表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
59/102

第53話 双方の事情

第53話 双方の事情



首都ソウバリンの一等地にあるこの街有数の大邸宅の誰もいない書斎に自分だけの空間となったことを確認した女性、キム・アリアは溜め息を吐いた。


「はぁ。」


アリアは先日の父との会話を思い出す。何かあれば逃げろ、この言葉がずっと引っ掛かっていた。


官職についていない彼女でもこの国がどれだけ追い詰められているのかは良く分かっている。


お忍びで屋敷から出れば至る所で列強国の軍人達で溢れ、彼等はこの国で好き放題やっている。屋台があればそこで金も払わずに好きなだけ持っていき店に入れば他の客のことなど考えずに騒ぎまくる。


道を歩く者が気に食わなければ暴力は当たり前、被害者である民は泣き寝入りするしかない。


更には列強国の犯罪組織達がこの街を勝手に取り仕切って我が物顔で歩いている。


先日も悪質な取立てを止めさせたばかりだ。あの場には他にも別の組織の者らしき人物もいた。あの時のあの男の危険な目は今でも忘れられない。


アリアは改めてこの状況を思い出して顔をその白い手で覆う。果たしてこの国に未来などあるのだろうか。


(何を言っているんだ。私が諦めてどうする!)


アリアは自分に気合いを入れる為に頬を叩く。ちょうどそのタイミングで侍女のトンニョが入ってきた。


パチッ!


「失礼しま・・・お、お嬢様!?」


恥ずかしいところを見られてしまったアリアは慌てて弁解をする。


「あ、いや案ずるな!ちと気合いを入れただけだ、他意はない本当だ!」


顔を真っ赤にしてそう言うアリアにトンニョは全て察した。どうやら誤解は解けたようだ。


「そうでしたか・・・やっぱり前のならず者達ですか?」


「あぁ、この国の行く先が不安でな・・・そうだ、何かあったのか?」


今度はアリアがトンニョに入室の理由を聞く。それにトンニョは自分の来た理由を思い出したようで、アリアに慌てて言う。


「あ、そうでした!えっとクッダさんがお見えになられましたよ。」


「そうかっ!すぐにお通ししてくれ。」


アリアは今、最も会いたい人物が来たことに今日初めての笑顔を見せてトンニョに言う。トンニョはそれに苦笑いしながら部屋へ出てクッダという男を通す。


書斎に入ってきた中年の小太りの男、クッダはアリアの前にたち、挨拶をする。


「お嬢様、ただいま参りました。」


クッダはそう言ってお辞儀をする。それにアリアは慌ててクッダに声をかける。


「し、師匠!お止めください!ここは邸宅とは言え今は誰もおりません。どうかいつも通りに。」


アリアはそう言うと師匠と呼ばれたクッダは先程とは一変、白い歯を見せてアリアに話し掛ける。


「そうか?なら、そうさせて貰おう。」


それにアリアは嬉しそうに笑う。


「はい師匠!・・・ところで本日はどういったご用件で?」


アリアはそう聞くとクッダは周りを確認してからこう言った。


「アリア・・・今日、決行するぞ。それを伝えにきた。こればかりは伝言を頼む訳にはいかないからな。今から行けるか?」


クッダがそう言うとアリアは先程の笑顔とは一変、真面目な表情となりこう言う。


「ついにですか!分かりました、すぐに準備をします!」


アリアはそう言うとトンニョとクッダを連れて自身の部屋へと行き着替えをする。クッダは部屋の外に出て待機だ。


クッダは暫く待っていると、お忍びの格好をしたアリアとトンニョが出てくる。


「お待たせしました。」


「うむ、行こう。」


アリア達の着替えが済むのを確認したクッダはアリア達を先導して速足で屋敷から出ていく。するとそこに別の初老の男性が声を掛けていく。


「ん?クッダじゃないか。それにお嬢様も・・・御二人がご一緒ということは本日も?」


彼はトンニョと同じくアリアに昔から仕えてくれている使用人のセイルであった。60を過ぎて尚も仕えているためにアリアの父親であるキム・バンウォンが娘の世話を任せるほどに。


