第51話 国との関わり合い
第51話 国との関わり合い
バフトン王国 首都ソウバリン
高度文明大国の首都であるソウバリンの主要道路である大通りのとある一角に日本国大使館が置かれていた。
白を基調とした建物で地上6階地下2階の大型建築でここに150名前後の外務省職員と1個中隊規模の国防陸軍がいた。
そんな建物の中でも厳重な警備をしている大使の部屋では大使とその部下が話し合っていた。
大使は部下からの報告を椅子に座り窓から外の景色を見ながら報告を聞いていた。
「・・・からの報告ではジュニバール帝王国はアラリ島とユックトン銀山とその周辺域を租借しており、レムリア連邦はミルスタン半島を租借しています。それにより現地住民からの反発が問題になっておりバフトン王国政府と両国との外交大使が対応の主導権を争っています・・・大使?聞いていますか?」
「あぁ・・・聞いてるよ。」
当の大使はさっきからずっとこの様子で何処か魂が抜けたような有り様だ。
その様子に部屋にいる数人の部下は互いに肩をすくねて苦笑いする。
(念願の外交大使が叶ったと思ったらこんな物騒な国ですか・・・はははっ死ねってことかよ。)
大使こと岩井良和はそう何もかも諦めたような表情で景色を見下ろしていた。
実家が外交官だからか、子供の頃から外交官になることが夢で必死に勉強して外務省務めを果たした彼は、何年も仕事をして経験を磨いた。
そして遂に外交官に任命されたがその直後にこの転移騒動となり外交官任命は取消に、意気消沈としていたが、今度は何と外交大使という大役を僅か24歳にして任せられ狂喜したのは良いが、その赴任先はまるでかつての韓国併合時代の列強が利権の取り合いをしているような糞みたいな国だと知って彼は一気にやる気を無くしていた。
同僚は「まだ危険と決まった訳ではないから」とフォローしてくれたが、実際に現地に行ってみればつい10年前にはガントバラス帝国がバフトン王国の一部軍隊と戦争していたと聞くではないか。全くなんて平和な国なんだ畜生め。
そもそも何故こんな国と日本は国交を結んだのか疑問が湧く程の国だ。
(ガントバラス帝国の紹介だと言ってたが・・・完全に此方を巻き込む積もりだったなあの糞ったれのファシスト共め。)
ガントバラス帝国がまるでかつてのナチスの様な兵器と政治体制であるが故に外務省内ではガントバラス帝国のことをファシスト擬きと呼んでいたりする。
そう現実逃避をしていると流石に部下が少しキレ気味に声を掛けてきた。
「大使っ、まだまだ報告せねばならないことが沢山あるのですが?」
「分かったよ。真面目に聞くよ。それで今度はなに?また、街中で刃傷沙汰でも?」
もはや聞き飽きる程の現地人と外国人との刃傷事件は彼にとって事件とは呼ばなくなった。
「違います。いやまぁ今日も起きてるんですがね。」
起きてるのかよ。そう思ったが無視して続きを聞く
「チェーニブル法国がついに魔法石の大型採掘場の建設を完了しました。」
それに岩井大使はそこで初めて真面目に聞く気になった。この魔法石がこの国がこんな状況になった最大の原因だからだ。
魔法石・・・魔法文明国の列強国だけがその存在を知り活用している希少な天然資源。
需要に対して供給量が石油程、釣り合っていないこの資源は魔法文明国側の列強は常にこれを探し回っている。
そしてこのバフトン王国のある島に魔法石が埋蔵されていることについ15年ほど前に判明し、チェーニブル法国を筆頭にここに進出、それにジュニバール帝王国やガーハンス鬼神国も便乗。
同じ魔法文明国とは言え所詮は他国、世界会議とはうって変わって魔法石に関しては非常に険悪になる面倒臭いこの世界。
その状況を更にかき乱そうとガントバラス帝国までがこの国に便乗するとレムリア連邦も当時の総議長命令により参加を、バフトン王国は未曾有の混乱時代へと突入した。
だが、その混乱に乗じて列強国の一部技術がバフトン王国側に流出、技術革新をするとあれやこれやという間に上位大国から高度文明大国へと進化した。
その様子はまるで1900年代初期の大韓帝国とロシア帝国、フランス、イギリス、アメリカ合衆国そして大日本帝国の奪い合いのようだ。
結果的に日本が総取りしたが大赤字を招く切っ掛けとなるだけの損しかない話だ。
