第19話 ノムファの奮闘
第19話 ノムファの奮闘
北海道上陸作戦開始より少し前に時は戻る。
北海道の知床半島の根元
ここでノムファ率いる「デロニア」の乗組員と大陸諸国連合艦隊の兵士4万3400は知床半島の知床国立公園を目的地にしていたが諦め上陸していた。
上陸地点は辺り1面農地で、所々に家があったが部下からの報告では誰も居なかったという。
恐らく我々の上陸を察知した日本軍が避難させたのだろう。
好都合だ。
ノムファはそう考える。
情報局からの情報では、ここより西に行けば斜里町があるそうだ。そして東と南は深い森と山になっており、戦うなら絶好の場所だ。
まずノムファは部下達に無人となった家から食糧を探させた。
慌てて逃げたのなら貴重品だけで食糧等は持って逃げてない筈だ。
家から食糧を確保した後は、農地から自分達にも食べられそうな物を収穫させ南の山に向かった。
日本軍とはその山で戦うことになる。だがここは奴等の国だ。この地での戦闘は得意の筈だ。それに対してこっちは海軍で、陸地での戦闘は齧った程度の知識しかない。
大陸諸国連合艦隊の中には陸軍も一緒に居たので、彼等のアドバイスを聞いてゲリラ戦を展開するべきだろう。兎に角我々は長期間奴等の攻撃を耐えて本国からの援軍を待つべきだ。
戦艦を放棄してから後続の艦隊とは連絡が取れていない。しかし近い内にくる筈だ。きっと日本からの攻撃で損害を被るだろうが、何とか耐えてここまで来て欲しい。彼はそう願った。
「指揮官、食糧の徴収が完了しました。何時でも行けます。」
部下からの報告に彼は反応した。
「ん?あぁそうか。では進軍だ。あの岳を目印に行くぞ。道中敵からの攻撃もあるだろうから警戒して進め。」
「はっ!」
彼の命令でノムファの上陸軍4万は海別岳へ向かった。その先には日本の陸上自衛隊の第7旅団第2大隊500名が待ち構えていた。
陸上自衛隊第7旅団所属第2大隊
「・・・そうか、敵はここに来るか。」
この大隊の隊長である古田英樹中佐は部下からの報告にそう応える。
「はい。敵およそ4万は無人の家や農地から食糧を徴収しここに向かってきます。恐らくここで暫く引きこもるつもりでしょう。あの規模ですと3時間は掛かると思われます。」
「ふ~む。それは阻止したいが援軍が来ないとじり貧だな。他の大隊はいつ頃来る?」
「第1、第3の大隊があと1時間で来ますが・・・第4大隊は斜里町に待機していたため後方から挟撃するそうです。」
「なるほどなぁ。先に道中に罠を仕掛けとくか。第2と第3中隊の200名は連中の通ると思われる道や獣道に罠を仕掛けろ。第4、第5中隊は頂上で待ち構えておけ、俺達第1中隊は敵の隊列が薄い所を攻撃する。援軍として来る第1と第3大隊には、俺達の援護をしてくれと伝えろ。」
「はい。・・・しかし連隊長を差し置いて決めてよいのですか?」
「構わん。あいつとは親友だし、こんなの訓練中でも度々あったろ?」
「確かにそうですが・・・今回は訓練ではないです。」
「まぁな。だが迅速に対応したい。あいつもそれで納得する。・・・解ったな?」
「はっ!了解しました!」
その後古田中佐の命令で第2大隊は海別岳での迎撃準備をしていた。
第7旅団所属第1大隊
同旅団の連隊長兼第1大隊長の西村博正大佐が古田からの提案に対して考えていた。
「・・・あいつめまた勝手に相談もなく決めやがって今回は実戦だというのに!」
西村と古田は年違いの幼馴染みで自衛隊には西村が先に入り、古田は遅れて自衛隊に入っていた。
そしてお互い故郷である北海道の防衛を任されており訓練ではいつも厳しい訓練を共に乗り越えていた。
「まぁ俺と相談する時間すら惜しいと思ったか。・・・はぁしょうがない。俺達も敵の隊列が乱れたら攻撃だ。第2大隊とは別の場所を攻撃するぞ!」
「はっ!了解しました。」
ノムファら上陸軍が近付くなか、彼等自衛隊も着々と迎撃準備を完了しつつあった。
ノムファ率いる上陸軍
「・・・そろそろ敵からの襲撃があっても良さそうだな。」
ノムファはこの戦列の中間あたりにおり前方は彼の側近が担当していた。
「えぇ、だいぶ歩きましたからね・・・」
ノムファはまだ余裕そうだが部下は少し疲れているようだ。彼は頭脳は良いが身体能力はそこまで良くなくこの行軍はキツイだろう。
「キツイだろうが耐えてくれ。まだまだ先は遠い」
「わかってます!・・・はぁはぁ」
その直後、前方の部隊が騒がしくなった。
(ついに来たか!)
