第37話 大連合戦争後の各国の反応 その3
第37話 大連合戦争後の各国の反応 その3
日本主導の地球側連合軍と、オーマバス主導の異世界側連合軍との戦争終結から1ヶ月が経過していた。
その間に日本の名は世界中に広まり、世界中の主要国は日本に関する情報を集めることに腐心していた
その主要国には準列強国は勿論のこと、列強国・上位列強国やこの世界で最上位に君臨する超大国が日本の情報を少しでも多く集めようと動いていたのだ。
日本列島より東に約12000キロメートル・・・ほぼ地球の直径と同じ距離である場所に、列強国の1つであるとある国があった。
その国とは「ジュニバール帝王国」。序列4番目の列強国であり、上位列強国と超大国を除けばこの世界で1番の大国だ。
大小合わせて約2300余りの島々を国土とする海洋国家で、人口9300万人を誇り、技術力は1940年代のイギリスと同様という魔法文明国である。
ジュニバール帝王国 首都シンバハール
この国が支配する島で1番の面積を誇るシンバ島。そこにある人口670万の巨大都市シンバハール。その帝王会議場の会議室では、いま大臣達が参席して会議をしていた。
同都市 帝王会議場 特別会議室
「・・・よって賛成多数により軍備増強を行うこととなりました。」
今回の議題の1つとなっている軍拡を、正式に行うことが決定され、軍事大臣がそう宣言した。
「うむ。軍拡もいいが、内政にも気を配っていただきたいものです。」
内務大臣が軍事大臣にそう発言するが、彼自身そこまで今回の軍拡に反対していなかった。
今まで魔法文明国側が優勢であったこの世界。しかし突如現れた有力な科学文明国、日本・地球連盟国により、この勢力バランスが崩壊する可能性が出てきたのだ。
魔法文明国のオーマバス神聖教皇国の没落、その代わりに科学文明国である日本国らの出現。
これを機にムー共和国主導の科学文明諸国が、アトランティス帝国率いる魔法文明諸国相手に強気に出るのは、もはや避けられないことだろう。
それに備える為に、このジュニバール帝王国は大規模な軍拡を行い、少しでも差を縮められないようにするのだ。
それを互いにわかっている為に、軍事大臣は安心させるように応える。
「ご安心下さい。我々も国民のことを当然考慮しております。」
「我々資源管理省としても魔法石の採掘量を急激に増やすことはせず、去年の2割増で行う所存です」
そう資源管理大臣が軍事大臣と共に内務大臣に言う。
「それならば我々は何も不満はありません。帝王陛下もそれでよろしいでしょうか?」
内務大臣はこの特別会議室で最も上座に座る男性、この国の最高権力者である第15代帝王デメット・アルフムリス・ジュニバールに確認をする。
既に60代になっているだろうそのシワだらけの顔に似合う渋い声でこの場にいる大臣の1人に向かって発言をした。
「ふむ・・・その前に情報大臣、何か日本について新たな情報は得られたか?」
帝王に呼ばれた情報統制管理省の責任者である情報大臣が起立をして報告をした。
「はっ、昨夜にオーマ島のシンメネリアに潜伏していた密偵から報告が来ました。今までに世界情報通信会社や我が国の報道社が入手した以外の情報は少なく、未だに日本内部の細かな情報は掴めておりません。ただ・・・地球連盟国という国がオーマ島付近にある島を開拓して、大規模な工場らしきものを複数建設しているとの報告がありました。シンメネリアの郊外にもそれらしきものを確認したそうです。」
「工場だと?」
「はい、まだ建設途中らしいので確証は出来ませんが、送ってきた魔写を見ますとその可能性が高いかと。」
「地球連盟国か・・・日本に並ぶ技術力を持つ国であったか?さてはオーマバスの経済を握る積もりか。小癪な。」
帝王はそう忌々しそうに呟く。ジュニバール帝王国とオーマバス神聖教皇国は互いに魔法文明であり、更にオーマバス神聖教皇国はかつてはレムリア連邦とも仲を深めていたように、他の有力な国家には(パースミニハ王国は除く)友好的に接し、関係を築いていた。
そんな国が敗れ、更には経済を握られ追い詰められていることに怒りを覚えるのは当然のことである。
