第43話 世界会議後の世界
第43話 世界会議後の世界
日本がこの異世界に転移してから始めての世界会議が行われた。
この世界会議によって決まった内容は日本国及び地球連盟国の列強国への加入の可決。列強の序列は日本国は第5位、そして地球連盟国はその下の第6位になり、その下にいたレムリア連邦からは序列が2つずつ下がった。
これにより列強国は全部で10ヶ国になり、魔法文明国と科学文明国との勢力バランスが崩れることとなった。
しかし、それを防ぐ為にアトランティス帝国主導のベガルタ帝国そしてケネエシタラ連合王国に大規模技術提供案が可決された。いつか列強国が12ヶ国になる日も近いであろう。
それらが可決された後は亜種属の魔獣の大量発生の対応について、これにはチェーニブル法国がその対象大陸に派兵することで決まった。
また、近年の海賊の装備が近代化されていることに関して、これは各列強国から調査団を派遣して原因究明をとることが決まった。
など、これ以外にも様々なことが協議された。この世界会議の期間は2週間掛けて行われた。世界会議が終わると、各国の大使達は護衛艦隊に乗り込み、各々の国へと戻った。
そしてこの世界会議によって最も影響を受けた国は日本と地球連盟国であった。それも当然だ、この世界会議でこの2ヶ国は晴れて列強国としてこの世界で生きていけるのだから。
更には他の列強国とも無事に国交を結ぶことが出来た為に今までとは比較にならない程に大規模な貿易を行う目処がたったのだ。
今までは周辺大陸程度でしか貿易が出来なかったが、これにより世界市場を相手に出来るので、経済成長は更に拡大することであろう。
世界会議から1年後
日本国
日本がこの世界の列強国になってから1年の時が経過していた。その間に日本は主にムー共和国とガントバラス帝国との間に大規模な貿易を行っていた。
1年の時間で両方の国に、自国の企業の工場を設置、最新の製品ではなく、半世紀以上の物を製造して販売しているが、それでもこの世界においては高度な技術の塊である。
また、日本側から見て丁度良いくらいに古い設備を使っているので、製造委託という形でわざわざ日本から運ぶのではかく、現地の設備を使い工場建設の費用を安く押さえた。
ただ、ムー共和国もガントバラス帝国も高度な技術を持っている日本には少なからずの警戒心を感じている者も少なからずおり、高い関税で日本製品の大量流出を防いでいた。
しかし、それでも日本の製品はこれらの大国の経済市場に深く入り込むことに成功する。
そして国外だけでなく、国内でも変化が起きていた。まず日本の防衛組織である自衛隊が正式に軍として認められ組織名を日本国防軍と改名防衛省も改名され国防総省となった。それに伴い国防軍の拡大も行われた。
軍艦を製造するドックでは、最新鋭の設備を取り付けたイージス艦と駆逐艦があった。既に新たな軍艦を9隻同時に取り掛かっており、小島重工を筆頭に日々動いていた。
軍艦だけでなく、新型の哨戒機や爆撃機・戦闘機の増産も同時にやられていた。陸では、最新の戦車である10式戦車の後継車の構想が終了し、試作車が造られつつあった。
そして長らく日本の観光産業が廃れつつあったが、去年の世界会議を機に鎖国政策を廃止にすることが決まり、エルミハナ大陸の出身が確認出来る者、科学文明国の列強国等を最初に、現在では、殆どの国交を結んだ国に対しての入国を許可していた。
だが、ムー国からの魔法文明国の特に列強国等の工作員には十分に注意するようにとのことから、かつての地球の時よりも入国審査を厳重にしている為に観光客はまだ十分とは言えない。
入国審査には、X線等だけでなく、魔道具を使用した検査も場合によっては必要な為に、余計に入国審査が遅れていた。
しかし西平島だけだった観光客は日本本土にも数十万人規模の観光客が来るようになり、観光産業に希望の灯火が見えてきた。この調子ならばかつての数千万人の観光客が来る日も来るだろう。