彼の予想通り前方の数人が第2大隊が仕掛けた落とし罠に引っ掛かり警戒していた。
その落とし罠は1メートル程の深さだが底には先端を鋭く削った木の枝が無数に生えており、それが落ちた兵士の足や太ももに深々と刺さっていた。
「ぐあぁぁ!痛ぇえよ!」「あぁ!俺の足が!?」
「大丈夫か!?ちょっと待ってろ!今助ける!」
落ちなかった仲間が縄を投げてそれを掴んだ兵士を持ち上げた。
「あぁ!糞っ!痛ぇぇ。」
「待ってろ!今手当てするから!」
仲間が手当てをして負傷した兵士は即席で作った担架で運んだ。
だがその後も15回程仲間が落ちその度に止まり、助けて手当てをした。
既に担架で運ばれる兵士は42人程になっていた。
「はぁ糞っ!奴等姑息な手を使いやがる!」
「全くだ。今度は俺が落ちるんじゃないかお思うと怖くて歩けねぇよ。」
前方を歩く兵士達は怯えながら歩いていた。
「うん。奴等かなり怯えてるね。」
その様子を見ていた古田中佐は満足そうに頷き、後ろに待機している第1中隊100名に命令した。
「敵は怯えている、俺達はその隙を突く・・・連中に俺達の祖国を踏みにじった代償を払わせてやれ」
「「「「「「了解」」」」」」
彼等は古田中佐の命令を受け即座に攻撃を開始した。
最初に攻撃を受けたのは最前列より20メートル程後ろの負傷者の分の武器を持っていた兵士だった。
パァン!
その破裂音の後、彼は崩れ落ちた・・・彼の脳漿を巻き散らかして。
行軍中の兵士達は即座に散らばり叫んだ。
「て、敵襲だぁ!!散らばれ!!」
「どこからだ!?何処にいる!?」
「わ、解らん!一体どこk」
パァン!
また次の犠牲者が出た。2人目の犠牲者が出た瞬間銃の発射音が連続で聞こえてきた。
パパパパパパパパパパン!!
次々と味方が倒れる。だがそのお陰で敵の居場所が判明した。
「あそこだ!あそこにいるぞぉ!!」
隊長らしき男の指示に大陸諸国連合軍は一斉にマスケット銃を構え発砲した。
パパパパパン!!
だが命中弾は無く、挙げ句の果てには手榴弾を投げ込まれた。
ドオォォォン!!
それにより数人が吹き飛ぶ。だが死んだ者はおらず手足が吹き飛んだ状態で叫んでいた。
「があぁぁぁ!!助けてくれぇ!!」「うあぁぁぁ!!痛えぇよ!!」「早く助けてくれぇ!!」
助けを呼ぶ仲間を、彼等は助けられなかった。目の前には強力な敵がおり、自分の身を守るだけで精一杯だった。
そうしていると別の場所からも戦闘音が聞こえた。恐らく敵の別動隊だろう。
音は彼等の更に後方から聞こえた。つまり後方からの援軍は期待出来ない。自分達で何とかするしか無かった。
「糞っ!隠れやがって!!」「レムリア兵士達は!?」「ずっと後方にいるよ!こっちには先方の20人しかいないが、既に半数が殺られてるよ!」
前方にいたノムファの側近とその護衛の20人が居たが最初の連続射撃で半数を殺られており、生き残った者は木影に隠れていた。
「日本の銃は何だってあんなに装填が速いんだ!?」
そのレムリア兵士の1人がそう呟く。
「喋ってる暇があるんならさっさと撃ち返せ!」
「解ってるよ!!」
レムリア兵士も懸命に反撃するが自衛隊の正確な射撃に次々と射殺された。
「よぉし!ここら辺で引き際だ!撤退!!」
古田中佐は犠牲者が出ない内に撤退を開始した。
それに伴い他の場所で戦っていた大隊も撤退した。彼等はこの後合流するだろう。
「なんてことだ・・・ここまで酷いとは!」
ノムファ率いる本隊が戦闘のあった場所に着くが、そこは彼の予想以上に酷かった。
「ぐあぁぁ!・・・痛ぇよ」「しっかりしろ!!」「足がぁぁ!俺の足があぁぁ!!」「こいつの足はもう駄目だ。・・・切り落とそう。」「ぎゃあぁぁぁぁ!!止めてくれぇ!!」「しっかりしろ!!切り落とさなきゃ傷口から腐って死ぬぞっ!!」