「・・・あの2ヶ国はいずれ世界会議に呼ばれることだろう。いつか戦う時に備えて迅速な軍拡を行え。他の列強とも共闘戦線を張れるように手配をしておけ。」
「畏まりました帝王陛下。」
ジュニバール帝王国は来年に世界会議に呼ばれるであろう日本と地球連盟国への対応を行うのであった。
そして今後は日本列島より西側に約9800キロメートル離れた所には、とある大陸があった。
その大陸はこの世界ではマジュニマナ大陸と呼ばれており、面積はアフリカ大陸より僅かに小さい。だが、それでも今まで見てきたどの大陸よりも遥かに大きい。
その大陸はブラジルを何倍にも大きくしたような形で、その周囲には大きな島々があり、その島々がマジュニマナ大陸を囲むようにあった。
そんなマジュニマナ大陸には、数多くの中小国と、この世界で高い国際的地位を得た上位列強国の1つがいた。
その上位列強国の国名は「ガーハンス鬼神国」と呼ばれている。マジュニマナ大陸の北半分の約8割を支配している大国だ。
ガーハンス鬼神国は人口1億400万人、技術力は1940年代の日本と同等のものを有する魔法文明国である。
この国は、上位列強国の中で2番手の国であり、極めて強力な航空戦力を保有する空軍国家だ。
何せこのガーハンス鬼神国の空軍には、亜種族の中でも強大な力を持つドラゴンを戦力として迎え入れているのだ。
ガーハンス空軍に在籍するドラゴンは全部で12体であり、1番弱いドラゴンでも時速800キロという速さで、高い防御力に機動力を持っていた。
そして最も戦闘能力の高いドラゴンである最高戦竜騎は、速度が驚異のマッハ1.7、並みの軍艦の砲弾を弾く程の、極めて頑丈な鱗を身体中に張り巡らしているのだ。
正に航空戦力だけを考慮するなら、最上位列強国を越えるどころか超大国にも肩を並べる程の戦力である。
何故これ程強力なドラゴンを従えているかというと、この国の特徴が理由となる。
この国は鬼神国という変わった国号を使用しているが、その理由が……ガーハンス鬼神国は一部ではあるが、亜種族にも人権を認めている数少ない国なのだ。
これは超大国を除くと、余りにも少ない国々しか出来ないことである。(超大国は能力や知能の高い亜種族にも人権を認めて国を発展させてきた。)
亜種族の一つとして、鬼神族と呼ばれる頭に青白い角を伸ばした人間の様な見た目をした種族がおり、ゴブリンやオーク等とは違い人間やエルフ、ドワーフのような異種族以上の高い知能と膨大な魔力を持っており、その鬼神族が国の政治家や軍人、実業家として活躍しているのだ。
ただ、その鬼神族は数が非常に少ない。2000人にも満たない程、少ないのだ。
だが、能力が高い故にその数の少なさをカバーしていたのだ。
そしてその鬼神族こそが、マジュニマナ大陸にいたドラゴンを、100年前に膨大な魔力を使用する最高位の服従魔法を使って従えたのだ。
そして魔法石を利用して新たな服従魔法を開発、それを使って最高戦竜騎を従え上位列強国の2番手にまでに成長したのだ。
そんな国の首都である、人口700万人を誇る巨大都市ゲバーナ。その政治の中枢である中央鬼神議事堂には、1人の鬼神族と数人のエルフ、人間の政治家達が話し合っていた。
マジュニマナ大陸 ガーハンス鬼神国
同国 首都ゲバーナ 中央鬼神議事堂
頭に綺麗な青白い角を生やした鬼神族の男性が目の前にいる者達に話をしていた。
「そうか・・・やはりムー共和国はあの日本を世界会議に招くつもりか。」
鬼神族の男性、このガーハンス鬼神国のトップに君臨するガミラナ・インバサード・イン大統領が残念そうに発言した。
「はい。スパイからの報告でムー共和国は日本への使節団を乗せた専用機を昨日の夜に送ったようです。幾つかの国外にある空港を経由して向かうでしょうからまだ数日は掛かるでしょう。」
人間の男性、中央情報管理指揮大臣がそう報告をする。
彼の言う通りにムー共和国は日本から約40000キロメートル以上も離れており、幾ら超大国の航空機であろうとも短期間で日本に到着するのは不可能に近い。
「いかがなさいますか?妨害工作をしますか?ムーと日本を近付けるのは我々にとって害が及ぶかと」
ガミラナ大統領の補佐官がガミラナ大統領にそう聞く。その提案に彼は首を横に振り却下した。
