第31話 第1師団
第31話 第1師団
レムリア連邦の宣戦布告から数時間後
オーマ島 首都シンメネリア オーマバス大聖堂
ここオーマバス神聖教皇国の首都で最も重要な建造物であるオーマバス大聖堂の会議室には、この国の方針を決める大臣達が参席していた。
どの大臣らも前回同様にいや、それ以上に顔色が悪かった。特に顔色が悪いのは、軍務大臣と外務大臣であった。
それもそうだろう。この国は現在、予想しうる限りの中で1番最悪な状況におかれているのだ。
軍務大臣は、地球連合軍に海軍と空軍の主力を殆ど撃滅され、陸軍も迎撃部隊の大部分を失い、残りの主力である第1師団で、敵上陸軍と新たな敵レムリア連邦を相手にするしかなかった。
更には、教皇の演説途中で敵の爆撃を受けるという大失態をやらかしたのだ。お陰で教徒達の信頼を失い、いつ大規模な暴動が起きてもおかしくない。
そして外務大臣は、レムリア連邦に何度も参戦の要請をしたが、無視され続け、最後には同盟の破棄そして宣戦布告をされた為に、オーマバス神聖教皇国は未曾有の危機にさらされていた。
そしてこのオーマバス大聖堂の会議室にて今後の方針について会議するのだが、上座に座る教皇が最初に発言した。
「・・・敵の爆撃に、レムリア連邦の裏切り、まさかここまで私を失望させるとは、破門どころの処罰では足りないですよ?」
誰に対して言ってるのかこの場にいる大臣達は全員察した。
軍務大臣と外務大臣は、更に顔を青くし、今にも気を失いそうだった。
「申し訳ありませんでした!!どうか!今一度私に機会を下さい!次こそは!必ずや!異教徒達とレムリア連邦を返り討ちにしてみます!」
軍務大臣が最初に慈悲を乞う言葉を発した。遅れて外務大臣も発する。
「教皇猊下!私にもどうかお慈悲を!今度はアトランティス帝国に救援の要請をします!」
その様子に教皇は冷めた目で見ていた。
「軍務大臣、あなたはどうやってこの状況を打開するのです?レムリア連邦までも敵にまわる状況で。外務大臣もアトランティス帝国が動くと思いますか?あのレムリア連邦が同盟国を裏切った、それだけでどの列強も様子見を決め込みますよ?それに動いた所で間に合わないでしょうね。
一体何キロ離れてると思っているのですか?」
教皇からの現実を告げられて2人はもはや未来は変えられないと悟る。だが、それでも抗う。
「第1師団を!あの師団を使い日本に大打撃を与えます!レムリア連邦には、亜種族師団の全てを総動員して時間を稼ぎます!」
「私も!軍が時間稼ぎをしている間にアトランティス帝国に救援の要請をします!かの国であれば、例え離れていようとも、すぐにここまで援軍を出してくれる筈です!ですのでどうか!!」
「頭を上げなさい・・・これで最後ですよ?」
「「え?」」
教皇の意外な言葉に2人だけでなく、他の大臣達も驚いたような声を出した。てっきりこのまま破門にされて追放されるのかと思ったのだ。
「私だってこの状況でトップを変えて混乱を起こす程愚かではありません。ただし、この状況を打破出来なかったらすぐさま破門にし、八つ裂きの刑に処します。勿論一族全員ですよ?」
最後に恐ろしいことを言ったが、それでもまだ望みがあることに、2人は感動した。
「あ、ありがとうございます!!必ず後悔はさせません!必ずや異教徒共と裏切り者を返り討ちにしてみます!」
「私も必ずやアトランティス帝国に援軍を出させます!教皇猊下!誠にありがとうございます!」
