第25話 日本の攻撃
第25話 日本の攻撃
日本と接触を果たしたメニア公女ら使節団は、ひとまず第1護衛大群旗艦空母「あかぎ」に乗船していた。
メニア公女らは、日本の軍艦の、想定を遥かに上回る大きさに驚く。
公女自身は現在、メイドであるカラナと護衛のハーリカの3人で、「あかぎ」の飛行甲板にいた。
「姫様!スッゴい広いですね!」
カラナが周りを見渡しながらそう呟く。
「広さもさながら、周りにあるのは飛行機ですかね?それにしては見たことの無い形ですが・・・」
一方のハーリカは、F-32Aを見ながら呟いた。
ハーリカは軍人である為に、空母も知っていた。自国には無いが、それでも他の列強国のそれを見たことがある為だ。周りに置かれている物体が飛行機なのも気付いていたが、列強国でも見ない形状のせいで困惑していた。
メニア公女も、これから飛び立とうとしているF-32Aを見て驚いていた。
先程の、日本の外交官との話を思い返す。
「あかぎ」に辿り着いた使節団らは、まず最初に身体に異常が無いか検査を受けた後に、「隼」に乗った外交官と総司令官、および「あかぎ」の艦長らと話し合っていた。
その内容は、まずドバラキ公国とパースミニア王国の、不利な状況について。それゆえに、列強2ヶ国の軍を破った日本に、軍事支援を要請するものだった。
無論、タダで支援を得ようとは考えていない。軍事支援をしてくれた暁には、他の列強国や反メンリルバス教同盟国など、まだ国交を結んでいない国への口利き。今後呼ばれるであろう「世界会議」の際に日本への助力。日本との積極的な貿易、一部の魔法技術の開示などをする予定であった。
それに対し、日本政府としては、まず本国で詳しく話したい。そして軍事支援についても、日本は既に、地球連盟国と合同で戦うことになっている。これ以上、複雑な状況にはしたくなかった。
だが、他の列強国への口利きは欲しかった。オーマバスのような国だと困るが、それでも同じ列強国からの紹介なら、向こうも少しは丁重に扱ってくれるだろう。
メニア公女は、日本側の反応の悪さに最初冷や汗をかいたが、すぐに日本本土まで連れて行ってくれると聞き、ひとまずは安心していた。
そう考えていると、他の使節団員と、自衛隊員が飛行甲板に登ってきた。そして「隼」の羽が回りだす。
それを見ていると、外交官がメニア公女に声をかけて来た。
「殿下、準備が整いましたのでお乗りください。東京に着いた後に、総理との会談がありますので。」
「解りました。我々を歓迎してくださり、誠にありがとうございます。」
メニア公女はお礼を言い、「隼」に乗り込む。使節団らも乗り、東京に向けて出発。最後に「あかぎ」を見ながら、彼女はこう思った。
(あれ程の巨大な軍艦を造る技術と、それを維持する国力・・・連中は、相手にしてはいけない国に喧嘩を売ってしまったのだな。果たしてオーマバスはどこまで戦えるのか・・・)
第1護衛隊群と第7艦隊はこのままオーマバス・レムリア海軍とその基地を攻撃し、陸上自衛隊と地球連盟国はオーマバス本土に上陸する。
艦隊は、オーマバス本土にいる海軍の撃滅と、レムリア海軍が援軍に来ないよう牽制する役割だ。
既に4箇所の基地と15隻あまりの軍艦を沈めていた。オーマバス本国では、日本の反撃が来たと迎撃準備をしているだろう。
オーマバス本土まで、あと2400キロメートルだ。
その頃のオーマバス神聖教皇国では、複数の海軍基地と軍艦が攻撃を受けたと聞き、遂に日本の反撃が来たと大騒ぎだった。
軍務局
この建物内では現在、多くの職員があわだたしく動いていた。各所にいた軍艦との魔信が次々と途絶えた為、日本の大規模攻撃が始まったと感じ取ったのだ。
責任者である軍務大臣が、次々と部下に命令を出す。
「付近にいる主力艦隊と地方艦隊は、合流した後に、連絡の途絶えた海域に向かわせろ!陸軍は西海岸に増援を送れ!亜種族共は使い潰しても構わん!」
「分かりました!」
そう指示していると、他の部署の職員が報告に来る。
「大臣!レムリア海軍が本土に撤収しているとの報告がありまして!」
「何!?・・・糞っ!奴らは何がしたいんだ!外務局に連絡して援軍の要請をしろ!」
「はい!」
職員らは急いで各方面に命令を伝え、大臣は一通りの指示をした後に教皇に報告をした。