「いや、我々がすべきことでは無い。アトランティス帝国が行う可能性もある。我が国はチェーニブル法国と共同で動くとしよう。」
「畏まりました。外務大臣にそう伝えましょう。」
ガミラナ大統領が言ったチェーニブル法国とは、序列1位の最上位列強国である。超大国を除くのならば、その国こそがこの世界において最も繁栄していると言われる国だ。
同じ魔法文明国として仲が良く、今回の大連合戦争を切っ掛けに、共同で科学文明諸国に何かしらの牽制を行うつもりであった。
「大統領、ムーは勿論のことですが、ガントバラス帝国も警戒すべきです。あの国も日本と接触しようと画策しているとの報告があります。」
「無論解っている。だが、アトランティスから何かしらの要請が出るまではあの国には何もしないこととする。お前は日本の更なる情報を集めるのだ。もしあの国と戦争となった場合に役立つ情報をだ。」
「承知しました。西平島に本格的にスパイを送ってみましよう。」
「頼んだ。」
先ほど出てきたガントバラス帝国とは、同じく上位列強国であり序列3番目の国だ。
ムー共和国と同じく科学文明国であり、日本と接触をして友好的な関係を築きたいとしている国だ。
「・・・今回の世界会議では荒れるだろうな。願わくばこれが我が国の更なる発展の切っ掛けとなると良いのだが。」
「大統領、万が一に備えてより高品質の魔法石の採掘場を開拓しましょう。」
「いや、それよりもドラゴンを新たに服従するのが先だ。」
「だが、この短期間に複数の強力なドラゴンの支配は危険だ。服従魔法にも限界がある。より強力な魔法開発をしてからではないと維持出来ない。」
「世界会議までには何とかしたいが・・・果たして間に合うのか。」
ガーハンス鬼神国も魔法文明国として来年行われる世界会議の準備に取り掛かることとなった。
またまた場所は変わり日本列島より東北に約40000キロメートルも離れた場所には大陸があった。
その大陸はムー大陸と呼ばれており、面積は中国と同じような広さであった。
その大陸を丸ごと支配している国こそが、この世界において最高峰の国力と技術力を誇る超大国の一つ、ムー共和国である。
半日前
ムー大陸 ムー共和国
この時、ムー共和国で最大の規模を誇るムゲロナ国際空港では、世界会議に日本を招く為の使節団を乗せた政府専用機が離陸準備にかかっていた。
日本に使節団を送ることが決定されたのはつい2日前のことであり、正式に決定されてから大急ぎで準備を行い、たった2日で全ての準備を完了させたのだ。
何故ここまで急がなけれなならないのかというと、科学文明トップの国と、新たに出現した有力な科学文明国が接触して友好関係を結ばれることは、魔法文明国にとって自分達を追い詰める可能性がある。その為に妨害工作をしてくる恐れがあったのだ。
その為に妨害工作が行われる前に出立して日本を科学文明諸国側に招こうとしているのだ。
ムー共和国の使節団が訪日することは、レムリア連邦経由で日本に知らされており、数日掛けて日本に向かうことになっているので、その間に向こう側も歓迎の準備を終えているだろう。
本当はもっと時間を掛けてお互いに余裕のある外交を行いたかったが、いつアトランティス帝国等が妨害してくるか判らないので、日本側にもそれで納得してもらった。
ムー共和国 ムゲロナ国際空港
国内でも大型に分類される旅客機が、7つある滑走路の1つから飛び立とうとしていた。
政府専用機 機内
機内に機長からのアナウンスが流れた。
「機長です。当機はこれよりアナバルス空港に向かいます。その後燃料補給をして次にベネハル空港、バングニート空港を経由した後に日本の東京国際空港に向かいます。」
「・・・まもなく離陸か。果たして世界情報通信会社の報道通りの国なのだろうか。」
アナウンスを聞いていた使節団の1人がそう呟いた。彼は報道機関が発している日本の報道内容に未だ疑問を覚えていた。
それも当然ではあろう。この世界に別の異世界から国が転移して、しかもその国が上位列強国並みに発展しているなど、この世界の者からしたら信じがたいことだ。
