熊光組に講師役を送って貰っていた。


だが、反列強同盟の者がその列強の者に教えて貰うなど、どう考えても可笑しい話だ。そもそも彼等に武器を売ること事態が自分達の首を締めるような愚行である。


最初、彼等に武器を売ることに熊光組の内部でも反対意見が出ていた。というよりもその意見が殆どを占めていた。


しかしその意見は全て、太田組長が決行すると言うと、誰もが黙った。


極道とは地球世界から見ても異様な程の中央集権型社会である。


海外では複数の権力を持った幹部達がそれぞれの場所で組織を管理しているのが主流だ。しかし日本の極道は極少数の者だけが絶対的な権限を持つシステムだ。


極道は親と子の関係である。つまり親の言葉は子からして見たら絶対でありそれに反抗することは許されないのだ。子である分際で親に逆らえば非常に重い罰を与えられ、下手をすれば極道社会から追放されても可笑しくない程だ。


そんな親である太田組長からの言葉に組員達は納得するしかない。しかし一部の役職持ちの組員等は熊光組の2番目の地位にある木花若頭に考え直すように進言したことごあった。


木花も同じような考えであった為に一度だけ太田組長にそれを遠回りに言ったことがあった。


結果は散々だった。


太田組長の逆鱗に触れてしまい、木花は数人の若頭補佐等の前で木刀で流血する程の暴行を受ける羽目になった。


気絶寸前の所まで殴られたが、それで怒りを幾分か収まった太田組長はただ一言「失敗したら今度は絶縁にするぞ。」と言い、去ってしまった。


絶縁という極道社会では最も重い処分を受けると言われれば彼等はもはや全力でそれに成功に導かねばならない。


組長の行いはとても残酷なものだが、向こうにもそれなりの事情はあった。


上からのつまり親組織である武竜会から太田組長に上納金を上乗せしたきたので、太田組長は何がなんでも金を稼いで上に貢ぐしかないのだ。


もし出来なければどうなるのかを知っている太田組長は今回の取引を行うように命令したのだ。だからといってその暴行を看過できるようなものではないが、木花もその事情は知っているのでそれで納得していた。


「ただもう少し手加減して欲しかった。」


後に誰も居なくなった場所でぐるぐるに巻かれた包帯を見てそう1人呟いたが、それはまた別の話。


そんなこともあり、木花達はこうして顧客を手に入れて金を落とさせていた。


一方で反列強同盟側もかなり危ない橋を渡っていた。列強のしかもならず者を自分達の拠点に招き入れるなど正気の沙汰とは思えない行為だ。


事前の打ち合わせで講師役を連れてくると言った際に、仲間のほぼ全員が反対をしていた。


だが、無理ならば取引きはしないことを言われ、彼等は迷った。


彼等から手に入る銃はどれも強力で、この国にいる列強の兵士達と互角に戦えるのは非常に嬉しい話なのだ。自分達の火縄銃では勝負にならならいし、まずどの組織もそんな銃など売ってくれる筈がない。