日本の攻撃の知らせに教皇と大臣らは直ぐ様、オーマバス大聖堂の会議室に集まった。
会議が始まって直ぐに軍務大臣が報告する。
「先程入った報告を纏めますと・・・途中にある海軍基地は、既に8箇所が連絡が途絶えており、軍艦も合計で19隻が撃沈されたと思われます。そしてレムリア海軍は、本土海域まで撤収したのを確認しました。」
その報告に教育大臣が反応する。
「・・・レムリア連邦は一体どういうつもりなのだ!もしや怖じ気づいたというのか!」
「ふぅむ・・・しかしそれでは列強国として大問題だぞ。外務局では何か掴めましたか?」
その質問に外務大臣が答えた。その表情はあまり良くない。
「大使館に赴いて大使に聞いてみた所・・・彼等は本土防衛の為だとの一点張りでして。」
その言葉に他の大臣らは動揺する。ひょっとすると連中は我々を見捨てるつもりなのでは、と考えてしまう。
「も、もしレムリアが協力してくれなかった場合でも、守りきれるのですか?」
植民管理大臣が怯えた表情で軍務大臣に問う。もし出来なければ、最悪、オーマバスが保有している植民地を全て失いかねないからだ。
ヨンバハーツ以外にも他の大陸に植民地があり、貴重な収入源なのだ。そこに日本の魔の手が及ぶ可能性が高い。
「ご心配無く。ここには主力艦隊や最精鋭である第1師団もおるのです。更には亜種族師団も多数いるので迎撃できます。私が保証しましょう!」
軍務大臣の自信満々の言葉に大臣らは安心した。確かに彼の言う通り、本土には主力艦隊がおり、陸軍も数十万人いるのだ。防衛戦ならこちらが有利だと思われた。
特に陸軍の第1師団は、魔力の高い兵士ばかりが集められており、最新装備を優先的にまわされるので、質は国内で最も高い。
例え植民地がやられようと、取り返すことは出来る。軍務大臣はそう考えていた。
「そういえば、パースミニア王国はどうなっているのですか?あの国とドバラキ公国は日本に使者を送った可能性が高いのでしょう?」
大臣の1人がそう質問する。それを軍務大臣が答えた。
「パースミニア王国に対しては、先の1件で戦力を大幅増員しており、海軍はそのままですが、陸軍は6個師団を、空軍も第2航空戦闘団の一部を送っております。戦況は膠着状態ではありますが、牽制には充分かと。」
技術で優る国に対して、6個師団は少ないかも知れないが、パースミニア王国は兵力が少ない為、6個師団でも有利に戦えていたのだ。
「なるほど・・・レムリア連邦のお陰で予定が狂ってしまったが、致し方ない。」
その後、オーマ島から西に1200キロメートル程の海域に、オーマバス海軍の艦隊が集結していた。
その内訳はこうだ。
オーマバス海軍
弩級戦艦 17隻
巡洋艦 24隻
駆逐艦 47隻
潜水艦 10隻
日本艦隊によって潜水艦は多くが沈められてしまったが、それでも主力艦隊は未だに健在である為、士気は高い。
そして西海岸では陸軍が待機していた。
オーマバス陸軍
歩兵 11万人
魔動ゴーレム 210体
魔動戦車 450両
亜種族
ゴブリン兵 9000体
オーガ重装甲兵 800体
巨人重装甲兵 200体
という戦力てオーマバスにとってかなりの大部隊を動員していた。
そして日本の第1護衛隊群と第7艦隊は、オーマバス海軍艦隊より西に300キロメートル程まで進んでいた。
第1護衛大群 旗艦「あかぎ」 CIC
この部屋ではつい先程、敵の艦隊らしきものを探知したところだ。
「敵味方識別装置に反応なし。少なくとも味方ではありません。」
「ふむ。となるとオーマバスかレムリアだと思うが・・・念のため偵察機を出して確認をとらせろ。」
「了解」
パースミニア王国海軍があそこまで来ている可能性も捨てきれない為、目視での確認を取らせた。
その後、偵察機からオーマバスの国旗を確認したので、総司令官の今村大将は先行していた潜水艦隊に攻撃命令を出した。
原子力潜水艦「くじら」
「大将からの許可がおりたぞ。魚雷用意!」
「了解・・・魚雷発射準備完了!」
「魚雷発射!」
一度に6発の魚雷が放たれた。他の潜水艦も魚雷を放つ。
第1波として合計で20発の魚雷が放たれ、約30キロメートル先の艦隊へと向かった。
オーマバス海軍