前回の黒コートのマフィア達にアリアの身分を明かした者でもある。


そんなセイルとトンニョの2人はこの邸宅に仕えている使用人達では唯一、アリアとクッダとのある秘密を知っている者達だ。


そんなセイルの言葉にアリアは言った。


「あぁそうだ。いつも通りだから案ずるな。トンニョももうここまでで良い。」


「畏まりました。お気を付けて。」


アリアはそう言い屋敷へと出る。これで今はクッダとアリアだけとなった。


「あの2人には何だか申し訳ないです。」


アリアはセイルとトンニョに嘘を言ったことに罪悪感を感じていた。それをクッダがフォローする。


「・・・余計な心配を掛けさせない方がいい。彼等には今日も訓練だけだと安心させた方がお互いにとってはそれが一番だ。」


「はい・・・師匠、ありがとうございます。」


クッダは気にするな、とだけ言い2人はそのまま街外れの郊外にある小屋へいく。


そこはクッダが仕事に使う小屋でそこに2人は入る。そこで2人はこれからについて話す。


「師匠それでですが本当にやるんですね?」


「そうだ。お前には一通りのことは教えてやってきた。今回がお前にとって初めての仕事だ・・・やれるか?」


「もとより心の準備は出来ております。」


クッダはその返事を聞くと満足したように大きく頷き足元の鹿の毛皮で出来たカーペットを捲りそこにある隠された扉を開ける。


地下へと続く梯子を2人は降りる。2人が降りるとクッダは置かれている照明をつけて地下室を照らす。


そこは武器庫だった。中心には大きめのテーブルと壁には数丁の火縄銃と弓矢が立てられていた。隣の棚には弾丸と火薬の入った小樽が何本もあった。


クッダの猟師であった。それもかなりの腕利きの猟師だ。その腕を見込まれてキム家に肉を定期的に納入しており、そこからキム領政官と交流できた。


元は海岸線の要塞を守る兵卒として生きていた。そこで生涯を終えると思っていた。だが、そうなることは無かった。列強国がこの国に来たことによって。


奴等はこの国へとやって来た。最初は細々と交流をするだけだった。


今から15年前、列強の1ヶ国が彼の守る要塞へ8隻の軍艦を連れて砲撃をしてきた。


突然の砲撃によって要塞は壊滅状態に多くの仲間が殺された。そして彼の父親もその要塞で隊長として働いていたがその攻撃に巻き込まれて死んだ。


当時彼はまだ青年であった。しかし目の前での圧倒的な暴力に彼は恐怖した。


まだ生きて戦っていた父に言った「もう駄目だ、逃げようよ。」と、しかし父はこう言い返した。「バカ野郎!俺達が逃げたら誰がここ国を守るんだ?」

その瞬間、父は砲撃に巻き込まれて死んだ。


要塞には600名の仲間がいて40門の大砲と火縄銃があった。だが、こちらの大砲は届かず、火縄銃よりも高性能な銃に無力だった。


その日、要塞は殆どが死に、バフトン王国政府は侵略してきた国と条約を結ぶ。不平等な内容の条約をだ。


生き残ったクッダはその後、猟師として生活をしていたが元兵士のクッダをキム領政官が彼を裏の用心棒として雇った。


そして領政官の支援のもと、クッダは列強国に対抗するための準備をした。領政官は彼以外にも対抗するための組織を資金面で支援をしていた。


そしてある時、クッダと領政官との会話を偶然にも聞いてしまったアリアはクッダに弟子入りを懇願した。


当然クッダは断った。自分を匿って支援までしてくれた恩人の娘を危険に晒したくないし、父である主はけっして許可しないだろう。


だが、恩人の娘に土下座をされるとクッダは慌てて承諾してしまった。クッダは仕方なくアリアを弟子にして鍛えることになった。


彼は厳しい訓練をアリアに課した。それで諦めてくれることを願ったがアリアはそれに耐えて数ヶ月が経ってしまった。


予想以上の辛抱強さにクッダは驚いた。まさか良家のご令嬢が耐えるとは思わなかったのでこのままでは本当に危険な戦場に出してしまうと危機感を覚える。


どうにかして彼女を追い出そうと様々な訓練をやらせていくがことごとくそれを制覇して彼が悩んでいるところに列強に対抗する組織の長である彼の叔父がアリアを迎え入れると言った。


