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強化日本異世界戦記  作者: 関東国軍
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第30話 総議長の覚悟

遅くなりました!

第30話 総議長の覚悟


オーマバスの降伏勧告から2日後


日本国 秋津島


日本の首都である東京から程近い、異世界転移直後に日本領へと加わったこの島には、現在、とある国の全権大使が来日していた。


その国とは、オーマバスと結託して海北島と北海道を攻撃した国、レムリア連邦である。


レムリア連邦の全権大使であるナサルタ・ブーハン副外務議長は、案内された外務省の建物で、本土より急遽派遣された外交官と会談をしていた。


ブーハン大使がこの島に上陸したのは昨日の事だった。


つまりワグス総議長は、地球連合軍がオーマ島に上陸してから僅か1日で準備を全て終わらせ、日本領土に向かわせたのだ。


国内にある1番航続距離のある飛行機で秋津島の空港に向かわせたのだが、それでも航続距離が明らかに足りなかったので、燃料タンクを無理矢理くっ付けて航続距離を伸ばしたのだ。そのせいでかなり歪な形となってしまった。


その為、最初レーダで探知した国籍不明機の確認に向かった航空自衛隊員は、余りにも歪な形の為に「敵の特攻兵器か!?」と疑った程だ。


そんな事がありながらもなんとか辿り着く事が出来た大使は、空自の隊員に講和をしに来たと伝えたのだった。


そして日本政府も、待ちに待った講和大使に急いで外交官を向かわせたのだ。


その際の人選では、メールニア帝国との講和会議の担当だった高田渡を派遣した。彼が日本で最も異世界の外交官との会談の経験が豊富なため選ばれたのだ。


そして今に至る。


会議室には高田外交官とブーハン大使にそれぞれの部下達がいた。


「今回の急な来訪にこうして歓迎してくたさり、誠にありがとうございます。」


ブーハン大使は開口一言にそう感謝の言葉を発した。


「いえ、我々も貴国と以前から話し合いたいと思っておりましたので、お気遣いなく・・・して今回の来訪には我が国と講和をしたいとのことでしたね?」


「はい、我々レムリア連邦の最高指導者であるボーワン・ワグス総議長は、貴国とのこれ以上の戦争は溝を深めるだけだと、お考えになりました。その為、私がその大使として来たのです。」


「・・・なるほど。しかし貴国はオーマバス神聖教皇国と結託して我が国に一方的な宣戦布告を行い、あまつさえ、国民の命を踏みにじった。そんな事をしておきながら講和とは、随分虫のいい話ですね」


高田からの皮肉の言葉に、レムリア連邦側の使節団員から僅かにであるが、不穏な空気が出た。恐らく怒りだろう。列強国である自国に対するその態度に、敵意が湧いたのだ。


それを察知したブーハン大使は彼等を軽く睨み付けた。彼等から不穏な空気が消える。


「・・・失礼しました。確かにあなた方のおっしゃる通りです。我が国は目先の欲に負けて貴国に対して許されない罪を犯しました。しかし、この度のオーマバス海軍の撃滅、オーマ島の上陸等、貴国のその圧倒的な力を目にして、恥を忍んでこうして講和の話し合いに来たのです。どうか我々の話を聞いて頂きたい。」  


そうブーハン大使が発言した後、室内は暫く無言の時間が流れた。


30秒程の時が流れて、ようやく高田が口を開いた。


「・・・良いでしょう。あなた方の話を聞きます。ただ、我が国の国民も政府も相当な怒りを感じております。ふざけた内容なら即刻追い出しますので、そのつもりで。」


「ありがとうございます。それでは、我が国からの講和条件を述べます。急いで向かった為に、書類の作成が出来ておりませんので、口頭で述べます。ご容赦下さい。」


「構いません。」


高田がそう告げると、その後ろで座っていた部下達がパソコンでメモをとる。


例え書類を持ってこられても、お互いの文字を知らないので最初から口頭で述べて貰うつもりだった。だから問題ない。それは向こうも解っているだろう。


そしてブーハン大使の述べた講和条件を纏めると下記の通りになる。



・レムリア連邦は今後一切、日本国に対しての敵対行為を行わない。


・レムリア連邦の最高指導者である総議長は、日本国に対して正式な謝罪を行う。


・レムリア連邦は日本国に賠償金として3兆レマを支払う。


・来年行われる「世界会議」で、日本国の参加を承認し、列強国に推薦する。


・レムリア連邦は日本国と通商条約を結ぶ。


・レムリア連邦国内にある石油・硫黄・アルミニウム等の一部の採掘権を譲渡する。


・レムリア連邦はオーマバス神聖教皇国との同盟関係を解除し宣戦布告をする。



と、日本に対して有利な内容だった。これが世界に向けて発表されれば、講和ではなく、降伏したと思われる国も出てくるだろう。


「・・・これは我々にとってとても利のある内容ですが、どういうつもりですか?」


「言った筈です。我が国は貴国と講和をしたいと。そして貴国と友好関係を結びたいですよ。」


ブーハン大使の言葉に高田は講和内容の最後の部分を思いだし発言した。その目には、怒りが混じっていた。


「友好関係?突然の宣戦布告に加え、しかも同盟を結んでいた国を簡単に裏切るような国を、我が国が信用すると思うのですか?」


その言葉に、ブーハン大使が焦る様子は無かった。その反応も、当然予想していたのだろう。予測していたこととはいえ、高田はレムリア側の反応が、少し気に食わないと思ってしまった。


