第52話 ソウバリンの日常
あかんっ!意識はしていないのにぃ毎日投稿になっている!
明日は投稿出来へんかも!
第52話 ソウバリンの日常
バフトン王国の首都ソウバリンの一等地に近くに列強国の建築家が建てたレトロ風のホテルにある日本人が滞在していた。
その男が滞在するホテルの名は「グストン・ホテル」多くの列強国人が滞在しており、多種多様の人々がいた。
そのホテルの一室に熊光組の若頭である木花は部屋に置かれている机で仕事をしていた。
彼以外にも子分達がおり、木花の護衛兼補佐をやっていた。
木花は各所からくる報告書に目を通し、近くにいる子分達に次々と指示を出す。
「3番街でまた喧嘩騒ぎが起こったらしいな当直の人数を増やしておけ。」
「分かりやした頭。」
「それとあの支配人は何をやってるんだ?また帳簿と計算が合ってないぞっ!これで3度目だ。使いをやって奴の指を持ってこい!」
「へいっ頭!おいっ行くぞ。」
子分の1人が部屋の端で待機していた数人の手下を連れて落とし前を付けに行く。それを見送った木花は座っていた椅子の背もたれに寄りかかり溜め息をついた。
「はぁこれだから現地の人間は嫌なんだ。」
木花は現地人の適当な仕事振りに心底嫌気が差していた。
「・・・娼館の運営もやろうと考えていたが・・・俺が直接管理した方がいいか?」
独り言で呟いたつもりだが、それに子分が反応した。
「頭、それなら斎藤さんに任せるのはどうですか?あの人なら問題ないかと。」
「あいつは駄目だ。組長の付き人にしているから動かせん。貴重な大卒なんだが・・・仕方ない。」
熊光組の数少ない大学出のインテリ組は本土の留守番組と木花を除いたら数人しかいないのでその内の1人が使えないことに不便を感じた。
「他も手が放せないだろうから俺が直接やるしか無いな。」
木花がそう決めると突然、扉から子分の1人が飛び出てきた。様子を見る限りまた厄介事のようだ。
「頭っ!大変です!」
「らしいな。今度は何だ?」
子分は息を整えながら用件を話す。その間に子分達は、外出の準備を整える。その様子は何度もやっているかのようにスムーズだ。
「キョンムサ共がうちのシマに入り込んで騒いでます!40人はいますよ!」
「だろうな・・・場所は?」
木花もコートを着こんで準備をしていた。
「マヌルク1家の隣のアメ売り場広場です!」
「キョンムサに40人か・・・しょうがない。お前ら行くぞっ!」
「「「「へいっ!」」」」
すぐに準備を終えた木花達は共通のコートを着こんで腰に刀と拳銃を装備して部屋から出る。
「付近にいる連中にも武装させて集結だ。防刃スーツを忘れさせるなよ。」
「分かりやした!」
ホテルのロビーまで出るとそこにはロビーとその横に設けられたレストランで待機していた子分達も木花に気付いて加わる。
それでもまだ20人程度しか居ないので木花は近くにいる子分達を集めさせる。
他の客達はそんな木花達を見るとすぐさま目を逸らして関わらないようにする。
ホテルから出たら、目的の場所まで駆け足で向かう。近道を走る為に馬車や馬を使うよりも走った方が速い。
目的の広場が見える所まで近付くとそこで商売していた者や通行人達が慌てて道を開けていく。
「く、クッコウグミだっ!急いで道を開けろ」
「今度は一体なんだいっ?」
「あそこのキョンムサ一派と殺り合う気だ!」
「キハナの旦那までいるよ・・・子供達は離れてなっ!」
「お前らさっさと退きやがれっ!頭の邪魔をすんじゃねぇ!」
木花達が目的の広場に入ると既に他の子分達が集結していた。その前には40人程の武器を持った件の連中がいた。
「あ、頭っ!ご苦労様です!」
「おう待たせた。んで状況は?」
「奴ら、まだ何もしてこなくってずっと膠着状態ですよ。」
「そうか・・・今度は何を言ってくるんだかな。」
木花が子分達の前に立つと向こうも木花が代表だと察した様でキョンムサの頭目らしき大柄な男が木花に声を掛ける。
「お前がここのボスか?」
木花は耳を小指で掻きながら答える。
「正確には俺の上がそうだが、ここの管理を任されている木花だ。それで、お前らは何しに来たんだ?まさかそこで棒みたいに突っ立ってるだけに来たわけではないんだろう?」