そこの即席の治療場所では自衛隊との戦闘での負傷者を手当てしていた。
手榴弾で手足が吹っ飛んだり、銃弾が体に残っているためそれを指で取り除いたり、駄目になった足をノコギリで切り落としていたり等、悲惨な状況だった。
「指揮官!」
するとノムファの元に前方で指揮をしていた側近が近づいてきた。
「おぉ!生きていたか・・・それで状況は?」
「酷いものですよ。・・・死者は先程数えたのですが249人そして負傷者は500は超えてます。」
「そうか、ここでその数の負傷者はちょっと不味いな。」
「はい。そのため助かりそうの無い者はとどめを刺して行軍します。」
「そうしてくれ。」
残酷なことだが、負傷者を大量に抱え込んで行軍を遅らせては、この先の戦闘で余計に不利になってしまう。
数十分後に行軍は開始されたが重傷者は仲間にとどめを刺される断末魔が響いた。
その頃の自衛隊側は
「古田中佐ただいま到着しました!」
「うむ、ご苦労。まぁ座れ」
「はっ!」
第7旅団の臨時基地である海別岳の頂上では第1、第2、第3大隊が集まり次の戦闘に備えていた。
そしてこの基地のとある天幕の中では西村大佐と古田中佐が居た。
「さて、お前の独断専行を責めてやりたいところだが・・・あの状況ではお前の判断の方が適切だと判断して見逃してやる。」
「はっ!感謝します!!」
「他人行儀もそこらへんにしとけ。そっちの方が俺も話しやすい。」
「そうか?ならそうしよう。それで次はどうする?」
「・・・俺達はここで奴等を迎え撃つのもアリだが、それ以外には夜に敵の野営地を毎夜の襲撃ぐらいかな?」
「航空支援は?」
「道北の戦闘に殆ど持っていかれてる。あっちの方がヤバいからな。あそこにはあの特殊急襲制圧部隊も参加するらしい。」
「ほえーあの有名な特殊部隊がか。恐ろしいねぇ」
「というわけだからこっちに航空支援は暫くこないよ。」
「そうなると4万もの大軍を暫くは俺達が押さえるのか・・・大変だな。」
「大変でもやるっきゃない。ここで俺達が下がれば国民に害が及ぶ。それだけは何としてでも阻止しなきゃならない。」
「解ってるって。んじゃあそうと決まったら俺の大隊は敵の後方に周り込んで頂上での戦闘の際に第4大隊と挟撃するよ。」
「おいおい。そうなると俺達第1と第3だけで4万を相手に正面から戦うのかよ?」
「後方の第4大隊も同じこと考えてるよ。」
「違いない。」
その後準備を整えた第2大隊はすぐに山を降り、合流した第4大隊と共に敵の後方に周り込むために動いた。
その頃のノムファ上陸軍
「おそこが頂上か、あともう少しだな。」
「はい。ようやくですよ・・・」
上陸軍はようやく目的地周辺に近付いた。
だが彼等がそう思った瞬間、突如前方の兵士が吹き飛んだ。
ドオォォォン!!
「な、なんだ!?また攻撃か!?」
この爆発は第2大隊が降りる時に敵の予想通路に遠距離操作型の地雷を設置しており、それを起動したに過ぎない。
だが彼等からすれば敵が見えないのに敵襲だと勘違いした。
「て、敵は地上でも我々の見えない距離から攻撃できるのか!?」「糞っ!どこだ!?出てこい!!」
さらに爆発が続いた。これは頂上にいる第1と第3大隊の持ってきた迫撃砲だった。
ヒュ~ドオォォォン!!
「うぉ!!今度はなんだ!?」
「上です!あの頂上から何かが飛んできたのを見ました!!」
ノムファの側近で目の良い彼がそう報告する。
「ぐっ!やはりあそこに敵は待ち構えていたか!」
「指揮官!ご命令を!」
「うむ!進めぇ!!前進だ!あそこを占領しろ!」
「はっ!!」
ノムファの命令により前方にいる1万の兵士達が頂上に突っ込んだ。
それを第1、第3大隊の1000名が迎え撃つ。
「撃てぇ!!」
1000名の自衛隊の一斉射撃が行われた。
ドガガガガガガガガガガガ!!