「私も少し疑っているよ。だが、もし本当ならばアトランティス帝国等への良い防波堤になってくれる筈だ。くれぐれも無礼な真似はしないでくれよ?」
同僚である外務省職員がそう反応した。
「分かっている。だが、あまり期待はしない方が良いな。何せ不意打ちとはいえオーマバス程度に軍艦が何隻も沈められたそうじゃないか。あの程度の海軍に沈められるなどたかが知れてる。」
「軍艦だったか?俺は巡視船だと聞いたぞ。」
「軍艦などどうでも良い。」
別の使節団の男がそう発言した。
「日本は数千の兵に上陸されて何日も占領されていたそうじゃないか。我々ならば半日もせずに殲滅出来たというのに。あまり買い被るな。」
彼は外務省職員ではなく、日本の軍事力を正確に調べる為の国防省所属の国防兵器高等研究開発局の局員で、そう自信を持って宣言した。
「う~む。確かにそうだが、うちの軍と一緒に考えるな。それでは日本軍が気の毒だ。」
「そうだぞ。数日で倒したことを誉めるべきだ。準列強国程度では出来ない偉業なのだから。」
「ふんっ!」
そう反論されたが、彼は毅然とした態度で座った。宥めた彼等も日本が発達していると解ってはいるが、上位列強国の中間あたりだと考えていた。
その様子を後方の専用席で見ていたこの使節団の団長、外務省の副外務大臣であるザメハーカ・ウロドロイスは、少し考えこんでいた。
(大臣も言っていたが、やはり皆も正確に把握出来ていないか、まぁ無理もないか。)
報道機関が日本について公表した内容は、殆どの人々が半信半疑になるようなもので、しかもその情報量はかなり少なかった。
アトランティス帝国のような国は、世界情報通信会社の最高幹部と繋がりがあるので、まだ他国よりも多くの正確な情報を得ているが、それでも判断に迷う程だ。
ザメハーカ副外務大臣がそう考え、今までの情報を脳内で纏めていると、後部座席に座っていた補佐官が耳打ちをしてきた。
「副外務大臣、先ほどレムリア連邦大使館から連絡が来ました。日本の排他的経済水域に近付き次第、日本の戦闘機が先導をしてくれるようです。」
「そうか、わかった、ご苦労。」
途中までは勿論、自国の誇る空軍の戦闘機が護衛をしてくれるが、他国の空域に近付くとその国の戦闘機が護衛に来てくれる為に、彼等は日本も護衛兼先導役の戦闘機を向かわせてくれることを期待していたのだ。
これで早期に日本の戦闘機のレベルが測れると、ザメハーカは心のなかでほくそ笑みを浮かべた。
日本に向かうまでの経路は殆どが科学文明諸国の領域なので、これ以降魔法文明諸国が妨害工作をしてくる可能性は、限りなく低くなっていた。
「少しでも高度な技術を持っていれば助かるのだが・・・期待はしない方が良いのだろうか。」
これで予想よりも大したことのない技術力であったら今までの労力が無駄になるので、彼はせめて上位列強国並みの国力を持っていて欲しいと願った。
(果たして日本は我等にとっての救世主か、それか敵となるか。願わくは強力な味方となって欲しいものだ。)
ザメハーカ副外務大臣は離陸と同時にそう願った。これより使節団は複数の空港を経由して日本に向かうのだった。
日本列島から南東に約19000キロメートル離れた場所にも大陸があった。その大陸はキシリンモロ大陸と呼ばれており、大きさはカナダと同じくらいだ。またキシリンモロ大陸のすぐ北には数千を超える島々があり、多くの中小国が支配していた。
その大陸の約半分を、とある列強国が支配していた。
その列強国の名は「ガントバラス帝国」。序列3番目の上位列強国であり、1940年代のナチス・ドイツと同等の技術力を持つ国だ。
人口は約9700万人で、強力な戦車を保有している陸軍国家である。
そんな国の首都であるミュクバリステ郊外では、大規模な軍事演習が行われていた。
人口およそ630万人を誇る巨大都市から程近い平原で、ガントバラス国防省の国防大臣が視察の元、約10万人の陸軍を動員していた。
キシリンモロ大陸 ガントバラス帝国
同国 首都ミュクバリステ 郊外 平原
平原には、数百両もの最新式戦車が黒い煙を出しながら走行しており、平原の奥に見える旧式の戦車が置かれている場所に目掛けて砲撃をしていた。
「撃てぇ!」
ドドドドオォーン!