その言葉にボスらしき男は手に持っていた小袋を木花の足元に投げた。
「俺はゲーソイって呼ばれてるんだが、お前の所のシマを取ってこいと言われてるんだ。」
「そうか、それでゲーソイ君。そこの袋は何だ?」
「中身は銅玉だ。それをやるからとっとと国に帰りな。」
ゲーソイがそう言うと手下達はニヤニヤしながら一斉に武器を抜く。
多くは剣だったりするが中には拳銃を此方に向けている者もいた。ゲーソイは一際大きな剣を木花に見せつけるように抜く。
それに木花達も一斉に刀を抜いて対抗する。当然此方も何人かが拳銃を向ける。
これに周りで見守っていた野次馬達が騒ぎ出す。
「武器を抜いたぞ!?」
「や、殺るのか?・・・」
「うへぇ、おっかねえ。殺るなら誰も居ないところで殺り合ってくれよ。商売上がったりだ。」
「どっちが勝つんだ?クッコウグミかな?」
「いいや、キョンムサはかなり強いって聞いたぞ。見てみろよゲーソイのあの剣を、キハナさんの胴位はあるぞ・・・」
野次馬の反応に気を良くしたゲーソイは嗤いながら木花に返事を聞く。
「がははは!・・・それで、返事は?」
木花は足元に落ちている小袋を拾い上げて口を開く。
「銅玉か・・・お前、出身はジュニバール帝王国か?」
それにゲーソイは驚いた様な表情をして木花に問う。
「知っているのか?その銅玉の意味を。」
「あぁ、銅玉は相手の心臓を意味してそれを相手の足元に落とす・・・『今度はお前の心臓を体から足元に引き摺り下ろす』だったか?」
それにゲーソイは感心したように笑って拍手をした。どうやら合っていたようだ。
「ほぉ~博識だな。ニホン人は皆そうなのか?」
「いや、ただ単にお前のような奴は初めてでは無いだけだ。」
「なに?」
「以前も同じことがあった・・・そいつはジュニバール帝王国から来たと言っていたな。ご丁寧に意味まで教えてくれた。」
「そいつはどうしたんだ?」
「決まってるだろ?その銅玉と同じようにしてやったよ。ジュニバール人は弱過ぎて張り合いが無くてガッカリしたがな。」
「てめぇ・・・死にたいって訳か。良いぜお望み通りに殺してやるよっ!」
ゲーソイは大型の剣を両手に構えて木花に剣先を向ける。
対する木花は刀を握り居合の構えで迎え撃つ。2人との距離は約7メートル。
この決闘状態に辺りは一気にこの決闘を見届けようと騒めきは消えて静かになる。
(さて、どうするか・・・此方はまだ微妙に数が少ない。もう少し時間を稼ぐか?)
当の木花はこの状況を考える。正直、彼は刀での切り合いなど得意では無く殴り合いでの泥仕合を得意としていた。
だが、この決闘は正直彼にとっては助かった。大人数での戦闘は余計な犠牲者が出る。この街で人手が減るのは困る。更に数ではまだ向こうの方が多いのでもう少し時間を稼ぎたい。
その為、この決闘に勝利して連中が引き上げてくれれば万々歳だ。
(かと言って素直に引き上げてくれるとは思えないな。気乗りはしないが・・・殺るか。)
そう決心すると丁度そのタイミングでゲーソイが走り込んで上段でその剛剣を振り下ろす。
(チッ予想よりも速い!)
その大柄に反して以外にも素早い動きに木花は舌打ちをする。
居合を解除して横にスライドするように避ける。だが、ゲーソイはその大柄を活かして無理やり振り下ろした剣を真横に軌道を変える。
「せいっ!」
「っ!」
それに木花はギリギリの所で後ろに飛んでかわす。かなり際どい所で避けれた為か着地の際に少しバランスを崩してしまった。
一連の動きでどっちが有利なのかを感じたキョンムサの連中は雄叫びを上げる。ゲーソイも当然と言わんばかりの笑顔で木花を挑発する。
「ふんっどうした、ニホン人!初手は避けるだけか?反撃してこい!」
「速く終わらせてはつまらないだろ?前回の奴はそれで悔やんでしまったからな。」
「はっ口だけは達者だな!」
そう言うとゲーソイはまたもや突進してくる。今度は左下から振り上げるようだ。
それに対し木花は腰を低くして刀を抜く準備をする。相手の動きが速いので今から抜いても間に合わない。ならば・・・
「ふんっ!」
ゲーソイの左下からの攻撃を木花は鞘から少し露出させた刀にその軌道に合わせて防御をする。
(っ!)