「ぐあっ!!」「ひゃあっ!」「ぐがっ!!」
大した遠距離攻撃の手段を持たない大陸諸国連合軍は次々と撃たれた。
大陸諸国連合軍の損害が2000を超える頃になると控えていた1万の兵士が投入される。
1万8000の兵士が足場の悪い岳を一気に昇る。
とある兵士が頂上付近を走っていると突如彼の足元からカチと音がなり、その瞬間彼は吹き飛んだ。
第2大隊が仕掛けた地雷だった。それが頂上付近のいたる所に仕掛けられていた。
「む~!やはり簡単には落ちないか・・・しょうがない撤退だ。撤退を急がせろあそこはもう落ちん」
ノムファの命令で撤退を始めた連合軍に、自衛隊はその背中を容赦なく撃った。
「なんだぁ?奴等やけにあっさり逃げたな。」
もうすぐで後方に周り込めると思った古田達は呆気にとられる。
「あっさり後退するとは・・・敵は諦めがいいな。だが後退命令を出したおかげで前線の兵士は撃たれ放題だがな。」
第4大隊の大隊長森川勇治中佐がそう評価する。
「計画が狂ったな。敵を追いかけてどこまで逃げるか確認しよう。」
「解った。」
その後連合軍は海別島から北東に6キロメートル程進んだ所で野営していた。
海別岳頂上臨時基地
「ふむ。敵はそこまで後退していたか。」
西村大佐はそう呟く。
「はい。敵はそこで拠点を作っていました。現在は簡単な造りでしたが時間を与えれば丸太を使っての拠点造りをするでしょう。」
「ふーむ!それは不味いな。連中を早く追い出すか降伏させたいのに居座るつもりなのは困る。」
「はい。そのため古田中佐率いる第2大隊が夜襲を仕掛けます。」
「そうか、では我々もそれに備えよう。・・・そういえば道北の状況はどうなった?」
西村大佐の質問に横に控えていた部下が答える。
「たった今入った情報によりますと第5師団は迎撃に成功約2万人の捕虜を得たそうです。」
「おぉー!!そうか!撃退できたか。それならば支援は来るのか?」
「はい。航空支援は雷鳥が準備をしておりまた特殊急襲制圧部隊がこちらに向かってきています。」
その報告に西村達は驚愕した。噂に聞いたあの特殊部隊がここに来るのだから。
「そうか。遂に肉眼で彼等を見る時が来るのか。それでいつ来るんだ?」
「雷鳥は整備や補給の為に4時間後に。特殊急襲制圧部隊はもうすぐここに到着するようです。」
「なんと!すぐにか!そいつは頼もしい!」
その50分後に特殊急襲制圧部隊を乗せた隼が到着し、179名の特殊急襲制圧部隊が西村大佐の前に整列した。
「第1特殊急襲制圧部隊ただいま到着しました!」
「お疲れ様です。私はこの第7旅団の連隊長の西村大佐であります!」
「こちらこそ。私はこの部隊の隊長である吉田中佐であります!」
自己紹介もおわり彼等は作戦確認をした後すぐさま駆け足で第2大隊の元まで向かった。
「・・・いやはやあれが駆け足ですか。パワードスーツというものは凄いですねぇ。」
「確かに凄いが彼等の身体能力も凄くなきゃ無理だと思うぞ。休憩も無しにさっさと行動したからな」
彼等の驚きの声はこの基地内で響いた。
「・・・おたくらがあの特殊部隊か。噂どおり真っ黒ですね。」
「ここでは目立つと思いますが夜襲では非常に有効ですよ。中佐殿」
古田中佐の呟きに吉田中佐が反応する。
「いや、なぁにそれに関しては心配してないですよ。あの大軍を相手に全然疲弊してなさそうですからね。しかもここまで走ったのに平然としている。・・・恐ろしいねぇ。」
「褒めて頂きありがとうございます。博士達も喜ぶでしょう。」
彼等は最終確認をし夜になるのを待った。
日没から5時間後
ノムファ上陸軍 野営地
「ふむ、とりあえずの拠点が決まったがまだ不安だな。本当に援軍は来るのか?」
(本来なら既に来てもおかしくないのに何故こない!・・・やはり殺られたのかっ!)