クッダは叔父の言葉に反対したがその叔父に「今さら彼女を追い出しても手遅れだろう。」と言われてしまい、それに何も言い返せなかった。


そのためクッダは覚悟を決めてアリアに銃の本格的な訓練をさせた。そして今に至るわけだ。


クッダは壁に掛けてある銃を手に持ちそれをテーブルの上に置いてアリアに言った。


「お前の初めての標的はチョム・サインだ。知っているか?」


その質問にアリアはその人物について少し考えたあとに言った。


「確か・・・司憲府の長官がそのチョム・サインだったはずです。」


その答えに満足したようでクッダは続けて話す。


「流石だ。そのチョム長官は改新派の中堅に位置する男だ。更にこいつは賄賂を貰って不当な人事を行っている。それによりこの司憲庁傘下である捕補庁は勿論のこと禁近衛庁までもが次々に改新派の連中に変えられている。」


「成る程・・・最近特に取り締まりが甘いと思っていたらそういうことでしたか。」


アリアはこれに納得した。司憲府は法律・治安等の管理を統括する政府機関でそこの長官は上から3番目の上位の官職だ。


そして最近になってこの街で無法者(特に列強国人)の取り締まりが緩くなっていると感じていたが、捕補庁や禁近衛庁の役人が次々と改新派の者に掛けられたのならな納得だ。


「そうだ、こいつを始末することで改新派の勢力拡大の足止めすることが出来る。」


「分かりました。必ず仕留めます。」


「その意気だアリア。そして標的は今夜、ある店で密会があるらしい。場所は・・・ここだ。」


クッダはそう言って机の上に地図を広げてあるところを指差す。そこは・・・


「中央通りの飲食店ですか?」


「そうなるな。ただここは会員制の店でな、列強風の建築物だ、だから窓が多い。狙撃には適している。」


この国の建築物は平屋が多く、窓は高級品なのであまり使われていない。なので窓の代わりにそのまま陽をあてるための穴が開いており、夜になるとそれを板戸でふさぐ。


しかし列強国の建築物は高価な窓ガラスをふんだんに使っており、外から見えやすい構造になっている。更に建物の主は街の住人に見せつける為に見栄えの悪いカーテンを使ってる建物は少なく、そのままの状態が多い。


「腕は鈍っていないだろうな?」


クッダがそう聞くとアリアは笑いながらこう言った


「問題ありません師匠!いつでも当てれる自信があります!」


その言葉にクッダは苦笑いする。アリアはクッダでも恐るべき早さで火縄銃の腕を磨いていた。たった数年で数十メートル先の標的を何発も連続で当てれる腕前にまでなっていた。


更にはその装填スピードもかなりのもので、常人ならば1分間に2発が普通だが、彼女は3発は装填出来た。


これは熟練クラスの速さでとてもまだ10代の速さとは思えない。しかもたった数年でこの領域までに辿り着いたのだから。


「・・・そうだな。よしっ!では準備をするぞ。」


クッダはそう言い、アリア用の火縄銃を持たせて小屋に出る。


小屋の隣にある小さな倉庫に入るとそこの奥深くに置かれていた木箱をアリアの前に見せるように置いた。その木箱にアリアは興味深そうに見る。


「師匠、これは?」


「開けてみなさい。」


クッダの指示に従いアリアは木箱を開ける。開けてアリアは驚いた。


「っ!これは、列強の・・・」


「そうだ。列強の者が来ている服だ。」


アリアが見たもの、それは列強国人が来ている服で、現地人では列強かぶれの富裕層のみが来ているような高級な服だ。


地球では西洋の男性が着るような黒スーツで更に黒のトレンチコートにシルクハットまでがあった。


「どこでこれを?」

 