だが、予想以上の力により体勢が崩れてそのまま右へと後ろ向きに転んでしまう。
背中に地面がついてしまったがそのままの勢いで一回転して再び立ち上がる。幸いにも追撃は無かった。
しかしゲーソイはそれを見て大笑いをする。
「だはははっ何だ、お前口だけじゃないか!」
その言葉にゲーソイの手下達も笑う。そして野次を飛ばしてくる。
「おいおいおいっニホン人は戦うことも出来ないのかっ!」
「それで良く戦争に勝てたな!」
「さっさとこの街から逃げた方がいいぞ!」
その言葉に熊光組の組員達は殺気立つ。今すぐに殺してやりたい所だが、木花の命令が出てないので押しとどまる。
(そうだ、それで良い。偉いぞお前ら・・・)
木花はそんな子分達を見てそう誉める。乱闘は一番避けたいからだ。
ゲーソイは木花に呆れたような口調で言う。
「お前、そろそろ降参したらどうなんだ?お前の手下共もビビって何をしてこないぞ。」
「・・・」
だがゲーソイの言葉に反応せずに木花は無言で鞘から抜いた刀を構える。それにゲーソイは頭を掻いてこう言った。
「はぁそうかよ。だったら、もう終わりにしてやるよ!」
ゲーソイはまたもや突進をしてくる。まったく単調な攻撃で助かると木花は安堵した。
今度は鞘から抜いた刀を両手でしっかり持ちある一点を見つめる。
ゲーソイの次の攻撃は突きのようだ。剣をまっすぐ木花の腹に狙いを定めている。
ギリギリまで近付くのを待ち、ゲーソイの剣先が木花から1メートル程を切ると木花は動く。
木花は一歩左へ逸れて突きをかわす。前のめりになった木花はそのままの動きで回転する。
回転の勢いを刀にのせてゲーソイの左太股を力一杯に切りつける。
「っふ!」
遠心力をのせた木花の一太刀はゲーソイの左太股を切ることに成功する。流石にあの太い太股を切断することは出来なかったが、一番最初に傷を負わせることに安堵する。
「ぐうぅっ!・・・チビ糞野郎め!」
ゲーソイは太股を切られた痛みに思わず膝を屈してそう怒りの言葉を出す。手下達はいきなりの急展開に動揺する。
一方の熊光組の子分達は歓声を上げる。野次馬達も驚いたように声をあげた。
「いよっしゃあ!流石は頭だ!」
「あぁ!大学の剣道で鍛えられた腕は伊達じゃないぜっ!」
「す、すげぇ・・・キハナの旦那って強いんだなぁ。」
「頭が良いだけの人だと思ってたわ・・・」
太股を切る際の回転で地面に転がった木花は立ち上がり服についた汚れを手で払い、周りの反応を木花は無視してゲーソイに声をかける。
「単純で助かったぜ。まだやるのか?」
「当たり前だ!この程度で殺せると思ったか馬鹿め!」
「俺はもう満足なんだがな・・・」
木花は周りを見てそう呟く。ゲーソイも周りを見渡すとその意味を察した。
「頭っ!お待たせしやした!」
「おぉ!頭が既に戦ってるぞ!」
ようやく別の場所にいた子分達が集結したようだ。その数は約30人、これで熊光組側は5.60人ほどにかった人数では上回った。
キョンムサ達を包囲する様に展開していくのを確認した木花はゲーソイに話し掛ける。
「どうする?俺はこの辺りで帰りたいのだが、お前も帰るか?」
「ふざけるなっ!もう勝った積もりでいるのか!?この程度で、ずいぶんおめでたい頭だな。」
「・・・はぁ周りの目もあるからなるべく殺人はしたくないんだがなぁ・・・お前ら」
木花が子分に指示を出すと子分達はジリジリとキョンムサ達に近付く。
キョンムサ達も引く気は無いようで包囲されても動じていない。
「がはははっお前ら!ニホン人共を殺せ!残念だったなキハナっ!この程度では俺達は怯まないんだよ!お前達とはちがっ」
ゲーソイは木花を挑発するがそれも途中で黙った。木花が拳銃をゲーソイの頭に向けたからだ。
「てめぇ・・・」
それにキョンムサ達も動揺するがすぐに殺気を木花達に向ける。
「あぁっ!ボスっ!」
「卑怯だぞっ!てめぇ一騎討ちを銃でっ!」
「ぶっ殺してやる!銃を使って決闘を無視したニホン人なんて俺がこの手で・・・っ!?」
しかしキョンムサ達は黙ることになる。熊光組の全員が一斉に銃を取り出したからだ。
「っ!?こいつら全員、銃を持ってやがるぞ!?」
キョンムサ達にとって予想外だったのは熊光組側の銃の所持率の高さだった。
キョンムサ達は列強とは言えども銃の所持は軍以外は認められておらず更に銃は非常に高価であった。
日本も銃は所持出来なかったが、転移前は海外から大量に仕入れていたこともあり、そして今では3Dプリンター等で質はともかく自分たちでも製造自体は出来た。