一斉砲撃をするその光景は圧倒的な力を見せつけるかのようであった。
各戦車の砲撃にそこまで差が無いことから高い練度だということがよくわかる。
そして戦車部隊の後方から数万の歩兵部隊が一気に走りだした後に伏せて銃撃を行った。
数万もの歩兵が放つ銃弾は昼間でもはっきり見えたその数えきれない程の光が放たれる光景はとても美しいものであった。
その光景に魅了されていた国防大臣のサマハミニダ・ルーブルスは隣に座る男に声をかけた。
「・・・素晴らしい光景だ。よくやったモロトカル大元帥。」
大元帥と呼ばれた男、モロトカル・リバーム大元帥は、頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「見に余るお言葉です閣下。」
「何を言う、貴管がここまであの軍団を育て上げたのだ。海軍や空軍の管理もあるといのに。本当によくやった。」
サマハミニダ国防大臣の言う通りに、モロトカル大元帥は、ただの元帥とは違い陸軍・海軍・空軍の3軍全てを管轄としており、常に膨大な情報を処理し、問題解決にあたっている階級なのだ。
しかし、彼はそれらを管理しつつこのガントバラス陸軍の最精鋭である第1軍団集を直々に訓練していたのだ。
その結果、今までも十分な程の練度を持っていたが国防大臣の目から見て更に洗練された動きをするようになったとわかる程の効果を見せた。
「ありがとうございます。・・・ところで閣下、1つお聞きしたいことがあります。」
「何だ?」
サマハミニダ国防大臣は、まだ演習を続けている第1軍団集を見ながら言葉を促した。
「先の噂になっている日本についてです。あの国も我が国と同じ科学文明国であるとか。」
「そんなこと貴管も知っているだろう。本当に聞きたいことは何だ?」
「・・・あの国の光る矢についてです。」
その言葉に、国防大臣は大元帥の方を振り返る。
「やはりそれに気付いたか。」
「はい。情報を集めた結果、ムーのミサイル、そして我が国の開発しているエネットバンに酷似している可能性が、極めて高いです。」
エネットバンとはガントバラス帝国の秘密兵器開発部が2年前から計画していた長距離攻撃兵器、いわゆるミサイルである。
独自の技術を使用して超大国しか使えないミサイルを開発していたのだ。
もし開発が完了すれば命中率は低いものの、数十キロメートル先の標的に攻撃を加えることが可能となるのだ。
そんな時に突如現れた日本という国が、そのエネットバンもといミサイルに似た兵器を使っている可能性があると聞いたのだ。
「私も独自の手段で情報を集めているが、終戦以降、それらしきものは確認していないらしい。戦争中ならば、確認出来るのだが・・・遅すぎたな。」
「閣下、是非とも日本と国交を結び友好的な関係を築いて頂きたいです。」
「無論そのつもりだ。アトランティスやジュニバール、チェーニブルという脅威がある中、新たな科学文明国の出現はもろ手をあげて歓迎したい出来事だ。オーマバスとレムリアを相手に勝利した国・・・興味が出るな。少なくとも1つの分野に関しては、我が国を上回っていることになるのだからな。」
「はい、同じ気持ちです、閣下。」
「うむ・・・話は戻すがあのデネリガーはどこまで生産出来たのだ?」
国防大臣の言うデネリガーとは目の前で砲撃を続けている戦車の名前である。
デネリガーは高い防御力と圧倒的な攻撃力を併せ持つ自慢の戦車である。
初期型のデネリガーの砲塔に、対空砲である90ミリ高射砲をくっ付けたのが切っ掛けで強力な攻撃力を持つようになったのだ。
更に前面には10センチの装甲板をつけて高い防御力を得ているということだ。
そして現在では、専用の92ミリ砲塔を付けて15センチの特殊装甲板も付けて攻撃力・防御力が更に強化されたのだ。
速度も従来ならば時速35キロ程度と、50キロ以上は出せる他国の戦車に比べ遅かったのが欠点であるが、最近のエンジン開発により、今では時速43キロまで出せるようになった。
まだまだ機動力は高くないが、このスペックでここまでの速度を出せるのは驚愕に値するだろう。
「はっ、現在、軍需工場で約40パーセントをこの生産にあてており、月に400両、現在の総生産両は既に5400両を超えました。」
「ほぉ!これほどの戦車をもうそこまで生産したのか!素晴らしい!」
「いえ、まだまだです。将来的には5万両を生産するつもりです。」
「5万両か!いやはや・・・驚きだな。燃料が心配だな。」
「ご心配なく、資源管理省の協力もあり石油はマレーナ地方の石油保管所に約350万バレルを保管しております。」
国防大臣は予想以上の備蓄量に驚く、350万バレルもあれば、1000両程度の戦車ならば同時に動かしても18ヵ月は持つ計算になる。
