表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
54/102

第48話 本部長のパーティー 前編

ちょっと長いので前編と後編に分けてみました。

第48話 本部長のパーティー 前編


帰りたい


つい、そう考えてしまった自分の未熟さを恥じるがそれも仕方ないと思ってしまう自分もいる。


彼、小島グループの本部長にして社長の息子である小島修治はうんざりしていた。


日本から離れてはや1週間が過ぎていた今日この頃、メターナ王国首都の貴族に招かれて夕食を一緒に食べているが嫌気がさす。


食事のメニューに不満はない。大きな長テーブルの上には、高価な皿に新鮮な野菜を盛り付け、旬のフルーツは1口サイズに食べれるようになっている。


それ以外にも狩りで捕ったという兎肉のソテーに川魚のムニエル、飲み物には10年物の熟成ワインがグラスに注がれている。


シチューも柔らかく煮込まれた鶏肉とジャガイモ等が口に合う。メインである豚の丸焼きも香辛料がふんだんに使われているので、味が薄いことはない。


それをこの家のメイドがその豚の丸焼きを食べやすい大きさに切り分けて彼の皿の上にまで運んでくれる。その肉と一緒にふかふかの白パンを一緒に食べれば文句無しだ。


だが、さっきからしきりに話し掛けてくる目の前に座っているこの男だけが全ての不満の元凶だ。


「・・・ということで息子が兵を動員して魔獣共を次々と討伐しましてなぁ。はははっ、お陰で我が領内ではその魔獣の皮や肉が大量に手に入りまして、それがこの王都では跳ぶように売れて逆に困ってしまう始末です。」


この男はさっきからこんな調子で自分の自慢話を延々としているのだ。既に2時間は経過しているのにだ。


「今年は本当に良い年です。領内の治安も上がり税収も増えたりと・・・これはついに私の時代が来ましたかな?ふははははっ」


「お見事です、伯爵。そこまで行けば最早、運では無くひとえに貴方自身の手腕によるものでしょう。ご子息も実に立派な方です。」


本部長がそう世辞を言うとこの伯爵と呼ばれた男は更に上機嫌になる。実に分かりやすい男だ。


「これはこれは、ありがとうございます。しかし小島殿と比べれば私などまだまだです。なにせその年にして貴国で最大の商会でご活躍なさっているのですから。」


ここでようやくこの男も世辞を言ってきた。こんな奴でも世辞を言うだけの知識はあったのかと本部長は感心した。決して嫌味では無く本心からそう思った。


「そのような事はありません。所詮親の威光にすがっているに過ぎません。父やその重役達と比べれば私などまだまだです。」


「ほぅ、実に謙虚な方だ。貴方は」


(お前は少しは謙虚というものを覚えたらどうだ?)


彼はこの言葉が出そうになったが、ぐっと堪える。それを知らずに今度はこの伯爵の娘アルシアが話し掛けてきた。


いま彼のいる食堂では、本部長と伯爵そしてその伯爵の長男、次男、長女に夫人がテーブルを囲んで座っている。その周りには執事やメイド、本部長の秘書と護衛のSPが立っていた。


これだけの人がいながらこの2時間殆ど声を出していたのはほぼ伯爵だけたと思うともはや驚くしかない。


「小島様、わたくし小島様の国のお話が聞きたいですわ。」


この伯爵の娘は、年はおよそ10代後半頃であろう。日本ではまだ成人になった頃だろうが、この大陸ではもう婚約相手がいても可笑しくない年らしい。


そんな若く美しい相手からの質問に彼も先ほどまでの不満が少し下がった。ほんの少しであるが。


「私の国ですか?さてどこから応えればよいものか・・・」


彼がそう悩んでいると今度は長男が話し掛けてきた。


20代前半の男でその豪華な服の上からでも分かる程の立派な筋肉を纏っているこの男。先の会話を思い出すと彼が兵を引き連れて魔獣を多数討伐したという。この体格を見るとそれも頷ける程の体格の良さだ。


名前は確か・・・ローズドだったか?


