第47話 多数の思惑
今年最後の投稿ですな。また来年もよろしくお願い致します。
第47話 多数の思惑
オーマ島の地方日本駐屯基地が襲撃を受けてから3ヶ月が経過していた。そんな中、元オーマバス神聖教皇国の植民地であったとある大陸に多くの日本人がいた。
そんな大陸のメターナ王国の首都のとある建物内に数人の日本人が会話していた。
※メターナ王国
人口380万人程度の中小国。鉄などの金属資源が豊富な国。
「本部長、数ヶ月前のオーマ島基地襲撃の件なのですが、国防省より詳細の情報がきました。」
本部長と呼ばれた男性、日本最大にして地球世界でも有数の大企業である「小島グループ」の本部長にして現社長の実の息子小島修治であった。
彼が何故、日本から遠く離れた大陸にいるのかというと、オーマバス神聖教皇国から独立を果たしたこの大陸諸国では、自国のみで経済復帰等が難しい為、こうして日本の企業が介入していたのだ。
日本企業だけでなく、他の列強国の民間企業も少なからず介入しているが、地理的な問題により日本ほど大規模な介入はしていなかった。
また、地球連盟国も介入したかったが、国力の問題によりここまで手がまわらない状態であった。
そして今回、小島グループは大陸の1国であるメターナ王国政府から首都の港の大規模改修を請け負っており、その本部長である小島修治は、視察の為に日本より4000キロメートル以上も離れたこの大陸に来ていたのだ。
彼等がいるこの建物も小島グループが買い取ったもので、現在は日本風の建築物に改築中であった。
「・・・あぁ、あの事件か。ようやく来たということは、確かな情報なんだな。」
本部長は、自身の秘書にそう聞いた。
「はい。国防省管轄の情報本部からの情報ですので、その心配はご無用かと。」
小島グループは、日本の行政機関にも人脈があり、地球においては、東南アジアは勿論、ヨーロッパの先進国の行政機関にすら顔が利くほどであった。
それ故に国防省幹部から情報を入手するのも容易であった。社長にいたっては、総理大臣と旧知の仲である為にそういった機密情報は頻繁に本部長の耳にも入った。
「そうか。それで?どんな情報が入ったんだ?」
本部長は、秘書に詳細を話すように言った。
「先の地方基地襲撃の侵入者ですが・・・この男の身元が判明しました。」
「ほう・・・遂に判ったのか。」
秘書からのその報告に本部長は興味深そうに反応した。
「はい、名はヒミニカル・バルクルーン。元は旧オーマバス神聖教皇国の属国であるミバタ国という小国の出身の様です。」
「オーマバスの出身ではなかったのか。」
「そのようです。彼の経歴ですが、ミバタ国の小さな村に生まれて成人後に同国の冒険者組合に入り、優秀な功績を出したようですが・・・数々の不正行為が発覚したことにより、組合を追放処分そして国から指名手配をされているようです。なお、階級は若くしてミスリル級とのことです。それも単独でです。冒険者組合そして国からも追われている所をオーマバス政府が勧誘したようです。」
「単独でミスリル級か・・・かなり上位の階級だとは聞いているが実際それはどれ程凄いんだ?」
本部長がそう聞くと同じ空間にいた別の秘書が答えた。彼は魔法関連の情報を主に取り扱っておりその流れで冒険者内の情報もある程度把握していた。
「例えばですが、多くの冒険者は一生を掛けても下から4番目の金級止まりが多いです。しかしそれすら昇級することも出来ずに死亡又は引退する者もおり、大体で全体の約3割程度が金級に辿り着ける程度です。ミスリル級は更にその3つ上ですので、全体の1割程度の実力者になります。」
「ほう。かなりの腕の立つ魔術師か。」
「それだけではありません。冒険者とういのは基本的に複数人で組んで仕事に当たります。しかしこの男は単独で仕事をこなしそのままミスリル級へと昇級しているのです。」
「それも僅か10年足らずでです。」
2人の秘書からの報告を聞いてその内容に流石の本部長も驚く。