「そんなにか?」
「はい、数年掛けてレムリア連邦らから集めました。これからも更に増える予定です。」
「はははっ!・・・財務省あたりがうるさいだろうな。実に笑える。」
「彼等には感謝が絶えません。」
彼の言う通りにこれらの石油の購入や保管所の建設費用、維持費に戦車の生産費用に訓練費用等、全てを計算にいれたらきりがない。
ガントバラス帝国の年間の国家予算は75兆7500億バラスになる。
その内の本来の軍事予算は16兆バラスとかなりの割合であるが、それから更に追加予算として10兆バラスも追加してくれたのだ。
それだけでも財務省がどれだけ苦労してきたのかがよくわかる。余りにも働きすぎて職員らが自宅に帰れずに、ようやく帰れたと思ったら自宅の間取りを忘れてしまった者が少なからずいたという逸話が出た程だ。
「これだけの力があるならば万が一日本と交戦することになっても返り討ちにすることは出来そうだな。」
「はっ、そんな未来が来て欲しくないですが、それを想定しての対応も考案中であります。」
「・・・果たして頼もしい味方となるか、敵となるか、アトランティス等と結託するかと知れんな。」
「外務省がどうにかしてくれるでしょう。我々は戦うのみです。」
「それもそうだな。よし!演習は続けておけ、私は国防省に戻り、皇帝陛下に報告をしてくる。」
「はっ!」
ガントバラス帝国は日本を味方として迎え入れようとしているが、もし敵対した時に備えていた。
そしていつか来るかも知れない大規模な戦争に本腰を入れて準備をしていた。
時はこの日より少し戻る。
日本国 首都東京
同都市 首相官邸 会議室
ここ日本の行政の中心を担う大臣達がこの会議室にて会議をしていた。
「つい先ほど、レムリア連邦から連絡が有りました。ムー共和国の使節団がここに向けて政府専用機で出発したそうです。このまま順調に行くのならば4日後には到着するそうです。」
外務大臣がそう報告をして、今度は防衛大臣が補足をした。
「この使節団が排他的経済水域内に入り次第、航空自衛隊の部隊を護衛兼先導役として羽田空港まで同行させます。」
そして次に国家公安委員長がそれに関する報告をした。
「使節団が到着する当日には、警視庁主導のもと羽田空港周辺の警戒を行います。」
それらの報告を聞いた総理大臣が言葉を発する。
「遂に超大国がうちに来るのか・・・これで新たな国際問題が起こらないといいんだがな。」
「レムリア連邦からも聞きましたが、今回の訪日は我が国を世界会議に招くというのが目的のようです。恐らく世界会議で我々を抱き込む気でしょう。」
「そして我が国を魔法文明国への防波堤として利用する・・・その可能性も高いのでしょう?」
国務大臣がそう発言した。
「それは否めません。はっきり言ってこの短期間で更なる戦争はもう出来ません。そうならないように外務省には頑張って頂きたい。」
「それは承知しております。我々も全力でそれを阻止します。オーマバスのような国が出てこないことを祈りますよ。」
外務大臣がそう言う。言外にオーマバスのような狂った国が出てきたら止められるか分からないと言っているが、それを注意する者はいない。
それもそうだ。宗教を理由に戦争をするぞっと言われればそれを阻止する方法などかなり限られているだろう。
武力をちらつかせても神の為にと意味のない突撃をしてくる可能性があるのだ。それをまともな方法で阻止する手段なんて無いだろう。
「それについてですが、私の方から提案があります。」
防衛大臣がそうこの場にいる者達にそう言って意識を向けさせた。
「提案?まさか自衛隊の拡大でもするのか?」
官房長官からの言葉に防衛大臣は頷く。
「はい。そのつもりです。」
そう言いきると周囲はざわめき出す。今回の戦争により国内では軍拡を阻止しようとする活動家達が活発に動き出したのだ。
そんな中でその提案は野党からの反発は免れないだろう。
「皆さんのお気持ちは分かりますが、先の大連合戦争で防衛に問題が生じることが分かりました。」
「問題?」
「はい。まず最初は哨戒網についてです。哨戒機の突然の故障により、オーマバス・レムリア大陸諸国連合艦隊の発見が遅れました。近いうちに更なる偵察衛星の打ち上げが予定されていますが、次また同じ事が起こらない確証はありません。その為、哨戒機の増産そして新型哨戒機の開発を行いたいと思います。」
「新型哨戒機?新型を作る必要があるのか?」
総理大臣からの質問に防衛大臣は顔色1つ変えることなく答えた。
