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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第50話 裏の人間

どうもっす。なんか今回は執筆が進みましたわ。

第50話 裏の人間


事件の話をする前に日本の裏社会事情について説明する必要がある。


日本にはいや、どの国にも関係なく裏社会つまり犯罪組織がいる。


これらは形は違えでも生き方は共通している。それは表社会に寄生していることである。


日本が転移前の頃、この国の裏社会は好経済の地球諸国と比べて比較的、大人しかった。理由は現総理の政策にある。


今の総理が就任以降、次々と治安政策を打ち出してきた。今まで犯罪組織手を結んできた政治家達は軒並み左遷され影響力を落としてきた。


更には街中でも公安が活発に動き出し、より活動しにくくなった。


今までは東南アジア等の就労ピザの無い外国人を使い不法就労、麻薬取引、密貿易で利益を上げていたがその外国人がどんどん捕まり、それを手引きしていた仲間が芋づる式に逮捕されていく。


重要人物は事前に逃げ切ることに成功したが、貴重な人手を一挙に失った弱小組織は解散をする羽目になったところも少くない。


そんな時に今回の異世界転移、これが更に彼等を苦しめることになる。


地球との交流を強制的に遮断された結果、これまでの好経済から一転、表社会の経済は悪化し続けることになった。


表社会に吸い付く寄生虫になることで生きながら得た者達がその表社会が弱ると真っ先に困るのは彼等である。


今までとは比べ物にならない程に弱り果てる状況を見てこのまま国ごと共倒れになるのを覚悟するタイミングで異世界国家と接触した。


そのまま次々と国家と交流を結び、一時は戦争があったがすぐに平和が訪れると今度は列強国との交流が始まる。


それまでとは比較にならない程の市場を手にすると日本の経済は転移前の頃と変わらないまでに回復をした。


これには表の人間も裏の人間も関係なく平等にこれを祝った。


そして彼等にとって更に嬉しい事は、この世界は日本よりも技術が遅れていることだ。一部列強国という存在がいるが、先の大連合戦争の結果を見ればその列強もたかが知れている。


地球では伝統あるシチリアマフィア・大軍団のチャイニーズマフィア・精鋭のアメリカンマフィア・狂暴最悪のメキシコマフィア、そして世界最強のロシアンマフィアという手強い海外勢力で中々手の出せない勢力だらけだ。


だが、この世界の連中などそんな彼等に比べれば恐れるに足らずだ。


だから、彼等は日本から離れてこの異世界に手を伸ばした。かつての栄光を再び自分達の代で復活させるために。


そしてそれは成功であった。政府の厳しい監視を潜り抜けた者達が現地人を使い足場を構築、ある程度整ったら移民と称して次々と人員を本土より送り、異世界国家の裏社会を牛耳った。


現地の裏社会もいたが、殆どは中世程度の文明しかおらず、武器も知識も差が違う日本人が圧倒した。


更には列強国入りしてからは日本人というだけで、現地の人間は恐れをなして逃げていく。面白いのは中には日本人に気に入られようと支配者層の者が裏の人間である自分達に平伏してくるのが出てくることだ。


そうなればもはや本当に敵無しだ。度が過ぎれば流石に日本政府も黙っていないだろうが、ある程度本土から離れれば誤魔化せるし、そもそも政府は人手が足らない状況なので、地球の頃とは余りにもやり易い世界だった。