ここ、オーマ島より西に1200キロメートルの海域では、多数の軍艦が集結していた。
この艦隊は旗艦を中心に広範囲に散らばって軍艦が進んでいた。いわゆる、輪形陣である。この陣形は上位列強国が考案したもので、対空戦闘や対潜戦闘に強いことから今回採用されていた。
全ては日本の光る矢を警戒してだ。
旗艦の会議室に艦隊の幹部らが集まっているが、そこでは困惑の空気が流れていた。
「・・・何故レムリアは動かん!?」
この艦の艦長がそう怒鳴る。先の魔信でレムリア海軍の軍艦が小島にある海軍基地を放棄し、本土に戻っているとの報告が来たのだ。
更に外務局からもレムリア連邦が救援に来る可能性は低いと言ってきた。
「まさか連中は我々を見捨てるつもりなのか?」
「いや、日本艦隊が我々に集中している間に挟撃する可能性も捨てきれん。そうなればかなり有利になるぞ。」
「では何故、我々にそれを言わない?無駄な混乱を避ける為にも我々に連絡ぐらい寄越すはずだろう」
「日本は科学文明と聞く、レムリア連邦の無線を傍受される可能性を考えたのでは?」
「向こうにある魔信を使えばよかろう。魔信ならば科学文明国に傍受される心配はないのだから。」
この世界では無線を魔信で傍受することは出来ないのだ。その逆も同じである。その為、超大国ではそれを可能にする為の研究がされているという噂がある。
彼らはレムリア連邦の動向について話し合うが、この艦隊の司令官が咳払いし、話を変えた。
「レムリア連邦の行動も気掛かりではあるが、今は日本艦隊について考えるのが先決だ。連中は光る矢を放つという。対空戦闘に特化した輪形陣をしているが、油断は禁物だ。」
「「「はっ!」」」
「・・・よろしい。では偵察機を放ってから、いつでも攻撃できるように万全な・・・何事だ!?」
司令官が話している最中、突然外から轟音が鳴り響いた。この部屋にいる軍人達は、日本の光る矢が早速来たのだろうと予測した。
そう考えていると、部下がドアをノックも無しに入ってきた。だが、それを咎める者は誰もいない。
「失礼します!緊急事態です!!」
「光る矢が来たのか!」
1人がそう尋ねるが、部下は首を横に振り、答えた。
「そ、それが、どの艦も光る矢を見ておりません。突然、外側にいた駆逐艦10隻と潜水艦の全てが沈みました。艦のすぐ横に水柱が上がったため、雷撃かと思われます。」
その言葉に幹部の1人が反応した。彼の感情を占めているのは怒りだ。
「なんだと!?ということは潜水艦から攻撃を受けたということか!これだけの数がいながら一体何をやっていた!それに雷跡があったろう!何故その報告が無かった!?」
「はっ!私もただ報告を受けただけですので・・・確認しておりませんでした!申し訳ありません!!」
彼はまだ怒鳴りそうだったが、司令官が宥める。
「まぁ待て、日本の技術は高いと聞く。おそらく静粛性が高いのだろう。魚雷も、雷跡が目立ち難い物を開発しているのだ。駆逐艦に捜索させ、爆雷攻撃をさせているのだろう?ではそろそろ撃沈できるだろう。」
そう話してから暫く経つと、別の部下が入ってきた。恐らく潜水艦を撃沈したのだろう。
「お、潜水艦を沈めたのか?」
「い、いいえ。広範囲に渡って爆雷を投下しているのですが、残骸が見つからない為、各駆逐艦の艦長から、指示を仰ぐ魔信が相次いでおります。」
「何?あれからかなり時間が経っているぞ。1隻もいなかったのか?」
「は、はい。それらしき残骸は全く無く・・・この後どうするのかを聞いてきております。」
その報告に室内はざわめく。駆逐艦を10隻沈められたとはいえ、まだ30隻以上残っているのだ。魚雷の射程距離を長く見積もっても、付近にはいる筈なのだ。
たとえ深深度に潜っていても、爆雷を調整して投下すれば良いはずだ。
では何故、反応がないのか?それが疑問だった。想定以上の射程距離だったとしても、そんな遠距離からの雷撃、命中率を考えると現実的ではない。数が多ければ、音が大きくなるので、すぐに見つかってしまう。(彼らの技術力では、誘導兵器など想像の埒外だった。)
「・・・何故だ?もう完全に撤退したのか?だが、速力が速ければ音も目立つだろうし・・・」
そう呟いていると、また轟音が鳴り響いた。
ドボオォォン!!