「我々もそうは考えておりません。しかし総議長はこうお考えです。今は信じて頂けないでしょうが、10年後数十年後にはきっと背中を合わせられる程までに友好関係になってくれると。」


「数十年後ですか・・・今を信じられないのに、そんな未来があるとは思えませんね。」


「我々はその未来を必死につくりますよ。貴国の元いた世界では、同盟国だった国を裏切るような国はありませんでしたか?」


無いと言いたかった高田だったが、地球でも歴史上そんな事は沢山あるのを知っていた。


有名なのはイタリアだろう。あの国は第一時世界大戦では同盟国側から協商国側へと立場を変えて戦勝国になった。


そして第二時世界大戦ではムッソリーニが失脚してしまい戦争に疲れた国民は連合国側になり、三国同盟は崩れた。


そして日本でも、かつて戦国時代においては騙し騙される世の中で、騙される方が悪いという時代だった。


北条早雲という人物は、大森藤頼という小田原城の城主に攻守同盟を結んだのだ。この大森藤頼のいとこである氏頼は名将として有名だったのだが、彼が死亡し、藤頼が新たな城主となった。


氏頼に比べて藤頼は、そこまでの才能はなく、それを早雲は、攻守同盟を結び貢ぎ物を与え、油断をさせて小田原城を攻撃したのだ。


油断しきっていた藤頼は、突然の北条からの攻撃に対応出来ずに小田原城を失った。


「確かに我々の世界でもそのような事がありました。だとしてもそれが何だと言うのです?前例があるから信じろと言うのですか?」


「恥ずかしながらそうです。貴国が信じないと仰っても我々は貴国と講和を結び世界会議で貴国を列強国に推薦します。それらが終わってから我が国とどう接するかお考え頂きたい。」


「・・・分かりました。上には伝えておきましょう。次にですが、今回の戦争に関わった人物をこちらに引き渡して頂きたい。特に最高責任者である総議長は少なくともその座を降りる等の誠意を見たいのです。」


「それに関しましては出来ないです。軍内部では、貴国に対して悪感情を抱いている者が少なからずいます。引き渡せば、更に増える可能性が高いです。そして総議長は我が国において欠かせない重要人物です。我が国の安全のためにもそれはできません。」


「それが出来ないのでは、講和は無理だと言ってもですか?」


高田の言葉にブーハンの穏やかな目が変わった。絶対に譲れない目をしている。


「・・・あの方は国民に慕われています。自身よりも国家を考えている方です。あの方のお陰で多くの国民がかつての権力者達の圧政から解放されて生きる希望を見いだせたのです。餓死者も減り、仕事も増え、国も繁栄し始めた。軍からも慕われているのです。あの方に何かあれば・・・国民は怒り狂うでしょう。自分達を救ってくれた総議長の為に数千万もの軍が結成されますよ?」


「それは脅しですか?我が国と貴国には圧倒的な力の差を理解しているのに?」


「確かにそうですな。だが、すべての軍を殺せる程、貴国には余裕があるのですか?万が一それ程の余裕があっても超大国らは間違いなく貴国を脅威と考え、世界中の大国が貴国を狙いますよ。我が国・・・いや総議長はそれを阻止しようと考えています。どうかお見逃し頂きたい。」


ブーハンの言葉は当たっていた。日本には少なくとも1000万もの大軍を倒す程の力は持っていない。必ず限界が来るだろう。そこから更に数千万も増えるのでは、レムリア連邦を倒すのは不可能だ。数の力で攻めてくれば、いつかはその防衛網は崩壊する。


それを耐える事が出来るのは、アメリカや中国・ロシアぐらいだ。日本には、そこまでの力はまだ持っていない。


そして仮に殲滅出来たとしても、果たしてそんな国を超大国や列強国が傍観しているだろうか?いきなりそんな国が現れるなど、地球から見たら中国を一方的に蹂躙出来る国が突然現れるようなものだ。しかもその国は極めて高度な技術を持っている、警戒しない筈が無い。日本が彼等の立場でも、必ず警戒するだろう。


日本が元いた世界の中国は、日本と同じく史実よりもかなり強化されており、国家予算も約500兆円で兵力も約520万を保有している。そんな国が一方的に敗れる等、考えたくもない。


異世界の有力な国々は連合を組んで日本に対抗するだろう。だが、もしレムリア連邦が日本と講和をし、世界会議の際に日本を支持すると言えば殆どの国はその矛を収めるだろう。世界でも有数の物量を誇る国には、超大国でも躊躇するぐらいだ。


高田もその辺りを理解はしている。日本にはレムリア連邦を完膚なきまでに叩き潰す程の力も無い。オーマバスだけで済むならば、ボロを出す前に、世界に日本の力を今度こそ示す事が出来る。