そんな事情もあり、日本国は表も裏も関係なく異世界で影響力を持つようになった。


その代表組織である日本最大にして弱体化しても経済力としては世界でも三本に入る程の日本の指定暴力団組織である武竜会は日々、その活動領域を広げている。


構成員数4万5000人を超え兵庫県を本拠地にしながら都道府県の殆どに影響力を持ち今は異世界でより力を増している組織だ。


そんな武竜会は既に多くの支部を異世界に構築しているが事件はその内の1つであるバフトン王国という国で起こった。


バフトン王国のある島は日本とは離れている場所にある。他の列強国が手を出している程に遠く離れていた。


この広大な世界ではそれぞれの列強国の影響力の及ぶ経済圏があり、このバフトン王国のある島は日本と他の列強国との経済圏が丁度重なりあっている場所に位置する。


日本より約15000キロメートルも離れた場所に位置するイギリスと同等の面積の島で、科学文明国側では日本以外にもガントバラス帝国、レムリア連邦が。


魔法文明国側ではチェーニブル法国を筆頭にガーハンス鬼神国、ジュニバール帝王国が規模が違えども進出し植民地としてこの国は列強国の意のままであった。


人口が2500万人程の高度文明大国だが、高度文明大国と言えども非常に立場が低く列強国の言いなりになっていた。


そんなバフトン王国は、今まさに波乱の時代を迎えようとしている。





事件よりも少し時は戻り、そのバフトン王国の首都である内陸都市ソウバリンの街中の一角で武竜会の傘下組織である熊光組が支部を置いていた。


構成員180人程の組で親組織である武竜会の命令によりここでこの国の足場を築いていた。



バフトン王国 首都ソウバリン 



熊光組の運営する商会の支配人の部屋にて椅子に座っている組長の太田健壱は目の前で立っている若くして若頭となった20代前半の木花祐三と話していた。


「今日の朝、上からの命令が出た。」


「上からですか?一体どんな?」


木花若頭はそう反応する。上からそれはつまり武竜会からの命令である。


「もっと上納金を出せだとよ。」


「更にですか・・・無茶を言ってくれますね。」


その言葉に太田組長は眉を潜める。極道社会においては、上からのつまり親への言葉は絶対、不満を持つことは決して許されないものだ。


これがただの子分であれば迷わずにぶん殴っているところだが、今目の前にいるのは優秀な若頭で上納金集めに貢献しているので警告だけで済ます。


「おい。」


「へい、すいません。以後気を付けやす。しかし組長、実際にそうでしょう?この国は明らかに他の国とは違います。」


「あぁ分かっている。まさか・・・こんな複雑な国と政府は国交を結んでいたとはな。知ってたらこんなところには来なかったぞ。」


そう太田組長は椅子から立ち上がり部屋の窓から外を見渡す。


ここは大通りに面しており、窓からは大勢の人や馬車が行き来しているのが見える。


だが、よく目を凝らしてみると電柱がありそこから伸びる電線も至る所に張り巡らされている、その為電気が使えるのでこの建物の照明は蝋燭等ではなくランプである。


更には大通りには電気で走れる路面電車までもが走っていた。


この国は高度文明大国であるが故にある程度の技術が使われており、以外にも不便ではなかった。


しかし問題はそこでは無かった。大通りを歩く人を見ると警察らしき者が見えた。それ以外にも軍人らしき者もちらほらと見える。


だが、その軍人達に問題があった。彼等はバフトン王国の軍人ではなく列強国の軍人である。周りを見てみると違う格好をした別の列強国軍人が何人もいる。


列強国のいわばこの国の縄張り争いが街中までに及んでいる為に非常に物騒な状況となっている。


それだけでは無くそれぞれの列強国の犯罪組織も一緒に絡んでいる為に、想定よりも関わりにくい状態であった。


「・・・何だってこんな島に列強国が何ヵ国も居やがるんだよ。」


「資源が豊富だとは聞きましたけど、これは流石に・・・日本の兵士まで完全武装状態でした。地球じゃあり得ないですよ。」


「まぁ上には増員を頼んだから数週間後には何処かしらの組がこの街に来る。その準備を平行してやれ。」


「分かりやした。例の取引については?」


木花若頭はそう聞く。それに何を指しているのかを察した太田組長は面倒臭そうに答える。


「あれはお前に任せたんだ、てめぇの判断でやってろ。ただし」


太田組長は睨んでこう言った。


「失敗しやがったらその時は分かっているんだろうな?」


それに木花若頭は怯むことなく即座に返答する。


「勿論です、必ず成功させます。どうかご安心ください。」


「当たり前だ、話は終わりだ、さっさと仕事に戻れ。」


「へい」


木花若頭はそう言って部屋を出た。その後は数人の子分を連れて建物から出て大通りへ歩いていく。


大通りを歩いているとやはり軍人達が目立つ。それに現地人達はその軍人達に絡まれないように怯えた様子で歩いている。


だが、木花達は堂々と街中を歩く。中にはそんな木花達にも顔を合わせまいと視線を逸らしている者もいた。


彼等もこの辺りで取り仕切っている熊光組を恐れているので、そんな反応をしていた。この国では冬並みの寒さなので木花達はトレンチコートを着こんでいるから、現地人と日本人との区別がつく、そういった者達は視線を剃らしたりする。