話を戻すがそんな事情のこのバフトン王国にチェーニブル法国が妨害を受けながらも15年以上も掛けて遂に完成してしまったようだ。
これによりガントバラス帝国等も今まで以上の妨害をするだろうし法国側も全力でそれに対抗するようになるだろう。
だが、日本は絶対にそれに巻き込まれないようにしなくてはならない。そうなれば泥沼化するのは明白だ。
(まさかそれをこの俺が担当することになるだなんて・・・)
「ガントバラス帝国の反応は?」
岩井大使は一番動向が気になる国について聞く。それに部下は首を振って答える。
「表向きはまだ何も・・・しかし何かしらの行動は間違いなくするでしょう。本土の動向も注視しなくてはなりません。」
「そっちは国防省がやる。俺達はここの連中の見張りだけで良い。俺達はあくまでも中立の立場で、連中の争いに巻き込まれるなんて御免だ。」
「勿論です。片時も目を離しません。」
「・・・と、そろそろ時間だな。王宮へ行ってくる。留守は頼んだぞ。」
「分かりました、お気をつけて。」
「心の底から祈ってくれ。」
何度も聞く挨拶の言葉がまさか本気で祈って欲しいと思うのは実に面白い話だ。いや笑えないけど。
この日は王宮で国王と大臣達が会議を行うのだが、それ以外にも列強の外交大使達も参加をするのだ。
列強がこの国の中枢に絡んでいるので大使達はこの会議に参加できる。だが、日本はまだ国交を結んだばかりでこの国との関わりが薄い。
では何故、岩井大使まで参加するのかというとガントバラス帝国から一緒に参加して欲しいというワガママを外務省が聞き入れたからだ。
地球には内部不干渉の原則があるがこの異世界には無い。此方はいざこざに関わらないように努力しているのに上は国際協調を忘れるなと言う。
「どっちなんだよ・・・」
岩井大使は車の中で思わずそう呟いた。
大通りを黒塗りの外交車両で走る。周りは数両のオートバイに乗った国防陸軍の隊員が護衛をする。
そんな岩井大使の一行を大通りを歩く現地人は視線を合わせまいとしたり、中には睨んで来たりと反応は様々だ。
暫く大通りを真っ直ぐ進むと宮殿の門に到着する。そこで前方の車に乗っていた彼の部下が手続きをする。大した検問も受けずに門が開かれそのまま中へと入る。
所定の馬車を止める場所に代わりに車を止めると宮殿の内官が岩井大使を案内する。周りは国防陸軍の隊員と宮殿の近衛隊が警護をしてくれる。
そして王の間へと入るとそこには既に大臣達とその官僚達が参列していた。そして岩井大使は列強の大使の専用の場所に立つ。
既に日本以外の大使達もおり、どうやら自分が最後のようだ。
ガントバラス帝国の大使の横に立つとその大使デミエタル・シルソン大使が話し掛ける。
「岩井殿、お久し振りです。一週間振りですな。」
それに岩井も溢れんばかりの笑顔で答える。いわゆる営業スマイルだ。
「えぇお久し振りですシルソン殿、今回もよろしくお願い致しますよ。」
その後は会議が始まるまでの間は2人で話していた。レムリア連邦大使は今回は参加しないのは聞いていたので科学文明側は2人だけで話す。
暫く世間話という名の情報交換で時間を潰していると漸く国王の入場の知らせが来た。
国王が入室すると同時に室内の人間が全員一斉に頭を下げ国王が玉座に座り、国王の内官長の言葉で頭を上げる。
この国の御前会議では国王以外は全員例外なく立って会議に参加するのでそのまま会議が執り行われた。
最初の議題では法部大臣であるチェ・ソガンが口を開いた。彼は国王に一礼した後に話す。
「王様、法部庁にて先日、問題になっていたノホマン地方に赴いていた査察官であるイ・ミョンホンから報告書が届きました。」
ノホマン地方・・・確か先月から税収が急激に落ち込んでいたと問題になっていた筈だ。だが、査察ということは恐らく・・・
岩井は次にチェ法部大臣の放す言葉を予想する。
「そのイ査察官からの報告書によりますと・・・ノホマンの地方長官であるクジ・ハンはあろうことか鉱山からの税収を横領していたことが判明しました。直ちにクジ・ハンを罷免し厳罰に処すべきです王様。」
(あぁ・・・またか。)
岩井の予想通りの展開に岩井は嫌気がさす。これは何も初めての事ではない。初めてこの御前会議に参加してからもこういった事は度々起こっていた。
今までの経験上はそのクジ・ハンは恐らく潔白であろう。ただ単に政敵を蹴落とす為にすぎない。おおかた、別の大臣がすぐに反対意見を出す筈だ。