2人はまた暫く睨みあった。その様子を見ていた双方の部下達は、冷や汗を流していた。


暫く睨みあった後、2人は同時に目を剃らした。そして高田が発言した。


「・・・本国に問い合わしてみましょう。私もその総議長に関して興味が出てきましたよ。」


「ご理解ありがとうございます。この講和が成り立つのならば、我が国は必ず貴国に後悔はさせません。世界会議や超大国に関しても必ず我々が貴国の味方になりましょう・・・そういえば、貴国は超大国に関して何か知っていますか?」


「いえ、恥ずかしながら存じ上げていません。」


「そうでしたか・・・実は超大国の内の1国は魔法で繁栄した国なんですが、その国は、貴国を警戒している筈です。もう1ヶ国は我々と同じように科学で繁栄した国です。なるべくならそちらの国と接した方が良いです。あの国は・・・昔ですが、科学文明であった列強国を攻め滅ぼして魔法文明に塗り替えさせた歴史があります。お気をつけてください。それに貴国は、エルミハナ大陸に技術を広めていますよね?それで勢力バランスが崩れるのを脅威と考えている国もあります。」


「なるほど、助言をありがとうございます。ちなみにですが、その魔法文明の国はどんな名前なのですか?」


「失礼しました。名前の方を先に教えるべきでしたね。その国の名前はアトランティス帝国と言います。科学文明の方はムー共和国です。いずれかの国が近いうちに貴国に世界会議の招待をしに来ると思われますので。」


その言葉に高田は心の中で舌打ちをした。最後の最後に日本が把握していない情報を彼が出してきたことに。


「なるほど。よく分かりました。それでは、本国に問い合わせますので、暫くお待ちください。」


そう言い高田は一時退室した。


その後、高田からの報告に政府は3時間程会議をし、レムリア連邦と講和することが正式に決定された。


戦犯の引き渡しが出来ない事が国民らに宣伝出来ないのが残念であるが、下手に相手を刺激して、講和がご破算になるのは望んでいないので、見逃された。


そして何よりもオーマバスへの同盟解除に宣戦布告は派遣部隊の負担がかなり軽減される為に、これも認められた。レムリア連邦のその後が気になるが、オーマバスとも早く講和したいので、通ったのだ。


日本が捕虜にしているレムリア連邦の兵士達も、オーマバスとの戦争が終わり次第、レムリア政府が引き取ることになった。


今後のレムリア連邦とどう接するかは考えものだが、世界会議の様子を見て判断しても良いとの総理の発言により、会議は終わった。


それにより、日本国とレムリア連邦は正式に講和が決まった。


提示された講和内容と違うのは、総議長は日本に来日をし、遺族の方々に謝罪すること。


これは、政府が日本国民に納得させる為のプロパガンダだ。


また、オーマバスに宣戦布告はしても、実際に上陸するのではなく、圧力を掛けるだけにすること。


その後、秋津島の外務省の建物の室内で講和書に調印がされた。


魔信で、講和の成立を聞いた総議長は、すぐさまオーマバス神聖教皇国に同盟の破棄を通告した。


オーマバスの駐在大使は、最初レムリアの外交官からの突然の同盟の破棄に顔を蒼くしていた。だが当然ながら烈火のごとく怒り、レムリア連邦を激しく非難した。


だが、レムリア外交官がその後正式に宣戦布告を行うと、オーマバス大使は気を失って倒れてしまった。


今後レムリア連邦は、他の列強国から冷たい目でみられることになるだろう。日本にもこのオーマバスに対する対応で政府の信用は低い。


だからこそ、世界会議では、日本の味方だと世界に示し、日本と盛んに交流をし、国民からの支持を集めなくてはならない。


すぐには無理だろうが、長い目で見て信用を得る。それがレムリア連邦政府の狙いだ。


宣戦布告が済んだレムリア連邦はオーマバスへの圧力の為に第8総軍団の一部を動員し、海軍も全部で20隻余りの軍艦をオーマ島の北の近海に展開した。








一方のオーマ島にいる地球連合軍は、外務省からの突然かつ意外すぎる情報に混乱が起きるも、各国の指揮官らはすぐに落ち着き、あと数日は反応を伺うことになった。




そしてオーマバス政府は、まさかの包囲網に大混乱していたのだった・・・



如何でしたか?


誤字脱字の報告いつもありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[良い点] このジャンルで、今までにない作風で大変面白いです! 読んでいると引き込まれます(笑) 大変ですが投稿ペースUPを希望します♪
[良い点] かなり早い返信ありがとうございました。 正直驚きました。 [気になる点] やはり直接8000mからビラをばら撒くわけないですよね。 最初はビラを何らかの機械に入れてばら撒いていると予想した…
[良い点] 即席で増槽を増設して航続距離を伸ばして講和に向かうとは本気度が伺えますね。 後世の飛行機の専門誌に『珍機』として掲載されるかも。 [気になる点] レムリアが講和を決意した理由を要約しますと…
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