「確か貴国では、魔獣が居ないと聞きましたがそれは誠ですか?」


「魔獣ですか・・・確かに我が国ではおりませんね。精々、クマの様な・・・あぁ失礼、ここではギジルと言いましたか。まぁそういった猛獣が地方にいる程度ですね。」


「なんと貴国は実にのどかな国なのですね。しかしそれで兵士達は鍛えられるのですか?本来ならば他国との戦で実践を経験されるものですが、貴国は戦争を嫌うと聞きます。果たしてそれで充分な訓練が出来るのでしょうか?」


長男からの下らない話に溜め息が出そうになったが、我慢して応える。


「我が国の兵士達は常に実戦と同じような状況下での訓練に勤しんでおります。」


「しかし訓練では限界ありましょうぞ。私ならばどのような者でも立派な騎士にさせてみせましょうぞ。」

 

(こいつはただの脳筋か、話すだけ無駄だな。)


本部長はそう見切りを付けた。


「もうお兄様、またつまらない話をしていますっ」


「つまらないとは何かアルシアよ。貴族の男として生を受けた以上、常に己を高めることをしなくてはならんのだぞ。そうでしょう小島殿?」


こっちに話を振るなと思ったがそんな事は表に出さずににこやかに答えた。 


「確かに国の上に立つ者としては常にそう考えるのも大切ですね。」

 

「流石は小島殿っ、いかがですか?暇があれば私と共に狩りにでも行きませんか?」


「ありがたいお誘いですが、生憎私は馬にのれないものでして、貴方の足を引っ張ってしまうだけです。」


「なんとっ馬に乗れないとは・・・ならば私が馬の乗り方を教えましょう。なに、すぐに暴れ馬でも乗りこなせるようになれますよ。」  

 

「これこれ、ローズドよ。小島殿はお忙しい方なのだ、それに彼にはくるまという乗り物がある。馬に乗れずとも不便ではないのであろう。」


「あぁ、くるまですか。最初見た時は驚きましたが実に不思議な乗り物です。オーマバスの物とはまたずいぶん違う見た目ですが・・・」


「小島様っ、わたくしあのくるまに乗ってみたいですわっ!」 


アルシアは思わず大きな声をあげる。それを伯爵夫人がたしなめる。 


「アルシアっ、はしたないですよ。申し訳ありません、娘がご無礼を。」


「いえ、構いませんよ夫人。アルシア嬢、良ければ乗せても構いませんよ。」


「本当ですか!?小島様っ!」


「えぇもちろん。なんでしたら今から」


プルルル・・・プルルル・・・


本部長が言葉を続けようとしたタイミングで彼の持っていたポケットのスマホの着信が鳴ったのでそれを取り出す。そのスマホに伯爵が興味深そうに質問する。


「それは一体、何でしょうか小島殿。」


「こちらは通信魔法の様な物を携帯出来るようにつくられた物でこれで遠くの者と会話をすることが出来ます。」


「なんと・・・貴国ではそのような物があるとは、しかもそれ程の物がその大きさとは・・・いやはや貴国には驚くばかりですな。」


「ありがとうございます。それでは少し失礼して・・・何だ?・・・そうか分かった、すぐに向かう。」


その会話を聞いていたアルシアが残念そうに声を掛ける。


「小島様、行ってしまわれるのですか?」


「えぇアルシア嬢、伯爵、申し訳ありませんが急の仕事が入ってしまい今日のところはこれで失礼します。本日はありがとうございました。」


「そうなのですか?いやぁ実に残念だ。出来ることなら我が屋敷で泊まって頂こうと思っていたのですがね。」


「ご好意に感謝します。誠に残念ですがまたの機会に。」


(娘に夜這いでもけしかけてくる訳じゃないだろうな?絶対にお断りだ。)


本部長は、伯爵の狙いを察知し逃げるように屋敷から出た。


支部に戻る途中、車内で隣に座る秘書が話し掛けてきた。


「本部長、そういえば3日後の立食パーティーの件についてなんですが。」


その言葉に彼は頭を抱かえた。思い出したくもない行事だからだ。


「あぁそれか・・・明日では駄目か?」


「駄目という訳でもないですけど、速い内に確認した方が良いですよ?明日も大忙しじゃないですか。」


「明日の予定は確か、商業組合の組合長とこの国の大商会の商会長との会合だったか?」


「それと目的の鉄鉱山の所有者とオーマバスの残した鉄道の処理についての打ち合わせも明日の予定に組み込まれてます。後者のは重要ですので、万全の体調でお願いしますね。それで明日にします?それとも今聞きますか?」


「今で頼む。」


「それでは、まずクルセナ侯爵から知らせが届きましたが、我々は国賓としての参加なので典礼では我々は最後の方に呼ばれます。まぁリハーサルが事前にあるのでそれで覚えれば大丈夫ですけど。