「!?またか!」「早く見つけないか!」
「艦橋に向かうぞ!」
司令官の言葉に一同は艦橋へと向かう。辿り着いた時には被害状況もまとまっていた。司令官の元に部下が走ってきた。
「司令官!先程の攻撃も光る矢は確認出来ず、水柱を見たため、やはり魚雷でしょう。付近に敵艦もおりません。」
「偵察機からの報告は?」
「未だに敵艦隊を発見しておりません。」
「それで被害は?!」
その言葉に部下は言いづらそうに報告した。
「そ、それが駆逐艦は12隻を、巡洋艦は3隻が、そして戦艦は4隻が撃沈されました。」
「何!?そんなにか!戦艦すらもやられたのかっ!誰も感知できなかったのか!」
「はっ!どこからも、雷跡発見の報告がありません!」
「一体敵はどうやっているのだ!?何故、見つからない?何を使っているんだ?」
司令官の言葉は、この場にいる全員の心中を代弁していた。
「司令官!如何なさいますか!?このままでは一方的にやられてしまいます!」
彼等は日本の潜水艦を必死に探しているが、潜水艦は彼等から25キロメートル以上離れた場所にいるのだ。艦隊も、300キロメートル近く離れているのだ。いくら魔法という物があっても、1910年代の技術では探知出来るはずがない。
司令官は悩んだ。このまま撤退すれば、異教徒に屈したということで極刑は間違いない。かと言ってこのまま作戦を続行しても、敵の見えない攻撃により全滅するかもしれない。
手詰まりなのだ。何が正しいのかも、もはや判らない。
「艦長、どう思う?」
迷った司令官は艦長に聞いてみた。
「・・・確か上位列強国中には、酸素魚雷という雷跡を残さない魚雷があると聞きました。もしこれが魚雷攻撃なら、日本は少なくとも一部分は上位列強国並みの技術を持っていることになります。」
「もしそうなら、勝てる相手ではないではないか!だが、本国の連中は納得するのか?糞っ!とんでもないことをやってくれたな!外務局の連中め!」
司令官はそう激怒するが、一刻も速く決断しなくてはならない。参謀の1人が発言した。
「司令官!ここは徹底抗戦です!敵の弾が尽きることに賭けて前進するのです!」
「そんな賭けにこの艦隊の命運を託すつもりか!」
「では、どうしろと!?逃げれば極刑は免れまい!最悪、破門でもされれば一族は全員国外追放だぞ!!ならば、一か八かで進軍するべきだ!」
「だが、ここで進めば部下達をみすみす死なすはめになるぞ!?今後の戦闘の為にも戦力を温存するべきだ!!」
言い争いが起こるが、どちらの言い分も一理ある為にどっちも否定出来ない。
だが、そうしている間にまたもや轟音が鳴り響いた。それもかなりの数だ。
ドボボボオォォォォン!!!
「うわっ!!」「もう来たか!?」「どうすればいいのだ!!」
周りの戦艦にも当たったらしく、何隻かの戦艦が傾いていた。
「糞っ!被害報告!!」
「外周にいる駆逐艦と巡洋艦が次々と傾いていきます!既に爆発して沈んでいる艦もあります」
「えぇい!こうなれば、撤退だ!!急げ!」
「っ!了解!!」
その後、生き残った20隻程の艦は、方向を変えてオーマ島へ戻ろうとする。
この動きは日本側も気付いた。
原子力潜水艦「くじら」
「敵艦隊、方向を変えております。恐らく撤退しているのかと。」
「そうか。だが、逃がすわけにはいかない。向こうは一方的に我々を攻撃したんだ。ならば、向こうもその代償を払ってもらうぞ。魚雷発射。」
「了解。魚雷発射!」
その後の潜水艦からの攻撃により、日本迎撃艦隊は1隻残らず全滅した。
オーマバス側は艦隊の連絡が途絶えたことにより、全滅を確認。唯一生き残った偵察機は燃料切れで海に不時着したのはまた別の話である。
西海岸で警戒していたオーマバス陸軍は、来るであろう日本軍に備えていた。
だが、敵は日本だけではない。世界最強のアメリカに中国、ロシア、ドイツ、ブラジル等の連合軍が、多数の輸送艦隊に運ばれてオーマ島を目指していた。
そして、それを迎え撃つべくオーマ島にいる第1主力艦隊は、アメリカの第7艦隊が相手をする。
いやはや・・・少し遅いですが、メリークリスマス
すいません。
最近ちょっとプライベートの方が忙しくて、投稿が遅れてしまっています。
でも気長にお待ちくださいませ。
誤字脱字報告ありがとうございます!
そして、本当にすみません!!