「はい。従来の哨戒機であるP-1は十分な機能を備えておりますが、この世界は広大な面積を誇ります。かつての地球の少なくとも10倍はあるのです。今後更に我が国は世界に進出してゆくでしょう。その際にP-1の航続距離に不足が出る可能性もゼロではありません。そしてより故障や不具合の出にくい機体を開発するべきです。これを機に無人偵察機の開発も視野に入れております。」
「無人偵察機・・・アメリカやロシアそして中国のような物をか。一理あるな。」
日本はかつてのアメリカ・ロシア・中国と比べて無人機の開発がやや遅れており、これを機会にその技術を高めるべきだと防衛大臣は言う。
確かにこの広大な世界を人間の手で監視するには無理がある。しかし無人機のような人工知能を搭載した存在がそれを手助けするのならばその負担は大幅に軽減されるはず。
「続いて海上戦力についてです。我々はこの日本およびその周辺海域を防衛するにあたって大きく分けて4つの護衛大群をローテーションを組んで防衛していました。しかし、第1護衛大群を動員してその防衛網に限界があると考えました。」
防衛大臣は机の上においてあるペットボトルの水を飲んで喉を潤して、報告を続けた。
「もし、仮にですが、あの時に別の第三国がこの本土に攻撃を仕掛けてくればこの本土を完全に守ることは困難です。地球にいた頃は仮想敵国が身近にいた為にそれでも問題はありませんでしたが、転移して以降、他の大陸は数千キロメートルも離れていたりしますが、もし、他の大陸に部隊を派遣した際に別の真反対の方角から敵国が襲来してくればどれ程危険かはお分かりになるかと思います。」
「確かにそうだな。この広大な世界を生きていくには、少なすぎるかも知れない。どこまで拡大するつもりだ?」
「はい、まず護衛大群を4つから倍の8つに増やしたいと思います。」
「8つ!?それは幾らなんでも無茶苦茶だ!どれ程の費用が掛かるのか・・・」
財務大臣がそう叫ぶ。防衛費にあたって最も金食い虫なのが海上自衛隊(約9兆7800億円)で今でさえなんとかそれを削れないかと思案しているのにそれを倍にするなど余りにも酷だ。
「それぐらい無くてはこの国を守ることは出来ません!超大国らの技術力はある程度判明しておりますが、国力は未だに未知数です。しかし両国とも広大な土地を支配しています。単純な物量では我々を凌ぐでしょう。もしこの2ヶ国が我々に害を及ぶ場合最低でもこの数は欲しいのです。生き残る為にも」
「しかし、8つもの護衛大群は・・・建造費だけでなく、維持費もどれ程になるのか。」
「これはあくまでも最大でです。一気に拡大はしません。どうかご了承ください。」
「それはそうですが・・・」
それでも否定ぎみな財務大臣に総理大臣が言う。
「私からも頼む。ここはもうかつての地球ではない。先進国同士の戦争が当たり前の世界だ。」
「・・・分かりました。何とかしてみましょう。」
「我々、経済産業省としても全面的に協力します。今まで以上の貿易を行います。その為にも世界会議に参加して他の列強諸国らとの通商を結び経済の活性化を狙います。」
「それは責任重大だな。我々が何としてでも国交を結ばなくてはな。」
経済産業相の言葉に外務大臣がそう反応する。
「皆さん、本当にありがとうございます。では、まず最初に新たなイージス艦、潜水艦の増産計画、そしてその後に強襲揚陸艦、空母の新型建造計画という段階をとります。」
防衛大臣はタブレットを操作し、大臣達の持っているタブレット画面に細かな予定の載った情報を見せた。
その内容は、大型イージス艦を新たに3隻、通常イージス艦を4隻に原子力潜水艦を3隻の建造計画だった。
その建造予想のCG画像を見ると新たに建造するイージス艦は従来の艦とかなり変わっていた。
出来る限り無駄な凹凸を減らされており、滑らかな見た目をしていた。
「ずいぶんすっきりした見た目をしているな。」
「これはアメリカ海軍が保有しているズムウォルト級を参考にしております。この艦の最大の特徴は極めて高いステルス性能です。出来る限りの凹凸を無くしてレーダー反射面積を減らし、最新のステルス素材を使用している為にレーダーに写りにくく、仮に写っても小型の漁船だと勘違いされる程ステルス性能が高いのです。」
「それは・・・凄いな。だがそんな凄いものを建造出来るのか?」
「その点については、地球連盟国より今までの支援の報酬としてブラックボックス化としていた設計図情報の入ったUSBメモリを譲渡させることに成功しました。」
「そんな貴重な設計図情報を日本に持ってきていたのか?普通はそんな情報はアメリカ本土のペンタゴンの地下深くに保管するだろ?」
総理大臣の最もな言葉に防衛大臣はそれを待っていたかのようにすぐに答える。
「確かに本来ならばその通りです。しかしどうやらアメリカ海軍の第7艦隊司令官にのみ、その設計図情報の入った専用USBメモリを持つことを許可されていたようです。」