あと2つ目は、日本大使の小林さんは急遽、本土に呼ばれた為、欠席になりますので頑張ってください。」


「なにっ?小林さんが来ないだと?」


「まぁ外務省は人手不足ですからね、転移でベテランの殆どがいなくなったからこんな辺境に派遣された方でも本土では貴重な若手ですからね。」


「すると当日は俺に集中砲火か・・・」


「ハニートラップにお気を付けて。今日のあの伯爵も明らかに狙ってましたね。アルシアお嬢様でしたか?あの方の目が本気でしたよ。」


「やっぱりお前も思ったか?」


「えぇ。ですので当日は単独行動は控えてくださいね?分かってはいるでしょうけど。」


「当たり前だ。ところで向こうではダンスとかしないんだろうな?」


彼は念のために確認する。ダンスは出来るが素人の域を出ない程度なので出来るならば踊りたくないのだ。しかも相手はプロであろう貴族相手には。


「舞踏会では無く立食パーティーなので問題無いかと。隣の大陸では関係無くダンスをやるらしいですけど、この大陸ではそんな文化は無いので大丈夫でしょう。」


「そうか、せめてもの救いか。それで全部か?」


「はい、今のところはこれで全部です。後は急遽入ってきた仕事を処理しておやすみです。」


「ならちょっと寝る。着いたら起こしてくれ。」


「はい、分かりました。良い夢を。」


そう秘書が言うと彼は座席を倒して眠る。働いてから大忙しの彼は今ではすぐに体力を回復出来る様に寝つきが非常に良くなっていたのでものの数分で眠りにつく。


それを確認した秘書は車に備え付けられているパソコンを開き仕事を始める。


(・・・支部の改修は来年の1月に完了予定か。予想よりも速いな。)


秘書はここの支部の改修工事のチェックをしていた。この大陸の活動拠点の中心である為にこれは重要だ。


日本風のビルに改修するが高さを抑えて頑丈さを優先させたこの改修工事、壁はガラス張りにしているが、傘下の重工会社開発の特殊強化ガラスを採用し、並の建造物よりも頑丈になるらしい。


見た目に差を着けてこの大陸人にインパクトを与える為にこれの失敗は許されない。


(その為にもこの人にはもっと頑張って貰わないとなぁ。今も充分頑張ってるけど。)


秘書はそう彼にとって残酷な判断を下す。彼の生活が落ち着くのはまだまだ先のようだ。


その後、支部に着き起こされた本部長は、仕事を片付けて明日に向けてベッドに眠りについた。







  3日後   パーティー当日


この日の昼下がり、王城では数多くの馬車が城の門に入ってきた。


それらの馬車には、家紋を付けた旗がつけられその家紋はこの国の名家のものばかりであった。


この国以外にも近隣諸国の家紋もあり、それだけで今日行われる行事が大規模なものであるとよく分かる。


まさにその通りで今回は、王家が年に一度主催される祝賀会で、それも国王自らが開く為国内だけでなく国外からも多数の権力者達が参加するのだ。


そんな王城の中にある最も広い部屋が今回の立食パーティーの会場で昼下がりだというのに既にそこには多くの人が入っていた。


会場は王城の一角を丸ごと使用された非常に広い空間で何百人もの人が入っても余裕がある程の広さだ。壁には日の光を効率よく入る為に至る所にガラスが嵌め込まれおり、中はとても明るい。


会場に入っているのは、貴族やそれを迎える為に置かれた料理が置かれており、それをメイドや従者が次々と新たな料理を置いていく。


招待された貴族達は、そんな会場内で談笑をしていた。知人の貴族と話す者、大貴族に挨拶をする若手貴族、同じ派閥に所属している貴族同士で会話する者等、様々な者達がいた。