そんな明るい未来が来るであろうこの国の首都東京では、日本の大臣達と総理が会議を行っていた。
首都東京 首相官邸
「・・・を中心に製造が開始されてから1年ほどが経過しましたが、現在イージス艦5隻の工程の約4割まで出来ております。この調子ならば来年の秋頃にイージス艦5隻は完成するかと。」
「速いな。大型イージス艦を2隻と通常イージス艦4隻であったか?それらを同時に製造していた筈なのに、そんなに速いのか?」
野村総理がそう国防大臣に聞く。
「ドックを数年前から増産していたのと、アメリカ軍の技術者の協力、部品の大量生産が完了していた等があり、同時製造でも短期間で出来たのです。ただ、完成したとしてもその後は数ヶ月単位での運用テストが必要なので進水式は最低でも2年後です」
「そういうものか。」
野村総理がそう呟いて、次の報告は神谷外務大臣が報告を開始した。
「次は私が、外務省では、連日我が国に使節団を送ってくる国が訪れ、既に昨日までに86ヶ国との国と国交を結びました。その内の科学文明国は73ヶ国です。」
「魔法文明国は殆ど来てないのか。」
「はい、アトランティス帝国やチェーニブル法国等の列強国と準列強国は世界会議の為にも強制的に国交を結ぶのでそれ以外の魔法文明国は列強からの圧力を掛けられて出来ないのかと思われます。」
「今判明しているだけでもどれ程の国がありそうなのですか?」
官房長官がそう神谷外務大臣に質問した。
「衛星や駐日大使やムー国等から聞いたものを含めますと・・・およそ400は越えている可能性があります。大陸だけでも大小合わせて40は確認しましたので。」
「そう考えると国交を結べたのはまだまだ少ないな。」
「それだけ魔法文明国の力が強く、多いということなのでしょう。」
そして次に報告をしたのは財務大臣であった。
「それでは次に財務省から報告をします。今年の2025年の我が国の歳入は193兆0610億円で、去年の歳入よりも約4兆円ほど増えました。」
「遂に190を越えたか、国防費の歳出はどれ程なんだ?」
「国防費は25兆8500億円で、この内の国防海軍が13兆円程を占めております。そして今年で国防費が社会保障費を上回りました。これにより最も多くの歳出割合が国防費となりました。」
「そうか、遂に上回った訳か。」
野村総理はそう言い、神妙な表情で目を瞑った。
「明日あたりにも野党から詰め寄られますね。一部の平和団体からのデモも覚悟しておいた方がいいでしょう。」
「それもあるが遂に今年だぞ?再選をしなくては、任期を延長出来ん。」
そう言ったのは官房長官であった。彼の言っていることとは総理の任期についてだ。今年で野村政権になってから4年目であるので、もうすぐ始まる衆議院選で再度、勝たなくては任期の延長が出来ない。
だが、この衆議院選で再選し、総裁選にも勝てれば任期は※2年の延長が出来る。
『※この延長期間はあくまでもこの作品内での期間です。史実では政治家達が変えられるようです。その時によってこの延長期間は変わりらしいです。』
あと2年も延長されれば国内情勢もあらかた整えれることが出来るので、なるべくならば別の政権には任せたくない。
「ふぅむ・・・この時期に別の奴には任せたくないからな。なんとしてでも勝たなくては。」
「党内での支持率は問題ありません。我々も裏切るつもりも当然ありませんので、ご心配なく。」
「その言葉、忘れないでくれよ。」
野村総理はそう懇願した。これで彼等の中から総裁選に立候補したらショックを受けるだろう。
「まぁどうしても総理をやりたいならこの激務に耐えれる覚悟のある人にしてくれよ?」
「私はいい加減に疲れたので隠居したいものですな。」
この面子で最年長である田宮益雄農林水産相がそう言った。彼は今年で86歳になるので、体力に自信がないのであろう。
「田宮さん、確かにそうですね。次の人事ではもう引退されますか?」
「・・・まぁあと1年ぐらいなら頑張りましょう。」
「それは助かりますが、無理はしないでくださいね?」