心の中では上陸した時から少しそんな気もしていたが今までそれは考えないようにしていた。
だがこの状況ではそれを考慮して動かないといけなくなった。
「どうするか・・・食糧も弾薬も心もとない。大陸諸国連合の中には魔術師らと冒険者もいるがあまり奥の手は使いたくない。」
冒険者組合はエルミハナ大陸やヨンバハーツ大陸などほぼ全ての大陸にあり、世界情報通信会社に次ぐ巨大国際組織であった。彼らは、今回の日本出兵に冒険者を強制徴兵していた。
冒険者は強力なモンスターや亜種族らと戦って生活しているため強力な力を持つ者が多く、非常に頼りになるからだ。
本来冒険者はその国のために他国と戦うことを禁止していたが列強国の力で黙らせた。
高度文明大国なら影響力が高いため無下に出来ないが列強国だと軍の方が基本的に強いため影響力はさほど高くない。
今回は、ヨンバハーツ大陸のオーマバス国側の冒険者で上位に入る者達をこの艦隊に連れてきており、彼らの切り札であった。
その冒険者らは、現在100名程が野営地の与えられた天幕内で待機していた。
「はぁ~こんな所で立ち往生か。な~にが列強国よ!無理矢理戦争に参加させといてこんな有り様で本当に情けない。」
そう呟いたのはこの冒険者達の中でも最上位クラスであるオリハルコン級の実力者チーム「宝玉の剣」のリーダーで女剣士のアンナ・ヒリシタリアである。黒髪長髪の10代後半の美女だ。
「落ち着いてよリーダー。怒りたくなる気持ちはわかるけどさぁ・・・」
そう宥めたのは同じく「宝玉の剣」のメンバーであり女魔術師のヘンナ・リンメトだ。年齢はアンナと同じくらい。紫色の短髪で身長が低い。
「無茶言うなぁ皆同じ事を思ってるぜ?」
そう発言したのは同じく「宝玉の剣」のメンバーであり重戦士のアンダレス・ポーカー。白髪で20代後半の筋肉質な男だ。
「ええ、冒険者の決まりを無視するなど列強国として恥ずかしい行為ですよ。」
そして彼も同じく「宝玉の剣」のメンバーで神官のリキシンテ・マルナであった。金髪で線の細い男だ
冒険者達は冒険者組合というものに所属しており各大陸にある冒険者組合は同じ組織に入っており、冒険者達の規則や階級が統一されている。
階級は下から順に
銅級・・・冒険者の新米で、主な仕事は荷物運びや
鉄級等の格上冒険者の補佐が多い。
鉄級・・・ある程度仕事を行い組合との信用が成立
すれば自動的に昇給される。仕事内容は
銅級の以外に薬草等の採取やゴブリン等
の討伐。
銀級・・・ゴブリンやオーク等の亜種族を対象の討
伐や山賊退治の仕事が多く、更に商会の
護衛依頼もある。ここら辺で生活が安定
する。
金級・・・ここからがようやく上位に入り組合から
の信用も高く高額な懸賞金を懸けられた
犯罪者や亜種族らの討伐に依頼される。
一般人では長年掛けてここで終わる者が
多い。
白金級・・・このクラスに入れる者は少なく才能の
ある者達しかなれない。1ヶ月の収入
が平民の年間の収入に匹敵する。
黒曜級・・・地方の冒険者組合ならこのクラスが最
高位の場合が多い。1ヶ月の収入が富
裕層の商人の年間の収入に匹敵する。
強力な亜種族らを討伐に任される。
ミスリル級・・・主要都市の組合なら在籍すること
が多く、非常に強力な亜種族らを
討伐を任される。
オリハルコン級・・・首都の組合になら在籍してい
ることがあり、1つの国に1
チームあれば良い方。
極めて強力な亜種族らを相手
を任される。
魔鉄鋼級・・・複数の国の中で1チームあれば良い
方。
伝説級の亜種族らを相手に任される
また、存在自体が伝説で歴代でも5
チームしか存在していない。
そして彼等以外にも、この周りの天幕に凄腕の冒険者達がおり、今回の徴兵について憤りを感じている者も多い。だが中には、略奪に期待していた者も少なからずいた。
「にしてもニホンか・・・油断出来ないって聞いてたけどまさかここまで強いとはねぇ。正直もう逃げたい。」
剣士のアンナがそう呟く。
他のメンバーもそれに同意しようとしたが、その前に突如外が騒がしくなった。
中には悲鳴や、昼間嫌というほど聞いた発砲音も聞こえる。
それを聞いた「宝玉の剣」達は一斉に外に出た。この速さは流石は一流の冒険者達だ。
外には大陸諸国連合の兵士達がいた。
「ついに来たの?」
アンナは兵士達に問いかける。
「あ、アンナ様!はい、敵が来たようでしてレムリア兵士達が対応しているようです。」
「アンナどうする?任せる?」
魔術師のヘンナがリーダーであるアンナに問う。
「まさか!あんなのに任せたらこっちの方まで被が出るわ!ここは私達が出て追い出すのよ!ついでに奴等の装備を剥ぎ取ってどんな物なのか確認したいし!」
アンナの最後の言葉に皆は呆れる。
「もーアンナはまた暴走してるぅ。」
「何時ものことですよ。しょうがないです。」
「ほら!急いで被害が増える前に!」
そうアンナは言い残し走っていった。音のする方へとメンバー達も直ぐに走って追いかけた。
「ついに来たか!・・・ならすぐにここは放棄して次の場所まで逃げるぞ。」
ノムファは夜襲を掛けてきたと知るやいなや即座に撤収の命令を出した。圧倒的に質で勝る相手と正面から戦わず、こうなったら徹底的に逃げて敵を少しでも撹乱することに決めたのだ。
その頃の第2大隊と特殊急襲制圧部隊
ドガガガガガガガガガガガ!!