この異世界では銃の製造国そのものが少なく、まだ地球程に安価な銃の種類も多くはないので何気に地球よりも銃の入手は難しかったりする。
そんな事情もあり彼等とは明確な差が出来ていた。
「はっ!良いのか?一騎討ちで銃を向けたとなったらお前らは卑怯者の看板を背負うことになるぜ!」
「別に構わんよ。それで俺達に喧嘩を挑むならその時は皆殺しにするまでだ。」
「この街全てを敵にまわしても同じことを言えるのかよ?」
「そうだ。俺達はそれが出来るだけの力を持っている・・・今まさにお前が身をもって証明しているだろ?どうする?まだやるか?」
「・・・」
ゲーソイは考える。まさか相手がここまでの武装をしているとは思わなかったからだ。剣の切り合いで決着を付けようと思っていたのにこれでは不味いと危機感を覚える。彼も命は惜しいのだ。
「わ、わかった。俺達は引く、それで良いだろうっ!」
「理解が良くて助かるよ。」
木花はそう言うとゲーソイは手下達の元まで行こうとするがそれを木花は銃口をゲーソイの眉間に当てて止める。
「な、なんだよ!良いって言っただろうが!?」
「俺達の国ではな、詫びが必要なんだよ。」
「か、金を払えってか!?何でそこまでやらなきゃいけねぇんだよ!」
「何か勘違いをしているようだが俺は別に金を欲している訳ではない。指を貰おう。」
「は?」
ゲーソイは何を言っているのかが分からなかった。指だと?一体どういうことなのか。
「おいっ。」
「へい、頭!」
木花が子分に命令をすると子分はナイフをゲーソイの足元に置いた。
「俺達の国では詫びの際には指を切り落として相手に渡すことで謝罪となるのだよ。」
「こ、この俺がそんなことを・・・っ!?」
木花は尚も拒否するゲーソイを見て子分に視線を送ると子分はゲーソイの首に刀を当てる。これにキョンムサ達が狼狽える。
「ボスっ!」
「畜生・・・」
その反応を見た木花は再度、ゲーソイに聞く。
「どうするんだ?詫びるのか?詫びないのか?」
これにゲーソイは震えた手でナイフを握る。顔を見る限り恐怖で震えているのではなく、余りの屈辱に怒りで震えているようだ。
その状態で暫く止まっていたゲーソイ、子分が刀に力を込めてゲーソイを急かす。そしてゲーソイの下した判断は・・・
「くっそおおおぉ!!」
ホテルに戻って血が僅かに滲み出ているハンカチを机の上に置いた木花は、椅子に座り大きく息を吐いた。
「はぁ・・・これで暫くは安定だな。」
「あのキョンムサ達は捕補庁に対応させますか?」
木花は考える。子分の言った内容は手懐けている捕補庁の隊長を使って罪をでっち上げるということだ。
「そうしろ。あのゲーソイには恨まれたからな。殺すか、再起不能にしろ。」
「分かりやした頭。」
「あぁ・・・それと例の取引の品物はもう全て用意出来たのか?」
その言葉に子分の1人が答える。
「へいっ言われてた物は全て準備出来ています。あとは向こうからの連絡次第です。」
「そうか。手入れは怠るなよ?成功すれば今後のうちのお得意様になるんだ。ロシアマフィアの連中を相手にするつもりでやれ。」
木花は転移前の一番のお得意先であるロシアマフィアを名前に出す。あそこから銃火器や麻薬を仕入れて此方からは盗難車や盗品を売っていた過去がある
「勿論でさぁ・・・所で旦那、今日の所はもうお休みになってはどうですかい?ここんところずっと働き詰めでしたじゃないですか。」
「なに?だが、まだまだやることは・・・」
木花はそう言って断ろうとする時間はまだ15時、休むにはまだ速すぎる。ただでさえ彼には仕事が沢山あるのだから。しかし子分は続けてこう言う。
「今残ってる仕事は俺達でも対処できますんでたまにはゆっくりしてくださいよ頭。」
子分がそう言うと他の子分達も賛同するように声をかける。
「そうです。しかも今日は戦っていらしたんですからね。」
「休む時に休まないと倒れますぜ。」
子分達にそこまで言われては木花も少し考えてしまう。言われてみれば確かに最近は録に休めていなかった。それにせっかくの好意を断るには流石の彼も気が引ける。
「・・・そうだな。たまには休むか。」
「んじゃあ決まりですね!俺達は別の部屋で仕事をしますんでどうぞごゆっくり!お酒を飲んだりして寛いでくださいや!」
そう言って子分達は書類を纏めて、別の階の借りてある部屋へと行く。
部屋に1人だけとなった木花は、何をするか迷う。
(ごゆっくりか・・・酒はあまり飲まないし、腹もまだ空いていない。どうするか・・・)