「侵入した魔術師は稀代の魔法の才を持った人物か。しかしそいつは確か・・・」
「はい。基地付近の林にて遺体を確認しました。」
そうであった。と彼は思い出す。あの襲撃事件を聞いてから数日後に侵入者の遺体は既に確認しており、身元調査に入っていると聞いた。死因は魔法による他殺だということも。
「それだけの人物なら簡単には殺られないと思うだが、どういことだ。」
「情報提供者であるアルシンダ王国の宮廷魔術師によると単純な魔力切れの状態で襲われた可能性が濃厚だとのことです。魔術師の多くは魔力が無くなればそこらの一般人と大差ないようです。身体能力を高めるよりも魔法の修練に励むそうで、その魔法が使えなければ」
「ただの人間と同じか。」
「そういうことです。それと先の襲撃の先導者である司祭についてですが、未だに発見出来ないそうです。」
「なに?まだ発見出来ないのか?」
「はい。身元も調べたらずさんな情報ばかりで、全く調査は進んでいないのです。」
「身元がずさんだと?よくそれで司祭になれたな。」
「それを教会上層部に問い合わせたらしいのですが、当時の大司教が彼を司祭にしてその後は淡々と仕事をしていたそうです。」
「その大司教は?」
「既に病気で亡くなったようです。」
「きな臭いな。オーマバスも列強と呼ばれながらも他国の諜報機関に言い様にされていたんじゃないか?その司祭は他国の人間じゃないか?」
「国防省もそれを視野に入れているようで、現在は各駐屯基地の警戒レベルを先月よりも厳しくするようです。襲撃された基地は武器庫も失った為に向こうは大忙しですよ。」
「そういえばそうだったな。魔術師を甘く見て痛い目にあった訳か。迷惑な話だが、あの事件のお陰で我々も進歩できたわけだ。」
本部長の放った言葉に秘書が反応する。
「警備新法案可決についてですか?」
「そうだ。お陰で我々民間企業にも武器の所持及び使用が許可された・・・まぁ色々制約があるわけだがな。」
彼等の言う警備新法案とは、先の基地襲撃を重く見た政府が本土以外の基地防衛設備の強化と同時にある法案を提案そして可決させたのだ。
それが日本の民間企業による銃器等の武装許可である。
無論これには、様々な制限を付けてのものであるが、これまでの民間人の武装の全面禁止と比べるとこれは、大きな進歩である。
3ヶ月という短い期間での新法案可決であるが、それだけあの襲撃事件を重く見ている何よりの証明である。
この法律における内容は、国から認定を受けた一部の警備会社に対する銃器使用を許可するものだ。
そもそも警備関連の仕事を主に行う警備業は警備業法によって様々な事が定められている。
大きく分けると4つの業務に分けられる。
最初の1つが駐車場やビル等の施設の警備を主とする「施設警備業務1号警備」
そして2つ目が工事現場やコンサート・イベント等の大勢の人間がいる場所を誘導・警備を業務とする「雑踏警備業務2号警備」
3つ目が現金・貴重品等の運搬を警備しまた、襲撃に備えて警戒仗・防護ベストを着用して業務を行う「輸送警備業務3号警備」
そして最後の4つ目が依頼人を警護し安全を維持するいわゆるボディガード「身辺警護業務4号警備」
分けるとこのように分けられることになる。
そしてこの新法案では、警備業においての全ての1~4号の警備内容に改革が行われた。
まず警備業において身元確認そして保証人や全科歴で問題無いと判断された者だけが銃器そして刃物類の所持認定許可検定の講習を受けることが出来る。
この認定検定は階級が別れており、まず第1級凶器等取扱許可検定がある、これは刃渡り45センチ以上の刃物を警備業務のみで所持し使用しての業務を行うことができる。
これを習得するには、12時限の講習と中間検定を合格し更に4時限の講習に9時限の実技と3時限の応急手当講習を受けたあと、最終検定に合格すればこの検定を習得することが出来る。