だが、どういう訳か見た目を見る限りニホン人らしき者はその武器を売ってくれると言った。


しかし自分達の拠点を知られる訳にはいかない。そこで考えたのは仮拠点だったこのを射撃訓練だけの場所として、本丸は彼等に教えないことにしたのだ。


そこから更に互いの連判状を書き、それを渡すことで一先ずは納得した。


もしどっちかが裏切れば両者ともに窮地に立たされるので裏切れない状態になった。


反列強同盟は列強国から熊光組も他の列強国から睨まれることになるのでこれに同意した。


一応これにも熊光組内部でこっちが危険過ぎると意見が出たがその者達は太田組長にきは木花と同じような目にあい、それは黙殺された。


そんな複雑な事情でこの砦は現在、両勢力の者が滞在していた。


その中には木花も一緒にいた。彼は砦の中に設けられた小屋で椅子に座り目の前にいる先の取引にいた老人と話していた。今はもう互いに顔は隠していない。


この老人、ヨルボンという男はここの組織の長の立場らしく木花達を監視していた。


「しかしおぬし達は一体どういうつもりじゃ?」


ヨルボンからの言葉に木花は聞き返す。


「どうとは?」


「何故わし等に武器を売る?同じ列強として何か思うことはないのか?これでおぬし等の仲間を殺すのだぞ。」


それに木花は本心を隠して笑う。


「はっ、仲間ね。俺達は連中に仲間意識なんざ持っていいないよ。」


「なに?」


「ガントバラスもチェーニブルもそれそこ日本政府も俺達は信用なんざしてないさ。」


「列強も一枚岩ではないことか・・・」


「そう言うことだ。俺達は金儲けさえ出来れば良いんだよ。まぁ後はその武器を此方にさえ向けることさえなければな。」


「おぬし達が裏切らない限りはそれはしない。だからこそ・・・」


ヨルボンは前に寄りかかってこう言った。


「もっと銃が必要じゃ。」


「欲張るな。確かに少ないのは分かるが、まずは信用を築いてからだ。今よりもな。」


木花はそう言う。大金を払ってくれるのは有り難いが、余りにも急にあれだけの銃を彼等に渡せば裏切ってくる可能性が高い。


(それに、此方も在庫に余裕はないんだがな・・・)


先代組長が遺した銃器の在庫は多くない。いや、本来ならばもっとあった。しかしそれらは転移前の海外の別荘にある。


しかし転移により殆どを実質的に失ったのだ。管理する側からしたらそれはそれで良かったのだが。


それを知ってか知らずかヨルボンはしかめっ面で口を開く。


「レムリアの銃も良いのじゃが、ちと状態が良くない気がするのじゃ。」


「あれでも状態が良いのを選別して持ってきたんだぞ?」


「・・・どうも不具合が多いようでな。既に2丁が使い物になっとらんぞ。」


「ふむ・・・使い方に問題があるんじゃないか?」


「おぬし等の講師の教えの上でやっとるのじゃ!」


ヨルボンはそう怒鳴り机を強く叩いた。それに木花は宥めるように言う。