木花は悩む。いま思えば休みの日の自分は何をしていたのか覚えてないことに気付く。
「いかんな。まだ20代なのにこんな事では・・・よし、気晴らしに外にでもいくか。」
そんな自分に思わず呆れてしまうがやることも無いので取り敢えず外に出て時間を潰すことにする。
部屋から出てホテルのロビーへと入る。ふと受付の方を見るととある人物を発見する。するとその人物も此方に気付いて声を掛けてくる。
「こんにちはキハナさん。お昼は何やら騒がしかったようですが何かありましたか?」
そう木花に声を掛けてきたのはこのグストン・ホテルの女支配人であるアイラ・ミリスだ。
女にしてこのホテルの支配人として切り盛りしてる女性だ。年は恐らく木花よりも少し3.4歳程は上であろう。大人っぽい雰囲気の黒髪の女性だ。
元は彼女の夫が列強国人ホテルの支配人をしていて彼女はこのバフトン王国出身なのだが、その列強国人に一目惚れされて結婚、その後に事故で夫を亡くすがそれでもこのホテルを代わりに運営して今でも続いていることから彼女は優秀なのだろう。
アイラはこのレトロ風のホテルに似合う西洋の富裕層階級の洋服を来て、常に列強国人の相手をしている。
「あぁ、また馬鹿な奴等が絡んできただけだ。迷惑を掛けたようならば謝罪する。」
木花がそう言うとアイラは手を振り微笑みを浮かべて話す。
「迷惑など飛んでも御座いません。キハナさん達のお陰でこのホテルは物騒な方々が一気に大人しくなるのですから逆に感謝しております。」
自分達がその物騒な連中なんだがなぁと思ったがそれは言わないでおく。それは嘘ではないと彼も知っているからだ。
このホテルに最初に来た際には今よりは客層は少し悪かったのだ。
丁度その時に列強のマフィアが滞在していて好き放題していた。そこに熊光組の木花達もこのホテルに滞在をした。
そこで木花の目に余る程にホテルで暴れていたのでロビーにいた彼等を注意したらそこから口論になり一発即発の事態となってしまった。
最初は木花も穏便に済まそうと思っていたが向こう側はそうではないようで木花を殴ってしまう。そこで彼等の運命は終わった。
木花はぶちギレてその殴った男を半殺しにしてしまう。幼少期から格闘の教育を受けていた彼はこの時にはプロ世界でも通用する程の腕前だった。実際に大学時代にはプロ業界からオファーがくる程だ。
そんな彼の本気は凄まじくその場にいた他の3人程の仲間が木花に3人がかりで襲う。木花もボロボロになる程の負傷をすれども、これを撃退。
そこに連中の仲間が更に来るが、そのタイミングで太田組長がロビーに入ると子分達に命じてその連中を掃除させる。
熊光組は元々、武戦派として武竜会では有名だった。(だからこそ、この国に派遣されたのだが。)数でも質でも軽く彼等を上回る熊光組は連中を再起不能までに追い込むとその後はこのホテルで暴れる者達はいなくなった。
そんな事情があるためにアイラは木花達に感謝をしているのだ。VIP用の部屋を格安で貸している程までに。
ちなみに今の木花達が縄張りとしている場所は元々は連中の場所だったのを奪い取ったのだ。
そこから熊光組はこの街でも有名なならず者として名をあげていた。
「・・・それならば良いんだが。何かあったら知らせて欲しい。俺もこのホテルは気に入っている。今後ともよろしく頼む。」
「はい。此方こそ今後とも当ホテルをご贔屓に。所でキハナさんはこれからお出掛けですか?」
「そうだ。子分達から休めと言われてな。とは言え部屋にいてもやることが無いから外出して時間を潰そうとな。この辺りで良い所はあるか?」
「それでしたら、この大通りから出て中央通りの隣にある場所に良い店があります。そこは飲食店ですが中には書店もあり芸者達もいますので時間を潰すには丁度よろしいかと。そこは会員制ですが私の紹介状で入れるのでよろしければお書きしますが、いかがですか?」
「そうか・・・ならお願いしよう。」
木花は書店があるならそこで時間を潰すのも良いと考えて紹介状をお願いする。一応この国の文字は読めるので問題はない。
ちなみに列強国の文字もある程度は読めるので彼がどれだけ優秀かが良く分かる。どこぞの大企業の本部長の秘書と良い勝負だろう。
紹介状を書いて貰った木花は目的の店を目指して歩く。そこまでは少し距離があるので近くの路面電車を利用する。
電車内に入り座席に座ると周りの景色を見ながら目的地周辺に近付くのを待つ。
(・・・昔の日本もこんな景色なのだろうか?)