その上に第1級銃器取扱許可検定がある。ここから銃器の使用が許可される。使用出来る銃器はテーザー銃そして回転式拳銃だ。更に防弾ベストや防弾チョッキ、防弾ヘルメット等の防具も装備出来る。
この検定を習得するには、20時限の講習そして4時限の安全講習に2時限の実技を受けてから中間検定を合格してその後に8時限の講習16時限の実技の後に3時限の応急手当講習を全て受けてから最終検定を受けれる。
この最終検定を合格することで初めて民間人でも警備業においての銃器と防具の所持そして使用が認められる。
そして更にその上に第特級銃器取扱許可検定がある。
これは第1級銃器取扱許可検定を習得して更に3年以上警備業を勤務していないとこの検定の講習を受けることが許可されない。
それを通過した上で6時限の講習、12時限の実技に7時限の特殊実技を受け検定を受けれる。
この検定で取扱を許可される銃器は自動拳銃・アサルトライフル・スナイパーライフル等のライフル系統の取扱も認められるようになる。
だが、この2つの銃器検定では、1年間の間に3時限以上の確認講習を受けないと所持している検定を剥奪されることになる。
また、これ以上の重武装化に関する草案も作成されており、近いうちに装甲車両の免許も許可される日も近いであろう。
そしてこの検定において、政府はある特例を作った。上記の内容では、この異世界において、早急に民間人の武装化は難しい。
政府としても大陸で生活している多くの民間人の安全を確保する為に余り時間は掛けたくない。しかし教育はしっかり行いたい。
その為、政府は元国防軍(旧自衛隊)所属そして予備役の者には、第1級・特級銃器取扱許可検定の講習そして実技をそれぞれ4時限以上受ければ即時検定を授与することを許可したのだ。
(ただし3年以上の所属していた者のみ)
更にはレンジャー資格持ちや元空挺団等の特殊な兵科には、特級銃器取扱許可検定を申請すれば即時発行までも許可した。これにより国防軍退役後の転職先の確保にも成功した。
話を戻すが小島グループはこれを利用して元国防軍所属の者を雇用して新たな警備会社を設立、これを各支部に配置をしたのだ。
そして本部長のいるメターナ王国首都の支部にも40名の武装した警備員を配置していたのだ。
現に本部長の警護の為にレンジャー資格持ちの警備員4名が常にライフルを武装して警護していた。
「まぁこうして短期間の間に元軍人の警備員数百人を確保出来たのは大きい。銃があるのと無いのとでは、安心感も違うな。親父も大きく動いているのだろ?」
「はい。本土では、一般の警備会社数社を合併して数年後には数千人規模の警備員を確保出来ます。」
秘書の言う通りに小島グループは、転移の影響で衰退しつつある大手の警備会社を合併して大規模な教育を行っていた。
これにより小島グループは、強力な軍事力を数年内に確保出来るようになる。
(だが、やはり魔法という未知の技術は油断ならん。オーマバスの魔術師を雇おうにも有名な魔術師は我々を恐れて隠れようしている。アルシンダ王国等は力不足・・・今はそれでもありがたいがもっと強力な勢力との繋がりを持たねば。我々が生き残るためにも)
本部長がそう考えているとこの支部の職員が近付いてきた。そしてこう告げる。
「失礼します本部長。先ほどクルセナ侯爵がお見えになりました。」
「あぁ、もうそんな時間か。わかった、すぐに行こう。」
クルセナ侯爵・・・ここメターナ王国内で4家しかいない侯爵家の1つであり、この国の宰相の地位にも就いている名家である。
今回クルセナ侯爵は、現在行われいる港の改修工事の視察を行う為に支部にまで来ていたのだ。
本部長自身も視察の為にこの大陸に来ている訳だが、この国の重要人物との人脈を築くのも重要だと考え本部長は、クルセナ侯爵を招き入れたのだ。
秘書と護衛を連れて支部の玄関口へと向かうと、そこには、貴族風の豪華な格好をした50代程の男性が備え付けられているソファに座っていた。
「お久しぶりです、侯爵。」