列強国の軍人達も同じ列強国人だと知っているので、いちゃもんを着けることはなく無視している。お互いに我関せずだ。


暫く大通りを歩き、数ブロック先の道に逸れるとそこにある建物に彼等は入る。


そこはこの国の商会の建物で敷地内には何人もの商人達が働いていた。


その内の1人が木花達に気が付くと慌てて木花達の元まで近付く。


「これはこれは木花の旦那、へへへ・・・本日はどういったご用件で?」


男は愛想笑いを浮かべて木花に用件を聞く。それに木花は、手短に話す。


「新しいのを幾つか買いに来た。主を呼べ、それと今回はもっと良いものをだ。」


「はい、畏まりました。すぐにお呼びしますんで、少しお待ち下さい。」


男はそう言って自身の主を呼びにいった。暫く待つと商会の主が来て木花達に商品の元まで案内する。


「木花様、お話はお伺いしました。うちの所は綺麗所ばかりなのでご安心くださいませ。」


「そう言ってこの前のは傷のある奴がいたのだが?」


木花はそう言って隣を歩く主を睨む。それに主は慌てて弁明をする。


「あ、あれは仕入れた時には無かったもので、私らでも気付かなかったんです!決して黙ってた訳ではありません!本当です!」


「ふん、あれは見逃す。だが、今日のでまた同じことがあれば・・・」


木花はそう言い腰に指している刀を親指で少し鞘から抜き刀を鳴らす。後ろにいる子分達も同様に主に見せつけるように刀を鳴らす。


異世界に進出する際に武器無しでは心もとない為に彼等は刀や拳銃等を密かに所持していた。武竜会の後ろ盾があればそれも可能だ。


それを見た主は怯えた表情で木花に誓う。


「も、勿論ですとも!もうあのような事は起こりません!神に誓ってっ!」


「さっさと案内しろ。我々も暇ではない。」


「分かりました!ささっ此方へ。」


主の案内の元、敷地内の一角にある倉庫らしき場所に入る。入り口には見張りらしき武装した傭兵が立っており、警戒していた。


中に入り木花達が目にした光景は鉄格子に入った大勢の人々であった。


人間だけでなく、ドワーフや希少な獣人、エルフまでいた。彼等は皆、新たに入ってきた者達を見て一様に怯えた表情をした。


それに木花は平然とした様子で中にいる人々を見る。


木花達が入ったこの商会は言わば奴隷を取り扱っている奴隷商会であった。この国では奴隷制があり多くの奴隷達がいた。


木花の目的は先ほど組長より聞いた数週間後に来る他の組への接待に使う女達を買うことである。


一応この国はある程度は発達した国だが、やはり日本と比べると娯楽は限られている。その中で重要なのは食事と女だ。


木花はまず女達を仕入れて増援が来るまでの間に彼女等の身嗜みを整えさせなければならない。


もし何かしらの粗相があれば組長に何をされるか分からないので彼自ら、女を仕入れなければならない。


「どうです木花様、お気に召した者はいますか?」


主は下衆な笑いを浮かべて木花に聞く。


「あそこで固まっている金髪の女共とそこの髪の短い奴、あの目の青い奴・・・それからあそこのガキもだ。」


「畏まりました・・・おいっそいつらをここに連れ出せ!」


主の命令に従い脇に待機していた使用人と傭兵が牢屋にいる女達を木花達の前に連れ出す。


連れ出された女性達は一様に怯えた表情をし、木花を見ていた。


「・・・ふむ、顔はどれも悪くない。」


「そうでしょうそうでしょう?今回のは特に良い所から集めましたから。」


「顔だけが良くても身体に傷があれば意味がないがな。」