次々と彼等は特殊急襲制圧部隊を前に出して攻撃していた。
「ちぃっ!あいつら予想よりも抵抗が少ない!ここを直ぐに放棄するつもりだ!こうなったら1人でも多く減らすぞ!」
第2大隊の古田中佐は自分たちの予想よりも抵抗をしてこないことから昼間の時のようにまた撤退することを悟った。
こっちは全部勝利していると言え敵は未だに4万を超えているためこの調子ではかなりの長期間を掛けて行わなくてはいけない。
敵の目的はたぶん我々の錯乱だ。何時になるか解らないがきっと援軍が来ると期待して、ここで持ちこたえるつもりなのだろう。
だがそうはさせない。故郷の地を踏みにじっている奴等の好きにはさせない。
古田中佐の命令に部下達はより一層の銃弾を浴びせた。
後方からは特殊急襲制圧部隊が持ってきた迫撃砲が火を吹いていた。
ヒュードボオォォン!!
「ぐわっ!」「畜生!またあの攻撃か!?」
レムリア兵士の叫びが響いた。
特殊急襲制圧部隊はどんどん前に出ていた。
すると隊員の1人が前方から何かが猛スピードで突っ込んで来るのが見た。
「・・・?・・・ッ!?」
最初は少し迷ったが段々人間だと解ると少し慌てて武器を走ってくる人物に向けた。
だが
「とりゃあぁぁぁぁぁ!!」
女性の声が聞こえたことから女性なのだろう、彼女はあと10メートルの距離でジャンプしてなんとその10メートル先の隊員より後ろに着地した。
「バカな!?糞っ!」
隊員の1人は慌てて後ろに重機関銃を構えようとしたが後頭部から衝撃がはしった。
ガツーン!
「む?やはり昼間の奴とは違うな・・・新手か?それに随分硬いなぁ。」
彼女が持っていた剣で思いっきり叩いたのだと把握した。
「野郎!!」
彼はすぐに撃とうとしたがまた回り込まれて後頭部を叩かれた。
ガツーン!!!
「痛あぁ~・・・嘘でしょ?今度はかなり力を入れたのに?」
銃では小回りがきかないと悟った彼は腰に着けていた大型の鉈を持ち思いっきり振った。
だが彼女はまた避けて今度は足を攻撃した。
ガツーン!
だがそこも弾かれて彼女は呟いた。
「う~ん。凄い装備だねそれにそんな重そうなのにそこまで動けるってどんな運動能力持ってんの?」
お前に言われたくないと思った彼だがそんなことは無視して突進した。
だがその直後に魔法が飛んできた。
ドボオォォン!!!
今まで喰らってきたどの魔法よりも強力な威力に彼は驚く。これ程の威力だと長くは持たないと直感で解った。
「嘘でしょ・・・全力で放ったのに!」
魔術師らしき女性が呟く。彼は彼女に向けて銃を向けた。
「ッ!」
「させないよ!」
だが剣女士が邪魔をする。そうこうしていると剣士の仲間らしき者達が来た。後ろにはまるで漫画で呼んだ冒険者のような風貌のもの達も確認した。
「おいおい・・・昼間あんなの見てないぞ。」「新手か・・・不気味な。」「アンナさんの一撃を受けても立ってるぞ!?」「なんつー化物だ。」
「ふ~ようやく皆も来たようだ。さぁて観念して貰おうか!君の素顔を見たくなっちゃったよ!どんな化物みたいな顔をしているんだい!?」
「・・・」
彼はもしこの女剣士クラスの強さが他にもいると考えてこの状況はかなり不味いと考えた。
(何なんだこいつらは・・・まるで冒険者みたいな見た目だし、この女はかなり強いし・・・何故これ程の強さを生身で持っている?)