本部長がそう笑顔を声を掛けると侯爵と呼ばれた男クルセナ侯爵も笑顔で応えた。
「おぉ小島殿、本日はお忙しい御時間を割いていただき感謝します。」
クルセナ侯爵は両手を広げてそう言った。彼の後ろで控えていた部下らしき男達も一斉に頭を下げた。
「何を仰います。我ら商会にとって光栄極まる大仕事を任せて頂き感謝の念が絶えません。」
2人は互いに社交辞令を述べた後に既に用意してあった車に乗り込み大通りから港まで移動をした。
クルセナ侯爵も既に何回も車に乗っていた為に、特段驚くことも無く本部長と一緒の車に乗った。
「数日この街に滞在してみていかがですかな?」
クルセナ侯爵が隣の席に座っている本部長にそう質問をした。
「この街ですか?それは勿論、常に素晴らしい景色そして食事を楽しませて頂いておりますよ。特にあそこから見える王城はとても美しく今でもつい見とれてしまいますよ。」
本部長はそう言い窓から見える王城を見た。この首都の中心部には、土地が盛り上がっている為にちょっとした丘となっており、そこに王城が建設され首都内ならば何処でも見えるようになっている。
「はははっ、我々から言わせて貰えば貴殿等の連れてきた重機やあの大型船の方が見とれてしまいますぞ。あれらを見ようと大陸中の人々がこの街に訪れる程には。」
今度はクルセナ侯爵が窓から見える景色を指差してそう言った。
彼の指差す先には、改修工事をしていた港が見える。そしてそこには、小島グループが動員した建設用重機や資材を運ぶクレーン、貨物船そして海洋プラットホームを建てる為の建設船が見えた。
港付近には、ひっきりなしに動きまわる重機を一目見ようと大陸中の旅人や商人等が大勢いた。
そしてそこで一儲けしようと様々な屋台が立ち並びあっという間に連日お祭り騒ぎとなったのだ。
「これはお恥ずかしい。この街の住民の皆様には多大なご迷惑をお掛けしてしまいましたね。」
「いやいや何を仰る。貴殿等のお陰でこの街には、かつて無い程の活気が溢れるようになった。逆にお礼を申し上げたい程ですぞ。」
そう話している内に車は港に到着した。2人は車から降りる。その後ろからは別の車に乗っていた秘書と護衛も降りていた。その隣には、馬車で付いてきていたクルセナ侯爵側の部下と馬にのっていた護衛騎士達も降りていた。
港に入るとそこには、大勢の見物人達が入り乱れており、互いの護衛達が本部長等2人に近付けさせないように2人を囲んで歩いた。
「おい、あの集団って・・・」
「あの家紋はクルセナ侯爵家のじゃないか?」
「へぇ~侯爵様がこんな所に来るとはねぇ。あの隣の男は誰だい?」
「馬鹿っ!あれがあの化物達を連れてきた大商人のお偉いさんだよ!」
「あれがかい?ずいぶん若い男だねぇ。」
「あの周りにいる奴らは護衛ってことかい?化物達の周りでいつも立っている連中と同じ変な格好をしているが・・・」
「あの黒い棒みたいなのはきっと魔道具だよ。」
「あのばかでかい船もあの人等が連れてきたんだろ?どうやってあんな船を造ったんだろうね?」
「あのくれーんとかいう奴もあいつらが持ってきてるんだろ?あれがあれば俺等の商売もあがったりだぜ。」
突如、港に現れた侯爵家の人間と見慣れない日本人に見物人達からの注目を集めていた。
港は広い敷地を誇っていたが、大勢の見物人達がいる状況下なので、護衛の男達も道を開けるのに一苦労であった。
だが、それでも侯爵家の家紋を見せつけているのでまだ比較的楽に道を開けることは出来たが、それでも現場に到着するのに時間が掛かってしまった。
ようやく工事現場に到着した。現場付近では、流石に警備員や王国の役人達が立ち入りを制限していたので、見物人達はいなかったが、それでも数十メートル後ろを見ればこちらを見ている人々が見えた。
現場に到着するとそこには、今回の改修工事の責任者と建設会社の技術部の数名の男が待機していた。この視察で、本部長とクルセナ侯爵に説明を行う為に2人の到着を待っていたのだ。
「ご足労頂きありがとうございます、本部長そして侯爵閣下。」