「分かっております・・・お前達っ何をしている!さっさと服を脱がねぇかっ!木花様を待たせるんじゃねぇ!」


その言葉に女性達は一気に涙目になる。助けを求める視線を木花に向けるが当の木花は女性達を睨み付けながらこう言った。 


「聞こえなかったか?さっさと脱げ。」


それに女性達は絶望するが、一向に脱がないことに業を煮やした主が使用人達に鞭で叩かせようとすると慌てて来ていた粗末な服を脱ぎ始める。


全員が脱いだのを確認すると木花は一人一人の身体をじっくりを見る。


それに恥を感じた女達は身体を手で隠そうとすると木花に言われる。


「隠すな、しっかり立て。」


羞恥心で顔を真っ赤になる女性達を無視して全員を見終えた木花は主に文句を言った。


「前回もそうだが・・・ここの女共は痩せてる奴ばかりだぞ?それに身体の汚れも酷い。もっと見た目に気を使わせれないのか?」


「木花様、これでも充分に気を使ってるのですぞ。だというのにコイツらは奴隷になったという事実を受けきれなくて、ああやってただ座ってるだけの様なんですよ。ここは一つ木花様好みに調教してやってくださいま・・・」


「私がやるのでは無い、客人に宛がうものだ・・・はぁ、まぁ良い今度の連中はもっと食わせろ。」


「畏まりました。では今回も買って頂けることで?」


主はほくそ笑む。今回だけでも20人はいる。だれだけの数を一気に購入してくれる客は滅多にいない。本当に良い商売だ。


(全く、列強様々だな。)


「コイツらは特に良い所から仕入れたのでそうですね・・・1人につき金貨15枚でどうでしょう?」


「何?15枚だと?前回は10枚だったろ?」


木花はそう反応する。金貨5枚もあればこの国では、4人家族ならば1ヶ月半は過ごせるだけの大金だ。


「先ほども申した通り、良い所から仕入れたのですぞ。これぐらいは頂かないと・・・」


「・・・あそこの少し汚れた女2人も買う。1人辺り11枚だ。」


「11枚ですか?それを幾らなんでも勘弁してください。せっかく苦労して仕入れたのに・・・」


「良く言うよ。どうせ地方から拉致同然で連れてきた癖に。」


「な、拉致など心外なっ。」


主はそう反応する。奴隷を持つこと事態は法律の範囲内だが、それは罪人や借金の返済が出来ない者のみであって、拉致って奴隷にするのは重罪である。


「拉致ではないと?」


「勿論ですとも!この女共は借金を返済出来ずにいるのを農家から善意で買い取ったのですぞ!断じてそのようなことは・・・」


「はっ農家からか・・・」


木花はそう言うと目の前に立つ女の1人の腕を掴んで主に見せる。


「これが農家の娘の手かっ?爪の形も良し、蛸はおろか大して筋肉もない。どう見ても商人か街の娘だろうが。」


それに主は慌てる。痛いところつかれたからだ。


「木花様っ分かりました!11枚で手をうちましょう!もう・・・木花様には敵いませんなぁ。」


「当たり前だ。後日、迎えを寄越すからそれ迄に身体は洗わせとけ。それと飯もちゃんと食わせろ。」


「畏まりました。そのように・・・それでお代は」


主がそう言うと木花は懐に手を伸ばし金貨の入った小袋を渡す。


「100枚入ってる。残りは届いてから払う。」


「毎度おおきに。すぐにお届けしますので、ご安心くださいませ。」


「何かあったら知らせろ。いつものホテルで手下共は常に待機している。」


そう言い終えると木花は子分を連れてさっさと商会を後にする。


この後は自身の組の縄張りの見回りと例の取引の準備もしなくてはならない。


(あぁ気が休まらないな。)