その時彼の後ろから、特殊急襲制圧部隊の仲間が50名程駆け付けてきた。
「ッ!」(やっと来たか!)
「あららぁー!あんなにお仲間が沢山とは!」
「アンナ不味いよ!急いで逃げよう!!」
「解ってるって!これでもくらいな!」
アンナと呼ばれた女剣士は大ジャンプしながら煙幕らしき物を投げた。
だが彼等は暗字ゴーグルを掛けているため彼女らの方向へ発砲した。
ドドドドドド!!
「うぉ!?何で方向がわかんの!?」
「ヤバい!ヤバい!」「ひぇええー!!」
アンナ達は防御魔法を展開しながら逃げた。
この場には特殊急襲制圧部隊しか居なかった。
「おい!大丈夫か?」
仲間がさっきまで単独で戦っていた者に聞く。
「あ、あぁ。問題ない。だがあの連中・・・」
「あぁ。途中まで見てた。凄まじい身体能力だ。それに逃げる時のあの防御魔法・・・お前しか撃っていなかったと考えてもかなり腕のある魔術師がいるな。」
「間違ないな。念のため上に報告した方がいいな。」
その後彼等は放棄された野営地をしばらく探索した後、一旦臨時基地まで撤収した。
今回の夜襲で敵には1000程度の損害しか与えていなかったことが判明する。
自衛隊臨時基地 司令部
「・・・うーむ。特殊急襲制圧部隊と対等に渡り合える実力集団を確認か・・・かなり不味いんじゃないか?」
「確かに不味いですが次からは航空支援がありますし、第5師団と他の地域にいた第6師団も駆け付けてくれるのでまだマシかと。」
「確かになぁ。だがその冒険者らしき連中は気になる。冒険者組合つうのは世界情報通信会社から聞いたな。なんでも情報会社の次に大きい国際組織らしい。国家間の争いには関与しないそうだが?」
「はい。恐らくレムリアかオーマバスの両大陸から徴兵されたのでしょう。情報会社からじゃあ列強国の圧力に屈して徴兵されることが今までの歴史に何度かあったらしいです。今回もその影響かと。」
「ふむ。ならば降伏を呼び掛けてみるか。その前に航空支援でこちらの力を見せてからだな。」
「既に雷鳥とF-32Aと「よざくら」3機が出撃しています。間もなく敵の潜伏場所を爆撃します。」
「ほぉ~「よざくら」か!なら効果はありそうだな。」
「よざくら」
航空自衛隊が保有する数少ない爆撃機であり、強力な機体として愛用されている。
全長 50.78メートル
全高 13.01メートル
翼幅 56.92メートル
最大兵装搭載量 31825キログラム
機体速度 時速1002キロメートル
巡航速度 時速840キロメートル
戦闘行動半径 7082キロメートル
実用上限高度 14300メートル
固定武装 20ミリバルカン砲 両翼に1門ずつ
兵装
空対空ミサイル 84式空対空ミサイル 20発
空対艦ミサイル 92式空対艦ミサイル 10発
保有数 19機
84式対空ミサイル
全長 4.29メートル
直径 52.48センチメートル
射程距離 140~210キロメートル
火薬積載量 149キログラム
最大速度 3.2マッハ
92式空対艦ミサイル
全長 5.98メートル
直径 61.85センチメートル
射程距離 150キロメートル
火薬積載量 240キログラム
最大速度 2.9マッハ
とかなりの高性能でアメリカのB-52をモデルに開発された。
現在そのよざくら3機は上空8000メートルを飛行していた。
「ふむ。北海道を爆撃することになるとはな・・・はぁ嫌だ嫌だ。」
よざくらのパイロットがそう呟く。
「しょうがねぇよ。今の所は民間人を迅速に避難させたからまだ良いけど、いくつかの村はかなり荒らされているんだ。早く何とかしないと批判が相次ぐ」
「解ってはいるけどなぁ。」
そう話している内に敵の潜伏場所地点まで近付いてきた。
「そろそろか。爆撃用意!」
「爆撃用意了解!」
そして爆弾庫扉が開かれた。
爆弾の接続解除ボタンを触り次の命令に備える。
「・・・投下!」
その声と同時に90トン分もの小型爆弾の雨が降り注いだ。
ヒュウ~
何かが風を切る音に下にいた上陸軍の兵士がふと上を見上げる。
彼らの頭上からは、真っ黒い物体が落ちて来ていた。列強国の兵士なら、これは航空機による爆撃だと解るだろう。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」「何だあれは!?」
「逃げろぉ!!」「助けてくれぇ!!」
彼等の叫びも空しく無慈悲に爆弾が落ちてくる。
ドガアァァァァン!!