同じ貴族でも当然ながら派閥があり、それぞれの派閥に別れて常に争っている。


そして招待された者達の中には貴族以外の者もいた。それは宗教団体そして商人達である。


だが、それはただの平民ではない。宗教団体は高位の神官や大司教そして商人はこの国でも有数の大商会の主達である。


彼等はこの国で多大な貢献をしてきた者達であり、今回特別に招待された一握りの選ばれた平民達だ。


そんな貴族、平民問わずにこやかに談笑をしているが、その裏は様々な欲に混じっていた。


そんな者達の1人であるこの男、ヘテメルク・グラーデン伯爵がいた。


彼はこのメターナ王国の東部に位置する場所に領地を持つ貴族の1人だ。


そのヘテメルク男爵は、注がれたワインを片手に他の貴族達と談笑をしていた。


「ヘテメルク卿、聞きましたかなあの話を」


彼に話し掛けているこの男は隣の領地を統治している子爵である。彼も今回のパーティーに招待されており、参列していた。


「あの話とは?」


「例の新たな列強国日本の大使殿が今回来られないようですぞ。」


「ほう、それは残念ですな。大使殿と一度お話したいと思っていたのですが・・・」


「ただその代わりにあの小島殿が来られるようですが、ヘテメルク卿は既にお会いしましたか?」


「あの港の工事をしている所のですか。お会いしたかったのですがお忙しいようでして駄目でしたな。」


ヘテメルク卿は、そう話すと後ろから声を掛けられた。


「ほう、男爵はまだお会いしていなかったか。それは残念であったな。」


そう声を掛けたのは彼の所属している派閥でも上の立場である伯爵が声を掛けてきた。


彼ハマルド伯爵は、国内でも広めの領地を持つ貴族であり、大貴族として多大な影響力を持つ貴族である。


「これは伯爵様、お久し振りです。」


ヘテメルク男爵は、ハマルド伯爵に頭を下げて挨拶をした、子爵も少し慌てて挨拶をする。


「あぁ久し振りだな。健康そうで何よりだ。」


「恐れ入ります・・・ところで伯爵様は既に日本のあの方とお会いされたので?」


「いかにも。小島殿と先日お会いさせて貰った。非常に有意義な時間であったぞ。」


「流石は伯爵様です。既にお会いされていたとは」


「なに、私も運が良かっただけだ。だが、実際にお会いしてみたが実に立派な方だ。」


3人の貴族が話している中で別の場所では、これもまた同じ貴族達が複数人で今回の国賓である小島本部長に関する話をしていた。


「例の日本の商人、小島といったか?貴殿は確かお会いしたとか。」


「えぇあそこの伯爵と同様お会いしました。」


「どのような方で?」


「予想よりも若い男でした。あそこの商会支部の中に入らせて貰いましたが、どれも見たことのない物ばかりで奇妙な所でしたな。」


「商会支部・・・あのガラス張りの建物ですか。あんな構造でよく崩壊しませんな。」


「聞いてみた所、特殊強化ガラス?という頑丈なガラスらしく生半可な衝撃でもびくともしないようですぞ。」


「にわかには信じられませんなぁ。しかし港の重機やら巨大船がありますからな。」


「左様。そしてあの日本国内でも最大の商会とされていると聞きます。オーマバスとは格が違うのでしょう。もし、御近づきになれるのならばどれだけの富が集まるか・・・」


「ですからでしょうな。今回こんなにもご令嬢達がおり、着飾っているのは。」


そう貴族の1人が言い、会場内を見渡す。確かに彼の言う通りにこの会場には今までのパーティーよりも多くの若い貴族の娘達がいた。


彼女等は皆、招待された貴族達の娘で連れてきて貰った者達だ。だが、中には今回が初めての社交デビューの者もいた。


そんな彼女達だが、その着ている衣装はどれも見事な出来であり、身に付けている装飾品も高価なものばかりだ。


「あちらのご令嬢は確か・・・貴方のご令嬢では?」


「お恥ずかしながら、連れて来ました。」


「まぁお気持ちも分かります。あの小島殿にお気に召されば莫大な富が付きますから。」


「それにこの国のいや、大陸中でも絶大な影響力を持てますぞ。少なくともこの国ならば派閥内の大貴族どころか王家すらも・・・」


「卿っ。それ以上は不敬ですぞ。下手すれば反逆の意ありと判断されます。」


「これは失礼しました。しかしあの商人はそれだけの価値がある。ご覧くださいご令嬢達の殺気だった表情を。」


「・・・確かに。しかしこれでは今回の若者達は娘達にアプローチ出来ませんな。不運なものです。」


彼の言葉通り、ここには若い娘達だけではない。青年貴族達もいる。


彼等の多くはまだ家の当主ではなく、今回が初の社交デビューの者も多くいた。そんな彼等の目的は次期当主として自分達の所属する派閥の大貴族への挨拶や婚約者を見つけることだ。


1つ目の挨拶は終えたが2つ目の婚約者探しは難航していた。それは令嬢達が注目しているのは誰か分かっているからだ。


例え大貴族の息子と言えども今回ばかりは相手が悪い。なにせ列強国である日本の大商人の息子でその凄まじさは港を見て嫌と言う程分かっていた。


あれだけの巨大船を何隻も保有し、今この王都で建てられている商会支部は元の建物の原型を残さずガラス張りの高い建造物となっている。


まだまだ建設途中のようだが、既に6階建てと、この王都でも王城を除いて一番の高層建築となっているのだ。それも驚く程の短期間で。


これだけの資金力そして技術力を持つ商会など誰が見ても欲しいと思うだろう。


そんな思惑がある貴族達は自身の娘に惜しみ無く着飾らせて、自身よりも立場の低い貴族に圧力を掛けたりなど、貴族特有の裏工作が行われていた。


そして当の令嬢達は誰もが自身の美貌に自信を持って他の家の令嬢達と楽しそうに話していた。


しかし、楽しそうに話しているがその裏では相手の衣装や装飾品等を観察してライバルとなるかを見定めていた。


ある令嬢は、他の令嬢にどことなく自身の家の自慢話をして相手に圧力を掛けたり、格下の家の令嬢の陰口を叩いたり、若い女と言えども親達に劣らない程の貴族っぷりを見せ付ける令嬢達もいた。