「御待ちください、法部大臣の言葉は到底聞き入れないことでございます王様。」
それ見たことか。今度は農工部大臣が反論をし始めた。
「農工大臣、そなたは中央庁より派遣された査察官を疑うということか?自分の甥が罪を犯したことが信じられないのは分かりますがその罪を揉み消そうとするのは頂けませんな。」
チェ法部大臣がそう発言する。
「そういうことでは無い!王様、確かにクジ・ハンは私の甥でありますが、これは決して血縁者故に庇っているのでは御座いません!たった1つの情報元より将来有望な官吏を裁くのは余りにも軽率でございます。ここは1つ別の第3者からの査察官を再度派遣してより確かな調査をするべきです。王様。」
そう商工部大臣が国王に上奏すると国王は重々しく頷きそれを了承した。
「うむ。確かにそなたの申す通りだ。中央庁は再度、別の査察官を派遣せよ。判断はその後に下せばよい。」
その言葉に中央庁の長官が一礼をしそれに従う。
「畏まりました王様。」
「うむ。それで次の議題は何だ?」
「恐れながら王様、外部庁よりお耳に入れたいことがございます。」
そこに発言したのは外部大臣であるハン・サウォンであった。
「おぉハン大臣か。良いぞ申してみよ。」
「はっ王様、外部庁からは皆さんに申したいことは、列強国についてで御座います。」
その言葉に一気に室内がざわめき声が聞こえる。あるものは一角を支配する列強の外交大使達を見る。
当然ながら今まで黙っていた大使達もそれに聞き耳をたてる。
「この国は現在、チェーニブル法国を始めとした複数の列強国の兵士が駐在してこの国の国防を担っておりまする。つきましては王様に1つ提案が御座います。」
ハン外部大臣は勿体ぶるように間を開けて発言した。
「ふむ・・・それは何だ?勿体ぶらずに申してみよ。」
国王の言葉にハン外部大臣は恭しく一礼をして一目、大使達の方を見た。
その様子に岩井大使は疑問を覚えるがそれにお構い無くハン外部大臣は続ける。この時岩井は彼があんなとんでもないことを発言するとは思いもしなかった。
「・・・つきましては王様、国軍の縮小を愚考致します。」
それに先程とは比べ物にならない程のざわめきが室内に溢れた。これには先程まで言い争っていたチェ法部大臣も農工部大臣も驚愕の声をあげる。
「なっ!?」
「一体何をお主は申すのだ!?」
「国軍を縮小することが何を意味するのか分かっておるのか!!」
これには岩井も驚愕の表情をする。だが、隣のシルソン大使もチェーニブル法国側の大使達は満足そうな顔を浮かべていた。これに岩井は全てを察した。
(そういうことか・・・そう言えばあの男は改新派だったな。)
この国だけでなく、どこの国にも必ず派閥はある。それは日本も例外なくだ。自民党等のものがそうだ。その中にも更に保守派や改革派等で分かれたりもする。今の政権はどっちかと言うと改革派であろう。国防相は保守派に近いと聞く。
そしてこの国には大きく分けて3つの派閥に分かれている。
領政官が筆頭の他国への干渉を受けずに独立を維持することを掲げる保守派と左政官(副首相クラス)が筆頭の列強国の支援の元国を発展させることを掲げる改新派が、そのどちらにも属さない中立派がいる。
そんな改新派の一員であるハン外部大臣は事前にシルソン大使等と結託してこのような議案を出したのだろう。
だが、当然ながら反対意見が次々と出てくる。軍部大臣が一際強い発言をする。
「王様!ハン外部大臣の妄言を断じて受け入れはなりません。あの者は国を売ると同意義の事を為しました!国賊として弾劾するべきです王様!」
「「どうか国賊としてお裁きくださいませ王様」」
保守派の官吏達が一斉にハン外部大臣を弾劾するよう国王に提案する。これに改新派の財部大臣が反論する。
「王様、ハン外部大臣の案は決して悪手では御座いません。軍を縮小すればその莫大な維持費が減りその分の予算を他の庁へまわすことが出来ます。ひいては民のためにもなるのです。どうか聖君として寛大なご判断をしてください!」
「「ご英断くださいませ王様」」
今度は改新派の官吏達が一斉に口を開く。それにキム・バンウォン領政官が反論する。
「黙れっ!国を売り渡すに等しいことを抜かす逆賊めっ!貴様達は恥ずかしくないのか!」
「そうだ!恥を知れっ!」