「まぁ落ち着け、お宅等は最近になって銃を使うようになったらしいじゃないか。そんな中で俺達の教えを無視して勝手なことをしてる奴だっているんじゃないか?」


「あくまでもそっちに非はないと?」


ヨルボンは木花を睨み付けてそう言う。返答次第によっては掴みかかってきそうな様子だ。


「そうは言ってないさ。可能性の一つとして挙げただけだ。」


「ふん・・・レムリア製の銃はこれっきりにしたい。また同じことが起きたら困る。」


「なら、どうするんだ?」


「おぬし達が使っている銃を買いたい。それならば安心は出来よう。」


論外だ、そう木花は心の中で呟いた。彼等にとってそれは幾らなんでも危険過ぎる。


連中の裏切りの心配もあるが武竜会がそれを許さないだろう。それをやったとバレれば間違いなく絶縁処分だ。


「はっ馬鹿も休み休み言え。お前等に売った所で使いこなせる訳がない。それに俺がそこまで信じるとでも?」


「この国の状況は分かっておろう?」


「俺には関係ないね。」


「おぬし達も金を稼ぐことに必死である筈だ。わしらの様な客はいなかろう?」


「どうせお前達の資金源は保守派共からの支援金だろ?」


「気付いておったか。」


「誰だって気付く。お前ら平民にあれ程の金をかき集めるのは不可能。だとすれば後ろ楯がいる、そへもかなりの大物がな。大方、宮中のお偉いさんだろうよ。」


「さてな。」


ヨルボンがそう濁すと暫く静寂の時間が流れる。互いに腹の内を探ろとしているのだ。


そうして数分程、待っていると扉からノックが聞こえた。中に入ってきた反列強同盟の男がヨルボンにこう言った。


「ヨルボンさん、その、客人が来られました・・・あの方々です。」


「なに?」


ヨルボンはそう反応する。木花は彼等の反応を見てこう判断する。


「俺達には会わせたくない人物かな?よそうや隠し事なんて良くないぜ。俺達の仲じゃないか?」


木花の言葉にヨルボンは睨むと、木花は軽く肩をすくめる。


ヨルボン達が外に出ると木花も追うように小屋から出る。


外に出た木花をヨルボンは険しい声で話し掛ける。


「おぬしは中で待っておれ。」


「そう言う訳にもいかないさ。お宅が何か怪しいことをしないか確認しないと。」


「もう一度だけ言っておく。中で待っておれ。」


そのヨルボンの言葉に近くにいたヨルボンの仲間数人が木花に一歩近付く。


「・・・そっちがその気なら俺達も黙っていないぞ?」


そう木花が言うと彼は左手を上げる。すると講師をやっていた木花の子分達が集まりだす。


互いに一発即発の状態になると辺りは時が止まったかのうように全員が動きを止める。


そんな状況を打開するように乱入者が現れた。


「一体何事です?叔父さん。」


睨みあっていたヨルボンと木花との間に割って入るように1人の男がヨルボンに声を掛けた。


「クッダ・・・」


ヨルボンがその男の名前らしき言葉をつい出すと木花は彼、クッダに視線を向けた。そして心の中でこう呟く。


(似ている・・・)