「あぁ努力しよう。」
「総理、話題を変えますが、そろそろあれを話すべきかと。いつまでものんびりとはしてられません」
国防大臣が、野村総理にそう言った。野村はあれという言葉にすぐに何のことを言っているのかを察した。しかし周りの大臣達は何の事だが把握していない。
「・・・あぁそうだな。皆に1つ大事なことを決めておきたい。国防大臣、あれを皆に見せてくれ。」
「分かりました。」
国防大臣はそう言い、手に持っていたタブレットを操作して全員のタブレット画面にある資料を見せた。その資料を見た彼等は目を見開いた。
「っ!?これは・・・」
「本気なのか?」
「全員読んだか?まぁ皆の気持ちはよく分かる。日本人としてこれは許容出来るものではないが、それでもこれを決めておきたい。」
野村総理がそう言う。彼等が見た資料とはこれだ。
【日本国の核兵器開発及びその運用について】
そう、つまりこの国に核兵器を攻撃手段の1つとして迎え入れるというものだ。
地球でいや、この世界でも唯一の被爆国であろうこの国がその核を保有するのだから、日本人として複雑な心境になるのは当然である。
「これは本当に必要なのですか?我が国が核兵器を持つなど・・・」
「お気持ちは分かります。しかしこの世界では何が起こるのかが本当に分からない世界なのです。現段階の戦力では、いかに軍を増強しようともこの国では限界があります。故に核兵器はその限界を突破するためのものです。国防大臣としてこれは間違っていないと考えます。」
「国防大臣の言う通りに、私も同じ考えだ。ムー国来日の際では、それに関する話を匂わせてきた、我々がそれを知っていると向こうが把握しているかは分からないが。ひょっとするとアトランティスもそれに準ずる兵器を持っているかも知れん。」
「しかしっ!これは余りにも・・・」
「落ち着け・・・総理、これは我が国でも開発出来るだけの技術があるのですか?」
その質問に国防大臣が答えた。
「私が答えます。結論から言えば可能です。しかし問題は技術ではなく、国民の理解です。彼等が納得してくれるかが鍵なのです。」
「それだけじゃない。議員の承認も必要だぞ!しかもこの時期にそれを行えばどれほど荒れることかっ!野党からの猛反発は間違いなくくるぞ!」
「だが、やるしかない。一刻も速く万全な防御体制を整えなくてはならん。海軍を筆頭に強化されているが、何年先かわからん。ならば少ないコストで強力な兵器を持つべきだ。他国に核兵器が無いとは限らないのだぞ?」
「それはそうですが・・・」
「これに関しては次の会議で正式に決めます。それまでは皆さん、各々で考えておいてください。私からはこれで以上です。」
「次は私ですかな?それでは公安委員会から1つ報告が、3日前に観光客として入国してきた者の中から偽造パスポートを確認しました。現在この人物は我々が監視していますが・・・」
彼等の会議はまだ続く。
場所は変わり日本列島より5万キロメートル程離れた大陸にある列強国が戦闘をしていた。
その列強国とはチェーニブル法国、最上位列強国で先の世界会議で協議されたルバガタニア大陸の亜種属に属する巨大魔獣の大軍の対応する為に1年の準備期間を得て大陸に派兵をしていたのだ。
そのルバガタニア大陸と呼ばれている大陸はオーストラリアの7割程の広さで、19の小さな国がそれぞれ支配している大陸だ。
どの国も人口が100万人程度の小国程度で一番の大国でも500万しかいない弱小国だが、争いが絶えない大陸であった。
だが、その大陸の一部に魔法石が埋蔵されていたようで、何らかの原因によって洞窟にその魔法石が大量に露出、その溢れ出る魔力を感じ取った魔獣達がそれを食べたことにより、強力な魔獣が大量発生してしまったのだ。
それにより一番近くの国がその大量の魔獣の襲撃により数万人規模の犠牲者が出た。その死体を餌にさらに魔獣が増えるということになった。
既に複数の国がその被害にあっており、冒険者達も討伐に出たが、圧倒的な数の前に蹂躙されるだけであった。