その言葉を詰まらなさそうに聞きながら、軍務大臣に現状を説明させる。
「それで軍務大臣、敵はどういう動きをしていますか?」
「はい!日本軍は上陸地点から依然動いてないようです。レムリア連邦については、20隻あまりの艦隊が北の近海にて待機しているようです。ですが、レムリア連邦の多数の輸送艦隊を察知したとの報告があります。近いうちに上陸してくる可能性が高いです。その為、現在は、先ほど申しました亜種族師団を待機させております。」
「・・・日本軍については、マッケラにいる軍で対処できるのですか?」
「それは・・・第1師団ならば、問題無いと言いたいですが、数が少ないので敵の数の差を考慮しますと、厳しいかと。」
数日前の強気はどこにいったのか、そう言いたいが、彼もかなり日本を警戒している。だが、第1師団に絶対の信頼をおいているのか、質ではこちらが上だと確信していた。
それもその筈、第1師団はオーマバス国内だけでなく、世界でも高い評価を受けている師団なのだ。魔法文明国特有の魔力の高い者だけを厳しく選抜されており、上位列強国の並の精鋭部隊を上回る強さを持つと言われているのだ。
更には、第1師団の指揮官クラスの者は、冒険者でいうところのミスリル級の冒険者と同等の身体能力と魔力を持っているのだ。その実力は、日本の特殊作戦群やアメリカの特殊部隊すらも上回る。特殊急襲制圧部隊のパワードスーツの恩恵を受けた隊員らでも1対1では、厳しいものがある。
そんな強さを持つ指揮官が、第1師団には数人在籍しているのだ。彼が自信を持つのは当然の事だった。
「迎撃部隊の生き残りと都市の守備隊では、不十分ですか?」
「彼等だけでは、数万の敵には不足です。かといって下手に数を集めると敵の火力を正面から受けるしかないので、増援も出来ません。何よりもレムリア連邦の上陸に備えないといけないので。」
軍務大臣の言葉に教皇は少し苛立った様子で質問をした。
「では、どうするのですか?」
「第1師団単体だけで日本の基地を攻撃させます。」
その言葉に室内にいた大臣達はざわめく。あれほど日本の脅威を述べていたのに、結局単体で攻撃すると言ったのだから。
「何を言ってるのです?あなたはあれ程単体で戦うことの危険性を述べていたのに、単体で向かわせるのですか?」
「正面からならば、確かに危険です。ですが第1師団は、不可視魔法を発動できる者が多く在籍しています。彼等が限界まで近付き、敵を混乱させたところで、本隊を向かわせるのです。」
彼の言葉は事実だ。流石に全員が出来るわけではないが、不可視魔法を唱える者が第1師団にはいる。
不可視魔法とは、透明になれる魔法の事である。この魔法は基本的にスパイ等が行使する魔法だ。一度発動すると、一定時間透明になれるのだ。術者の実力次第でその時間は変わるが、基本的には約10分間は出来る。熟練者ならば、1時間は余裕で維持できる。
「成る程、不可視魔法ですか、確かにそれならば、敵の虚をつけるかも知れませんね。良いでしょう。期待してますよ?明日には日本の次の爆撃が来るかも知れないのだから、すぐにお願いします。」
これが、間違いなく最後の機会だろう。軍務大臣は内心で怯えながら返事をする。
「外務大臣も軍務大臣の様にしっかりと仕事をしてくださいね?」
「は、はい!お任せ下さい!」
その後も、会議室では、今後の対応について会議が続いた。