アリアはそうクッダに聞いた。これは簡単に入手出来るものではない。列強国人が経営している仕立て屋に行くなりしないと手に入らないものだ。


しかもそれらはこの国の者ではとても手が出せない程の値段ばかりでしかも相手が列強国人ではぼったくられるのが殆どだ。


富裕層クラスでもそう気軽に買える値段ではないので、師匠がどうやって手に入れたのか気になった。


「これは同志からだ。」


「同志?それは・・・師匠の叔父様のところの?」


「そうだ。アリアの為に特別に作ってくれたんだ。列強国人が運営するとはいえ、実際に店頭で売るのは雇われたこの国の者だ。その者等の中にも同志はいる。」


同志、それは先も述べた通りに列強に対抗する為に結成された反列強同盟で、この国中に仲間がいた。


このような反列強同盟は複数あり、それぞれバラバラに活動しているがそのうちのクッダの叔父が結成した組織がアリアの為に用意してくれたのだ。


「そうなのですか!・・・私のために。」


アリアは服を手に持ちギュッと抱き締める。皆の期待に応える為に再度、決意する。






小屋から出てきたアリアを見てクッダは誉める。


「・・・似合うじゃないか!」


そう言われたアリアは嬉しそうに笑った。アリアは先程貰った服に着替えていたのだ。


「ありがとうございます。」


「うむ、これならばどこから見ても列強人だ。街にいる列強人にも絡まれることはない。」


夜に溶け込むように全身を黒の服で身を包んだアリアは正に列強人でとても良く似合っていた。端から見ればアリアだと気づく者もいないだろう。


「準備は万端だな。目標のいく店まで行こう。」


「はい、師匠!」


準備を終えた2人は荷物を持って目標のいく店へと向かった。







夜になり、中央通りのとある屋根の上で静かに標的が来るのを待つアリアがいた。


その姿は真っ黒で外には照明はあるものの、屋根までは光はさほど届いておらず更には黒の服装で静止しているので見つかりにくい状態のアリアはただじっと待ち続ける。


彼女の師であるクッダは万が一に備えてアリアとは別の場所で待機していた。狙撃に失敗した際はクッダがその後始末をする手順になっている。


暫く待っているとアリアが見続けていた建物の窓に遂に標的ともう一人の人物が入ってきたのを視認する。


標的は勿論だがもう一人の人物もアリアは知った顔であった。あの男は捕補庁の隊長であった筈。だが、あの男は汚職の常連で何人もの罪なき民を苦しめていたのを覚えている。


アリアは銃を構えてじっとチャンスを伺う。今はまだ微妙に部屋の備品で隠れてしまっているので絶好のタイミングが来るまで待つ。


そうして構えていると2人がグラスを持って乾杯するようだ。その時、標的は顔を少し前のめりにしたのでその瞬間をアリアは発砲した。


パンっ! ガシャンっ!


『う、うわぁぁぁぁぁ!!』


破裂音と叫び声が響いた時、アリアの視線の先にはついさっきまで笑っていた1人の男が倒れていた。もう1人の男は突然の出来事に固まっていた。


アリアはこれを好機と捉えて装填をする。出来ることならばあの男も仕留めておきたい。だが、その次の瞬間に扉が開かれた。


「あの男は・・・」


突如入ってきた人物を見てアリアは目を見開く。先日、アリアが見たニホン人の男であったからだ。あの時のあの男の目は忘れることはない。


手に小型の銃らしき物を持っていることから標的の雇われ護衛だと予想し、アリアは装填を急ぐ。まだ奴はこっちに気付いていない。ベテランでも驚く程の速さで装填を終えたアリアはあのニホン人に狙いを定める為に構える。


「っ!!」


だが構えたその瞬間、あのニホン人がこちらに気付いた。アリアは心臓をドクンッと鳴らせる。ニホン人はこちらを睨み付け、アリアは思わず引き金を引くことが出来ない。


暫く睨み合いが続くが我慢の限界が来たアリアは構えを解除して逃げることを選択した。幸いにも、ここは通りを挟んだ別の建物のしかも屋根だ。追い付くことは出来ないであろう。


屋根を走りながらアリアは己の未熟さに苛立ちを覚える。師匠から教わったことは射撃を行い自身の隠れ場所がバレたらすぐさま逃げること。それが狙撃手としての鉄則だと教わったのにも関わらずあのニホン人に気付かれた時、彼女は固まっていた。


(私は何をやっているのだ!師匠から教わったことを何一つ活用できていないこの愚か者が!)


アリアはそう心のなかで反省をし、師匠と合流すること急ぐ。


何軒目の屋根を伝ったことだろうか、ふと後ろから聞く筈のない足音が聞こえた。アリアはその音を不審に思い後ろを見る。


「?・・・!?」(嘘でしょ!?)


アリアは後ろを見て驚愕してしまう。そこにはあのニホン人がいたのだ。しかも既に数十メートルの距離までに近付かれていた。一体どうやってここまで追い付けたのか皆目見当が付かないがアリアはすぐさま戦闘状態に入る。


手に持っていた火縄銃をあのニホン人に狙いを定めるがニホン人は近くにあった煙突に隠れる。かなりの身のこなしだ。


その瞬間、あのニホン人は腕だけ出して持っていた小型の銃を向けて2発の弾丸を発砲してきた。


パンっ! パンっ!


(っ!やはりあれは銃!しかも連射式か!)