「時間が掛かってしまいすみません。侯爵、この方々が今回の視察で説明をして下さる行徳さんと工事の設計等を担当して下さった技術部の方々です。何か気になった点がありましたら、彼等に聞けば教えてくれます。」
「そうでしたか、今回の視察に快く応えて頂き感謝する。有意義な時間になることを祈ろうぞ。」
責任者からの言葉に2人も応え視察が開始された。
視察では、主に現場内を歩き回り責任者である行徳が、改修工事の内容、重機の役割説明を大まかに説明をし、各分野の技術部の者が細かい部分を補足程度に説明する。
「行徳殿、先ほどから気になっていたのだが、あちらの船は一体何をしているのか?」
視察も終盤に差し掛かっていた所でクルセナ侯爵が海に浮かぶ建設船を指差して質問をした。
「あぁ、あちらの船は我が社・・・失礼、我が商会の保有する建設船でして、この港近海に建物を建設する為の船です。」
「海の上に建築?一体何のために?」
「実はこの近海周辺では、我々が使用する地下資源がありまして、その資源を採掘する為に建設をするのです。その資源は我々は天然ガスと呼んでおります。」
「・・・まさか貴殿等は、海の底から資源を採掘出来る術を持っているのか?」
クルセナ侯爵は、驚いた表情をしながら行徳に聞き返す。彼にとっていや、彼等の国にとっては海底から資源採掘をするなど、想像の範囲外であり、夢物語の話であるからだ。
その質問に1人の技術部の男が応えた。
「ここからは私が、確かに我々は海底から特定の物質を採掘する技術を確立しております。」
「なんと・・・」
(そのような技術を持っていたとは・・・この者等が港近海の使用権をしつこく確認してきたというのは、そういうことか。)
クルセナ侯爵は、外務卿が彼等がしきりに領海に関する話をしていたと聞いており、その理由が今になって理解した。
彼等にとってまだ領海の概念は薄くそこまで深く考えずに日本人に許可を出したが、クルセナ侯爵はそれに少し後悔していた。そんなことならばもう少し彼等に譲歩するべきだったと。
「そして、その為にはあちらの船を使って海洋プラットホームという海の上に立つ施設を建設するのです。そうすることによって島が無くとも海に活動拠点を設けることが出来るのです。」
「な、なるほど。貴殿等は実に見事な技術を持っていらっしゃる。我らでは到底真似出来るものでな、ないな・・・」
クルセナ侯爵は、そう反応するしか出来なかった。せめて彼等が軍事利用しないことを祈るしかなかった。
(・・・だいぶ驚いているな。クレーンや重機の説明では、まだ平常心を保っていたが流石に海上拠点は驚くか。)
本部長は、そんな侯爵の反応を見て心の中で微笑みを浮かべる。
そもそも彼等がこんな辺境の国からの改修工事依頼を引き受けたのには、理由があった。こんな国と手を組んでも彼等にとってメリットはない。逆に他の列強国を刺激してしまう。
だが、そんな危険を犯しても引き受けたのは、この国には、資源があるからだ。
それは2種類ある、その1つ目は鉄である。それも最高品質の鉄鉱石だ。
旧世界で品質の高い鉄鉱石と言えばオーストラリア産が有名であろう。特に西オーストラリアの採れる鉄鉱石は、旧世界で最も有名な鉄鉱石ブランドの1つで小島グループもそこからの鉄鉱石を輸入して加工していた。
だが、異世界転移してからは質の高い鉄鉱石の入手は困難となった。偶然周辺国には、豊富な鉄鉱石の産出国があったが、品質はそこまで高いとは言えなかった。
しかしこの国の鉄鉱石は違う。鉄鉱石の高品質基準はFeの成分割合が50~65%までなのだが、ここの鉄鉱石は約79%・・・信じられない程の超高品質なのだ。
これ程の品質の鉄鉱石は極めて貴重であり、本部長はそれを聞いた時、何としてでもそれが欲しかった。
幸いにもオーマバス神聖教皇国もそれを把握しており、採掘をしていたので、ある程度の設備は整っていたので少し手を加えるだけで簡単に流通体制は整う。