つい先日、銃で構え合っていた身元不明の人物と雰囲気と声が似ていた。とは言っても何となくという感覚程度で姿も目元しか見えていなかったので確証には至らない。


と思っていたがそのクッダの後ろにいる人物を見て木花は思わず目を見開く。


(!?こいつはっ!)


忘れる筈も無い。あの時、押さえ付けた狙撃手の女がいた。それもスカーフを外した状態で。しかも街で見かけたキム領政官の娘じゃないか。


「!?・・・何故ここに!?」


その女性ことアリアとクッダもまさかこの場所に木花がいるとは思っておらず、ついそう言葉を出してしまった。


アリアはあの時とほぼ同じ格好で木花が間違える筈が無かった。


「久し振りかな?とはいっても1週間も経っていないがな。まさかこんな所で合うとは・・・」


その言葉にヨルボンは事情を察したのか仲間達に軽く手を上げて合図を送った。


その合図の意図を察した仲間達は武器を木花達に構える。クッダ達も木花に銃を向ける。


「クッダ!こいつと何かあったのか!?」


ヨルボンは怒鳴るようにクッダにそう聞く。その返答次第ではすぐにでも木花達を始末する気が見える。


「叔父さん!何故こいつがいるんですか!?」


「質問に答えろ!こいつはお前達の敵か!?」


「おいおい・・・いきなり武器を構えるとは穏やかではないな。」


木花はそう言って両手を挙げているが、子分達は拳銃を彼等に構えている。何時でも発砲出来るように鋭い視線を向けて。


「てめぇらっ!頭に武器を向けてるんじゃねぇ!」


「頭!こっちに下がってください!」


先ほどよりも険悪な状況となった様子を見て木花はこう彼等に対して言いはなった。


「両者共に武器を下げろ・・・そっちもここで俺達が帰らなくなったら街にいる子分達が黙ってないぞ?」


その言葉にアリアがこう木花に言う。


「ここで貴方達を消せば誰もこの場所は知らないわ。」


そう言って木花へ銃口を突きつける。


「やれやれ・・・そこのヨルボンは俺達に連判状を渡したんだぞ。俺達が死ねばその連判状を役人に持っていくだろうな。改新派の役人にな。」


その言葉にクッダが怒りの言葉をヨルボンに向ける。


「どいうことですか叔父さん!?まさか本当に渡したのですか!?なんてことを!!」


「落ち着くのじゃ!!そっちの連判状も持っている渡せば向こうも終わりじゃ!!」


「確かにそうだが・・・そっちは志し半ばで皆殺しだぜ?後ろ楯となっている有力者も不味い立場になるだろうな。」


「っ!こいつめ!」


木花の言葉に仲間の1人がそう発する。だがヨルボンがそれで落ち着きを取り戻したのか武器を下げるように言う。


最初は彼等は抵抗するがヨルボンに再度言われると渋々といった感じで下げる。


「クッダ、お前達も武器を下げろ。」


「叔父さん・・・よりにもよってこいつらと手を組んだ訳ですか!」


「互いの事情は後で聞く。だから一先ずは武器を下げろ。」


それでクッダ達も武器を下げる。それを見た木花も子分達に武器を下げさせる。










「・・・取り敢えず、事情を聞こうか。」


先程の小屋でヨルボンとクッダ、アリアと木花そしてその子分である2人の男が机を間にして向かい合うように椅子に座る。


最悪な空気の中、両者が事情を説明する。




両者から状況を聞いて完全に今の状態を把握したヨルボンは天を仰ぐように視線を天井に向ける。


「う~む・・・複雑な状況じゃな。」


ヨルボンの言葉に木花は同意するように言う。


「全くだ。まさなあんたの甥がお前だとはな?そしてそのお嬢さんはかの名家であるキム領政官の娘さんだとはな。世界は狭いな、呆れるほどに。」


その木花の言葉にアリアとクッダは苦虫を噛み潰したような表情になる。そこからアリアが木花に問いかける。


「・・・そなた達は一体何の積もりか?まさか本当に金儲け為だけで列強を裏切るような行為をしているとでも?」


アリアの疑いの言葉に木花達は「こっちの事情も知らないで・・・」と少し不快げな気分になるが木花はそれを気にせずにこう言う。


「そのまさかなのですよお嬢様。我々は日陰者、そんな者達が生きていくには金が必要なのですよ。そちらが高値で買うなら喜んで武器を提供させて頂きます。」


その木花の言葉にクッダが不快げにこう言った。


「はっ、こんな奴等が列強だとはな・・・この世界は腐っている。」


それに対して木花の子分がクッダに侮辱するようにこう言った。


「そういうもんだろ?お前達もさっさと諦めたらどうなんだ。無駄な抵抗だろうよ。」


それにクッダが怒りを露にして怒鳴る。


「なんだと!!」


「本当のことだろうが!!」


「師匠!落ち着いてください!」


「井岡、余計なことは言うな。相手はお得意様なんだぞ?」


それにアリアと木花が互いに仲間を宥める。


(さて・・・どうするかね?)


木花は今後の展開がどうなることかと思考を巡らす。向こうの言い分だとアリア達はクッダの叔父であるヨルボンの元へ様子を見に来たら聞き慣れない銃撃音が聞こえてこうして急いで砦に入ってみたらこうして木花達と出くわしたという。