事態を重く見た冒険者組合が別大陸の冒険者組合に応援を要請、それを聞いた別大陸の組合はその規模の大きさを考慮して少数の冒険者では対処は不可能と判断し、列強国に対応を要請した。
その時には丁度、世界会議が近いのもあり、要請を受けたチェーニブル法国が世界会議にそれを協議するようにした。
チェーニブル法国は事の原因が魔法石によるものではないかと推測し、自らその対応を立候補した。
新たなる魔法石の採掘場の為にもチェーニブル法国はその大陸に兵を送ったというわけだ。
チェーニブル法国が派兵した軍は以下の通りだ。
対魔獣軍
チェーニブル海軍
第3艦隊
巡洋魔動式戦艦 2隻
魔動式空母 2隻 艦載機 60機 計120機
魔動式軽空母 3隻 艦載機 35機 計105機
魔波動式結界艦 5隻
魔動式巡洋艦 10隻
魔波動式駆逐艦 4隻
魔動式駆逐艦 16隻
魔動式潜水艦 8隻
チェーニブル法国陸軍
歩兵部隊 1万
戦車部隊 80両
装甲車 150両
魔動汎用型ゴーレム 20体
魔動重装甲型ゴーレム 15体
魔動結界型ゴーレム 5体
野戦砲 50両
これらの部隊がルバガタニア大陸に派遣されたのだ。これは下位列強国程度では、致命的な損害を受ける程の戦力である。
訓練も兼ねて主力の一部である海軍の艦も動員されたこの艦隊は、大陸に着いたと同時に海岸にいた少数の魔獣に対して艦砲射撃を開始した。
「発射!」
ドガアァァァン!!
その命令と同時に戦艦2隻からの41センチ砲が一斉に発射された。青白い光を出しながら合計18発もの砲弾は魔獣のいる場所に着弾した。
着弾した場所は複数の大きなクレーターをつくりその場にいた魔獣達は跡形もなく消え去った。その場には青白い炎が燃えているだけであった。
「付近にまだいるかも知れん!巡洋艦も続けて発射しろ!」
「了解!」
この艦隊の司令官はそう命令し、戦艦だけでなく巡洋艦にも主砲を撃たせた。
1時間ほど発射して、付近に魔獣はもういないと判断し、陸軍を上陸させた。陸軍が次々と上陸するが、上陸した場所は酷い有り様であった。
そこは白い砂浜の筈が、所々に魔獣のミンチになった内臓や赤い血や青い血等で見るも無惨な色で塗られていた。
そして上陸部隊の1人が先行している時にあるものを発見した。そこには、魔獣から逃げていた避難民が居たのだろう。多くの荷車とその死体があった。
魔獣に襲われてそうなったのかと思ったが恐らく違うだろう。何故ならばその荷車と死体は明らかに何か大きな爆発によってぐちゃぐちゃになっていたのだから。どう考えても味方の艦砲射撃の巻き添えを食らったのであろう。
普通ならばそれを見たら罪悪感を感じるだろうが、それを発見した兵士は少し見ただけで、もう別の方を見ていた。
「おい、そこに何があるんだ?」
離れていた仲間の1人が彼に聞いた。それを彼は何でもないような口振りで答えた。
「いいや、逃げ遅れていた奴等か死んでるだけだ。」
「なんだ、それだけか。なら集合場所に戻るか。」
「あぁその方がいいな。」
彼等はそう言って仲間の元へ戻った。その場には散乱した荷物と原型の分からない死体だけが残った。
「第1大隊~第3大隊はこのまま私と共に進め!残りは本隊が揃うまで待機だ!」
上陸部隊の先見部隊の指揮官がそう命令をした。彼の名はデレヘリック・リバイリナ陸軍少佐だ。
彼はその高い魔力と身体能力で少佐になった男で、魔獣を地上で殲滅する為にこの先見部隊の指揮官に任命された男だ。
「進軍しろ!」
リバイリナ少佐の命令で20両の魔動式戦車と40体のゴーレムに1500名の兵士が海岸から出てその先にある森へ向かった。
彼等が突入する森は太い木があるが、それらは戦車と重装甲型ゴーレムが薙ぎ倒しながら進軍した。
森に潜んでいた魔獣達もその様子を見て怖じ気づきながらも侵略者達に牙を向くが、戦車の砲弾に次々と殺されていく。
「戦車部隊は目標を見つけ次第各個に砲撃しろ!」
ドオォン! ドオォン! ドオォン!