「・・・領政官様、逆賊とは聞き捨てなりませんな。私はこの国の為に申し上げたまでですぞ?」
「左様、列強国がこの国の国防を担っているのに何時までも不釣り合いな軍を維持しては金の無駄。貴方がたは飢餓に苦しむ民の叫びが聞こえませんか?」
「下らない、自分達で国を守れずにどうやって国を名乗れるか!一体どれだけの金を積まれた!?この売国奴め!」
「学書院長官殿!いくら貴公と言えどもその言葉は聞き捨てなりませんぞ!現実を直視出来ないで私腹を肥やすだけの無能が!」
「貴様、無能は一体どっちだ!?禁近衛団っ!こ奴らを直ちに連行せんかっ。ここに国賊がいるぞ!」
こんな状態になってはもはや論議をするどころではないので、国王が止めにはいる。
「静かにせよ。大使達の前でこの国の官吏達であるそなた等が醜態を晒してなんとするか。」
その言葉に漸く官吏達は言い争いを止めた。静けさを取り戻したのを確認した国王はハン外部大臣に対してこう言った。
「ハン外部大臣よ。そなたの国を想う気持ちは良く分かった。」
その言葉にハン外部大臣は笑う。
「おぉ王様、有り難きお言葉で・・・」
「だが、しかし・・・だ。軍縮など国家として断じて認められるものである。よって余は・・・」
「王様、大使として1つ王様に申し上げたいことがございます。」
国王が発言の途中でチェーニブル法国大使がそれを遮る。列強とは言えども一国の王に対してのその無礼な態度に保守派と中立派の官吏達は皆一様に苦々しい顔をする。
当の国王も眉を潜めたが、大使に続きを促す。
「・・・む、良いだろう申すがいい。」
「ありがとうございます王様。ハン外部大臣の仰る通りに我々の兵士達がこの国に駐屯してバフトン王国の平和を守っております。しかし・・・恐れながらバフトン王国と我々とでは力の差がありすぎます。故に連携に多少の問題が出てしまい要らぬ事故が起きてしまう可能性がある。」
そこまでチェーニブル法国大使が言うと今度はガントバラス帝国のシルソン大使が続ける。
「それを防ぐ為にも王様には是非とも我等が世界連合軍にこの国の国防を全面的に任せて頂きたいのです。最新鋭の技術と精鋭たる我等が必ずや王様の御期待に添えることをお約束しましょう。」
岩井大使以外の全ての大使が国王の元まで一歩近付きそう提案する。岩井は余りの出来事に何も出来なかった。こんな時に自身の経験の浅さを心底恨んだ。
「っ!ぬうぅ・・・」
これには国王と保守派そして中立派は冷や汗を流す程に動揺する。
列強国による世界連合軍の治安維持、それは言わばこの国の属国を円滑に進めるための大義名分に過ぎないのは自明の理だ。
「・・・一考するに値する話しだが、今日明日で決めるには些か壮大すぎる提案だ。この議題は別日にて協議しようではないか。」
国王はそう言って時間を稼ぐ。だが、大使達はそれに構わずに笑顔で了承した。
「勿論で御座いますとも王様。そちらでどうかごゆっくりお考えくださいませ。ただ・・・これは他でも無くこの国の為の提案だということをお忘れ無く。無用な争いによって多くの民が亡くなることが無いように・・・ふふふ。」
「っ・・・途中ではあるが今日の御前会議はこれにて終了する。続きはまた後日執り行う。」
国王の宣言に予定よりも大幅に速く終了が決まった。国王が退出すると他の者も各々、会議室から出ていく。
岩井大使も早足でこの場を後にする。彼の心中は穏やかでは鳴った。
(糞っ・・・あいつらめ俺抜きであんな事を決めやがって。これじゃあ本当にこの国は滅茶苦茶にされちまうぞっ!まさか・・・文明関係無しで手を組む訳じゃないよな?世界会議で荒れてたと聞くが。)
シルソン大使を問い詰めたい気分に駈られるが、奴はさっさと部屋から出てしまったのでそれも出来なかった。まぁ居たところでそれも出来ないだろうが。
岩井大使は大急ぎで車に乗り込むと宮殿を後にした。大使館に戻って急いで本国に報告をせねばならない。
「はっははは、さぁさぁ!どんどんっお飲みください!今回は皆様のお陰で議案は通ることは間違いないでしょう!」
貴族階級でしか利用できない高級料理店にてこの国の外部大臣、ハン・サウォンが目の前にいる客人達をもてなしていた。
「何を仰る、これもハン殿のご尽力のお陰です。我等もより一層、やり易くなりましたからな。」
ハン外部大臣の前にいたシルソン大使がそう言った。隣の席に座っているチェーニブル法国の大使達も同意するように頷く。