よりにもよって最近、撃ち合った木花と顔を晒して再会してしまった故に非常に気まずい。


「叔父さん、こいつらとは縁を切るべきです、相手はクッコウグミですよ!」


クッダが木花達の目の前でそう言う。


「じゃが、彼等以外に我々に武器を売ってくれる者は他にいないのだぞ。それに既に取引は完了している。」


「そう言うなら武器を構えないで欲しかったな。」


木花がそうヨルボンに皮肉を言うと彼は顔を伏す。


「とにかくだ!今日をもって互いに協力し合おう、もはや我々は手を組んだのだ。」


ヨルボンが開き直るようにそう全員に言った。木花達もアリア達もまだ言いたいことはあるが、今言っても水掛け論になるだけだと察して一先ずはそれで納得した。


それを見たヨルボンは逃げるように小屋から出た。それに木花達も続くように小屋から出る。


木花が子分を連れて小屋から少し離れた場所まで歩くと先程の井岡が木花に声を掛ける。


「頭、よろしいのですか?あの女はかなりの腕前だと聞いてます。連中の仲間とすればあれらの銃も

当然、あいつの手に渡ります。余りにも危険では?」


「ならどうしろと?組長に何て言う積もりだ?『取引はご破算です。申し訳ありません』と言うのか?すぐに俺達は殺されるな。」


その木花の言葉に井岡は黙ってしまう。確かに成功したと組長に報告しときながら今さらやっぱり駄目でしたと言えば間違いなく録な未来が待っていないであろう。


「結局のところ・・・組長から命令されれば俺達はその通りにやるだけだ。例えそれが俺達の首を締めることになろうとな。」


「正直言って組長は・・・後のことを考えていないんてすよ。上にすり寄ろうと必死で・・・」


「おい」


そうもう片方の子分が組長に不満を言っているのを聞いた木花は行動に出る。


木花はその子分の顔面を思いっきりぶん殴った。


ドゴッ


「ぐわっ!」


突然のことに子分は思わず後ろに倒れてしまう。それを木花は怒りの表情でこう言う。


「てめぇ・・・この世界の掟は知っているだろ?今度また組長の不満を言えばその時は容赦しねぇ。」


それに殴られた子分は慌てて頭を下げて謝罪する。


「す、すいません頭!もう二度と言いません!!」


「当たり前だ。絶対に言うな。」


木花はそう言って近くに置かれていた木箱に座る。すると誰かが木花に声を掛けた。


「ずいぶんと容赦がないな。ニホン人は皆、そなたのように傲慢なのか?」


「あ?」


木花が声が聞こえる方を振りかえるとそこにはあのアリアが立っていた。


「ふん、誰かと思えばお嬢様か。隣に座りますか?」


「結構だ、隣に座ってそなたの傲慢な性格が移ると困る。」


「そうですか。なら、このままで失礼しますよ。」


木花はそう言って足を組む。名家の娘に対してのその態度にアリアは眉を潜めるがそれに構わず木花はこう問いかけた。


「それで私に何か御用ですか?」


その質問にアリアはじっと木花の顔を見てこう言った。


「・・・そなたが噂に聞くクッコウグミの頭、キハナなのだな?」


「大貴族のお嬢様でも私のことをご存知でしたか。畏れ入りました。」


「悪名高きクッコウグミだ。嫌でも耳に入る。好き勝手にやっているようだな。」


「ずいぶんと人聞きの悪い、少なくともそこらの列強の軍人よりかはマシだと思いますよ・・・あぁそういえば・・・」


木花はそう言う。そして思い出したかのようにこう続けた。


「司憲府の長官の暗殺に比べれば我々の悪行など生温いでしょうよ。暗殺者様?」


その言葉にアリアは軽く笑いこう言った。


「ふむ、たいした口だな。私に撃ち殺されないように気を付けた方が良いぞ。私の腕はそなたも良く知っておろう?」


アリアがそう言った瞬間、井岡達2人が殺気を彼女に向ける。


「止めろお前ら。相手はキム家のお嬢様だぞ?」


「しかし頭・・・わ、分かりました。」


木花が睨むことで井岡達は殺気を解除する。


「手下がすいません。」


「構わん元よりならず者に礼儀など期待していないからな。」


それに木花は確かにと思い苦笑いする。


「・・・それで私の正体を確認するだけですか?」


「いや違う。単刀直入に言おう・・・どうすればより良い銃を売ってくれる?」


「さっきまで散々悪口を言ってきた相手に聞きますかね?普通」


「さっきそなたは金儲けの為なら拘らないと言ったではないか?」


「そうは言いますがね・・・それでも信頼は求めますよ。売りましたその後すぐにそれで撃たれましたなんて洒落になりませんからね。」


「ならどうすればそなた達の信用を買える?」


アリアはそう言って木花の目の前に立ち腕を組み仁王立ちをする。


木花は少し考えて答えた。


「・・・今の我々は金を欲しています。それも莫大な額をね。」


「金貨を大量に払えと?」


「正確には違います。出来れば紙幣が欲しい。それも列強の。より正確に言えばチェーニブル法国ですね。」


その言葉にアリアは首を傾げて疑問の声を出す。


「法国の?」


「法国の通貨であるチェートは列強の中でも安定的な通貨でしてね。ここで手に入れた金貨と換金して別の国で日本の通貨に替えるんですよ。それが一番日本円が高く手に入る。」


木花の言う通りにチェーニブル法国の通貨であるチェートは世界的にも信頼されており、その価値は年々高まっている。


無論、通貨レートは超大国であるムーやアトランティスには劣るが、上昇率はこの2ヶ国を上回っている。


バフマン王国の金貨をこのチェートに換金する。その後、日本の影響力のあるオーマバスでこのチェートを日本円にすると4.5倍になって返ってくる。


日本の通貨は日本の経済圏内ならば高いレートで換金出来るがこのバフマン王国はその経済圏外なのでまだ価値は低い。


ムーやアトランティスもこの周辺国に進出はしていないのでそもそも換金出来る場所が少なく、そして低い。更にアトランティスは日本との交流が活発ではないので例え持っていっても換金してくれないことがある。