軍務大臣だけは、マッケラにいる部隊に日本基地の攻撃命令を出す為に、途中で退出した。
その1時間後には、既に出撃準備を整えていたマッケラの第1師団の1万が出撃をした。
だがその様子は、丁度地球連盟国の偵察衛星が確認していた。
その情報はすぐさま地球連盟国経由で、日本にも伝えられた。
オーマ島 地球連合軍基地
「オーマバス軍が動き出した!奴等がすぐにここまで到着するぞ!迎撃準備だ!」
基地内では、オーマバスに動きありの報告を受けて連合軍はあわだたしく動いていた。
数日という期間で基地の防衛陣地は整っており、監視カメラや赤外線レーダー等、万が一の敵の侵入が無いように備えていた。
基地の1番外側には塹壕とフェンスで囲んでおり、更に外側には、有刺鉄線で敵の進軍を阻むようにしていた。
そして周囲の塹壕に兵士達が待機して、戦車や装甲車も、いつでも砲撃出来るようになっていた。
地球連合軍基地から近くのマッケラ方面の偵察部隊
マッケラがある方向には、偵察衛星以外の監視手段として、常にオートバイ等の偵察部隊が見張っていた。
そしてこの時も、偵察衛星からの情報により、周囲を自衛隊の偵察部隊が辺りを見渡していた。
周りは平原で、見通しが良い。ここには、10名ほどの自衛隊員が茂みに隠れて双眼鏡で見張っていた。
「・・・いないな。ゆっくり行軍しているのか?あれから50分が経つが・・・」
隊員の1人がそう呟く。
「夜襲をするんじゃないのか?あと数時間で日がくれるからな。」
「うーん。何か腑に落ちないなぁ。上も早く爆撃をして欲しかったな。結局奴等は降伏しなかったんだから。」
「レムリア連邦がこっちに味方したからもう終わりだと思ったのになぁ。」
「ケッ!あんな奴等、信用できるかよ。どうせ後ろから攻撃してくるぜ。」
「それ同感だが、対面する時には言うなよ?それで刃傷沙汰になるのは勘弁だぜ。」
レムリア連邦の寝返りは、今村大将から全軍に即刻伝えられ、対面する際には、問題を起こさないように念を押されていたのだ。
「・・・おいお前。大丈夫か?」
隊員の1人が周りを妙にキョロキョロする隊員に声を掛ける。その言葉に雑談をしていた他の隊員も彼に注目する。
「あ、いや・・・なんか胸騒ぎがしてて。」
「なんじゃそりゃ?」
「お、俺もよく分かんないだ。でも昔からこういう時は、なんか良くない事が起きるんだよ。俺、昔から勘が良いって言われるんだ。」
「・・・周囲を警戒!何かがいるかもしれん!」
その言葉にこの偵察部隊の分隊長がそう隊員に命令する。暫くの間、隊員はそれぞれ背中を仲間に任せて周囲を見張る。
「・・・やはり何もないな。」
隊員の1人が我慢の限界で隣の隊員に声を掛ける。
「あぁ、こっちもだ。やっぱりお前のk」
ドタッ
何かが倒れる音がした。
2人はすぐさま後ろを振り向く。彼等がみた光景は信じられないないものだった。
彼等以外のの隊員は皆死んでいた。首を何かで切られていて、血を吹いている者もいた。
「っ!?おい!大丈夫か!?」
「糞ったれが!敵だぁ!誰k!?」
叫んでいた隊員は突如後ろから何かで刺された。その後彼は倒れた。
ズシャァ
「な!?どうなっている!?」
生き残った最後の隊員が飛び退きそう叫ぶ。彼が見たのは空間から突如銃剣が、仲間の背中を刺したのだ。しかもその銃剣はいきなり現れた。
彼は急いでこの場から離れて無線機で知らせようとした。だが、それは出来なかった。彼も後ろから何かで刺されたのだ。
グサッ!