そんな令嬢達がいるなか普通に世間話をして楽しんでいる令嬢達ももちろんいる。


そしてその世間話で1番盛り上がるのは、やはり自分の親達と同様、これからやってくる日本の商人であろう。


彼女達が親や自身の使用人達から聞かされたのは、いわく大陸中の金をかき集めても敵わない程の資産力を持つ。


この大陸だけでなく他の大陸にも絶大な影響力を持ち、その圧倒的な資金力で大陸を裏から操っている


また日本国内でも権力者達と懇意にしており、望めばオーマバスとレムリアを圧倒した日本軍をいつでも動かせるなど、様々な情報を聞いた。


そしてそれを確かめようとお忍びで港に行けばそんな話を信じれる光景を目にし、闘志を燃やすのはどこの令嬢も同じであった。


それだけの力を持つ商会の主の息子、それはすなわち次期商会の主になるということなのだから。


そしてこの伯爵家の令嬢、フィオナ・クレムリッドもその内の1人であった。


彼女は今、他家の令嬢達と件の日本人について話しておりいた。


「どのようなお方なのかしら?」



「長身でとても凛々しい方だと伺いましたわ。」


「まだ独り身だと耳にしましたが、どうなのでしょうか?それが真ならば正室に・・・」


「平民の方だと伺いましたが・・・本当にそうなのでしょうか?」


「そういえばフィオナ様は小島様をお見かけしたと聞きましたわ。」


「そうなのですか?フィオナ様。」


「えぇ先日、港にお忍びで行った時に遠くからですが見ましたわ。」


彼女の言ったことは事実で、偶然お忍びで遊びに行き、そのまま港を見に行った時に周りの人々がクルセナ侯爵が来たと噂を聞き、気になって港内を歩き回ったらクルセナ侯爵と日本人らしき人物を発見したのだ。


「どんなお方でしたか?」


令嬢の1人が期待の目でフィオナに聞いた。彼女だけでなく、一緒に話していた他の令嬢も期待の眼差しで見つめていた。


「申し訳ありませんが本当に遠目からでしたのでお顔までは・・・」


その言葉にまだ年若い令嬢達は、落胆の表情を隠さず残念がった。その様子にフィオナは申し訳ない気持ちになり頭を少し下げて謝罪した。


「本当に申し訳ありせんわ。」


そうフィオナの申し訳なさそうに謝る姿に落胆していた令嬢達は慌てて頭を上げるように言った。


頭を上げたフィオナを見て安堵した彼女達は話を戻した。


「皆様はどう思います?もしあの方に一目惚れされたら。」


その言葉に令嬢達は次々と楽しそうにその後の理想の生活1人ずつを語りだした。


「私は大陸の外に出てたくさんの国をこの目で見て周りたいですわ。」


1人目の令嬢はそう言う。貴族の娘としては珍しいがそれも噂の商人の力があれば叶うのは容易いであろう。


「あら、私ならば世界中の宝石を集めますわ。この世のあらゆる宝石を身に付けてみたいです。」


2人目は宝石を望んだ。それには周りの令嬢達も思わず頷いた。世の女性達ならば誰もが求めるであろう世界中の宝石、それを手に入れられるならばどれだけ幸せだろうか。それもあの商会ならば容易い筈であろう。


「私は日本のドレスを買い占めたいですわ。あれ程の大国ですもの、きっとあの国のドレスもどれも素晴らしい物ばかりですわ。そして毎日パーティーを開いて優雅な生活を送りたいです。」