アリアは連続で発砲してきた銃に危機感をより増す。この国が持つ小型の銃とは訳が違った。慌ててアリアも近くの煙突に隠れる。幸いにも2発とも当たらなかったことに安堵する。


「・・・」


「・・・」


そのまま暫く時間だけだ過ぎていく。アリアは相手が出てきたら当てれる自信があるが相手の実力がまだ未知数なため、迂闊に行動できない。


山では撃ち合い想定をした訓練は何度もやってきたがいざ、その瞬間が来ると緊張と焦りが出てしまいアリアは冷や汗を流す。背中の汗仕立ての良い服にひっつき気持ち悪い。


その状態で煙突から顔を出し、銃を構えて相手の出方を伺う。


そうしてアリアの緊張がピークに達するその瞬間、相手の煙突から何かが飛び出てくるのが目に映る。


アリアは瞬時に引き金を引いてその何かを命中させた。だが、その次の瞬間、アリアは目を見開いてしまう


アリアが撃った物、それはコートであった。アリアはまんまと相手の罠に掛かってしまったのだ。これでもう発砲は出来ない。


(やられた!)


そう悟った瞬間に反対側からの煙突からあのニホン人が飛び出してきた。


「っ!?くそっ!」


そう令嬢らしからぬ言葉を思わず吐いてしまうがもう後の祭り、ニホン人は既に彼女の目の前まで近付いていた。


「うおぉ!」


ニホン人はそう雄叫びを上げてアリアの持っていた銃を蹴り飛ばして彼女の両腕を掴み乗り上げてきた。


アリアを捕まえたから男は彼女が女性だということに気付き心底驚いていた。それから顔を見ようとスカーフを外そうとする男にアリアは全力で抵抗するが効果がないことにアリアは焦る。


(不味い!このまま顔を見られたら家族がっ!!)


アリアは自身の正体が気付かれれば自身の一族がどうなるのかを想像して血の気を引く。領政官の娘が改新派の長官を殺害したとなれば改新派はこぞって父を弾圧するだろう。


そうなれば保守派は一気に力を失いそれこそ列強国に支配されこの国は終わる。


もうダメだと思ったその瞬間、男は何故か後ろに飛びアリアから離れた。


何故かと思う前に1発の発砲音が響いた。その方向を見ると師匠が立っていた。それにアリアは嬉しさに目に涙がたまる。


(師匠!!)


その後、師匠の近くにまで立ったアリアだが、師匠より先に逃げろと言われる。


最初は一緒に戦うと思った。相手は連発式の銃を持つ男だ。1人は危険すぎると考えるが自身の失敗の数々を思いだし、素直に逃げることにした。これでらかえって足を引っ張ってしまうと考えて。






師匠と事前に約束した集合場所にアリアは待ち続けた。暫くすると師匠であるクッダが見えた。アリアは駆け足で向かい無事を確認した。


「師匠!お怪我はありませんか!?」


クッダは首を縦に振りアリアを安心させるように言った。


「あぁ、心配ない。アリアも怪我はないか?」


「はい・・・申し訳ありません!足を引っ張ってしまいました!」


アリアはそう言い頭を下げる。彼女にとって初任務だというのに危うく顔を列強の人間に見られるところだったのだ。


「確かに初めてとはいえ、所々に問題はあった。次の訓練はそこを重点的に行おう。以上だ、今日は良くやった。ゆっくり休め。」


「は、はい・・・それとあの男は?」


アリアがずっと気になっていたことを口にする。クッダは難しい顔をしながら答えた。


「・・・あの男とは一先ず互いに引き下がったとい形だ。どうやら奴も表の人間ではないようだな。だが、かなりの強者ではあるな、あのまま戦っていたら俺もただでは済まなかったかも知れん。」