しかし、それだけでは会社は動かせない。そこから本土までの輸送ルートの安全性やその鉄鉱石の品質に合わせた設備も新たに造らねばならず、それよりかは多少品質が劣っても大量かつ近場の国から輸送すれば良いとの判断であった。世界会議の件でわざわざ他の列強国等に警戒を抱かせるのには、抵抗があった。
いかに現社長の息子で本部長とは言え他の幹部達の意見を無視するだけの力は無かった。社長もそこまで乗り気では無いのも災いした。
だが、本部長としてはその鉄鉱石を確保し各製品の品質向上という実績が欲しかった。会社内の立場をより確かなものにしたいのもあるが、最大の狙いは彼が担当している防衛産業関連会社の兵器の性能向上であった。
各重工会社の技術部・試作部等から現在使用している鉄鉱石が更に高品質な物であれば試作段階の物の性能向上が見込めるとの報告が届いており、彼はどうしても確保したかった。
それに成功すれば日本の軍事力向上にも繋がり彼等の安全も確保される。そして国防省の幹部達との人脈、特に国防大臣との繋がりが欲しかった。
現国防大臣はどうも自分達小島グループを警戒している節があり、こちらへのアプローチをことごとく無視していた。
どうも総理大臣と社長との繋がりに不正行為を疑っているらしく毛嫌いしているようだ。
最近では、小島グループ傘下以外の会社に開発依頼をしようとしているらしく、彼はそれをどうにかしたかった。
そんな中である情報が彼等の耳に届いた。それは2つ目の資源である天然ガスの存在だ。
天然ガスはここ以外にもあるが、埋蔵量は少なく更に採掘に手間の掛かる場所であったりと難航していた。
しかし、この国の天然ガスは埋蔵量も確かで、場所も水深が浅く採掘が比較的楽な場所であった。更に品質も申し分ない。
天然ガスは、未だに日本はいささか不安のある状況である為に、この報告を聞いた他の幹部達もこれには、賛成の意を示し今回の改修工事のどさくさに紛れて鉄鉱石の採掘所に天然ガスのある近海の確保に成功した。
港の改修工事も大規模な改修では無く、修理と多少の改良程度のもので彼等は満足してくれるので、日本政府も他の列強国もそこまで強くは言ってこない。
そんな裏事情もあるなかで行われた今回の改修工事、その視察も終わりになった所でクルセナ侯爵から言葉を投げ掛けられた。
「そういえば小島殿は、いつまでこの国に滞在されるのです?」
侯爵からの質問に彼は少し考えてから応えた。
「・・・そうですね。他の大陸にも視察予定もあるのですが、まだまだここの仕事も残っているのでもうしばらくはここに居させて貰いますね。ここの観光名所も見てみたいですしね。」
その言葉に侯爵は喜ぶ。そして彼にこう言った。
「そうでしたか、それでしたら是非とも私にこの街の案内をさせて頂きたい。私だけでなく、貴殿にお会いしたい方も大勢おりましてな。その方々の紹介もしたい。」
ここで彼は自身の言った言葉に少し後悔する。最後のは社交辞令のつもりであったが、そこを突かれてしまった。侯爵自身もそれは理解している筈だが、見逃してはくれないようだ。
侯爵も宰相という身分でありながら、こうして自ら視察に来たのには訳があった。
それは新たな列強国である日本の権力者との繋がりを持ちたいからだ。
メターナ王国は規模で言えば中小国クラス、吹けば飛ぶ程度に過ぎない弱小国だ。それ故にかつての宗主国であるオーマバス神聖教皇国にいいようにされてきた。
だがしかし、そんなオーマバスが敗戦し新たに日本という列強国が現れた。その国は周辺諸国に対して平和的な外交をしていると聞く。
実際にこの国との国交開設の条約内容は、決して完全な平等条約とは言えないが彼等の常識から考えると信じられない程の厚待遇である。
その為メターナ王国政府はそんな日本とより密接な関係になるために日本政府経由で港の修理及び改修工事依頼を出したのだ。
最初、日本政府は断ってきたが、どういうわけか急にそれを変えて引き受けてくれた。