「ぐぅ!?ぁあそんなっ」
最後の隊員が倒れた時、その場に突如何人かの男が現れた。彼等は皆、耳が長かった。所謂エルフと呼ばれる者達だ。
「敵の偵察部隊と思われる部隊を排除しました。そこから1キロメートルを進んでください。」
彼等の内の1人が魔信でそう本隊に報告する。
「了解、そのまま敵部隊を順に排除せよ。」
「「了解」」
その後彼等はまた突然と姿を消した。彼等こそがオーマバス神聖教皇国の誇る最精鋭部隊である第1師団である。それも上位100名からなる師団長直轄攻撃部隊だ。
彼等はこのまま周囲にいる他の偵察部隊を攻撃する。
この場には、自衛隊員の死体だけが残った。
地球連合軍司令部
「偵察部隊からの報告が途絶えた?」
今村大将が部下からの報告にそう反応する。
「はい。現在、マッケラ方面の偵察部隊の内、3つの部隊からの報告が突如途絶えました。」
「・・・まさか殺られたのか?」
「分かりません。ただ・・・各分隊長に着けた生体反応装置に反応がありませんので、その可能性は高いかと。」
この世界において地球の先進国では、指揮官や一部の兵士は、状況を細かく把握する為に生体反応を伝える装置を着けるのだ。
それにより、どの部隊がどの時間に攻撃を受けたのかを把握できる為、重宝されている。
「なんてことだ。魔法という奴なのか!糞っ!付近にいる偵察部隊は急いで基地に戻らせろ!基地の監視を厳とせよ!敵はもう近くまで来ているぞ!」
「了解!」
部下は退出した。
「敵は一体どんな魔法を使った?魔法石の仕業なのか?」
今村大将の疑問の声は、誰にも聞かれることなく消えた。
マッケラ方面の生き残った偵察部隊はすぐさま撤退が開始された。その様子はオーマバス側からも確認できた。
「隊長。奴等逃げていきます。」
師団長直轄攻撃部隊の隊員が隊長に報告する。
「ふぅむ・・・無線で報告された記憶は無いのだが、勘づかれたか。なら良い、本隊に前進させろ。我々はこのまま敵基地に侵入して撹乱する。」
「「「了解」」」
攻撃部隊はその言葉と共に不可視魔法を発動し、空を飛んだ。飛行魔法だ。彼等はこのまま時速50キロメートルの速さで飛んだ。
地球連合軍側も各国の大隊長クラスに偵察部隊が殺されたという情報が知らされ、基地内は厳戒態勢に入っていた。
「日本の偵察部隊が殺られたとは・・・連中は一体どんな魔法を使いやがったんだ?」
中国人指揮官のワン・フォンはまた敵からの予想外な被害に困惑した。
「閣下、今村大将殿から戦車部隊を動かして欲しいとのことです。」
「そうか、分かった。すぐに動かせよう。他の連中はどうしている?」
「第2防衛線と第3防衛線の配置についております。第1防衛線は日本とロシアそして我々が担当します。」
地球連盟国軍は、国ごとに指揮系統が別れており、基本的には出撃前に総大将を決めてその指示に従うことになっている。
そして今回は地球連合軍の総指揮官が日本の今村大将なので、彼の指示に従っている。
日本とロシア、中国が最前線担当なのは、この3ヶ国がマッケラ方面に1番近い場所に駐屯していたからだ。
既に第1防衛線である、基地の1番外側の塹壕には、この3ヶ国の軍人達が待機していた。
「結局奴等は降伏しなかったじゃないか」
塹壕で待機していた自衛隊員がそう愚痴る。その愚痴に近くを通っていたロシア軍人が反応する。
「本当だよなぁ。昔のお前とこの国みたいな展開になっちまったな。」
その皮肉にお互いに笑う。周りにいた隊員らも一緒に苦笑いだ。
「まさか俺達がそれに対処するだなんて、皮肉にも程があるぜ。」
「んなことよりもアメリカが最前線に出てきて欲しいよ。あいつら世界最強って言われてる癖に後方で待機だぜ?」
遅れてやってきた中国人の戦車整備士がそう話す。彼は近くにある戦車の最終確認の為に塹壕内を走り回っていた。