「だが・・・王は随分と否定気味ですな。」
「なぁに、所詮は言いなりに過ぎない。すぐにあの王は折れるさ。」
「そう言うことだ。ハン殿、貴殿には今後とも頑張って頂きたい。その暁には先の約束通りに領政官へ推薦して見せましょう。」
その言葉にハン外部大臣は、ほくそえむ。彼のような男が列強国にすり寄る理由はやはり列強国からもたらされる甘い蜜を吸い上げることだ。
保守派は大抵の者が自身の保身のために、そしてハン外部大臣のように列強国に都合の良いように動くことで列強国への推薦ももって今よりも高い地位につくことを目的としていた。
「お任せください大使の皆様。あの王も領政官も蹴落として見せましょうぞ。」
ハン外部大臣は嗤う。時代の波に乗り遅れた者達を心の底から侮辱していた。今後は自分の時代を造り上げる為に彼は翻弄する。
「・・・しかし日本国大使殿はお呼びしなくてもよろしかったのですかな?昼間のは困惑していらっしゃったご様子で。」
そのハン外部大臣の言葉にシルソン大使が答える。
「あぁあの者はよろしいですよ。面倒事に関わりたくないと顔に出ている。まったく日本は・・・せめてもっと野心に溢れる男を連れてきて欲しかったぞ。」
シルソン大使の言葉に他の大使達は微妙な心境になる。彼等にとっては岩井大使の様な男の方が助かるのだから。逆にシルソン大使の方が良い迷惑をしている。
だが、そんなことは顔には出さずに同意とするように軽く頷くだけにする。
「各々も分かっているでしょうが・・・今後はそれぞれの確保した利権で一先ずは休戦としましょうぞ。まずは邪魔な大臣達を蹴落とすことが先決です。よろしいな?」
「無論ですとも。頑固な保守派共を一掃してからが本番なのだから。」
岩井大使等の予想に反して列強国は手を組んで保守派への一掃に拍車がかかることになる。
「旦那様がお帰りになられました。」
「もう?今日は御前会議だと聞いていたけれど・・・そう、分かったわ。お出迎えに行きましょう。」
キム・アリア嬢は自身の父が帰ってきたと使用人から聞いて予定よりも速い帰宅に疑問を覚えるが、出迎えのため、屋敷の玄関へと向かう。
玄関には、10程の使用人達が既に整列してこの屋敷の主の帰宅を待っていた。
アリア嬢が着いたのと同時に扉が開かれて父であるキム・バンウォン領政官の姿が見えた。
使用人達のお辞儀に軽く手を上げての返礼をしてからアリアを見てこう言った。
「・・・アリアは私の部屋に来なさい。大事な話がある。」
「?分かりましたお父様。」
様子のおかしい父に疑問を抱きながら父の後ろに付き従い父の部屋へと入る。
「はぁ・・・まったくあの売国奴共めっ!」
開口一言目の言葉がそれなのでアリア嬢は御前会議で何があったのかを察する。
「・・・改新派ですか?」
「そうだっ!あのハン・サウォンめ・・・元はただの外交官吏に過ぎない癖にっ。」
「外部大臣が?一体何を申したのですか?」
アリア嬢は気になって聞くが父は首を横に振った。
「お前は知らなくていい・・・アリアよ。」
父は深刻な表情でアリア嬢を見つめた。それにアリア嬢は何事かと不安になる。
「な、なんですか?お父様」
「この国はとても危険な状況下にある。いざとなればクッダと共に逃げれる準備をしなさい。」
「逃げる?私は逃げません!領政官の娘が逃げるなど・・・」
アリア嬢はそう言って否定する。
「クッダは長年仕えてきた男だ。あの者といれば無事に生き延びれる。」
「そういう問題ではありません!お父様達が戦っていらっしゃるのに娘というだけでおめおめと逃げるなど・・・」
「改新派は油断ならん。いつ我々を殺そうとするかもわからんような連中だ。」
「・・・」
「お前にはそんな目にあって欲しくない。戦うのは我等だけで充分だ。」
(お父様、申し訳ありません。既に私は・・・)
アリアは父には決して話せない重大な秘密を隠していた。それは知られる訳にはいかない。
「いいな?お前は平和に生きてくれ。我が娘よ」
「・・・はい、お父様。」
(もう待つのは終わりよ・・・行動に移る番だわ)
父の願いとは裏腹にアリアはかねてより進めていた計画を実行することを心に決めた。
次こそ戦闘シーンを書きたい・・・平和回に飽きたという人に申し訳ない。
また、次もよろしくお願いします!