順調に工事が進んでいる中でメターナ王国貴族等の耳にある噂が届いた。それは、日本でも有数の資産家がこの国に訪れているという噂である。
各貴族達が自身のツテを使って更に詳細を調べてみるとその人物はなんと日本最大の商会の主の息子で日本の権力者達とも懇意にしているとの情報が出てきた。
これを聞いた貴族達は、すぐさまその人物との面会のアポをとろうと動き出した。そんな中で一番乗りを果たしたのがこのクルセナ侯爵であったのだ。
結局、本部長は成り行きで王家が主催する立食パーティーに招待されてしまい、彼は支部の自身の与えられた部屋のソファにその身を乱暴に預けた。
「糞・・・」
「お疲れのところ申し訳ありませんが、この後14時よりソマナ連合議会国大使との面会があります。すぐに準備をした方がよろしいかと。それと夕方には、ハードナ伯爵との会食もあります。」
彼は自分の秘書からの今後の予定を聞いて憂鬱な気分になった。自分が日本から離れて暫くすると何処の国に行ってもこんな毎日が続いたのだ。
別に面会や会食に抵抗があるわけではない。それらも重要な仕事で人脈を広めたりそこから手に入る情報も使えるものが多いので、仕方ないと思える。
しかし旧世界ではそうだったがここでは違った。この世界の多くの権力者達の多くがあからさまにごまをすったり、甘い汁を吸おうという思惑が駄々漏れの連中が多い。
挙げ句の果てには、全く中身の無い会話を永遠と続けたり文字通り住んでいる世界が違うので話が合わない等と旧世界の時よりもずっと気の使うもので正直、もう嫌になっているのだ。
(地球じゃあ単刀直入の人も多かったし常識人が多数派だったが・・・ここの連中は奴隷や下世話な話や身分の話で拗れたりともううんざりだ。)
「本部長・・・そろそろ本当に準備しないと間に合いませんよ?」
秘書の言葉に観念した彼はソファから立ち上がる。流石に外交大使を待たす訳にはいかない。
「・・・分かったすぐに準備する。」
この後、2人の貴族との会話に完全に疲れ果てた彼は死んだようにベッドで眠りについた。
「陛下、ただ今参上しました。」
「おぉ、よくぞ戻った侯よ。」
港の視察を終えたクルセナ侯爵はそのまま王城に登城をし国王に報告をした。
「して、どうであった?あの者とは。」
国王からの言葉に侯爵は、ニヤリと笑い言葉を発した。
「無事にあの男に次回の王家主催のパーティーに国賓として招待することが出来ました。」
その言葉に国王も満足そうに反応した。
「そうかっ、よくやってくれた!」
「ありがとうございます。あの男も日本の有力者と言えどもまだまだ若い、なんとか付け入る隙を見せてくれました。」
侯爵は笑う。今回の視察の最大の目的を果たすことが出来たのだから。小島本部長との渡りを付けて友好関係を築く。そして彼をパーティーに招待して願わくは自身の娘か王女等を宛がう。
そうすればメターナ王国は、強力な勢力を味方に付けれることが出来る。欲を言うならば自身の娘を気に入ってくれれば文句無しだ。
侯爵家が平民と親族となることに多少の不満があるのは否めないが相手は列強の有力者だ。そんなものは二の次だ。
だが、これは他の貴族達も同じ考えであろう。貴族達の耳はどこにでもある。近いうちにあの男が王家のパーティーに出席する話は広まる筈だ。
そうなればどの貴族達も自身の娘達をパーティーに連れていきあの男と接触するであろう。
「今回のパーティーは綺麗所が集まるでしょうな。」
「そうであろうな。隣国の大使達も動き出す筈だ。何としてでも我々が掌握せねばならんぞ。」
「心得ております。必ずやこの国の未来を掴んでみせましょうぞ。」
2人がそう企んでいるのを知らずに当の本人は今頃ソファで疲れはてている頃であろう。
ここまで御愛読ありがとうございました!
次回は本部長のパーティー編になります!
それと今後の展開でどういった感じのお話を書いて欲しいのとかあれば是非ご意見くださいませ!
それでは、よいお年をっ!