「おぉお疲れ。まぁ確かにそうだよなぁ。あいつら海岸付近に陣地をはってるもんだからここまで来るのに時間が掛かるって理由で後方なんだから、たまったもんじゃないよ・・・」
塹壕内では、政府や軍の上層部の甘い対応に不満をもつ者同士で愚痴っている場面があった。
だが、その近くにオーマバスの魔の手が近付きつつあった。
「・・・ここが奴等の拠点か。」
拠点から少し離れた丘の上にいる師団長直轄攻撃部隊の隊長が地球連合軍基地を見てそう呟いた。
「予想よりもずっと整備されてますよ。あの短期間でどうやって?魔法も使えない筈なのに・・・」
部隊の1人がそう反応する。彼等の眼下には、広大な拠点が見えており、その外側には、塹壕があり、その更に外側には、有刺鉄線で囲まれておりあそこまで辿り着くには時間が掛かりそうだった。しかも迷彩で上手く隠しているが所々に戦車らしきものも確認出来た。
「・・・やはり地上からでは潜入は難しいな。飛行して入るぞ。他の奴等にも伝えておけ。」
「はっ!」
その後、飛行魔法で飛び立った100名の攻撃部隊は基地上空を飛行する。
何事もなく潜入出来ると思ったがその時、ある偶然が起こった。
地球連合軍基地 第1防衛線 塹壕内
「ん!?」
「何だ?どうした?鳥か?」
熱探知ゴーグル所謂サーマルを着けていた自衛隊員がふと上空を見た時、何故か人型の体温を放つ飛行物体を確認したので変な声を出してしまった。
「人か?なんかあっちの方角にすげぇ数の人型が飛んでるんだけど・・・」
「・・・本当だ!何かが飛んでるぞ!」
「え~?肉眼では見えないぞ?」
その言葉にサーマルを着けていた隊員達も上空を見てそう反応した。
その言葉にこの部隊の隊長は急いで司令部に報告した。
「報告!こちら第1防衛線担当第6分隊!我々の担当地域上空に謎の人型の飛行物体を確認!肉眼では見えない!至急対応を乞う!」
その報告に司令部はオーマバス軍の魔法によるものと判断した。
「肉眼では見えない飛行物体だと!透明になれる魔法を使いやがったのか!それに飛ぶことも出来るのか!?」
「偵察部隊を殺ったのもそいつらの仕業かも知れん!急いで攻撃命令を!」
「こちら司令部!それはオーマバス軍の部隊の可能性が高い!急いで撃ち落とせ!」
「こちら第6分隊、了解!すぐに攻撃を開始する!」
「聞こえたな!?サーマルを着けているものは発砲しろ!他の奴等も装備して撃ち落とせ!」
「「了解!」」
その命令はすぐさま実行され上空に向けて隊員は発砲を開始した。
ズダダダダダダダダッ!
「な!?撃ってきたぞ!!」
「バカな!?奴等は見えるのか!?魔法を使えないのに!」
「散らばれ!固まるな!散会するんだぁ!!」
「敵は不可視魔法を見破る看破の魔法を使えない」。攻撃部隊はそう判断して飛行していたが、まさかの事態に動揺していた。
「糞ッ!なんて連射機能だ!」
彼等は、返り討ちにあった迎撃軍から日本の武器について聞いていたが、その話は誇張されていると思っていた。しかしそれは間違いだったと、今更ながら気付く。
「落ち着け!大した威力じゃない。これならば、結界魔法で十分防げる。ここで構わない。攻撃するぞ!」
彼の言う通りだった。魔力の高い最精鋭である彼等は防御魔法の効果もかなり高く、小銃弾程度なら防げた。
その様子を見ていた自衛隊員らは、小銃では不十分だと判断し、機関銃を使った。
ズドドドドドドドドドッ!!
だが、空を飛んでいる連中は機動力が高く、中々当たらない。
そして運良く当たった弾もあったが、敵の防御魔法らしきものでまた弾かれた。
「糞ッ!これでも駄目か!」
その時、敵が手に持っていた武器をこちらに向けて構えだした。自衛隊員は、来るだろう攻撃に身構えた。だが、突然近くから轟音が鳴った。
ズドオォォン!!