20両程度の戦車に次々と魔獣が特に大型が撃ち殺されていく様子を見てリバイリナ少佐は大した脅威ではないと判断し通信兵に本隊の進軍を促すように命令した。
「うむ、このまま目的地まで一気に行くぞ!」
「はっ!」
彼等が目指す場所はここから100キロメートル先にある魔獣達に最初の襲撃にあった小都市だ。
事前に打ち合わせのために現地の兵士や生き残りに聞いてみると、そこはもう人が住めるような場所でな無く、大量の魔獣達が住み着いているらしい。
そこまでの道のりは村や砦が複数あるらしく、そこにも魔獣達が攻撃して占領しているようだ。
だが、リバイリナ少佐は深刻に考えていなかった、何故ならばそこには既に空母から発艦した戦闘機と爆撃機が攻撃を加えにいったからだ。
第1波攻撃部隊として50機ばかりの航空機が先に向かっていた。
戦車等によって木を薙ぎ倒して作られた道を伝って森を潜り抜けた先行部隊は平地となった場所を進軍した。
途中で村や砦を見掛けたが、そこは既に航空機によって爆撃を受けた後で建物は殆どが崩れ落ちていた。ふとよく見てみると非常食として生かしていたのだろう、エルフや人間の避難民達が1ヶ所に集まって泣いていた。
非常食として逃げられないように頑丈で奥深くの地下室で閉じ籠られて運良く爆撃から生き延びれたが、いつ喰われるかの恐怖や今まで見たことの無い爆撃で可笑しくなったのだろう。笑っている者もいた。
だが、まだ正常な生き残りが先行しているチェーニブル軍を見て助けを求めた。
「おぉい!助けてくれぇ!」
「助かった!兵隊さんだ!助かるぞぉ!」
「頼む!助けてくれ!子供がっ、怪我で動けないんだ!」
だが彼等は、それらを無視して彼等は進軍をする。彼等が目指すのは魔法石があると思われる地域だけだ。生存者などどうでもいい。
無視して尚も助けを求めて走り寄る生き残りを見てリバイリナ少佐は射殺命令を下した。
「おぉい!なんで無視するんだ!?助けてくれ!」
「やかましいな・・・黙らせろ。」
「了解しました!少佐殿!」
すぐさま部下達が銃で生き残りを射殺した。助けかと思った彼等からの攻撃に生き残りはただ逃げることしか出来なかった。
「うわぁ!撃ってきたぞ!?」
「何でだよ!?助けに来たんじゃないのかよっ!」
「うわぁぁ!嫌だ嫌だ嫌だ!」
「いやぁぁ!せめて子供だけでも!お願いしますからっ!!」
そんな声にも気にもとめずに撃ち殺していく。全員殺したのを確認した彼等はまた進軍を開始する。
ルバガタニア大陸 小都市グラパス
ルバガタニア大陸の1国にある高さ4メートル程度の石垣で囲まれた都市グラパスは1番最初に魔獣達に襲撃を受けた場所だ。
人口が5000人程の都市で国内ではそこそこの規模として栄えていた。城壁には、常に武装した兵士達が巡回して都市の安全を維持してきたが、今はその城壁には、兵士はおろか生物もいなかった。
だが、都市には生物なら沢山いた。正確にはその都市にいた住民達を喰い殺した魔獣達がいた。
現在小都市グラパスは1000は越える魔獣によって占領され、今尚も誰も寄せ受けない場所となっている。
しかしその小都市グラパスは魔獣しか居ないという訳ではない。それだけの魔獣達が今や危険地域として格好の獲物である人間達が近付かないような場所にそれだけの数がここに居座る訳がない。食べる物が無いのだから。
なのにその場所に居座る。それはそこに食糧があると言うことだ。
小都市グラパスの中央部にある教会にはこの都市の生き残りや周辺からかき集められた住民達がその場所に閉じ込められて、喰われる時を待っていたのだ。
その教会には今も生きたまま喰われる時を待つ住民達が身を寄せ合い恐怖を和らげようとした。だが、彼等の眼下には目の前で魔獣が1人の人間の男を喰おうとしていた。
「うわぁぁぁぁぁっ!!やめてくれ!死にたくない!じにだくなぃ!」