外の景色を見ていた彼はふとそう考える。彼の見た景色はまるで歴史の教科書で読んだ文明開化時代の日本の景色と似ていたからだ。
子供の頃に絵で見た景色がまさか大人になって自分の目で見ることになろうとは人生は分からないものである。
(人力車も走っているし、富裕層しか無いが大正時代の電話も一応置かれてある。確か・・・電報もあるらしいな。)
そう考えてみるとこの国はかつての日本や韓国のように見えてきた。欧米の列強国によって国の未来を変えることになった。そしてこの国も同じような状態となっている。
果たしてこの国は無事に生き残れるのか、それともこのまま列強国によって喰われていくのか、彼は考えてしまう。
(何を考えたいる?俺には関係無い話だ・・・さっさとこの仕事を終えて国に帰ろう。)
彼はそう考える。この国の命運など国の役人が決めることだ。自分のような日陰者はその落とし物を拾って食うだけで良い。
やるべき事をやったら安全で稼げる本土へ戻れば良い。ここよりは稼ぐのは難しいが上手くやれば食うには困らない。だが・・・
「・・・帰った所でな・・・」
思わずそう口に出してしまう。彼はこのままで良いのだろうかと考えてしまう。この仕事も別にやりたかった訳ではない。ただ家庭がそうだったのでそれに習ってやっただけだ。そしたら偶々その分野の才能があったのでこうして今の地位になったが、そんなに楽しくはない。
本土に残した内縁の妻もいるが、彼女を特別愛している訳でもない。太田組長から縁組みの話を出してきたので断れずにそのまま流れにのっただけだ。
「・・・俺はいったい」
何のために生きている?そう口に出そうになったがそう考えているうちに目的地周辺に着いたそうだ。木花は社内の車掌に切符ではなく、銀貨で支払い電車を降りる。
そして目的の店へを探すために暫く歩くと看板にその店の名前が書いてあるのを見つける。この辺りではそれなりの大きさの建物なので簡単に見つかった。
入口には、警備の者がいたので彼にアイラから書いて貰った紹介状を見せる。すると中へ案内されたので書店に入りそこで時間を潰す。
書店とは言っても本の種類はそう多くない。どこかのお偉い啓蒙家の本や中身の薄い経済学の本、あとは下手にまわりくどい感じの小説ばかりだ。
期待の叶う本を探す中、ついに面白そうな本を見つけた。彼はそれを手にして個室に入って読み始める。
彼が手にした本は小説で以外にも恋愛物だった。丁度、内縁の妻のことを思い出したのでほんの気紛れでそれを読む。
読んで見ると以外と興味をそそる内容で夢中になって読んでいた。
気付いた時には日が暮れていた。腕時計で時間を見てみると18時であった。この国の日暮れ時間を思い出した彼は小腹も空いたこともあり、そのままこの店で食事を済まそうと考えた。
店の者に案内して貰い別の飲食用の個室へと入る。オススメのものと少量の酒を注文する。
出されてきた料理を食べていると隣の個室から笑い声が聞こえてくる。随分と大きな声だ。木花が思わず眉を潜めるくらには大きい。
「さささっ長官殿も一杯どうぞ!」
「うむ、頂くとしよう。君も今日をもって晴れて禁近衛団の従官長へとなるのだ。君のこれからの活躍に期待しているぞ?金貨を贈るだけの能力はあるのだならな心配はしていないがな。」
「勿論ですとも!このサム・ウジャン、保守派共を
一掃してみせましょうぞ!」
「はははっ何も保守派共を取り締まれとは言ってないがのぉ・・・まぁいずれはそうなるがな。」
(・・・なるほどな。下らん。)
木花は隣の話し声を聞いて向こうの正体を察した。サム・ウジャンとやらは長官に賄賂等を贈って官位を授かったのだろう。
禁近衛団と言えば政治犯罪者を取り締まる役所の武官だ。高い練度を持つ精鋭の兵士で構成されており従官長は数人の隊長を纏める階級だ。
この国の政治機関は多少の違いはあれども階級は大体7~12個の階級に別れており禁近衛団の従官長は10個ある階級の上から5番目の中位官職に位置する。
これは中々に高い地位でしかも禁近衛団自体がエリート集団なので同じ警察組織である捕補庁の従官長よりもずっと高い地位だ。
(そんな従官長の地位を金で買えるとは・・・)
木花はそう呆れるがふと日本もかつてはそんな時代もあったなと思い出す。なら人のことは言えないなと。
そう考え隣の部屋への興味が失せた彼は食事を再開しようとフォークにさしたままの肉を口に運ぼうとする。
パァンっ! ガシャンっ!