木花が思わずそう心の中で呟く程にこの国は面倒事だらであった。


彼は何故こんな国に列強が手を出しているのかが分からなかった。地理的に見れば複数の列強の貿易ルートの経由地であるからその可能性を考えれるが、それにしては余りにも物騒過ぎる。


(何か別の思惑が?資源に何かがある?もしくは・・・いや何を考えているんだ俺は、そんなのは役人が考えることだ。今はシノギをどうするかだ。)


木花はそう気持ちを切り替える。この国で想定よりもやり難い理由は軍人以外にもある。それは・・・


「勘弁してくださいっ!それを持っていかれたら俺達は飢え死にです!!」


「返済期限はとっくの昔に過ぎてるんだ。嫌ならばさっさと返せば良いだけだ。」


「あんな滅茶苦茶な金利では返すだなんて到底無理です!せめて少しだけでも減らしてくれたら返済の目処がたつんです!」


「そう言って逃げるつもりだろう?良く目にする手だ・・・何をしてるっ!さっさと運べ!」


「はいっ親分。」


ふと騒ぎが聞こえるので騒ぎの方向を見てみると、そこには大通りに店を構える店主とその家族らしき者達が黒コートを来ている数人の男達に膝まずいていた。


その横にはその家族の家財らしき物を乗せた荷車が置いてあった。


「またあいつか?」


「畜生・・・列強国人だからって調子に乗りやがって。」


「捕補庁は何をしているんだいっ」


「列強国に恐れをなして役立たずさ。」


2つ目の理由が正に今見ているこれだ。列強の軍人だけでなく、その犯罪組織までもがこの国で既に根付いていたのだ。


この状況を見る限りは列強のマフィア傘下の金融屋が現地の住民への取り立ての最中のようだ。


周りは野次馬の集まりが出来て中には列強の軍人達がニヤニヤとした表情で見ている。


「またですか?連中随分と強引な方法でやってますよ。」


「あの様子じゃあ大手ではなくて独立組織でしょうな。どうします頭?」


子分がそう各々の感想を言って自分に判断を求めた。


「ここは連中の縄張りだ。横井りはご法度だ。行くぞ。」


そう言って興味を無くしたのかこの場を後にしようとする。しかし


「止めなさい!」


女性の声が聞こえた。それに反応して木花は再度、声の方を見た。


そこには高貴な姿をしたまだ10代後半くらいの若い金髪の女性が黒コートの男達の前に立っていた。後ろにはその使用人らしき男女が立っている。


「あの女は誰だ?」


木花が子分に聞く。子分は互いに顔を見合わせる。どうやら誰も知らないようだ。


「見たところ良家のお嬢様みたいですが・・・」


「そんなの見れば分かる。あの服に描かれている家紋を誰も知らないのか?」


木花は女が来ている仕立ての良い服に描かれている家紋を指差して再度子分達に聞く。蝶と花が描かれた紋章だ。それに子分達は申し訳なさそうに答える。


「す、すいません。俺らまだ家紋全てを覚えていなくて・・・」


「ちっ役立たずが。」


木花はそう苛立ちを隠そうとせずにそう吐き捨てる。それに少し怯え始める子分達。ふと木花が周囲の野次馬達を見てみると、彼等は誰か知っているようで驚いたような表情をしていた。