そんな彼の叫びを無視して魔獣、4本足を持ち胴体に6本の腕を持つ体長5メートル程の亜種族の1種が彼の片足を数本の腕を使って持ち上げた。
「ひいぃぃぃぃっ!?お願いだぁ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
泣き叫ぶ彼の顔を見てその魔獣はニヤリと嗤った。哀れなな生物を見て愉快なのだろう。その怪物は持ち上げていた片足を喰べようと、口を大きく開けた、何十もの尖った牙が見えた。そしてその足を口に入れた。
「うわぁぁぁぁぁ!やめでぇぇ!!」
その叫びも虚しく、口に入れたその足を魔獣は、噛み千切った。
ブチッ
鈍い音を出しながら閉じられたその口の周りにはドクドクと真っ赤な血を垂れ流し、人間の足を旨そうに咀嚼した。一方、喰われている彼の方は・・・
「ぎゃあぁぁぁっ!!あぁ!がぁぁぁ!!」
「ひいぃぃ!」「もう嫌だっ!」「だ、誰か助けてぇ!」「神様!お助けください!」
この世のものとは思えない程の叫びを上げる彼とそれを間近で見ていた住民達が叫んでいた。この光景は毎日何度も見ているのだ。その度に神に何度も祈る。
その反応を見て魔獣は楽しそうに彼を咀嚼した。最初は片足の太ももまでをゆっくり食べていたが、飽きたのか数本の腕を器用に操り今度は腹を口に運んだ。
そしてその血塗れの口を開いてその腹を喰い千切った。
グチャッ
「ッ!?~~~~~!!」
足に続き今度は柔らかい腹を喰われた彼は声にならない叫びを上げてビクッと痙攣した。泡を吹いて白目にもなるがまだ生きていた。
それに構わずに腹の内臓を引き千切って腸らしきものを口で引っ張り出した。
ベチャベチャっ
「うわあぁぁ!」「こんなの嫌だ!」「もう殺してくれぇぇ!!」
彼は次々と喰われていくなか、周りの人が泣き叫ぶ声を聞きながら息を引き取った。
生きたまま怪物に喰われていく。そんな光景がこの都市では複数の場所で見える。彼等はいつ助けがくるかも分からないまま今度は自分が喰われるかも知れない。そう不安を感じながら必死に神に祈る。
そんな都市から4キロメートル程離れた場所にチェーニブル法国陸軍1万と数百両の戦闘車両にゴーレムが待機していた。
ここまで大した損害も出ずに本隊と合流したことに安堵したリバイリナ少佐はここから見える都市グラパスを注視していた。
彼の周りにはその都市を砲撃しようと野戦砲と戦車の砲塔をグラパスに向けて構えていた。
「あとどれ程で攻撃出来る?」
「はっ!あと10分程で全てが完了します!少佐殿っ!」
「そうか、航空支援はないのか?」
「はっ、先程来た魔信によりますと、想定よりも魔獣が少ないと判断し、魔法石の探索に回したようです!」
魔法石は魔力を放出しているため、航空機に専用の魔力レーダーを搭載すればその近くを通った時に反応するので、航空機を探索に動員していた。
「なら今回は砲撃の訓練か・・・聞いていた通りに大したことなかったな。」
「所詮は開発途上国の亜種族です。期待をするだけ無駄ですよ。」
「そうだな。楽しめるかと思ったが無駄だった。」
「少佐殿、あの都市に生存者がいる可能性があると聞きましたが、それでも砲撃をするのでしょうか?」
通信兵がそうリバイリナ少佐に聞いた。別に通信兵は生存者が心配で聞いたのではない。この件が漏れて次の世界会議で他国から(特に科学文明国から)非難を受けるのではないかという意味で心配しているのだ。
「もちろん行うだろう。いちいち生存者を助けてたら俺達が死ぬ。なんで他国の為に俺達か死ななければならんのだ。っと世界会議で言えば皆黙るだろう。」
そんな彼の心配に気付いたリバイリナ少佐は安心させるように優しい声で言った。
その言葉に安心した通信兵はお礼を言って下がった。そう話している内に砲撃の準備が整ったのだろう。後ろで待機していた砲撃部隊が砲撃を開始していた。
ドオォン! ドオォン! ドオォン!