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
1発の銃声と共に窓が割れた音そして叫び声が聞こえた。隣の部屋からだ。
木花は瞬時に腰に装備していた拳銃を手に持ち個室から廊下に出て隣の個室の扉のドアノブを握る。
一呼吸置いてから扉を蹴り上げるように開けて瞬時に室内を把握する。
豪華な料理が置かれた机と複数の椅子がありこの内の2つの椅子に人が座っていた。そのうちの1人は既に事切れていた。
死体の方を見ると即頭部を撃ち抜かれている。せっかくのご馳走に脳漿が飛び散っていて血生臭い。
「あわわわ、ち、長官が撃たれた!助けてくれぇっ!!」
助かった方の男は腰が抜けたのか、木花を見て助けを求めたが椅子から転げ落ちて這いつくばってこっちに来た。
どうやらこいつがサム・ウジャンのようだ。武官である従官長の癖になんと間抜けな姿か。しかしこの部屋にはその2人しかいない。銃撃犯はいったい何処から撃ったのか。
「窓か」
木花は目の前に見える割れた窓を見て察する。窓の方へ警戒しながら近付くと外は既に真っ暗だ。
「お、おい!何をしてるんだ!?速く捕補庁を呼ぶのだ!!」
「黙れ」
耳障りなサム従官長を睨むと彼はすぐさま黙った。人殺しの目をした木花に睨まれて顔面蒼白になっている。
「ひぃ・・・」
男を黙らせてからすぐに窓から外を見る。既に暗くなっているとは言え、ここは大通り近く、街灯や建物の照明のお陰で明るい。
窓の位置関係からみて狙撃は地上からは出来ない。だとすれば建物の屋上を探す。そして・・・いた。目の前の建物の屋根の上にいた。
その狙撃手は屋根に寝っ転がり銃を構えこっちを見ていた。道を跨いで互いに相手を見つめる。
(野郎・・・)
木花は相手の姿を凝視する。夜に溶け込むように真っ黒のコートとシルクハットを被っていた。顔には黒いスカーフを巻き付けているので目しか見えない。
この距離から頭を命中させていることから相手はかなりの腕前を持っているのは明白だ。
ほんの数秒程の時間であったが木花が記憶に焼き付くには充分な時間が経過したあと、狙撃主は立ち上がり屋根から屋根へと飛び移る。その動きだけでも相手は相当な訓練を受けているのがわかる。
「っ!・・・逃がすか!」
木花はここで奴を逃がしたら後々自分達の脅威になると考え、追い掛けることにする。
3階の割れた窓から飛び降りてすぐ下の階の窓の縁を掴み、そこから一気に地上へと受け身をとりながら降りる。その間僅か7.8秒のことだ。パルクール経験もある木花にとっては朝飯前だが。
道路には先程の銃声で人だかりが出来ており、突如3階の窓から降りてきた木花に驚く。
「退けっ!」
そんな驚いている者達を押し退けるように突っ走る。拳銃を手に持ちながらなので周りは慌てて道を開ける。
そのまま向かいの建物をよじ登りあっという間に屋根へ登りきる。レンガ造りなので凸凹してるから登りやすいのが幸いだ。
狙撃主の逃げた方向を見てみると遠い方に屋根を走っている人物を発見した。
それを見た木花は全速力で屋根を走る。木花も前方を走る狙撃主のように屋根から屋根へと飛び移り、距離を縮める。
どうやら足は木花の方が速いようでどんどん近付けているのが分かる。相手がまだ追われていることに気付いてないのも関係しているだろう。
だが、流石にあと数十メートル程の距離だと別の建物へ飛び移った時の着地音で気付かれてしまう。
「?・・・!?」
後ろを見て木花の姿を確認すると目しか見えないが驚いた様な表情をしているのは分かった。
その狙撃手はすぐさま銃を木花に向ける。近くまで来るとその銃は火縄銃であった。それに木花は驚いてしまう。
(っ!?火縄銃で命中させたのか!?なんて奴だ。)
作りが粗末な火縄銃で数十メートル先の人の頭を撃ち抜いた事から恐ろしい腕の持ち主なのは分かった。彼はてっきりライフル銃を使用していたのだと思っていたから度肝を抜く。
だが驚いている状況では無いので木花は近くにあった屋根についている煙突へと身を隠す。レトロ風の建物ばかりなので助かる。
そして木花は拳銃を構えて発砲する。出来ればもう少し近くで撃ちたかったが仕方ない。
パンっ! パンっ!