3人目は衣装を望んだ。これにも他の令嬢達も共感の意を示した。列強である日本の名店ならばこの場にいるどの令嬢達の衣装よりも遥かに見事なものであろう。


「わ、私は親孝行をしたいです。そうすれば大貴族も夢ではないですよね。」


この中で最年少の令嬢はそう答えた。まだあどけなさの残る彼女の純粋無垢な答えに周りは和んだ。


「ふふふ。素敵なお考えですね。」


「あ、ありがとうございます。ところで・・・フィオナ様はどうですか?」


遂に自分の番になったフィオナは考える。どんな事を望むべきか。


「私は・・・勉学に励んでみたいです。」


予想外の答えに周りは目を見開く。もう少し夢のあることを言うと思っていたからだ。


「勉学ですか・・・」


「はい。噂では列強国は女人でも平等に勉学を学ぶことが出来るとか。しかも高度なものを・・・変でしょうか?」


「い、いえ、とても素敵だと思いますわ。」


「そ、そうです!私も知りたいことがたくさんありますもの!」


「皆さんありがとうございます。今日は本当に素晴らしい日ですわ。」






「・・・ふん。良い気なものだな、ご令嬢様は。」


そう悪態をついたのは今回が社交デビューとなる青年貴族の1人だ。


「おい聞こえるぞ。」


それを周りにいた別の青年貴族がなだめる。


「大丈夫さ、楽団の連中が弾いているから聞こえることはないだろうよ。それよりもお前は不満に思っていないのか?」


「気持ちは分かるが・・・相手は列強国だぞ。」


「だが平民だろう?今回来る筈だった大使も平民だと聞く。我々を見下しているんだよ、連中は。」


「だが父上が日本は身分制度がない国だと言っていたぞ。」


「そんな話があるか?身分制度が無いなんて到底信じられるか。オーマバスだって貴族はいたんだぞ?平民ごときにカトレア嬢は・・・許せんっ。」


青年貴族の1人が不満げにいるのを他の仲間が何とか宥めようとするが彼の不満は高まる一方であった。どうやら気になっていた令嬢が噂の男に興味があることが許せないのだろう。


「お前・・・そろそろいい加減にしとけ。つげぐちをする奴なんて至る所にいるんだぞ。そうなったら最悪お前の当主の道が閉ざされるぞ?」


その言葉に流石の彼も恐れのいたのかようやく落ち着いた。





その様子を会場の端で固まっていた商人たちが面白いものを見るような目で見ていた。


「やれやれ・・・若いお貴族様というのはこれだから嫌なんだ。頭が堅くていかん。」


「若いのばかりではないぞ、あそこのリバンナ伯爵は件の男を見下すような発言ばかりだ。」


「あぁあの伯爵か。奴隷事業で大儲けしているからな。人一倍身分を重んじてるだろうな。」


「貴族の話など、どうでも良い。そろそろ我等も件の商人の話をしたい。」


1人の商人がそう言った。彼にとって自分達と同じ平民のしかも超大商会の商人の方が貴族よりも重要だと考えていた。まぁそれは他の者達も同じだが。


「テバク行商団の話は聞いたか?」


「もちろん。件の商人、小島殿だったか?その方と接触したとか。」


「私も聞いた。しかし何故あの行商団と?」


「どうやらあの行商団の持つ鉄鉱山が目的らしい。そこの番頭がそう言っていた。」


「なるほど・・・商会長とはお会いしているのか?」


商会長とはこの国の最大勢力である商会の主のことだ。つまりこの国1番の商人で。侯爵並の金持ちとして有名だ。


「先ほど商会長と話したが2日前に会ったらしい。自身の立場が変わるじゃないかと心配していたが、まぁ今回ばかりは相手が悪いな。正直相手にすらならんだろ。」


「おい滅多な事を言うな。商会長に聞こえたら不味いぞ。」


「事実じゃないか。あの巨大船1隻を買うだけで間違いなく破産するぞ。」


「日本の最大規模の商会・・・我々はどうなるんだ?追いやられるんじゃないだろうな。」


「テバク行商団の団長から聞いたが割りと正規金額で買ってくれたらしいぞ。」


「それだけでは安心出来ん。あれだけの商会だ。組合長でも抑えられんよ。」


「まぁ待て、そう悲観的に考えるのも空しいぞ。どうにかして一口かませて貰えれば・・・」


さっきまで話していた商人は突如口を閉じる。理由は会場の来賓者専用の扉の前に1人の儀杖官が立つのを見たからだ。


「始まるか。」


「さてさて噂の日本人の顔を拝めさせて貰おうか。」


「最初は王族と国王陛下からだ。礼を忘れるなよ?」


彼等はこれから会場に入ってくる小島本部長を見ようと談笑を止め儀杖官に注目をする。






一方その頃、噂の元である小島本部長は何をしているのかと言うと、国賓者専用の控え室のソファに座っていた。


(はぁ・・・もう貴族の相手は勘弁だ。)


自身の持つ中で最も格式の高いスーツを着た彼はそう心の中で溜め息を漏らす。彼は王城に入りすぐにやったリハーサルを終えてこの部屋に案内されてから王城にいた貴族とずっと話をしていたのだ。