バアァン! バアァン! バアァン!
次々と青白い炎を出しながら放たれる砲弾は正確に都市グラパスの方へ着弾した。
ズバアァァァン!!
着弾した場所では砲弾の攻撃を受けた魔獣達が慌てて逃げ回っていた。だが、砲弾の直撃を受けたりその衝撃で倒壊した建物の巻き添えを受けたり着弾後の青白い炎で絶命していく。
例え砲撃で生き延びてもこの高温の炎と煙によって次々と倒れていった。
だが、この影響を受けたのは魔獣達ではなかった。建物に閉じ込められていた生存者達も共にこの砲撃をくらっていた。
「きゃあぁぁ!」「何なんだよ!これは!?」
「助けが来たのか?」「バカ野郎!これじゃあ俺達も巻き添えで死んじまう!」
「急いで逃げるぞ!」「どうやってだよ!?扉はあいつ等が頑丈に固めてるんだぞ!?」
彼の言う通りに知能の高い魔獣が閉じ込めている建物の出口を人間達程度の力では開けられないように閉ざしていたのだ。とても人間達程度では開けられないものではない。
試しに力のあるドワーフ達が数人で扉を押してもびくともしなかった。
「せーのっ!」「うおおぉ!」
これに人間やエルフの男達も力を合わせるが全く扉は動かない。大きな鎖や岩を使ってガチガチに扉を閉ざしているので、とても無理だ。
そうこうしている内に彼等のいる建物が崩壊して彼等は死んだ。だが、彼等は運がいい。生きたまま喰われることなく、死んだのだから。この日までにどれ程多くの者達が生きたまま怪物達によって喰われてきたことか。
「・・・うむ。順調だな。奴ら慌てふためいている。」
双眼鏡を使って見ていたリバイリナ少佐はそう満足そうに頷いて呟いた。
「ん?・・・生き残りか?逃げ切れるかなぁ?」
リバイリナ少佐は都市内に生存者が教会から出て逃げていく生存者達を発見した。
必死な表情で逃げ惑う彼等をその後ろから大きな魔獣が追い掛けるのが見えた。
その魔獣は教会の中から遅れて出てきて、恐らく砲撃の衝撃で扉が偶然開いて逃げていく彼等に気付いて追いかけているのだろう。
その魔獣は4本足で走り胴体部分には6本の腕があり、まるで蜘蛛が無理矢理、二足歩行で歩けるように進化したような見た目であった。
「ほぉ~。初めて見る亜種族だ。蜘蛛が魔法石を偶然触れて進化でもしたのか?気持ち悪い。」
そう言っている間に最後尾で逃げていたドワーフの男が捕まりそのまま喰われた。頭だけを喰った後にまた追い掛けていった。
だが、その数メートル程走った後に運悪く砲撃の直撃を受けて絶命した。その近くにいた生存者達を巻き添えにして。
「あ、当たったか・・・もう少し見たかったのに、残念だ。」
「少佐殿っ!魔獣共が都市から出て此方に真っ直ぐ突っ込んで来ます!」
「お、此方に気付いたかっ!感知範囲が広いな!」
リバイリナ少佐が言われた方向に目を向けると確かに数体の大型魔獣達が此方に向かって走っていた。
「どれ、私が出るか。」
「いえ、既にゴーレム部隊が迎撃に向かっています。」
「なに?」
そう言われてその手前を見てみると確かにゴーレム部隊が早歩きで迎撃に向かっていた。その後方にはそれを操る魔術師達がいた。