射撃統制システムによって高い命中率を誇る戦車砲は、見事敵に命中した。
「んぉ!?戦車だ!」「やっと発射しやがったか」
整備していた戦車が大急ぎで弾を装填して発射したのだ。
「目標を撃墜!この調子で撃ち落とすぞ!」
戦車内にいた地球連盟軍所属の中国人戦車部隊は、急ぎ次弾装填をする。
中国人の操縦している戦車部隊だけでなく、ロシア人の操縦する戦車、陸上自衛隊の戦車も砲塔を上空の敵に一斉に向けた。
各戦車の車長は同時に発射命令を出した。
「「「「発射!」」」」
ズドドドドオォォン!!
この圧倒的な火力に上空にいたオーマバス攻撃部隊は大混乱だった。
「畜生!なんであんなに命中するんだよ!」
既に十数名程が撃墜されていた。
「慌てるな!敵の戦車に照準を向けろ!歩兵は大したことない!撃て!」
隊長の命令に従い隊員達は、魔力の込められた弾を使う魔動式銃を一斉に発射する。
これは、魔法石を使用して製造された特殊な銃で、上位列強国から手に入れた貴重な銃である。
魔力の込められた弾は従来の弾丸よりも高い貫通力を誇り、着弾時にもちょっとした爆発を起こす。
更には、使用者が魔力を銃に込めることでその威力は更に上がる。鍛え抜かれた精鋭部隊ならば、1人で数十人分もの力を発揮する。
そんな恐ろしい武器が地上にいる戦車部隊に向けられて発射された。
独特の破裂音を出しながら弾が発射される。
パチュウン!!
数十を越える魔法弾は十数両の戦車に命中した。攻撃部隊は大爆発を確信して歓声を上げた。
「いやっほい!」「ざまぁみろ!」
「浮かれるな馬鹿者!このまま基地内に入り敵司令部を攻撃するぞ・・・な!?」
隊長が土煙を上げる場所を見ながら、浮かれる部下達を叱りつける。だが煙が晴れたそこには、多少の傷は受けながらもまだ動いている戦車がいた。
「嘘だろ!?普通なら爆発している筈なのに!?」
彼等はミスをしていた。戦車の知識が浅く、自分達の能力に絶対の自信を持っていたので、1台の戦車に数人程度の攻撃で破壊出来ると思っていたのだ。
確かにあれ程の威力ならば、数十人規模の集中攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。だが数人程度なら、複合装甲板で造られた頑丈な戦車には全く効かない。
と言っても、中にいる兵士の被害がゼロという訳ではない。
「うぉぉ・・・ビックリしたぁ」
「耳鳴りがまだするぜぇ。」
「心臓が止まるかと思ったぞ。」
そして、彼等は忘れていた。敵は地上だけでない。空にも恐ろしい敵がいることに。
攻撃部隊の隊員の1人が、何かが基地方向から飛んでくるのを発見する。
「・・・ん?あれは・・・ッ!?光る矢だ!」
彼が叫んだその瞬間、光る矢・・・いやコブラ(AH-1Zヴァイパー)から放たれたミサイルが彼に命中した。
ズドオォン!
「な!?糞っ!あいつらを忘れていた!」
「光る矢を放ってくるぞ!注意しろ!」
「隊長!敵の飛行兵器がこっちに向かってきます!」
部下が指を指してくる方向には、アメリカの戦闘ヘリであるコブラ部隊がいた。
「む、あれが迎撃軍の言っていた異教徒の飛行機か!戦車はテハーナ班が対処しろ!残りは私に着いてこい!」
「「了解!」」
攻撃部隊は20人程を置いて残りの60人程が戦闘ヘリに向かう。その様子をみていたコブラ部隊の操縦士達は反応する。
「本当に人が飛んでいるぞ・・・」
「いよいよ本当に異世界だなと実感が湧くな。」
彼等は驚きながらも、すぐミサイル発射ボタンを押す。
コブラの両翼に着いている対空ミサイルが発射され、目の前にいる攻撃部隊へと突っ込んで行く。
「光る矢だ!迎撃しろ!」
隊長の言葉に、隊員達は一斉に魔動式銃を発射する。青白い煙を出しながらミサイルに向かうが、予想以上の速度を放つミサイルには当たらず、その後ろにいたコブラ部隊も高い機動力をいかして回避した。
ミサイルはそのまま攻撃部隊に突入する。
ドガアァン!ドガアァン!