部屋と言っても流石は国賓者を入れるだけあって室内は広く調度品やらも高価な物ばかりであった。


そんな部屋に案内される途中で大陸内の外交大使が何人も話し掛けてきたので、そんな彼等の挨拶をずっとしていた。


そしてようやく一段落落ち着いたのでこうしてソファに座って休憩していたのだ。


その隣に座っている秘書が労いの声をかける。


「お疲れ様です。そろそろ向こうの準備も終わるでしょうし、本番はこれからです。」


「分かっている・・・仲沢さん大丈夫だとは思いますがよろしくお願いしますね。」


本部長に仲沢さんと呼ばれた男、小島グループ傘下の警備会社の職員で元レンジャー隊員である仲沢裕行は返事をする。


「お任せください。我々一同全身全霊を掛けてお守りします。」


彼以外にも同じ元レンジャー隊員の3人そして元々本部長の護衛をしていたSP、2名がいた。


警察官だけでなく元軍人がいるのは非常に心強い。ただ城に入る途中で武器を預けることになったのは少し不安ではある。


「武器は回収されてしまいましたが大丈夫ですかね?」


「そうですね・・・警棒の所持は認められましたし、ここの王城の近衛騎士達の警備も中々のものです。何かあれば車に誘導するまでの時間は稼げるかと。」


「そうですか、なら良いんですが。」


そう話していると儀杖官が入室し、会場の準備が整ったというので彼等は部屋から出る。





部屋から出て会場の来賓者専用の扉付近まで来ると既に多数の人々がいた。どうやら王族と国王は既に入場したようだ。


侯爵等とその令嬢らしき者達、よく見るとクルセナ侯爵とその娘も見えた。


そしてそれ以外にもさっきまで話していた各国の外交大使とそのお付きの者達。


外交大使等は大使だけでなくその夫人や補佐官そして武官も連れて来ているので各国の大使を合わせるとかなりの人数だ。


「リハーサル通りにやるぞ。」


本部長はそう部下達に聞こえるように呟く。それに秘書達も反応する。


この城に入ってからやったリハーサルでは、会場に入る順番は1番最後だった。


こういった場での来賓者の入室では最後の方であるほどその国にとって重要視している者だという証明になる。


それで自分達が1番最後だということは、この場にいるどの国よりも重要だと見ていると国内外に宣言しているようなものだ。


これに対して他の外交大使等は不快感を示すことはなかった。列強国の有力者に睨みまれないように平常心を保っているようだ。


(だが、内心は心穏やかではないだろうな。向こうは私が平民だと聞いときの表情を考えてると。)


先の挨拶でわざわざそれを質問してきた大使がいる程、彼等にとっては重大な事なのだろう。今回の祝賀会に商人等も混ざっていることに不満に感じている者も恐らくはいるだろう。