爆発と爆風で多くの兵士達が無惨な肉片になる。運の悪い者は爆弾の下敷きになりぐちゃぐちゃになっていた。
「な!?まさかここまでの規模の爆撃が可能なのか!?」
ノムファは上空を見上げ、これがたった3機による爆撃だと解ってしまう。
だが彼は運が良い。彼は地理の把握のために数人の部下と共に近くの丘を登っておりそこは爆撃の範囲外だったのだ。
しかし彼は別視点から日本の爆撃の恐ろしさを目の当たりにし今までにない程の恐怖を感じていた。
その頃の冒険者達
「ふ~。・・・皆まだ大丈夫そー?」
「宝玉の剣」のメンバーであるメニヤが集団防御魔法を展開しており、付近にいた仲間達を守っていた。
彼女の問いに仲間達は答えた。
「なんとかなぁ。だがこれは耐えられるのか?」
重戦士のアンダレスがヒビが生えてきている結界を見て不安そうに見ている。
「ん~。今回は大丈夫そう!でもドラゴンの渾身の一撃を何度も防いだ魔法なのにこんなにヒビが入るだなんて・・・どういう連中なの!?」
メニヤがそう叫ぶ。
そう話している内に爆発が止んだ。
結界を解除して周りを見てみると冒険者達は言葉を失った。
「これは・・・」
辺りは木々があったのに殆ど吹き飛び荒野となっていた。所々にはクレーターがありぐちゃぐちゃになった死体で溢れていた。
かなりの広範囲でやられたから生き残っているのはかなり少ないだろう。
一応兵士達の中にも魔法を使える者がおり、防御魔法を展開するのを見ていたが、あの爆発に耐えられなかったようだ。
その場所は完全に吹き飛んでおり魔術師らしき衣服の一部が残っていた。
実力の有る冒険者達は、メニヤ達が防御魔法を即座に展開したから助かったものの、メニヤ以外の魔術師達は魔力切れで気絶していた。
そのすぐ後に特殊急襲制圧部隊と第7旅団と雷鳥らが降伏勧告をしに来た。
「我々は日本国自衛隊である!戦意の無い者達は直ちに降伏せよ!身の安全は保証する!既に道北の軍は壊滅している!繰り返す!我々は・・・」
彼等の衝撃の言葉に冒険者達は驚いた。
「あの軍勢が壊滅!?本当なのか?」
冒険者の1人が疑わしそうに言う。
「事実だと思う。あの攻撃を喰らったらいくらあの数でもどうにもならないでしょう。」
別の冒険者がそう答える。
「アンナ。どうする?」
メニヤがメンバーを代表して聞く。
「・・・降伏だな。こりゃあ勝てんよ。」
アンナの決断に冒険者達は顔を見合わせるが、すぐ頷き自衛隊の方へと歩き出した。
その後彼等は身柄を拘束された後、自衛隊基地に移送された。
その頃のノムファ達
「指揮官。如何なさいます?生き残った兵士達は次々と降伏していますが?」
部下からの質問にノムファは考えた。
(・・・理解したと思っていたが、奴等の強さは明らかに、本国の連中の予想を大幅に上回っている。このままじゃあ本国はどうなるのかっ!糞っ!情報部は何をやっていたんだ!!オーマバスからの情報を鵜呑みにしよって!)
彼は本国の浅はかさに怒りを覚えるが、自分もその一員だったことを思い出し、呆れたように笑った。
「ふっ・・・降伏だ。これ以上戦えば今度こそ容赦なく殺される。あんな殺され方はご免だ。」
ノムファの決断に部下達は反論せず、すぐさま白旗を上げて自衛隊の元へと歩き出す。
実に39時間に及ぶ上陸作戦は終わった。
この戦いの生き残りは2万4092人で負傷者はその内9583人だった。
その後、唯一今回の第一陣で生き残った潜水艦からの報告に、レムリアとオーマバスは驚愕する。
自国の精鋭軍団をかき集め、多額の軍事費を費やしたのに完敗したことで、両国はすぐ日本からの反撃に備えた。
さらに世界情報通信会社により、レムリア・オーマバス両大陸諸国連合艦隊の敗北が報道され、全大陸の国々が驚く。
日本の反撃はここから始まる。
かなり長くなってしまいました。
すみません。
さて如何でしたかな?
次は「列強国の反応」を投稿すると思います。
あと誤字脱字報告ありがとうございます!!
どうもお手数をおかけしてすみません!