「何故だ?幾らなんでも危険過ぎるのに。」
「それこそアメリカ合衆国の用意周到な所です。もし本国に保管されている膨大な情報が何らかの理由により失われた時、全ての情報が完全に消えることを防ぐ為に、大統領が選んだ人物のみに特定の超重要情報を入れた専用USBメモリを持たせて、有事の際にはそれをコピーしてまたアメリカ本土にある保管所で更なる厳重な警備のもと保管するようです。」
「なんと・・・だがそこまでするか。」
「今回はそれのお陰で助かったわけか。」
「話を戻しますが、これはステルス性能だけでなく、主砲の砲弾にも大きな違いがあります。この砲弾には地上にある目標をより正確に砲撃する長距離対地攻撃弾を使用します。この砲弾は補助ロケット、GPS誘導装置を搭載しており砲弾でありながらも約150キロメートル先の標的を攻撃することを可能としております。」
「150キロメートルだと!?」
「砲弾でそこまで・・・まるでミサイルじゃないか!!」
「そんな恐ろしいものをアメリカは海軍に持たせていたのか。」
「対地だけでなく対空・対艦用の砲弾もあります。将来的にはこれ以外にレールガンも実戦配備を計画しております。」
レールガンという言葉に総理大臣は反応した。
「レールガン・・・あぁ!2年前くらい前だったか、ニュースにでてきたな。」
「そのレールガンも凄まじい性能なのか?まぁそうでなくてはアメリカが高い金を出してまで開発する訳がないだろうな。」
「もちろんです。流石に細かい性能は明かしてくれませんが、それも時間の問題でしょう。」
アメリカ海軍が保有するレールガンは、導電性を持つ素材で作られた板を2枚重ねてそこに砲弾を間に挟み込み、膨大な電力をその板に放出する。すると互いの板に逆回りの磁界が生じる。
その結果、2枚の板に磁場の相互作用により砲弾を押し出す力が生まれる。
それをアメリカ軍は実戦配備に耐えれるものを開発したのだ。
その砲弾の速さは最大でマッハ21・・・これは発射されるとその衝撃波により付近にいる人間は体がバラバラになり即死する。
その為、艦から発射される直前は付近にいる者は現代では珍しく分厚い装甲に守られた艦内に入り避難するのだ。
更にこのレールガンもとい電子砲の砲弾は先端を出来る限り先を尖らせて空気を切り裂くようになっている。素材も重量のある劣化ウラン弾を使用しているのだ。
そしてこの砲弾の最大射程距離は約40キロメートルだ有効射程距離であればあの世界一頑丈な戦艦として名高い戦艦大和を2隻並べても貫通出来ると言われている。
レールガンは圧倒的な貫通力を誇る最強の矛としてアメリカ海軍の艦に搭載されたのだ。
「続きまして強襲揚陸艦と空母は今までの艦よりも巨大化していきます。」
防衛大臣が次の画面に写した。それには350メートル級の強襲揚陸艦と330メートル級の空母の画像があった。
「この世界の上陸戦を考慮した強襲揚陸艦を保有すべきだとしてこの大きさにしました。」
「空母は揚陸艦よりも小さいのか。」
「空母は単に大きくしてもそこまで意味はありません。揚陸艦は多くの陸上兵器や物資を運ぶ為にも必要です。爆撃機を載せる空母も良いですが、爆撃機ならば大陸間を横断出来るだけの航続距離を持っていますし、空中給油もありますからね。あとは接岸出来る港が限られますので。強襲揚陸艦なら、エアクッション艇を使えますので。」
「なるほど。だがここまで大型化をするか。とうかい型でも260メートルぐらいだったのにな。」
「戦争でものを言う世界です。これぐらいの艦があれば、それだけでも抑止力になります。まぁ完成するとしても最低でも5年は掛かりますけどね。建造ドックを増築しなくてはこの増産計画は何十年も掛かってしまいます。」
「分かりました。私の方から建造ドックの増築を手配しましょう。個人的にその方面への知り合いがいます。」
国土交通相がそう言った。海上輸送路関係でその辺りにコネを作っていたのだろう。
「それならばお願いします。これで私の方からの現段階の報告は以上になります。更に細かな報告は後日行いたいと思います。」
「わかった。他に何か報告のあるものはいるか?・・・いないのならばこれにて解散とする。」
日本国は世界会議へ呼ばれることを想定して大規模な準備を開始した。
これで各国の反応編は終わりだと思います。
たくさんの列強国が出てきましたね!細かな説明は後々にすると思います。
ちなみにデネリガー戦車はお気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、ナチスのティーガー戦車を元にしています。
ここまでありがとうございました!
誤字脱字報告本当にありがとうございます!