前衛には体長8メートル級の重装甲型ゴーレムが中衛は6メートル級の汎用型ゴーレムが後衛を5メートル級の結界型ゴーレムで陣形を組んでいた。
一方魔獣側は全部で8体が形振り構わずに走っていた。ゴーレム部隊は40体、かなりの戦力差だ。
体長が10メートルはありそうな大型の四足歩行の熊みたいな魔獣が雄叫びを上げながら一番乗りでゴーレム部隊に噛みかかった。
だが、結界型ゴーレムの発動した結界魔法で防がれて、熊の魔獣は立ち往生する。そうしている間に他の魔獣達も追い付き1番前にいた重装甲型ゴーレムに攻撃をするが、その数メートル手前で熊の魔獣と同様に立ち止まる。
困惑する魔獣達をよそに重装甲型ゴーレムが手に持っていた大型の銃で撃ち殺した。
ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!
そう単発式の銃で発砲する。撃たれた魔獣達は大きな風穴を開けて倒れるが唯一熊の魔獣だけがそれに耐えた。
熊の魔獣は回り込んで攻撃しようとするがその前に汎用型ゴーレムが行く手を遮る。そして汎用型ゴーレムはゴーレム側から見て小型の片手銃を熊の魔獣の懐に向けて発砲し、顔を思いっきり殴った。
その後は数体の汎用型ゴーレムによるリンチであった。鉄の魔化が施された素材で造られたその拳は魔獣の頭蓋骨に容易くヒビを入れた。10発も殴ると痙攣を起こし、そのまま死んだ。
「いやぁ~流石はゴーレム部隊ですね!」
近くにいた部下がそうリバイリナ少佐に言うが、当のリバイリナ本人はつまんなそうに言った。
「ふんっ。あいつ等、俺達に見せ付けるようにしやがった。あんなに近付かなくても遠距離から発砲すれば良いだろうが。」
「まぁそう仰らずに。見ていて中々に面白いではありませんか。」
「ふん。」
リバイリナ少佐はそう言って後方へ下がった。
「あ、少佐殿!」
「また始まったよ。」「あの人は前から暴れる機会を奪われると拗ねるからなぁ~。」
「しかも今回は魔獣共だから手加減無しで暴れる筈なのに、殆ど戦車とかで片付いたしな。」
その後、周到な砲撃により、都市グラパスは殆どの建物が崩壊して魔獣も全滅した。
また航空機による捜索で魔法石の埋蔵場所も分かり、その場にいた魔獣達の討伐もゴーレム部隊や航空機の爆撃により殲滅した。
こうしてチェーニブル法国は大陸を救った英雄という事実をつくりあげた、また、新しい魔法石の鉱山も他の列強国に気付かれずに手に入れることにも成功した。
今回の騒動でルバガタニア大陸の死者は約30万人であった。しかしチェーニブル法国側は53名、チェーニブル法国の圧倒的な力を見せ付けた。
しかしそのチェーニブル法国によって虐殺された避難民達は3000名を超えるという。一部の国は生き残りが余りにも少ないことに怪しむが、その事実を大陸諸国は知ることはない。
怪しんでチェーニブル法国の怒りを買いたくないからだ。それくらいならば英雄として迎え入れた方が互いに得があるのだから。
全てはいつか起こるであろう大規模な戦争に備える為に。
如何でしたか?
それと今日をもってブックマークが100になりました!
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