「あの者を見たことがあります。」


「なに?」


「ニホン国という新たな列強国はご存知ですよね?」


アリアの確認の言葉にクッダは眉を潜めて答えた。


「無論だ。あのオーマバスとレムリアを相手にして勝利した国だな・・・そうかあのニホンか。ガントバラス帝国と友好関係にあると聞いていたが、そういうことか。」


「はい。そしてあの男はクッコウグミというならず者達の集団の一員です。」


「クッコウグミだと!?本当なのか!?」


クッダは驚いた様な表情をしてアリアに詰め寄った。それにアリアは思わず後ろに下がってしまう。


「し、師匠!?」


その反応にクッダは落ち着きを取り戻す。


「す、すまない。」


「知っているのですか?クッコウグミを」


「知ってるもなにも最近になって列強のならず者共を蹴散らしている有名な連中だ。かなりの強者達がその組織にいると聞いたがそれならば納得だ。」


「そ、それほどなのですか?」


「噂なら幾らでも耳に入るな。そこの頭のキハナという奴は名のあるならず者を何人も屠っているらさいな。最近ではあのゲーソイも負けたらしいぞ。列強国同士が殺ってくれるのはありがたいが・・・またとんでもない奴等と関わってしまったな。」


「ゲーソイが!?あのキョンムサの!?」


アリアは驚く。トンニョ達とたまにお忍びで街に行った時に何度もキョンムサ達の噂は耳にした。非常に狂暴で手に負えない獣と呼ばれている。


そしてそこのゲーソイは絡んだ熟練の冒険者達ですらも再起不能な深手を負わせて問題になっているとか。


「あぁ、まさか今の男がそのキハナとは考えにくいが暫くは用心した方がいい。」


クッダの言葉にアリアも頷く。その後2人はその場を後にして街の何処かへと消えていった。








その数日後、夜もふけて人通りも少なくなったソウバリン郊外のとある場所に20人程の集団と数両の荷車が停めてあった。


その集団の全員が薄汚いローブを纏いフードを深く被りその顔を隠していた。懐には各々の武器を持ち何かを待っていた。


そんな集団の責任者である熊光組の若頭である木花は静かに相手が来るのを待っていた。


そうして何分かすると手下の1人が声を掛けてきた。


「頭、来たようですぜ。」


そう言うと子分はある方向を指差す。その先を木花は注視する。すると確かにその先に人影が見えた。それも複数人のだ。


「合図をおくれ。」


木花はそう言うと子分はすぐさま火打ち石で火花を何回か出す。するも向こうからも火花が何回か出ているのを確認できた。


これは事前に打ち合わせた取引同士という証の合図だ。彼等は闇取引の真っ最中であった。


少し前から「例の取引」の準備を進めていた木花達は遂にこの日、その取引を行うところだったのだ。


合図を送り、向こう側からも此方と同じくらいの人数の顔を隠した集団が木花達の目の前に現れた。


そこの代表らしき高齢の男が開口一言目にこう言った。


「商品を見せろ。」


それに今度は木花が声を出した。静かにだが、獰猛な猛獣の様に覇気ある声で。


「金が先だ。」


高齢の男はその言葉に眉を潜めるが仲間の男に振り向き頷く。するとその男は大きな袋を持ってきて中身を見せる。


「そらよ。」


木花は中身を見る。その中身は金貨だ、それも大量の。


「今度はそっちじゃ。」


高齢の男の言葉に木花は子分に命じて後ろの荷車から載せていた木箱を彼等の前まで持ってこさせて蓋を開ける。


その木箱の中身を見た彼等は全員が興奮したように声を上げる。


「おぉ・・・これが。」


「す、すげえ・・・」


「本当にこいつが奴等の使う物なのか?」


「似たような形はしてる・・・これで奴等と対等に戦えるぞ!」


彼等が見た物、それは銃である。それもこの国の猟師や兵士が使う火縄銃ではなくもっと先進的な銃だ。彼等はこのバフマン王国の反列強同盟の者達であった。


「・・・ご所望の連発式の銃であるスペンサーM1860にM1865、騎兵銃と歩兵銃だ。俺達からしたら骨董品も良いところだが、お宅らにとってはどれも最新鋭の銃だろ?」


「ぬぅ・・・」


木花の言葉に老人は不快げな反応をするが、木花はそれを無視して話を続ける。


「それぞれ15丁ずつ用意してある。もちろん弾丸も専用のを約2000発分はあるぞ。」


「・・・いいじゃろう。これを買う。おい。」


老人がそう言うと仲間の1人が興奮も冷めないまま金貨の入った袋を木花の子分に手渡す。


「約束通り1200枚はある。これで充分じゃろう」


金貨1200枚もの大金に相手側の男達は思わず喉を鳴らしてしまう。彼等にとってその額は決してお目にかかることのない大金だからだ。男爵クラスの1年分の収入に匹敵する額だ。