2発を狙撃手に向けて発砲するがやはり命中しない。撃たれた狙撃手も慌てて近くの煙突に隠れる。
「・・・」
「・・・」
互いに隠れて膠着状態になる。木花はどうするか考える。
(相手は火縄銃・・・だとしたら前装式だろうから装填には時間が掛かる。もしあの発砲から装填をしていないなら撃てない筈だ。今の所は装填している様子もない。火縄銃なら音で分かる筈だ。)
そう考えるが木花は動けない。なにせあの腕前だ。この距離ではもし装填されていたらすぐに当てられるのは自明だ。
(しまったな・・・追い掛けたのは失敗だったかな。)
木花は自分の行動に少し後悔する。せめて防刃コートではなく防弾コートにすれば良かったと思う。
このままでは埒が明かないので木花は行動に出る。
「・・・ふぅ。」
深呼吸して相手に気付かれない様にゆっくり動き出す。
コートを脱いでそれを手に持ちタイミングを見て、コートを広げた状態で投げる。すると瞬時に発砲音がする。
(装填してやがったかっ!準備の良い奴だ!)
木花は発砲のタイミングで反対側から飛び出し一気に距離を詰める。
「っ!?くそっ!」
狙撃手から嫌に高い声が聞こえたが無視して飛び掛かる。
「うおぉ!」
「っ!!」
ついに狙撃手の元まで辿り着いた木花は構えていた火縄銃を蹴飛ばして狙撃主の両腕を掴んで馬乗りになる。
何とか狙撃手を捕まえることに成功するが木花はここであることに気付いた。
「っ?お前・・・まさか女か?」
木花は取り押さえている人物をまじまじと観察してそう言った。女性特有の胸の脹らみと今、掴んでいる腕の細さに目元を見て初めてこの人物が男ではなく女であることに気付いた。どうやら男装をしていたようだ。
「女の仕業だとは・・・顔を見せろ。」
木花は片手で彼女の両腕の手首を押さえるともう片方の空いた手で顔を巻いているスカーフを外そうとする。
「っ!」
彼女は必死に抵抗しようするが並の男よりも筋力のある木花には、大した抵抗にはならない。
「無駄な抵抗だ、諦めろ。」
もう少しでスカーフを外せると思ったその瞬間、木花は彼女から離れた。
パァンっ!
銃声と共にさっきまで木花がいた空間に銃弾が通り抜けた。あともう少し遅ければ木花の脳天に穴が空いていたであろう。
のぞけるように離れた木花は急いで姿勢を戦闘体勢に入り、新手の方へ拳銃を向ける。
そこには別の男が立っていた。フリントロック式の拳銃をこちらに構えていた。腰には縄をつけた火縄銃がぶら下がっており、さっきの銃声はそれを使っていたのだろう。
「ちっ!」
「そいつから離れろ。」
男はそう木花に命令をした。すぐに発砲しないのは木花も男に拳銃を向けているからだ。これが無ければ既に撃たれていた。
一方、木花に押さえられていた彼女はさっきまで捕まれていた手首を痛そうにさすりながら男の方まで逃げる。
「お前はさきに行け!」
男が女性にそう言うと彼女は一瞬何かを言いたそうにしたが男に再度言われると頷き、男の後ろの方角へと走り去っていった。これで2人だけとなった木花達は互いに睨み会う。
「・・・」
「・・・」
暫く睨み合いが続くが、地上から何人かの声が聞こえてきた。どうやら銃声を聞き付けた捕補庁の兵士達が近くまで来ているようだ。
それを聞いた男は声のする方に視線を送ると木花の方を見つめた。それに木花は口を開いて話す。
「・・・こうなった以上は俺も引こう。俺もあまり表を歩ける人間ではないからな。」
「・・・」
そう言うや否や木花は銃口を下げる。それに男は最初は構えていたが、声が更に近付いてくると男も銃口を下げて女が走っていった方向へ歩く。
「名前くらい名乗ったらどうなんだ?」
木花がそう言うが男は一瞬止まるだけで再度、歩きだし消えてしまった。
「・・・はぁ。厄介なことになったな。」
木花は誰も居なくなった屋根の上でそう1人で呟いた。
「あの女・・・いったい何者なんだ。」
木花の疑問の声に答えてくれる者はなく、ただその疑問だけが消えないだけだった。
歴史を変える大事件まで・・・あと数ヶ月
ここまでありがとうございます!
一応は戦闘回やけども・・・もっと大規模な方が良かったでしたかね?
次回もお楽しみに!