彼等に聞いてみるかと思った瞬間にまた声が聞こえた。今度は黒コートの男達の声のようだ。


「なんだあんたは?部外者は引っ込んで貰おうか?お嬢さん。」


その無礼な態度に令嬢の後ろに控えていた使用人の男性が怒りを露にしてこう怒鳴った。


「おぬしっ!無礼だぞ!こちらはこのバフトン王国の領政官の御令嬢にして建国の功臣である東王下の称号を与えられた名家、キム家の長女であらせられるキム・アリア様であるっ!礼を尽くせっ無礼者め!」


「キム家?・・・あの大臣の娘か。」


「知っているんですか?」


木花の呟いた言葉に子分が聞いてきた。それに不機嫌そうに答える。


「馬鹿野郎、この国の宰相クラスの娘だぞ。そうかあの家紋は娘の方の奴か。道理で見覚えがないと思ったんだ。」


この国では高貴な者は成人した際にその人独自の家紋を持つことが許される。あの見た目だと年は恐らく17~20程、この国では立派な大人となる。


(領政官は総理大臣と同等の権限を与えられている筈だ。しかも功臣家・・・かなりの大物じゃないか。)


彼がそう反応すると周りもまるで先程の通夜状態とは打って変わって急に活気づいた。


「アリア様だわ、なんて凛々しいお姿なのっ」


「へへっ・・・あいつら予想以上の相手に怖じけついてらぁ」


「お嬢様が我等の為に勇気を出して下さった。なんてありがたいんだ。」


黒コートの男達も流石にこの国の宰相相当の娘が相手だとは思っていなかったようで動揺している。


「な、そんな名家の方が一体何のようだ。あ、いや何です・・・か・・・」


ため口で話そうとしたがアリア嬢が一歩近付き睨み付けると思わず後退り敬語になおす。


「今すぐに取立てを止めなさい。この国の民を苦しめるのはこの私が許さないわ。」


「こ、こっちは正当な法で金を貸して取り立てているんですよっ。御宅に指図される筋合いは・・・」


「そなた達の国が力にものを言わせて結んだ条約の事ですか?それにしては随分と度が過ぎているようですが?禁近衛庁を呼びますか?」


「な、それは幾らなんでも・・・」


男はたじろぐ。禁近衛庁は政治犯罪者等の重罪人を取り締まる機関で一度捕まると出ることは非常に難しい。


「条約ではそなた達列強国人の金利は制限はされない・・・がこのような強制的な取立ては認められていない。これは間違いなく条約違反だ。何か間違っておるか?」


「う、あ、いやぁ、ちょっと待って下さい!分かりました。止めます!おいっお前ら行くぞ!」


黒コートの1人がそう言うと他の男達も我先にと逃げる。所詮、列強国の名を盾にして威張り散らしていたチンピラと根っからの名家で正義心溢れる者には敵わない。


誰が勝者かのか明白になったこの場では成り行きを見守っていた野次馬達が歓声を上げる。一緒に見守っていた列強の軍人達は苦虫を噛み潰したような表情でその場を去る。


「そなた達、大事ないか」


「お、お嬢様っ、な、なんとお礼を申し上げれば良いのか・・・私どもの為にありがとうございます!本当にありがとうございますっ!・・・うぅ」


アリア嬢は取立てられていた家族を立たせて慈母のような笑顔を浮かべて身体を労る。それに家族は涙を浮かべながら何度も感謝の言葉を述べる。


「随分と行動力のあるお嬢様ですね~。チンピラごときじゃあ歯が立たないですよ。しっかし凄いぺっぴんさんですね。頭もそう思うでしょう?」


事の成り行きを見ていた子分は、あのアリア嬢を注視してそう呟く。


「俺は金髪は好みじゃない。それに女は黙ってる奴の方がいい。何でもかんでも首を出す奴は録なことをしない。」


木花はそう子分に言う。彼は男尊女卑よりの考え方をしており、自身の内縁の妻も無口な女であった。


「・・・いずれにしても俺達には関わり合う事は無い。それに所詮は小国、あんなことをしても他で同じような奴が次々と出てくるだけだ。無駄なんだよ・・・むっ。」