だが、それを木花は少しの間見るだけですぐに後ろの荷車に置かせる。ちゃんと本物かどうかの確認は

させるのは忘れない。


「確かに、だが今回はもっと良い物を用意してきたぞ」


「なに?」


木花がそう言うとまだ後ろに残っていた別の木箱が老人と木花の間に置かれる。その後、木花がその箱の蓋を開けて中にあった銃を彼等に見えるように持ち上げる。


その銃を見た彼等は先程よりも驚いた反応をする。


「な!?」


「それは・・・まさか!?」


「あぁ、間違いない!レムリアの兵士が持っていたものだ!!」


木花が見せた物、それはレムリア連邦の歩兵が使用している銃だった。


地球のモシン・ナガンと似た形状をしたその銃は街のレムリア兵士が持ち歩いているのを何度も目にした彼等はそれを見て驚いてしまう。


老人も例外ではなく、思わず木花に聞いてしまう。


「それをどうやって?」


木花はそれに答える気は無いようで首を横に振った。


「そっちが知っていても意味がないだろう?問題はこれを買うか買わないかだ。金はまだ後ろの連中に隠し持たせているんだろう?」


「・・・」


老人は迷う、木花の言う通りに確かに金はまだある。しかし一体どれだけ吹っ掛けてくるのかを恐れて口に出せない。


そして木花達が何故、レムリア連邦の銃を持っているのかと言うと、これは日本国内で密かに集めていたものだ。


かの大連合戦争の際、戦場となった北海道ではレムリア連邦の銃が大量に散らばっていた。


それらの多くは国が回収したが一部は軍事に興味のあった民間人や現地住民が密かに持っていたのだ。


それらの一部がネット内で流通するようになり、それを熊光組とは別の組が購入したのだ。


今や海外から手入することが不可能になってしまった彼等は質は劣るが一応は使える銃を欲していたのでブラックサイトで集めていた。


それを熊光組が更にそこから買い取り今回の取引に持ってきたのだ。


因みにかなりの旧式で、ある意味希少なスペンサー銃を持っていたのは先代の組長の完全な趣味である。


先代組長は金属と木製で出来た昔ながらの銃が好きで、海外から高値で集めていたのだ。


だが、今となっては確かに貴重な銃だが、古すぎて整備が大変で不具合も多く、管理が大変な品物だった。


それに親組織ではそれらよりも安全で整備しやすい銃を大量に保管されていたので、尚更これらの銃は邪魔だった。


そんな訳もあって今回の取引にこれを売却することになった。


「これは幾らで売ってくれるのじゃ?」  


木花は少し考えるような素振りをして言う。


「そうだな・・・これはさっきのよりも良品だからな。1丁辺り・・・金貨80枚で売ろう。勿論、弾は別払いだ。」


それに老人達は余りの高さに動揺する。


「何だと?おぬし、そんな高値で・・・」


「当然だろ?そこから更にその銃の使い方を教える講師代も考えるともっと掛かるな。要らないならいいぞ。うち以外に売ってくれる所があれば良いんだがな。」


それに彼等は何も言えなくなる。木花の言うことは間違っていないからだ。熊光組以外で他所に銃を提供する程の武装が豊富な組織は少ない。


それを彼等は何よりも分かっているから、高くても買うしかない。彼等にとっては少しでも強力な武器は欲しい。


幸いにもこの木箱に入ってる分の金はまだ残っている。


渋々残りの金でこれを買い取り、今回の取り引きは終わった。最後に木花がこう言った。


「またのご利用をお待ちしていますよ、近々、講師も送るのでご心配なく。それと分かってはいるでしょうけどそれらの武器を今後、俺達に向けるようであれば、事前に話し合った通りに・・・そうならないようにお願いしますよ。」


木花の最後の意味ありげな言葉に老人は頷くだけで仲間を連れて去っていく。高い買い物だったが一先ずは何事もなく済んだことに安堵する。


(あの男は気に食わないが仕方ない・・・今はクッダにこれを渡して慣れさせなくてはな。)


老人は自身の甥を思い浮かべてそう考える。


ぐぬぬぬ、速いとこ大規模な戦闘回を書きたい。それまで楽しみにしてらっしゃる方にはどうかお待ち頂きたいです。


それではまたお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 本話に登場したスペンサー銃がどんな銃か調べたら大河ドラマ「八重の桜」に登場したレバーアクション式の銃でしたか。 [気になる点] 銃本体ならコレクションしている人もいそうですが、弾が2000…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