「ひぃ!速すぎる!?」「助けてくれぇ!!」
余りにも速すぎるミサイルに、精々時速50キロ程度の彼等では、まともに回避行動も出来ない。
隊長は1番前を飛んでいた為に、真っ先に撃墜され部隊は大混乱だった。
生き残った隊員もコブラ部隊からの機銃攻撃により、簡単に撃墜された。
その様子を見ていた地上攻撃をしていた20人のテハーナ班は動揺していた。
「な、どういうことだ!?あんな一方的だなんて」
この班の班長であるテハーナは恐怖していた。手強いと覚悟していたが、自分達なら問題なく作戦をこなせると確信していた。なのにこの短時間で半分以上が殺られたことで、動揺していた。
「班長!撤退しましょう!もう作戦は失敗です!」
地上攻撃をしていた班員も敵歩兵からの分厚い弾幕に苦戦していた。それだけでなく、戦車からもかなりの命中弾が出ていた。既に半分程が殺られており、もう11人しか生き残っていなかった。この短時間でだ。
「バカ野郎!本隊がもう近くまで来ているのにそんな事が出来るか!本隊が来るまで俺達が敵を撹乱するしか無いんだよ!」
だが、戦車からの砲撃を警戒して最初の時よりも動き回ったために、班員達も疲労が溜まっており、本隊が来るまで持ちこたえられるとは思えなかった。
その直後、テハーナは自衛隊の戦車が放った砲弾に当たり絶命した。
班長を失った班員は大慌てで逃げるが、後方から来たコブラ部隊に追撃を受けた。
「おぉー!アメリカのコブラ部隊だぞ!」
「あいつらあれを使うつもりだったのか!」
「やれやれ!そのまま敵の主力も片付けてくれ!」
その更に後方からも自衛隊の攻撃ヘリ雷鳥も飛行していた。
その数分後に生き残った10名の攻撃部隊は全滅した。
その後、第1師団の本隊である9000名の歩兵と100両の魔動式戦車は、攻撃部隊の全滅に気付くと同時に、地球連合軍からの戦闘ヘリ部隊と接触した。
結果は言うまでもない。最精鋭である師団長直轄攻撃部隊のいない彼等は、録な対空攻撃手段を持たず、殆ど一方的に殺られた。
威力の低い攻撃魔法でヘリを狙うが当たらず、逆に戦闘ヘリからの攻撃は、結界魔法を易々と貫通、そのままオーマバス兵士を肉片へと変える。
魔動式戦車も砲弾を放つが、当然当たる筈もなく、対戦車用として開発された攻撃ヘリはその能力を遺憾なく発揮、すべての戦車を破壊した。
結果的にこの攻撃で、第1師団は約5800名を失った。戦車は全て破壊され、師団長も死亡。高い魔力と運動能力を誇る指揮官達も、その力を全く発揮できず、地球連合軍の戦闘へり50機に蹂躙された。
そしてこれをオーマバス政府の返事と受け取った日本政府は、爆撃機「よざくら」と戦闘機に、オーマバス軍の主要基地への爆撃命令を出した。
爆弾倉に数十トンもの小型爆弾を眠らせていた「よざくら」が、オーマバス軍人を肉片へと変える為に動きだす。
第1師団の敗北を聞いた軍務大臣は、家族を連れてどこかへと逃亡した。
オーマバス政府は、その後軍務大臣の部下から第1師団の壊滅を遅れて聞いた。彼等が戦慄するのは、この次のお話である。