木花がそう話しているとなんとアリア嬢と目があってしまった。


端から見ると木花達はこの国では見ることの無い洋服のコートを着込んでいる。大勢の人が居ようともそれは非常に目立つ。


目が合ったアリア嬢は少し不快気味な目をこちらに向けた。その生意気な態度に木花は眉を潜めるがそのタイミングに路面電車が間に入る。


強制的に視線を遮断された両者はそのまま互いの行動に移る。アリア嬢は市民達の歓声を受けながら近くに止めている馬車に乗って、木花は子分達を連れて支部に戻る。


「頭、ひょっとするとさっきの美人さんと目が合ったんですか?」


「あ?なんでそう思う。」


「頭とあの美人さんがお互いの方向を見て止まってたんでそれで・・・へへへ羨ましいな。」


「減らず口を叩くな。」


「へい頭、ひょっとするとまた会えるかも知れませんぜ。」


「だとしたら勘弁して欲しいものだな。口煩い女は嫌いだ。」


木花はもう一生目にしないようにと神に願った。






揺れる馬車の中を座る2人の女性がいた。1人は使用人の格好をした20代前半程の女性が、もう1人は高価である絹をふんだんに使った動きやすいドレスを身に纏った女性が。


高貴な女性であるアリア嬢は外の景色を見ながら自身の侍女であるトンニョに声をかけた。


「トンニョ。」


トンニョと呼ばれた侍女はすぐさま反応をする。


「何でしょうお嬢様?」


「・・・さっきの灰色のこーと?を来ていたあの集団を覚えている?」

 

「あぁ・・・あのゴロツキですか・・・」


トンニョは複雑な顔をしてそう答える。まさか知っているとは思わなかったアリアは驚いた表情をして聞く。


「知っているの?」

 

「知っていますよ。あの辺りじゃあ有名なならず者ですよ。お嬢様が一生関わり合うことのない人種です。」


「教えて。」


「お嬢様・・・」


トンニョは困った顔をするがずっと見つめてくる自らの主人に観念したように言う。


「あいつらはニホンのならず者で確か・・・クッコウグミ?って呼ばれててあの辺りで用心棒や酒場、賭博の運営や建築関係の商会までやっているみたいで捕補庁の役人ですらも連中に金を積まれてて良い噂なんて聞かないですよ。」


「ニホン?ニホンってあの列強国の?」


「そうです!最近になって国交を結んだっていう国でガントバラス帝国と友好関係にある国です。あいつらはこの国を乗っ取ろうとしてますよ。許せませんっ。」


トンニョはそう言って頬を膨らます。列強国はこの国の利権を次々と奪っていってるのはこの国では周知の事実であった。


特にガントバラス帝国とガーハンス鬼神国はどちらも何度かバフトン王国軍と小規模な衝突があった。


この度に不平等条約を結ばされていたのだ。


(ニホンか・・・またもや列強がこの国に来るのか。)


「トンニョ、ニホンについての情報を集めてちょうだい。ついでにそのクッコウグミとやらも一緒に」


「お、お嬢様っ、あのゴロツキ共もですか!?」


「あぁお願いね。場合によっては連中を利用するわ。それに・・・」


(あの男・・・また、会うかも知れないわ。危険な目もしていた。)


アリア嬢は名も知らぬ男に僅かな警戒を抱く。この2人が世界を巻き込む大事件に関わり合うことはまだ誰も知らない。


 

ごめんなさい戦闘回では無かったわ。


なんか気付いた時にはもう手遅れでした。ここからは好きな場面に入りそうなのでやる気マックスでいかせて頂きますぞ。  


次回には何故この国に列強が絡んでくるのか理由をかけれるかな?なんか前科できちゃったから確約は出来ません笑


次をお楽しみに!また、速めに出せるように頑張ります!

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