この周辺で最も価値が高いのが最上位列強国であるチェーニブル法国なのでその方法でやっているのだ。


「チェーニブル法国か・・・そこの金をそなた達に渡せば良いのか?」


「強引な方法を使えばあの国は更に圧力をかけてきますよ?」


「分かっておる。だがそうせずともあの国は圧力を掛けてくるのは明白。なら、こっちから仕掛けるまでだ。」


「頼もしい限りです・・・でしたらそこで耳寄りな情報をお一つ。ジン・ソイトをご存知で?」


「ジン・ソイト?財務の長官であろう?」


アリアの出した答えに木花は拍手して答えた。


「お見事です。そのジン・ソイトは長官、つまり宮中での高官にあたります。その権限を使って最近どうもチェーニブル法国の通貨を集めているようですよ。」


「なに?」


「風の噂によるとジン長官は法国に移住したがっているようで、国の金を横領してチェートと交換している。つまりは表に出せない金というわけですよ。」


そこまで言ってアリアも全てを察した。


「成る程・・・奪われても奴は泣き寝入りするしかないと。」


「そう言うことです。もし大事になれば即、禁近衛庁に連行されて死刑。」


「だが、何故そなたは知っているのだ?最近この国に来るばかりの者が。」


「私はこの国の裏社会では有名人ですよ?向こうから接触してきてその用心棒を頼まれた事があります。」


「新参者に仕事を依頼する程あの男は愚か者なのか?」


「心外な・・・それ程までに我々が評価されているということですよ。」


木花の情報にアリアは少し考えてから木花にこう言う。


「よく分かった。情報提供に感謝するぞ。」


アリアはそう言い去っていく。その様子を見ていた井岡達は木花に進言する。


「頭、正気ですか?」


「何がだ?」


「あんな連中に顧客情報を渡すなど!」


「あいつはもう顧客じゃないか。奴が報酬してきた金塊を見たか?」


木花の言葉に2人は顔を見合わせる。


「?・・・いえ見ていませんが、それが何か?」


「あの野郎・・・偽の金塊を渡して来やがった。」


その言葉に井岡達は驚く。


「まぁ偽物というよりも質の悪い金塊だったんだよ。恐ろしく質の悪い奴だ。お陰で佐原の指がとんだ。」


「な!?まさかあの佐原さんが?」


佐原は熊光組の数少ない大卒で最近、体調不良と聞いて顔を見なくなっていたのだ。


「俺の身代わりで組長に懇願したんだ。あのゲーソイって野郎を送ってきたのもあのジン・ソイトだ」


「そう言う訳ですか・・・ふざけやがって。」


「しかし、よろしいのですか?もし連中がしくじって俺達の事を喋れば・・・」


「だから後詰めとして俺もその場に行く。連中がしくじれば俺が殺す。」


その衝撃発言に井岡達は驚愕する。


「「はい!?」」


「余り気乗りはしないが、金を集めるにはそれが一番速い。」


「危険過ぎます!なぜそこまで急ぐのですか?今回の取引で一先ずのノルマは・・・」


「数週間後に応援が来るのは知っているな?」


「は、はい。本家からの方々だそうで・・・」


「それは武竜会の直系である王神組だ。」


その名前に2人は今度は空いた口が塞がらないことになる。彼等は王神組の恐ろしさを知っているからだ。


王神組・・・武竜会の幹部が組長の組で超武戦派の組織だ。それこそ熊光組よりも。


何よりもそこの幹部達は冷酷無比な連中でしかも性格は糞野郎の集団。今まで何度も傘下の組に対して金をせびっている。


それに断ればすぐに攻撃的になる。指を切るのはまだ良くて目を潰したり、上にあることないこと言って絶縁処分を喰らわしたりと悪い噂しか聞かない。


「つ、つまりさっきの話は・・・」


井岡が冷や汗をダラダラに流して木花に問う。木花もばつが悪そうに言う。


「そうだ。連中に少しでも大金を握らせて満足して貰わないとヤバいことになる。」


木花は溜め息を漏らしてからこう続ける。


「それに最近、列強国の動きがきなくさい。」


「と言いますと?」


「行商人共が噂している。沿岸都市で法国や鬼神国に帝王国そして帝国の軍艦が頻繁に出入りしているらしい。それも大量の兵士と一緒にな。」


「っ!」


「遂に連中は本格的に動き出すんだよ。かつての清国分割のようなことになるな。日本も間違いなく巻き込まれる。それまでに俺達は持てるだけの金を集めてこの国からおさらばする。」


「そ、そんな事になりますかね?」


「かつての欧米諸国を見てみろ。他国を植民地にして逆らえば軍事力をもって制圧する。しかも今回は明確な陣営で別れている。バフマン王国を占領した後は列強同士の・・・」


「戦争になると?」


「どれだけの規模になるかは分からないがな・・・だが、この国に少なくない日本人が滞在している以上は日本も関わらない訳にはいかない。」


木花はそうこの国の未来を予想する。いつかそう遠くない未来で列強同士の戦争が起きると。




世界を巻き込む大事件まであと・・・2ヶ月。




あと数話で戦闘回に持ってきたいな・・・それも大規模な。


作者・・・がんばります!

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― 新着の感想 ―
[一言] 先程の「この種類の作品でここまで裏社会の描写がある作品って他にありましたっけ?」と言うのは、他の作品との相違点や差別化できている箇所、と言う意味で決して悪い意味で言ったつもりはありません。 …
[良い点] この種類の作品でここまで裏社会の描写がある作品って他にありましたっけ? [気になる点] 極道の世界は怖いですな~ いや、日本で有名な反社会的勢力である麦わらの一味やルパン三世一味が肩書に…
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