そう考えている間に、既に侯爵等が次々と会場に入って行く。扉が開かれる度に盛大な拍手が聞こえてくる。


拍手が止むと次は儀杖官の声が聞こえてくる。


「皆様、続きましてはカサルトキア帝国大使、バナスティリア伯爵とそのお連れの方々のご入場でございます。」


そう儀杖官が言い終えると扉の両脇にいた近衛騎士が扉を開く。先ほど紹介された外交大使が連れを率いて入場していく。


そして扉が閉じられ再度、儀杖官が名前を呼ぶと呼ばれた外交大使が開かれた扉をくぐり入場していく。


それが何度か行われ遂に本部長の番が来た。自身の身だしなみを一瞬で確認した後、秘書達を連れて鳴り止まぬ拍手のなか彼は入場した。






「あれが小島殿ですか?」


「やはり若いな・・・しかしずいぶん質素な服装だ。装飾品の類いが少ない。」


「いやいや良くご覧ください。見事な作りのものですぞ。恐らく日本でも屈指の名店のものに違いありません。」


本部長が会場に入り参加者の目に映った時、拍手の音に紛れて貴族達は隣の貴族に話し掛けて思い思いの感想を述べた。


「しかし驚きましたな。まさか大使等よりも後に入場するとは。」


「全くです。国王陛下も思いきった事をなさる。最初に呼ばれたバナスティリア大使が哀れですな。」


「同じ中小国のカサルトキア帝国はまだ良いですが上位大国であるソマナ連合議会国は不味いですぞ。いかに列強からの者とはいえ平民ですからな。」


中には来賓者の思いきった順番に今後の情勢に危機感を募らせる者もいた。


そして本部長等が国王の座る玉座前にまで近付くと拍手は次第に止み静寂が会場を支配する。


それを確認した国王は立ち上がり本部長に歓迎の声を掛ける。


「遠路遙々このメターナ王国まで良く来られた。大海洋を超え幾度もの困難を乗り越えた貴殿等に我が国は大手を振って歓迎する。ようこそ我等が大地、我等が国へ。」


国王がそう言うと本部長等は一斉に跪き、感謝の言葉を本部長が代表して述べる。


「国王陛下直々の御言葉、恐悦至極に存じます。我らこの身が感謝の念で震えながらもこの国の末永い栄光の日々が続くことを祈らせて頂きます。」


「うむ、これで全ての客人が揃った。皆に今日この日が至福の日となることを祈る。」


そこまで国王が言い終わると本部長等と玉座の後ろにある椅子に座っていた王族と国賓者専用の設けられた椅子に座っていた外交大使等も立ち上がる。


そして貴族、神官と商人等が一斉に国王に感謝の言葉を発する。


「「「恐悦至極に存じます国王陛下」」」


こうして正式に王家主催の立食パーティーが開催された。





「完璧でしたね。」


「そう言ってくれると助かるよ。」


先ほど国王と開催の儀をやっていた本部長はリハーサル通りにやれたことに安堵した。だが、パーティーはまだ始まったばかり安心など出来ない。


事実、周りには次々と本部長に挨拶をしたい貴族達が集まってきた。


秘書は最初に近付いてくる貴族を見て本部長に小さい声で話し掛ける。


(本部長、正面に見える御高齢の男性はヴァーレン辺境伯です。)


(辺境伯?・・・伯爵と何が違うんだったか?)


秘書はこの時に備えてたった数日で今回の主な参加者の顔と簡単な情報を暗記していた。そしてその情報を本部長にその都度教え、スムーズに挨拶を終えるようにしていた。


この短期間で似顔絵や情報を現地人から集めれたのは流石としか言いようがないだろう。


(伯爵以上~侯爵以下の位で国境付近を領地とします。主に他国や敵対部族等と交戦する可能性が多いため他の貴族に比べ軍事面に力を注いでいます。

彼個人としては剣の腕にも長けており、国王からの信頼もあついようです)


(成る程、よくわかった。)


「お初にお目にかかります、小島殿。」


「此方こそヴァーレン辺境伯、お会いできて大変光栄に思います。今日はよろしくお願いします。」


「うむ、いつか我が領地に来られた際には是非とも我が屋敷へ、歓迎させて頂きます。」 


こういった流れで本部長は次々とやってくる貴族の対応を行った。


(あの金髪の男性はミリス伯爵、領地に金・銀の鉱山を持っており国内でも指折りの金持ちです。)


「お会いできて光栄です。いつか我が屋敷へ招待させて下さい。」


(あちらはゼリバナハ男爵、ルイトン侯爵の親戚です。その隣は恐らく長女の令嬢かと。)


「小島殿、私の娘を紹介させてください。どこの家に嫁いでも恥じぬ教育をしてきました。」


「お初にお目にかかります小島様。ルイトン・ミーナと申します。気軽にミーナとお呼びくださいませ。こうしてお会いできて光栄の極みです。」


「これはご丁寧ありがとうございます。小島グループ商会の所謂番頭を勤めさせて頂いてます小島修治と申します。」


「私の娘を是非とも紹介させて下さい、親の目ながらも器量のある子でして・・・」


「ありがとうございます。実に聡明なご息女でいらっしゃいますね。」


「私の息子を貴殿の商会にどうですか?愚息ではありますが必ずや貴殿に貢献出来るかと。」


「お気持ちはありがたいのですが、私の一存では決められません。一度、人事部にご連絡下さい。」


「小島様、私あなた様のお国のお話が聞きたいですわ。」


「私は刺繍が得意でして小島様の為にハンカチを作りましたの。お気に召すかどうか・・・」





貴族等の挨拶が一段落着いたタイミングで秘書が声をかける。


「落ち着きましたが、まだまだ話し掛けたい貴族はたくさんいらっしゃいますね。それに商人の方々もいらっしゃいます。王族はまだ様子見を決めてるようですが直にくるでしょうね。本命もいるでしょうし。」


「流石は天下の小島グループですね。異世界でも凄い影響力。」


それに護衛の仲沢が茶化す。


「どの大陸にいってもこうだった。慣れるにはまだ先のようだが・・・」


「本部長、第2波が来ますよ。」


別のSPの言葉に本部長は再度気合いを入れ直した。その先には貴族令嬢達がゆっくりとだが確実に近付いてくる。

ここまでありがとうございました。


後編も本部長と貴族等との会話にご期待ください。


それと多分また次の投稿期間に間が開く可能性が高いですが首を長くお待ちください。


こんな微妙な所で失踪もしたくないのでお待ち頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 日本の場合政治家の先生とかは、割と旧貴族だったりするんですけどね。 わかりやすいところだと麻生元総理の麻生家とかね。
[良い点] 真っ先に爵位を確認したがるところとかまさに異世界ファンタジーの貴族と言った感じでした。 [気になる点] 何かが違っていたら『日本には貴族がいない=貴族の自分達なら楽勝』という短絡的な方程式…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